しほはるワンドロワンライ・お揃い/コーディネート

「…あ」
バイト帰り、ふと見かけたセレクトショップで惹かれる服を見つけた。
ただ、自分が着るならばこれではないと思う。
自分には似合わない気もするし、それ以前に誰かが着ているのを見たい、と言ったほうが気持ち的には正しいだろうか。
誰か、というか…志歩的には…。
「あれ?日野森さん?」
よく聞き慣れた声に志歩は振り返る。
そこには首を傾げた遥がいた。
「…桐谷さん」
「こんばんは。もしかして今練習帰り?」
「今日はバイト。そっちは仕事?」
「うん。今日は雑誌の仕事だったんだ」
ニコニコと遥が笑む。
仕事は大変だと思うのだが彼女自身が楽しそうなので大丈夫なのだろう。
そこは志歩が口を出すところではない。
「ところで、こんなところで何を…?」
「えっ、あっ」
不思議そうな遥に少しだけ動揺した。
別に悪いことをしていた訳ではないのだけれど。
「?日野森さん?」
「別に何でもないよ。…ただ、この服…桐谷さんに似合いそうだなって」
そう、志歩は素直に告げた。
志歩が見ていた服はきっと遥に似合うと思ったのだ。
「え?あ、この服?」
目線の先を見た遥は、にこりと笑った。
「うん、良いね。もうすぐ新学期になるし、丁度良いから買おうかな」
「え、良いの?」
「だって日野森さんが選んでくれたし。私も好きなタイプの服だしね」
にこにこと遥が言う。
実に楽しそうで嬉しそうで…その顔を見ているだけでまあ良いかと思うのだ。
「なら折角だし全身コーディネートしてあげる。だから桐谷さんも私を全身コーディネートしてよ」
「えっ、私も?」
「嫌なら良いけど…」
びっくりしていたが、ううん、と嬉しそうに笑った。
「日野森さんがそう言ってくれるなら、やりたいな」
「…じゃあ、宜しくね」
「任せて。…あ、お揃いっぽくするのはどうかな?」
「お揃いか…。うん、良いね」
わくわくしている遥に志歩も頷く。
咲希やみのり、雫が羨ましがりそうだと頭を過ぎったが首を振って打ち消した。
後から何か言われるのを悩むより、今この時を楽しむ方が先決だ。
「じゃあお揃いコーディネート、しようか」
「うん!ふふ、何だか嬉しいな」
遥が笑う。
それに志歩もそうだねと同意し、遥の手を取る。
「じゃ、行こうか」 
軽く微笑み、店の扉に手をかけた。

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