アンカイ睡姦

秋はキャンプだなんて言い出したのは誰だったか。
狭いテントで雑魚寝はごめんだと火の番を買って出たカイコクはぼんやりと空を見上げる。
2つのテントからはそれぞれの寝息が聞こえていた。
…と、がさりと音がしてふとそちらを向く。
「…駆堂?」
ふらりとテントから出てきたのはアンヤであった。
眠れないのだろうか、と疑問を浮かべ、そういえば彼は睡眠障害があったと思い出す。
確か薬で睡眠を調整していた気がするのだが…と、ふらふらやってきた彼がカイコクに抱きついた。
「??おい、駆堂?どうしたんでぇ」
「…シン、兄……」
それを抱き留め、戸惑いなからも聞くカイコクに届いたのは小さく、自分にとっては他人を呼ぶ声で。
大きく目を見開き、思わず吹き出す。
どうやら寝惚けて夢を見ているらしかった。
呼び名からするに、彼の兄だろう。
「誰と間違えてやがんでぇ…」
くすくす笑い、彼にも可愛いところがあるのだなぁと思っていたカイコクを…アンヤが押し倒した。
「…はへ…?駆堂?駆堂?!」
ぽかんとしていたカイコクは、衣服を脱がされそうになりようやっと我に返る。
必死に名を呼んで押し返そうとするがびくともしなかった。
「くそっ、なんでこんな力強いんでぇ、こいつァ…!駆堂!目ェ覚ましな!くど…っ!…?!!」
引き剥がそうと躍起になるカイコクに、現実は無情で。
不意に唇が重なる。
引き結ばれるよりも前にアンヤの舌が口内に入り込んできた。
「んんぅ?!!ふぁ、…ぅ、ゃ…っ!んぐ、んーっ!!」 
びくんっ!と躰が跳ねる。
まさか年下の男、それも一番性欲が薄かろうアンヤに唇を奪われるなんて思いもしなかった。
カイコクも知らない、カイコクの弱いところを確実に突いてくるアンヤのそれに翻弄される。
「…ふはぁ…は、ぁ、ぅ…」
漸く唇が離された時にはカイコクの躰は緩みきっていた。
ぽやん、と見上げるカイコクに、アンヤは「…あちぃ…」と服を脱ぎ出した。
その隙に逃げてしまおうとカイコクは躰を反転させる。
が。
「…ひっ?!や、めろ…!!」
抜け出す前に腰を掴まれ、下着ごと衣服を脱がされる。
下だけだったのが幸いだろうかとぼんやり如何でも良いことを思った。
現実逃避でもしなければやっていられない。
まさか、己が年下の男に犯されようだなど。
「ぃぐ?!!やめ…っ!!はい、らねぇから…っ!!」
「…あ……?」
濡れてさえいないそこに性器を埋め込もうとするアンヤにカイコクは悲鳴を上げる。
躰を反転させたのは完全に失敗だった。
ろくな抵抗も出来ず、カイコクは涙目で訴える。
アンヤも不思議そうに首を傾げ、性器を押し付けるのを止めた。
ホッとしたのも束の間。
「ひぃっ?!!」
ぞわりとした感覚が背をかけた。
おもむろにアンヤが掴み、背に傾けたのはカレーを作るときに使ったオリーブオイルだ。
本当に寝ているのかと問いたくなるチョイスにカイコクは首を振る。
オイルを絡めた指がナカに挿入された。
強烈な違和感にカイコクは息を詰める。
「ぅあっ、ぁうっ、やめ…っ!!や、ぁ?!」
ずるずると引き抜かれたりまた埋め込まれたりを繰り返され、必死に悲鳴を我慢していたカイコクの背が跳ねた。
ぞくんっ!と駆け抜けるのは明らかに感じた事の無い快楽。
「ふぁ…や、だぁ…っ!しら、ねぇ…!こんな…ぃうっ!やだ、くどぅ、も、やめ…っ!」
嬌声を噛み殺し、抑えきれない涙を流してカイコクは訴える。
いつしか異物感はなくなり、ただただ甘い快楽だけがカイコクを襲っていた。
「はぁ、ぅ…ぁ、あ…?」
指が引き抜かれ、ぼんやりと後ろをふり仰ぐ。
犯そうとする彼は僅かに笑みを浮かべているように見え、カイコクは逃げようと手を伸ばした。
「~~っ!!あぁァっ!!!」
短い悲鳴が辺りに響く。
カイコクにとっての甘い地獄は、鳥が朝を伝えるまで続いたのだった。

