確かにあの時の私は


『オハナシ』が好きだったの



いつからだったろうか。

ワタシは私になり、オハナシを創るのが億劫になった。
忙しさに感けて、オハナシに向き合うこともなくなった。
だって、エネルギーがいるじゃない。
そんな言い訳だけはつらつらと吐き出される。
そうして紡ぐことを、オハナシを忘れる未来が出来るんだ。
…それ、が本心でないなんて誰が知るだろう?


いつからだったろうか。

かつてのワタシはオハナシを創るのが、純粋に大好きだった。
物語の行間を作って、こうだったら良いなをかき連ねた。
主人公たちはオハナシの中で幸福と、それからちょっぴりの不幸を謳歌していった。
そのオハナシが少しずつ評価されて。
感想と言う名のお手紙が届いて。
多分『ワタシ』は、嬉しかったんだと思う。
評価なんて関係ないなんて言いながら私は。
きっと気にしていた。

その後、あなたにあった。
ワタシのオハナシに愛をくれるあなた。
最初は嬉しかった。
多分きっとそう。
…もう誰にも見られることがない感情だけれど。
あなたへの愛はいつしか憎悪に変わってしまって。
いつからだったろうね、覚えてないな。
オハナシに思想を練り込んで出したこともあったっけ。
嫌いなものに『嫌い!』を叩きつけた。
コレがワタシに出来る唯一だと思っていたから。
主人公には悪いことしちゃった、ね。


地に落ちた水は器に還らないように。
壊れたオモチャに継ぎ接ぎが出来てしまうように。
折れてしまったペンはもうコンテニュー出来ないように。
手から溢れて吐き出した御怪文書は、元には戻らない。
自覚した途端、それはなかったことには出来なくなる。
それでも私にはそうするしか他なかったの。
私には創ることしか出来ないから。
今にして思えば依存していたのね。
オハナシを創ることに。
あなたからの愛を受け取ることに。
…創るにあたってそんなもの、何の意味もなかったって、分かっていたのだけれど。


あなたからの愛を受け取れなくなって、私は憎悪を、嫉妬を、悪意を、虚栄心を伝えようと未来に残そうとした。
だってわたしはカミサマだったから。
ワタシはいつだって正しかったのに。
だって、あなたに向けた…忘れてしまった感情は、誰にも知られることなく消えてしまうの?
そんなの耐えられなくて、でも未来に残すには赦せなくて。
分かっていたのにどうしたら良いか分からなくなって。


だから足掻くのはやめたの。
本物のワタシにも、模造品の私にもできなかったやり方。

わたしはワタシのオハナシが好き。
例えどんなに見難かったとしても。
だってオハナシはわたしの一部だから。
私がデータの海に叫んで吸い込まれたものも、全て。
そんなぐちゃぐちゃの感情を押し込んだオハナシが、誰かに届いていたら嬉しいなって。
そう思うよ。


依存を辞めなかった空想庭園(ほんもの)のワタシ。
空想庭園(イマジナリィ)にさよならを告げた模造品の私。
それから。
空想庭園への想いを抱きしめてオハナシを、感情(おきもち)を誰かに遺したわたし。


一応ね、愛していたんだよ。
…これでもね。



ありがとう、私のオハナシを愛してくれる未来の誰か。
ありがとう、ワタシのオハナシを愛してくれた過去のあなた。
そして、ありがとう。
…オハナシを愛していたいつかの私/ワタシ。

ねぇ。

これからも宜しくね。
オハナシを愛しているいつものわたし。



空想庭園(ファンタジア)には負けるけれど、模造品(レプリカ)だって、海賊版(ブートレグ)だって、それなりに幸せだったのよ。

類冬

今日は類の誕生日である。

可愛い後輩兼恋人の冬弥からも祝ってもらって幸せだった。

…のだけれど。



「…青柳くん、今なんて…?」
「…ええと」
キョトンとした類に冬弥は少し困った顔をした。
そうして。
「…俺と、逃避行していただけませんか?」
手を差し出して冬弥は言う。
…何故いきなりそんな事を。
「うーん…。理由を聞いても良いかい?」
首を傾げる類に冬弥はこくりと頷く。
「今日は先輩のお誕生日ですよね?」
「そうだね。青柳くんも祝ってくれたじゃないか」
「はい。…おめでとうございます」
「ふふ、ありがとう。何回言われても嬉しいものだねぇ」
にこにこと微笑む類に冬弥も目を細めた。
「それで?何故逃避行なんだい?」
「今現在、先輩も、俺も、夢を追うことが何よりも大切ですよね」
「うん?まあそうだね」
類は演出家の夢を、冬弥は伝説のイベントを開催するために、日々を邁進している。
何よりも大切にしているといっても過言ではなかろう。
「ですが、今日は先輩のお誕生日ですので…その、」

