12時を少し過ぎた…深夜帯。
コンコン、と扉がノックされる。
別段躊躇もなくそれを開けると彼が、よ、と片手を上げて立っていた。
「…いらっしゃい」 
「ん」
小さく肩を揺らした彼…カイコクは、何かを手渡してくる。
「…誕生日、おめっとさん」
「…ありがとう」
小さな袋に入ったそれを受け取ると彼も満足気に頷いた。
「んじゃ、それ渡しに来ただけだから…悪ぃな、こんな夜遅く…にっ?!」
ひらりと手を振るカイコクの腕をぐん、と引く。
バランスを崩した彼がこちらに倒れ込んできたからしっかりと抱きとめた。
何すんでェ!と小さい声ながらもこちらを睨みながら文句を言うカイコクに、マキノは首を傾げる。
「…今日、誕生日…」
「?おう、そうだな」
カイコクも小さく頭を傾けつつ頷いた。
乾かしたばかりなのだろうか、しっとりした髪が揺れる。
普段とは違って少し幼く見える彼を抱きしめた。
「うわ、ったくなんだって…。…あ」
ブツブツ言っていたカイコクが声を上げる。
「もしかしてお前さん、寂しいのかい?」
分かった!と言わんばかりのそれに、マキノは少し違う気もしたがとりあえずこくりと頷いておいた。
まあ存外間違いでもないのだし。
「ったく、しゃあねェなぁ」
にこにこと彼が笑み、何やら訳知り顔で頷く。
今日は一緒にいてやるよ、と、とびきり可愛い顔で言う彼に。
マキノはもう一度首を縦に振った。


だって今日は誕生日だから。



少しくらいのわがままは許されるでしょう?ねぇ、神様!



(彼がそれに気付きませんように、と願いながら部屋に招き入れる


悪い【大人】になってしまったみたいだな、なんて)


「しっかしまぁお前さんがそんなこと言うようになるなんてねェ」
「…カイコッくんの、お陰…」
「…は?え?なんて??」

アメイズランクレット

バレンタイン

街が柔らかい色で彩られる季節


ボクは、この時が一番……。



「あれ、杏じゃーん!」
ショッピングセンターのとあるコーナーに、見知った人物を見かけた瑞希はおぅい!と手を振った。
「っ、瑞希!」
一瞬ビクッとしたその人はホッとしたように笑みを浮かべ、同じように手を振る。
その様子におよ、と目を瞬かせたが、何か訳があるのか、と、瑞希は杏に走り寄った。
「やっほ!どうかしたの?杏」
「いやぁ、どうって訳じゃないんだけどねぇ…」
あはは、と笑う杏。
何か、変だ。
だが瑞希はあまり気にせず、ふぅん、と流し、そういえばさぁ!と話を変えた。
触れられたくないこともあるだろう、きっと。
「ボク、絵名に買い物誘ったのに振られたんだよ?!ひどくない?!」
「絵名さんに?」
「そうなんだよー!愛莉ちゃんとの買い物があったみたいなんだけど、誘ってくれても良いのにー!」
「あはは!まあ、絵名さんも二人が良かったんじゃない?親友なんでしょ?」
「そうなんだけどさぁ。…そういえば、他にも穂波ちゃんたちもいる…って…」
愚痴を言おうとした瑞希に、誰かが「暁山?」と声をかけてきた。
「え、瑞希さん?」
「……え、あ、冬弥くんと遥ちゃんだ!もしかして杏と買い物中?」
きょとんとした顔をして姿を見せたのは冬弥と遥で。
杏と遥は親友同士だし、杏と冬弥は同じチームだし、確か遥と冬弥はフォトコンテストで仲良くなったと言っていたのを思い出す。
だから、人選に不思議はなかった。
杏が一人で買い物に来ていて二人が合流した、と考えなかったのは、買い物かごが冬弥が持つそれだけだからだ。
「…あー…まあ……そんなとこ?」
「…白石、暁山に話していないのか?」
言葉を濁す杏に、冬弥が首を傾げる。
「別に隠すことないのに」
「そうなんだけどー!」
くすくす笑う遥に唇を尖らせる杏。
仲良しなんだなぁと瑞希も笑った。
「言葉にしたら恥ずかしいじゃん!」
「いいでしょ、別に…ねぇ、青柳くん」
「そうですね、桐谷さん」
「あー!二人してー!」
「えー、なになに?!気になっちゃうなぁ、ボク!」
楽しそうな3人に瑞希も乗っかる。
別に気を遣わなければならない話題でもなさそうだ。
「もー。…大したことじゃないんだよ?ほら、草薙さんとせっかく仲良くなったから、バレンタインチョコあげたいなって…」
少し照れたような杏に微笑ましげな笑みを浮かべる遥と冬弥…きっと彼らも、また。
「ほら!私は言ったよ!!次遥と冬弥!」
「えー」
「…俺は彰人や司先輩、神代先輩にあげるチョコを作ろうと思ってな」
「あはは、冬弥くんは毎年律儀だねぇ。…で、遥ちゃんは?」
しっかり律儀に答えてくれた冬弥に頷き、遥の方を見る。
もう、と苦笑した遥は「私は日野森さんに渡すつもりなんだ」と答えてくれた。
「お、いいねいいね!いやぁ、青春だなぁ」
「…暁山は、誰かに渡したりしないのか?」
「ボク?ボクはサークルのみんなと、か…」
そこまで言って瑞希ははたと気付く。
もしかして、絵名が買い物を断ったのは。
「…ちょっ…とボク用事思い出しちゃった!またねー!」
「え、あ、ちょ、瑞希ー?!」
杏の驚いたような声を背に瑞希は走ってその場を離れる。
願わくば、3人が想い人と幸せなバレンタインを過ごせますように。
そんなことを、思いながら。



