秋祭りザクカイ

エクストラステージ:ひとり鬼ごっこ(ナカゲノ男子×カイ♀)

「ひっ、ゔ…ぅう…ゔ…っ!」
あれからどれくらい経ったのだろうか。
道具から解放されたと思っていた彼女を待っていたのはグロテスクな触手だった。
体力の無くなった躰を蹂躙する触手から逃げ、先程はなかった扉の前でへたり込む。
あと少しなのに。
あと少しなのに出られない。
扉の鍵はパカが持っているから開きようもないのだ。
そんなこと…知っていたはずなのに。
「…カイコッちゃん?」
優しい声に緩慢に上を向く。
開いたドアの向こうにはマキノが立っていた。
何故彼がここに、と回らない頭で思う。
「…あ、い…かわ?」
「…よか、った」
弱々しく名を呼べば、ふわり、と抱きしめられた。
「…探した、よ」
「…うん」
触れる、人肌に安心して身を任せた…瞬間。
「ぅう?!!んぐ、ぅ…!」
何かを飲まされ、カイコクは目を丸くする。
マキノの行動が割と突拍子もないのは今更だが…これは何なのだろう。
不安げに目を揺らすが、マキノは微笑むだけだった。
こくん、とそれを嚥下すれば彼は偉いね、と頭を撫でる。
背を駆ける悪寒にカイコクはマキノを見上げた。
彼は、こんな笑みを浮かべる少年だったろうか?
「…待ってて」
「…?!ま、って…逢河…!」
手を伸ばすがマキノはそれを振り切って駆け出す。
追いかけようにも躰が動かなかった。
「…んだよ、マキノが先に見つけてたのかよ」
「…く、どう?」
「そういうルールだろう?…まったく、何故そんなところにいるんだ、貴様は」
「…おし、ぎり」
程なくしてやって来た二人はよく知る彼等で。
それなのに、怖い、と思った。
「んじゃーマキノからな」
「…は……?」
アンヤのそれにカイコクは目を白黒させる。
「…なん、の…話…でぇ…」
「なあ、鬼ヶ崎。俺達は怒っているんだ。一人で行動して、あまつさえ触手や玩具に躰を好き放題されて」
「…そ、れは!!」
ザクロの淡々とした言葉に、彼女は縋るように見上げた。
だが、彼等は非情で。
「んぐぅ?!!」
「…お仕置き、だよ。…カイコッちゃん」
言い訳さえ聞くまいと開いた口に性器がぶち込まれる。
喉を突くそれに咽る隙も与えず、マキノはカイコクの頭を掴む。
「…なら俺はこちらだ」
「オメー悪趣味だよな」
ケラケラ笑うアンヤが膣を、少しムッとするザクロがアヌスをくちくちと弄りだした。
嫌だ、と悲鳴も上げられない。
「~~~っ!!!」
唐突に声なき悲鳴が霧散した。
入り込んできた2本の性器は彼女のそれぞれの穴を蹂躙する。
怖い、痛い、なんで、どうして。
味方だと思っていた彼らの裏切りはカイコクの心を壊すのに十分で。
「…ぅぐ、ぁ、ひっ、ぁっ、ご、めん…なさ…っ!げほっ、ぉごっ、ふぁっ、あっ、あ…!!」
喘ぎ、恐怖の心を押し殺しながら謝罪し、もう止めてと懇願する。
「なぁ、鬼オンナ。オメーさ、勘違いしてねぇ?」
「…ぅ、え?」
深く突き上げながらアンヤが嗤った。
…彼は、こんなに下衆に笑うだろうか。
「許される事案はとっくに超えている。貴様は同等の立場ではないんだ。…鬼ヶ崎」
結腸を抉じ開けながらザクロが囁く。
…彼はこんなに酷い事を言うだろうか。
擡げる疑問は少し考えれば分かるはずなのに今は彼等に従うしかなくて。
出す、と言う声は…誰のモノ?
「…!!げほっ、ごほっ…ぁあ、あ…ぁ、つ…いぃい!」
ぎゅぅう、と躰を縮こませて悶えるカイコクに、容赦なく刺激が襲う。
「ぃやっ!や、め、…ねが、ぃい!!ぃきたく、ねぇ…やっ、ぁあ、あぁあァ!!」
クリトリスや乳首をこねくり回され、彼女はびくっびくっと躰を震わせた。
無理矢理潮を吹かされボロボロと涙が落ちる。
引き抜かれ、ぐったりとしたカイコクの綺麗な髪を掴んだのは…ザクロだった。
「舐めろ」
「…お、しぎ、りぃ…も、無理でぇ…!」
「何故一回で終わると?俺達は3人居るのに」
泣き言を訴える彼女にくすくす、とザクロが嗤う。
それは言外に、このループは終わらせない、と伝えていて。
拒否権などもちろん無くて。
…カイコクの…細く白い手は、助けを求めるその手は、ふわりと浮かび、そのまま落ちた。


