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R18を超えていけ!(彰冬)
「…なあ、ミク。この歌詞なんだが…」 「はいはーい。えっとねー」 いつものセカイ、いつものMEIKOの店で、割と珍しい光景が繰り広げられていた。 ミクと冬弥がこちらに気付くこと無く話し込んでいる。 普段はどちらかが気付くものだが…。 ここでイタズラ心がむくむくと湧いた。 少し、ほんの少しだけ脅かせば彼はどんな顔をするのだろう。 そぅっと背後に回り…冬弥が持っている楽譜のタイトル部分が目に入った。 それに目を見開く。 「…冬弥っ!」 「っ?!彰人?!」 思わず大声で呼び、目を見開いて振り仰ぐ冬弥に、ああそんな顔をするのかと思う暇もなかった。 だって、そのタイトルは。 「R-18ってなんだよ!!」 「…は?」 彰人の渾身の叫びに、冬弥がぽかんとした。 R-18、匂わせるなんてこともない、モロにそのままなタイトル。 どこで歌うつもりだったかは知らないがそんなことは許さない。 そんな、誰が、オレの冬弥にそんな歌詞を紡がせてやるものか…! そう息巻く彰人とは正反対に冬弥は呆れ顔だ。 ミクがくすくす笑い、彰人の袖を引っ張る。 「…あのね、これ…『ルート18』って読むんだよ?」
「…タイトル詐欺じゃねぇかよ…」 はぁあ、と彰人がため息を吐く。 まさかの、国道18号線を自転車で走る歌、だとは誰が思うのだろう。 「…反省したか」 と、冬弥が呆れ顔でやってきた。 歌詞の件はもう良いらしい。 「はいはい、反省しましたー。…んで?今日は終わりか?」 「…それなんだが」 軽く返し、冬弥に振ってみれば彼は少し困った顔をした。 「…彰人、自転車は持っているか?」 「…そりゃあ、まあな」 唐突なそれに疑問符を浮かべながら答える。 そうか、と少し寂しそうな冬弥曰く、今回の歌が自転車こいでひたすら走る、という爽やかな歌詞なのに、自転車自体にロクに乗ったことがないらしいのだ。 昔からクラシック一筋で、厳しく教えこまれてきた冬弥は手を怪我してはいけないと禁じられてきたようで。 「あまり、感情移入出来ないんだ」 目を伏せる冬弥に、なるほど、と思う。 彼は完璧を目指すタイプだ。 彰人と並べる様にと頑張っている冬弥が努力を惜しんでいないのは知っている。 …だったら。 「…乗れば、いいんじゃねぇの?」 「え?」 「なんならオレの後ろ、乗せてやるけど」 驚く冬弥にそう言って笑った。 「流石に国道18号線までは行けないけどさ、好きなトコ連れてってやるよ」 「…!…すまない」 「おー」 ふわ、と表情を緩める冬弥に彰人はひらひらと手を振った。 自転車に乗るように、彼の思いが軽くなれば良いと思う。
「…彰人、速くないか…?!」 「んなことねぇよ。つかくっつき過ぎ。曲がれねぇだろー?」 「そんな、こと言われても…!」
焦る冬弥の声をBGMに、風をきった。 背中から伝わる温もりと、とくとくと聴こえる心音が心地良い。 「坂来るぞー、落ちるなよ!」 「えっ、まっ、まて、彰人!」 「待てるかっての!」 ふは、と笑い、坂を下る。 ひっと引き攣る声に背に掴まる力強い手。 …彰人の手を取ってくれた、手。 それだけで良い。 引っ張って、横に並んで、二人で走れば良いのだから。
『自転車こいで、ひたすら走る!』
(その先に二人の未来があると信じて!!)