梅雨彰冬、しほはる

「…んげ」
コンビニから出た途端、ザァと降り出した雨に彰人は嫌な顔をした。
先程までは晴れていたのに。
だが、通り雨だろうとしばらく待つことにした。
この様子では、傘を買うほどでもないだろう。
練習に早く合流したかったが…致し方ない。
スマホを開き、少し悩んでから冬弥宛にとメッセージアプリを起動した。
『わりぃ、急に雨に降られた。雨宿りしてから行くから練習遅れる』
タタとメッセージを送信すればすぐに返信が来る。
『大丈夫か?迎えに行くか?』
『いや、待ってりゃ止むだろ』
『だが』
『心配すんな、小降りになったらすぐ行く』
そこまで打って彰人はメッセージアプリから顔を上げた。
そういえば今朝のニュースで、梅雨入りしたと言っていたっけ。
こんな天気も増えるのか、とため息が出る。
雨の様相を見るのは嫌いではないが…こう予定を狂わせられると眉間にシワが寄ってしまった。
どれくらいで止むだろうかと天気予報アプリを開こうとした時である。
「…ん?」
何かメッセージが来ていて彰人はいつものようにタップした。
冬弥からのメッセージは『彰人』とだけ表示されていて。
何だこりゃ、と思うより前に「彰人」と声が降ってくる。
「え」
「良かった、まだ雨宿りしていたんだな」
目を丸くする彰人に、冬弥がふにゃりと笑う。
手には2本の傘。
「いや、お前、なんで」
「…何故……ああ、ええと」
ぽかんとする彰人に冬弥は少し悩んだ素振りをしてからこてりと首を傾げる。
それから。
「来ちゃった?」
「…お前なぁ……」
揺れるキレイな髪に彰人ははぁあとため息を吐き出した。
まったく、誰に何を教わったのだか。
「…やはり駄目だったか?」
「いや、驚いただけだ。…ありがとな、冬弥」
心配そうな冬弥の表情に、彰人は礼を言ってからくしゃりと彼の髪を撫でる。
可愛い恋人がこうやって迎えに来てくれるなら梅雨も悪くないかもしれないな、と思った。


雨雨降れ降れ、可愛い可愛い恋人が


蛇の目でお迎え嬉しいな!

(灰色の空、落ちる雨粒、唯一の醍醐味)



「あ、青柳くん。…成功したんだね。良かった」
「桐谷さん。…ありがとう。そちらも成功したんだな」
「いや、マジで誰に何教わってんだよ…」
「何ていうか…大変だね?東雲くん」
「おう、そっちもな」

本日、5月25日。
冬弥の誕生日である。
「…この半年だけは彰人よりお兄さんだな」
プレゼントを抱えた冬弥が嬉しそうに言うから、何かと思えば。
「…半年だけだろ」
「たかが半年、されど半年だ。…俺の周りは年上が多かったから、嬉しい」
「…ああ……」
機嫌が良い冬弥に、彰人も思い浮かべる。
確か冬弥には兄が二人、それから先輩と慕う司も自分たちより歳が上だ。
「司センパイ、妹がいるんじゃなかったか?」
「咲希さんか?…咲希さんは誕生日がオレより早いんだ」
「…なるほどな」
冬弥の言葉に彰人は頷く。
同級生とはいえ、一時的にでも年上になる、というのは何か特別なものでもあるのだろう、彰人には分からないが。
「んで?おニーチャンとでも呼んでやろうか?」
「…いや。遠慮しておこう」
彰人の提案にくすくすと冬弥が笑う。
楽しそうな彼の、綺麗な髪がさらさらと揺れた。
「彰人の誕生日が来た時にやりかえされてしまう可能性もあるからな」
「ねぇよ」
あっさりと冬弥の言葉を否定する。
別に、兄になりたい願望があるわけではなし。
「あくまで、対等でいたいからな。…お前とは」
「…彰人」
「相棒としても、恋人としても。冬弥とは隣で歩いていけるような関係で有りたいと思うけど?」
美しい灰の瞳が見開かれる。
そこに写り込むオレンジ色。
爽やかな風が二人の間を通り抜けた。
「…その返事は、来週でも良いだろうか…?」
「は?来週?なんで…」
うっすらと耳朶が赤い彼に、首を傾げてから慌ててスマホを探る。
誰かが言っていた。
6月の第一週日曜日。
それは……。
「…あー!…そん時はもっとちゃんとした言葉をやるから、覚悟しとけ」
「今以上にきちんとした言葉を貰えるのか」
「そーだよ。…なんなら指輪でも買いにいくか?」
「ふふ、彰人はセンスが良いから楽しみだ」
冬弥が微笑む。
その表情に、ドキリと胸が高鳴った。
蒼を溶かす蜂蜜色。
もうすぐ、夜がくる…。

