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パンケーキ彰冬のエロ
クーポンに載っていたホテルは、ライブハウスがあった場所から更に路地裏奥に入った所だった。 大体そんなもんか、と入り口を潜る。 タッチパネルで部屋を選んでいれば「…慣れているんだな」と冬弥が言った。 「…初めてだよ、馬鹿」 「…」 「…あーもー、予行演習!!お前といつか来るかもって思ってサイトとか見てたんだよ!来たのは初めて!」 疑るような目に白状すれば、ふっとそれが緩む。 「…そうか」 「…おう」 短く返事をし、行くぞ、と腰を抱いた。 堂々としていれば意外とバレないもので、あっさりと部屋に着く。 「…ん、ふ…」 扉を閉めるやいなやお互い待ち望んでいたようにキスをした。 小さな唇を食み、ざらりと歯の裏を舐め、上顎を擽る。 「…ふぁ、あ…あ、き…と!」 「…んだよ」 服を着崩しながら喉仏に口付けていれば、震える声で冬弥が彰人を止めた。 「…先に…シャワー…を……」 「待てる訳ねぇだろ」 「…ライブの後、だから…!」 さらさらと綺麗な髪を乱して嫌がる冬弥をひょいと抱き上げ、ベッドに投げる。 息を詰める冬弥の動きを封じながら彰人はバサバサと服を脱いでいった。 「…っ!彰人!」 「…ライブの後だから、ヤりてぇんだけど」 「…!」 声を荒らげる冬弥に低く言えば綺麗な瞳が大きく見開かれる。 「…汚い、だろう…」 「んなことねぇよ」 ふい、と目を逸らす冬弥の、むき出しにされた鎖骨を舐め上げた。 短く喘ぐ冬弥に、「声、出せ」と囁く。 「そんな、こと…ひっ、ぅ…あ!」 普段とは違う、上ずったそれにゾクゾクとした。 自分が出させている声だというのが堪らない。 服を脱がせながら色んなところに口付け舐め上げ、くったりと力が抜けた冬弥の、足を持ち上げた。 その頃には冬弥のモノもすっかり勃ち上がっていて思わずニヤリと笑う。 先走りを指に絡め、それを後孔に挿し入れた。 「んぅ…!」 「痛いか?」 「…へ…き……」 無理したように笑おうとするからそっと唇に口付ける。 「無理すんな」 そう声をかけると、彼は小さく微笑んだ。 本音を言えば無理にでも暴いて奥を突いてやりたいが、冬弥を傷付けるのは本望ではない。 しばらく軽く口付けながら指を軽く動かしていたが、冬弥がぎゅう、と抱きついてきた。 もう良いのか、と先程よりも強く動かす。 「ふぁ?!ぁっ、う、や…っ?!」 ある一点を擦り上げた途端、びくびくっ!と躰が揺れた。 ここか、と重点的に追い詰める。 「ぁっ、やぁ、ひ、ぅ…あき、とぉ…!!」 涙目で縋ってくるから「一回イッとけば?」と言ってやった。 しかし、冬弥がふるふると首を振る。 「…いっ、しょ…に…」 「っ!ったく、煽るなって…!」 小さく言われるそれに目を見開き、指を引き抜いた。 コンドームを着け、ひくつく後孔に押し付ける。 「…行くぞ」 「…ぁ……」 ぐぐっと体重をかけ、ナカに突き挿れた。 途端、背を駆け抜ける快楽。 気遣ってやるつもりが、めちゃくちゃにしたいという欲望が勝った。 「…わりぃ」 「ぇ、あ…ふぁ、ああっ!!ぁっぅ、やっ!あきと、あきとぉ…!」 腰を掴み、激しく揺さぶる。 綺麗な声が部屋に響いては霧散した。 ずちゅずちゅという水音と冬弥の表情にどうしようもなく興奮する。 「…出、る…!」 「ぅ、ぁあ…!!」 二人同時に射精し、どちらともなく口付けた。 熱っぽい目で表情を緩める冬弥にまた下半身が膨らむのを感じる。 「…なぁ、もう一回いいよな?冬弥」 「…えっ、ちょ、ま…!!」 囁き、返答を聞くことなく口付けた。 冬弥の躰がベッドに沈み込む。 焦った声は、甘ったるい声に取って代わった。