秋、教室の片隅で(彰冬)
誰も居ない教室の片隅。 「ほらよ」 テスト用紙を広げドヤ顔の男と。 「…」 困った顔の男がそこに居た。 ドヤ顔の男は東雲彰人、困った顔の男は青柳冬弥という。 放課後、冬弥の教室に乗り込んできた彰人はぽかんとする彼の前でこれを広げてみせた。 藍鼠色の瞳が珍しく見開かれるのを見、彰人はますます得意げな表情になる。 「約束は果たしたぜ」 「…」 「おい、冬弥?」 「…分かった」 彰人のそれに冬弥は小さく息を吐き出した。 言い出したら聞かないのは重々承知だ。 何故こんなことに、と思うもそれはどうしようもないことで。 ことの始まりはニ週間前のことだった。 中間テストが始まるというのに相も変わらずヤマ勘で何とかしようとする彰人に「全教科80点以上取ったら何でもしてやる」と告げたのが不味かったのだ。 「…本当か?」 「ああ」 「何でも?」 「ああ」 「…二言はねぇな?」 「…だから、そう……」 随分念入りに確認してくるからいい加減鬱陶しくなって眉を寄せる冬弥に彰人が言ったそれは。 「なら、冬弥からのキスが欲しい」 「…分かっ…は?」 一瞬、快諾しそうになって固まった。 何を、言い出すのか。 「…今、何と」 「だから、冬弥からのキスだって」 聞き返す冬弥に、彰人が笑う。 最近になって付き合い始めた彰人とは、何度かそういうことはしていた。 だが、いつもリードを取るのは彰人からで。 恥ずかしいのもあるが、彰人に求められるのは嬉しくもあったから冬弥から何か起こすことはなかったのだが。 「…それで、勉強するなら」 わくわくと、まるで子犬みたいな表情で見上げる彰人に拒否することも出来ず、冬弥はゆっくりと頷いた。 「…っし!見とけよ、オレの本気!」 ニッと笑う彰人にまあ良いか、と思ったのが…いけなかったのだ。 有言実行、全教科80点以上で揃えてきた彰人に、普段からそうすれば良いのに、なんて如何だって良いことが過ぎる。 「…なぁ、冬…」 少しばかりムッとする彰人の方へ身を寄せた。 カタン、と椅子の音が鳴る。 触れるだけのキスを落とし、これで良いだろう?と小さな声で言った。 これ以上は勘弁して欲しい。 秋風が真っ赤に染まった冬弥の耳を晒した。 「…いや、お前、それワザとだろ…」 「…何がだ」 はあ、と深い溜息を吐く彰人に今度は冬弥がムッとする番で。 「だーから、煽んなっつー…!」 「…俺は煽っていない。…彰人!」 「はいはい、言い訳は後で聞いてやっから」 な、と笑う彰人の顔が近づいて来て、思わず目を閉じる。 夕暮れ、染まる教室に二人きり。 響くチャイムがどこか遠くに聞こえた。 (冬弥が彰人に染められるまで、後数分)
天使の日 ラセタバ
天使の日 ザクカイ
天使の日 司冬
「司くんは、天使を見た事があるかい?」
唐突なそれに思わずぽかんとする。 おや、と不思議そうに首を傾げるのは神代類だ。 「聞こえなかったかな?」 「…いや、聞こえている。聞こえているからこその反応なんだが…」 「それは良かった」 若干ぐったりとそう言えば、類はにこりと笑った。 何が良かったのだろうと思いながら、天馬司は、で?と聞き返す。 彼の突拍子もない発言は慣れっこだ。 「何故いきなり天使なんだ」 「ハロウィンも終わってしまったし、次のイベントといえばクリスマスだろう?だから、次のショーは騎士と天使のはちゃめちゃ譚を考えているのだけれど」 「ふむ、それで天使か」 「ちなみに、天使の日は10月4日らしいよ」 「大幅に過ぎたな!!…で、オレの天使イメージが聞きたいと?」 首を傾げれば類が機嫌良さそうに笑った。 「僕が書くと、どちらかと言えば悪魔寄りになってしまってねぇ。天使はイタズラ好きな子も居るから、それはそれで良いんだけど」 「…お前が悪魔寄りだからではないか?」 少し遠い目をすれば類が小さく肩を揺らす。 「失礼だなぁ。せめて、妖精と言ってもらえるかい?」 「自分で言うな!…しかし、そうだな」 類にツッコミを入れてからふと宙を見た。 脳内を回転させ…思い出す。 「…オレは、天使を見たことが、ある」 小さく呟いた、その記憶。 そう。 確か、あれは……。