「…頼む!知恵を貸してくれんか!」
パンっ!と司が眼前で拝む。
その隣で類と彰人が何やら困った顔をしていた。
「…いや、だからってなんで私…」
頼み込まれた方、志歩が少し表情を歪める。
ちょっと、と寧々が司を窘めた。
「…日野森さん困ってるでしょ、やめなよ」
「うっ…そうなのだが…」
司が目線をそらす。
普段自信たっぷりな司にしては珍しいな、と思った。
「…まあ、司さんにはお世話になってるし…神代さんにも、東雲くんにもうちのメンバーが助けてもらったしね」
「本当か、志歩?!!!」
「助かる、ありがとうな」
「ああ、とても有り難いよ」
「…ごめんね、日野森さん」
男子3人が各々ホッとした顔をし、寧々がすまなそうにこちらを見る。
「別に…役に立たないかもしれないし…。それで?相談って?」
首を傾げれば3人が顔を見合わせた。
「それが…冬弥の誕生日のことでな…」
「?司さんの家でパーティーじゃなかったんですか?咲希、張り切ってましたよ」
「えむが、咲希ちゃんにアドバイスしたんだぁって嬉しそうに言ってたけど…それじゃなくて?」
寧々と2人、きょとんとする。
どうやら寧々も内容までは聞いてなかったようだ。
いやぁ、と司が頭を掻く。
「月曜にショーをすると約束をしただろう?」
「…ああ、してたね」
司のそれに寧々が頷く。
「誕生日当日は土曜だろ」
「25日だっけ。今年は土曜日だね」
引き継いだ彰人の言葉に志歩も同意した。
「…1日空いてしまうから、そこも何かしたい…そう考えてねぇ…」
類の困ったような言葉に、あぁ……と曖昧なそれが漏れる。
「誕生日は25日なんだから、お祝いは1日だけでも良い気がするけど…」
「私も。…まあ、何かしてあげたいって思うのも分かるけどね」
くす、と笑う志歩に、寧々が少し意外そうな顔をした。
それは男子勢も同じだったようで目を丸くしている。
「…なんですか、その顔」
「…いや……なんつーか…意外だな、と」
「志歩はどちらかというと遠慮するタイプだと思っていたのだが」
「僕もだよ。まさか賛同を得られるとは…」
嫌そうな志歩に男子勢が口々に言った。
「…。…草薙さん、行こう。白石さんと桐谷さんが待ってる」
「わぁあ!待て待て待て!!!」
「わぁるかったって!!!」
踵を返す志歩に、司と彰人が必死に止める。
「まったく……」
「フフ。二人とも必死だねぇ」
「…いや、類も当事者でしょ」
何故だか傍観者の類に寧々が呆れたように言った。
「僕はゲリラライブをして驚かせる、という案を持っているからね」
「あ、卑怯ッスよ!」
「そうだぞ、類!抜け駆けは良くない!」
「抜け駆けなんて、酷いなぁ…」
ギャーギャー言い出す彰人と司に、類が泣き真似をする。
何やってるんだか、と呆れ顔の志歩に、寧々が「ゲリラライブか」と呟いた。
「草薙さん?」
「あ、なんかそういうの、白石さんは好きそうだなって」
「ゲリラライブ?」
「うん。…サプライズとか前に喜んでくれたし、楽しんでくれるかなって」
「ああ…。…桐谷さんも、突発フェニーくんグリーディングとか凄く嬉しそうだったし、意外とそういうの、需要あるのかも?」
「…なるほど、その手があったか…!」
寧々と志歩の会話に司が手を叩く。
「司くん?」
「…なんか嫌な予感しかしないんスけど…」
首を傾げる類と嫌な顔をする彰人に、司がワクワクとそれを話しだした。
「つまりだな、彰人たちが練習が終わった後に参加型のゲリラライブを……」
「なら、結婚式のショーのようにプロポーズを…」
「はぁ?!そんなん……!!」


わいわいと声が響く。
今年も愛しの人に楽しんでもらえるようにと、お誕生日会議は続く!



「…冬弥、嬉しそうだね?」
「ふふ、何か良い事あったんですか?」
「そうですね。…これから、良い事が起こるかもしれない、そんな期待にワクワクしています」
(杏と遥の疑問に冬弥が笑う)


(誕生日、それはいつだってワクワクさせて、とても幸せな気持ちをくれる日)