(ボクはボクで準備があるもんね!)


「くしゅんっ!」
「あら、絵名ってば大丈夫?」
「風邪ですか?絵名さん」
「あ、カイロ必要ならありますけど…」
「ん、大丈夫。ありがと、愛莉。一歌ちゃんも穂波ちゃんもありがとね」


(かごの中身が揺れる


街はハッピーバレンタイン!!)

忘れてた、とカイコクが言うから何事かと思った。
「…何を忘れていたんだ?」
「お前さんの誕生日」
頬杖をつくカイコクに、ああ、と頷きかけて少し止まる。
「…俺の誕生日?」
「そう、お前さんの誕生日。…お前さん、誕生日だったろ、昨日」
「…そういえばそうだったな」
カイコクのそれにザクロは少し考えてから肯定した。
この、時間感覚のない空間では誕生日なぞ重要度も低く忘れがちだ。
ましてカイコクにとっては他人の誕生日である。
忘れてしまっても仕方がないと言えよう。
寧ろ、こうやって思い出してくれただけで嬉しいものだ。
彼は、あまり人に興味がなさそうだったから。
誕生日を覚えてくれていただけで嬉しいと思ってしまうのだ。
そう伝えれば綺麗な目を丸くしたカイコクが小さく息を吐く。
「…だが、お前さんは俺の誕生日を祝ってくれるだろ。そんなの、公平じゃねェ」
「公平性の問題か…?」
彼のそれにザクロは首を傾げつつ笑ってしまった。
存外彼は律儀なのだ。
「なら、貴様の誕生日に、俺の誕生日も祝ってくれたら良い」
「…俺の?」
「ああ。どうせ貴様のことだ、1日過ぎてしまったと悔いているのだろう?ならば、今回は纏めて祝えば良い」
「…けど」
「楽しいことは二人分、悲しいことは半分、だ。…鬼ヶ崎」
何かを言い淀むカイコクに、ザクロは言う。
目を見開いたカイコクは、わぁったよ、と笑った。
「…来年は盛大に祝ってやるからな、忍霧」
「ああ、楽しみにしている」

そんなやり取りをしたのが……去年の話。





「忍霧」
何やらわくわくしているカイコクに、ザクロは、ああ、と返す。
まるで子どもみたいだ、と思いながら前から用意していたプレゼントを取り出した。
「誕生日おめでとう、鬼ヶ崎」
「…ありがとな、忍霧」
ふわ、と微笑むカイコクも、何かを取り出し、手渡してくる。
「誕生日…おめっとさん。…忍霧」
「ありがとう、鬼ヶ崎」
それを受け取って袋を開けた。
中から出てきたのは小さな黒曜石のブローチで。
「…これは」
「小さい方が着けやすいだろ、お前さんでも」
「…そうだな」
ザクロは笑ってから、マスクを取ってその紐のところにつけてみる。
似合うか、と聞けばカイコクは笑ってから流石だねェと言ってくれた。
まあ、それだけでも良いだろう。
「んじゃあ、俺も…。…え?」
カイコクがザクロが贈ったプレゼントを開いて…固まった。
手の中にはアメジストの小さなブローチが乗っている。
「…長年共にいると考えも似てしまうようだな?」
「…ったく……似なくても良いんだかねェ……」
くすくす笑いながら、カイコクがん、とそれをザクロに手渡してきた。
「え」 
「ここ、着けてくんなァ」
トン、とカイコクがお面の下、飾り紐の辺りを叩きながら屈む。
慌てて頷いてザクロはそこにブローチの針を通した。
サラリと揺れる髪に、光るザクロの目の色の宝石。
似合うかい、と笑う彼を思わず引き寄せた。