「…迷った」 先程も見たことある景色に司は、ぼんやり呟いた。 ピアノの発表会の時間まであるからと探検に出たのは愚策だったかと天を仰ぐ。 まあ良いかと近くの塀によりかかった。 まだ自分の出番まで時間はある。 塀によじ登れば会場であるホールが見えるだろうか、なんて思っていた…その時。 「……っ!うわっ!」 「…へ??」 自分の身長よりもかなり高い位置から声がする。 見上げた司の目に映ったのは…天使だった。 スローモーションで落ちてくる天使から目が離せない。 きらきら光ってそれでいて。 「って、危ない!」 あと数秒でぶつかる!と慌てて手を伸ばす。 「…つー……」 「…う……」 幼い司に人1人を支える訳もなく、尻もちを着いてしまった。 だが、怪我をしたわけではない。 目の前の天使も無事なようでホッとした。 「…大丈夫か?」 「…ぅ、え…?」 灰色の瞳を涙に滲ませる天使に声をかける。 「…ご、ごめん、なさ…!」 「気にすることはない!オレは将来ヒーローになる男だからな!」 オロオロする天使に自信満々でそう言えば、ポカンとする表情を見せた。 それにしても、と思う。 ふわりと揺れる髪や白い肌、綺麗な瞳…それに透き通るような声。 やはり天使だったか、と司は考えながらニッと笑って手を差し出した。 「オレは天馬司だ!覚えておくと良い!」 それにおず、と手が出される。 ぐっと引いてその手を取り、ニコニコと笑いかけた。 天使の小さな口が開かれる。 ほんの少し、馴れない笑顔を…浮かべて。 「…青柳、冬弥…です」 天使が、名を…告げた。
そういえばそんな事もあったなぁと思う。 天使こと、青柳冬弥は当時ピアノの発表会が嫌で反射的に逃げ出してしまったらしく、高いところが苦手なのに塀に登り、降りられなくなっていたそうだ。 怒られる、と怯える冬弥が可哀想で、オレに振り回されたことにすれば良い!と言ったのは記憶に新しい。 それからなんやかんやあって仲良くなり、今では先輩と慕ってくれる、可愛い後輩だ。 「…司先輩」 「…冬弥」 小さく微笑む冬弥がこちらに歩いてくる。 どうしたのかと聞けば何やら本を差し出してきた。 「これは、オレが読みたいと言っていた本か!」 「はい。少し分かりにくい位置にあったので…見つかって良かったです」 ふわりと笑みを浮かべる冬弥に、やはり天使のようだな、と思う。 「…?司先輩?」 「うん、冬弥はオレの天使だな!」 「…?!!」 首を傾げていた目の前の冬弥が、分かりやすいほど真っ赤に染まった。 …何かまずいことを言ってしまったろうか。 「…司くん、存外ジゴロだよねぇ…」 「む、なんだ急に」 呆れたような類に眉を寄せる。 別に?と躱そうとする類を問い詰めようとした…その時。 「…なぁにしてんスか、司センパイ?」 悪魔のような声がする。 ぐぎぎ、と鈍い音が己の首から聞こえる…気がした。 「…彰人…」 「…彰人、先に行っていてくれて良かったのに」 耳をまだ赤く染めたままの冬弥が凄い顔の東雲彰人に言う。 「お前が遅いからだろ」 「…そんなことは」 困ったように言う冬弥とこちらを睨む彰人に、過保護なやつだなぁなど呑気に思っていれば、何故だか類が考えた素振りをし。 「…騎士は悪魔から天使を護るべく、抱え上げ、駆け出したのでした」 「ん?」 「は?」 「え?」 唐突な類のそれに3人ともポカンとしていたが、ほら、なんて言われてしまえば役者としては従うしかなくて。 「…すまん、冬弥!!」 「…っ?!司先輩?!」 ひょいと、抱え上げ、教室を出て廊下を走る。 数秒遅れて廊下に響く彰人の声。 何故こんなことに、なんて思いながら怯える冬弥が可愛いだなんて、不謹慎なことを思った。
後日、様々な噂になることを…全員まだ知らない。
(騎士は随分昔から無自覚に恋をしていた天使を、ただ護りたかっただけなんです!)
