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セカイ(彰冬ワンドロ)
「…不思議だよな、セカイって」 ぼんやりとイヤホンコードを手で弄びながら彰人が呟いた。 小さな声だったから聞こえていないと思ったのに隣の冬弥にはばっちりと聞こえていたようで。 「…?何が不思議なんだ?」 首を傾げた、冬弥の髪がさらりと揺れる。 綺麗なツートンカラーのそれは触り心地が良く、彰人は何の気なしに手を伸ばした。 「…彰人」 「…いや。想いで出来たセカイっつーのがまだ信じらんねぇって話」 「あんなに出向いているのに、か?」 「だからだよ」 軽く笑いながら、彰人は秋風に揺れる冬弥の髪をそっと撫でる。 馴染みの感覚が手に伝わった。 「ミクもレンもリンもMEIKOさんも、この目でしっかり見てるし、声も聞いてる。セカイで飲んだ珈琲は美味いしな。だからこそ、夢じゃねぇんだな、ってさ」 「…だから」 「セカイを受け入れてないわけじゃねぇよ」 何かを言おうとする冬弥に、彰人は先回りする。 彼はまたロジックがどうとかこうとか難しい話をする気だろうから。 「…なら」 「セカイどうこうより、冬弥と想いが一緒っていうのが改めて嬉しい」 「…!」 素直に口にすれば冬弥は冬空のような瞳を丸くさせた。 ややあってそれがやんわり溶ける。 「…俺もだ」 他には見せない柔らかなそれで言うから、彰人は何だか照れくさくなった。 変に隠したりしない冬弥の言葉は、彰人の心にもよく染み込む。 あの夜を超えるライブを、という想いは同じなのだと…思うから。 「行こうぜ」 「…ああ」 短い言葉を交わし、彰人が伸ばした手を冬弥が掴んだ。 白い光が二人を包む。 見慣れたストリートが姿を表して、彰人は冬弥の顔を見合わせ、駆け出した。 まだ信じられないけれども、このセカイは二人の想いを改めて実感させてくれる場所。 それだけで良いと、思った。
「…なあ、想いってさ、邪な感じも有りなのか?例えば、エロいこととか」 「…彰人、まだ昼だしレン相手にそんな…」 「…流石に音楽に関係してなきゃ駄目じゃないかなぁ…まあ、催淫作用を付与させた曲を作るって想いを持った人たちがいるセカイがあったようななかったような」 「…」 「…いや、オレでもそれは流石に引くけどな……?」
彰人誕生祭
冬弥が何か隠している。
そう感づいたのは数週間前のことだった。 恐らく、彰人の誕生日について何か計画しているのだろう…杏やこはねとそんな話をしたのは記憶に新しい。 「後一日早かったらゾロ目だったのにねー!」と笑う杏や、「忘れずにちゃんと、おめでとうって言うね」と力いっぱい言うこはねを他所に何か考えていたから、その時からの計画に違いなかった。 だが、隠し方が露骨なのである。 元々冬弥は、嘘は下手な方だから隠していたとてすぐに分かるのだ。 それでも内緒にして何かをやってくれているのは嬉しいし、有り難くはあるのだけれど。 「…クソッ、また逃げられた…!」 放課後、クラスに迎えに行った彰人はギリッと奥歯を噛み締めた。 これで3日連続である。 冬弥が…彰人と一緒に帰らなくなって3日。 