しほはる

「志歩ちゃん、どうしよう!遥ちゃんが消えちゃう!!」
「…は?」
バタバタと教室に駆け込んできたのは花里みのりである。
2年になってクラスが別れたはずなのだが…どうしたのだろう。
「あっ、みのりちゃんだぁ!わんだほーい!」
「わんだほーい、えむちゃん!…じゃなくて!遥ちゃんが!!」
隣で一緒に弁当を食べていたえむに挨拶をし…みのりはすぐ我に返った。
「…いや、桐谷さんが何だって……」
「あーっ!みのりちゃん!生配信見てたよー!はるかちゃん、大丈夫だった??!」
と、バタバタと慌ただしく教室に駆け込んできたのは咲希である。
…彼女は職員室へ行ったのではなかっただろうか。
「…待って、どういうこと?」
「訳は聞かないでぇえ!お願い、志歩ちゃんん!」
眉をひそめる志歩にみのりがぐいぐいとドアの方に押していく。
お昼ご飯途中なんだけどな、と思いつつ志歩は駆け出した。
たまには乗ってあげるのも悪くないだろう。
…何が何やら良く分からないけれど。
生配信、というからにはそこにヒントがあるのかな、とそっとスマホを取り出した。
「…え?」
画面には横たわる遥が映っている。
シークバーを戻して確かめると、最初はメンバーと談笑していたのだが何かを食べたすぐ後に、ぐらりと彼女の身体が揺れ、崩れ落ちた。
『ちょっと、遥?!』
『遥ちゃん!!!』
悲鳴のようなメンバーの声が画面から響く。
コメントが目眩く速さで流れた。
『…待って。…遥ちゃん、寝てるみたいだわ』
『…へ?』
『ね、寝てるの??嘘でしょ?』
姉の声に二人が困惑したように言う。
どうやら本当に寝ているだけらしい。
『よ、良かったぁ!』
『もー!皆も心配かけてごめんねー?』
ホッとしたようなみのりの声に愛莉が明るく言った。
そのまま配信は終わりへと向かう。
スマホをポケットに戻し、志歩は再び駆け出した。
きっと何か訳がある。
何かなければ、みのりがあんなに慌てるはずがないからだ。
「…ねぇ、モモジャンの配信見た?」
「見た!桐谷さん大丈夫かな?」
「心配だよね」
「え?でも寝てるだけでしょ?」
「…あんな寝落ちしないでしょ。その後もみのりちゃんたちバタバタしてたし…」
「いや、ああいう演出なんだって…」
ヒソヒソと囁く声がする。
こういうのはあまり好きではなかった。
純粋に心配している声ばかりでないのを、志歩は知っているから。
「最近テレビに出て調子乗ってるからじゃん?」
「前のグループの元ファンがなんかしたんじゃない?」
悪意のある、誰かの声。
何も知らないくせに、と思いながら志歩はその横を駆け抜けた。
…何も、知らないくせに。
彼女が、彼女たちがどんな努力をしているかも知らないで。
「桐谷さん!」
屋上に続く階段を駆け上がり、ドアを開け大声で呼ぶ。
は、と息を一つ吐き出した志歩はそっと彼女に近づいた。
静かな寝息を立てる遥に少しホッとして志歩は彼女の傍に膝をつく。
「…起きて、桐谷さん。迎えに来たよ」
さらりとした髪を持ち上げた。
何だかそんな物語を読んだことがあったな、と思いながら志歩は遥の頬に顔を寄せる。
起きて、と再び囁いた。
いつかの夢を思い出す。
あの時みたいに、彼女を消させたりなんかしない。
ドラマ的な事情なんて…こちらの知ったことではないのだから。
「ストップ、志歩ちゃん!!」
「邪魔しちゃってごめんなさいね」
「?!先輩?!それに、お姉ちゃんまで」
慌てて駆け込んできた愛莉と雫に志歩は目を丸くする。
少し気まずそうな彼女たちはそそくさとカメラを回収し「じゃあ後はごゆっくり!」と去っていった。
そういえば咲希が「MOREMOREJUMP!の生配信が大変なことになってる!」と騒いでいたっけか。
志歩が見ていたところまでなら遥が「寝ていただけ」と分かっているのだから大変だと言わない気がする。
寝た原因が分からないのだから大変だと言っていたと思っていたのだが…。
…もしかして配信が切れてなかったんじゃないだろうか…今までずっと。
それならあの慌ただしさも納得出来る。
出来るが、嵐のような二人に、後でファンの人にとやかく言われたりしないだろうかと志歩は息を吐く。
まあ何とかなるか、と膝枕の彼女に微笑みかけた。
夢現のプリンセスの目を覚まさせる方が先決だ。
「桐谷さんそろそろ時間だよ」
「…日野、森……さん?」
「やっと起きた。…おはよう、桐谷さん」
ふわりと開く瞳に志歩はそう言う。
「…私、寝てたの?」
「そうだよ。…何があったの」
身体を起こす彼女を支えながら志歩は聞いた。
遥曰く、林檎のお菓子を食べていたらふと意識が遠のいたらしい。
前日は早く寝たはずなのに、と思いながらどうしたって抗えず、そのまま崩れ落ちたようだ。
「じゃあ、桐谷さんが眠った理由はわからないんだ?」
「うん…色々重なっただけだと思うんだけど…」
困ったように遥が微笑む。
「無理しないでよ?ファンが心配するし」
「そうだね、ありがとう」
笑みを浮かべた彼女は小さく、楽しそうに肩を揺らした。
「ふふ、日野森さんって王子様みたいだよね」
「何言ってんの。…アイドルに王子様なんていたら不味いでしょ」
立てる?と彼女に手を伸ばす。
そう、遥はアイドルだ。
だから、毒りんごを食した少女のように、白馬に乗った王子が現れることはない。
そんなことをすれば何であったって憎まれてしまうから。
「…私は、桐谷さんの王子様じゃなくて、ちゃんと対等に隣を歩ける人になりたいからね」
志歩は微笑む。



