司冬ワンライ・春時雨/ずぶぬれ

「ふむ」
司は空を見上げて腕を組む。
まさか晴天の青空から雨が降るとは思っていなかった。
無論、そんなこと考えてもいなかったから傘など持ってきてはいない。
学校とコンビニが近かったのはまだ幸いだったろうか。
春時雨を期待して雨宿りをするのも手だが…流石に練習には遅れられない。
「…仕方がないな」
小さく息を吐き出し、司は雨の中飛び出した。
すぐに制服がずぶぬれになる。
これはコンビニに寄るより一度帰った方が良いかもしれないな、と思った。
こんなに濡れてしまっては傘もあまり意味を為さないだろう。
…と。
「…司先輩?!」
雨の中、驚きの声に振り向けば傘を差した冬弥が目を大きく見開いてこちらを見ていた。
「おお、冬弥!」
ニカッと笑う司の手を、慌てたような様子で冬弥が引く。
「先輩、その、傘は…」
「今日は忘れてきた!…おお、すまんな」
戸惑いながら聞く冬弥がカバンからタオルを差し出してくれて司は遠慮なく受け取った。
「いえ。…風邪を引いてしまうかもしれませんので、待つ方が良かったのでは…」
「うむ。それも考えたんだが…今日はショーの練習があってな、抜けられんのだ」
「…しかし…」
困ったような冬弥に、司は心配させないように笑う。
冬弥は良いやつだなぁ、なんて思いながら。
「…水も滴る良い男、というだろう?」
「…!」
目を丸くする冬弥がややあって柔らかく微笑んだ。
それから。
「…司先輩は水が滴らなくても、とても良い男、です」

春時雨。


至近距離で、彼のそんな言葉が聞けるなら、

たまには良いかもしれないな?

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