最初は良かったが今はイライラの方が勝っていた。 こんなに顔を合わせないのはあの喧嘩、以来である。 あの時と違うのは練習では姿を見ることくらいで。 だが話そうとすれば杏やこはねに邪魔されるし、セカイではリンやレンが妨害してくる。 明らかな作為が見えているのは明らかだ。 「おっ、彰人じゃあないか」 話しかけてきたのは二人の先輩でもある、司であった。 彰人にとっては何となくイラッとするので揶揄う対象だが…冬弥はその司を尊敬しているらしいのだ。 何がそんなに良いのだか、とジロリと司を睨む。 「…なんスか」 「機嫌が悪いな…。…冬弥からだ、受け取ると良い」 ほら、と差し出されたのは綺麗な手紙であった。 何故、と胡乱げに司を見れば、ニマーと悪い顔を浮かべていて。 「…愛されているな、彰人は」 「はぁ?」 「では、オレは行くとしよう!」 意味深な言葉を残し、司が高笑いで去っていく。 止める暇もなかった。 受け取った手紙を開けば見慣れた綺麗な字で【WEEKENDGARAGEで待っている】と書かれてあって。 さて何を用意しているのやら、と彰人はカバンを持ち直した。 ここまで避けられていたのだ…徹底的に説明してもらわなければ。
「…は?」 さて、彰人が見たのは信じられない光景だった。 冬弥が女子に囲まれている。 確か、こはねと同じ女子校の制服だったか…随分と仲良さげだ。 店の前で別れた後、冬弥は店の中に、彼女たちはこちらに向かって歩いてくる。 「とーやくん、上手く行くと良いね!」 「そうねぇ。沢山練習したもの、大丈夫なんじゃないかしら」 「最初はどうなるかと思ったけどね」 「まあ…咲希に比べたら…」 「あー!ひどーい!…」 きゃあきゃあと話す彼女たちから何となく距離を取り、彰人は店に入った。 「…」 「…!彰人」 ふわ、と小さな笑みを浮かべる冬弥は、黒いエプロンを着けていて。 奥から香るそれとリフレインする彼女らの会話、それに司の言葉全てに全てが繋がった。 …何故冬弥が彰人を避けていたのかも。 だが、それとこれとは話が別である。 「…んで?オレを避けてた訳を聞こうじゃん?」 「彰人のことだ。もうバレているんだろう?」 「お前の口から聞きたいんだよ、オレは」 困ったように言う彼にそう言えば、また悪い顔をして、とほんの少し拗ねたように言った。 これは、専売特許みたいなものだから諦めてほしいのだけれど。 「冬弥」 「…分かった。…彰人に、食べて欲しくて…ここのキッチンを借りて、小豆沢の友だちの…バンド仲間?が家事全般が得意だと言うから、教わったんだ。その…チーズケーキ、なんだが」 好きだろう?と首を傾げる冬弥に、ああ、と笑ってみせる。 会えなくても、冬弥は彰人のことでいっぱいだったのだ。 ただそれだけで…嬉しい。 「…ありがとな」 「…いや」 微笑む冬弥を引き寄せた。 どちらともなく口付ける。
可愛い彼が自分のことだけを想ってくれる、今日は特別な誕生日。
おめでとう、と言う小さな彼の声は、深いキスにとって消えた。
(手作りチーズケーキとその作り手は、主役が美味しく頂きました!)
夢に続きを(彰冬)
ちょっと和音が不協だって良いんじゃない?
