しほはるワンドロワンライ・パニック/普段はしない

学校の怖い話は知ってるかい?


「視聴覚室から啜り泣く声?!」
「本当だって!わたし、渡り廊下で聞いたんだもんー!」
廊下ですれ違った生徒がそんな会話をしていて、志歩は下らない、と思いながらカバンを持ち直した。
この後は少し図書室に寄って本を返してから練習に行く予定だ。
割といつも通りの、日常と評されるだろうそれ。
そうだと…思っていたのに。
「…え?」
図書室に行くまでの渡り廊下。
いつもはしない音に志歩は立ち止まる。
これは…啜り泣く…声?
「…嘘…?!」
顔を引きつらせながら、志歩は逃げる体制を取ろうとする。
…が。
「…ん?」
その声に覚えがあって志歩は恐る恐る近付いた。
渡り廊下に隣接する、視聴覚室。
その窓に、コンコンとノックをした。
「…きゃあ?!!」
「…。…やっぱり」
聞こえる悲鳴。
それに志歩は頷き、声を上げる。
「桐谷さんだよね?!私、日野森だよ!」
「…日野森さん?!」
くぐもった声がし、カーテンが揺れた。
「…あれ?開いた…?」
「桐谷さん!」
窓を開け呆ける彼女に、カバンを地面に置いてから両手を広げる。
慌てて遥が窓枠に足をかけて飛び降りてきた。
しっかりと抱きとめ、大丈夫?と問いかける。
「…ひ、日野森さん…?」
「うん、私だよ。桐谷さん」
珍しくパニックになっているのか涙目で尋ねる、彼女の頭を撫でた。
それに遥が、怖かった、と抱きついてくる。
「…何があったの」
「…閉じ込められちゃったの」
すん、と鼻を鳴らす遥。
ただ閉じ込められただけではこうはならないだろうと思いつつ、志歩は聞くことをやめる。
今は無理に聞き出すのも可哀想だろうから。
「でも珍しいね。桐谷さんが甘えるの」
だから代わりに抱き着く彼女の頭をなでた。
「…普段はしないもん……」
「うん、知ってるよ」
普段より子どもっぽいくすくすと笑って志歩が言う。
冷静沈着で、いつも取り乱さない彼女だからこそ。
なんだかこんな姿も愛おしい。
「…なんだか悔しいな。日野森さんが慌ててるところなんて見たことないから」
「そんなことないでしょ。…私、割と振り回されてるからね。結構慌ててると思うよ」
「…そう、なの?」
「桐谷さんが気にしてないだけじゃない?」
きょとりとする遥に志歩は笑った。
まあ、彼女が志歩の格好悪い姿を見ていないのはこれ幸いと思うけれど。
(…好きな人には、格好良い姿しか見てほしくないもんね?)

「ところで、なんでこんなところに閉じ込められちゃったの?視聴覚室に何か用事でも…?」
「…えっと…ベースの音が聴こえてきて…日野森さんが弾いてるのかと……」
「…。…待って、何をどこから突っ込んでいいのか分からないんだけど…?!」

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