「…ん…」
差し込む日差しにアンヤはゆっくりと意識を浮上させる。
いつもと違う景色に混乱しかけたがそういえばキャンプに来ていたのだったかと思い出した。
普段より体がスッキリしている気がする。
キャンプなど、普通は疲れそうだが…と、何か違和感を覚えた。
「…は?」
意識が覚醒し、アンヤは驚く。
隣でぐったりと寝ている半裸のカイコクと、全裸の自分を見比べ、まさか、と思った。
目をつぶるカイコクの目元が赤い。
彼の体中に散らばった歯型や、妙にスッキリした自分の体に嫌でも確信してしまった。
とりあえず皆が起きてくる前に慌てて服を身に着け、カイコクの衣服を元に戻そうとして…止まる。
どろりと流れる白濁色の液体。
嘘だろ、と小さく声が漏れた。
傍にあったブランケットを体にかけてやり、タオルを濡らしに川へ走る。
まさか、まさか。
何でよりにもよって。
「…くっそ最低じゃねぇか…」
はぁあ、と溜息を吐き出す。
確かに好意はあった。
ふは、と笑う顔が存外可愛かっただとか、眠れないアンヤに温かい梅湯を作ってくれただとか、単純な理由。
だがまさか同意もなしに抱いてしまうだなど。
「…あ」
「…。…く、どぅ?」
目を醒ましていたカイコクがぽやりとこちらを見ていた。
普段は寝起き悪いくせに、と頭を掻く。
「…鬼ヤロー…その、悪かった…な…」
「…。…いや…」
どかりと隣に座り、彼の体を拭いた。
そっとスマホの時計を見ればまだ早朝と呼べる時間で、嘆息する。
誰かに見つかる前で本当に良かった。
「…覚えて、んのかい?」
「…いや…それが、まったく覚えてなくて、よ…あー…だから…」
小さな声にアンヤは言い訳する。
まどろっこしいのは苦手だった。
「責任は取る。…その前にやり直しさせろ、鬼ヤロー」
「…は、ぇ…ん?!」
驚いたように目を見開くカイコクに、こんな顔もするのだな、と思う。
口付けたそれを離し、ぽかんと見上げる彼にアンヤは目を逸らした。
「…好きだ」
「…?!!」
「オレと付き合え…ってください」
静かな朝に響くアンヤの告白の行方は。
(さて、またいつか)

プロポーズの日(ザクカイ)

おそろい(へし燭)

ふわり、と目の前を通り過ぎた山姥切国広の「細く赤い」襟締めが揺れた。
「?」
視界に入ったそれの違和感に首をかしげ、長谷部は、おい、と呼び止める。
「?どうした」
振り向き、こてりと首を傾げる国広に向かってそれ、と指を差した。
差された方は不思議そうな表情をしたもののすぐに、ああ、と笑う。
「本歌がな、どうしてもお揃いが良いというものだから」
返された単純明快なそれに今度はこちらが首を捻った。
「同じものを、身につけていたいんだと」
「ほう。また何故」
「さあ?だが優越感はあるが」
「うん?」
小さく笑う国広に疑問を返そうとすれば向こうから「偽物くん!」との声が聞こえる。
振り向けば国広と同じ蝶々結びの赤い襟締をした長義が駆けてきた。
「本歌、俺は偽物ではないと…」
「はいはい。…何、へし切もいたのか」
「居ては不味かったか、山姥切。と、いうかへし切と呼ぶなと…!」
いつも通り注意しようとして、どうしても首に目が行く。
優越感、なるほどなぁと思った。


それから。

「珍しいね、長谷部くんが万屋なんて」
「たまには、な」
くすくす笑う光忠を連れて長谷部は万屋に来ていた。
彼と揃いのものがどうしても欲しかったためである。
結局選んだのは金の鎖に宝石の着いた腕輪であった。
華美な装飾品ではなし、何より普段は服の下に閉まっておけるのが良いと思う。
首飾りでも良かったが内番で悪目立ちしても困るだろう。
髪に、とも思ったが生憎己も光忠も結えるほどのそれはない。

ちゃりちゃりと音がする。
黒い装束の下、彼がつける己と揃いのそれは。

(独占欲の証)

Fioritura(Fiorituren another)

くにちょぎは髪鱗病の国広と足鱗病の長義、かなあと思います(感情を鱗として落とす病気)
常に頭を隠すから「灰かぶり」って呼ばれるまんばと足が見えないから「人魚姫」って呼ばれるちょぎ。
https://rennai-meigen.com/bougainvilleahanakotoba/