正解がどの音か、なんて誰もわからないんだから。
その日、彰人はイライラしていた。 理由は簡単、相棒の冬弥が隣にいないから。 用事ならば仕方が無いと思うが…と。 「やっほー、彰人!」 「…レン」 明るい声で挨拶してくるのはバーチャルシンガーのレンだ。 少年ぽさが残る彼が、どうしたの?と覗き込んでくる。 どうせ何もすることはない、と気分転換に話すことにした。 「…なあ、レンはさ、相棒…リンが他のやつと喋ってたりしたらどう思う?」 「どうって?」 「あー…嬉しいとか、ムカつく、とか?」 不思議そうな目で聞くレンにそう答えれば、彼はあははと笑う。 「リンに対してはどっちも思ったこと無いよー!オレ以外と仲良くしてもどうも思わないもん。リンだってあんなだけど女子じゃん?男のオレより女同士の話もあるだろうし。別に彰人や冬弥と話してても何とも思わないけどね」 軽いレンに、普通はそうだよな、と思いながら、その言葉の端が気になった。 「…リンに対しては?」 「うん。あ、MEIKOやミクにも思ったこと無いよ!」 「は?んじゃあ他誰に…」 レンの言葉に首をひねっていれば、彼は少年らしからぬ笑みを浮かべる。 こっち、と手招きされた先は、誰もいないような路地の奥、セカイにこんな場所があったのかとゾッとするような寂れた建物だった。 「…知ってる?彰人」 「あ?何を…」 聞き返そうとした彰人に、レンがくるりと振り返って笑う。 …この少年はこんな風に笑っただろうか。 「…セカイは、誰かの想いで出来てる。…こんな場所を作ったのは誰の想いだろうね?」 くすくすと笑うレンがキィ、と扉を開いた。 レン?と響くのは確か青い髪の…。 そこまで考えて、レンと視線が絡む。 少年は、可愛らしく笑いながら甘い言葉を、囁いた。 「誰にも取られたくないんならさ、閉じ込めちゃえば良いんだよ」
彰人、という柔らかい声がする。 振り向くと小さく走る冬弥がいた。 「すまない、遅くなった」 「んや。…行こーぜ。良い場所見つけたんだ」 「ああ」 息を整え、冬弥が頷く。 大丈夫だ、バレない…絶対に。 「…随分、奥に入るんだな」 「まーな」 路地裏に入り、もう使われていない映画館に入る。 ほう、と息を吐きだして中を見回している間に、鍵を…閉めた。 「…凄いな」 「だろ?ライブの会場もこんくらいだし。…練習しよーぜ」 「…分かった」 頷く彼が、ふと振り向く。 彰人?と響く、冬弥の声。 ぎゅっと、背後から抱き締め…ポケットに入っていた音楽プレーヤーを取り上げた。 …これがないと、現実世界に帰れないと知っていて、わざと。 「今は、要らねぇだろ」 「…だが」 「時間が分かんなくなるって?良いんじゃねーの、別に」 「…彰人…?」 ようやっと、冬弥がおかしいと眉を寄せる。 …何もかも、もう遅いのに。 「どうしたんだ?今日のお前は少しおかしい…」 「扉の鍵は閉まった。まあ出る必要もないけどな。…お前にはオレがいれば良い、だろ?」 「…」 「オレだけを見てろよ」 彰人、とほんの少し怯えたように名を呼ぶ冬弥に笑いかける。 …その表情は、歪だったろうか。 「オレが冬弥の全てを受け止めてやるから…このセカイの中だけは」 出来れば遠くに行かないでくれ、と。 抱き締めて懇願する。
充電が切れるまでの、僅かな時間だけ…オレに捕まえさせてくれないかと。
「…分かった」 「冬弥?」 「…受け止めてくれるんだろう?」 冬弥が微笑む。 壊れそうな、笑みで。 この『監禁』を受け入れてしまえば、救済は残されていないのに! 「…【出来るなら痛くしないで】」 彼が、いつか歌った歌詞をリフレインする。 だから、ああ、と頷き囁いた。 返事をしようとした冬弥の言葉ごと口付けて飲み込む。 チカチカとライトが不規則に光っては消えた。
お互いしか見えない…暗い映画館で二人きり。 音が小さく響く、セカイは夢に続きをもたらした。 さて、夢が現に戻るまで…残り時間は?
