司冬ワンライ・ブライダル/満ち足りて

「ブライダルフェア…ですか」
きょとんと冬弥が目を瞬かせる。
まあそれはそんな反応をするだろうなと司は苦笑した。
「ああ。そこでショーをやるらしいんでな。…とは言ってもオレたちは出ないんだが、その脚本を皆で考えたんだ」
「…!それは…とても楽しいショーなのでしょうね」
冬弥が優しい表情で笑む。
彼は司たちのショーをとても楽しみにしてくれているようのだ。
いつもその話をする時は嬉しそうに聞いてくれる。
司にはそれが嬉しくて堪らなかった。
「そうだな。花嫁たち、花婿たち、皆が楽しんで幸せになってくれるショーだ!少なくとも、オレはそう思っているぞ」
冬弥に笑いかけ、そういえば、と思い返す。
「冬弥は、オレの代わりにショーに出てもらったなぁ。あの時はとても助かった!ありがとうな、冬弥」
「いえ!…俺も、とても勉強になりました。ありがとうございます」
「そう言ってもらえると助かる!…あの時は…花嫁の為に戦いを挑む青年の役、だったか」
見せてもらったビデオを思い出しながら言えば彼は頷いた。
「…司先輩なら、花嫁にどのようなアピールをしますか?」
「ん?そうだな…」
冬弥の問いに少し考える。
花嫁のために、花嫁にこちらを振り向いてもらうように何をするか。
司のアピールポイントと言えばショーだろう。
例えば王子になりきって花嫁が喜びそうな言葉を考える、なんてありきたりか。
けれど、アピールポイントというにはなんだか違う気がする。
とすれば…それは…。
「…オレは、お前が好きだ。アピール出来るような特技は持ち合わせていない。だが、愛している気持ちは誰にも負けない。…オレと共に来ないか?」
「…!!」
綺麗な手を持ち上げ、冬弥を見ながら真剣に言う。
これは、冬弥に向けた言葉だ。
ブライダルフェアに向けたショーではない。
それに、今日は二人とも普段着だ。
ウェディングドレスでもなければタキシードでもない、何も特別ではない。
だからこそ。
「やはりダメだな。花嫁というより、お前に贈る言葉になってしまう」
「…。…司先輩は凄いです」
「む?」
反省していた司に、はにかんだ冬弥が言う。
「…ブライダルフェアに行かなくても、こんなにも満ち足りた気分になりました」
「そうか!ならば、返事は聞くまでもないな?」
幸せそうに言う冬弥に司も笑った。
「…はい」


彼が微笑んでくれるだけで。

ほら、司の心もこんなに満ち足りて。

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