遥は確かに、意識が薄れゆく中、青い海の中で、王子(きみ)を祈った。


そうして、君は、来てくれた。



視界が失せる前に、目を醒まさせてくれた。


「…日野森さん」
「何?桐谷さん」
「…何でもない」


遥は微笑む。
何それと苦笑する志歩に向かって。

…おとぎ話の少女より遥かに幸せだと、二人はそう思った。


「あっ、志歩!遥!」
「志歩ちゃん、遥ちゃん、大丈夫?」
「桐谷さんはともかく、私は大丈夫だけど…え、何」
「ど、どうかしたの?」
「…ええと…ほら、桐谷さんが寝てるところに志歩ちゃんが颯爽と現れたから…王子様みたいだねって……」

戦慄的なデビューを飾ったロックバンドLeo/needの日野森志歩が、国民的アイドルになりつつあるMOREMOREJUMPの桐谷遥の王子様だと噂になるのは…そう遠くないミライの話。

Voi che sapete

恋心


何やら冬弥が悩んでいるらしい。
本人から聞いたわけではない、ただ見ていれば分かる、といったところだ。
冬弥は表情変化も乏しく、何を考えているか分からない事もあったが…最近はめっきりよく分かるようになってきた。
これも相棒として歌を重ねてきたからだろうか。
「…?彰人?」
「おう、どうした?」
ふわりと彼の綺麗な髪が揺れる。
灰の目の奥には僅かな疑問が浮かんでいた。
「…。…いや、何でもない」
「別に、気になることがあれば何でも言やぁいいだろ」
「…!」
冬弥が驚いた顔をする。
何故分かるのか、とでも言いたげだ。
大体分かる、と肩を竦めれば、そんなものか、と彼は目線を落とした。
「…彰人は、誰かを見ているとぎゅっと心を鷲掴みにされたり、その人のことを考えると長い小説を読んだ後のように眠れなくなったりすることはあるだろうか?」
「…。…は?」
唐突に繰り出される疑問に思わずぽかんとしてしまう。
「…お前、それ…」
「…。…俺は、彰人を見ているとその様な気持ちになる。ざわざわするというか…確かに高揚もするがそれだけでもないし、言語化するのは難しいのだが…」
「…。…それを本人に聞くのかよ…」
「あまりにも行き詰まってしまったからな。先輩方やミクたちにも聞いたのだが、特に解決策はなく、オススメの曲を教えてくれるばかりで…」
困った顔の冬弥がiPodのプレイリストを見せてきた。
クラシック畑一筋で、ストリート音楽に身を置くようになった冬弥にはあまり縁がないのでは、と思えるラインナップが並ぶ。
「それで、彰人はどうだろうか?」
ちらりと冬弥を見れば、彼は珍しく眉を顰めて彰人を見ていた。
困惑しているような、縋るような、そんな。
だから思わず苦笑して、彰人は数少ない引き出しからピックアップした曲を冬弥に共有する。
彼を想う時に聴いている、なんて教えてやる気はないが…きっとこの気持ちに気付けば何れ分かるだろう、なんて希望観測も乗せて。
「…彰人?」
「…あー…。…オレもオススメ教えてやるよ。後、それいっぱいなるまで色んな奴に聞いて曲聴くのがいいんじゃねぇか?」




「うーん…。あっ、そうだ!この前教えてもらったこの曲、すごく良いんだ。良かったら聴いてみて?」

「えー、いいじゃーん!えっと、待ってね…確かこの曲がオススメでぇ…」

「あー…。じゃあ、この曲を聴くと良いんじゃない?ミュージカルの曲なんだけど、オススメ」

「ボクにも紹介させてよー!うちのサークルとはジャンルは違うけど、このアニメの主題歌がめちゃんこ良くてさぁ!」

「とーやくん、曲探してるの?!アタシ、オススメの曲いっっぱいあるんだぁ!」



「…増えたな」
「……そうだな?」
呆れる彰人に冬弥が小さく笑う。
あれから数週間しか経っていないが、と頭を掻いた。
確かに色んな人に聞いて曲を聴くと良いとは言ったが…想像以上に増えている気がする。
心なしか嬉しそうで、彰人は彼が良いならまあいいか、と息を吐いた。
…色んな人にバレている気がするが、まあ今更ではあるし…別にこの関係が壊れるわけではないし。
「んで?分かったのか?」
「…ぼちぼち、と言ったところだ」
尋ねる彰人に、冬弥は目を細めた。
それに、そうかよ、と軽く答える。
教えられた曲たちは冬弥の気持ちに名前を付けた。
恐らく彰人の気持ちにも。
口に出すことはない、そのメロディは二人の耳に入って消えた。