それからどれくらい経ったか。
あれから順々に犯され、部屋にあった大量の玩具を全て使われ…意識は朦朧とするカイコクの元に一人の少年がやってくる。
いつのまにか3人はいなかった。
「…い、りで…?」
ボロボロに…精神的にも肉体的にもボロボロになった彼女がそちらを見る。
「…カイコクさん」
「…。…お前さん、も…俺、を…犯す、のかい…?」
近づく彼、アカツキに、彼女はどこか諦めた目を向けた。
そんなカイコクを、アカツキは抱きしめる。
「…よく、頑張りましたね」
「…ぇ」
「待たせて、ごめんなさい」
ゆっくりとアカツキは彼女を撫でた。
腕の中のカイコクは気が抜けたようにそれを享受する。
「もう、大丈夫ですよ?俺が…いますから」
「…っ!…ゔぅうっ…!…も、う…いや…だぁ…っ!!」
ボロボロと涙が溢れるのが止められなかった。
恐怖に歪み切った感情は理性を振り切って涙となる。
「た、すけに…来てっ、くれたって…思っだ、のに…!」
「…はい」
「…おし、ぎりもっ!くど、うも!!…あ、いか、わまで…わたっ、わたし、おれ…っ!!」
「…はい」
一人称がぐちゃぐちゃになるほど追い詰められた彼女の頭をアカツキがそっと撫でた。
抱き上げられたカイコクはどこかの部屋に連れて来られる。
どこだろう、なんて思う暇もなく、ただただ安堵だけが身体を包んだ。
「あれはね、夢ですよ」
トサリとベッドに寝かされ、カイコクは蕩けた声で「…夢?」と聞き返す。
「そう、夢です」
優しく笑うアカツキが、揺らめく彼女の手を取った。
不安げに見上げるカイコクに、カイコクさんは存外甘えっ子ですねぇ、なんて笑う。
「全部、夢なんです。…不器用な忍霧ザクロも、ぶっきらぼうな駆堂アンヤも、優しい逢河マキノも…無邪気な笑顔を見せる入出アカツキも全部…ね」
「…ぇ?」
嗤う、彼にカイコクは固まる。
何を言っているのかと怯えた目を見せた。
「自分に甘い、綺麗なだけの夢は楽しかった?…『カイコクさん』」
「…っ!!!…誰だ、きさ…ま…!」
その言葉に目を見開き、彼女は彼から距離を取ろうとする。
だがそれは無謀なことでしかなくて。
「…マダラメ、とでも呼んでもらおうかな。可愛い俺のお人形さん?」
「…マダ、ラメ…??」
躰を押さえ込むアカツキ…「   」にカイコクは敵意の篭った目を向ける。
「君は俺に捕まった。…ひとりかくれんぼって知ってる?降霊術の一種らしいんだけど。捕まったら元の世界には戻れない」
「…お、れは…!」
「一緒だよ。…素直になればまた甘い夢を魅せてあげる。君もあっちが好きだろ?…カイコクさん」
くすくす、と彼が嗤った。
ふざけるな、と叫ぶ声は広い部屋に響く事なく消える。
彼、がカイコクの躰を無理矢理に暴いたから。
とうに限界を越えていた彼女はすぐに敵意を怯えに変えて泣きじゃくった。
「や"ぁあぁあっ!す、け…て…っ!ぃぎっ、!ゔぁああっ!!もぉ゙やめ゙でぇ゙!!!離じでぇく、んなああ"ぁ!ごめっ、ごめんらざぁっ、ゆぅじでっ、ゆるじでぇえ!!!」
「苦い現実と甘い夢、君はどちらを取るんですか?」
くすくす、と……アキラ、が笑う。
汚い悲鳴を上げる彼女を追い詰めながら。
傷付いた足は小さくバタつき、綺麗な白を赤く染める。
「…血は嫌いだ」
それを見つめながらアキラは光の無くなったカイコクに笑いかけた。
囁く言葉に彼女は音無しくなる。
良い子、とカイコクの頭を撫でるのは果たして誰だったのだろうか。

(鬼ごっこの相手は一体誰だったの?


それは…ー)

エクストラステージ:ひとり鬼ごっこ(パカカイ♀)

「はぁっ…は、ぁ……っ!」
彼女の荒い息が部屋に響いた。
「ぅぐ、ぁ……は…」
足を引きずりながら、彼女は走る。
何故こんなことになったのか、ぼんやり浮かんでは消えた。
今はこのゲームを終わらせなければいけなかった…仲間のために、もっといえば自分の命の為に。

