彰冬

「今日はありがとな」
色んなところで祝ってもらった、夜のこと。
何だか今日は妙に…浮かれていて、眠る前に冬弥に電話をかけてしまったのだ。
『当然だ。…彰人が喜んでくれたなら、俺は嬉しい』
電話の向こうの声も何だか少し高揚していて、この可愛い相棒は、自分を祝うために一生懸命になってくれたんだろうな、と思った。
…サプライズリベンジが成功した、というのもあるのだろう。
以前に失敗した、と落ち込んでいたのを、彰人は知っているからだ。
本当に冬弥は可愛らしい。
まあ、同世代の男子にそう思うのはいかがなものかと思うのだが。
『実は俺も楽しんでしまったんだ』
「いいんじゃねぇの。…冬弥が幸せならオレも嬉しいし」
『…彰人』
柔らかな声が耳をくすぐる。
嬉しそうなそれが、彰人は好きだった。
表情まではっきり思い浮かんでくるくらいには。
前は感情がわかりにくかったから、自分たちの関係性も、冬弥の表現の仕方も成長したのだろう。
しばらく他愛のない話をし、そろそろ切るかとスマホを持ち替えた、その時。
『彰人、今日は英語には触れたか?』
「あー…歌は歌ったが…教科書を開いたりしたかって言われると、まだだな」
冬弥のそれにそう答えれば、スピーカーの向こうから苦笑する声がする。
『今日は誕生日だからな。だが、英語には毎日触れた方が良いから…ここは俺が一つ問題を出そう』
「はぁ?問題?」
突拍子もないそれに聞き返すが、冬弥はそれに答える気はないようで、いくぞ、と言った。
『Happy birthday Akito. Thanks for being my buddy.』
「…っ、お前、なぁ……」
以前なら悩んでいたそれは、聴いた途端にすぐわかって。
彰人の反応に勉強の成果が出ているようだな、なんて冬弥の笑う声が耳元で聞こえる。
存外悪戯っぽい恋人に、さて何と返そうかと彰人は単語帳を引っ張りだした。

彼に、伝えてやらねばならない。



自分は……出会ったあの時からずっと幸せだということを!

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