しほはる

「…はぁ」
その少女は何度目かのため息を吐く。
今日は1月7日。
特に取り立てて重要な日ではない(七草粥を食べる日だよ!と言っていた気もするが)、はずなのだけれど。
「…何かしたかな」
少女、志歩は小さく言葉を零す。
考えるだけ無駄なのだろうかとまた息を吐きかけたその時だった。
「…あの、どうか…したの?」
誰かがおずおずと声をかけてくる。
振り向けば若草色の綺麗な髪を揺らした少女が困ったようにこちらを見つめていた。
「…あ…草薙さん」
「…こっ、こんにちは、日野森さん。何か…悩みごと?」
そこにいたのは寧々だ。
わざわざ声をかけてくれたということは、きっと思っている以上に志歩は深刻そうな顔をしていたのだろう。
「…ああ…。…ちょっと、ね」
「…。…悩みなら、聞くよ…?解決出来なくても、話すだけで気分が変わるかもしれないし」
「…!ありがとう、草薙さん」
あわあわとそう言ってくれる寧々に、志歩はそう礼を述べた。
それから、道の端に彼女を寄せる。
寧々なら大丈夫だろう、という信頼が何故かあった。
「じゃあ、ちょっと…聞いてくれる?」




「…えっ、桐谷さんに避けられてる?」
自販機から出てきたホットミルクティーを手渡しながら言えば、寧々は目を丸くして復唱した。
「…」
「…っ、あ、ごめん」
気まずくなってふいと目線を逸らせば彼女は慌てて謝る。
それから、うーんと上を向いた。
「日野森さんには心当たりないんだよね?なら…」
少し悩んでから彼女は、「サプライズかも」と言う。
「…サプライズ?」
「うん。前に白石さんにサプライズされた時、すっごく避けられたから」
「白石さんに?ちょっと意外かも」
「まあ…。…理由を聞いたらバレたら困るからって。えむも、そういうの計画してるとすぐ顔に出ちゃうからなるべく会わないようになるよ。だから逆にバレるんだけど」
「ああ…。…咲希もそうだな…。…でも、桐谷さんはあんまりそういうの顔に出ない感じあるんだけど…」
くすくす笑いながら、いつも余裕たっぷりな遥を思い浮かべた。
お正月配信の大富豪企画で、涼しい顔をして革命を起こしていたのは記憶に新しい。
「だからこそ、失敗するわけにはいかないって思って、避けてるとか」
「なるほど…?」
「日野森さんも、鋭そうだもんね」
「それは…どうかな…」
くすくす笑う寧々に志歩は曖昧な笑みを浮かべた。
「…ミルクティーありがとう、日野森さん。お礼に、はい」
「いや、話を聞いてもらうお礼だから…えっ、何これ」
何かを取り出した寧々は戸惑う志歩にそれを渡す。
小さな手紙にぽかんとしていれば、「ちゃんと、渡したからね」と彼女は言った。
封を開ければ見慣れた文字が出てくる。
やられた、と頭を掻いた。
恐らく、どこかで待っている遥を、掴まえるべく、志歩は駆け出す。
「…っ、うそ…っ?!」
「つかまえた!」
翻る青い髪の少女の腕を掴み、自分の方に引き込んだ。
「…ひ、日野森さ…っ!」
「逃さないからね、桐谷さん」
驚く彼女に笑いかける。
手紙から滑り落ち、志歩の手に収まっていたフェニーくんの記念日限定アクリルキーホルダーがきらりと光った。
「手紙じゃなくて目を見て言ってほしいんだけど」
「だって、まだ1日早いし…」
「いいじゃん。…何回言われても嬉しいよ」
志歩のそれに遥は目を見張る。
それから。
ふふ、と笑った彼女は、ぎゅっと抱きついてきた。
大切な、言葉を添えて。



「誕生日おめでとう、日野森さん!」



明日は志歩の誕生日!


大好きな人と迎える、素晴らしい日!


「いやぁ、ラブラブだなぁ…」
「!白石さん、いつからそこに……」
「んふふ、まあ親友が悩んでたから、ついねー…」
「もう…。…仲良しって、良いよね」

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