夢の続きを(彰冬)
カランカランと鐘が鳴り響く。 あ、と思った彰人の目に映る、プラチナ色の玉。 「おめでとう御座いますー!3等ですね!」 係の人に明るく声をかけられ、ハッとする。 買い物に出た先の商店街で福引をやっていた、軽い気持ちで回した結果が…これだ。 普段は当たらないくせに、と1人ごちながら渡された封筒を受け取る。 中身を確認すれば、フェニックスワンダーランドのペアチケットであった。 最近よく縁があるな、と頭を掻く。 「…絵名にやるか」 小さく呟き、買い物袋に突っ込んだ。 この前メンバー4人で行ったばかりのその場所は、思ったよりも楽しめたが、そう何度も行くものではないと思う。 増して、彰人は高校生男子だ。 小さな子どもでもあるまいし、今更遊園地にテンションが上がる性格でもない。 こういうのは、姉である絵名の方が喜ぶだろう…写真映えもするし。 「…」 ふ、と思い浮かんだのは相棒であり恋人の冬弥の顔だった。 今まで遊園地なんて来たことがないと珍しく嬉しそうだった彼は帰り間際に何か名残惜しそうにしていたのだ。 あの時は何も聞かなかったが…心残りでもあるのだろう。 「…しゃーねーな」 買い物袋に突っ込んだそれを取り出してポケットに仕舞い直す。 さてどうやってあの真面目な彼を誘い出すか、と頭を巡らせた。
「…相変わらず賑やかだな、ここは」 「そーだな」 そして、次の日曜日。 嬉しそうに頬を緩める冬弥に、彰人は短く返す。 福引で当てた、とチケットを渡した際、彼は凄く喜んだのだ…態度には出なかったが。 二人だけ、というのに申し訳無さもあったようだが、「行きたきゃ行くだろ、近所だし」という彰人のそれに納得したらしい。 テーマソングが流れる中、人でごった返したそこは秋も深まっているというのに熱気が凄かった。 「つか、なんでこんな混んでんだ?今日」 「…知らないのか?」 行きたかった場所がある、と珍しく地図を持ち先を歩いていた冬弥がぼやく彰人にきょとんとする。 「あ?」 「今日は、クリスマスナイトの初日だ。…大きなイベントの初日と最終日はチケットを取るのが大変だと…小豆沢が言っていた」 クリスマス、という言葉になるほど、と思った。 曰く、春のイースターや夏のサマーフェスティバル、秋のハロウィンと同様、かなり盛り上がるものらしい。 「夜、ツリーをあの観覧車の上から見ると幸せになれるとか」 「…へえ?」 何故そんなことを知っているんだ、なんて思うが敢えて口には出さなかった。 恐らくこはねか…あの懐いているセンパイにでも聞いたのだろう。 こはねはともかく、センパイだと無性に腹が立った。 「行ってみるか?」 「…俺が高い所苦手なの、知っているだろう」 だがここで不機嫌になったとて質の悪い八つ当たりにしかならない。 代わりにそう言ってやれば冬弥はほんの少しだけ眉を顰めた。 冗談だよ、と笑う彰人に、冬弥は小さく息を吐く。 「…俺は、彰人の横に居られるだけで幸せだからな」 ふわ、と笑みを見せる冬弥に目を見開いてはぁあ、と大きなため息を吐き出した。 …まったく、彼はこれだから! 「…?彰人?」 「別に。…で?何処に向かってんだ?乗り物じゃねぇんだろ?」 「ああ。乗り物は前に気になるものは乗ったからな。…フェニックスワンダーランド限定の、パンケーキがあるらしい。この時期限定の珈琲フレーバーがあるらしいんだが…前回は混んでいたから」 冬弥の言葉に、ああ、と頷く。 「前はあんま見てなかったけど…そんなんあるんだな」 「ああ。彰人と行きたくて…少し、調べた」 笑みを浮かべる彼はとても可愛らしかった。 これで無自覚なのだから本当にどうしようもない。 そういえばチケットを渡した時、「冬さ、乗り物得意じゃねぇけど行くか?」と聞いた際に「俺は彰人と出かけるのが楽しいから、良いんだ」と言っていたっけ。 嬉しそうにしやがって、と思いながら彰人もまんざらではなかった。 こうやって、行きたい場所を調べているくらいには楽しみにしてくれていたようだし。 食べながら歩く、ということがどうも苦手らしい冬弥はカフェスペースがある方が良いのだろう…珍しく急いでいると思ったら。 「んじゃ、早く行こうぜ。今日は時間もゆっくりあるしな」 「…ああ。…っ」 彰人に頷いた冬弥が一瞬、人波に飲まれそうになった。 危ない、と慌てて手を伸ばす。 「気を付けろよ。今日は混んでんだから」 「…すまない」 手を掴み、そのままぎゅっと握った。 何処かでショーが始まったのだろうか、シャボン玉やら紙吹雪やらが辺りを舞う。 たまにはこういうのも悪くないな、と思った。
夢のような場所で、柔らかく笑う彼と二人
(ここはフェニックスワンダーランド!)