結局、あの後も何度も何度も冬弥を啼かし、シャワーを浴びる頃には二人ともすっかりドロドロになってしまった。 流石にそのまま帰るわけにはいかない。 それ以前に元々体育は少し、と濁していた冬弥が動けるはずもなく、そのまま泊まることになってしまった。 「いいんじゃないか。パンケーキも食べていないし」 「お前本当に食う気かよ」 「少し、興味がある」 ふふ、と掠れた声で笑う冬弥に、そーかよ、と返事をする。 「つか、家大丈夫なのか?」 「…まあ、友人の家で試験勉強をさせてもらっていたとでも言うさ」 「わっるいなぁ」 「彰人に言われたくはないんだが?」 くすりと笑う冬弥に、そういうトコ、と思いながら注文をした。 全てが機械音声のそれに少し安堵し、水でも、と小さな冷蔵庫の傍に座り込む。 「うわっ」 「…?彰人?」 思わず上げてしまった声に冬弥が不思議そうに首を傾げた。 「…なあ、冬弥…こんなんあったんだけど」 「…やらないぞ」 ロック付きの棚にあったのは所謂バイブというやつで、思わず買ったそれを冬弥の元に持っていく。 綺麗な眉を顰めた彼が珍しく速攻で拒絶した。 「いいだろ…なあ」 「そんな顔をしてもしないものはしない…彰人!!」 冬弥の怒った声を黙らせるように口付ける。
パンケーキが来るまで、後…15分。
パンケーキ彰冬
いつからだろう。 「…ん、ふぁ、ぁ…あき、と…」 ぎゅ、と縋り付く冬弥を抱き締めて深いキスをするようになったのは。 ふは、と苦しそうに息を繰り返す冬弥からそっと離れる。 小さな唇と、灰鼠色の瞳が濡れていて、ライブ後の沸騰しきった頭では、良いな、という単純的な思考回路しか残されていなかった。 興奮冷めやらぬ若い体は、発散を求めて荒れ狂うが、それをする機会はついぞ無いままだ。 一般的な高校生は、どこでセックスをするのだろうと思うがすぐに考えるのをやめる。 どちらにしろ選択肢は碌でもないのだ。 ならば自分が我慢すれば、とは思う。 思うが彰人だって聖人君主ではなかった。 ごくごく普通の青少年なのだから、毎度キスだけでは性欲は溜まる一方で。 しかも相手はあの冬弥だ。 何も知らない、うさぎのような彼にキス以外何ができようか。 「…っ」 トイレに行くか、と思いながら背を向ける彰人の服を、何かがくん、と引っ張った。 「…あ?冬弥?」 「…彰人。…あの」 振り返る彰人の服を掴んでいたのは冬弥で、思わず目を見開く。 困ったようなそれに、なんだよ、と荒っぽく尋ねた。 「…パンケーキ、食べに行かないか」 熱っぽい目でそう言う冬弥に、思わずきょとんとする。 確かにパンケーキは彰人の好物ではあるが…何故今。 それに、冬弥は美味しいパンケーキの店を教えてくれはしても一緒に行こうと言い出したことはなかったのに。 「…今、か?」 「…。…ああ」 こくんと頷いた冬弥が何かを差し出してくる。 「…!…お前、これどこで!」 くしゃくしゃになったそれは、ラブホテルのデザートチケットだった。 真面目なはずの彼が何処でコレを、と思ったが、冬弥は「貰ったファンレターに入っていて」と小さく告げる。 「…真面目なお前はどこ行ったんだよ」 「…。…彰人が、そうした癖に」 呆れながら言えば、そうブスくれたように返す冬弥。 煽られてる、と思いながらチケットを見た。 セクハラも良いところだし、なんなら高校生相手に送っている分、何かの犯罪になりそうなものだが…あるものは使わせてもらおうと嗤った。 こっそり仕込まれているチケットなのだから恐らく警備は緩いのだろう。 未成年が二人入った所でリスクなことは何もないはずだった。 …何より。 「…いーのかよ。パンケーキみてぇにふわふわトロトロにされてオレに喰われんだぜ?」 細い手首を掴んで引き寄せ、そう囁く。 小さく震えた冬弥が僅かな笑みを浮かべた。 「…彰人だから、良いんだ」 「…。…言ってくれんな」 冬弥の返答にハッと笑い、再びキスをする。 本日二度目のキスは、まだ食べてもいないのに甘い蜂蜜の味が、した。
アンヤバースデー(アンカイ)