「…馬鹿みたいだよね」
 パタン、と分厚い書物を閉じる。
 どうした?と聞く彼の声に何でもないよ、と笑って見せた。
 彼、長谷部国重はこう見えて心配性だ。
 光忠が抱えている想いなんて気付いてしまったら、一緒に持とうとするだろう。
 …そんなのは御免だ。
 ただでさえ彼は【光忠の所為】で…花吐病になってしまったのだから。
 国重は知らない。
 光忠は随分前から奇病を発症していたのだと。
 国重は気付いていない。
 光忠がいたから国重は病を発症したのだと。
 …国重は…。
 ふうと一つ息を吐く。
 鈍感な彼でも気が付いてしまうかもしれないな、と光忠は小さく笑んだ。
「おっはよー!長船さん!」
「こーら、清光。行儀悪いよ。…おはようございます」
 元気よく入ってきたのは同じ奇病…記憶を宝石として涙と共に流す、所謂涙宝病の加州清光、その後ろから入ってきたのは、指の先から感情を宝石として
落とす、所謂指宝病の大和守安定だ。
「お前ら、俺には何もなしか」
 国重が小言を言い、二人がそれに反論して、光忠がくすくすと笑う…いつもの光景である。
「そういえばさあ、長船さんなんか元気ない?どうしたの??」
「…え?」
 清光が何でもない顔で聞いてきた。
 よく見ているなあと光忠は頭を掻く。
 何でもないよ、と取り繕っても彼は納得しない筈だ。
「んーそうだな。強いて言えば」
 光忠は笑う。
 綺麗な顔で。
 綺麗に見える顔で。
 …これは、光忠が生涯隠した、真実のお話。
「きみがわるい、夢を見たよ」

今から数年…いや、もっと前。
光忠がまだ【長船】の末息子であった頃。
「…今日も兄様たちは忙しそうだな」
 ふう、と光忠は息を吐く。
 光忠の兄は皆研究職についていた。
 なので、いつも忙しくしており、あまり顔を見た事すらなかったのである。
「…光」
「あ、ひろくん!!」
 聞こえた声に、光忠はぱあ!と顔を輝かせた。
 そこにいたのは相州廣光、歳は離れているが光忠とよく遊んでくれる、近所のお兄さん、だ。
 彼の従弟である貞宗が連れてきてくれて、仲良くなった。
 今では貞宗が来ることが出来ない日も何かしらの用事を作っては会いに来てくれる。
 光忠にとっては顔も見たことのない兄たちよりもよっぽど兄らしい存在だ。
「今日も暇しているのか」
「…ふふ、僕が大人しくしていれば兄様たちの仕事がはかどるからね。これでいいんだ」
 あっさりと言えば彼の方も、そうか、と微笑を浮かべ、何かを投げて寄越した。
わわっ!と慌てながら受け取ったそれはマフラーで。
「…今日は冷えるぞ」
「…もー、巻いてくれたって良いのに」
短い一言に光忠はふは、と笑う。
さり気ない優しさに、好きを勘違いしてしまいそうになった。
…それはないと、分かっているのだけれど。
「巻いてほしいのか?」
「そう言ったら巻いてくれる?」
質問を質問で返す光忠に、廣光は息を吐く。
静かに近付き…投げたマフラーを取り上げて巻いてくれた。
その行動にぽかんとしていれば廣光がほんの少し悪い顔を浮かべる。
「病弱、なんだろう…光は」
いつか光忠自身が言ったそれを廣光が繰り返した。
自己紹介をした日に「僕は病弱だからね!」と自慢げに言ったのをどうも覚えているらしい。
事実ではあるが…恥ずかしいからあまり言わないでほしいのだけれども。
「あっ、ひろくんってば馬鹿にしてるでしょう?!」
「まさか」
 もう!と怒れる光忠に、廣光が小さく笑みを浮かべる。
 それだけで許してしまえるから、ずるいなあと思った。
 それと同時に好きだなあと頬を緩める。
 初恋だったのだ。
 光忠はついぞ知らなかったけれど。
「病気だからとて無制限に甘やかすわけじゃない。…だが、甘えたい時もあるだろうからな」
「…ひろくん…」
「今日は特別だ」
 小さく笑う彼に胸が高鳴る。
 うん!と元気よく頷く光忠に、また彼は笑んだ。

 



















