アキカイバースデー

「…嘘つき」
ひそりと囁かれる、悪意のある声。
その言葉の意味を『俺』は知っている。
「…。…酷いなぁ、カイコクさん」
「事実を言ったまででェ」
にこりと笑う俺にカイコクさんも綺麗な笑みを見せた。
いつかと同じように囁いてくれると…思ったんだけどな?
「誕生日なのは本当なのに」
「お前さんが真実を告げたことがあったかい?」
「割とほとんどが真実だよ。…その中に語られないことがあるだけ」
肩を竦める俺にカイコクさんがそう言って睨む。
だから、そうしれっと言ってやった。
途端に嫌そうに表情を歪める。
カイコクさんのその顔に俺は思わず笑顔になった。
端正なそれが歪むのはいつ見たってゾクゾクする。
ただ、それはカイコクさんの癇に障ったらしかった。
「…不愉快な顔すんな」
「随分遠慮がなくなったよね、カイコクさん」
「そりゃ。元々でェ」
顔を背けるカイコクさんに俺はまた笑う。
昔っから猫みたいだったけど、今は飼い主を亡くしたそれの様相をしていて。
ちゃんと『アカツキを好き』でいてくれたんだと思う。
俺だってアカツキなんだけどな?
「…お前さんは」
「え?」
「お前さんは、どうなんでェ」
カイコクさんのそれに俺は目を見開く。
まさかそんなこと言われるなんて、思っても見なかった。
「俺のことなんざどうでも良いくせに」
「…どうでも良い人を一人生かして閉じ込める、なんてことすると思う?」
「普通はどんな人間であれ自分の都合で閉じ込めたりはしねェんだがな」
カイコクさんが息を吐く。
それに俺は今日何度目かの笑みを見せた。
「…ちゃんと好きだよ。アカツキがそうだったように」
「…っ!」
目を見開いたカイコクさんの手を取る。
拒絶されなかったからそのまま手のひらにキスをしてみた。
「テメェ…っ!!」
「愛してる。…アカツキは言ってくれなかったろ?」


くすくすと、俺は笑う。
愛してる。
そんな、ちっぽけな愛の言葉を囁いて。


(今日は何の日?)


(今日はね……)

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