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鬱的花言葉で1日1題2章・アルロイ(節分草/葡萄・鋼SSS
「まさか、君と酒を飲む日がこようとはな」 くすくすと目の前の彼が楽しそうに笑う。 「ええ、本当に」 僕も笑って、グラスにお酒を注いだ。 元の身体に戻って数年。 月日が経つのは早い。 「あの、大・・・あー・・・」 「大佐、でも構わんよ?」 「そういう訳にも・・・ロイさん」 悪戯っぽく言う大佐・・・じゃない、ロイさんに僕は笑ってみせる。 結構な歳なのに、ロイさんはいつまで経っても若くて可愛い。 ・・・そう、昔から。 もう随分経つのにこの名で呼んでしまうのは・・・僕が『あの頃』に執着しているからなのかな。 「・・・ロイさんは」 グラスを握り締める。 カタリと中に入った氷が落ちた。 「兄さんとハボックさんのどちらが好きですか?」 「?なんだね、急に」 「答えてください」 首を傾げるロイさんに僕は俯いたままそう言う。 おかしな子だな、とロイさんが笑った。 「どちらも好きだよ。・・・もちろん君も」 「そういうのはいいんです。二人のうち、どちらを愛していますか?」 真剣に問う僕に、少しの間を置いてロイさんは口を開いた。 「・・・どちらも、大切だ」 にこりと彼が笑う。 「二人とも大切に想っている、というのはいけないことかな。エドワードもハボックも承諾している。納得はしていないかもしれないが」 小さく笑って言った、ロイさんの言葉は真実だった。 兄さんは「ホントにあの大人だけは」と文句を言いながらも妥協してる。 ハボックさんも笑いながら「そういう人だからなぁ」って言っていた。 でも、そんなのおかしい。 そんなの・・・マチガッテル。 「アルフォンス、君には理解しがたいかもしれないな」 「・・・ロイさん?」 「理解してもらわなくてもいい。ただ、そういう人もいるという事実があるということを頭の角に置いておいてほしいと、私は思っている」 ロイさんがグラスを煽る。 「・・・。・・・例えそれで、僕に理不尽な怒りをぶつけられても?」 「君がそんな事を?」 くすくすと笑って、そうだなぁと上を向いた。 「もし、そんなことがあるなら・・・私は君の全てを受け入れるだろうね」 彼が笑う。 今まで見た、どんな顔より優しく。 ・・・それで、良いと思ってるんですか? (嗚呼、何て甘い人)
宵闇が訪れる
僕の中の何かを蝕んでいく
「全てを受け入れる?聖母にでもなったつもりなんですか?」 「アル・・・フォンス・・・?」 「これだから貴方は」 きょとんとするロイさんの首を締め上げる。 「・・・ぅ、ぐっが、ぁ・・・!!」 「ねぇ、ロイさん。僕を否定して。僕を拒んで」 苦しそうに喘ぐ彼に囁いた。 白く細い腕が宙を彷徨う。 ひゅう、と気道が音を立てた。 「ほら、早く僕を拒んでください。でないと壊れちゃいますよ」 「・・・っ!」 綺麗な手を僕の腕を掴む。 「・・・め・・・や、めろっ!!!」 声が聞こえた、と思った瞬間、僕の体は突き飛ばされていた。 ほら、拒絶する事だって出来るんじゃないですか。 「もう酔ったのか?そういう酔い方は少し考え物だな」 「酔ってる?ロイさんはそう思うんですか?」 「・・・これが君の怒りか?」 「ええ」 僕はにっこり笑う。 「此処には兄さんもいない。ハボックさんもいない。・・・護衛くらいつけておけばよかったんじゃないですか?」 「・・・。・・・君程度には負けない。自信があるからね」 「そう、ですか」 挑発的に笑うロイさんに僕は静かに言った。 震えているのに何を大人ぶってるんですか? ああ、『大佐』はそういう人でしたよね。 兄さんとよく似た性格で、ハボックさんと同じように僕を子ども扱いして。 「ふふ、あはははははは!!!!!!!!!!!」 大切な人に愛されたいと願うのは・・・貴方だけじゃない。 僕だって、同じ。 でも、ね、『大佐』。 貴方がそう呼ばれているときから貴方は僕を見てくれたことなんて一度もない。 だから。 「ねぇ、『大佐』」 ぞっとしたように僕を見るその人に僕は近づく。 「く・・・くるな!!」 悲鳴に似た声。 僕を拒絶する・・・声。 「僕と壊れてしまいましょう?」 嗤いながらロイさんの黒い髪をつかむ。 そのまま葡萄酒の瓶を口に押し込んだ。
二人が愛してくれる?
