しほはるワンドロワンライ・何でもない日/プレゼント

ふ、と…遠足の途中で寄った雑貨店で。
クローバーを抱くペンギンのキーホルダーを見つけた。
可愛いな、と思ったと同時、脳裏に彼女の顔が思い浮かぶ。
「…あ、可愛いね。遥ちゃんみたい」
「本当だー!!遥ちゃん、ペンギンさん大好きだもんね!」
「…っ、こはね、みのり」
一緒の班だったこはねとみのりがそれぞれ左右から覗き込んで来て、志歩はうっかり驚いてしまった。
…普段ならこんなに油断なんかしないのに。
「ご、ごめんね、驚かせちゃって」 
「別に大丈夫だよ。…じゃ、行こうか」
「え?」
慌てるこはねにそう返し、志歩は先を急ごうと促す。
意外そうな声を出すのはみのりだ。
「え、って何」
「遥ちゃんに買わないの?」
「買わないよ」
「えー?!なんで?!!」
みのりがびっくりしたように言う。
こはねも声には出さないが驚いた様子だった。
「何でって…桐谷さんも同じ場所に来てるでしょ」
二人の疑問に志歩はあっさり答える。
今日は遠足だ。
班行動だから、行くエリアはバラバラなのだが…わざわざ買うこともないだろう。
そんな、特別な日でもあるまいに。
「でもでもっ、遥ちゃんは赤レンガ倉庫の方だって言ってたよー?」
「…ああ…咲希や一歌も同じだっけ。だからって…」
「ふふ、何でもない日にプレゼントも素敵だと思うよ?…私も、よく可愛いなとか似合いそうだなって思ったら杏ちゃんにプレゼントするんだぁ」
ほわ、とこはねが言った。
「そうそう!!そういうのって気持ちだと思うんだよね!」
「…気持ち、ね」
みのりのそれにくすりと笑ってそのキーホルダーを見る。
確かに、それは彼女が持っていれば似合うだろうなと、そう思った。



「…桐谷さん」
「!日野森さん!」
遠足から帰ってきた後、帰りかけの彼女を呼び止める。
「遠足楽しかったね」
「まあね。…その、桐谷さんに渡したいものがあるんだけど」
「え」
嬉しそうに話し出した彼女にそれを差し出した。
プレゼント感も何もない、簡素な包み。
「…いいの?」
「もちろん。桐谷さんに似合うだろうなと思って」
「…嬉しい…!ありがとう、日野森さん!」
ふわりと花のような笑顔を浮かべた遥がそれを開く。
「!ペンギンのキーホルダー!それに…」
「…流れ星。うちのバンドのモチーフ」
ペンギンが抱いてるのはクローバーではなく、流れ星だった。
何となく、いつも志歩を感じてほしくて。
…なんて、彼女には言えないけれど。
「ふふ。私と日野森さんって似た者同士かも」
「え」
「…これ、日野森さんに」
遥がカバンから何かを取り出して差し出してくる。
ありがとう、と受取り、袋から出した。
「…ああ、そういう……」
クスクスと志歩は肩を揺らす。
早速、ベースが入ったケースに付けてみせた。
似合う?なんて聞いてみる。
「うん!思った通り、似合ってる」
遥が笑みを浮かべた。
手に持った練習着入れに付けられたペンギンのキーホルダーが揺れる。
同じように揺れる…クローバーを抱いたウサギのキーホルダー。
お揃いではない、特別な日でも何でもない…ただ、二人にしか分からない、内緒のプレゼント。
「大切にする、ありがとう桐谷さん」
「私も、大切にするね。日野森さん、ありがとう」

お互いに微笑み、それからこらえ切れずに吹き出した。

チャリチャリと鳴るキーホルダーは、何でもない…ただただ、幸せな、音。



(いつまでもこんな穏やかな日が続きますよう、なんて)

name
email
url
comment