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「…カイコクさんって、ダークヒーローですよねぇ…」 俺の声は本人にばっちり聞こえていたようで、はぁ?という顔をされてしまった。 「…なんでェ、いきなり」 「いやぁ、某アプリゲームが、エイプリルフールでヒーローとヴィランに分かれて戦う!っていうのをお出ししてきて」 「…まあ、良くある設定だわな」 「でも、ジャンル的にはリズムゲームなんですよね、それ」 「…。…あんまねェ設定かもしらんな」 カイコクさんが小さく肩を揺らす。 「んで?俺がダークヒーローって?」 「はい!カイコクさん、正統派ヒーロー!って感じじゃないし、ヴィランでもないし。なんか、裏で暗躍していつの間にか悪を倒してる感じじゃないですかー!」 俺のそれに、カイコクさんは楽しそうに笑った。 「そりゃ…買い被りも良いとこだぜ?」 「そうですか?この前だって一人で色々と調べてたじゃないですか」 「…調べた挙句パカにバレてりゃ世話ねェけどな」 首を傾げる俺にカイコクさんはちょっとだけ嫌そうな顔をする。 …カイコクさん、パカさんのこと本当に苦手なんですねぇ……。 「んで?入出はダークヒーローの俺に何して欲しいんでェ」 「へ?」 綺麗な髪を揺らすカイコクさん。 何を…何を…?! 「…頼めば何でもしていただける感じでしょうか」 「…。…一回持ち帰って検討する時間をくんなァ」 真剣な俺に目をそらすカイコクさん。 でも、完全に駄目ではないんですね?! 「…ま、お誕生日様だからねェ…なるべくなら、な」 「…お誕生日様最高じゃないですか…!」 カイコクさんのそれにはわぁ、と大げさに反応してしまった。 そう、本日は俺の誕生日、だ。
素直ではない彼がくれる、精いっぱいの誕生日プレゼント。
嗚呼、何にしましょうね!
「…あ!じゃあ………」
「…俺のヒロインになってください」 「断る」 俺のそれにカイコクさんが微笑んだ。 「何でも良いって言ったのに」 「俺は、入出に、言ったんでェ。間違ってもテメエじゃねぇな」 「ガワは一緒なんだけどなぁ」 「…」 笑う俺にカイコクさんが睨む。 「…俺ァ、ヴィラン側についたつもりは、ねぇぜ?」 「そう?…まあ、ヴィランに囚われたダークヒーローがいつの間にかヒロイン堕ちしてるのも、悪くないんじゃない?」 「ハッ、テメエの言うことなんざ…」 にこにこ笑う俺にカイコクさんが挑発的な目をしながら言う。 うんうん、元気なのは良いことですよね!! …まあ、あんまりお転婆なのも困っちゃうんだけどさ? 「…俺はいつまででも待ってますよ、【カイコクさん】?」 髪を持ち上げてキスを落とす。 びくっと彼が震えた。 やっぱり誕生日といえど、欲しいものは自分で手に入れないと、楽しくないですからね!
(ヴィランにだって、ハッピーになる資格は持っていて良いでしょう?)
(例え、他の人が不幸になったとしても!)
