しほはるワンドロワンライ・夏祭り/勝負

「志歩ちゃーん!一緒にお祭り行こー!!」
きゃっほう!と咲希が志歩に声を掛ける。
もー、と言いながら後ろから駆けてくるのは一歌、そのまた後ろから穂波が着いてくる。
「お祭り…って」
「商店街のやつだよ!ほら、小さい頃は一緒に行ってたでしょ?だから練習終わってから…」 
「…あー…。それ、日曜の方じゃ駄目?」
楽しそうな咲希に、志歩は少し困ったように声を掛けた。
実は、この時期祭りはたくさん行われていて、今日から行われる商店街の祭りは週末にある神社の祭りの謂わば前座なのだ。
「?アタシは良いけど…もしかして、バイト?」
「いや、そうじゃなくてね…」
「ふふ、邪魔しちゃだめだよ、咲希ちゃん」
「そうだよ、咲希」
言葉を濁していれば小さく笑う穂波と一歌が、首を傾げる咲希にそう言う。
「え?…あっ、もしかして…!」
「…ま、そういうことだからさ。お祭りは日曜の練習後に行くってことで」
「はぁい、りょーかいしました!」
それだけで悟ったらしい咲希が楽しそうに敬礼した。
理解がある友人たちで助かる、と思いながら志歩はカバンとベースが入ったケースを手に取る。
さて、お嬢さんをお迎えに行かなければ。



「…桐谷さん」
「日野森さん!」
待ち合わせ場所に行くと嬉しそうに遥が駆け寄って来る。
カラコロと下駄を鳴らせた遥は、綺麗な水色の浴衣を着ていた。
裾に散ったクローバーが目に鮮やかで、思わず目を細める。
「いいね。浴衣似合ってる」
「ありがとう。日野森さんは浴衣じゃないと思ったから、私も普段着にしようかと思ったんだけど…折角だし、良いかなって」 
少し照れたような遥が可愛くて、志歩もそっか、とだけ言った。
「じゃあ行こうか」
「そうだね。…日野森さんは、何か目当てある?」
「…そうだな…別にこれ、と言ったものはないけど…お祭りといえば、なものは食べたいよね。わたあめとかかき氷とか」
「確かに…。…そういえば、10円焼きっていうのが屋台にあるって鳳さんが教えてくれて…」
話しながら商店街に向かうと、もうすっかり人で賑わっていて。
「あっ、見て!日野森さん!射的やってる!」
「え?いきなり射的?」
嬉しそうに遥が駆け出す。
驚いて少し遅れた志歩に、誰かが声をかけた。
「あれ?日野森さんじゃん!」
「…えっと…白石さん」
「やっほー!レオニの皆と?」
ひらひらと手を振る彼女は、どうやら練習終わりらしい。
曰く、りんご飴を買いにいったこはねを待っているようだ。
そんな杏の手には唐揚げのカップが2つ持たれている。
「ううん。今日はデート」
「デートって…あ、あー。なるほど。楽しそうだと思ったら」
肩を竦める志歩に、少し不思議そうにしていたが目線の先を確認し、くすくすと杏が笑った。
「ま、あー見えて負けず嫌いだからさ。宜しくね」
「任せて。…手加減はしないけどね」
ひら、と手を振って遥の元に向かう。
「ごめんごめん」
「ううん、大丈夫だよ。それより、見て!」
ニコニコと笑う遥が志歩の手を引いた。
そこには景品である大きな浴衣フェニーくんが鎮座していて。
「…!可愛い…!」
「でしょう?!ねぇ、日野森さん、勝負しない?」
目を輝かせる遥が既に買っていたらしい銃を手渡してくる。
「…いいね、乗った」
ニッと笑ってそれを受け取り、志歩も銃弾を買った。
勝負なのだから、自分も買わないとフェアではない。
「…じゃあ、行くよ」
「うん。…尋常に…勝負!」


パン、と最後の銃が鳴る。
ぐらりと揺れはしたが下に落ちることはなく(店主がホッとした顔をしていた…メインが早々になくなっては元も子もないからだろう)、ただ全弾何かに命中はしていたので景品を受け取った。
「あーあ、残念」
「ま、そんなもんでしょ。…私は、フェニーくんのお祭り手のひらぬいぐるみ可愛いと思うけど…桐谷さんとペアだし」
「…日野森さん。…ふふ、そうだね」
にこりと遥が笑う。
「何か食べようか。流石にお腹空いたし」
「うん。…!スーパーボウル掬いがある…!」
「後で勝負付き合ってあげるから」
わくわくした表情の遥に、もう、と笑いながら志歩は手を引いた。
こんなに子どもっぽいところもあるんだな、と思いながら。
「…本当?」
「もちろん。引き分けじゃ終われないし」
「…!ありがとう、日野森さん!」
キラキラと輝く、彼女の笑顔に。
負けは確定かもしれないな、と志歩は肩を揺らす。


お祭りの夜は始まったばかりだ。


「いっちゃん、ほなちゃん!聞いた?!商店街のお祭りに、屋台を無双する美少女たちが現れたんだって!!射的もスーパーボウル掬いも輪投げも!」
「えっと、もしかしてそれ…」
「し、志歩ちゃん…?」
「…。…ノーコメントで」

name
email
url
comment