しほはるワンドロワンライ・夏の終わり/始業式

夏の終わり、ふと彼女に会いたくなった。


「…桐谷さん」
「!日野森さん!」
軽く手を上げる志歩を見止めた遥が嬉しそうに微笑んで駆け寄ってくる。
「急にメッセージ送ってごめん、大丈夫だった?」
「うん、平気だよ。明日から学校だから、早めに配信も切り上げたの」
「そっか、なら良かった」
ふわりと笑う彼女に志歩もホッとした。
せっかく夢に向かって頑張っているのに、邪魔をしたくない。
「ふふ。でも日野森さんが誘ってくれるの珍しいね。何かあった?」
「…何か、ではないんだけど…」
首を傾げる遥。
キレイな髪が揺れて、夕日に光った。
「…強いて言えば…そうだな」
そんな彼女を見て目を細めながら志歩は言う。
遥に遠回りな言葉を伝えるのは無意味だ。
隠した言葉は伝わらない、ということを志歩はよく知っていたから。
「…桐谷さんに、会いたくなったんだ」
「…!!」
素直な気持ちを伝えれば彼女は目を丸くさせる。
それから楽しそうに笑った。
「明日は始業式なのに」
「だからこそでしょ。…二人きりでゆっくり話せるのは今日しかないかもしれないし」
「…そうだね」
微笑む遥に、志歩は手を伸ばす。
夏の、最後のデートに誘うために。


風が吹く。

夏が、終わりに近づいていた。



(明日は始業式!)

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