プランツドールパロディ
とーやくんがお人形さんならプランツパロいけるのではと思ってしまった お行儀良くミルクと砂糖菓子でお世話してもいいし、別のもの食べさせて成長させちゃってもいいし…絶望を栄養に歌う人形とか、甘美な憂鬱を餌に育つ青い花冠を咲かせるのもいいですね… 彼は誰を選んで目を覚まして、その人にどうお世話されるんだろうなー
ワンドロ/スポーツ(彰冬)
「東雲ー!そっちそっち!」 「おー」 クラスメイトからの声に彰人は適当に返事をしてボールを蹴る。 今日の体育はサッカーだ。 昔から人並みよりは器用だったので得意とはしてきたスポーツである。 サッカーをやって食べていけたら、なんてぼんやり考えていたのも…まあ昔の話なのだが。 よっと軽く声を出し、相手のゴールに入れる。 ホイッスルの音にホッと息を吐いた。 ハイタッチしに来るクラスメイトに応じ、きゃーきゃー言う女子に外面の笑顔を貼り付けて手を振る。 …そういえば冬弥のクラスはあの辺だったかと思いながら、該当の教室に向かって手を挙げてみた。 何の意味もない行為だな、と苦笑しつつ、呼ぶクラスメイトの元に走る。 真面目な冬弥がこちらを見ているなんて有り得ない、と思いながら。
次の時間は古文だった。 なぜ体育の後に、こんな眠たくなる授業なのだろう。 設定した教師を問い詰めたくなりながら、彰人はぼんやりと窓の外を見る。 この時間は冬弥のクラスが体育のようだ。 冬弥はスポーツが苦手らしく…あんなにダンスは踊れるくせに…サッカーボールにオタオタしていた。 珍しい冬弥の様子に何となしに窓の外を見つめていると冬弥からパスをもらったクラスメイトがゴールを決めた所だったようで何やらハイタッチを求められていて。 「…ん?」 困ったような様子を見せていた冬弥が何やらキョロキョロしていた。 何やってんだ、と不思議に思った…その時。 「…は?」 窓の外を見つめている彰人の方を真っ直ぐ見つめ、ふわりと手を振ったのだ。 まるで、見ているのを知っていたかのように。 …知っていた? 彰人が冬弥に手を振ったのは…見ていないのに? は、と顔が赤くなる。 まさか。 冬弥も、見ていた? 「…ウソだろ」 彰人の小さな声は、チャイムと重なってかき消された。 だってまさか。 真面目な彼が、授業をほっぽって自分を見ていたなんて! 彰人の顔がニヤける。 教室から飛び出しながら口元を手で覆った。 休み時間、体育が終わったばかりの冬弥と会うまで…後数秒。
(『スポーツは苦手だが、見るのは寧ろ楽しみなんだ …彰人が、格好良いから…な』
なんて彼が微笑む未来まで、後何秒?)
お前に溺れるティータイム(彰冬)
自律感覚絶頂反応って知ってるか?