あれ、と志歩は止まる。 ここで見るのは久しぶりだな、と思った。
「あら!お帰りなさい、しぃちゃん!」 「ただいま。…うちで企画練るの、久々じゃない?」 パタパタと姉がキッチンから駆けてくる。 そう聞く志歩に、そうなの!と雫が言った。 「実はね、愛莉ちゃんとみのりちゃん、私と遥ちゃんとのペアで企画勝負をすることになったの。最初はお互いモアモアハウスでやる予定だったのだけれど、何かの拍子でバレても困るでしょう?だから、私たちの企画は私の部屋で練ることになって!」 「…ああ、なるほど。…ところで、キッチンの方は良いの?」 嬉々として教えてくれる雫に苦笑しながらそう指摘すれば、大変!とまた戻っていく。 全く、と息を吐き、志歩はそっと襖を開けた。
あまり世間からは注目されないけど
私にとって今日は……。
「あれ、志歩ちゃん?」 「…あ、絵名さん」 少し向こうに見知った顔があって、絵名は走り寄る。 「こんにちは」 「久しぶり!お買い物?」 「はい、絵名さんは…」 ふわりと微笑む志歩に、絵名は問いかけた。 それに答えた志歩が首を傾げたところで、誰かの声がする。 「日野森さん、良いの見つか…あ、東雲さん!」 「あれ、草薙さんも一緒だったんだ」 「はい。東雲さんもお買い物ですか?」 寧々の髪が揺れる。 何だかよく見る組み合わせだなぁなんて思いながら絵名は笑った。 「まあね。瑞希に振られたから一人で来たとこ」 「…瑞希さんに?」 少し意外そうな顔で志歩が言う。 「そー。なんか用事があるんだって言ってさぁ」 「…そろそろ愛想が尽きたんじゃねぇの?」 「はぁっ?!!…って」 よく知る声が上から振ってきて反射的に睨み仰いだ。 その先にはニヤニヤしている弟がいて。 「彰人?!」 「…東雲くん……」 素っ頓狂な声を出す絵名に、寧々が困ったような声を出した。 「何でアンタがここに?!」 「はぁ?頼まれたんだっつー…」 「あ、えっと、わたしがお願いして、来てもらったんです!」 詰め寄れば彰人は嫌そうな顔をする。 それに焦ったように言うのは寧々だ。 「…草薙さんが?」 「はい。東雲くんとは、クラスが一緒で……」 「え、うそ、うちのバカが迷惑かけてない??」 思わず寧々の手を握る。 彰人が眉を顰め、志歩が苦笑する。 「今迷惑かけてんのはお前だろ…」 「…仲良しだねぇ…」 小さなそれに二人いっぺんに志歩を見た。 「はぁ?仲良くねぇよ」 「志歩ちゃん、その感想はおかしいでしょ」 「…ま、まあまあ……」 寧々が止めに入り、「…東雲くんにはお世話になってるんです」と言う。 「えー?彰人にー?」 「…はい。今日も、バレンタインに白石さんからチョコを貰ったから、お返し考えるのに着いてきて貰っちゃって」 信じられない、と言わんばかりの絵名にクスクスと寧々が笑った。 「…私も、アドバイス貰って、助かってます」 「え?志歩ちゃんも?」 「…桐谷からチョコ貰ったっつーから、お返しになるようなもん考えただけだ」 志歩の言葉に驚く絵名に、彰人が頭を掻きながら言う。 「ま、オレも冬弥に贈るお返し考えるの手伝ってもらったしな」 「ああ、毎年律儀だよねぇ、冬弥くん」 彰人のそれに、あはは、と絵名が笑った。 とても真面目で良い子だから、彰人も大切にしたくなるのだろう、きっと。 彼女たちが言う、杏や遥もそうだ。 深く知っている訳ではないが、良い子たちだから、大事に、こうやってお返しまで考えて……。 「…あ」 「あ?」 「絵名さん?」 「どうかしたんですか?」 ぴたりと固まった絵名に、三人が首を傾げる。 なんでもない、と取り繕い、「ちょっと用事を思い出しちゃった」と手を振った。 きっと、こんな風に真剣に悩んでくれているだろう、【あの子】に思いを馳せる。 願わくば、三人が想い人と素敵なホワイトデーを過ごせますように。 そんなことを、思いながら。
(私も楽しみに待ってようかな、なんてね!)
