ケン兄バースデー

夏が来れば思い出す

あの、温かく柔らかな彼の味を



「…ケン兄」
「?どした、シンヤ」
ひょこりと顔を出した弟に、ケンヤは首を傾げる。
もうとっくに寝ていても良い時間なのに、彼は何故か黒いエプロンをしていたからだ。
「今良い?」
「おう。可愛い弟の頼みなら、何でもするぜ?」
「…いや、何もしなくて良いんだけど…」
くすくすとシンヤは笑う。
何だかとても楽しそうだ。
それだけでもなんだか嬉しくて、ケンヤはシンヤが向かった方に足を向ける。
何だか良い匂いが、した。
「…って、ラーメン?」
「あ、もう来ちゃったの」
「今良い?って聞いたのはシンヤだろー。で?なんでラーメン?」
笑いながら椅子を引いて座る。
冷たい麦茶を出してくれた可愛い弟は、だって、と微笑んだ。
「今日はケン兄の誕生日だし」
シンヤの言葉に、そういえばそうだった、とケンヤは思い出す。
流石に誕生日を楽しみにする年齢はとうに超えてしまった。
だとしても、祝ってもらえるのは素直に嬉しい。
「誕生日おめでとう、ケン兄」
「…ありがとな、シンヤ」
彼の言葉に、ケンヤはニッと笑ってみせた。
シンヤが一番に祝ってくれる、その事実が嬉しくて。
「…なあ、作るトコ見てて良いか?」
「いいけど…そんな面白いものでもないよ」
「いんだよ」
不思議そうなシンヤにケンヤはそう言って目を閉じる。
静かな夜にラーメンを作る、柔らかな音は。
何だかバースデーソングのようにも思えた。


(この幸せが、何年でも続きますように)


「ケン兄、チャーシュー何枚にする?」
「え、チャーシューあんの?」
「あるよ、作ったし」
「チャーシュー作れんの?!シンヤが?!!」
「…何歳だと思ってんの…。…作れるよ、ケン兄が好きなものだし」

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