互いの色を贈りましょう。



貴方の誕生日に、私の誕生日も添えて。




「…次の誕生日プレゼントは貴様が良い」
「…。…お前さんも年々強欲になるねェ」

「ルカちゃん、ルカちゃん、ルカちゃぁあん!!!」
収録から帰ってきた私はそのままリビングに飛び込んだ。
「…あら、ミク姉様、お帰りなさ…きゃっ?!」
「お誕生日おめでとー!!!!」
ソファにいたルカちゃんに抱きついてお祝いすれば、目を丸くしたルカちゃんが、まあ、と笑った。
「ふふ、ありがとうございます、ミク姉様」
「今年はちゃんと覚えてたんだねぇ、ミク」
「あったり前よ!」
髪の毛を拭きながらそう言うお兄ちゃんに私は胸を張る。
去年までの初音さんとは違うんだから!
「ちゃあんとプレゼントもあるんだからね!はい、どうぞ!」
取り出したそれを手渡すとルカちゃんは、ありがとうございます、と微笑む。
それから袋からそれを取り出して…キョトンとした顔をした。
「えっと…【初音ミクを1日自由に出来る券】…?」
「………絶対今考えたやつじゃん」
「レンくんシャラップ」
読み上げるルカちゃんに、呆れた顔でレンくんが言う。
思わず黙らせてしまったけど、待って、レンくんどっから出たの。
「ふふ、私は嬉しいですわ。ありがとうございます、ミク姉様」
「えへへ、どういたしまして!」
嬉しそうに微笑むルカちゃんに私も笑って返す。
ルカちゃんが幸せだと私も幸せだよー!
「…巻き込ミクルカされる前に退散しよ、兄さん」
「もうだいぶ巻き込まれてる気はしないでもないけど…」
くすくす笑うお兄ちゃんの背を押すレンくん。
自分たちだって巻き込むじゃんねー。
それを微笑ましげに見ていたルカちゃんがふと聞いてきた。
「…これ、早速使っても宜しいでしょうか?」
「良いけど…何に使うの?」
首を傾げる私にルカちゃんは、ふふ、と笑う。
「ミク姉様とデートしたくて」
「そ、そんなんで良いの?!」
控えめなお願いに素っ頓狂な声を上げた。
もっと無茶言っても良いのに!
「勿論。ミク姉様と行きたい場所がたくさんありますの」
「そんな、券使わなくても行くよ?!」
「いえ。…ミク姉様がくれた券を使って私の誕生日デートをする…きっと忘れられない日になりますわ」
「…ルカちゃん…!!」
ふわふわと笑う愛しい妹兼恋人に、私は抱き着いた。
「もうっ、ルカちゃん大好き!」
「私もですわ、ミク姉様」
嬉しそうに言うルカちゃんから離れて、私は跪く。
それから綺麗な手を取って口付けた。
「何処へでもエスコートするよ、お姫様?」


桃色の髪を揺らす、私の大切なお姫様。

そんな可愛い人の誕生日。



「ふふ、ありがとうございます。…では、ミク姉様が出ている映画を見てみたくて…!」
「私がいるのに他のミク観るの?!!」
「まあ、ミク姉様ったら。私のミク姉様はただ一人だけですわ」
「…ルカちゃん……!!」

こうやって、プランを立ててる時から、とっても幸せなのです!






「…あ、そいやぁさ、MEIKO姉ぇが、明日は早いから五月蝿くしてたらミク姉ぇでも関係なく処すってー」
「……レンくん。それ、もっと早く言ってくれない?!!!」

何かあると思っていた。


何かあると…思っていたけれど。




「…日野森さん!」
待ち合わせ場所に着くと、彼女がホッとしたように声を上げる。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「ううん、こっちこそ、遅くなってごめん。…それで…」
申し訳なさそうな彼女に首を振りつつ、それを傾けた。
「今日はどうしたの?…草薙さん」
草色のふわふわした髪を揺らす彼女…寧々に聞く。
彼女はえっと、と話を切り出した。
「日野森さんが誕生日だって、聞いたから」
「…え、あぁ……」
唐突なそれに目をぱちくりと瞬かせ…志歩は笑う。
確かに今日は志歩の誕生日だ。
「別に良かったのに…」
「日野森さんにはお世話になってるし…お誕生日おめでとう。…これ、あたしから」
「ありがとう、草薙さん」
寧々から渡された紙袋を受け取り、志歩は礼を言う。
「後、これは白石さんから」
「えっ、白石さん?」
思いがけない名前に志歩は驚いた。
確かに寧々と杏は同じ学校だが…。
「そう、白石さん」
「そっか、じゃあありがとうって伝えて」
「分かった。それから…」
「まだあるの?」
頷いた寧々が小さく笑って、これが最後、と何かを手渡してくる。
「これが、桐谷さんから」




