しほはるワンドロワンライ・びしょ濡れ/予定外

「…予定外だったな…」
志歩はぼんやりと空を見上げる。
別に雨が降っているわけではない、むしろ快晴だ。
何が予定外だったかといえば、幼馴染でありバンドメンバーでもある穂波が急に先生に呼ばれたと言うから代わりに美化委員の仕事を手伝っているのだ。
ゴミ拾いをした後の道具の洗浄。
別にそれくらいなんてことない仕事だ。
委員会には所属していない志歩からすれば珍しい体験でもある。
「…」
ホースを持ちながらふと、こないだのライブは良かったなと思いを馳せた。
本当に序章も序章だったけれど、みんな一つになって。
特にあの曲のサビは…とホースをベースのように振った。
振ってしまった、途端。
「…日野森さ…きゃっ?!」
「?!!うそっ、桐谷さん?!」
驚いたような声に、志歩も目を見開く。
慌ててホースの水を止めて駆け寄った。
「大丈夫?!…じゃないね、ごめん」
よく見なくても彼女はびしょ濡れで。
謝りながらも志歩はスポーツタオルを取り出す。
「ううん。大したことないよ。私こそ、急に話しかけちゃってごめんね?」
「それは良いけど…大したことあるでしょ。風邪引いたらどうすんの」
「大丈夫だよ。私、ほら、鍛えてるし。日野森さんがこうして拭いてくれたし。だから気にしないで」
「…あのねぇ」
微笑む遥に、志歩は息を吐く。
全く、彼女は分かっていないのだから。
「気にしないでったって、桐谷さんは…その、…アイドルでしょ。私のせいで風邪なんか引いちゃったら…」
「…。…じゃあ気にしてもらっちゃおうかな」
「…え?」
いたずらっぽく笑う遥に、志歩はぽかんとしてしまう。
彼女は一体、何を。
「日野森さんに水かけられたって、みのりや雫に言っちゃおう。咲希や一歌にも報告して…」
「…みのりやお姉ちゃんはともかくなんで咲希と一歌まで…。…あ」
遥の発言に眉を顰める志歩はあることに気付いて、ため息を吐く。
ああ、なんだ、そういう事。
何だか嬉しそうな遥を見るのが悔しくて、志歩は綺麗な髪にタオルを被せたまま引き寄せ、そっと口付けた。
「…気にするのは、桐谷さんが大切だからに決まってる。アイドルだからじゃなく、一人の人間として…恋人として、ね」
「…!…もう」
遥が恥ずかしそうに笑う。
こんなことを伝えることになるなんて、予定外だな、と志歩は思った。


たまにこうやって想いを伝えるのも…大切かもしれないね?


(キラキラと、水のように美しい愛の言葉を)


「まったく、外でいちゃいちゃするのも大概にしなさいよ?二人とも」
「ご、ごめんね、志歩ちゃん!桐谷さん!」
「望月さん?!愛莉まで…!」
「…別に、どこでいちゃいちゃしても良いでしょ」

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