カイコク誕生日

今日はカイコクの誕生日だ。
数日前から色々考えていたが……ザクロはシンプルにするか、と立ち上がる。
元々サプライズは得意ではなかった。
カイコクの方も驚かされるのは好きではないだろうし。
それに、素直に言葉を伝える方が良いときもある。
「…鬼ヶ崎」
「?忍霧?…どうしたんでェ」
先を歩く彼を呼び止めれば、彼は立ち止まり首を軽く傾けた。
ふわりと面の赤い紐が揺れる。
「誕生日、…おめでとう」
「…!…ああ、また律儀な……」
小さな包みを手渡し祝いの言葉を述べた。
綺麗な色の瞳を丸くさせたかと思えば、彼は嬉しそうに笑う。
包みを受け取った彼は、ふわりと笑い「ありがとな」と言った。
いつもは飄々として本心を見せない彼からの素直な言葉に少しだけ面食らってしまうが、何とか、「…あ、ああ」と取り繕う。
「なんでェ、面白い顔して」
「なっ…!!…はぁ」
楽しそうなカイコクに言い返そうとしてザクロは止めた。
一応今日は彼の誕生日である。
「それで?…今年は何をくれたんでェ」
「気になるから開けてみれば良いだろう」
「一応許可は必要かと思ってな」
「鬼ヶ崎への贈り物だ。…貴様の好きにすれば良い」
照れ隠しにそう言えば、ならそうさせてもらうかね、と彼も小さな包みのリボンを解いた。
「…これは、お茶…?」
「ああ。黒豆茶だな」
包みから出てきたのは黒豆茶のティーバックだ。
パックの形がウサギになっており、それが鬼の面を持ったり金棒を持ったりしている。
節分の時期限定の味で、彼は甘いものが苦手だからちょうど良かろうと思ったのだ。
「そりゃあ有り難ェが…ちぃっとばかし可愛すぎやしねェか?」
「そうだろうか?…似合っていると思うが」
「それは…鬼の辺りかい?」
「いや。うさぎの辺りだな」
あっさりと返せばカイコクは少しだけ眉を寄せた。
「…うさぎはねェだろう……」
「似合うぞ?」
「…。…忍霧は変わってるねェ…」
曖昧な笑みを浮かべる彼にザクロは首を傾げる。
何かおかしいことを言ったろうか。
…彼はよくうさぎに似ているのに。
のらりくらりと人を躱す辺りは猫そっくりだが…うさぎにも似ていると思う。
「…まあ良いか。…忍霧。お前さんも飲むだろ?」
「良いのか?」
「俺への誕生日なんだろ?…だから、俺の好きにさせてもらう」
来な、と笑う彼はとても綺麗だ。
それならば、とザクロは素直でない好意を受け取ることにする。
滅多にないことだ、無碍にすることもなかろう。
「…そういえば黒豆にも花言葉がある。…知っているか?鬼ヶ崎」
「へえ?…そりゃ…聞いても?」
カイコクが少しわくわくしたように聞いてきた。
贈り物に秘めておくことも出来たが…ザクロはあえて口にする。
くいっと彼の耳に口を近づけ、マスクを下ろした。
「…必ず来る幸福、だ」
「…!」
零れ落ちそうな程目を見開いた彼にふ、と笑ってみせる。


今日誕生日の彼に、必ず来る幸福を。


(幸せを諦めがちの貴方に、約束しよう



幸せにしてみせるという、遠回しかつ真っ直ぐなプロポーズを!!!)

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