司冬ワンライ/ハロウィン準備/出来心

「さて、と」
司はショーで使うハロウィンの衣装を引っ張り出し、汗を拭った。
新しく用意しても良いが、古いものを作り直すのもまた趣がある衣装になるだろう。
「…む?こんなもの作ったか?」
袋に入っていたそれを取り上げ、司は首を捻った。
それは巨大なかぼちゃ頭で。
そんなものを作った覚えはなかったが…しばらく考え、あ、と思い出す。
「…そういえば作ったなぁ…」
苦笑しながら司はそれを被る。
作ったは良いが思った以上に視界が遮られて止めたのだ。
「ふむ、やはり視界が遮られるな。もう少し、こう…薄ければ…」
「…あ、あの…?」
戸惑った声が聞こえる。
「…む」
誰だろうと思ったがすぐに、冬弥が前のライブ映像を持ってきてくれると言っていたことを思い出した。
かぼちゃ頭を脱ごうとし…ふとその手を止める。
そうして黙ったままゆらりと立ち上がった。
「…え、えっと、司…先輩?」
戸惑ったような冬弥の声。
思ったより重いかぼちゃ頭が動く度にゆらゆら揺れる。
同じように視界がぶれた。
「…っ」
冬弥が息を飲むのを感じる。
無言で近付き、そうして。
「…トリック・オア・トリート!」
「……ぇ」
かぼちゃ頭を取って笑顔で言った。
眼前に広がる、涙目の愛しい人の顔。
「?!!冬弥?!」
「つかさ、せんぱ…」
「す、すまん!!出来心だったんだ!!」
ホッとした表情の彼を抱きしめる。
まさか冬弥を泣かせてしまうだなんて!
「…いえ、驚いただけで…」
「いや、しかし…」
「…ですが、トリックはもう許していただけると…」
「勿論だとも!!!!」
困ったような彼に強く頷く。



(ハロウィンにはまだ早く、けれどトリックはもう封印されて)



それから、冬弥には司からの甘い甘いトリートが贈られたのは、ニ人だけの秘密の話。

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