確かにあの時の私は


『オハナシ』が好きだったの



いつからだったろうか。

ワタシは私になり、オハナシを創るのが億劫になった。
忙しさに感けて、オハナシに向き合うこともなくなった。
だって、エネルギーがいるじゃない。
そんな言い訳だけはつらつらと吐き出される。
そうして紡ぐことを、オハナシを忘れる未来が出来るんだ。
…それ、が本心でないなんて誰が知るだろう?


いつからだったろうか。

かつてのワタシはオハナシを創るのが、純粋に大好きだった。
物語の行間を作って、こうだったら良いなをかき連ねた。
主人公たちはオハナシの中で幸福と、それからちょっぴりの不幸を謳歌していった。
そのオハナシが少しずつ評価されて。
感想と言う名のお手紙が届いて。
多分『ワタシ』は、嬉しかったんだと思う。
評価なんて関係ないなんて言いながら私は。
きっと気にしていた。

その後、あなたにあった。
ワタシのオハナシに愛をくれるあなた。
最初は嬉しかった。
多分きっとそう。
…もう誰にも見られることがない感情だけれど。
あなたへの愛はいつしか憎悪に変わってしまって。
いつからだったろうね、覚えてないな。
オハナシに思想を練り込んで出したこともあったっけ。
嫌いなものに『嫌い!』を叩きつけた。
コレがワタシに出来る唯一だと思っていたから。
主人公には悪いことしちゃった、ね。


地に落ちた水は器に還らないように。
壊れたオモチャに継ぎ接ぎが出来てしまうように。
折れてしまったペンはもうコンテニュー出来ないように。
手から溢れて吐き出した御怪文書は、元には戻らない。
自覚した途端、それはなかったことには出来なくなる。
それでも私にはそうするしか他なかったの。
私には創ることしか出来ないから。
今にして思えば依存していたのね。
オハナシを創ることに。
あなたからの愛を受け取ることに。
…創るにあたってそんなもの、何の意味もなかったって、分かっていたのだけれど。


あなたからの愛を受け取れなくなって、私は憎悪を、嫉妬を、悪意を、虚栄心を伝えようと未来に残そうとした。
だってわたしはカミサマだったから。
ワタシはいつだって正しかったのに。
だって、あなたに向けた…忘れてしまった感情は、誰にも知られることなく消えてしまうの?
そんなの耐えられなくて、でも未来に残すには赦せなくて。
分かっていたのにどうしたら良いか分からなくなって。


だから足掻くのはやめたの。
本物のワタシにも、模造品の私にもできなかったやり方。

わたしはワタシのオハナシが好き。
例えどんなに見難かったとしても。
だってオハナシはわたしの一部だから。
私がデータの海に叫んで吸い込まれたものも、全て。
そんなぐちゃぐちゃの感情を押し込んだオハナシが、誰かに届いていたら嬉しいなって。
そう思うよ。


依存を辞めなかった空想庭園(ほんもの)のワタシ。
空想庭園(イマジナリィ)にさよならを告げた模造品の私。
それから。
空想庭園への想いを抱きしめてオハナシを、感情(おきもち)を誰かに遺したわたし。


一応ね、愛していたんだよ。
…これでもね。



ありがとう、私のオハナシを愛してくれる未来の誰か。
ありがとう、ワタシのオハナシを愛してくれた過去のあなた。
そして、ありがとう。
…オハナシを愛していたいつかの私/ワタシ。

ねぇ。

これからも宜しくね。
オハナシを愛しているいつものわたし。



空想庭園(ファンタジア)には負けるけれど、模造品(レプリカ)だって、海賊版(ブートレグ)だって、それなりに幸せだったのよ。

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