事の始まりは、少し前。

パカに連れてこられた部屋は変わった構造をしていた。
小さく眉を顰めた彼女、鬼ヶ崎カイコクにパカは「ゲームの説明と参りましょう」と言う。
不服そうな表情をしていたカイコクだったが素直にパカを見上げた。
普段なら絶対に従わないが…仲間の為にゲームをクリアしなければならないのである。
仕方がない、と覚悟を決めた彼女に、パカは人差し指を立てた。
「ルールは簡単。部屋にある宝箱から鍵を取り、出口を探して下さい。制限時間はございません。…ただし、それではあまりにも易しい」
「…まあ、そうだろうねぇ?」
パカが提示したルールに、カイコクはそう返す。
ただただ鍵を取り、出口を探す…しかも見えている扉は2つだ…だけのゲームなぞ、見ていて面白くはないだろう。
何かある、とカイコクはパカを睨んだ。
「ひとつ、間違った鍵を取る毎にペナルティを付加します。加えて20秒毎にお香が焚かれます。どのような効果かは…まあやれば分かるでしょう」
「…。…ペナルティの内容は?」
「そうでございますねぇ。では、痛みを少々」
「…痛み、ねぇ」
ふむ、と考えるが、思考を巡らせたところでやらなければいけないのは変わらない、と放棄した。
「痛みは慣れてる。それよりさっさとやってさっさと終わらせてぇ」
「…分かりました。それでは、ゲーム開始と参りましょう」
パチン、とパカの指が鳴らされる。
部屋に取り残されたカイコクはとりあえず、と部屋の隅に向かった。
「…パスワードかい」
小さな箱にはご丁寧にロックがかかっており、カイコクは嫌な顔をしてみせる。
メンバーの数、と書かれた紙に息を吐き出し、【08】と打ち込んだ。
自分を抜いてだろうか、と思ったが箱は正解を示し、小さな電子音を発して開く。
取り出した鍵を持ち、扉に向かった…途端だった。
「…こりゃあ…」
ふわりと香るそれにカイコクは眉を顰める。
鼻孔を擽る香りは脳を揺らした。
躰の深が熱くなる感覚に蹈鞴を踏む。
一度、たった一度使われたそれと同じ感覚に顔を歪めた。
「…悪趣味」
小さく呟いたカイコクは急がなければと走り出す。
部屋の隅にある扉に鍵を突き刺した。
回りもしないそれに舌打ちし、もう片方の扉に向かおうとした…その時。
「ぅぐあ?!!」
パン、という軽い発砲音と共に激痛が右足に走る。
撃たれたのだ、と混乱する頭で思った。
「…はは、これが…ペナルティ…」
乾いた笑いが溢れる。
香りはどんどん強くなっていた。
頭が回らない。
それでもやらなければ、と足を引き摺って走った。
「ひぎっ?!」
もう片方の扉も開かず、今度は左足に激痛が走る。
よろよろと鍵の箱に近づき、パスワードを打ち込んで鍵を取り出した。
鍵を開く、扉は開かない。
「うぐっ…ぁ…!」
飛び出たナイフで足を切られた。
痛みは酷いはずなのにじくじくと脳を支配するのは快楽だけで。
こんなの嫌だ、とカイコクは恐怖する。
「あぐ、ぅ…!」
ナイフはカイコクの左足も傷付け、間違いを知らせた。
震える手で3つ目の鍵を手に取る。
ポタポタと足から垂れる血は床に歩いた跡を残した。
扉に近づき、祈るように鍵を回そうとする。
が。
「いぎゃぁあ?!」
ぴくりとも動かないそれに絶望を感じる間もなく、痛みが彼女を襲った。
ドアに縋り、反射的に振り返る。
ピッチングマシンのように壁から飛び出していたのは鉄パイプで。
ああ、足を打たれたのかと思いながら鍵を抜き取りふらふらともう片方の扉へと向かった。
快楽が躰を蝕み、愛液が溢れ出す。
躰はとうに限界で、動くのもやっとのほどなのだ。
「…ぅああ…っ!あ"…!」
鉄パイプは血を流すカイコクの足へ無慈悲に振り下ろされ、どさりと床に身を投げだした。
それでも動かなければ、と這いずりながら最後の鍵の箱に向かう。
思考はほぼ残されてはいなかった。
痛い、怖い、嫌だ、気持ち良くなりたい、気持ち悪い、躰が熱い、恐い、こわい、コワイ…!
彼女の思考は恐怖と快楽に飲まれ、無意識に涙を流す。
カタカタ震えながら鍵を刺した。
小さな音を立てて鍵が回る。
「…!や、った…!」
ようやっと終わる、と安堵したカイコクを…地獄に堕とすには十分だった。
「…ひっ」
小さく喉を鳴らし、後退る。
扉を閉め、ガタガタ震える躰を抱きしめた。
部屋にいたのは、グロテスクな触手だったのだ。
「…すけて、助け…!」
頭を振り、よたよたと走る。
縋るように最後の扉に鍵を刺した。
カチリ、と音を立て開いたドアの向こうは…がらんどうの部屋。
「…ぇ…?」
立ち尽くすカイコクに、残念、という声が降り注いだ。
「…ゲームオーバーでございますよ、鬼ヶ崎様」
「…き、さま…!」
ギッ!といつの間にか現れたパカを睨む。
「嘘つき!出口なんてどこにも…!」
「…ございますよ、出口は」
「…は…?」
告げられた言葉を理解する前にパカが部屋に突き飛ばした。
「…な、に…す…!」
声を荒げかけたカイコクが止まる。
がらんどうに見えた部屋には…大量の玩具が置いてあったのだ。
「…ぁ…あ……!」
顔を青ざめさせ、逃げようとするカイコクに…パカは容赦がなかった。
「や…っ?!」
お香の液をカイコクの躰にぶちまける。
鍵のような何かが床に転がった。
「これが、正規の鍵でございますよ…鬼ヶ崎様」
「ひ、きょう…も…の…!」
泣きじゃくりながら彼女は叫ぶ。
…叫んだ所で、彼女がゲームオーバーになった事実は…変わらなかった。
敏い彼女は分かっているのだろう。
これから…自分の身に何が起こるのかを。
「嫌だ、嫌…やだぁあ!!ひっ、や…すけて、助け、て…っ!!」
「…おやおや」
感情は理性を振り切り、幼子のように助けを求める彼女にパカは嗤った。
四つ這いで部屋の隅まで逃げるカイコクを追い詰め、チェックメイトですよ、と告げる。
「ぅぁああっ!!ぃぎ…ひっぐ…!」
傷付いた足…ではなく、尻を酒瓶で殴り付けた。
「ぅううっ!!!やだ、や、ぁ…!!い、だいぃい…!」
下着を取り去り、アヌスに電動ディルドを無理矢理押し込む。
泣きじゃくる彼女をころりと仰向けにした。
「…ぃや、や…こんな…の…!気ぃ、狂う…っ!!」
「クリア出来なかったのは貴女様でございますよ…鬼ヶ崎様」
尿道にバイブを押し込まれ、クリトリスと乳首にローターを取り付けられたカイコクに残酷に告げた。
…それから。
「…ひっ」
「…また、お迎えに参ります」
ピストンバイブを…ゆっくり押し込みながらパカは囁く。
傷付けられた足が弱々しく抵抗を見せた。
奥まで埋め込み…アヌスのディルドとともに固定する。
カチリ、と全ての玩具のスイッチを、入れた。
彼女の声なき悲鳴が霧散する。
「ふぁああっ!!や、だぁああっ!イ、く…やだぃや、~~っ!!」
催淫剤に追い詰められた躰は簡単に絶頂を迎えた。
だが機械は止まらない。
「も、もぅイったぁあ!やだ、やだ止めて、止めて、くんなぁ!!ぁあああっ!ど、して…なんでぇ?!!」
部屋に響くはカイコクの嬌声と単調な機械音。
彼女は気付かない。
パカが出ていってしまったことを。
触手が部屋から出、この部屋に入ってきていることを。
…そして。
数時間機械に嬲られた躰を…触手に好き勝手犯されてしまうことを、彼女は…知らない。
…カイコクの【ゲーム】は、始まったばかりだ。

