司冬ワンライ/梅雨明け・旅行

旅行に行くならどこが良いだろう。
なんて、不毛なことを考えるくらいには、最近天気が悪かった。
雨の日の旅行も風情があって良いとは思うが、どちらかを選ぶなら晴れている方だろう。
「お待たせしてすみません」
「構わん!と、いうか、思ったより早かったな、冬弥!」
少し焦った様子で冬弥がやって来た。
司はそれを笑顔で受け止める。
久しぶりに一緒に帰る予定が、急遽冬弥の所属する委員会で会議が入ってしまったのだ。
だが、別に用事もないから、と司は自分の教室で宿題をしながら待っていたのである。
「はい。虫干しの日程を早く決めてしまいたかったようです」
「ああ。梅雨明け後に決めていたらすぐに夏休みになってしまうからなぁ」
冬弥のそれに笑いながら司は先程終わらせたばかりの宿題をカバンに入れた。
ネックの英語が終わったので少し気が楽になった、と笑みを浮かべる。
「…司先輩?」
「ん?ああ、いや、英語の宿題が終わったからホッとしたんだ」
「…なるほど」
クスクスと笑う冬弥に、そうだ、と司は先程思いを馳せていたそれを聞いてみることにした。
「…冬弥。冬弥は旅行に行くならどこが良い?」
「…旅行、ですか」
司の唐突なそれに彼は小さく首を上に向ける。
しばらく考えていた彼は、「司先輩と一緒ならどこでも楽しそうですが」と笑った。
そうして。
「日本国内でも良いですし、世界を見て回るのも楽しそうです。…日本と異なる季節の場所、というのも良いかもしれません」
「ふむ、なるほどなぁ」
「司先輩は、どこか行きたい場所はありますか?」
「オレか?そうだな……」
逆に冬弥から聞かれ、司は天井を見上げる。
行きたい場所も、行ってみたい場所も、沢山あるが…きっと冬弥と一緒ならどこでも楽しいだろう。
あれやこれや考えるのも旅行の醍醐味といえる…が。
…司はあまりそういう性分ではなかった。
だから。
「冬弥!」
彼に目を向け、その手を取る。
「オレは、考えるのに向いてない性格なんだ。だから」
驚いていた冬弥が、司の言葉に小さく笑って頷いた。



雨の匂いは、やがて太陽を連れてくる。



「梅雨明け、二人で旅行に行こう!」

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