「くしゅんっ!」 「瑞希ちゃん、大丈夫?!」 「あら、風邪かしらー?」 「…良かったらティッシュ、使ってね」 「あはは、大丈夫だよ、みのりちゃん、雫ちゃん!奏も、ありがと!」
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えー、どうも、鏡音レンです。 我が家では、今現在、えー…何やら不穏な空気、です。
「…何あれ」 指を差すおれに、兄さんが「指は差しちゃ駄目だよ」と窘めてくる。 …電子の歌姫をあれ呼ばわりすんのは良いんだな……。 「へーい。んで?あれ何」 「…。…大切な妹とのデートの日に朝から生放送ラジオの仕事が入っちゃって土下座する初音さんと、珍しく激おこな大切な妹こと巡音さん」 「…。……そらぁ初音さんが悪いな」 小声で教えてくれる兄さんに、おれは頷いた。 マスターもなんでそんな日にわざわざ仕事を入れるかね。 「…気持ちは分かるよ?今日はミクの日だしね。記念日にデートしたいっていう…」 「……。…いや、やっぱり初音さんが悪いだろ。仕事入るなんて分かりきってんじゃん」 ひそひそしているおれたちに「聞こえてんだけどぉ!」と土下座したままのミク姉ぇが怒鳴る。 わぁ、すげぇ器用。 「ってか珍しいね、ルカ姉ぇがこんだけ怒ってるの」 「私だって怒る時は怒るんですのよ、レン兄様」 「ルカちゃん、そこをなんとか!!!」 つん、とそっぽを向くルカ姉ぇに、ミク姉ぇが床に頭をめり込まさん勢いで謝る。 …電子の歌姫どこ行ったよ。 「ふふ、そろそろ許してあげたら?ミクも反省してるし」 「お兄ちゃん…!」 「…タイミング逃したらネタばらしもやりにくくなるし」 「お兄ちゃん…?」 兄さんがにこ、と笑う。 …おれ、この兄さん知ってんぞ。 え、え、とミク姉ぇだけが目を白黒させてる。 「…そうですわね」 ルカ姉ぇがふわりと微笑んで、兄さんと二人で部屋のカーテンを引いた。 「じゃーん!ミクの日おめでとう!」 「サプライズ!ですわ」 「…ほへぇ……?」 「…ミク姉ぇ、顔、顔」 部屋の奥にはごちそうが用意してある。 ポカーンとするミク姉ぇはファンには見せられん顔してて。 「え?何?何事??」 「ミク姉様がお仕事の間にカイト兄様に手伝って頂いて一生懸命作りましたの」 「せっかくのミクの日だもんね、俺も張り切っちゃった」 「…いや、張り切り過ぎじゃね…?」 楽しそうなルカ姉ぇと兄さんが「大成功!」とハイタッチしているのをおれは呆れた目で見る。 メニューもだけど、品数もどこの料亭だよ…。 「大切なミク姉様とデート出来なかったのは残念ですけれど…。…年に一度の記念日、祝わせてくださいね?」 「…ルカちゃん……!!」 ルカ姉ぇの言葉にミク姉ぇが抱きつく。 これは1587239回目のプロポーズが始まる予感だと、おれは兄さんと共に退散した。
せっかくのミクの日、邪魔しちゃ悪いもんな!!
(本日、3月9日、ミクの日です!)
「つーか、ミク姉ぇ記念日多過ぎだろ。おれだって兄さんと記念日祝いたいのに」 「…うーん…レンとは、毎日が記念日みたいなものじゃないかな…」
今年の年末は大変忙しかった。 …そう、自分の誕生日を忘れるほどに。
「…ごめん……」 自分よりもそれを気にしてくれていたのはカイトの方だった。 シンフォニーのリハーサルが終わった直後、彼が神妙に謝るから何事かと思ったくらいである。 「えっ、何、どうしたの兄さん」 「…今年、誕生日をお祝いする時間ないかも…」 しゅんとするカイトの言葉を脳内で反芻し、ああ!とレンは頷いた。 「おれたちの誕生日か!!」 「えっ、忘れてたの?」 びっくりしたようなカイトのそれに、まあなーと軽く返す。 「やだー!初音さんの悪口言えないじゃないですかー!」 「やだー、初音さんがここぞとばかりに煽り散らかしてくるー」 通りがかったミクが楽しそうに嘲笑うからレンは棒読みで返事をした。 誕生日忘れなんて、忙しすぎるミクの専売特許なのに。 