紹介しよう、と連れて来られたのは二人の少年だった。
「長船の直系に当たる、山姥切が本家、ご嫡男の長義と分家の国広だ。光忠と歳も近い。仲良くしなさい」
「…はい、生駒兄様」
 久しぶりに見た兄にそう返す。
 そうしてすいとそちらを見た。
 目の前にいるのは、車椅子に乗った銀髪の少年と、フードで金髪を隠した少年である。
「えっと、初めまして?」
へにゃりと光忠は笑みを浮かべて手を差し出した。
銀髪の彼がその手を差し出そうとする。
…が。
「…え?」
「うわっ!…こら、国広?!」
ぐい、とその腕が引かれ、光忠の前から消えた。
代わりに少し怒った声と鋭い目つきが寄越される。
もっとも、怒った声は光忠に対してではなかったようだが。
「…俺は、アンタを認めない」
「…え?」
「…失礼する」
フードを被った少年はそれだけ言うと足早に去っていった。
銀髪の少年も何も言えなかったようで。
二人でぽかんと見送ってしまい、思わず顔を見合わせる。
「…ええと、嫌われている、のかな?」
「あいつに限ってそれはないと思うけれど…。まあ、分家だから色々あったんじゃないかな」
首を傾ける光忠に銀髪の彼が髪を揺らし、改めて
手を差し出してきた。
「長船が直系、本家山姥切の長義という。…宜しく、光忠さん」
「…長船、末の光忠です。病弱だからあまり遊べないかもしれないけれど。宜しくね、長義くん」
 流石に自慢はせず曖昧に笑むと彼も微笑んでくれる。
 どうやら長義の方は友好的であるようだ。
「…気を悪くしたら申し訳ないんだけど」
「?なにかな」
「…君は、足が悪いの?」
 優しく微笑む長義に光忠はおずおずと聞く。
 車椅子と言うのは当時としては珍しかったのだ。
 親たちもこぞって隠そうとする。
 …だが。
「ああ。俺は奇病なんだ。…ほら、足の皮膚だけが鱗みたいだろう?自分の記憶を鱗として落とす病気みたいでね。足鱗病、なんて呼ばれているよ」
 こともなげに彼が言う。
 奇病。
 最近になって流行り出した…不治の病。
 原因は全く分からない。
 ウイルス性のものであるとか…魔女の呪いだとか。
 くだらないと思うが世間は不安だったのだ。
 特効薬もない、いつ死ぬかもわからない。
 発症していないだけで病魔に侵されているのかもしれない。
 人々は皆疑心暗鬼であったのだ。
 だが、光忠はそんなことどうでも良かった。
 長義が隠さずに教えてくれてホッとする。
「ああ、だから足元が見えない服を着ているんだね?」
「そういうこと」
 にこっと笑って見せた長義が首を傾げた。
 不思議そうな彼に、なあに、と聞けば今度は長義が聞きづらそうに口を開く。
「…怖く、ないの?」
「誰が?誰を?」
「君が俺を、さ」
 長義のそれに光忠は微笑んだ。
 奇病と言うだけで恐れ、去って行こうとする人はいる。
 それなりに地位の高い彼らでもそれを経験してきたのだろう。
 急に教父の対象とされる辛さを光忠は知っていた。
 …だから。
「まさか。言ったじゃないか、僕は病弱だって」
ふふ、と光忠が笑う。
「…僕も、奇病だから」