寧々から渡されたのは青いリボンの端だった。
「絶対引っ張らないで、そのリボンを手繰りながら進んでくれる?」とは寧々の指示だ。
また何を企んでいるのやら。
仕方がないのでその通りに歩いていく。
…と。
「あっ、ハッピーバースデー、日野森さん!!」
嬉しそうな杏の声。
え、と固まってしまった。
だってそこには。
「…日野森さん、お誕生日おめでとう」
普段とは違う髪型、見たことのないメイク、お姫様みたいな遥がそこに…いた。
「桐谷…さん?」
「うん、どうかな?似合う?」
開いた口が塞がらない志歩に遥が楽しそうに笑う。
「…うん、すごく…似合ってるよ」
「本当?ありがとう」
やっとの事でそう言えば、遥は嬉しそうに微笑んだ。
「やったね、草薙さん!大成功!」
いえーい!と杏と、いつの間にか戻っていたらしい寧々がハイタッチするのが見える。
「もー、杏は何もしてないでしょ」
「そんな事ないし!ちゃんとプロ呼びましたー!」
「ぷ、プロ…?」
もう何から驚けば良いか分からない志歩の前に、誰かが出てきた。
「ボクが…呼ばれました……」
「?!瑞希さん?!」
「もー…。…久しぶり、志歩ちゃん」
「え、絵名さんまで!」
ポーズを決める瑞希に呆れ顔の絵名、と馴染みの顔に志歩は驚きの声を上げる。
「ちょっと、大掛かりが過ぎない?」
「そう?…お誕生日だから、良いかなって」
「いや、そういう問題じゃ…」
にこにこと楽しそうな遥が、「瑞希さんがコーディネート全般してくれて、絵名さんがメイクをしてくれたんだよ」と教えてくれた。
それを聞いてしまえば非難するわけにもいかなくて。
代わりにはぁ、と息を吐く。
「まあ…貰ったものは有難くいただくけど」
「ふふ、どうぞ?」
それに対して、にこ、と微笑む遥をお姫様抱っこした。
おお、と何故だか周りから声が上がる。
「あ、あたしも…白石さんをお姫様抱っこ出来るよ?!」
「えっ、うそ?!!草薙さん?!」
「凄いなぁ、二人とも!ボクは絵名をお姫様抱っこするのは、ちょっと…」
「…待ちなさいよ、どーいう意味?!!」
「……はあ」
わいわいと盛り上がる彼女たちに志歩は再び息を吐く。
「?日野森さん…?きゃっ」
「今の内にプレゼント持って逃げちゃおうかなって」
小さな悲鳴を上げる遥に志歩は笑いかけた。
誕生日だからって振り回されるのは性に合わないから。
だから、志歩は遥を抱いたまま駆け出した。



このまま、可愛い遥と二人きり……どこまでも!!

ミクルカの日

「ふぅっ」
お風呂から上がったあたしは長い髪を拭きながらソファに身を沈めた。
お姉ちゃんみたいに短いのも楽だと思うけど、それでも長い方が良いんだよねぇ。
だってこの方があたしらしいし!
「お疲れ様です、ミク姉様」
「…あ、ルカちゃん!」
柔らかい声に振り向くと、カップを持って微笑んでいるルカちゃんがいた。
「どうぞ」
ことん、と音を立てて置かれたのは湯気を立てている…。
「ホットショコラですわ」
「えー!有り難う、ルカちゃん。嬉しい!」
小さく微笑むルカちゃんにあたしはそう言ってカップを持ち上げた。
甘い香りがふわりと鼻腔を擽る。
口に含むと甘い味がじんわり広がった。
「…はぁ、美味しい」
「有り難う御座います」
「よく作り方知ってたねー?」
隣にちょこんと座ったルカちゃんに聞くと、「カイト兄様に教えて頂きましたの」と微笑む。
…うん、まあいいけど…。
お兄ちゃんの将来が不安だよ…。
「?どうか…?」
「ううん、何でもない」
首を傾げるルカちゃんにひらりと手を振った。
「ルカちゃんも疲れたでしょ?…確か今日はお姉ちゃんとリンちゃんとレコーディングだったよね?」
「ふふ、レコーディングは楽しいですし…大丈夫ですわ」
そう言う私ににこり、とルカが笑う。
パワータイプのお姉ちゃんとリンちゃんに挟まれて大変かと思ったんだけど…大丈夫みたいだ。
「そう?ならいいんだけど…」
ホットショコラを飲みながらちらりとルカちゃんを見ると「はい」と言って微笑む。
う~ん、いつもこの癒し系笑顔にまあいいかって思っちゃうんだけど…結構無理しちゃうから気をつけてあげなきゃね!
それにしても…。
「はーあ、ルカちゃんが来るならもうちょい起きてたいなぁ」
「まあ。夜更かしは身体に悪いですわ」
あたしの発言にルカちゃんが窘めるように言う。
「大丈夫だよー最近はよく寝てるし!」
「それでも…。明日もレコーディングなのでしょう?」
「んぐ、まあ…。…分かったからそんな目で見ないでよ」
非難するような目に、あたしもそう言って笑いかける。
人の事はこうやって気遣って意見言ってくれるから…まあいいか。
「ま、今日はルカちゃん特製のホットショコラを飲むまでで我慢しよっかな!」
「…はい」
「…?どうかしたの?ルカちゃん」
明るく言ったのに、さっきまでいつも通りだったはずのルカちゃんが俯いてもじもじし始めた。
「…あ、あの」
「何?気になるなぁ」
少し頬の紅いルカちゃんに軽く言うと、勢い良く顔を上げたルカちゃんが「失礼します!」と小さな声で言って…。
その後すぐ、頬に唇が触れた。
「…今日は、ミクルカの日、でしょう?」
ぽかんとするあたしにルカちゃんがはにかんだ笑顔で言う。
そ、そういえば…今日は1月3日、あたしの製造番号とルカちゃんの製造番号が並ぶ日、だっけ。
「お、覚えててくれたんだ?!」
「ふふ、毎回ミク姉様が祝って下さっていますもの。覚えていますわ」