そう問いかけると、その相手、冬弥はきょとんとした。 「確か…ASMR、だったか。聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地良い、脳がゾワゾワするといった反応・感覚のこと、だろう?」 「お、流石だな」 ふわりと髪を揺らして首を傾げる冬弥に彰人は笑う。 なんだって急に、という顔をするから、バイトの仲間がそんな動画を見ていて気になったんだ、と、簡単に説明してやった。 「…それと、このカラオケでのお菓子パーティが、何か関係が…?」 まだ納得しきれていない冬弥から出てきた似つかわしくないそれに思わず吹き出す。 まさかお菓子パーティが出てくるとは思わなかった。 確かに、彰人が好きなチーズケーキや冬弥が好きなクッキーと珈琲、更に炭酸飲料まで用意していればそうもなるか、と思いつつ、その手を引く。 「…っ、彰人?」 灰青の瞳が見開かれた。 バランスを崩した冬弥を抱き止め、そのままソファに座る。 冬弥の、形の良い耳をすり、と触り、低く囁いた。 びく、と跳ねる躰に小さく笑う。 「…やってみねぇ?」
ちゃく、とわざと音が鳴るようにチーズケーキを口に運ぶ。 爽やかな酸味と程よい甘みが口に広がった。 美味い、と思うが今日の目的はそこではない。 「…どうだ?」 膝の上にいる冬弥に声をかけると、びく、と震えた。 「…ん…!…変、な…気分に、なる」 耳を赤く染め、小さな声で言う冬弥。 やはり、耳が良いと敏感になるものなのだろうかとぼんやり思った。 「…な、あ…!この、体勢は…やめないか…?」 「なんで?」 「なんで、って…」 態とらしく聞いてやれば冬弥は困った顔をする。 隣に座ればいいじゃないかとかそういう言葉はついぞ出てこないから「理由がねぇならべつにいいだろ」と押し切った。 冬弥の言いたいことなんか分かっている。 分かっていて敢えて教えてやりたかった。 彼の、この顔が見たいから。 …こういうところが、最近知り合ったばかりの小さなバーチャル・シンガーにまで「彰人ってさ、たまに悪い顔するよね」と言われる所以だろうか。 「んじゃ、次は冬弥な」 「…俺、も?」 「当たり前だろ」 熱い息を吐き出す冬弥の小さな口に、手を伸ばして取ったクッキーを入れてやる。 断れば済むのに存外律儀な彼はサク、と小気味良い音を立ててクッキーを噛んだ。 サクサクと噛み砕かれる音が耳元で聴こえる。 こくん、と飲み込むそれは確かにエロいな、とは思うがそれは食べている冬弥に関して思うだけで特にゾクゾクとした感覚は得られなかった。 「…どうだ?」 「…んー、オレは特に何も感じねぇな。お前がエロいとは思うけど…あ、飲み物ならなんか変わる…冬弥?」 彰人が喋っている途中で、限界、というように冬弥が肩に顔を埋めてくる。 驚いていれば、小さな声で冬弥が「…俺もだ」と言った。 「…は?」 「…。…誰かが食べている音、なんて不快でしかなかった。こんなに、頭がボーッとして、ここ、が…疼くのは…彰人、だから」 己の腹を押さえながら普段よりも小さな声で告白する冬弥に目を見開く。 そういうトコ!と思いながら彼の肩を掴んで顔を起こした。 「…煽ってんじゃねぇよ」 「…そんなつもり、は…」 「それが煽ってんだっつー…。…なあ、キスしていいか?」 「…普段は聞かないくせに…んっ」 少しばかり不満そうな冬弥にうるさいとばかりに耳と口を塞ぐ。 おず、と回された手は同じように彰人の耳を塞いできて。 互いを貪る水音が脳内に響く。 周りの騒がしい音は遮断され、溺れるように二人きり。
なるほど、これは確かにゾクゾクすると、思った。
(綺麗な彼が溺れていく、この感覚は
