しほはるワンドロワンライ、絆/思い出を重ねて

こんにちは!と言ったのはよく知っているようで良く知らない【存在】。
「…え、え?初音ミク??」
「うん!!そうだよ。私は初音ミク!」
にこ、と笑う彼女は確かによく知った存在ではあったけれど、志歩はよく知らなかった。
…一歌なら喜んだかも知れない、と息を吐く。
志歩たちのセカイにいるミクとは違う、一般的な初音ミク。
その彼女がにこにこと微笑んでいる。
「あっ、ごめんね?!驚かせちゃって!」
「…いや、いいよ。…それで、君は何をしに来たの?」
慌てる初音ミクに志歩は首を振って聞いた。
セカイのミクとは違う彼女がいるということは、何か重要なことがあるのだろう。
それこそ、セカイが変わるような…。
「そうそう!えっとね、キズナランクが追加されたよって教えに来たんだ!」
「…は、え、なんて??」
思い出した、と手を叩く初音ミクに志歩はぽかんとしてしまった。
何を言っているのだろうか、このバーチャルシンガー様は。
「キズナランクは仲良く歌ったり踊ったりすると増えていくんだよ。今回追加されたのはこの子で…」
ふわ、と彼女の手の中に何かが生まれる。
もうそれだけでパニックなのに、何を聞けば良いのだろうか。
「いや、ちょっとまっ…」
「これからもたくさん歌ったり踊ったりして、キズナランクを上げていってね!」
「いや、だから…っ!!」
ロクな説明がないまま初音ミクは話を終わらそうとする。
そんな理不尽があって溜まるか、と思わず手を伸ばした。
「キズナランクって何…っ?!!!」



「…日野森さん?」
「…っ…え?」
きょとりと首を傾げるのはバーチャルシンガーの初音ミクではなく、大切な恋人でもある桐谷遥だった。
どうやら夢を見ていたらしい。
「…ごめん、寝ぼけてた」
「ふふ、珍しいね」
疲れてる?と聞く遥の、青い髪が揺れる。
「そうかもね」
何の言い訳もせず、志歩は座り直した。
遥には小手先のウソは通じないと重々承知している。
だったら甘えてしまおうと開き直った。
「ねぇ、桐谷さん。眠気覚ましに一緒に歌わない?」
「…!…ふふ、いいよ」
目を丸くした彼女はふわりと笑う。
ああ、可愛いなぁと思いながら大切なベースを取り出した。
遥の柔らかな声が音に乗る。
秋風に舞う二人の歌声は、とても穏やかで愛しいそれをしていた。




こうやって、一つ一つ思い出を重ねていこう。


二人にとって、未来に於いても忘れがたく大切なものになりますように。





「…ところで日野森さん、キズナランクってなぁに?」
「…。…それは私が一番聞きたいかな……」

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