頭を撫でられる冬弥の話(冬弥総受け)
普段と変わらない、強いて言えば肌寒さが無い気がする…とある朝。 類は学校への道を一人、黙々と歩いていた。 あまり人がいない通学路に見たことがある後ろ姿を見つける。 「やあ、おはよう。青柳冬弥くん」 声をかけ、にこ、と笑えば振り向いた彼も僅かに頬を緩めた。 「…おはよう御座います、神代先輩」 「今日は随分急いでいたのかな?寝癖が付いたままだよ」 「…え」 類の指摘に冬弥ははたと固まる。 どうやら気づいていなかったようだ。 小さく笑いながらぴょんと跳ねた濃い髪に手を伸ばす。 …びく、と震える彼を見なかったことにして、その髪を手で押さえつけながら弄び、スッと下へとおろした。 まるで頭を撫でるように。 青鼠色の目を見開く冬弥に笑みを作る。 「フフ、僕が直してあげよう」 「…。…ありがとう、ございます」 ふわりと笑む彼に、無言の許可を得、類も表情を緩めた。 素直で可愛らしい子だと思う。 さらりとした髪は何度か撫で付ければ元に戻り、こんなものかな、と手を離そうとした…途端だった。 「こらぁ、類!!オレの冬弥に何をしている!!」 渾身の声に振り向けば眉を吊り上げた司が走ってきていて。 「…司せんぱ…?!」 「おや、司くんじゃあないか」 ぐいっと腕を引かれた冬弥が類から離れる。 司に抱き止められた彼は目を白黒させていた。 「…あ、の」 「冬弥、大丈夫か?類に変なことをされていないか?」 「フフ、司くんは存外失礼だよねぇ。僕がそんなことをすると思っているのかい?」 心配そうに冬弥の頭をなでている司に笑いながら言えば司がキッとこちらを見る。 「するだろうが、オレには!」 「だって、司くんだからね」 「理由になっとらんわ!…まったく、可愛い冬弥を類の毒牙に晒す訳にはいかん」 にこっとわざとらしく笑えば司は、そういうところだぞ!と言った。 類にとっては慣れたものだが、冬弥はそうではないようで。 「…司先輩。神代先輩は俺の髪を直してくれていたんです」 「なにっ?!」 「ほら、だからそう言っているだろう?」 困ったように言う彼に大袈裟に驚いてみせる司、そして肩を竦める類の構図が出来上がった。 「それはすまん。…いや、まあ類には前科がだなぁ…!」 「あ、酷いなぁ、司くん。ねぇ、冬弥くんもそう思うだろう?」 くす、と笑いまた彼の頭に手を伸ばす。 「こらっ、どさくさに紛れて冬弥を撫でようとするな!」 「えー、良いじゃないか。君自身はどうだい?」 文句を言う司に意を唱え、冬弥に振れば彼は柔らかく微笑んだ。 「…俺は…幼少期から頭は撫でられたことなかったので…少し、くすぐったいです」 「む、オレは撫でていたぞ?」 「そうですね。…周りの大人に、です」 寂しげに笑む冬弥に類と司は同時に手を伸ばす。 「ならばその分今たっぷりと撫でてやるからな…!」 撫でながら言う司に彼は小さく笑った。 「…ありがとう御座います、司先輩。先輩の手は優しくて…心が暖かくなります」 「僕はどうだい?」 「神代先輩の手は大きくて包み込んでくれて、とても…心地良いです」 類の問いにも素直に答える彼に、嬉しくなって撫で回していればどこからか殺気を感じる。 司も感じたようでキョロキョロと辺りを見回していた。 