カイコクがそわそわしている。 そう思ったのは昼にゲームが終わった時だった。 随分早く終わったな、と思いながら、特に用事もないから部屋に戻ろうとしていたところである。 …カイコクがきょろきょろしながらこちらを伺っていたのは。 「…んだよ」 「…何でもねェ」 純粋たる疑問をぶつけたつもりだったのだが、彼はあっさりそういうと踵を返して行ってしまった。 なんなんだ、と思いながら部屋に戻る。 ベッドに体を沈みこませ、そういえば、と思いを巡らせた。 カイコクがこちらを伺っていたのはさっきが初めてではなかったのではないか。 今日は朝からよく目が合った気がした。 ゲーム中だけではない。 共同洗面所でも食堂でも。 彼の綺麗な目はこちらを向いていて、アンヤと目が合うとふいと逸らされたのだ。 気付いてしまえばそれは苛立ちとなる。 言いたいことがあるなら言えば良いのに。 「…ムカつく」 ブスくれ、起き上がると部屋を出る。 「…うわっ?!」 「…って、おい!テメー待ちやがれ!!」 と、扉の向こうにはカイコクが居て。 驚いた顔をしていた彼が逃げようとするから腕を引き、部屋に引きずり込んだ。 ガチャリと鍵をかけ、追い詰める。 「逃げてんじゃねぇよ。鬼ヤロー」 「…逃げてねェ」 「嘘つけ!オレと目が合った瞬間逃げたじゃねぇかよ!」 ジリジリと距離を詰め、ベッドに押し倒した。 「言いたいことあんだろ?さっさと吐けや」 「…」 「…おい」 じろりと睨めば、カイコクは何かを諦めたようにため息を吐き出した。 これ、と差し出されたのは…小さな紙袋。 「…あ?」 思わず受け取り、中身をひっくり返せばピン留めが落ちてくる。 「…何、これ」 「…駆堂、ゲームやってる時よく髪が鬱陶しいっつってたからなァ。丁度良いかと」 和風の小さな飾りがついたそれは、男である自分が着けてもおかしくはなさそうで、思わず素直に「…サンキューな」と言ってしまった。 「つか、それ渡すだけでこんな逃げてたのかよ?」 「…んな、わけ…」 珍しくしどろもどろになっていたカイコクが覚悟を決めたようにこちらを見る。 そして。 「…?!」 「…誕生日、おめでとさん。駆堂」 触れるだけの可愛いキスと、囁かれる言葉。 それにようやっと自分が今日誕生日を迎えたことを知った。 「…オメー、意外と律儀だよな」 「…なんでェ、そりゃ」 少しブスくれる、可愛い年上の彼に「なんもねーよ」と返し、笑ってみせる。 「なあ、プレゼントそんだけしかねぇの?」 「…お前さんも存外強欲だよなァ」 アンヤのそれにカイコクが目を見開いてからくすくすと笑った。 それに、「当たり前だろ?」と返す。 きょとんとするカイコクに笑いかけた。
こんな時くらい、強欲でいたっていいじゃないか! (珍しく、甘やかせてくれる…誕生日様なんだから!!)
甘やかせ隊の話
「…なあ、こんなトコでいいのか?」 彰人が頬杖を付いてそう聞いた。 そうだぞー?と言うのは司で。 「学校の音楽室、なんていつでも行けるじゃないか。本当に冬弥は欲が無いというか何というか」 「…センパイとは大違いッスね」 「そうそう、オレとは大違い…ってなにおぅ?!」 彰人のサラッとした毒に司がノリツッコミする。 それを、別にーと躱そうとする彰人。 …割といつもの光景である。 「…彰人」 それに、困った顔と声で窘めるのは件の彼、冬弥だ。 口数がそれほど多くない冬弥がどうしようかと思っているのが見て取れて、彰人は小さくため息を吐いた。 「わーったよ。んで?なんで音楽室なんだ?」 ひらひらと手を振り、彰人は改めてそう聞く。 何処か行きたい場所に、という二人に冬弥が指定したのが此処、学校の音楽室だったのだ。 机の上には彰人が買ってきたコーヒーと司が作ったクッキーがある。 女子が教室でよくやるやつだよなぁと彰人はぼんやりと思った。 「…音楽室でなくても良かったんだが」 「だが?」 「冬弥。自分の想いは口にしないと相手に伝わらないぞ?」 促す彰人に、司も重ねて聞く。 少し考えていた冬弥が小さく口を開いた。 「…好きな菓子と好きな飲み物、それから彰人と司先輩…それだけ揃えば充分だな、と。欲を言えば、彰人と歌えて司先輩とピアノが弾ければ…俺は、幸せだと…思って」 ほわ、と表情を緩める冬弥に彰人と司は顔を見合わせはぁあ、とため息を吐き出す。 