「…ミク姉様……」 もう、と後ろからルカが窘めるようにミクに呼びかけ、小さく首を傾げる。 「けれど、レン兄様もリン姉様もご自分の誕生日を忘れているなんて珍しいですわね?」 「確かにな…おれはともかくリンまで忘れてるのは珍しいかも」 まだ向こうでメイコとリハーサル途中のリンを見やりながらレンは呟いた。 …まあ、今年はギリギリまで仕事が入っていたから仕方がない。 良く思い出した方だろう。 「あっ、でもケーキはちゃんと焼くからね!」 「私もお手伝い致しますわ」 カイトのそれにルカも頷いた。 横で、えー!と文句を言うミクはまあおいといて…それだけで有り難い。 「別におれは気にしなくて良いのに…」 「良くないよ、せっかくの記念日なのに」 「そうですわ、レン兄様」 「そ?ありがと、兄さん、ルカ姉ぇ」 にこ、と笑うレンに、「初音さんは?!」と緑の歌姫が声を上げた。 「初音さん文句しか言わないじゃないじゃねぇっすかー」 「違いますぅ、煽りもしましたぁ」 「余計たちが悪い!」 ぎゃんぎゃん言い合っていればルカと…さっきまで落ち込んでたカイトがくすくす笑う。 やっぱりカイトは笑っていてくれた方が嬉しいと、そう思った。 「じゃあ、張り切ってケーキ焼くからね」 「ん。…じゃあプレゼントはまた後日ってことで」 囁く彼に、レンもウインクを返す。
それが…去年の話。
「誕生日おめでとう、兄さん!」 「ふふ、ありがとう、レン」 はい、と手渡したそれをカイトはにこりと微笑んで受け取る。 それからカイトも「遅くなってごめんね」と手渡してくれた。 「もらえるだけで嬉しいって!ありがとな」 「こちらこそ」 柔らかく微笑む、綺麗な兄。 幸せだな、と思った。 「そういや、めっちゃでかい袋だけど何くれたの?」 「開けてみてのお楽しみ」 「マジで?気になるー」 「レンは何くれたんだい?」 少しそわそわしたカイトがそう問う。 えー、と笑ってから、レンはカイトの手を取ってからリボンのところに一緒に手を伸ばした。 しゅるりとそれが解ける。 「…!」 「おれの時間を兄さんにあげる。だから、兄さんの時間をおれにちょうだい?」 耳元でそう囁き、口付ける。 触れるだけのそれに、カイトは、もう、と笑ってくれた。 「レンには敵わないなぁ」 「おれが兄さんに勝てたことなんか一回もないじゃん」 青い髪を揺らす兄をソファに押し倒す。 今日は綺麗で可愛い、カイトがこの世に生まれた日。
それを祝うためなら、なんだって。
「そういやぁ、兄さんは結局何くれた……服?」 「うん。…それを来たレンとデートしたいなぁって……」 「…やっぱり兄さんに勝てねぇじゃん……!!」
さて、本日はバレンタインデーである。
「…なぁ、鬼ヶ崎……」 「まて!後ちょい!」
ここに何やら揉めている男女が1組。
ザクロは目の前でうんうん唸っている彼女を見ながらため息を吐いた。 どうやらカイコクはチョコを渡したくて…女子みんなで手作りしたらしい、彼女は甘いものが苦手なのに有り難い限りだ…持ってきてくれたは良いものの、どう渡すかをこの期に及んでまだ迷っているようなのである。 最初こそ可愛いな、と余裕の気持ちで見ていたのだけれど…それにしたって。 迷いに迷ってとりあえず来てくれただけで褒めてやるべきだろうか。 流石にそれは甘やかし過ぎだろうか。 「…普段通りではいけないのか?」 「……普段通りが分かんねェ…」 ザクロのそれにカイコクは悩みながら答える。 考え過ぎてもう如何したら良いのかわからないらしい。 そこが彼女の可愛らしいところといえばそうなのだけれど。 「可愛らしいな、鬼ヶ崎は」 「なっ」 思わず口に出してしまったそれにカイコクは顔を赤くする。 「ほら」 「っ」 そんな彼女に手を差し出した。 ザクロだって余裕があるわけじゃない。 可愛らしいカイコクの百面相も良いがそろそろ限界だ。 …色んな意味で。 「ムードがねぇ」 「今更だろう?」 ぶすくれる彼女に、小さく笑う。 カイコクから、ほら、と袋を手渡されるまであと数秒。