微笑むルカちゃんはとても綺麗で可愛くて。
とても甘い甘い、ホットショコラの様な、存在。
…もー、もー…!!


「きゃあっ?!」
「もー、ルカちゃんってば可愛いんだからー!」
「み、ミク姉様?!」
ソファに押し倒してニヤリと笑いかけると焦った声で言ってきた。
この状態で止めれる訳もないっていうのにー。
「だって今日はミクルカの日じゃない?ならプレゼントがあっても良いよね!」
笑いながらルカちゃんの長いピンクの髪を持ち上げる。
柔らかくて優しい香りのするそれに口付けて、それに、と続けた。
「こんな可愛いルカちゃんからのキスだけであたしが満足出来ると思う?」
ウィンクしながら言うと、きょとんとしたルカちゃんが小さく笑う。
「…もう。ミク姉様は欲張りですわ」
照れて、少し拗ねたように言うルカちゃんに…まあその通りだから否定もせずに…あたしはそっと口を重ねた。



通して伝わるそれは、とても甘くて。



まるであたしたちの関係の様。





今日レコーディングした、甘い香りに釣られた狼の唄をリフレインしながら。






…そういえば今日は帰りに見上げた月が綺麗だったな、と思った。






「…何でも良いけど、部屋でやってくんねぇ?ミク姉ぇ、ルカ姉ぇ」
「れ、れれ、レン兄様?!!」
「レンくんにだけは言われたくないもーん」

しほはる、寧々杏

とある冬の日。
少しそわそわする日の…少し前。

「あっ、志歩ちゃーん!おはようわんだほーい!」
同じクラスのえむが楽しそうに駆け寄ってくる。
それに「おはよう」と返す間もなく、彼女はあのねあのね!と話し出した。
「放課後時間ある?寧々ちゃんが相談したいことがあるみたいなんだぁ」
「草薙さんが?…今日は練習だけだし、少しだけなら大丈夫だけど」
「本当?!良かったぁ!じゃあ寧々ちゃんに伝えるねっ!」
「はいはい、放課後ね」
ホッとしたようなえむにひらりと手を振る。
えむのショーキャスト仲間である寧々が相談だなんて珍しいな、と思った。
自分が解決出来ることなら良いけど、と、志歩は教科書の準備を始める。

さて、1日は過ぎ、放課後。


中庭にいても良かったのに、寧々は校門前で待っていた。
「草薙さん!待たせてごめん」
「日野森さん!ううん、こっちこそ、急にごめんね」
「それは良いんだけど…で?話って?」
「うん、えっとね…」
首を傾げる志歩に、寧々が逡巡した後、思い切ったように顔をあげる。
そして。
「…ひっ、日野森さんは桐谷さんとどんなデートするの?!」
「…へ?」
思ったのとは違うそれに志歩はぽかんとする。
突然、何を。
「あ、えっと、実は白石さんとクリスマスに会うことになって…」
「…あー、なるほどね」
ぽかんとしていれば説明してくれようとしたのだがすぐに口ごもる彼女に志歩は頷く。
それだけで察してしまった。
好きな人と初めてのクリスマスデートを、きっと失敗したくないのだろう。
私も最初はそうだったな、と志歩は苦笑した。
「なら、一緒に行く?」
「…えっ、でも、そんな…」
「最初はダブルデートで、後から二人になればいいんじゃない?…賑やかな方が楽しいしね」
そう言いながら志歩は笑う。
悪い顔してる…と言う寧々に志歩は口角を上げた。