そんなの僕が許さない
そんなぬるい関係を、僕は壊して
それから・・・そう、僕だけのものにしてしまいたい
彼の漆黒の眸に僕が映る。 その顔はとても酷い顔をしていた。
ーー アルロイ・拒絶/宵と狂気
鬱的花言葉で1日1題2章・イチウリ(ヒーザー/赤の鳳仙花・鰤SSS
お互いに一人ぼっちだった。
それゆえに惹かれた。
言えばそうかもしれない。
「僕に触れるな」 石田に触れようとした瞬間、一切の視線も向けられずにそう言われた。 「石田ぁ」 「邪魔」 にべもなく投げつけられた言葉に思わず引きつる。 邪魔って、こいつは・・・。 「それはねぇんじゃねぇの?」 「煩いなぁ」 頭を撫でようとしたところで避けられた。 いつも厳しいやつだけど今日は特に厳しいな・・・。 「なぁって」 「・・・。聞くけど」 ややあって石田が振り向いた。 「君はどうして僕に触れようとする?」 「は?」 「答えろ」 分厚い本を閉じて石田が立ち上がる。 どうして、って言われてもな・・・。 「特に理由とかねぇよ」 「つまり、君が触れたいから触れる、そういうことか?」 「ま、まあな」 しどろもどろに言うと、石田はじろりと俺を見て。 「自分勝手、横暴、クズ」 「・・・てめぇ!」 吐き捨てられるそれに俺は思わず立ち上がった。 こいつ・・・悪口言いたいだけじゃねぇか! 「おま、さっきから黙って聞いてりゃ好き放題・・・!」 「いいかい、黒崎。よく聞け」 詰め寄る俺に、石田がずいと顔を近づける。 なまじ綺麗な顔をしてる・・・それに俺は、弱い。 仕方がなく口をつぐんだ。 ・・・珍しく真剣っぽいし、な。 「僕は孤独だ。今更それは変えられない」 行き成り言われたそれに俺はぽかんとする。 孤独? 何、言って・・・。 「石・・・」 「黙って聞け」 むす、と石田が俺を遮った。 「滅却師とはそういうものだよ。仲間では行動しない。いつも一人だ。それが普通なんだ。・・・それを、君は・・・!」 石田が俺を見上げながら睨む。 「触れてみたいから手を伸ばす?そういうところが嫌いなんだよ、僕は!」 「・・・」 「ずっと一人だった。あの時から・・・師匠が亡くなってから、ずっと。・・・それなのに」 言葉を紡ぐ石田は何処か泣きそうな顔をしていた。 「・・・今更、優しくされても困る。君には、触れられない。だって」 君に依存してしまう、と小さく言う石田に手を伸ばす。 「君に、死神に依存するという事がどういうことだか分かるか?」 真剣な表情に思わず手を止めた。 滅却師が死神に依存するという事、それは。 「・・・世界の、崩壊」 「そう。例えば僕が君に拠り所を見つけてしまったら。・・・僕は君を守るために必死になる。君もそう。虚のいない世界を創ろうと躍起になってしまう」 訥々と語られるそれは、ありえなくもない未来だった。 パワーバランスの崩れた世界が・・・死神と滅却師が手を取り合った世界がどんなに悲惨かを、俺たちは知ってる。 だからこそ。
「僕に触れるな!!」 石田が怒鳴る。 今度は構わずに手を伸ばす。 ・・・今、触れてしまわないとダメな気がして。 「黒・・・!!」 「いいじゃん、依存しろよ俺に」 「・・・なんで、君はそう・・・」 呆れた声の石田を抱き寄せる。 ずっと孤独に耐えてきたんだろ? ならいいじゃん。 例えそれが世界の崩壊になるとしても。 俺がお前を護るから。
孤独に耐えなくてもいい
一緒に生きよう
例え滅却師と死神の共存が無理だと分かっていても
お前とならいけるような気がするんだ
(そこは絶望しかない未来)
ーー イチウリ・孤独/私に触れないで
鬱的花言葉で1日1題2章・フレユリ(ピナス/ふきのとう・TOVSSS
お前は貪欲だ。