バレンタインはまだ、始まったばかり。
「そういやァ、今日の下着はチョコレート色だぜ。…見るかい?」 「きっ、さま!!なんで、そう…!」
12時を少し過ぎた…深夜帯。 コンコン、と扉がノックされる。 別段躊躇もなくそれを開けると彼が、よ、と片手を上げて立っていた。 「…いらっしゃい」 「ん」 小さく肩を揺らした彼…カイコクは、何かを手渡してくる。 「…誕生日、おめっとさん」 「…ありがとう」 小さな袋に入ったそれを受け取ると彼も満足気に頷いた。 「んじゃ、それ渡しに来ただけだから…悪ぃな、こんな夜遅く…にっ?!」 ひらりと手を振るカイコクの腕をぐん、と引く。 バランスを崩した彼がこちらに倒れ込んできたからしっかりと抱きとめた。 何すんでェ!と小さい声ながらもこちらを睨みながら文句を言うカイコクに、マキノは首を傾げる。 「…今日、誕生日…」 「?おう、そうだな」 カイコクも小さく頭を傾けつつ頷いた。 乾かしたばかりなのだろうか、しっとりした髪が揺れる。 普段とは違って少し幼く見える彼を抱きしめた。 「うわ、ったくなんだって…。…あ」 ブツブツ言っていたカイコクが声を上げる。 「もしかしてお前さん、寂しいのかい?」 分かった!と言わんばかりのそれに、マキノは少し違う気もしたがとりあえずこくりと頷いておいた。 まあ存外間違いでもないのだし。 「ったく、しゃあねェなぁ」 にこにこと彼が笑み、何やら訳知り顔で頷く。 今日は一緒にいてやるよ、と、とびきり可愛い顔で言う彼に。 マキノはもう一度首を縦に振った。
だって今日は誕生日だから。
少しくらいのわがままは許されるでしょう?ねぇ、神様!
(彼がそれに気付きませんように、と願いながら部屋に招き入れる
悪い【大人】になってしまったみたいだな、なんて)
「しっかしまぁお前さんがそんなこと言うようになるなんてねェ」 「…カイコッくんの、お陰…」 「…は?え?なんて??」
バレンタイン
街が柔らかい色で彩られる季節
ボクは、この時が一番……。
「あれ、杏じゃーん!」 ショッピングセンターのとあるコーナーに、見知った人物を見かけた瑞希はおぅい!と手を振った。 「っ、瑞希!」 一瞬ビクッとしたその人はホッとしたように笑みを浮かべ、同じように手を振る。 その様子におよ、と目を瞬かせたが、何か訳があるのか、と、瑞希は杏に走り寄った。 「やっほ!どうかしたの?杏」 「いやぁ、どうって訳じゃないんだけどねぇ…」 あはは、と笑う杏。 何か、変だ。 だが瑞希はあまり気にせず、ふぅん、と流し、そういえばさぁ!と話を変えた。 触れられたくないこともあるだろう、きっと。 「ボク、絵名に買い物誘ったのに振られたんだよ?!ひどくない?!」 「絵名さんに?」 「そうなんだよー!愛莉ちゃんとの買い物があったみたいなんだけど、誘ってくれても良いのにー!」 「あはは!まあ、絵名さんも二人が良かったんじゃない?親友なんでしょ?」 「そうなんだけどさぁ。…そういえば、他にも穂波ちゃんたちもいる…って…」 愚痴を言おうとした瑞希に、誰かが「暁山?」と声をかけてきた。 「え、瑞希さん?」 「……え、あ、冬弥くんと遥ちゃんだ!もしかして杏と買い物中?」 きょとんとした顔をして姿を見せたのは冬弥と遥で。 杏と遥は親友同士だし、杏と冬弥は同じチームだし、確か遥と冬弥はフォトコンテストで仲良くなったと言っていたのを思い出す。 だから、人選に不思議はなかった。 杏が一人で買い物に来ていて二人が合流した、と考えなかったのは、買い物かごが冬弥が持つそれだけだからだ。 「…あー…まあ……そんなとこ?」 「…白石、暁山に話していないのか?」 言葉を濁す杏に、冬弥が首を傾げる。 「別に隠すことないのに」 「そうなんだけどー!」 くすくす笑う遥に唇を尖らせる杏。 仲良しなんだなぁと瑞希も笑った。 