冬弥が音楽を神聖なものと扱うよう指導されてきたのは知っていた。 それを楽しめるようにしたのは司で、武器だと認めたのは彰人だ。 そんな冬弥が二人と音楽を楽しめることが幸せだという。 「…あー、もしもし?咲希か?今日の約束なんだが…」 「あ、絵名?わりぃ、今日のパンケーキパス」 「…っ、あの」 無言で身内に電話をし始めた二人に冬弥が焦った声を出した。 何か悪いことでもと思っているであろう冬弥の方を向く。 彼は真面目だから、我儘なんて言ったこともないのだろう。 …ならば。 「「今日はトコトン甘やかすって決めたんだ」」 電話のそれがユニゾンする。 え、と目を見開く冬弥に手が伸ばされた。 「あんな可愛い顔で言われたら最大限甘やかしてやんねーとなぁ?…ッスよね、司センパイ?」 「うむ。オレの可愛い後輩がそれを望んでいるのなら全力を尽くさねばな!」
戸惑った様子の冬弥に彰人と司が笑う。 甘え下手な彼が見せたわがままを、叶えてやらねばと、手を引いた。
「「今日のオレたちは、冬弥を存分に甘やかせ隊!」」
君を存分甘やかせ隊!(司冬/彰冬)
「やあやあ、一年生諸君!!青柳冬弥はいるかね?!」 放課後の教室に、ひときわ大きな声が響く。 うわ、という顔のクラスメイトたちの中で、きょとんとした顔の男が1人。 「…司先輩?」 名を呼ばれた冬弥が首を傾げていれば、司も彼を見つけたようで嬉しそうに入ってくる。 「お、今日はまだ教室にいたな」 「どうしたんですか?一年の教室に来るの、珍しいですよね」 不思議そうな冬弥に、不敵な笑みを浮かべた司が、見よ!と何かを差し出してきた。 「…クッキー、ですか」 「ああ!!冬弥、クッキー好きだったろう?しかも、オレ手作りのクッキーだぞ?!」 得意げに言う司に、冬弥が少しだけ目を見開く。 「…司先輩が?」 「そうとも!…実は、昨日咲希が学校の友人たちとクッキーを作っていてな。作り方を教えてもらったんだ」 「…咲希さん、良く教えてくれましたね」 「あー…まあな」 司にしては珍しく歯切れが悪いそれに冬弥が首を傾げた。 まさか、「甘やかしたい相手が居る」と言って教えてもらったんだとは言えない司が、それより食べてみろ!と強引に促す。 「…じゃあ…いただきます」 綺麗な指が袋の中に入ったクッキーを一枚摘んだ。 小さな口に含まれるそれを、わくわくした目で司が見つめる。 「…!コーヒーの味」 「おっ、流石だな、冬弥!分かるか!」 「はい。…美味しいです」 ふわり、と冬弥が笑んだ。 そうだろうそうだろう!と自慢げな司が冬弥の頭を撫でようとした…その時である。 「…何、してんスか。司センパイ」 伸びてきた腕が背後から冬弥を抱きしめた。 冬弥お気に入りのコーヒー缶を手に、超絶不機嫌そうに言うのは彰人である。 「…彰人」 「…なぁに、少しばかり可愛い後輩を甘やかしに、な」 「お気遣いどーも。でも冬弥を甘やかすのはオレの役目なんで」 バチバチと火花が散りそうな2人の間に困った顔の冬弥が残された。 「…俺は彰人に甘やかされたことはないんだが……」 「るっせ、今から甘やかすんだよ!…オレがお前の行きたいところに連れてってやる」 「それより冬弥。ブックカフェなるものが出来たらしいんだが、一緒に行ってくれまいか?」 振り仰ぐ冬弥に笑いかける彰人、それを遮るように誘う司。 「邪魔しねーでくれますか、司センパイ?」 「何?…たまには、オレの可愛い後輩を貸してくれたって良いんじゃないか?」 「残念ながら冬弥はオレの相棒なんでー。あ、前に隣町の大型楽器店に行きたいっつってたよな、冬弥」 「待て待てオレ抜きで話を進めるな!!」 煽り煽られ応酬を続ける二人に、あの、とおずおずと、冬弥が手を挙げる。 「…なんで今日はこんなに、その…色々してくれるんだ?誕生日でもないのに」 純粋な疑問にいがみ合っていた二人が顔を見合わせた。 だって、と声がユニゾンする。 二人が冬弥を、普段真面目でしっかりした彼を甘やかす…その理由は。
(今日は、10月8日、とうやの日!)