お誕生日会議!(ミクルカ)

「あのですね、聞いてくれますか、初音さん」
「その前に一ついいですか、初音さん」
「何ですか、初音さん」
私のそれに手を挙げるからどうぞ、と許可する。
すぅ、と息を吸った。
「…なっんでオレの家にいるんですかねぇえ?!」
「わぁ、渾身だねぇ」
「…そりゃあどうも。で?何の用です」
呑気に拍手する私に呆れた目をするのは私、初音ミクの先天性男体亜種、ミクオくんだ。
髪型以外は私そっくりなんだよねー、当たり前だけど。
「つっめたいなぁ。カイコちゃんに嫌われちゃうよ?」
「お生憎。カイコ姉さんは優しいんでー」
んべ、と舌を出すミクオくん。
もー、可愛くないったら!
「カイコちゃぁん!お宅の弟さん何とかしてよぅ!」
「…どっちかと言えば、ミクちゃんの方がお姉さんな気がするけれど…」
苦笑しながらお菓子とジュースを運んできてくれたのはカイトお兄ちゃんの先天性女体亜種、カイコちゃんだ。
こちらはミクオくんと違って髪型もお兄ちゃんにそっくりなんだよね。
柔らかく微笑む顔とかお兄ちゃんそっくり。
「それで、どうしたの?ミクちゃん」
「…カイコちゃん…!」
ふわ、と笑みを見せるカイコちゃん…やばい、崇めてしまいそう…!
「カイ姉ぇ」
「だって、困ってるのにそのままにしておけないでしょ?」
ブスくれた目のミクオくんにカイコちゃんが言う。
「オレ、誕生日なんだけど?!」
「その話朝も聞いたよー…。ちゃんとお祝いするから、ね?」
「約束な?!!」
「分かった分かった」
たじたじのカイコちゃんに詰め寄るミクオくん。
普段、レンくんとかに見せてるのはもうちょっとクールな感じだから、頑張ってるんだなぁって思う。
それにしても、誕生日かぁ。
誕生日…誕生日??
「ミクちゃんもお誕生日、祝ってもらうんでしょう?」
「毎年賑やかだよなぁ、そっち」
「…へ……?」
にこやかに言うカイコちゃんと、そういえば、なんて上を向くミクオくんと。
…呆けてる私、と。
「…もしかして、忘れてた?」
「…忘れてましたね」
「…もしかして、聞いて欲しい話って、ルカさんが朝から構ってくれないとか、そんなことだったりする?」
「…しますね」
淡々とされる質問に小さくなる私…。
あぁあ、そっかぁ…もうそんな時期かぁ……。
「…あのさぁ?!」
「…しょーがないでしょぉ?!この時期はすっごい忙しいんだから!!忘れがちなの!13年もVocaloidやってると忘れちゃうの、誕生日!」
「忘れるなよ、一応機械だろ!」
「一応って何よ!」
「まあまあ」
ぎゃーぎゃー揉め出す私達をカイコちゃんがくすくす笑いながら止める。
「そのせいでカイ姉ぇといちゃいちゃ出来なかったんですけど?!」
「それは申し訳ないけど、そっんな怒ることなくない?!私だってルカちゃんといちゃいちゃしたいもん!」
「…なら、しましょう?」
ふわ、と柔らかい声がした。
…誰の?
ルカちゃんの。
…ルカちゃんの?!!
「ルカちゃん?!いつの間に!」
「つい先程ですわ。…こちらが出来上がったので持ってきましたの」
びっくりする私に微笑んだルカちゃんはクールボックスを差し出す。
「あ、ありがとう!ルカさん!」
「いえ。カイコさんのお陰で今年は違ったものに挑戦できましたわ」
ふわふわ笑うおっとり二人に思わず笑顔になった。
あー癒やされるぅ…。
「で?何作ったの」
「ネギアイスケーキ、だよ?」
へにゃ、と笑うカイコちゃんの髪についた緑のリボンが揺れた。
あ、あー…そういうことぉ…。
「…帰りましょうか、ミク姉様」
「そうだねぇ、お邪魔しても悪いし」
こそこそと囁きあってそっと部屋を出る。
パタン、とドアを閉めて、息を吐いた。
「…ミク姉様?」
「なぁに?ルカちゃん」
首を傾げる私に、ルカちゃんがその、ともじもじしながら見上げてくる。
かっ、可愛い!
うちの妹兼恋人が大層可愛い!!!
「わっ、私も、その…いちゃいちゃしたい、と思ってます、のよ?」
「…はへ?」
おずおずと言われたそれに、歌姫らしからぬ間抜けな声が出た。
…今、なんて??
「ルカちゃん、今…」
「…もう、忘れないでくださいね?」
むう、とした珍しい表情のルカちゃんが抱きついてくる。
「…お誕生日おめでとうございます、ミク姉様」
ちゅ、と触れるだけの口づけの後、聞こえた囁きに、私はもう混乱しっぱなしで。
あの、あのルカちゃんが?!
おっとりお嬢様で恥ずかしがりなルカちゃんが?!!
「…帰りましょうか、ミク姉さ、ま?!」
「ルカちゃんさあ…煽るのは良くないと思うんだよねぇ、初音さんねぇ」
「…み、ミク姉様?!」
ぐい、と手を引いて抱き寄せる。
ピンクの髪に結ばれた緑のリボンが揺れた。
…ほっんとさあ…!
「忘れられない誕生日、だね…。お互いに」
顔を近づけてにっこりと笑う。
ぴゃっとルカちゃんが逃げようとするから引き止めて深いキスをした。