「…冬弥」
「…!彰人」
ベンチに座って何やら聞いていた彼に影を落とせば、見上げた冬弥がふわ、と微笑む。
「…用事、終わったのか」
「おう、待たせたな。…ってか、それ」
イヤホンを外し、カバンにしまいかけるそれを、彰人は指差した。
僅かに首を傾げた冬弥が、ああ、と微笑む。
あの時より格段に柔らかく、分かりやすくなったそれで。
「あの時より増えたぞ。…一緒に聴くか?」
ふふ、と楽しそうな笑みになんだか悔しくなる。
ただ、別に良い、と答えるのも悔しいから手を差し出した。
再び取り出したiPodにはたくさんの曲名が並んでいる。
「なんつーか…すげぇな」
「ああ。たくさんのジャンルの曲を聴くことが出来て俺も嬉しい。…オススメは…そうだな、最近フォトコンテストで協力してくれた人から教えてもらった曲がとても良かった」
「…まあ、あの人本業みたいなもんだしな……」
言われた曲を紹介したのは、彰人も良く知ったグループの彼女で。
「そうだな。…後は…ああ、そうだ。これも…」
彼の指がスイスイとiPodを辿る。
ベースが強めの、バンドサウンドが耳を擽った。
確かに良いな、と思っていれば楽しそうに肩を揺らす彼が目の端に映る。
「?んだよ」
「いや?」
「はぁ?気になるだろーが」
イヤホンを外してがしりと肩を組めば、わ、と声を漏らした冬弥は笑みを作った。
「…当時分からなかった、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの歌曲(アリア)も、今なら分かる気がしただけだ」
何やら機嫌が良いらしい彼に、何だか心を揺さぶられ、触れるだけのキスを落とす。


長く共にいればいるほど、この曲名のない強い想いは輝きを増していくのだろう。

彰人たちの想いは名を越えてセカイを作った。

なら、この気持ちに、名前が付くなら、…セカイを作るのなら……きっと。

誕生日

「最近、音ゲー増えましたよねぇ」
俺のそんな言葉に、カイコクさんが胡乱げな目を向けた。
「…。…なんでェ、急に」
「いや、前々から思ってたんですよ。最近音ゲー増えたなって!」
ずい、と顔を近付けて力説すればカイコクさんはほんの少しだけ迷惑そうな顔をする。
露骨に嫌な顔をしないだけ優しいですよね、カイコクさんは!
「つぅか、前からあったろ」
「最近頓に増えた気がしません?」
「増えたっつぅか、ジャンルの母体がでかいやつが出てきただけだな」
俺のそれにカイコクさんはふむ、と真剣に考えてくれた。
意外とそういうトコ真面目なんですよねぇ。
「…それは…否定しませんね……」
「しねェのかい」
くすくすとカイコクさんが笑う。
ふわふわと綺麗な黒髪が揺れた。
こうやって笑うと少し幼く見えるのが不思議だ。
「カイコクさんもアイドルやってましたもんね、中の人が」
「そりゃあお前さんもだろ」
「ナカノヒトゲノムだけにですか?!」
「上手くねェし、メタ発言は嫌われんぜ」
わくわくする俺の言葉ににやりと笑う。
あ、いつものカイコクさんに戻りましたね。
でも俺はいつものカイコクさんも好きです!
「それは、カイコクさんに、ですか?」
首を傾げればカイコクさんも少しだけ首を傾けた。
「…。…さぁなァ?」
ちょっと考えてからカイコクさんは笑ってみせる。
自分の気持ちを隠してしまうのはカイコクさんの悪いところですよね、本当に!
「じゃあ好きですか?」
「まあ、好きか嫌いかで言やぁ前者だろうが…」
「えー。言葉で言ってくれないんですか?」
頬を膨らませる俺にもカイコクさんは素知らぬ顔だ。
まあそんな簡単だとは思わなかったですけどね!
「俺にも愛してるって言ってくださいよぉ」
「なんでそうなる…っていうか勝手にグレードが上がって……」
「歌ではあんなに言ってくれるじゃないですか!」
「そりゃあ歌詞の話だ。しかも歌ってるのは俺じゃねェし」
ぷい、とカイコクさんがそっぽを向いた。
…ありゃ、ご機嫌損ねちゃいましたかね?
いや、あれは…。
「…。…ま、バースデーソングなら、歌ってやっても、いいぜ?」
何か企んでると思ったら、そんなことを言う。
楽しそうなんですから、もう!
って、あれ?
「バースデーソング…?」
「?お前さん、誕生日だろう?」
首を傾げる俺に、カイコクさんはきょとんとする。
…あ。
「…。…本当に忘れてたな?」
「えへへ…」 
呆れたようなカイコクさんに、俺は笑ってみせた。
いやぁ、忘れがちですよねぇ、自分の誕生日!
「じゃあ、カイコクさんが忘れられない誕生日にしてください!」
「…ったく。調子良いなァ、入出は」
楽しそうに笑ったカイコクさんが可愛い。
俺は、カイコクさんのこういうところが…。