「…何やってんだよ…」 背後から低い声がする。 振り返れば、彰人がこちらを睨んでいた。 「おや。君は」 「彰人、…何故そんなに怒っているんだ…?」 司のそれに大股で歩いてきた彰人が冬弥の腰を抱く。 「冬弥は!オレの相棒なんスよねぇえ!」 凄みながらきっぱりと言う彰人に、類と司は顔を見合わせた。 さてどうしようかと思っていれば、腕の中の冬弥がこてりと首を傾げる。 「…彰人も、撫でてみたいのか?」 「…はっ?!」 思いもよらぬそれに、彰人が素っ頓狂な声を出した。 だが、彼はそれに気づいた様子もなくほんの少しだけ頭を前に出す。 所謂、撫でられ待ちのポーズに彰人ははぁ、とため息を吐いた。 「…いや、頭撫でるとかなんつーか…対等じゃないだろ…」 「…?」 「なら代わりにオレが…」 「いや、それとこれとは話が別ッスね」 手を伸ばす司にきっぱり言って彰人は躊躇しながらもそっと冬弥の頭に手を乗せる。 僅かに左右動かした手をすぐに下ろした。 だがそれだけでも嬉しかったようで、冬弥の表情は僅かに緩んでいて。 「…彰人の手、だな。安心する」 「…んだそれ」 気恥ずかしそうにふいとそっぽを向く彰人に、類は笑いながらまた冬弥に手を伸ばした。 「じゃあ次は僕の番かな」 「ズルいぞ、類!オレも冬弥を可愛がりたい!」 「アンタらなぁ…!!」 ぎゃーぎゃーと彼を囲んで揉めていれば、中心にいる冬弥が肩を揺らす。 幸せそうに笑う冬弥を見て、まあ良いかと思った。 他の二人もそうなのだろう、呆れてはいるが文句の一つも出てこない。 柔らかい冬弥の笑みが見られるならば…今はそれで!
(いずれは自分が勝つと信じて止まない少年たちの、水面下の攻防はまだまだ続く!)
「あれっ、冬弥くん?類に司先輩に、弟くんも!何楽しそうなことしてんのさ。ボクも混ぜてよ!」 「俺の頭を撫でるだけだが…暁山がやりたいなら、別に」 「「「冬弥(くん)!!!!」」」
ザクカイ♀
アキカイ♀
お月見ラビット(閑タバ)
うさぎうさぎ 何見て跳ねる?
「おっ、先生!」 ふわふわとした声に振り向くとタバサが何かを抱えて手を振っていた。 「流石の先生も昼も夜も寝っぱなしじゃないんだな」 「タバサはたまに失礼なことを言うのう」 「ふふ、ごめんって」 駆け寄ってきてそう言うタバサに笑顔で返せば、カラカラと機嫌良く笑う。 構わんよ、と言い、ふと彼の頭にある珍しいものが気になった。 「…タバサ。それは何じゃ?」 「ああ、これか?今日は十五夜だからお月見をしようってガーデニアが…」 「そっちではなく、こっちじゃよ」 それ、を手の中のそれと勘違いしたらしいタバサの説明に首を振り、つい、とフードから伸びる耳を引っ張る。 きょとん、としたタバサが、またへにゃりと笑った。 「前に赤の羅針盤で拾ったやつだよ。ガーデニアがさ、どっから聞いてきたのか『お月見にはうさぎだよね!』とか言ってさぁ。被せてくるから仕方なく」 「…断ればよかったのではないかのう…?」 「一緒に被せられたコーディに、『脱いだらタバサにプラントサプライズかけるわ』って脅されたら黙るしかないだろ?」 ふわりと首を傾げるタバサの、被せられたウサギ耳が揺れる。 二人とも脱げば良い話では、と思ったがその考えはないようだ。 …優しいな、と思う。 ラッセルの作り出した…タバサとコーディは。 「なあ、先生。なんでお月見にはうさぎなんだ?確か東の国の伝説だよな」 首を傾げるタバサに、確か、と空を見上げる。 それは…そう。 昔々の言い伝え。 物語に近い、とある伝承。