「言葉にしたら恥ずかしいじゃん!」 「いいでしょ、別に…ねぇ、青柳くん」 「そうですね、桐谷さん」 「あー!二人してー!」 「えー、なになに?!気になっちゃうなぁ、ボク!」 楽しそうな3人に瑞希も乗っかる。 別に気を遣わなければならない話題でもなさそうだ。 「もー。…大したことじゃないんだよ?ほら、草薙さんとせっかく仲良くなったから、バレンタインチョコあげたいなって…」 少し照れたような杏に微笑ましげな笑みを浮かべる遥と冬弥…きっと彼らも、また。 「ほら!私は言ったよ!!次遥と冬弥!」 「えー」 「…俺は彰人や司先輩、神代先輩にあげるチョコを作ろうと思ってな」 「あはは、冬弥くんは毎年律儀だねぇ。…で、遥ちゃんは?」 しっかり律儀に答えてくれた冬弥に頷き、遥の方を見る。 もう、と苦笑した遥は「私は日野森さんに渡すつもりなんだ」と答えてくれた。 「お、いいねいいね!いやぁ、青春だなぁ」 「…暁山は、誰かに渡したりしないのか?」 「ボク?ボクはサークルのみんなと、か…」 そこまで言って瑞希ははたと気付く。 もしかして、絵名が買い物を断ったのは。 「…ちょっ…とボク用事思い出しちゃった!またねー!」 「え、あ、ちょ、瑞希ー?!」 杏の驚いたような声を背に瑞希は走ってその場を離れる。 願わくば、3人が想い人と幸せなバレンタインを過ごせますように。 そんなことを、思いながら。
(ボクはボクで準備があるもんね!)
「くしゅんっ!」 「あら、絵名ってば大丈夫?」 「風邪ですか?絵名さん」 「あ、カイロ必要ならありますけど…」 「ん、大丈夫。ありがと、愛莉。一歌ちゃんも穂波ちゃんもありがとね」
(かごの中身が揺れる
街はハッピーバレンタイン!!)
忘れてた、とカイコクが言うから何事かと思った。 「…何を忘れていたんだ?」 「お前さんの誕生日」 頬杖をつくカイコクに、ああ、と頷きかけて少し止まる。 「…俺の誕生日?」 「そう、お前さんの誕生日。…お前さん、誕生日だったろ、昨日」 「…そういえばそうだったな」 カイコクのそれにザクロは少し考えてから肯定した。 この、時間感覚のない空間では誕生日なぞ重要度も低く忘れがちだ。 ましてカイコクにとっては他人の誕生日である。 忘れてしまっても仕方がないと言えよう。 寧ろ、こうやって思い出してくれただけで嬉しいものだ。 彼は、あまり人に興味がなさそうだったから。 誕生日を覚えてくれていただけで嬉しいと思ってしまうのだ。 そう伝えれば綺麗な目を丸くしたカイコクが小さく息を吐く。 「…だが、お前さんは俺の誕生日を祝ってくれるだろ。そんなの、公平じゃねェ」 「公平性の問題か…?」 彼のそれにザクロは首を傾げつつ笑ってしまった。 存外彼は律儀なのだ。 「なら、貴様の誕生日に、俺の誕生日も祝ってくれたら良い」 「…俺の?」 「ああ。どうせ貴様のことだ、1日過ぎてしまったと悔いているのだろう?ならば、今回は纏めて祝えば良い」 「…けど」 「楽しいことは二人分、悲しいことは半分、だ。…鬼ヶ崎」 何かを言い淀むカイコクに、ザクロは言う。 目を見開いたカイコクは、わぁったよ、と笑った。 「…来年は盛大に祝ってやるからな、忍霧」 「ああ、楽しみにしている」
そんなやり取りをしたのが……去年の話。
「忍霧」 何やらわくわくしているカイコクに、ザクロは、ああ、と返す。 まるで子どもみたいだ、と思いながら前から用意していたプレゼントを取り出した。 「誕生日おめでとう、鬼ヶ崎」 「…ありがとな、忍霧」 ふわ、と微笑むカイコクも、何かを取り出し、手渡してくる。 「誕生日…おめっとさん。…忍霧」 「ありがとう、鬼ヶ崎」 それを受け取って袋を開けた。 中から出てきたのは小さな黒曜石のブローチで。 「…これは」 「小さい方が着けやすいだろ、お前さんでも」 「…そうだな」 ザクロは笑ってから、マスクを取ってその紐のところにつけてみる。 似合うか、と聞けばカイコクは笑ってから流石だねェと言ってくれた。 