クールなお前はオレのメイド様?!(彰冬)
「…なんだよ、これ…」 呆然と、彰人が呟く。 「あ、遅かったじゃん、彰人ー!」 小さな声に気づいてか否か、黒い『スカート』を翻して杏が笑った。 「わわっ!!東雲くん、えっと、いらっしゃい」 店の奥から出てきたこはねが『ヘッドドレス』を揺らしてはにかむ。 いつものセカイ、いつもの店に来たはずだが…これは一体どういうことなのだろうか。 「あら、こんにちは」 朗らかに笑うのはこの店のマスターでもあるMEIKOだ。 「今休憩にしようと思っていたところよ。今日は助かったわぁ」 「いえいえー!普段のお礼もあるし、ね?こはね!」 「うん!…それに、こういう機会でもないとこんな衣装着ないから…」 杏の問いにこはねが頷き、黒いスカートを持ち上げる。 「あら、二人ともよく似合ってるわよ?」 「ありがとうございます、MEIKOさん!」 「えへへー、私はちょこっと恥ずかしいけどねー」 照れる杏に、こはねが「杏ちゃん、凄く似合ってるよ!」と言った。 「ありがとー、こはね!こはねもすっごく可愛い!」 「えへへ、ありがとう、杏ちゃん!」 きゃー!と抱き着く杏に、へにゃりとこはねが笑う。 何だこれ、と彰人は小さく呟いた。 この二人が仲睦まじいのは今に始まったことではないのだけれど。 「つか、なんでこんな事になってんだ」 「ふふ、実はね…」 くすくすとMEIKOが笑う。 実は、この間の中間テスト前、この店で長時間テスト勉強をさせてもらった、という経緯もあり、普段からお世話になっているMEIKOに何か手伝うことはないか、と聞いたのだそうだ。 店を休みにして大掃除をしようと思っていたらしいMEIKOが喜んだのは良いが、そのままでは服が汚れてしまう、と貸してくれたのがこの『メイド服』だったらしい。 「3人分あったからね、丁度良いと思って」 「何が丁度良いんだ…あ?3人?」 からからと笑うMEIKOに嫌そうな顔をしたが、ふとその言葉が気になった。 そういえば先に行っていた冬弥はどうしたのだろう。 「…MEIKOさん、こっちは終わりまし…彰人?!」 「…冬弥?!」 ふわりとした声に振り向けば、冬弥が珍しく驚いた顔をしていた。 二人と揃いの…尤も、丈は長目だったが…スカートが揺れる。 クラシックメイドっていうのよ、とMEIKOが言った。 「いや、種類はどっちでも、つかお前も大人しく着てるんじゃねーよ…」 「仕方がないだろう。MEIKOさんが着て欲しいと言うから…。それに、男性用だし」 「着て欲しいってそん…男性用?マジで?」 冬弥のそれに彰人は思わず聞き返す。 他所のセカイにいる男性型バーチャルシンガー、KAITOのものらしく、背丈が似ているから着れるだろうと充てがわれたようだ。 …何故そのKAITOがメイド服を持っているのかは甚だ疑問ではあったが、あまり深く突っ込むのは野暮か、とへぇ、とだけ返す。 「普段接客をしない子のメイド姿も良いと思ってねー」 楽しそうに笑ったMEIKOがコーヒーを淹れに奥に引っ込んだ。 私達も手伝う!と杏とこはねも着いていき、二人きりになる。 「案外似合ってんな」 「…止めてくれ。…彰人が来るならこんな格好はしなかったのに」 スカートをつまみ上げる彰人に、ムッとした顔で冬弥が言った。 「そこはオレの前だけにしろよ」 「嫌だ」 ぺいっと手を振り払われ、即答されて思わずブスくれる。 「んじゃ、今日だけオレのメイドになってくんね?」 「…また、そういう…」 懲りない彰人に、はぁ、と冬弥が溜息を吐き出した。 「なあ、オレパンケーキ食いたいんだけど。メイドさん」 笑う彰人に、冷たい目を向けていた冬弥は息を吐き。 「分かりました。…ご主人様」 ふわ、と笑みを浮かべ、踵を返す。 冬弥がいなくなった後で真っ赤になった彰人だけが残された。 「…待て、待て待て、んなの卑怯だぞ、冬弥!!!」 「彰人うるさいー!」 キッチンの奥に向かって怒鳴れば、杏のそれがコーヒーの良い匂いと共に返ってくる。
真面目な彼が見せる、珍しいそれは。 自分だけが知っている…極上の笑顔。
(その後のメイド服の行方も、二人だけが知っている)
「あ、東雲くん!この前、メイドさんした時の青柳くんの写真…ひゃわ?!」 「…おまっ、いつの間にそんなもん、全部見せろください!!」
二人きりの真白なセカイより愛の音を(彰冬)
君たちは知っているかな
クラスメイトから聞いた? 中学の友だちから聞いた? お姉さんから聞いた? 先輩から聞いた?