そういったのは誰だっただろうか。 ただ一心に国の平和を守りたくて、僕は強くなった。 ・・・いや、国のためじゃない。 ユーリ、君のためだ。 君のために僕は軍に入り、法に縛られて生きてきた。 ・・・それなのに。 その君は僕の事なんて何一つ考えずに自由に生きているよね。 本当に羨ましい。 僕はいろんなことを我慢してるのに。 ギルドとして自由に生きる君と、帝都に縛られた僕。 僕としてはそれでも良かったんだ。 自由に憧れないわけじゃない。 でもこういう生き方だってアリだろう? それにね。 ユーリ、君と全く会えないわけじゃなかったから。
・・・でも。
「フレンは意外に貪欲だよな」 「そうかい?」 ある時、珍しく路地裏で、ユーリが掘り出し物だという酒を飲み交わしていた時のことだった。 楽しそうにそう言うユーリに僕は笑う。 ・・・でも心の中では動揺していた。 今、なんて? 僕が、貪欲? 「なんていうか・・・自分の意見ははっきり言うし、我慢してそうに見えて案外・・・」 「ユーリッ!!!」 可愛らしく言葉を紡ぐ彼を僕は大声で制止した。 ・・・もう、もう沢山だ。 「うわ、なんだ・・・え?」 「ねぇ、ユーリ」 僕は優しく笑いかける。 ねぇ、ねぇユーリ。 君にはそんな風に見えてたの? 騎士団を辞めて、僕の傍から離れて、君は変わってしまったね。 「・・・フレン?」 「君には処罰を受けてもらうよ」 「はぁ?!何を行き成り・・・。・・・?!」 呆れたような顔をしていたユーリは突然目を見開いて身体のバランスを崩した。 どさりと僕の腕の中に倒れこんできたユーリを抱きとめて僕は嗤う。 ユーリ、ねぇユーリ。 僕の心は壊れてしまったんだよ。
・・・君のせいで。
君の一言がなかったら。
君のあの行動がなかったら。
僕は壊れずにすんだのにね。
ねぇ、ユーリ。
だから。
「責任とってよ。・・・僕の愛しの親友」
長い、夜空と同じ色の髪に口づける。 貪欲・・・貪欲、か。 そうだね。 もっと、自分に正直でも構わないよねぇ?
罪状は僕をこんな風にした事、それに伴う刑罰は・・・
僕の元での終身刑
「さぁ、刑を執行するよ、ユーリ」
(君を手に入れるためなら法を捻じ曲げても良いと、そう思ったんだ)
ーー フレユリ・貪欲/処罰は行わねばならない
鬱的花言葉で1日1題2章・七陽(朝鮮朝顔/花蘇芳・鳩彼SSS
暖かい風が吹く。 ・・・今日も、怠惰な生活を送ってしまいました。 「・・・しまいました、じゃないでしょ?」 「いたっ」 ぼすっと手刀を落とされてぼくは恨みがましい目を向ける。 「痛いよぅ、埋音くん〜!」 振り仰いだ先に居たのは呆れた目でぼくを見下ろす、埋音くんだった。 「僕は君の味方だけど、授業をサボる事に賛成したわけじゃないよ?」 「うぅ〜、そうだけどぉ〜!!」 腕を組む埋音くんにぼくは抗議の声をあげる。 最近ちょっと埋音くんが厳しいよ〜! 「・・・。・・・大丈夫。君には僕がいるんだから」 「埋音くん・・・」 優しく埋音くんが笑う。 やっぱり埋音くんは優しいね。 ぼくだけの・・・社会から締め出されたぼくだけの、味方。 (例えそれが偽りだとしても)
埋音くん、ねぇ埋音くん。
ぼくはね。
・・・今のこの、作られたぬるい幸せに浸っていたいんだ。
キッチンを片付けていた埋音くんの背後に立つ。 「・・・埋音くん?」 「なに・・・。・・・え?」 にこりとぼくは笑う。 ごめんね、知っちゃったんだよ〜。 ・・・きみがぼくを騙してるってこと。 優しく笑うその顔が偽りだってこと。 でも、ね。 その魅力に取り付かれてしまったのも事実で。 「埋音くんは、裏切ったりしないよね?」 「・・・」 「ぼくと一緒にいてくれるでしょう?」 ずっと、と彼に囁く。 驚いたような顔をしていた彼がゆっくりと口を開いた。 「・・・そうだね。ずっと一緒にいるよ」 偽りの魅力を振りまいて埋音くんが笑う。 (ああ、ほらまたそうやって) 毒の花の様に笑む埋音くんに、ぼくも笑いかけた。
もし例えきみがぼくを裏切ったとして
きみはぼくを裏切ったことによって死んでしまうよ
だから、ぼくと一緒にいよう?
