しほはるワンドロワンライ 願い・夏のバレンタイン

「…ねぇ、志歩。今日って夏のバレンタインなんだって」
「…。…一歌がそういうの言うの、珍しいじゃん」
一緒にお昼ご飯を食べていた一歌が一口目の焼きそばパンを飲み込んでそう言った。
それに志歩は目を丸くして返す。
一歌の話題はバンドのことかミクのこと…少なくとも恋愛関係のそれを聞いたことがなかった。
「…みのりが教えてくれたんだ。今日の配信でちょっと変わった七夕企画をするんだって」
「ああ、なるほど」
彼女の情報源に納得し、志歩は「知ってるよ」と言う。
「七夕を夏のバレンタインって言うの、去年教えてもらった」
「そっか。…曲作りのためにもっと色んな言葉を知らなきゃ駄目だな…」
「…いや、Leo/needはそんな言葉使うようなバンドじゃないでしょ…」
真剣に悩む一歌に、志歩は苦笑した。
やはり彼女はこうでなくては。
「…あれ。一歌、日野森さん」
爽やかな空のような声に、志歩はそちらを見る。
ひらりと手を振るのは遥だった。
志歩も軽く手を振り返す。
「今日も仕事?お疲れ様」
「うん、ありがとう。…一歌はどうしたの?」
「…あー…ちょっと夏のバレンタインについて考えてる?」
首を傾げる遥に志歩は苦笑しながら答えた。
目を丸くした遥も楽しそうに肩を揺らす。
「真面目だね」
「可愛いでしょ、うちのギターボーカル」
「なんで日野森さんが自慢げなの…」
楽しそうな遥に、そうだ、とあるものを手渡した。
「はい、これ」
「え?」
「夏のバレンタイン、でしょ」
きょとんとした遥に、志歩はそう言う。
小さな手提げ袋に収められているのは星が詰まった、ラムネ瓶。
取っ手に短冊が付けられた、それ。
「神様にお願いするのは性に合わないからね」
軽く言いながら水筒の麦茶を煽る。
遥の頬が赤いのは、夏の暑さのせいかそれとも。
「…Leo/needのベース可愛くない…」
「それはどうも」
小さく頬をふくらませる遥にそう言い、志歩は笑う。


黄緑の短冊に書かれた、願い。
…いや、願いというよりそれは…。


【桐谷さんと、幸せになります】

(彦星と織姫になるつもりは、ないからね!)




「…あれっ、えっ、遥?え、なんで顔が赤く…?」
「…可愛いでしょ、一歌ちゃん。うちのプロデューサー兼アイドル!!」
「み、みのり?!!」

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