第13回しほはるワンドロ・ワンライ【ジューンブライド】・【秘密】

「…ふふっ」
なんだか楽しそうな遥が目に入り、志歩は不思議に思いながら近付いた。
「…何だか楽しそうだね、桐谷さん」
「!日野森さん!」
ひょいと顔を覗き込ませると、驚きと嬉しさを綯い交ぜにしたような表情で遥が志歩の名を呼ぶ。
「見て、ほら」
「…って、これ」
「ふふ。鳳さんから貸してもらったんだ。…良い写真だよね」
にこにこしながら見せてきたのは、確か穂波がブライダルフェアで撮ったとかいう写真だった。
ショーに参加するとウェディングフォトを撮って貰えたらしい。
写真の中の穂波は何だか幸せそうな顔をしていて、志歩も表情が緩んだ。
「まあね。…というか、私の周りウェディング関係のイベントに参加する率凄い高いんだけど…」
そう言えば最初こそきょとんとしていた遥がすぐにクスクスと笑う。
「確かに。杏と結婚式したの、雫だったもんね」
「杏…って、あの時の花嫁、白石さんだったんだ」
遥のそれに思い返しながら言った。
どこかで見た顔だと思ったら。
「…ねぇ、日野森さんはブライダルとか憧れない?」
遥が無邪気に聞いてくる。
それにすぐ首を振った。
「私は特に。ひらひらのドレスも、そういう式にも興味ないしね。…まあ、お姉ちゃんみたいなタキシードならちょっと気になりはするけど…」
「ふふ、日野森さんらしいね」
「…そういう桐谷さんはどうなの?」
楽しそうに髪を揺らす遥に志歩は聞く。
アイドルである遥は、ブライダルについてどう思うのだろう。
「うーん…。人並みに憧れはあるけど…アイドル活動で似たような衣装は着れるし…。…好きな人に選んで貰えたらまた違うのかも?」
首を傾げた遥がふにゃりと笑ってそんなことを言うから。
志歩は持っていたタオルを彼女の頭に被せてキスをする。
花嫁のヴェールの如く。
…初夏の風に吹かれたそれは二人を隠した。
まるで秘密の儀式のようで、口を離した瞬間ふは、と笑う。
「いつか選んであげる。…桐谷さんに似合う、最高のドレスを」
「うん。…それまでは秘密の結婚式で我慢しておこうかな」
志歩のそれにいたずらっぽく笑う遥が可愛くて。
そういうトコかな、なんて肩を揺らし、志歩はまた顔を近づけた。



ブライダルなんて大それた名目がなくたって


二人でいればいつも幸せ

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