司冬ワンライ・嘘が吐けない/プロポーズ

さて、今日はエイプリルフールである。
「…むむ……」
司はといえば、スマートフォンを前に眉を寄せ悩んでいた。
仮にも笑顔を重んじるスターが嘘を吐いても良いものだろうか。
笑顔になれる嘘ならば、とは思うが騙すという行為自体に罪悪感があった。
「…。…やめるか…」
はぁ、と息を吐き出し、司は背伸びをする。
無理に嘘を吐く必要もあるまい。
…と。
「?…冬弥?」
スマートフォンが恋人からの電話だと音を立てた。
「…もしもし?冬弥か?」
『司先輩!…今、大丈夫でしょうか?』
「ああ。問題ないぞ!」
冬弥からの電話に声を弾ませる。
すると彼は少し沈黙してから、こう告げた。
『…あの、シブヤ公園に来ていただけないでしょうか…?』 



「待たせたな、冬弥!」
「…いえ」
待ち合わせ場所に行くと何故だか冬弥は緊張しているように見えた。
それにいつもよりきっちりした服装である気がする。
何かあったろうか、と思うがそれについて聞く前に冬弥がバラの花束を差し出した。
8本の赤いバラの中に白いバラが1輪。
これは…エイプリルフールなのだろうか?
しかし何の嘘なのかが分からなかった。
「んんん?」
「…あのっ、俺からの気持ちです!」
「ありがとう、冬弥!しかし何故…?」
バラを受け取り首を傾げる司に冬弥はえ、という顔をしてみせる。
何やら少し寂しげにも見えた。
「冬弥?」
「…いえ、やはり俺達には早すぎますよね…」
「よーし、何か勘違いをしているようだ!」
しゅんとする冬弥をベンチに座らせる。
すると冬弥が徐に口を開いた。
「…暁山から、今日はプロポーズの日だと教わったんです」
「…ほう?」
「俺は、学生のうちからプロポーズは早いと言ったんですが、プロポーズの日はそう、何度もある訳ではない、と……」
「…あー…なるほど、な」
くすくすと司は笑う。
やはり冬弥も嘘を吐けないようだ。
何だかそれに安心してしまう。
「…司先輩?」
「いや、すまん。プロポーズの日は6月の第1日曜日だぞ?」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。それに、だ」
驚く冬弥に司はそっと囁いた。
今日はエイプリルフールだ、と。
「…?!」
「まあ、なんだ。冬弥のまっすぐな気持ちは伝わったぞ?…だから」
小さく笑い、頬を赤らめる冬弥に口付ける。
彼に告げるは嘘なんかじゃない、愛の言葉。
「今度はオレから、プロポーズの日にプロポーズをさせてはくれんか?」



今日はエイプリルフール。


嘘が吐けない二人には、関係のない日!!


「ごめんねー?まさかほっんとうに信じちゃうとは思わなくて!」
「別に構わんぞ!!可愛らしい冬弥も見れたことだし、な」

name
email
url
comment