「…好き、なんですよねぇ」
「…はぁ?」
カイコクさんが嫌そうな顔をする。
あんなに優しかった人はどこに行ってしまったんだか。
「俺、カイコクさんのこと好きですよ」
「…。…俺ァ嫌いだがな」
ふい、と目線を逸らそうとするカイコクさんを、俺は許さない。
「好きか嫌いかで言えば好きだって言ってくれたのに?」
「…そりゃあ【入出】の話だろ、ぅ…」
「俺だって入出ですよ」
「…はっ、何馬鹿な事言ってやがる」
カイコクさんが挑発するように笑った。
それしか出来ないカイコクさんの、精一杯の強がり。
…こんな所に縛り付けられるくらいなら俺を殺したって良いはずなのにこうして誕生日を一緒に迎えてくれる辺り、きっとカイコクさんは優しいんでしょうね。
優しくて…そして残酷だ。
「…なら、目の前の【これ】を【入出アカツキ】じゃないって証明してみせなよ」
「…っ」 
カイコクさんが綺麗な目を見開いた。
それからすい、と僅かに目をそらす。
きっと何か考えてるに違いない、から。
思考が纏まらない内に口唇を奪った。
「?!!ん、ぐ…んんぅ、んー!!」
苦しいと言わんばかりにバンバンと背を叩いてくる。
それでも離さなかった。
力が弱まってくるのを待って、待って、待ち続ける。
なぁ、カイコクさん。

愛したって言うのですか、なんて。


(愚問にも程があるよ)



カイコクさんの漆黒の瞳から流れる涙を、アイなんて形容してみたりして。


…先人は悲鳴を歌だと評したけれど、それは間違いではないんだな、と思う。

美しい彼から漏れる息、短く噛み殺した悲鳴、その全てが…。

世界から望まれない俺へのバースデーソング。


(ねぇ、今日は何の日?)

(いい加減そろそろ覚えたろう?今日は……)

司冬ワンライ・おやつ/たくさん

「…ふむ」
司は机の上の惨状を見て少し考える。
流石に持ってきすぎたか。
小さく呟いて宙を仰ぐ。
これからとあるショー劇団と合同練習なのだ。
それ故途中の休憩用に、と買い込んだが…買い込みすぎたらしい。
パーティーでもするのかと笑われてしまい、我に返ったのである。
まあ、菓子は腐らないし、最悪セカイに持って行っても、と宙を仰ぎ過ぎて若干逆さになった視界の先に愛しの人を見つけた。
すぐさま姿勢を戻して教室を出、大きな声を出す。
「おーい、冬弥!」
「…!司先輩!」
パッと頬を緩めた冬弥が駆け寄ってきた。
今からまたイベントだろうか、大きな袋を持っている。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだなぁ!今からまたイベントか?」
「はい。司先輩は…えっと……?」
冬弥が僅かに首を傾げた。
視線の先には大量のお菓子が乗っている。
「随分たくさんですね…?」
「ああ。今日の練習後に、と思ったのだが、買い過ぎてしまった」
「…司先輩らしいです」
柔らかく微笑む冬弥に、司も目を細め、そうだ!と声を上げた。
「冬弥、この菓子好きだったろう?良ければ持っていかないか」
「…!良いんですか?」
「ああ。冬弥が喜んでくれるのなら、オレも嬉しい」 
目を見開いた冬弥が司の言葉にややあってから微笑む。
「…ありがとうございます。…では、俺からも…」
がさり、と冬弥が袋の中をまさぐった。
どうやらたくさんある中から出てきたのは司が好きな菓子で。
「…先輩もたくさん持っておられるのでもしいらなければ…」
「いや、これはオレ個人のおやつにしよう。大切に頂く。ありがとうな、冬弥」
「…はい!」
ふわ、と彼が微笑む。
「しかし、冬弥も菓子をたくさん買っていたのだな」
「イベントの後は体力を消耗するので…。あまり食べすぎてもいけないのですが、その…皆のことを考えると、つい」
「…なるほど」
冬弥も同じことを考えていたらしいと知り、司は笑んだ。
「それと、そのお菓子は司先輩がよく食べておられたので、思い出して買ってみたんです。まさか先輩の手に渡るとは思いませんでしたが」
冬弥が嬉しそうに言う。
そんな彼の頭を、司は思い切り撫でた。
ありがとうな、と告げる彼の顔は、とても幸せそうなそれをしていて。
この後も頑張れるな、と司は満面の笑みを、浮かべた。