こんな不思議な噂話 …有り触れた世迷言 「誰もいない、Untitledに建つ時計台の上でry」
どこにでも転がってそうな幸せを運ぶジンクス
『廃都アトリエスタにて、永遠の愛を誓う』
「…なんだよ、それ」 それを聞いた瞬間、彰人が嫌そうな顔をする。 だからー!と机を揺らしたのは杏だ。 「Untitledにはね、ミクがいないセカイもあるんだけど、そのセカイには時計台があってそこで愛を誓うと幸せになれるんだって!」 わくわくした目でそう言う杏に、興味なさそうに彰人は息を吐き出す。 「…くだんねー…」 「くだらないって何よー!」 「まあまあ、杏ちゃん」 頬を膨らませる杏を宥めるのはこはねだ。 「…彰人」 後ろから困った顔で声をかける冬弥に、なんだよ、と彰人が睨む。 「そういうのは女子だけでやれっつー…」 「はっはぁん、実は試す自信がないんでしょ?」 「…は?」 杏のそれに彰人が凄い目を向けた。 こはねが焦った声を出す。 「杏ちゃん!」 「要は、彰人はこのおまじないを試す勇気がないんだぁ?じゃあ二人で行こー、こはね!」 「…え、えぇ?!今から?!」 「膳は急げ、よ!」 わたわたするこはねを引っ張っていく杏と、驚きながら着いて行くこはねを見送りながら、冬弥はそっと彰人を見た。 ここまで言われて黙っている彰人ではないことを、冬弥は知っている。 「退屈しのぎには丁度良いんじゃねぇか?なあ、冬弥」 「…そうだな」 カタン、と音を立てて立ち上がる彰人に冬弥は頷いた。 長い一日になりそうだ、なんて思いながら。
「…マジか」 何も無い場所、なんて中々繋がらない。 二人で何度か試してみてようやっと繋がったのは吐く息白い朝のことだった。 雪の街、といったほうが良さそうなそれに彰人は辺りを見回す。 人っ子1人居ないセカイの中で、ぽつんとそびえ立つ建物があった。 ぞわぞわと背に泡立つ感覚は、興奮とかそういうものだろうか。 「おい、あったぞ、冬…」 弥、と繋げようとして、彼の表情が強張っているのをみた。 そういえば、冬弥は高いところが苦手だったかと思い出す。 「…別に、上まで付き合わなくていいぞ。あった事が分かっただけで杏は満足だろ」 ポリポリと頭を掻けば冬弥はふるふると首を振った。 「…ここまで来たんだ。おまじないを試さないのも…おかしいだろう」 「…けどよ」 「試してみるだけだ」 意外にも頑なな冬弥に息を吐く。 こうなった彼は頑固なのだ。 そういうところが…可愛いと思ったり思わなかったり。 「…無理になったら言えよ」 「…分かった」 肩を寄せ合って手をつなぎ、入り口に足を踏み入れる。 中はがらんとしていて、意外だな、とさえ思った。 「…まー、テンションは上がるわな」 「そう、だな」 強引に同意を得て天辺を目指す。 ぐるぐると螺旋階段を登るのは根気の要る作業で。 一体何をしているのだろうと我に返りそうになった。 ここで正気になれば、頑張っている冬弥があまりに可哀想だ。 …まあ彼が登ると言い出したのだけれど。 「…前だけしっかり見てろよ」 「…分かっ、た」 ぎゅうと左手に込める力が強くなったのを感じて苦笑しつつ、ふと白いものが視界を掠める。 「…雪、だ」 「…!」 ついに降り出したそれに、彰人は登ることを諦めた。 強くなる雪は下手をすれば足を踏み外し、滑り落ちる可能性もある。 何より冬弥が限界そうだ。 …それに。 かつて誰かの思いで賑わったであろうセカイを覆う白銀は、確かに綺麗な景色だった。 天辺ではないかもしれない。 それでも、冬弥と共に見られるのなら、白いキャンパスに描くものが同じと知っているそれが彰人にとっては一等綺麗だと言えた。 …それは、きっと冬弥も同じ。 唐突に鐘の音が響いた。 錆びついて鳴らないだろうと思っていた時刻を告げる時計台がセカイ中に音を紡ぐ。 その音はまるで、自分たちを祝福しているかのようで。 「…彰人」 「…ああ」 珍しく積極的な彼の、すっかり冷たくなった頬に手を添える。 誰かの世迷言だって本物に変えてやると。 未来は、自分たちの手で掴むんだと。 …幸せは、次の幸せへと紡ぎ、大きな愛になるようにと。 重なる唇でそっと呟く、その言葉は。
『廃都アトリエスタにて、永遠の愛を誓う』
機械仕掛けの神様なんてクソくらえ(彰冬)