「…昨日はすまなかった」
 後ろを振り向くと申し訳なさそうな表情で、昨日のフードの少年が立っていた。
 確か国広と呼ばれていた彼にぶんぶんと首を振る。
「気にしないで。誰にでも事情はあるし」
「アンタも奇病だと聞いた。…自分ばかりと思ってしまった。すまない」 
「…もう、良いんだよ」
 頭を下げる彼に光忠はそう言った。
 随分律儀だなあと笑う。
「…。…長義に叱られた」
「長義くんに?」
「ああ。…厳しいんだ、長義は」
 驚くと彼は初めて笑みを見せた。
 優しく笑う子だな、とぼんやり思う。
「僕こそ、ごめん」
「アンタは悪くないだろう。何故謝る?」
「…不快な思いをさせてしまった」
 しゅんとする光忠に国広は目を丸くした。
 そうして。
「変わっているな、アンタは」
「へ?」
「俺が勝手に不快な思いになっただけだ。現に長義は何も気にしていなかった。それが答えだろう」
「…そうだけど」
 むう、と膨れ面を晒せば、国広は小さく笑う。
 まあ彼が笑ったのだからいいか、と思った。
 他愛のない話をした後、ふと光忠は首を傾げる。
「君はどんな病気なの?」
「…これだ」
 少し考えていた国広が両手を頭上にやった。
少年がフードを外す。
きらきら輝くのは彼が金髪だから、というわけではなかった。
「…鱗」
「ああ。俺は横の髪だけが鱗でな。…感情をそこから落とすことに因んで髪鱗病と診断された」
 それだけ言って国広はまたフードを被り直す。
「長義の足を見たか?」
「ううん。でも病名は聞いたよ」
「そうか」
 光忠の答えに国広はあっさりと言った。
「街で俺達がつけられたあだ名を知っているか?…長義が人魚姫、俺が灰かぶりだ」
「…えっと」
「足の鱗は隠していてもバレる。…足が不自由で鱗を落とすから「人魚姫」。俺はバレなかったのは良いがフードを室内でも取らない、ゆえに「灰かぶり」だ」
 国広のそれに光忠は何も言えなくなる。
 それを知ってか知らずか、国広は小さく笑った。
「救いなのは長義がこのあだ名を気に入っている事だろうか」
「…ふふ、長義くんらしいね」
 なんだかその光景が目に浮かぶようで光忠はくすくすと肩を揺らす。
「それで?」
「え?」
 唐突に切り出されたそれに首を傾げた。
 国広も同じ様に傾ける。
「アンタも奇病なんだろう?」
「長義くんと違ってストレートなんだね」
「…気に触ったか」
「別に?…教えてあげるよ、僕の病気」
 まっすぐな彼に微笑を浮かべた。
 上着を脱ぎ、目を瞑る。
 そうして。
「…!」
 国広の目が大きく見開かれた。
 ぶわりと舞うはブーゲンビリアの花弁。
 静かに微笑む光忠が口を開く。
(曰く、どこか神々しささえあった)
「背から花を散らす病気…僕は花埋病の長船光忠、だ」
 花埋病。
 …花吐病の亜種とも言われ、光忠の記憶は全てこの花弁だった。
 発症した理由も分からない。
 奇病には必ずいると言われるツガイもいない。
 ならばと光忠は自ら兄たちに申し出た。
【僕を研究材料にしてください】と。
 光忠はもともと体も弱かった。
 兄たちと違って幼少より教育も受けていない。
 頭は良い方だが…何故だか研究室には入れてもらえなかった。
 兄たちはこの歳くらいから研究室にいたのに。
長船のデキソコナイ。
いつしか街で付けられていた光忠への劣称。
それを聞いたのは定かではない。
幻聴かもしれない。
それでも、劣等感は彼を蝕み、追い詰めた。
自ら実験台を願うほどに。
これで少しでも役に立てるのなら、と。
「…長船」
「光忠でいいよ。此処に居る人はみんな長船だから」
 微笑を見せると国広がたじろぐ。
 名前を呼ぼうとしたのか、口を開こうとした…その時だった。
「国広!!!」
「長義?!」
 鋭い声に国広が焦った様に振り向く。
 そこには怒れる様子の長義がいた。
「な、なぜ…」
「お前ばっかりずるい!!俺だって光忠さんと遊びたいのに!」
「アンタが謝ってこいと…!」
「それはそれ、これはこれ!」
「めちゃくちゃだぞ?!」
 ギャーギャーと二人が言い争う。
 くすくすと思わず笑ってしまった。
 ずいぶんと賑やかしくなったものだ。
 …嫌いでは…ないのだけれど。
 何だか少しむず痒くなって小さく笑う。
「ふふ。二人とも、僕の部屋でお茶にしない?美味しいクッキーがあるよ」
 微笑む光忠に、行く!と二人が手を挙げる。
 素直な長義と国広に光忠も笑った。
 これだけ笑ったのは本当に久しぶりだ。
 楽しいと心から思う。
 こういうのもたまには良いなあ、と、そう思った。


その日、光忠は運命的な出会いをする。
 廊下をほてほてと歩いていた光忠と…走ってきた少年とがぶつかったことで。
「すまない!けがはなかったか?」
「…う、うん。大丈夫。君は?」
「俺も大丈夫だ」
 はしばみ色の髪が揺れる。
 藤の瞳が細められた。
 それじゃあ、と彼が走り出す。
 危ないよ、と声をかけようにも彼は何処にもいなかった。
「…変わっている子だなあ…」
 光忠はそっと呟く。
 相手からもそう思われているとは知らず。