ずっと、ずぅっと・・・
ーー 七陽・偽りの魅力/裏切り・裏切りのもたらす死
鬱的花言葉で1日1題2章・岩坂(キングサリ/スノードロップ・鳩彼SSS
「坂咲君」 「はい?」 薬品整理をしていた坂咲君が振り向く。 開けた窓から風が吹き込んだ。 「どうぞ」 「え・・・?」 きょとんとする坂咲君に先ほど押し付けられたそれを差し出す。 目を丸くしていた彼はすぐにいつもの調子に戻り、おかしそうに笑いだした。 「珍しいですねぇ、岩峰先生が花なんて」 似合わない、と笑う彼を一瞥する。 「押し付けられたのですよ」 「ああ、なるほど」 くすくすと笑って白い花束を受け取った彼はそれにそっと顔を近づけた。 意外にも彼にはこういうものがよく似合う。 表情に影を落としたのは一瞬で、すぐいつものように笑みを張り付けて彼は「保健室に飾ります?」と言った。 「私は貴方に捧げたのですがね。・・・この、花言葉と共に」 「花・・・言葉?」 「ええ」 私を見た坂咲君が再び小さく微笑む。 その姿はどこか自嘲的にも見えた。 「スノードロップ・・・花言葉は希望、ですか」 寂しそうに坂咲君が笑む。
ああ、貴方でも知らないのですね。
貴方と同じ、白く咲き誇るその花の本当の名を。
「坂咲君」 「・・・え?」 振り仰ぐ坂咲君にナイフを突き刺す。 彼の身体がスローモーションの様に崩れ落ちた。 白い花が紅く染まる。
残念ながらこの程度の出血量では死ぬ事はない。 ぴくりとも動かないのはナイフに塗った神経毒の所為だ。 これも致死量ではない。
何故すぐに殺さないのか? 答えは簡単だ。
折角捕まえた愛しい鳥を
すぐに殺してしまってはつまらないでしょう?
私は、淋しい美しさをまとわせた貴方が
意志の強い瞳が絶望に落ちた瞬間の貴方が
私の手によって
死ぬ瞬間が見てみたいのですよ
ぐったりする彼を抱き上げる。 ・・・ふん、片手が使えないというのは不便なものですね。
誰もいない保健室の外に出る。 彼を見下ろし、私はにやりと嗤った。
さあ坂咲君
私がじっくりと時間をかけて殺してあげましょう
二羽きりのこの世界で、ゆっくりと・・・ね
ーー 岩坂・淋しい美しさ/貴方の死が見たい(通常は希望。人に捧げることで変わる)
鬱的花言葉で1日1題2章・アルセイ(みぞはぎ/コケモモ・フラフロSSS
第一に寂しい目をしているなと思った 第二に美しい男だと思った
そして
第三に俺は恋に落ちた
ただただ冷淡なだけの男・・・最初はそういう印象だった。 しかし。
「おい、セイ」 「・・・何?アル」 紺色の長い髪を揺らしてセイ・・・セイリオスが振り返る。 俺たちは逃亡者だ。 国家反逆という大罪ゆえの。 きょとんと俺を見るセイリオスの、幼い表情からは信じられないが・・・こいつは強いのだ。 とてつもなく。 それは目によく現れている。 目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。 それ以上に濃い蒼の目の奥に秘めた悲哀の色は・・・花の様に美しかった。 「アル?」 「・・・ああ」 首を傾げるセイリオスの髪が風に舞い上がる。 「セイ。何処か行くあてはあるのか?」 俺の問いにセイリオスがまさかと自嘲気味に微笑んだ。 「俺はお尋ね者だぞ?・・・受け入れてくれる町があるとは思えない」 「何故・・・彼を殺した?」 切ない笑みを見せるセイリオスに残虐な質問を投げかける。 「・・・。・・・反抗心、かな」 少し考えてから悪戯っぽくセイリオスが笑った。 反抗心、ね。 「アルは?」 「ん?」 「アルはどうしてリルガードを捨てたんだ?」 「捨てたわけじゃない」 純粋なそれにおれは苦笑する。 リルガードを捨てた・・・それは違う。 俺がリルガードを離れたのは、俺がいなくてもこの国は大丈夫だと感じたのと、セイリオスを護りたかった。 ただそれだけだ。