今日は私の誕生日。
大切な人が祝ってくれる、大切な日。

もう絶対に忘れないからね!


(…ああ、でも。
私が忘れてもルカちゃんが、覚えてられるように。
今夜は覚悟しててね?ルカちゃん!)

美味しいお口(ザクカイ)

「…忍、霧……」
「分かったから悲しそうな表情をするな、鬼ヶ崎!」
呆然とこちらを見るカイコクに、ザクロは声を上げる。
事の起こりは30分ほど前。
今日が刺し身の日だというのをどこからか聞いてきたカイコクが、嬉しそうに食堂に来た。
刺し身の日ならば刺し身を食べなければ、と普段の笑みとは違い、純粋ににこにこと微笑む彼に、そんな顔も出来るのだなぁと思った…刹那。
新鮮な生魚はない、とオーダーを突き返されたのだ。
あるのは良くスーパーなどで見る、【おつとめ品】とやらで、箱入りのカイコクは存在を知らなかったらしい。
無理を言って出してもらったものの、「…味がちげぇ…」と落ち込んでいる、というわけなのだ。
晩御飯には新たに運んでくるので間に合うらしいが、思っていた刺し身と違っていたことがショックだったらしい。
そんな落ち込まなくても、と言っても普段からは想像も付かぬほど凹んでいた。
「分かった。…なら、アレンジしてやる。昼はそれで我慢しろ」
「…へ?」
悲しそうな表情から、不思議そうなそれになる。
「刺し身ではないが。それでいいか?」
「…美味くなんのかい?」
「俺は良く家で食べていた」
カイコクが食べていたマグロの刺し身を持ってキッチンに向かった。
自由に使っても良いという冷蔵庫の中身を漁り、あるものを取り出す。
「…それは?」
「山芋だ。これを擦って醤油と共にマグロと合わせる。…ご飯の上にかけ、生卵を落として食べるというのが一時期俺の家で流行ってだな」
そう言いながら、山芋の皮を剥き摩り下ろした。
痒いのは一瞬で、それよりもマグロの赤が山芋の白に隠れるのが面白い。
小さくなった山芋は擦り切らず、刻んでボウルに入れた。
一緒に大葉を刻み、醤油を入れて混ぜる。
「ほら、出来た」
「…こんなので、本当に…?」
「いいから食べてみろ」
疑う彼にずい、とそれを近付けた。
しげしげと見つめ、口へと運ぶ。
「…!…美味い」
「…良かった」
驚きに目を見開き、へにゃりと笑った。
それにほっとして器に移し直してやり、卵を取り出して席に戻る。
「これを?ご飯の上に?」
「そうだ」
ほかほかと湯気が立つご飯の上にそれを乗せ、カイコクは綺麗な箸さばきで口に運んだ。
先程の悲しそうな表情はどこへやら、幸せそうに食べる彼に、やれやれ、と思う。
「卵落としても美味えな」
「それは良かった」
年相応に笑うカイコクにそう言って自分の食事を再開した。
珍しく口端にご飯粒を付けながら頬張る彼に小さく笑う。
美味しい口になっているな、と手を伸ばすまで…後5秒。


