しほはるワンライ

「おまたせ、咲希。行こ……」
「今日はたくさん、楽しんで行ってもほしいにゃん♡」
放課後、先生から頼まれた用事を終わらせ、ガラリと幼馴染でありバンド仲間が待つ自分の教室の扉を開けた…はずだった。
なのに何故。
彼女からファンサを受けているのだろう。
「…って、日野森さん?!」
「……何やってるの、桐谷さん」
入ってきた相手が志歩だと分かり、遥は目を丸くした。
対して志歩は呆れ顔だ。
「あっ、しほちゃんだぁ!」
「咲希。また桐谷さんを変なことに巻き込んで…」
嬉しそうな声の咲希に、志歩はその顔をそのまま彼女に向ける。
「えー、変なことじゃないよ!アタシたちも、バンドしててファンサすることもあるかもしれないでしょ?だから、今をトキメクアイドルのはるかちゃんにレクチャーしてもらおうと思って!」
「私達はそんなファンサはしたことないでしょ。…一歌や穂波が戸惑うよ」
キラキラした目の咲希に言えば、彼女はそっかぁ、と少し残念そうな顔をした。
「似合うのに…」
「私はやらないからね」
「えー?!!」
不満声の幼馴染に、遥がくすくすと肩を揺らす。
「ほら、だから言ったでしょう?咲希たちのバンドの方向性は違うって」
「うぅ〜そうだけどぉ…!」
悔しそうな咲希は頬を膨らませていたが、窓の外に知っている顔を見つけたらしく、「あ!いっちゃん!ほなちゃん!」と声を上げ慌ただしく教室を出ていった。
志歩は、「ねぇねえ!今、はるかちゃんがファンサのやり方教えてくれて…!」という咲希の声を聞きながら息を吐く。
「…なんか、ごめん」
「ううん。…喜んでくれたし、私は嬉しいよ」
微笑む遥に、なら良いけど、と志歩は表情を緩め…ふとある事が気になった。
「そういえば…私にファンサはしてくれないの?」
「え?」

name
email
url
comment