セカイの衣装バグが起こりまして

セカイにはバグがある…らしい。
想いの持ち主の体調不良だったり、音楽機器の不調だったり、その辺は曖昧だ。
だが、唐突に、意図せずに起こる。
それは、ほら、今回だって。


「なん…だこれ」
セカイの衣装室に見たこともない服が増えた。
これは、騎士、だろうか?
堅苦しい白い服。
ひらひらしたマントのようなもの。
2年のあのセンパイなら喜んで着そうだが、彰人の趣味ではなかった。
何より、ストリートでパフォーマンスするにはなかなか難しいだろう。
歌もそうだがダンスも激しいものが多いし…この衣装に合うような曲はあまり思いつかなかった。
だが、これしかないならば着るしかないのだろうか…と。
「…彰人、少し良いだろうか」
「ん、ああ」
ひょこりと顔を出したのは相棒でもあり恋人でもある青柳冬弥だ。
「どした?冬弥」
「俺の衣装がこれしかないんだ」
困ったように何かを渡してくる。
広げてみれば彰人とは毛色は違うが騎士のようなそれだった。
ゴツい鎧のようなものも着いている。
これは…なんだ、彰人のものを白騎士、と形容するならばこちらは黒騎士、だろうか。
「なんつーか…オレらのパフォーマンスには合わねぇな」
「そうだな。…もしかして、彰人も…?」
「ああ。オレのがパフォーマンスには向いてねぇかもな」
「…!これは」
ほら、とそれを見せてやった。
目を見張った冬弥は、くすくすと笑う。
「…んだよ」
「…いや…。格好良いな?」
こてり、と首を傾げながら冬弥が言った。
多分それは純粋な言葉なのだろう。
白騎士と黒騎士。
相対するような色。
抱き締めればそれはきっと灰の色。
彼の、瞳の…きれいな瞳の…色。
「…彰人?!」
じぃっと彼の目を見つめながらその手を持ち上げ、キスをする。
「騎士ってあれだろ、誓いとかすんだろ」
「…それは、騎士と王子、とかだろう?俺達は相棒同士、対等じゃないか」
小さく笑った彼が、そう言って手を握ってきた。
そうだ、相棒の彼は隣で歩いてくれている。
騎士なんかじゃない、ストリートで音楽をする仲間として。
そして…おなじ夢を追う……相棒として。
柔らかく笑う彼が好きだ。
彼の歌声が好きだ。
それは純粋な愛や恋なんかじゃなく…。
「彰人?」
「何でもねぇよ」
不思議そうな彼に笑いかけて口付ける。
溶けて灰になってしまいそうな、キスを。


二人きりの空間で、互いの息遣いだけが聴こえていた。


「…んで、この衣装どうすんだよ…」
「着て、パフォーマンスすれば良いんじゃないか?」
「だから、流石に…冬弥、なんか怒ってねぇ?」

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