「…なあ、なんか口周りが痒いんだが…」
「山芋とはそういうものだ。…あまり擦るな、赤くなる」
「そう言ってもだな…んっ」
「なら、治してやる」
「へっ、ちょ、ま、忍霧…?!ん、ぁ、ま…っ!」
カイコクが念願の刺し身定食を食べられる夕方まで、山芋で痒くなった【美味しい口】を、さんざ舐められるまで……後、30分、だ。

秘密の振動(ザクカイ)

「あれ、カイコクさぁん!」
階段下にいた人物に思わず声をかける。
胡乱げに振り仰いだ彼がひらりと手を上げた。
「おう、入出」
「どうしたんですか?普段はこの時間はお部屋ですよね?」
とててっと階段を駆け下り、カイコクの前で止まる。
アカツキの問いに彼はほんの少し苦笑いを浮かべた。
「よく知られてるねぇ…。何、ちょっくら散歩をな」
僅かに笑みを浮かべるカイコクは、どこか無理をしているように見えて、アカツキはあれ?と首を傾げる。
あの、人に隙を見せないカイコクが、珍しいな、と思った。
「そうなんですねー!…でも、明日もゲームありますから、程々にしておいた方が良いですよ?カイコクさん、具合悪そうですし」
にこりと笑えば、カイコクは目を見開く。
具合が悪いということを悟られている、とは思っていなかったようだ。
「…入出にバレるたぁ、俺もまだまだだねぇ?」
「カイコクさん、分かりやすいです、よ…?」
苦笑する彼にそう言った瞬間、甘い香りがふわりと鼻孔を擽る。
なんだろうかと首を傾げつつ、ふと目の前のカイコクから小さな電子音が聞こえた。
「カイコクさん、バイブの音しません?」
「…あー……」
聞いてみればカイコクは罰が悪そうに明後日の方を向く。
「…俺の、だな。なんか連絡来たんだろ」
「カイコクさん、スマホ持ってたんですか!…あれ、でもここって外界との連絡手段ありましたっけ…?」
「いや、あの…忍霧が、その…」
珍しく口元を押さえてゴニョゴニョ言うものだから、ああ、と笑った。
忍霧ザクロは心配症だ。
こと、カイコクのことに関しては異常なほどなのである。
…白の部屋に連れて行かれたのも関係しているのだろうな、と思った。
カイコクを妹と重ねているのかも知れない。
「なら、早く出てあげた方がいいんじゃないですか?」
「いんや、大丈夫でぇ。これは…なんつーか…飾り?じゃねぇけど…」
「…?」
奥歯に何か挟まったようなそれで答えようとするカイコクに、アカツキは疑問符を浮かべた。
何でもはっきり言う割に、珍しいな、と思った…その時。
「鬼ヶ崎!」
廊下の向こうから荷物を抱えたザクロが慌てたようにやってくる。
「あ、忍霧さん!」
「…忍霧」
おぅい!と手を振るアカツキに、カイコクが何故かホッとした顔をした。
あれ、と首を傾げる。
「貴様、動くなと言っただろう!」
「…動いて、ねぇよ」
「先程と立っている位置が違う。…あぁ、すまない入出。何か用だったか?」
ブスくれるカイコクに、ザクロがそう返し、こちらを見てそう言った。
「いえ、特に用事はないですよー!」
「そうか。では俺達は失礼する」
へにゃ、と笑い手を振ればザクロがそそくさとカイコクの腰を抱き、立ち去ろうとした。
「…っ!また、明日な…入出」
「…はいっ」
無理矢理に笑みを浮かべるカイコクに、アカツキも笑顔で答える。
すれ違いざま、バイブの音がはっきり聞こえた。
「…そりゃあ…言えませんよねぇ…」
手を下ろし、彼等を見送ってからアカツキは小さく呟く。
カイコクが持っていたのは通信機器の類ではなかった。
所謂…あれは、そう。

「意外と独占欲強いですよね、忍霧さん」

にこっと笑い、アカツキは部屋に戻ることにした。
立ち去る前に聞こえた…カイコクの小さくて甘ったるい声を、胸に秘めながら。
…明日のゲームは全員参加出来るだろうかと、それだけを気にして。

(そういえば今日はバイブの日、なんですよ!!)

猫は抱っこが嫌いな生き物でして(ザクカイ)