『昔、あるところにウサギとキツネとサルがおりました。ある日、疲れ果てて食べ物を乞う老人に出会い、3匹は老人のために食べ物を集めます。サルは木の実を、キツネは魚をとってきましたが、ウサギは一生懸命頑張っても、何も持ってくることができませんでした。そこで悩んだウサギは、「私を食べてください」といって火の中にとびこみ、自分の身を老人に捧げたのです。実は、その老人とは、3匹の行いを試そうとした帝釈天という神様。帝釈天は、そんなウサギを哀れみ、月の中に甦らせて、皆の手本にしたのです。』
「…と、まあ、そういう具合じゃな」 「…へぇ……」 指を立てれば、タバサの口元がひくりと動いた。 飼育員、という立場からすれば創作とはいえあまり良いものでもないのだろう。 「…しかし、なんじゃ、タバサはうさぎに似ておるのう」 「え、今の話してからそれ言う?」 困惑したような表情の彼に笑ってみせる。 「今の話をしたからこそ言うんじゃよ」 「えー…。俺そこまで自分を犠牲にしないぜ?」 「しかし、もし、誰かが困っていれば自分を差し出すじゃろ?」 「うん??」 うさぎ耳を揺らして不思議そうな顔をするタバサに笑って続けた。 「仲間の命か自分の命か。天秤にかけた場合、仲間の方を取るじゃろ。…それに、タバサは美味しそうじゃしのう」 「…うん…??」 混乱しきり、といった様子のタバサの、手に持っていたそれから団子を一つ取り上げた。 「あっ、こら、先生!!」 焦って声を荒らげるタバサの口にそれを放り込む。 綺麗な海色の目がいっぱいに見開かれた。 「…ふっ…」 口付け、中の団子を半分こちらの口に入れ込む。 「ほうら、これで共犯じゃよ、タバサ」 「…。…ちゃっかりしてんなぁ、もう」 そう、悪い顔をして見せればタバサは頬を赤らめながらも特に起こることもなく呆れたように言った。 やはり彼は美味しいな、と思う。 …こうやってすぐ隙を見せてしまうから。 この世界は…ラッセルが作り出したものなのだと言う。 ラッセルが殺した人たちをもとに作り出された世界。 …ラッセルが罪悪感を覚えるよう作り出された世界。 終わりにしたい、とラッセルは言っていた。 だが、それを止めたのは…閑照の方。 (おじいさまを殺せなかったわしに、そんな事出来るはずもなかろうて) 必ず殺すと嘯いて、この世界を維持させている。 何も知らない、哀れな仔うさぎにも似ているタバサを…好きになってしまったから。
月のラビットよ、居るなら如何か叶えておくれ
…わしはの、まだ夢を魅ていたいんじゃよ
ラッセルが創り出した、都合の良い夢とやらを
「先生?」 タバサが首を傾げる。 秋風にうさぎの耳が揺れた。 「タバサ、足元に毛虫が…」 「うわっ?!」 ぴょん、と跳ねる彼の手から団子が零れ落ちそうになる。 慌てるタバサの、くるくる変わる表情が…いつまでも傍にありますように、と…願った。
うさぎうさぎ 何見て跳ねる?
