シンヤ誕生日

こんな月の日は思い出す


大切な人の、大切な日を




「シンヤ」
「…ケン兄」
よ、とケンヤは窓の外を見ていたシンヤに笑いかける。
夏の終わった夜、少し涼しくなった日。
…今日は、シンヤの誕生日、だ。
「誕生日おめでとう、シンヤ」
「…ありがとう」
ふわりと彼が笑う。
優しい時間だ。
ケンヤにとっても…シンヤにとっても。
「プレゼントは朝にな」
言いながらシンヤのおでこにキスを落とす。
くすぐったそうに目を細めた彼は不思議そうな顔をした。
「んっ…。別に良いけど…。…なんで?」
「…アンヤが怒るだろ……」
きょとりと首を傾げるシンヤに言い訳がましくそう言う。
途端に目を丸くしてからクスクスと笑った。
「ならこんな秘密ごっこやめたら良いのに」
揺れる肩をぐいと引き寄せる。
わ、という彼の小さな声が届いた。
「それは、出来ねぇな」
「…。…どうして?」
あっさりと告げるケンヤに、シンヤは小さく微笑みながら聞いてくる。
分かっているくせに、とケンヤは笑った。
どうも最近意地悪なところがケンヤに似てきている気がする。
そんなところ、似なくて良かったのになぁ、なんて思いながら、ケンヤは彼の綺麗な瞳にとびきりの笑みを向けた。
きっと、彼が大好きだと自負する笑顔を。
「特権だからに決まってるだろ」
そう言って、そっとキスをする。
シンヤが、愛しい弟が、そうして…愛する彼が、いつまでも幸せでいられますように、と。
「…知らないよ、アンヤに怒られても」
「同罪だろ?一緒に怒られてくれよ」
「嫌。俺、お誕生日様だし」
「なんだそれ」
ふは、と笑えばシンヤも小さく笑う。
深夜の風に乗り、星の瞬きのように響き溶けていった。



「愛してるよ、シンヤ」
「…俺もだよ、ケン兄」


(夜がふける


騒がしい朝はもうすぐ)

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