遥誕生日

「えっ、志歩ってばまだ遥の誕生日プレゼント用意してなかったの?!」
「…ちょっと、声が大きいってば」
びっくりした一歌のそれに志歩は慌てて制した。
ごめんと謝る彼女の両隣で、こはねと穂波がくすくす笑う。
今日は同じクラスの咲希とえむがそれぞれ部活と委員会があるとかで、お昼ゴハンを隣のクラスにお邪魔したのだ。
その際、「そう言えばもうすぐ遥の誕生日だよね」と一歌が思い出し、この会話に至ったのである。
「でも、志歩ちゃんが悩むの珍しいよね」
「うん!私も、志歩ちゃんは早く決めちゃうと思ってた」
不思議そうな穂波にこはねが頷いた。
その隣で一歌が首を縦にぶんぶんと振っている。
「まあ…目星は付けてるんだけど…」
そう苦笑しながら、ほら、とスマホの画面を見せた。
のぞき込んできた3人の反応にまあ上々かな、と笑う。
これで彼女が喜んでくれれば良いのだけれど。


そして当日。
「日野森さん!」
「…桐谷さん」
明るく走ってくる彼女に志歩は軽く手を挙げる。
「遅れてごめんね!待たせちゃった?」
「ちょっとだけね。でも仕事だったんでしょ?なら仕方ないよ。お疲れ様」
「ありがとう。…日野森さんもこの後バイトだっけ?」
「夜からだけどね。だからまあ後5時間くらいかな」
「そっか。…お互い忙しいよね」
くすくすと笑う遥に志歩も同意した。
遥たちのアイドル業は今が乗りに乗っているし、志歩たちのバンドも今が一番大切な時なのだ。
「日野森さんたちも事務所に所属したばかりだし、これからどんどん忙しくなって、会う時間も減っちゃうんだろうな。…もしそうなったら寂しいよね」
「…まあ、その時は一緒に暮せば良いんじゃない?」
少し寂しげな遥に、志歩はさらりと言う。
驚いたように目を丸くする遥に、志歩は笑ってしまった。
「それって…」
「ま、それはまたもう少し経ったらね。今日はデートでしょ、桐谷さん」
手をつなぎ、志歩は笑いかける。
嬉しそうに頷いた遥の、つないだ手を引いた。
しばらく話しながら歩き、目的の店に着く。
「…!ここ、フェニックスワンダーランドのポップアップストア…?!」
「そう。フェニランに行く時間はないけどここなら時間いっぱいまで楽しめるでしょ」
「…うん、ありがとう、日野森さん!!」
笑顔の遥に、良かった、と志歩も息を吐いた。
きっとどこでも喜んでくれたろうけれど、出来るなら笑顔でいてほしかったのだ。
「…見て、秋モデルのフェニーくんだって!可愛い…!」
「…!うん、可愛い…!」
幸せそうな遥にも、新モデルのフェニーくんにもときめいてしまい、志歩も純粋に楽しんでしまう。
しばらく店内を見て回り、ふとある商品の前で止まった。
「…ねぇ、これどう思う?」
「…ブレスレット…じゃなくてアンクレットだね。すごくシンプルで良いね。フェニーくんも可愛いし、ダンスにも支障なさそう。…でも色がちょっと惜しいな…青とか黄緑なら欲しかったかも…」
「…じゃあ、これは?」
真剣に悩んでくれる遥に、志歩は小さな包みを差し出す。
「え?これ…」
「開けてみて」
きょとんとする遥に促せば彼女はそれを受け取って開けた。
綺麗な手に滑り落ちる、濃い青の紐に黄緑の石がついたアンクレット。
「……!!すごい、理想の色…!」
「良かった。…誕生日おめでとう、桐谷さん」
この日一番の笑顔でありがとうと言う遥に志歩は目を細めた。
アンクレットには、災いを弾くという意味があるらしい。
彼女にはいつも幸せでいてほしいから。
貸して、と志歩は遥の左足にそれを着ける。


志歩の瞳と同じ色の石がきらりと光った。



「実は私も桐谷さんと色違いで買ったんだ」
「そうなんだ!ふふ、嬉しいな」
「…そう思ってもらえるなら私も嬉し…。…桐谷さん、アニマルドーナツだって…!」
「えっ、本当だ!可愛い……!!!」

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