優しい彼から手渡される、有り触れた菓子。
(司にとっては、愛がこもった特別な)

ミクの日

本日3月9日。

そう、ミクの日であります。


「…レンくん。ちょっとご相談がありまして…」
「…あ、見て、ミク姉ぇ、誰もいないセカイの兄さんがガチャで来た」
「それ、マスターの前で言わない方が良いよ、仮天井だって発狂してたから…。…って、そうじゃなくて!!」
無邪気なレンくんにノリツッコミをしてしまう。
いや、電子の歌姫に何やらせんの。
「…だってどうせあれだろ、巻き込ミクルカだろ」
「話が早いじゃん」
あまり聞く気がないレンくんに指パッチンをしてみせる。
途端にご迷惑そうな顔をした…ごめんってば。
「ちょっとで良いから聞いてよー!お兄ちゃんの激カワショットあげるからさぁ!」
「…聞きましょう?」
スッとスマホを出せばレンくんは居住まいを正した。
話が早くて助かっちゃうな!!
「明日、ミクの日じゃない?」
「ん、ああ、そうだな」
「ルカちゃん今年15周年じゃない?」
「企業もマスターも盛り上がってるな」
「マジミラの情報もう出たじゃない?」
「今年のテーマ旅行だっけか」
「…ルカちゃんと新婚旅行するの、今年が最適解だと思うんだけど」
真剣な顔の私にレンくんがふっと優しい顔をして…。
「…兄さぁああん!!!ミク姉ぇが疲れてるー!」
「お兄ちゃんに告げ口するのは違うじゃん!!!!!」
台所に向かって叫ぶ弟機を必死で止める。
洒落にならないってば!
本気で心配されちゃうでしょーが!
「…で?プロポーズも成功してない姉機がなんだって?」
「成功してますぅー!毎回大成功ですぅー!!」
「プロポーズ何回もしてんじゃねぇわ!!」
「レンくんだってお兄ちゃんに何回もプロポーズしてるくせに!」
「おれのはプロポーズじゃなくて愛の告白ですぅー!」
「似たようなもんじゃん!」
「全然違うだろ?!!」
「…二人とも」
ギャーギャー言い争いしてると後ろから呆れたような困ったような声が聞こえてくる。
「…お兄ちゃん」
「兄さん!!」
「…仲良いのは良いけど、程々にね?…MEIKOが限界迎えそうになってたよ」
くすくす笑うお兄ちゃんに、二人でゲッと顔をしかめた。
確かお姉ちゃん、収録が続いてたっけ…。
「…一回停戦しよう」
「賛成」
二人して停戦協定を結ぶ。
キレたお姉ちゃんほど敵にしたくはないもんね!
「で?新婚旅行だっけ?」
「そう!!新婚旅行!」
「…ミク、結婚してないのに新婚旅行行くの?」
「……察してやってくれよ…」
お兄ちゃんが首を傾げて、レンくんがぽん、と肩を叩く。
「お兄ちゃん、世界には踏み込んじゃいけない領域があるんだよ?」
「うん??」
私のそれに、お兄ちゃんはハテナを浮かべながらも頷いた。
あんまり深く突っ込んでくれないから助かるなー!
「新婚旅行行くなら、相手の意向はちゃんと聞いた?」
「え?」
「…俺は良いと思うんだけど、相手にも確認を取らなきゃ。…ね、ルカ」
にこ、とお兄ちゃんが後ろを振り向いた。
……え??
「…ええ、そうですわね」
「ルカちゃん?!!!!」
微笑みを称えたルカちゃんが入ってくる。
え、いや、ルカちゃんはリンちゃんと収録のはずでは…?!
「今日は収録が早く終わりまして…。…それで、新婚旅行ですか?」
私のそれに答えたルカちゃんがこてりと首を傾げる。
綺麗な髪がふわりと揺れた。
嗚呼、私の歌姫が今日も超絶可愛い!!
「えぇえと、あの…!」
「私、ミク姉様と結婚式を済ませていない気がするのですが……?」
「そ、そうですね?!」
「では、新婚旅行の前に結婚式旅行ですわね」
にっこりとルカちゃんが微笑む。
設定年齢と同じ数だけミクの日を歩んで来た初音さんでも、ルカちゃんには敵わない!!


(多分、未来永劫ずっと!)


「…ルカ姉ぇ、段々兄さんに煮てきたな…」
「…ふふ、褒め言葉として受け取っておくね?」