「やっほー!遥ー!」
「こ、こんばんは、桐谷さん!」
「えっ、杏?!草薙さんも…?!」
待ち合わせ場所に駆けてきた遥は目を丸くして立ち止まる。
それはそうだろう…遥には言っていないのだから。
「あ、桐谷さん。配信お疲れ様。今日のも良かったよ」
「ありがとう、日野森さん。みんなサンタ衣装喜んでくれて…じゃなくて!」
アイドルスマイルを見せていた遥が少しムッとした顔をする。
「草薙さんはともかく、なんで杏がいるの?」
「ちょっとー、言い方酷くない?!」
「ああああ、ごめんね、桐谷さん?!」
「…ごめんごめん…ふふ…」
年相応の表情を見せる遥、頬を膨らませる杏、焦る寧々に志歩は謝りながら笑ってしまった。
何だか賑やかなクリスマスになりそうだなぁ、と思う。
「ちょっとしたサプライズのつもりだったんだ、ごめんね、桐谷さん」
「…もう……」
志歩は遥の手を握りながら謝れば彼女は絆されてくれたようだ。
「…うわぁ、遥チョローい……」
「…杏、うるさい…」
「…ふふ…あ、白石さん、危ないよ」
「えっ、わっ、ありがとう、草薙さん…!」
寧々がぶつかりそうな杏の手を引っ張る。
嬉しそうな杏に、「杏、チョローい」と遥が茶化す。
「遥、うるさいー」
「まったく…。…じゃあそろそろ行こうか。混む前にね」
「そうだね、じゃあ行こう」
志歩は遥の手を繋ぎ、歩き出した。
遥も嬉しそうに微笑む。
「あっ、あのっ、白石さん。手…繋いで良い…?」
「あははっ、うん、良いよ!はいっ、草薙さん!」
後ろでは寧々と杏が初々しいやり取りを繰り広げていた。
「…私達も去年はそんな感じだったよね…」
「…そう?日野森さんは前から自信満々だったよ」
「えっ」
にこりと笑う遥に志歩は焦ったように彼女を見る。



少女たちの楽しげな笑い声がキラキラと輝くイルミネーションが美しい、寒い街に響いた。


楽しいクリスマスは、これから!

しほはる

「…ねぇ、桐谷さん」
「?なぁに、日野森さん」
最近は自分たちのバンド活動も遥のアイドルの仕事も忙しくて会えていなかった、ある日のこと。
珍しく予定が合ったから一緒に帰っていた放課後、志歩はふと疑問を思っていたことをぶつけてみることにした。
「…最近さ、桐谷さんの歌唱パート、王子様について言及すること多くない?」
「…えっ?」
唐突なそれに彼女はきょとんとする。
ほんの少しだけ首を傾げて、そうかな…?と小さくつぶやいた。
「うーん、言われてみれば最近多かったかも…?」
「でしょ?」
まだ少しあやふやな記憶を手繰り寄せているらしい遥に志歩は笑いかける。
目を大きく見開いた彼女は、もう…とふにゃりと表情を崩した。
「それにしても、私達の曲…たくさん聴いてくれてるんだね」
「まあね。お姉ちゃんが聴かせてくれるのもあるけど…個人的に桐谷さんの歌声好きだから」
「ふふ、ありがとう、日野森さん。私も日野森さんのベース好きだよ。この前の新曲も格好良かったな」
「聴いてくれたんだ?ありがとう」
遥に褒められると何だか照れくさくて、志歩は軽くお礼を言う。
「…考えてみると、Leo/needの曲はあんまり非現実な曲はないよね…」
「…何それ」
何か考えていると思ったら遥がそんな事を言い出すから思わず笑ってしまった。
そんな志歩に、遥は、ほら、と言う。
「王子様とかお姫様とか」
「ああ…まあね」
言わんとすることがわかり、志歩は頷いた。
確かに、歌詞に王子や姫が入っている曲は珍しいかもしれない。
「私達のやりたい音楽とは合わないし…王子や姫なんていうガラじゃないしね」
「そう?咲希とか喜びそうだけど」
「…咲希だけ喜んでもだめ」
「ふふ、残念」
くすくす笑う遥に志歩は、もう、と肩を竦めた。
所詮彼女だって言ってみただけなのだろう。
だから。
「…ま、大衆に姫と歌わなくても、一人だけに伝われば良いでしょ」
「…!」
そう囁く志歩に遥は綺麗な瞳を丸くする。
可愛いなぁ、と思いながら志歩はいたずらっぽく笑った。
「ね、桐谷さん」
「…日野森さん…」
ずるい、なんて言う遥の手を、どっちが、と言いながらそっと取る。

王子様、と歌う彼女の手を。



(王子が姫の手を取るなんて、有り触れたお伽噺!)