…かんっぜんに選曲ミスった。 「…大丈夫か?彰人」 心配そうに覗き込むオレの相棒…今の所は、だが…の、青柳冬弥に突っ伏したまま手を振る。 「飲み物、いるか?」 「…んじゃあブラック以外で」 「…分かった」 小さく笑った冬弥がパタパタとスタジオから出た。 それを見送りながらオレは自分が持ってきたはずの楽譜を手に取る。
Anti the EuphoriaHOLiC
そう銘打たれた楽曲は、とにかく速いし曲調もコロコロ変わるしで歌うのがかなり難しいそれだった。 普段やらないジャンルを、と探してきたはいいが完全に間違ったな…。 つか、作者は何を思ってこの曲を作ったんだ? Фはセカイとは読まねぇだろ、普通…。 「…これで良いか?」 「…ん、サンキュ」 缶ジュースを戻ってきた冬弥から受け取る。 「冬弥は大丈夫か?」 「…俺、か?俺はまあ…」 「無茶すんなよ」 困った顔の冬弥にそう声をかけた。 こいつは感情を表情に出さないからな。 まあそこが冬弥らしいっちゃあらしいんだけど。 それに、前より分かりやすくなったし。 「彰人が選んだ曲だろう?…難しくても、やり遂げてみせるさ」 冬弥が小さく笑う。 …オレは、こいつのこういうトコが好きなんだよなぁ…。 オレを、真っ直ぐに信じてくれる。 なんだかんだ言いながら着いてきてくれる。 だからオレももっと高みへ行けるんだ。 あの、喧嘩で、再確認した。 オレは…こいつと、冬弥と歩いていきたい、と。 「辿るべき道標(ひかり)はその胸に――、か」 「彰人?」 きょとんとした顔で冬弥がこちらを向く。 何でもねぇよ、と答えて立ち上がった。 よく分かんねぇ歌詞の羅列で、唯一共感したそれ。 辿るべき目標(ゆめ)は、オレたちだけのもの。 オレたちはオレたちだ。 決めるのは他の誰かじゃねぇ。 カミサマなんていらない。 デクス・エクス・マキナなんてもっとごめんだ。 オレは、歌と冬弥がいりゃあ…それでいい。 「練習再開すっぞ!!」 「…ああ」 呼び掛ければ、ふわり、と冬弥が笑う。 中々見れない、柔らかなそれで。 …冬弥の笑顔のためなら、オレは…バッドエンドも書き換えてやるよ。
「ぜってぇ嫌だ。誰がんなふりっふりの服着るかよ、司センパイじゃあるまいし!」 「…フリルと言っても腰のところだけだろう。きちんとした男性用衣装だぞ?」 「彰人はさあ、ワガママだと思うなあ」 「…レン」 「ここのレンを見てよ、まともな衣装が二割しかない」 「…。…オレが悪かった」
R18を超えていけ!(彰冬)
「…なあ、ミク。この歌詞なんだが…」 「はいはーい。えっとねー」 いつものセカイ、いつものMEIKOの店で、割と珍しい光景が繰り広げられていた。 ミクと冬弥がこちらに気付くこと無く話し込んでいる。 普段はどちらかが気付くものだが…。 ここでイタズラ心がむくむくと湧いた。 少し、ほんの少しだけ脅かせば彼はどんな顔をするのだろう。 そぅっと背後に回り…冬弥が持っている楽譜のタイトル部分が目に入った。 それに目を見開く。 「…冬弥っ!」 「っ?!彰人?!」 思わず大声で呼び、目を見開いて振り仰ぐ冬弥に、ああそんな顔をするのかと思う暇もなかった。 だって、そのタイトルは。 「R-18ってなんだよ!!」 「…は?」 彰人の渾身の叫びに、冬弥がぽかんとした。 R-18、匂わせるなんてこともない、モロにそのままなタイトル。 どこで歌うつもりだったかは知らないがそんなことは許さない。 そんな、誰が、オレの冬弥にそんな歌詞を紡がせてやるものか…! そう息巻く彰人とは正反対に冬弥は呆れ顔だ。 ミクがくすくす笑い、彰人の袖を引っ張る。 「…あのね、これ…『ルート18』って読むんだよ?」
