司冬ワンライ・ファーストフード/試行錯誤

笑ってはいけないと思う時ほど笑ってしまうのは、人間の性だろうか。
「こ、これはなかなか…難しいですね……」
真剣な顔の冬弥が言う。 
司は、そうだな、と返すがどうにも顔が緩むのを止められなかった。
よくあるファーストフード店の前で、冬弥が興味深そうにしていたから、声をかけたのである。
丁度おやつどきだったし、司も冬弥も男子高校生だ、おやつがハンバーガーであっても何の問題もなかった。
…そう、問題はそこではない。
「いやぁ、まさか冬弥がこういうものが苦手だとはなぁ」
「…すみません。味は大丈夫なのですが…どうにも食べ辛くて」
司のそれに冬弥も困り顔だ。
彼のひとくちは司より小さいせいだろう、食べる場所を迷っているうちに色々と零れそうになるのである。
小さく切ればとも思うがそれは冬弥のプライドが許さないのか「…最後まで挑戦させてください」ときっぱり断られてしまった。
思ったより頑固なのは彼の良いところであるから司もそれ以上は言わない。
「…!」
少し考えている間に冬弥が嬉しそうな顔で咀嚼していた。
いつの間にやら手に持っていたハンバーガーはなくなっている。
どうやら無事食べきったようだ。
「司先輩!」
ごくん、と飲み込んだ冬弥がキラキラした目で司を見る。
「無事食べ切れたな!」
「はい!」
褒めてやると冬弥はふわりと笑った。
本当に彼は可愛らしい。
「…だが」
表情が緩んだ彼を引き寄せ、口元のソースを舐めとった。
冬弥の耳が赤く染まった。
「…あ、ありがとうございます、司先輩。次こそはもっと上手く食べてみせます!」
「ああ、期待しているぞ!」
やる気になる冬弥に司は言う。
そうしてポテトを口に放り込んだ。
…抱いた思いと共に。


(もう少し、下手なままでも良いのになぁ、なんて)

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