彰冬

「今日はありがとな」
色んなところで祝ってもらった、夜のこと。
何だか今日は妙に…浮かれていて、眠る前に冬弥に電話をかけてしまったのだ。
『当然だ。…彰人が喜んでくれたなら、俺は嬉しい』
電話の向こうの声も何だか少し高揚していて、この可愛い相棒は、自分を祝うために一生懸命になってくれたんだろうな、と思った。
…サプライズリベンジが成功した、というのもあるのだろう。
以前に失敗した、と落ち込んでいたのを、彰人は知っているからだ。
本当に冬弥は可愛らしい。
まあ、同世代の男子にそう思うのはいかがなものかと思うのだが。
『実は俺も楽しんでしまったんだ』
「いいんじゃねぇの。…冬弥が幸せならオレも嬉しいし」
『…彰人』
柔らかな声が耳をくすぐる。
嬉しそうなそれが、彰人は好きだった。
表情まではっきり思い浮かんでくるくらいには。
前は感情がわかりにくかったから、自分たちの関係性も、冬弥の表現の仕方も成長したのだろう。
しばらく他愛のない話をし、そろそろ切るかとスマホを持ち替えた、その時。
『彰人、今日は英語には触れたか?』
「あー…歌は歌ったが…教科書を開いたりしたかって言われると、まだだな」
冬弥のそれにそう答えれば、スピーカーの向こうから苦笑する声がする。
『今日は誕生日だからな。だが、英語には毎日触れた方が良いから…ここは俺が一つ問題を出そう』
「はぁ?問題?」
突拍子もないそれに聞き返すが、冬弥はそれに答える気はないようで、いくぞ、と言った。
『Happy birthday Akito. Thanks for being my buddy.』
「…っ、お前、なぁ……」
以前なら悩んでいたそれは、聴いた途端にすぐわかって。
彰人の反応に勉強の成果が出ているようだな、なんて冬弥の笑う声が耳元で聞こえる。
存外悪戯っぽい恋人に、さて何と返そうかと彰人は単語帳を引っ張りだした。

彼に、伝えてやらねばならない。



自分は……出会ったあの時からずっと幸せだということを!

ザクカイ

「ぜぇっっってぇ嫌でェ!!!」
「何故だ、鬼ヶ崎!!!!」
さて、何分こうしているだろうか。
上半身裸の男が二人、薄明かりの下の布団の上で。
何をしているかと問われればそれは勿論ナニである。
顔が見たいから正常位が良いザクロと、顔を見られたくないから後背位が良いカイコクで揉めているのだ。
大概はどちらかが折れるのだが…今夜は何故だか二人とも意見を曲げなかった。
謂わば意地の張り合いという感じだろうか。
ムードもクソも何もない。
「俺は鬼ヶ崎の顔が見たい。それがそんなにいけないことか?」
「【いけないこと】って何度も言ってんだがねェ、俺ァ」
「だから電気も消してやったろう」
「嫌なもんは嫌なんでェ。諦めてくんなァ」
「そんな子どもじみた言い訳で納得すると思うのか?俺が?」
「…お前さんも強情だねェ」
「はっ、どちらが」
ギリギリと暗闇で睨み合った。
このまま無理に抱いても良かったが…嫌われるのは本位ではない。
だが、言う通りに折れてしまうのは何故だか今日に限ってプライドが許さなかった。
「何故そんなに嫌がるんだ」
「…んなもん…っ!」
はぁ、と息を吐きながら疑問をぶつければ、勢い良く言葉を吐き出しかけたカイコクがふいとそっぽを向く。
カイコクだって、行為自体が嫌ならば布団から蹴り出すだろうから、きっと本当に顔を見られたくないだけなのだろう。
それは…分かっているのだけれど。
「俺は鬼ヶ崎の事を好いているんだが」
「そっ…れとこれとは話がだなぁ…」
じぃっと見つめても好きを吐いてもカイコクは折れてくれなかった。
「忍霧の事ァ嫌いじゃねぇぜ?じゃねぇとこんな事させねェからな」
「…なら……」
「…っ、だからって己の弱点をおいそれと晒す訳にはいかねェっつー…」
「…弱点……」
カイコクのそれを復唱したザクロは、なるほど、と頷く。
彼は、行為中の表情は弱点だと思っているらしかった。
ならば仕方ない。
…と、言うと思っているのだろうか、カイコクは。
「…お、忍霧??」
「……」
はぁあ、と息を吐き出すザクロに、カイコクがおろ、とした様子を見せた。
戸惑っているそれは少し年相応で可愛らしい。
そんな彼の顎をすくい上げてキスをした。
「…ぅん?!!ふ、ぅ…んァ…ゃ、おし、ぎり…っ!」
その間にもカイコクが息も絶え絶えになりながら文句を言ってくる。
そのままなし崩しに抱かれると思っているようだ。
だから、口を離し、とろんとした彼を反転させてやる。
背中からホッとした様子が伝わってきた。
ローションを手に取り、指で慣らしてからカイコクの後口に持っていく。
「…っふ、……っ」
枕に顔を埋め、快楽に耐えようとする彼に…ザクロは容赦がなかった。
「?!な、に…ふぁっ?!」
腕を引き、膝立ちにさせる。
瞬間、ぐちりと指をナカに埋め込んでやった。
「考えたのだが、何も正常位だけが鬼ヶ崎の顔を見る事ができる体位ではなかったな」
「は、ぅ…ぅう…ゃ、ぁ、や、め…ひっ?!」
背を抱くようにザクロは彼の陰茎に手を伸ばす。
睨む彼に口づけ、くちくちと鈴口を弄った。
勿論ナカに埋め込んだ指を動かすのも忘れない。
「お前が後背位が良いと言ったんだが?」
「こ、んなの…想像して、ねェ…っ!ふぁっ、や、ぁっ!!」
「…可愛らしいな、鬼ヶ崎」
「~~っ!!ば、かァ…っ、ぅあっ、ゃ、やぅ、んぅ、や…っ!」
短く喘ぐカイコクの肩がびくびくと震えた。
黒く美しい髪が揺れる。
振り仰ぐ彼は綺麗な瞳に涙を浮かべていて。
ザクロは思わず口角を上げる。
普段は余裕綽々の彼が、こんなにも切羽詰まっているだなんて。
可愛らしい、綺麗だと囁きながらザクロはカイコクの躰を快楽に染めていく。
カイコクのナカがぐずぐずに蕩ける頃には彼自身も、勿論ザクロも限界に近く。
「ふぁ…っ!ゃ、も…ぃ…っ!!」
敏感な部分を擦り上げた途端、大きく躰を揺らした彼は精を吐き出した。
とさ、と枕に顔を埋めようとする彼のナカから指を抜き、ザクロははち切れんばかりの自身を取り出す。
些か性急な気もするが仕方がない。
ザクロだって立派な青少年。
恋人の痴態を見せつけられ、我慢できるほど大人でもないのだ。
「…っ、まっ…待てやだ、忍霧っ!!イッたばっか……っ!!」
「…すまない、鬼ヶ崎」
焦ったようなカイコクに形ばかりの詫びを入れ、ザクロは一気に突き刺した。
反らされた背を抱きかかえるようにしてまた膝立ちにさせる。
ぴったりと密着し、勿論彼の可愛らしい表情も拝むことが出来た。
「やっ……ぁ、ぁあっ…っ!!ふぁっ、奥っ、当たって……深、ぃ…ぅあっ、いや、だ、やだぁ……っ!」
快楽に溶けた顔を隠す様にカイコクは嫌々と首を振る。
「……っ!ゃ、見ない、で…くんなァ…っ!」
「はっ、…こんなにも……可愛らしい…のにか…?」
「…ぅう~~っ!!忍霧のっ、ばかァ!!ふぁ、ぁああっ?!!!」
文句を言ってくるカイコクを責め立ててやる。
びくっびくっと揺れる躰にザクロも限界だった。
「…出す、ぞ…っ!!」
「~~っ!!!」
最奥に叩きつければ、その衝撃でイッたらしいカイコクは、普段は丸めるはずの背を反らし、快楽を逃していた。
熱い息を吐き出す彼に軽く口づけをし、ザクロはまた律動を開始する。
「なんっ、や、だァ……っ!!!ひぅっ、も、堪忍して、くんな…?!ぁう、んぁ、あっ、あっ!!」
泣きそうな声で喘ぐカイコクにザクロは「お前が悪い」と囁いた。