「国の騎士じゃない。お前の騎士になりたかった」 「・・・俺はお前にとって憎む相手なのに?」 「まあ、そうだが」 自分が傷つくような質問をするセイリオスに俺は笑う。 今のセイリオスはあの時と同じ目をしていた。 誰かに剣を向けたときのセイリオスは切ない表情をしていた・・・俺はそう感じた。 俺が憎んでいる・・・リルガードを崩壊させたファムズ・ロッジのヤツラとは違う、純粋に平和を望む目だった。 俺はそこに・・・惹かれたのかもしれないな。
「それに。俺は護ってなんか欲しくない」 「冷たいな、お前は」 「・・・優しいほうがいいのか?」 くすりとセイリオスが笑う。 まさかと笑って細い手をとった。 ぼんやりと見つめるセイリオスの手に口づける。
ちっぽけな反抗心を抱えて明るい世界から逃げ出した俺は
悲哀を一身に背負った華の騎士になると、決めたんだ
ーー アルセイ・悲哀/冷淡・反抗心
鬱的花言葉で1日1題2章・ザーイス(枯れた白薔薇/ペラゴニウム・フラハイSSS
「なぁ、ザード」 「あ?」 何時も通りの昼下がり。 飯も食い終わって、久しぶりにイスファルとのんびり過ごしている時だった。 「なんだよ?イスファル」 「あのな」 にこっと笑ったイスファルが立ち上がる。 「俺を、殺して」 「・・・あ?」 綺麗なそれとは似合わない、唐突に告げられた単語におれは思わず絶句した。 今、なんて? 「いつか俺は暴走するかもしれない。その前に俺を殺してくれないか」 「・・・っ、なんで!」 ずっと考えてたんだ、と何でもないように言うイスファルに掴みかかる。 こいつは、イスファルは、誰よりも生きる事を望んでたはずだ。 ・・・なのに、なんで・・・っ。 「人間のまま死にたいから」 イスファルが悲しい笑顔でそう言った。 ・・・ああ、そうか。 すっと力が抜ける。 そういえば。 「俺の身体は所詮この世のものじゃない。・・・だから」 「・・・暴走しないかもしれないだろ」 「言い切れるか?『神様』だってどうしようもないのに」 イスファルが自嘲気味に笑った。 「・・・」 「この先どうなるか分からない。もうあんな・・・誰かを殺してしまった絶望を味わうのはイヤだ。なら、いっそ」
好きな人の手で葬って欲しい
そう、綺麗に微笑むイスファルは本当に綺麗で。
「・・・分かった」 「ザード」 「けど、おれからも一つ頼みがある」 「え?」 きょとんとするイスファルの冷たい手を握る。 ・・・イスファルはこんなこと望んでない。 分かってる、でも。 「おれを、殺して」 「・・・ざー・・・ど・・・?」 「イスファルが、イスファルとしての意志が在るときに、おれを殺して。そうしたらおれはあんたを躊躇わずに殺すことが出来る。・・・一緒に死ぬ事が出来る」 一緒に死のう、とイスファルに甘く囁く。 ・・・そうすれば一人ぼっちにはさせない。 ずっと、ずっと一緒にいられるから、と。 (嗚呼、おれは何て酷い男なんだろうな!)