まあ、それだけでも良いだろう。 「んじゃあ、俺も…。…え?」 カイコクがザクロが贈ったプレゼントを開いて…固まった。 手の中にはアメジストの小さなブローチが乗っている。 「…長年共にいると考えも似てしまうようだな?」 「…ったく……似なくても良いんだかねェ……」 くすくす笑いながら、カイコクがん、とそれをザクロに手渡してきた。 「え」 「ここ、着けてくんなァ」 トン、とカイコクがお面の下、飾り紐の辺りを叩きながら屈む。 慌てて頷いてザクロはそこにブローチの針を通した。 サラリと揺れる髪に、光るザクロの目の色の宝石。 似合うかい、と笑う彼を思わず引き寄せた。
互いの色を贈りましょう。
貴方の誕生日に、私の誕生日も添えて。
「…次の誕生日プレゼントは貴様が良い」 「…。…お前さんも年々強欲になるねェ」
「ルカちゃん、ルカちゃん、ルカちゃぁあん!!!」 収録から帰ってきた私はそのままリビングに飛び込んだ。 「…あら、ミク姉様、お帰りなさ…きゃっ?!」 「お誕生日おめでとー!!!!」 ソファにいたルカちゃんに抱きついてお祝いすれば、目を丸くしたルカちゃんが、まあ、と笑った。 「ふふ、ありがとうございます、ミク姉様」 「今年はちゃんと覚えてたんだねぇ、ミク」 「あったり前よ!」 髪の毛を拭きながらそう言うお兄ちゃんに私は胸を張る。 去年までの初音さんとは違うんだから! 「ちゃあんとプレゼントもあるんだからね!はい、どうぞ!」 取り出したそれを手渡すとルカちゃんは、ありがとうございます、と微笑む。 それから袋からそれを取り出して…キョトンとした顔をした。 「えっと…【初音ミクを1日自由に出来る券】…?」 「………絶対今考えたやつじゃん」 「レンくんシャラップ」 読み上げるルカちゃんに、呆れた顔でレンくんが言う。 思わず黙らせてしまったけど、待って、レンくんどっから出たの。 「ふふ、私は嬉しいですわ。ありがとうございます、ミク姉様」 「えへへ、どういたしまして!」 嬉しそうに微笑むルカちゃんに私も笑って返す。 ルカちゃんが幸せだと私も幸せだよー! 「…巻き込ミクルカされる前に退散しよ、兄さん」 「もうだいぶ巻き込まれてる気はしないでもないけど…」 くすくす笑うお兄ちゃんの背を押すレンくん。 自分たちだって巻き込むじゃんねー。 それを微笑ましげに見ていたルカちゃんがふと聞いてきた。 「…これ、早速使っても宜しいでしょうか?」 「良いけど…何に使うの?」 首を傾げる私にルカちゃんは、ふふ、と笑う。 「ミク姉様とデートしたくて」 「そ、そんなんで良いの?!」 控えめなお願いに素っ頓狂な声を上げた。 もっと無茶言っても良いのに! 「勿論。ミク姉様と行きたい場所がたくさんありますの」 「そんな、券使わなくても行くよ?!」 「いえ。…ミク姉様がくれた券を使って私の誕生日デートをする…きっと忘れられない日になりますわ」 「…ルカちゃん…!!」 ふわふわと笑う愛しい妹兼恋人に、私は抱き着いた。 「もうっ、ルカちゃん大好き!」 「私もですわ、ミク姉様」 嬉しそうに言うルカちゃんから離れて、私は跪く。 それから綺麗な手を取って口付けた。 「何処へでもエスコートするよ、お姫様?」
桃色の髪を揺らす、私の大切なお姫様。
そんな可愛い人の誕生日。
「ふふ、ありがとうございます。…では、ミク姉様が出ている映画を見てみたくて…!」 「私がいるのに他のミク観るの?!!」 「まあ、ミク姉様ったら。私のミク姉様はただ一人だけですわ」 「…ルカちゃん……!!」
こうやって、プランを立ててる時から、とっても幸せなのです!
「…あ、そいやぁさ、MEIKO姉ぇが、明日は早いから五月蝿くしてたらミク姉ぇでも関係なく処すってー」 「……レンくん。それ、もっと早く言ってくれない?!!!」
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