夜は、まだまだ、長い。

(「だから嫌だって言ったのに」と拗ねるカイコクと、また攻防戦が繰り広げられるのは…また別の話)

12時を少し過ぎた…深夜帯。
コンコン、と扉がノックされる。
別段躊躇もなくそれを開けると彼が、よ、と片手を上げて立っていた。
「…いらっしゃい」 
「ん」
小さく肩を揺らした彼…カイコクは、何かを手渡してくる。
「…誕生日、おめっとさん」
「…ありがとう」
小さな袋に入ったそれを受け取ると彼も満足気に頷いた。
「んじゃ、それ渡しに来ただけだから…悪ぃな、こんな夜遅く…にっ?!」
ひらりと手を振るカイコクの腕をぐん、と引く。
バランスを崩した彼がこちらに倒れ込んできたからしっかりと抱きとめた。
何すんでェ!と小さい声ながらもこちらを睨みながら文句を言うカイコクに、マキノは首を傾げる。
「…今日、誕生日…」
「?おう、そうだな」
カイコクも小さく頭を傾けつつ頷いた。
乾かしたばかりなのだろうか、しっとりした髪が揺れる。
普段とは違って少し幼く見える彼を抱きしめた。
「うわ、ったくなんだって…。…あ」
ブツブツ言っていたカイコクが声を上げる。
「もしかしてお前さん、寂しいのかい?」
分かった!と言わんばかりのそれに、マキノは少し違う気もしたがとりあえずこくりと頷いておいた。
まあ存外間違いでもないのだし。
「ったく、しゃあねェなぁ」
にこにこと彼が笑み、何やら訳知り顔で頷く。
今日は一緒にいてやるよ、と、とびきり可愛い顔で言う彼に。
マキノはもう一度首を縦に振った。


だって今日は誕生日だから。



少しくらいのわがままは許されるでしょう?ねぇ、神様!



(彼がそれに気付きませんように、と願いながら部屋に招き入れる


悪い【大人】になってしまったみたいだな、なんて)


「しっかしまぁお前さんがそんなこと言うようになるなんてねェ」
「…カイコッくんの、お陰…」
「…は?え?なんて??」

アメイズランクレット