下を向いていたイスファルがゆっくりと顔をあげる。
うん、と微笑んだイスファルの目にあるのは、希望か、絶望か。
枯れ果てた大地で育ったおれが見つけた唯一の白い薔薇が、この美しい庭園で枯れるのを望むなら
それがどんなに悲しく切ない望みでも
おれは叶えてみせるよ
ーー ザーイス・死を望む(通常は『純潔』)/切ない望み
鬱的花言葉で1日1題2章・レイロナ(イカリソウ/西洋昼顔・フラハイ/フラフロSSS
ロナードがいない。 「ロナード?」 がらんどうの部屋に呼びかけても、返事は返って来なかった。 ・・・どこだ? 何処に行ったんだ、ロナードは。
いない。 何処を探してもいない。 ふと、『あの時』の事が蘇って、背筋がぞわっとした。 『あの時』・・・ロナードが俺の前から姿を消した時。 魔植、エルディア落下、そして冤罪故の逃亡・・・。 全部だ。 全部ロナードは俺の前から勝手に姿を消した。 どうして? どうしてなんだ? 俺はこんなにもロナードを・・・! 「・・・レイナス?」 「!ロナード!」 呼びかけられたそれに振り向くと、ロナードが大量の書類を持って突っ立っていた。 小さく首を傾げて、不思議そうに。 「今までどこにいたんだ?!!」 「・・・怒鳴るな。カイゼル王の所だ」 ロナードが嫌な顔をしてみせる。 「それにしても随分遅くなかったか?」 「ああ。渡すものがあったからライの所に寄って、その後・・・」 睨む俺にロナードは何でもないように答えた。 ・・・俺がこんなにも心配してるのに。 なんで、お前は。 「・・・?レイナス?」 「・・・理不尽だとは思わない?ロナード」 「は?」 きょとんとするロナードに俺は笑いかける。 閉じ込めちゃえよ、と誰かが笑った。 (「閉じ込める?俺が?ロナードを?」) (『いいじゃん。お前がやらなきゃ誰がやるんだ?』) (「・・・けど」) (『鳥の様に飛んでいってしまうのが心配なら鳥籠に入れてしまえばいい。そう思わないか?なあレイナス』) 「・・・そうだな」 「?・・・レイナス?」 ロナードの青い目に俺が映る。 俺だけが。 嗚呼、何て至高!! 「・・・ごめんね、ロナード」 「・・・なっ・・・ぁ、レイ、ナ・・・!!」 両手が塞がっているロナードに向かって、双剣を振り上げた。
バサバサと書類がロナードの腕から滑り落ちる。 傾いたロナードの体を受け止め抱きしめて、俺は嗤った。
大丈夫、お前はこんなことじゃ死なないよ。
俺が治して、閉じ込めて、ずっと一緒にいてあげる。
なあロナード。
俺はさ、お前の眸が、髪が、心が・・・お前の総てが欲しいんだよ。
ロナード、俺は。 お前を手放したくない。 (・・・君を、離さない。)
俺にとっての幸せは
あいつにとっての不運で重い愛
ーー レイロナ・君を離さない/不運な愛
鬱的花言葉で1日1題2章・レンカイ(片栗/黄菖蒲・ボカロSSS
「存外優しいのだな、お前は」 黒を纏った彼が困ったようにそう言った。 「いやいや、僕は貴方が大好きですからね?貴方の役に立ちたいだけですよ」 そう、しれっと言って立ち上がる。 「調子に乗るな」 途端に嫌そうな顔をする彼・・・クラシックさん。 「ねぇ。あいつのどこがいいんです?」 「そう・・・だな。・・・優しいぞ」 「僕だって優しいですけども?!」 「お前の優しさはまた違うだろう?」 くすくすとクラシックさんが笑う。 まったく、楽しそうなんだから。 今クラシックさんはある人に恋をしているらしい。 僕が食べる夢に出てくるほどに、思い続けてる人。 甘い夢を食べるたびに僕はちりっと胸が痛むのを感じていた。 ・・・これが嫉妬ってやつ、だろうか。 本当に、あんなやつの何処がいいのか、とステッキを弄びながら思う。 まあその人がなかなか・・・なんて言うんだろうか。 う〜ん、クラシックさんを振り回してるというか・・・クラシックさんを不幸にしかしないというか。 現にクラシックさんはきちんと睡眠が取れていない。 僕だって食事が出来ないから困るんだけども・・・それは置いておいて。 ・・・そして僕はそんなクラシックさんに猛烈アタック中。 ま、上手い事かわされてるんですけどね。 それに僕は別にクラシックさんを困らせようと思ってるわけじゃない。 最初はただの食事だった。 ・・・それがいつの間にか恋になってた、それだけの話。 「クラシックさん」 「ん?」 クラシックさんが振り向く。 この人も大分丸くなった。 最初は僕の事『貴様』なんて呼んでいたのに。 ・・・だからそれだけで充分。 「なんでもないですよ」 にこりとぼくは笑う。 変なやつ、とクラシックさんが珍しく笑みを見せた。 言える訳がない。 食事の為に近づいた彼を。 ・・・本気で好きになってた、なんて。 「僕は貴方と夢で会えるだけで充分です」 「・・・。・・・言っていろ」 頬を染めてそっぽを向くクラシックさんはとても可愛かった。