彼の名は長谷部国重。
光忠の運命を変える相手だとは…、まだ知らない。

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俺の名は長谷部国重。

「あっ、国重お兄ちゃん!!」
ぱあ!と表情を明るくする少女がいる。


みつ、俺の可愛い妹。

神海に沈む月

 千本桜の近くの池に堕ちる蒼雪さんと、ひと目ぼれジェネラルの話。

彼に一番最初に出会ったのは確か入学式の後。
堅苦しい式から逃げ出したかったというのと、答辞という生徒会執行部にとって大きな仕事が終わったという解放感から、ふらふらと、ここに来ていた。
何かあるとすぐここに来てしまう。
大きな大きな千本桜。
この木を見ていると、どんな小さなことでも
霞んでしまうような気がするから不思議だ。
「…あれ」
近づこうとしてふと立ち止まる。
どうやら先客がいるらしかった。
「…!」
桜の木の下に佇むその人は。
蒼く美しく…そう、言うなれば。
「…桜の精…?」
 非現実なものは信じていなかった。
 そう、思っていた生徒会執行部が思わず溢してしまうほどに、その人は美しかったのである。
「…なんだ、貴様は」
 声が届いたのだろう。
 その人がこちらを向いた。
「うわっ、わ、すみません!」
思っていたよりも精悍な顔立ちに生徒会執行部は慌てて謝る。
「謝罪はいい。何者かと聞いている」
「せ、生徒会執行部と申します」
 有無を言わせない様なそれに生徒会執行部は恐らく彼が望む答えを口にした。
「生徒会執行部…ああ」
少し考える様に彼が下を向き、生徒会執行部の名を紡ぐ。
それからすぐ何かを思い出したようにすい、とこちらを見つめた。
「今日の式で答辞を読んでいた」
「は、はい」
「そうか」
彼が微笑む。
春の風と共に彼の雪模様が付いた蒼い振袖がはためいた。
「貴方は、一体…?」
「…そうだな、特別に教えてやろう」
子どもっぽい笑みを浮かべた青年が口を開く。
「蒼雪」
「え?」
「これが、俺の名だ」
軽く彼が言ったその名は、生徒会執行部もよく知るそれだった。
この帝都を護る軍人将校。
誰もが知る、吹雪の家紋を染め込んだ零ノ桜…蒼雪。
生徒会執行部には手の届かない人だと思っていた。
遠くから見つめていれば十分だ…そう思っていたのに。
「どうした?」
綺麗な笑みを浮かべた蒼雪がこんなに近くにいる。
頭が真っ白になった。
「蒼雪、さん」
「うん?」
蒼雪が首を傾げる。
「どうした、生徒会執行部」
笑う彼は抱いていた印象とは違い、随分柔らかかった。
酒でも入っているのだろうか。
見た限りでは顔は紅く無さそうだけれど。
「…桜、好きなんですか」
「どちらかといえば雪の方が好みだ」
漸く絞り出した質問に、くすりと蒼雪が笑う。
おかしな人だと思った。
見事な桜の木の下で、既に消えてしまった雪に想いを馳せるなんて。
冷たいだけの雪のどこが良いのだろう。
「雪はいいぞ。私のー…」
言いかけた蒼雪の言葉を遮るように、さあ、と風が吹く。
桜が散る音に紛れ、その声は生徒会執行部には届かなかった。
なんと言ったか、と聞き返す隙もない。
ただ、彼がそのまま桜に連れ去られてしまうような気がして。
生徒会執行部はその風に負けぬよう声を張りあげた。
「僕は!桜が好きです!」
「…ほう?」
 先程は邪魔をした風が、今度は生徒会執行部の言葉をきちんと蒼雪に伝えたらしい。
 おかしそうに蒼雪が笑った。
 ただ、馬鹿にするようなそれではないことに、生徒会執行部は安堵する。
「では問うが貴様は何故桜が好きだと言う?」
「え…?」
「明確な理由があるのだろう?」
 こてりと首を傾げる様は子どものそれだった。
「…僕、は…命短くとも、美しく咲いて潔く散る桜に武士道を感じるんです」
「武士道、か」
 なるほど、と蒼雪は頷く。
「確かにそうだな。しかし、花を咲かすには長い鍛錬が必要だろう」
 微笑んで蒼雪が言った。
 猫の長い尾っぽのように軍服の袖を舞わせて、蒼雪が紡ぐ。
「桜にとっての鍛錬が、雪だ」
「…はあ」
「少し分かりにくいか」
 生徒会執行部の様子にくすりと蒼雪が笑った。
「例えばな、雪を俺と、桜を民だとするだろう。桜は雪が嫌いだ。例え冬の寒さから護ってやっているとしても、桜は冷たいだけの雪を好きだとは言わんのだよ」
「ええと」
 余計に分からない。
 今度は蒼雪も何も言わなかった。
「難しいことは分からないのですが…」
困ってそう言えば、くすくすと彼が笑う。
「辞書をひけ」
機嫌良さそうに笑いながら蒼雪が言った。
