司冬ワンライ/月夜の晩に・十五夜

そういえばそろそろ十五夜だった。
思い出したのは、お月見子供会のお知らせを近所の掲示板で見かけたからだ。
確か、小学校の体育館で団子を作ったり折り紙でうさぎを作ったりするのだっけ。
もうすぐ十五夜、月がきれいに見えるんだと楽しそうに言っていたのは誰だったろう。
「…そうだ」
ふと思いつき、司は自宅に帰る為に向けていた足をスーパーに変えた。
忘れない内にスマホを取り出し、メッセージアプリで素早く文章を打ち込んで送信する。
楽しみだと司は笑みを浮かべた。



「…すみません、遅くなってしまって…」
「大丈夫だ!…こっちこそ、急に呼び立ててしまってすまないな」
「いえ。…実は楽しみにしてきました」
ふわりと冬弥が笑う。
それに、そうか!と司も笑い返した。
あまりやった事がないことでも今年は挑戦していきたい、と言う冬弥に、司は団子づくりを提案してみたのである。
「オレも団子づくりは久しぶりだな!上手く出来るかは分からんが…まあやってみることに価値があるな」
「そうですね」
冬弥にエプロンを渡し、キッチンへと案内した。
ちなみに母には了承を得ていて…寧ろ母は司がやることには肯定的だ…何でも好きに使って良いと言われている。
「そうだ、今日はもう遅いから泊まっていくと良い」
「…しかし、それはご迷惑では…」
「なぁに、月見は満月の晩と相場が決まっているだろう?」
少し焦ったような冬弥に司は笑った。
「月見は、月が綺麗な日に行わなくてはな」
「…それは……」
「オレはな、冬弥。月が綺麗ですね、なんて当たり前の事を言いたいのではなく…ただ…そうだな、お前と見るから綺麗なのだと…そう思うんだ」
だから団子を作って共に月を見たいと言うと、冬弥は目を丸くしてふわりと笑んだ。
月並みな言葉だが…この瞬間がとても愛おしいと…司は目を細める。
月に住むうさぎのように、心が弾むのを感じた。


月夜の晩に、

いや、そうでなくても

お前と共にいたいんだ。


「…俺は、月も綺麗ですが星も綺麗だとずっと昔から知っていましたよ」

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