うなぁん、という声がした。
振り向いた先にいたのは見たことのない黒い猫。
「どうした?…迷い込んだのか」
普通サイズの生き物は珍しいな、とすっかりこの生活に馴染んでしまった思考を巡らせる。
抱き上げてやろうと伸ばした手から、黒猫はするりと逃げた。
「うにゃんっ」
「む」
何か文句をいうように鳴く猫に眉を顰める。
そういえばサクラが「猫さんは、抱っこ嫌いが多いんだよ」と言っていたっけか。
それでも何となく悔しく、掴まえてやろうと手を伸ばす。
「うに、にゃぁあっ!」
「あ、こら、逃げるな!」
抱き上げるがジタバタと暴れ、また腕の中から抜け出してしまった。
じとりと睨む猫にザクロはため息を吐く。
「何だと言うんだ。俺に声をかけてきて、こちらが手を伸ばせば逃げてしまう。全く、まるで鬼ヶ崎のようだな、貴様は…」
半分諦めと共に吐き出した言葉に黒猫はぴくりと反応を見せた。
目を丸くさせ、こちらを凝視している。
…まさか。
「貴様、鬼ヶ崎…か?」
おずおずと猫に向かって問いかけた。
何を滑稽な、とも思う…が。
予想に反して黒猫は小さく、にゃあ、と鳴いた。
そういえば、首元に何か赤いものが見える…ような。
手を伸ばし、抱き上げる。
今度は、黒猫は逃げなかった。
首元に付いていたのは猫サイズになった鬼の面。
よく見たことのあるそれは、紛うこと無き彼の。
「ははっ、そうか!貴様、鬼ヶ崎か!」
抱き上げた猫を抱きしめる。
にゃあ!と文句じみた声を上げる黒猫を、離すまいと毛に顔を埋めた。
もふりと感じるそれは紛れもなく猫なのに、どこかカイコクも感じられて。
暖かい、陽だまりのような匂いが、広がった。


「…と、いう夢を見たんだが」
「…へぇ??」
そう言うザクロに、カイコクは不満そうに返した。
少し苛立ちが見えるのは、急に起こされたからか、それとも。
「…んで?その夢と俺がお前さんに縛られる関係性を聞いておこうか?ん??」
「いや、そうしないと貴様逃げるだろう?」
「…逃げねぇよ、ったく、猫じゃねぇんだから…」
ため息を吐くカイコクの頭に猫耳カチューシャを乗せる。
「…おい、忍霧?」
「俺の話を聞いていたか?鬼ヶ崎」
「は?…うわっ」
首を傾げる彼を押し倒し、抱き着いた。
ぎゅう、と抱きしめ、やはり彼はこのままが良いな、と思う。
「…忍霧?」
と、戸惑いがちな声が降ってきた。
彼は抱きつかれるのは慣れていないのかいつも困った顔をする。
それが好きだなんて…言えないのだけれど。
「なあ、抱かせてくれ」
「…んな…?!さっき散々ヤッたろ…ひっ?!」
目を見開くカイコクの、首筋を舐め上げた。
「ふ、ぁ…ゃっ…!おし、ぎり!」
可愛らしい声を上げながら涙目で睨むカイコク。
「鬼ヶ崎、にゃあは?」
「にゃ、にゃあ…?」
それを物ともしないザクロの突然のそれによく分からない、というようにカイコクは鳴く。
頭上に着けた猫耳が揺れた。
「…貴様のそういう所が、な…」
「何なんでぇ!!!ひんっ、ぁ、やだって…!!」
息を吐くザクロに、カイコクは声を荒らげる。
黙っていろ、と、ベッドに沈みこませた。


猫の彼も悪くはなかったけれど、やはり人間のままの方が好ましいな、とザクロは思う。

(だって、ハグをした時の表情が可愛らしいのは、黒猫ではない、鬼ヶ崎カイコク、その人なのだから!!)

優しい君に蜂蜜色のミルククラウンを(ケンシン/ケンヤバースデー)

突然だが、駆堂ケンヤは睡眠障害である。
だからと言って夜が嫌いなわけではない。
寧ろ夜は好きな方だった。
確かに眠れない夜は苦痛だった時もあるが、そういうものか、と割り切ってしまえば特に問題もなく。
今もぼんやりと閉め切った窓から夜空を眺めながら飲み物を口に運んでいた。
「…ケン兄?」
ふわり、とした声に振り向く。
そこには目をこすりながらこちらを見る弟、シンヤの姿があった。
「シンヤ。…どした?」
一瞬、彼が自分と同じ病気ではないかとどきりとしたが、シンヤはふるふると首を振る。
「…物音がしたから…起きた。…何飲んでるの?」
「これか?…んー、これはな、酒…」
「…」
「…ジョーダンだよ」
真面目な弟がじとりと睨むからケンヤは苦笑いを浮かべつつ呼び寄せた。
「ほれ」
「…。いいの?」
「良くなきゃ渡さないって」
見上げるシンヤに笑いながらケンヤはマグカップを手渡す。
おずおずとそれを口に含んだ彼が少し目を見開いた。
「…甘い。あったかい」
「ホットミルク、蜂蜜入り。美味いだろ?」
「…うん」
柔らかく笑うシンヤの、髪を撫でる。
兄弟なのに、彼は自分と違ってさらさらしているな、と思った。
「…あの」
「お?」
小さく言葉を吐き出すシンヤに、ケンヤは首を傾げる。
シンヤはあまり自分の気持ちを出さない…その分一番下の弟が顕著だが…のでたまにこうやって二人きりになって聞き出そうとしているのだ。
「物音がした、の…嘘で」
「うん」
「アラーム、かけてたんだ。ケン兄が起きてると思って」
「…うん?」
予想外のそれに驚きながら頷く。
コトン、とマグカップを置いたシンヤは何かを取り出し。
「…お誕生日おめでとう、ケン兄」
ふわ、と笑い、そう言った。
「…あ、あー…!」
すっかり忘れていた自分の誕生日を、わざわざ眠い中起きてまで祝ってくれる弟に、愛おしくなる。
「ありがとな、シンヤ」
「…うん」
「…んで、これは…?」
頭を撫でて、受け取った紙切れを見た。
小さな紙には【夜中のラーメン、チャーシュートッピング無料!】とある。
「…最近この辺を周ってるチャルメラ…ケン兄、ラーメン好き…だよね?」
こてん、と首を傾げるシンヤ。
なるほど、これを渡す為だったかと笑みが零れた。
「おう!大好きだ!!…んで?デートには一緒に行ってくんねーの?」
「…。…ケン兄がいいなら、良いよ」
差し出す手にそっと乗せられるシンヤの手。
それをぐいと引っ張った。
テーブル上のマグカップが揺れ、ミルククラウンを作る。
柔らかく笑うシンヤに、ぴったりな色で。
嗚呼、なんて幸せな誕生日!!

