第7回しほはるワンドロワンライ/エイプリルフール前夜・白い嘘

そういえばもうすぐエイプリルフールだ。
「…桐谷さんは、エイプリルフール何かするの?」
「え?」
久しぶりに一緒に帰ろうと遥と二人で下駄箱に向かっていた志歩は、ふと周りから「エイプリルフール、明日じゃん!」という声に、擡げた疑問をぶつけてみる。
聞かれた遥は律儀にうーん、と少し上を向いた。
「個人的には何もしないかな…。配信は何かするかもしれないけど。…どうして?」
「ううん、気になっただけ。…桐谷さん、嘘とか吐かなそうだし」 
肩を竦める志歩に遥は驚いたように目を見張り、くすくすと笑う。
それから、そんなことないよ、と言った。
「小さな嘘はそれなりに吐くよ?私は聖人君子でもないし…」
「そんなこと言って良い訳?」
肩を揺らして志歩は聞く。
仮にもアイドルなのに、と言えば、「アイドルだからだよ」と彼女は笑った。
「皆の夢を守る嘘は必要だと思うし」
「まあ、それはそうかもね」
遥のそれに志歩もあっさりと頷く。
彼女たちの嘘は必要なものだ。
人を傷付けない小さな嘘。
白い嘘、というのだっけ、と志歩は思う。
「でも桐谷さんのそれはアイドルである為に必要なことでしょ。そうじゃなくて…何ていうのかな、エイプリルフールの時に吐く嘘、というか…」
「ふふ、何となく分かるよ。…うーん、確かに、そういう嘘は吐かないかもね」
言葉を選び倦ねていた志歩に小さく笑った遥がそう言った。
「でも、日野森さんもあまりそういう嘘は吐かないでしょう?」
「まあね。必要性を感じないし…嘘より正直に伝える方が大事だと思うからね」
こてりと首を傾げた遥に笑い、志歩はそんな訳で、と彼女の手を握る。
きょとんとする遥に志歩は笑いかけた。
「?日野森さん?」
「好きだよ、桐谷さん」
エイプリルフール前夜、志歩は正直な言葉を遥に伝える。



自分の気持ちは、きちんと伝えなければ。



(嘘を吐くなんて有り得ない、その気持ちを)


「…うん、私も好きだよ、日野森さん」
「…エイプリルフール向いてないかもね、私達」
「ふふ、確かにそうかも」

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