自律感覚絶頂反応とはまた違った扉を開ける、音)
人狼彰人×占い師冬弥
「なあ、知ってたんだろ?冬弥」「…ああ」 から始まる、人狼彰人と予言者冬弥の恋…恋人じゃなくても、次の日自分から追放に名乗り出る彰人も好き。 お前は1人で死なせない、的な。 人狼彰冬だと、一般人のふりした人狼彰人と人狼だと知っていて敢えて言わない予言者冬弥が良いな、と思いますね。 しかも恋人なので、どっちかが死んだら片方も死ぬ、みたいなあれだと良い。 冬弥が彰人に食われて死ぬ、そのせいで彰人も死ぬ、みたいなのでもありなんだろうか、恋人。
類から媚薬を貰う彰冬の話
ワンドロ/読書の秋(彰冬)
紙の捲る音がやけに響く。 壁に貼ってあるポスターには、『読書の秋、本を読もう!』の文字。 …秋じゃなくても読んでいるくせに、なんて心の中で毒づいた。 図書委員である冬弥が一人カウンターで返ってきたばかりの本を読んでいるのはよくある事象だ。 …そのせいで彰人に気が付かないのも。 (…つまんね) 小さく息を吐き、委員の仕事ならばもう少しで終わるだろうかと手を伸ばす。 「…冬弥」 彰人の声にハッと冬弥がこちらを見上げた。 本を取り上げて触れるだけのキスを落とす。 やっとこっちを向いた、と笑えば何故だか彼は頬を真っ赤に染めた。 驚いたのは彰人である。 今更キスくらいで赤面するのは思わなかった。 「はっ、いや、お前、なに…」 「…すまない。その…本を」 動揺を隠せない彰人に目を伏せながら冬弥が言う。 さらりとした彼の髪が真っ赤に染まった耳を隠した。 本、とこの期に及んで何を言うのかなんて思いながらそれを見る。 よくある、ティーンズ文庫、と呼ばれるその本は確かに冬弥が読むには珍しいと思えた。 だが彼がここまで赤面する理由にはならないだろう。 「…」 ぱらりと表紙を捲る。 ああ、と思った。 「…これ」 「…。…白石が、な…友だちの代わり、と先程返しに来たんだが…」 はっきりしない口調で冬弥が言う。 曰く、杏が返しに来た際「なんか、冬弥には返し辛いって言うから代わりに返しに来たんだけど…」と言ったものだから、そんなに怖い顔なのだろうかと心配したが、彼女はカラカラ笑って「違う違う、内容がねー!」とそこまで言って部活の助っ人に呼ばれていた、と慌てて行ってしまったのだ。 男子相手には返し辛い内容の本とはどんなものだろうかと気になったのがいけなかった。 開いたそれは柔らかい青春物を装った、ドロドロした愛憎劇で。 流石に学校の図書館にあるだけあって発禁ではなかったが、近いもののような気がする。 活字として読み取ったそれは脳内で鮮明に描き出された。 閉じたいのに頁を捲る手が止まらなくて、どうしようもなくて。 どうしようと思い、思い浮かんだのは…彰人だったのだと。 「…自分でもよく分からない感情にどうすれば良いか分からなかったが…彰人の声がして、それで」 「あー…分かったわかった」 可愛いことを言う冬弥に彰人はホールドアップする。 「んで?冬弥くんはどうされたいんだ?」 ひらりとその本を揺らした。 表紙が見えるように、わざと。 刹那、無言で投げられる図書準備室の鍵を反射で受け取る。 「…お前」 「…片付けてくる」 ふい、と冬弥が彰人から本を取り返しさっさと本棚の奥に消えた。 可愛いやつ、なんて笑いながら鍵を宙に放り投げる。 ちゃり、と音を鳴らすそれは冬弥なりのお誘いなのだろう。 読書のもたまには良いな、なんて大概不謹慎なことを思った。
秋の風が吹く。 冬の音を連れて。
吹かれた風に煽られて捲られたそれは、二人だけの秘密の1ページ。
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