本当に幸せだったんだ。 ・・・この時までは。
「・・・え?」 暗い部屋、ベッドに横たわったクラシックさんを僕は呆然と見下ろした。 寝てるんじゃない。 どんなに触れても、甘美な夢どころか凄惨たる悪夢すら見えてこなかった。 「・・・なんで・・・」 目を覚まさないクラシックさんの首元をつかむ。 枕元においてあった、空になった小瓶が滑り落ちた。 どうして。 どうして貴方は僕に何の相談もなくこの毒薬を飲んでしまったんですか・・・? 「・・・答えてくださいよ、クラシックさん・・・」 嗚呼、僕は。 こんな結末を見るために身を引いたんじゃないのに・・・。 『信じてるんだよ、私は・・・あいつを』 いつも呆れた顔か怒った顔しか見せなかったクラシックさんが初めて僕に見せた優しい笑みを思い出す。 それと同時に思い浮かぶのはクラシックさんが好きな「あいつ」の顔。 ・・・赦さない。 僕は月を睨みつける。 彼が死んだわけじゃないのは頭では理解していた。 でも、話せないなら意味はない。 街で聞いた噂では、毒薬の解毒剤が見つかれば目を覚ますかもしれない、とのことだった。
でも。
そんな事どうでもいい。
ベッドの横にあった花瓶を叩き落す。 床に散らばった花をぐしゃりと踏みつけた。 クラシックさんをこんなにしたやつを僕は許さない。 ・・・そうだ。 『彼』をどうにかすればクラシックさんは僕だけを見てくれますよね? ねぇ、クラシックさん。
・・・貴方をこんなにした『彼』に復讐を。
ーー レンカイ・嫉妬/復讐・信じる者の幸福 *トリッカー×クラシック
鬱的花言葉で1日1題2章・CA(キンリュウカ/シラン・終プロSSS
いつからだろう。
オレと、A弥がこうやって一緒にいるようになったのは。
人付き合いが苦手なA弥、地味で目立たないA弥。
・・・オレがいないとダメな、A弥。
いつからだろう。 小さい頃は対等な関係だったはずなんだ。 いつからなんだろう。 いつからオレたちの関係は、こんな風になってしまったんだろうか・・・。
学校から帰ってきて、自室のPCをつける。 PCの画面上にはさっき別れたA弥の姿が浮かび上がっていた。 A弥はケータイに何かを打ち込んだ後、珍しく制服を着たままベッドに横たわる。 あーあ、制服にしわが出来ても知らないぞ? まったくしょうがないなぁ、A弥は。 本当にA弥はオレがいないとダメだよね。 そう笑ってから、俺はカメラの位置を変えた。
・・・本当はこんなこといけないって分かってる。 いつのまにか目を閉じて・・・どうやら眠ってしまったらしいA弥の顔を見つめながらオレは思う。 隠しカメラなんてやりすぎだと、頭では理解してるんだ。 でもしょうがないだろ? A弥は籠の中の鳥じゃないんだから。
昔はただただA弥が心配で。 A弥はオレが守るんだって思ってた。 今は? もちろん今だってそうだ。 A弥はオレが守る。 オレが・・・オレが。 でも子どもの頃みたいにA弥はオレの傍にずっといるわけじゃない。 だから、A弥をこうやって見守るにはこの方法しかないんだ。 これはA弥を守るのに必要な事。 そうだ、これはA弥を守るためなんだよ。
(ほんとうに?)
誰かにそう言われた気がしてオレは勢い良く振り返った。 窓に映っていたのは焦ったようなオレの顔。 「・・・なんだ・・・?」 誰もいない空間に問いかける。 確かに声が聞こえたんだけど・・・外の雑音かもしれないな。 『・・・ぅ、あ・・・』 「・・・A弥?」 パソコンの中からA弥の苦しそうな声が聞こえてオレはまたそっちに向き直った。 ぎゅうと身体を丸めて・・・なんだ? 『う、うぅ、うぁ・・・!』 「A弥!」 A弥が怖い思いをしてる。 どうやら夢を見ているらしい。 それも、悪い夢。 オレがA弥を助けなきゃ。 だってあいつにはオレしかいないんだから。 そうだろう?A弥。
ああ、まったく、A弥はしょうがないなぁ!
苦しそうなA弥を起こすべくオレは慌ててケータイを取り上げた・・・。
(花が揺れる、その前を黒猫がすり抜けた
・・・初夏の前、二人の少年は予感を感じていたんだって)
ーー CA・捩れた関係/不吉な予感
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