アカカイバースデー

「カイコクさんって、好きって言ってくれませんよね」
俺の言葉にカイコクさんは綺麗に整った眉を僅かに寄せた。
何だかそれが近所にいた黒猫にも見えて思わず笑顔になる。
こういう素の表情が可愛いんですよねぇ、カイコクさん。
いつもの飄々としてるのも好きですけど。
「なんでェ、急に」
「いえいえ。俺、誕生日だなぁって」
「ああ。おめっとさん」
「ありがとうございます!…じゃなくて!」
サラッとした祝いの言葉に浮かれそうになって我に返る。
危ない危ない。
騙されるところでした。
「チッ」
「今舌打ちしました??」
「気のせいだろ」
「えー、確かに聞いたんですけどねー?」
疑るように言う俺に、ひらひらと手を振りながら「気のせいでェ」と躱してくる。
ところで、何の話でしたっけ?
「あ、誕生日!カイコクさんに好きって言ってほしいって話でした!!」
「チッッ」
俺の言葉に、カイコクさんが今度こそ盛大な舌打ちをした。
そんなことあります?
俺、今日誕生日なんですけどね?
「カイコクさん!俺、誕生日なんです!!好きって言ってください!!」
「断る」
「誕生日なのに?!」
あっさりした言葉に思わず大きな声が出てしまった。
そんな事あります?
俺、誕生日なのに…!
「酷いですよ、俺はただ大好きなカイコクさんから好きだって言ってほしいだけなのに!」
わぁっ!と泣く振りをすれば、カイコクさんは僅かに顔を顰めた。
わざとなのは分かるけれど、誕生日なのに、という言葉はほんの少し刺さったらしい。
そういう所、律儀なんですよねぇ、カイコクさん!
「…入出」
はぁ、と息を吐いたカイコクさんがちょいちょいと手招きをした。
わくわくしながら近づいた俺の耳にカイコクさんが口を寄せてくる。
ひそりとした彼の声。
息遣いが聞こえて、それから……。

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