しほはる、寧々杏

とある冬の日。
少しそわそわする日の…少し前。

「あっ、志歩ちゃーん!おはようわんだほーい!」
同じクラスのえむが楽しそうに駆け寄ってくる。
それに「おはよう」と返す間もなく、彼女はあのねあのね!と話し出した。
「放課後時間ある?寧々ちゃんが相談したいことがあるみたいなんだぁ」
「草薙さんが?…今日は練習だけだし、少しだけなら大丈夫だけど」
「本当?!良かったぁ!じゃあ寧々ちゃんに伝えるねっ!」
「はいはい、放課後ね」
ホッとしたようなえむにひらりと手を振る。
えむのショーキャスト仲間である寧々が相談だなんて珍しいな、と思った。
自分が解決出来ることなら良いけど、と、志歩は教科書の準備を始める。

さて、1日は過ぎ、放課後。


中庭にいても良かったのに、寧々は校門前で待っていた。
「草薙さん!待たせてごめん」
「日野森さん!ううん、こっちこそ、急にごめんね」
「それは良いんだけど…で?話って?」
「うん、えっとね…」
首を傾げる志歩に、寧々が逡巡した後、思い切ったように顔をあげる。
そして。
「…ひっ、日野森さんは桐谷さんとどんなデートするの?!」
「…へ?」
思ったのとは違うそれに志歩はぽかんとする。
突然、何を。
「あ、えっと、実は白石さんとクリスマスに会うことになって…」
「…あー、なるほどね」
ぽかんとしていれば説明してくれようとしたのだがすぐに口ごもる彼女に志歩は頷く。
それだけで察してしまった。
好きな人と初めてのクリスマスデートを、きっと失敗したくないのだろう。
私も最初はそうだったな、と志歩は苦笑した。
「なら、一緒に行く?」
「…えっ、でも、そんな…」
「最初はダブルデートで、後から二人になればいいんじゃない?…賑やかな方が楽しいしね」
そう言いながら志歩は笑う。
悪い顔してる…と言う寧々に志歩は口角を上げた。



「やっほー!遥ー!」
「こ、こんばんは、桐谷さん!」
「えっ、杏?!草薙さんも…?!」
待ち合わせ場所に駆けてきた遥は目を丸くして立ち止まる。
それはそうだろう…遥には言っていないのだから。
「あ、桐谷さん。配信お疲れ様。今日のも良かったよ」
「ありがとう、日野森さん。みんなサンタ衣装喜んでくれて…じゃなくて!」
アイドルスマイルを見せていた遥が少しムッとした顔をする。
「草薙さんはともかく、なんで杏がいるの?」
「ちょっとー、言い方酷くない?!」
「ああああ、ごめんね、桐谷さん?!」
「…ごめんごめん…ふふ…」
年相応の表情を見せる遥、頬を膨らませる杏、焦る寧々に志歩は謝りながら笑ってしまった。
何だか賑やかなクリスマスになりそうだなぁ、と思う。
「ちょっとしたサプライズのつもりだったんだ、ごめんね、桐谷さん」
「…もう……」
志歩は遥の手を握りながら謝れば彼女は絆されてくれたようだ。
「…うわぁ、遥チョローい……」
「…杏、うるさい…」
「…ふふ…あ、白石さん、危ないよ」
「えっ、わっ、ありがとう、草薙さん…!」
寧々がぶつかりそうな杏の手を引っ張る。
嬉しそうな杏に、「杏、チョローい」と遥が茶化す。
「遥、うるさいー」
「まったく…。…じゃあそろそろ行こうか。混む前にね」
「そうだね、じゃあ行こう」
志歩は遥の手を繋ぎ、歩き出した。
遥も嬉しそうに微笑む。
「あっ、あのっ、白石さん。手…繋いで良い…?」
「あははっ、うん、良いよ!はいっ、草薙さん!」
後ろでは寧々と杏が初々しいやり取りを繰り広げていた。
「…私達も去年はそんな感じだったよね…」
「…そう?日野森さんは前から自信満々だったよ」
「えっ」
にこりと笑う遥に志歩は焦ったように彼女を見る。



少女たちの楽しげな笑い声がキラキラと輝くイルミネーションが美しい、寒い街に響いた。


楽しいクリスマスは、これから!

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