「…タイトル詐欺じゃねぇかよ…」 はぁあ、と彰人がため息を吐く。 まさかの、国道18号線を自転車で走る歌、だとは誰が思うのだろう。 「…反省したか」 と、冬弥が呆れ顔でやってきた。 歌詞の件はもう良いらしい。 「はいはい、反省しましたー。…んで?今日は終わりか?」 「…それなんだが」 軽く返し、冬弥に振ってみれば彼は少し困った顔をした。 「…彰人、自転車は持っているか?」 「…そりゃあ、まあな」 唐突なそれに疑問符を浮かべながら答える。 そうか、と少し寂しそうな冬弥曰く、今回の歌が自転車こいでひたすら走る、という爽やかな歌詞なのに、自転車自体にロクに乗ったことがないらしいのだ。 昔からクラシック一筋で、厳しく教えこまれてきた冬弥は手を怪我してはいけないと禁じられてきたようで。 「あまり、感情移入出来ないんだ」 目を伏せる冬弥に、なるほど、と思う。 彼は完璧を目指すタイプだ。 彰人と並べる様にと頑張っている冬弥が努力を惜しんでいないのは知っている。 …だったら。 「…乗れば、いいんじゃねぇの?」 「え?」 「なんならオレの後ろ、乗せてやるけど」 驚く冬弥にそう言って笑った。 「流石に国道18号線までは行けないけどさ、好きなトコ連れてってやるよ」 「…!…すまない」 「おー」 ふわ、と表情を緩める冬弥に彰人はひらひらと手を振った。 自転車に乗るように、彼の思いが軽くなれば良いと思う。
「…彰人、速くないか…?!」 「んなことねぇよ。つかくっつき過ぎ。曲がれねぇだろー?」 「そんな、こと言われても…!」
焦る冬弥の声をBGMに、風をきった。 背中から伝わる温もりと、とくとくと聴こえる心音が心地良い。 「坂来るぞー、落ちるなよ!」 「えっ、まっ、まて、彰人!」 「待てるかっての!」 ふは、と笑い、坂を下る。 ひっと引き攣る声に背に掴まる力強い手。 …彰人の手を取ってくれた、手。 それだけで良い。 引っ張って、横に並んで、二人で走れば良いのだから。
『自転車こいで、ひたすら走る!』
(その先に二人の未来があると信じて!!)
秋、教室の片隅で(彰冬)
誰も居ない教室の片隅。 「ほらよ」 テスト用紙を広げドヤ顔の男と。 「…」 困った顔の男がそこに居た。 ドヤ顔の男は東雲彰人、困った顔の男は青柳冬弥という。 放課後、冬弥の教室に乗り込んできた彰人はぽかんとする彼の前でこれを広げてみせた。 藍鼠色の瞳が珍しく見開かれるのを見、彰人はますます得意げな表情になる。 「約束は果たしたぜ」 「…」 「おい、冬弥?」 「…分かった」 彰人のそれに冬弥は小さく息を吐き出した。 言い出したら聞かないのは重々承知だ。 何故こんなことに、と思うもそれはどうしようもないことで。 ことの始まりはニ週間前のことだった。 中間テストが始まるというのに相も変わらずヤマ勘で何とかしようとする彰人に「全教科80点以上取ったら何でもしてやる」と告げたのが不味かったのだ。 「…本当か?」 「ああ」 「何でも?」 「ああ」 「…二言はねぇな?」 「…だから、そう……」 随分念入りに確認してくるからいい加減鬱陶しくなって眉を寄せる冬弥に彰人が言ったそれは。 「なら、冬弥からのキスが欲しい」 「…分かっ…は?」 一瞬、快諾しそうになって固まった。 何を、言い出すのか。 「…今、何と」 「だから、冬弥からのキスだって」 聞き返す冬弥に、彰人が笑う。 最近になって付き合い始めた彰人とは、何度かそういうことはしていた。 だが、いつもリードを取るのは彰人からで。 恥ずかしいのもあるが、彰人に求められるのは嬉しくもあったから冬弥から何か起こすことはなかったのだが。 「…それで、勉強するなら」 わくわくと、まるで子犬みたいな表情で見上げる彰人に拒否することも出来ず、冬弥はゆっくりと頷いた。 「…っし!見とけよ、オレの本気!」 ニッと笑う彰人にまあ良いか、と思ったのが…いけなかったのだ。 有言実行、全教科80点以上で揃えてきた彰人に、普段からそうすれば良いのに、なんて如何だって良いことが過ぎる。 「…なぁ、冬…」 少しばかりムッとする彰人の方へ身を寄せた。 カタン、と椅子の音が鳴る。 触れるだけのキスを落とし、これで良いだろう?と小さな声で言った。 これ以上は勘弁して欲しい。 秋風が真っ赤に染まった冬弥の耳を晒した。 「…いや、お前、それワザとだろ…」 「…何がだ」 はあ、と深い溜息を吐く彰人に今度は冬弥がムッとする番で。 「だーから、煽んなっつー…!」 「…俺は煽っていない。…彰人!」 「はいはい、言い訳は後で聞いてやっから」 な、と笑う彰人の顔が近づいて来て、思わず目を閉じる。 夕暮れ、染まる教室に二人きり。 響くチャイムがどこか遠くに聞こえた。 (冬弥が彰人に染められるまで、後数分)
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