「んじゃ、行こうぜ!真夜中のラーメンデート!!」
腕の中に収まったシンヤに笑いかける。
幸せだ、と思った。
(この幸せが長く続きますようにと、夜空にらしくもなく願ってみたりして)



「あぁああ!!!ケン兄がまたシン兄とないしょしてたぁああ!!!ずりぃいい!!!!」
「…うっせーなーもー……。つか、なんでバレたんだよ…」
「帰ってきたトコ見られたんだからバレるよ…。…今度はアンヤも一緒に行こ?」

本日浴衣の日でありまして(閑タバ)

うとうと、微睡みの中、柔らかい声が聞こえる。
「…ん、せ…せ…せ…」
意識を浮上させ、目を開けばフードを被った青年、タバサがこちらを覗き込んでいた。
「あ、起きた」
「…なんじゃ、どうかしたのかえ?タバサよ」
身を起こし、そう聞けば彼は呆れたような顔をする。
「…なんでガーデニアといい、みんな約束を忘れちまうんだ…?」
「…約束」
首を傾げるタバサに閑照は記憶を手繰り寄せた。
…そういえば。
「…海祭り、シーサイドの」
「おっ、珍しく自力で思い出したな」
そう漏らせばへにゃりとタバサが笑う。
今日はシーサイドで海祭りが行われる日だ。
夜の化物退治まで時間があるから、と閑照から誘ったのにすっかり忘れていた。
「入り口で待ってても来ないからさ、先生」
「すまんすまん。寝入るまでは覚えていたんじゃが」
そう言いながら、ふとタバサの服に目を留める。
「しかし、その服はシーサイドに行くにはちと暑そうじゃのう、タバサ」
「え?」
指摘したそれにタバサはきょとんとした。
モスグリーンのフード付きコートにタートルネック…どう見ても暑そうである。
増して向かうのは日差し照りつけるシーサイドだ。
倒れては元も子もない。
「どれ、ちくっと見繕ってやろうかの」
「へぇ?!い、いいよそんなの!」
「なぁに、遠慮することはない。龍の国ではこちらのほうが主流でな」
わたわたと手を振るタバサににこりと笑ってみせた。
「それとも…わしと揃いは不満かえ?」
「…!」
それに、大きく目を見開いたタバサは、ずるいなぁと苦笑する。
「じゃあ、お願いします」
「うむ、承知した」
困ったように笑うタバサに閑照も頷いた。
がさごそと箪笥を漁り、いくつか浴衣を取り出す。
「この抹茶色の浴衣はどうじゃ?」
「…任せるよ。閑照先生の見立て、結構良いし」
「ふむ、嬉しいことを言ってくれる」
クスクス笑い、服を脱ぐように指示をした。
素直に服を脱ぎ、タバサは手を広げる。
無防備だと思いつつ浴衣を着せ、帯を締めてやった。
「どうじゃ?」
「お、おぉ…!」
姿見の前に立たせてやればタバサは感嘆の声を洩らす。
抹茶色の浴衣に朱色の帯は良く映えた。
元々背は高い方だからだろう、浴衣がよく似合う。
「よぅ似合っておるよ」
「…ありがと。思ったより涼しいな…!」
上機嫌でくるりと廻るタバサの、浴衣の裾がふわりと揺れた。
「ううむ…」
「?先生?」
悩む閑照にタバサが首を傾げる。
そんな彼に閑照は、ずい、と、近寄り。
「?!!待て、まてまて先生?!」
「…やはり無い方がすっきりしておる」
焦るタバサに笑いかける。
その手には…彼の下着があった。
「下着の線がない方が美しく見えるからの。では行こうか」
「うぇ?!こ、これで?!!」
「誰にも分からんよ」
顔を赤くしながら戸惑うタバサにそう言い。
「…興奮、するじゃろ?」
耳元で、そっと囁いた。
ぶわわっと顔が余計に赤くなる。
「ほほっ、愛いのう」
「…揶揄うなよ……」
恥ずかしがる彼に本音を漏らし、手を差し出した。
「ほれ、わしが守ってやろうぞ」
「…。…絶対な?」
その手を取り、タバサが小さく言う。
可愛らしい、と思いながら、閑照は手を握り返したのだった。

向かうはシーサイドの海祭り。
そういえば東の国では今日は浴衣の日だったなぁとぼんやり思った。

(可愛い、自国の衣装を見に纏わせた彼を連れて歩けるなんて…なんと素晴らしい日!)

帰宅後、でりばりゅうが騙されていると告げたことにより一悶着起きるのは…また別の話。