(ラッセルが作り出した、赤い月を見て跳ねる)
中秋の黒猫(ザクカイ)
「お月見をしよう」 さて誰が言い出したのか分からないそれは、珍しく全員を巻き込んだ行事となった。 花見もやったのだから、と言われてしまえばまあそうかとも思わなくもなかったが。 「…十五夜はもう少し先ではなかったか…??」 先程伝えそびれたそれを呟いたザクロは小さく溜息を吐く。 確か、十五夜は年に寄って日付が変わるらしいのだ。 今年は10月1日だったような、と思いながらもまあ皆が楽しそうなら良いか、とも思う。 しかし彼はどこに行ったのだろうかと上を見た。 先程からカイコクを探しているのだがまったく見当たらない。 全員で月見を、と言われているのに一体どこへ、と息を吐いた…その時。 「ひっ、うわぁあっ?!」 「…は?!!」 短い悲鳴と共にカイコクが月から降ってくる。 目を見開き、無意識に手を広げた。 「…つー…。…あ、忍霧」 「…重いんだが…?!」 「…お前さんが勝手に俺の下にいんだろうが…っと」 自分より背も高く体重もそれなりにある彼を支えようなんて方が無理で、重く鈍い痛みに文句を言ってやればカイコクはあっさりそう言う。 よっと、なんて軽くしなやかに立ち上がる彼をブスくれた目で見つめた。 「んで?お前さんは何しに来たんでぇ」 「月見をやると言うから、逃げた貴様を探しに来てやったんだが?」 「…わざわざご苦労なこって」 嫌そうにカイコクが言う。 ザクロを認め、木の上にでもいた彼は逃げようとして足を滑らせたのだろう。 運動神経は良いくせに、と呆れながら…ふと思う。 追いかけられるのは嫌いではある彼だが…はて月見もあまり好きではないのだろうか。 そう思ったのはカイコクはなんだかんだ律儀だからである。 花見もキャンプもイベントも、何のかんの言いそうな割には毎回きちんと出ているのだ。 ザクロが嫌だからと言って逃げたりはしなかったのに。 「…鬼ヶ崎。月見は嫌いか?」 「嫌いつーかまあ…」 言葉を濁す彼をじぃっと見つめれば最初は嫌そうにしていたカイコクがホールドアップの姿勢を取った。 「わーった。…月見にゃ団子だろう」 「…?まあ、定説はそうだな」 「大体は味がねぇ。だから餡子をつける。俺はそれが嫌なんでぇ」 本当に嫌そうな表情の彼に、そんなことで、と言いかけてやめる。 カイコクは甘いものが苦手なのだ。 ザクロとて辛いものは苦手だから、味覚如き、と言えないのである。 代わりに持ってきた魔法瓶を差し出した。 「…?何でぇ」 「開けてみろ」 首を傾げる彼にそう言えば素直に受け取り蓋を開ける。 「…!こりゃあ」 「…。伊奈葉に感謝するんだな。貴様が甘いものは苦手だと知ってわざわざ作ってくれたのだから」 目を見開くカイコクに言ってやり、瓶を取り返してコップ部分にそれを注いだ。 中に入っていたのは白玉入りの豚汁で。 これなら皆さん食べられますよね、と笑っていた彼女は想像に難くなかったのだろう、カイコクも小さく笑う。 「…ここまでされちゃあな」 コップを受け取り、それを口に含んだ。 途端にびくりと肩を震わせる。 「っ」 「どうした?」 「…いや、熱かっただけでぇ。味は美味い」 「そうか」 「伊奈葉ちゃんに礼を言いに行かねぇと…忍霧?」 ふわり、と首を傾げるカイコクをぐい、と引っ張り、マスクを外して口付けた。 「…っ!ふ、ぁ、ん…」 甘いものが嫌いなくせに、いとも簡単に甘くとろける彼が、可愛いな、と思う。 「…は…。…何すんでぇ!」 口を離した途端、キッと睨むカイコクにザクロはマスクを押し上げた。 「火傷をしたようだからな、舐めてやろうかと」 「…お前さん、何処でそんな…」 「さあ、何処だろうな」 呆れた顔のカイコクに含み笑いをしながら言えば彼はムッとした顔をし。 「おわっ!だから重いと…!」 「まだ口の中が熱いんだが?…責任取ってくれるよなぁ?忍霧??」 ザクロを押し倒し、蠱惑的に笑うカイコクに最初は睨んでいたが諦め、再びマスクを下げた。 こうなれば意地でも退かないだろう。 この可愛らしい黒猫は。
月にはうさぎが定説だが、カイコクはどう見ても猫だ。 自由で優雅で、それでいて甘えべたの。 夜に映える黒猫は、秋の綺麗な月に照らされ…やがて暗闇に解けた。
(その後はどうなったかって?
それは月だけが知っている)
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