 悔しいな、と思う。
 雪が好きな桜もいるかもしれないのに。
 …この、自分の様に。
「…さて、そろそろ行くか」
「えっ」
 くるりと踵を返しかけた彼に、思わず声が出た。
「何だ?俺に仕事をサボれと?」
 くすりと意地悪く蒼雪が笑う。
 確かに、この街を護る彼を、これ以上ここには留めさせるわけにはいかなかった。
 それでも、生徒会執行部にとっては、願ってもいない出来事で。
 この夢のような時間が終ってしまう。
 雪が解けてしまう様に。
 桜が散ってしまう様に。
 それを…嫌だと、思った。
「そ…!」
「?」
思わず声をかけてしまう。
彼が不思議そうな表情で振り返った。
「蒼雪さん、は」
やっと絞り出した声は震えてはいない、と思う。
何を言おうか、と考える間もなく、言葉が口をついた。
「思いを寄せる方はいますか?!」
「…は?」
 驚いた様に目を丸くする彼に漸くしまった、と思う。
 だが、出てしまった言葉は如何あっても、取り消すことが出来なかった。
「…そう、だな。…思いを寄せる…そういうのはいない」
「…え?」
 碧い眼を伏せて言う蒼雪に、今度は生徒会執行部が驚く。
「護ると、誓ったものは大勢いる。家族、仲間、街の民…しかし、思いを寄せるなどというのは、ないな」
 そう言う蒼雪の頭に桜の花弁が落ちた。
 彼も無視をすればいいのに律儀に答える辺り、まだ此処にいたいのだろうか。
 そんな事を思ってしまい、生徒会執行部は自嘲した。
 まさか、そんなことはあり得ない。
 これはただ戯れに答えてくれるだけなのだ、と。
「何故、です?」
「俺は軍人だ」
問いかける生徒会執行部に彼が微笑む。
それは雪のように柔らかく、どこか冷たさを
含んだ笑みで。
「軍人に愛だの恋だの必要があると?」
蒼い軍服をひらり舞わせて蒼雪は問うた。
「…。…僕はそう思います」
 それが哀しくて、生徒会執行部は口を開く。
「何?」
「軍人だからと言って恋をしてはいけない理由にはなりません。愛を欲してはならない言い訳にはなりません。真に平和を望む軍人であるなら、誰かを愛するという事を罪だとは言わないはずです」
 まっすぐに蒼雪を見てそう言った。
 ぽかんとそれを見ていた彼がふっと笑う。
 それを見、我に返った。
「も、申し訳ありません!将校様に無礼を!」
 勢いよく頭を下げると、上からくすくすと笑い声が降ってくる。
「今更気にするな」
「し、しかし」
「面白い漢だな、生徒会執行部は」
 そんな言葉に恐る恐る顔を上げれば楽し気に蒼雪が笑っていた。
 許してくれるつもりだろうか。
「では、お前に愛を貰おうか」
 くす、と彼が妖艶に微笑む。
 呼び方が貴様からお前になっていると気付く間もなく、蒼雪に手を引っ張られた。
「え、え?!」
 突然の事に生徒会執行部は慌てる。
 あれは己が思う意見を述べただけだ。
 自分がどうこうすると言ったつもりはない。
 しかし、そんな生徒会執行部の様子を気にすることなく、手を引っ張って歩く蒼雪はどことなく楽しそうだ。
 子どものようだな、と思う。
「あの、愛とは…」
「後で辞書をひけ。今は黙ってついて来い」
「は、はあ」
 有無を言わせないそれに生徒会執行部はただ頷いた。
 恐らく教えてくれるつもりはないのだろう。
 雪の様に冷たい表情を見せたかと思えば、桜の如く柔らかい顔も見せる蒼雪に、生徒会執行部は小さく笑った。
 美しいだけの、遠くで見つめていた軍人将校の様相がガラガラと音を立てて崩れていく。
「…ここだ」
「…え…?!」
 連れてこられた先、蒼雪が指さすそれに思わず声を上げた。
 有り得ない、こんなこと。
「…一体、何故」
「不思議だろう?」
 楽しそうに蒼雪が笑う。
 そこにあったのは白い雪が残る中に咲き誇る桃色の花弁をつけた大きな木だった。
 幻想的な雰囲気のそれは見る者を圧倒させる。
 それは生徒会執行部も例外ではなかった。
「…ここは、秘密の場所なんだ」
「え?」
「家族も知らない。俺だけが知っている場所」
 泣き笑いのような表情で蒼雪が言う。
 家族も知らない…完璧な私的空間。
 何故そこに自分を、と見上げると、彼は静かに笑って見せた。
「…愛を、教えてくれるのだろう?」
「あ…」
「俺は、軍人に愛などいらない。…そう思うのは変わらん。しかし、俺自身を愛するなとは言わん」
 ふわりと彼が笑う。
「この雪の様に、桜色に染めてくれるだろうか」
意外と子どもっぽい彼が。
まるで猫のような彼が。
桜の花弁のように思いをひらひらと舞わせる。
まるで春に降る雪の如く。

「蒼雪さんは僕の色に染まってくれるのですか」
 神聖なそこで、生徒会執行部は囁いた。
 雪の如く静かな愛を。
「それはお前次第だろう」
「…意地悪なんですね」
「俺は冷酷な指導官だと皆から言われるからな」
 顔を見合わせて二人で笑う。
 穏やかな時間が流れた。
 嗚呼、何故彼は軍人なのだろう。
 何故自分は一民なのだろう。
 彼を…哀しいまでに美しいこの人を護る事が出来れば。
 …そうすれば、この人はもっと美しい笑みを
見せてくれるのだろうか。
 今はただ、猫の気まぐれのように、甘えているだけかもしれない。
 ただの戯れかもしれない。
 彼が今日この地に来たように。
 それでも構わなかった。
 手を伸ばしても届かなかった蒼雪がこんなに近くにいる。
 愛していいと言ってくれている。
 それだけで十分だ。
 だから、今度は。
「蒼雪さん」
「なんだ、生徒会執行部」
 偶然がなければ出会わなかった…この気高く強い、この人を。
 自分は護るとはまだ言えないけれど。
(彼が許してくれた二人だけの地、これだけは…護って見せよう)

どうかどうか。

…誰かを護るために自分を犠牲にする美しい猫にも愛と言う名の桜が舞い落ちます様に、と
生徒会執行部は、普段は欠片も信じていない神に望みを紡いだ。

「またいずれ、桜の木の下で」
「…そうだな。覚えてはおいてやろう」


                     (終)

リンさん3!そのさんっ

〜ぷろろぉぐ〜
〜ロミシンリンさんの場合〜
ロミシンリン×ナギサ・レプカ←ドレミファロンドミク

ロミシンリンとナギサはお嬢様と軍人さん
 
〜アシンメトリーリンさんの場合〜
 
「エレガント様!エレガント・バタフライ様!」
「…あら、アシンメトリー」
 呼びかけるリンにふわりと振り返って微笑むのはこの館の主人、エレガント・バタフライだ。


「片割れは、いないのね」
「ミステリアス様のところですよ。そう、いつも一緒にはいません」
「あら、そうなの?」
 おっとりとエレガントが微笑む。
「私は…アシンメトリーと一緒に居たいわ」
「それは…どっちです?」
「どっち…って?」
 アシンメトリーの質問にきょと、として見せたバタフライは軽く首を傾げた。
 そんな様子も絵になるな、とぼんやり思う。
「私にはアシンメトリーは貴女しかいないわ」
「はあ…。…んえ?!」
「きっとミステリアスお兄様も彼に同じことを言ってよ」
 にこ、と笑うバタフライ。
「貴女もそうでしょう?…貴女の主人は私よ、ね、アシンメトリー」
「…そうですね」

「こんなにも私を振り回す『バタフライ』は貴女一人です、エレガント・バタフライ様」
 跪いて綺麗な指先にキスをする。



アシンメトリーリン×エレガントバタフライ←アルティメットMEIKO

アシメリンとエレガントはお節介小間使いとぼんやり女主人
〜リリカルスターさんの場合〜

リリカルスター×サイバーネーション←ハッピーシンセサイザGUMI
リリカルスターとサイバーは新人アイドルとトップアイドル
〜えぴろぉぐ〜

リンちゃんとカイトさんの衣装交換

犬猿コンビ×カイさんの3Pエピローグ

犬猿コンビ×カイさんの3Pエロ