君に飽くまで好きって言いたいお年頃!(ザクカイ)

「…好きだ!…いや、違うな……俺は好きなんだが貴様はどうだ……これも違う…」
「なぁにやってるんだい、ザッくん?」
ブツブツと部屋の真ん中で呟くザクロに声をかけたのはユズだった。
「おわっ?!…路々森、更屋敷に伊奈葉まで」
驚くザクロの背後には声をかけてきたユズの他に不思議そうなカリンとヒミコがいる。
「あぁっ、驚かせてしまってすみません……」
「いや、こちらも集中していた。すまない」
申し訳なさそうにするヒミコにザクロも謝った。
そも、驚かせたのはユズなので、ヒミコが謝る筋合いもないのだが。
「…ところで、何をそんなに一生懸命になっていたんですか?忍霧さん」
「何やら、好き、とかいう言葉が聞こえたようだが…」
こてりと首を傾げるカリンと、にやにや笑うユズの対比に、ザクロはほんの少しだけ嫌な顔をした。
ヒミコやカリンはともかく、ユズは面白がるに違いない。
「…。…何でもない」
「何でもないことないだろう、ザッくーん!ボクらに教えたまえよ!」
固い声で答えるザクロに無邪気にユズが問いただそうとする…そんなやり取りを止めたのはカリンとヒミコだ。
「ちょっとユズ先輩?!!無理矢理聞き出すのは良くないです!」
「そっ、そうですよ、ユズさん!忍霧さん、嫌がってますし!」
「なんだぁい、二人だって気になるくせにー」
必死な二人に悪い笑顔のユズが言う。
途端、そりゃあ、まあ…と口籠るカリンとヒミコに、女子はコイバナ好きだな、とザクロはここに来てから何度目かの思考を巡らせた。
「…別に大した話ではない。…この前、イベントがあっただろう」
「ん?あぁ、あったねぇ。随分メタい話を持ち出すな、ザッくん」
「そこ突っ込まなくていいですから!…それで?」
くすくす笑うユズに突っ込んでカリンが続きを促す。
「それで、鬼ヶ崎が告白していただろう」
「あぁ、してたわね、ゲームで」
「してましたねー。サラッと言ってて格好良かったです、鬼ヶ崎さん」
カリンの言葉にヒミコがほわりと笑った。
「まあそれで、だ。鬼ヶ崎が出来るなら俺にも出来るだろうと…な」
「ああ、それで好きだのなんだのを繰り返していたのだな?」
「そうだ」
ザクロのそれに、ユズがなるほど、と笑みを見せる。
頷けば他の二人もああ、と言った。
「でも、そういうのって相手がいないと上手くイメージ出来ないんじゃないかしら?」
「そうですね。誰かを思うと考えなくても出てくるものですし」
カリンとヒミコが口々に言う。
なるほどな、と思っていればユズが二人に抱きついた。
「じゃあ二人はあの時誰を思っていたんだい?!なあ!」
「わっ、ユズさん!!」
「ユズ先輩、くっつかないで下さいってば!」
「…何やってんでぇ?」
元気だな、と思っていれば頭上から声がする。
見上げればきょとんとした顔のカイコクがいた。
「…いや、少し。…鬼ヶ崎、寝癖付いてるぞ」
まさか愛の告白どうこうを本人に言うわけにもいかず、ふと目をやった先で揺れる黒曜石色のそれがぴょこんと跳ねているからそう指摘する。
手を伸ばそうとすれば彼も身を屈め、目を瞑った。
まるでそれが当たり前のように。
髪に手をやり…ふとキスを強請っているようにも見えるそれに小さく笑い、そのまま引き寄せる。
「…?!!っはぁぅ、なにっしやが…!」
「…すまん、愛おしくなって、つい」
「なっ、な…??!」
口を離せば、顔を真っ赤にして文句を言うカイコクがいて、思わず笑ってしまった。
年上の、いつも少し離れた場所にいる彼がとても身近に思えて。
「可愛いな、鬼ヶ崎」
「…っ!あのなァ…!」
「そういうのも含めて好きだと言っているんだが?お前が飽くまで好きだと言ってやろうか」
「…飽きねぇのはお前さんだろうに…」
口をついて出たそれは紛うこと無き本音なのにカイコクは呆れたような、それでいて嬉しそうな顔をする。
それを見たザクロは、やはり彼は可愛らしいな、と再びカイコクを引き寄せたのだった。

「あれ、かんっぺきに私達の事忘れてますね。忍霧さんもまあ大胆というかストレートというか…ちょっと意外だわ」
「ボクやカリリンはともかく、ひーみんがいるのも忘れているな?カイさんも満更じゃあなさそうだし…人前は嫌がると思っていたがねぇ…」
「あはは…。でもいいんじゃないでしょうか。仲が良いのは素敵だと思います」

(さて巻き込まれた仕返しに、何を聞き出してやろうかな、なんてね!!)

いっぱい食べる君が好き!

ザクロ
朝食(ツナトーストときのこのスープ、ホッケと茶碗蒸し/茶碗蒸しを差し出すカイコクの手首を掴んで引き寄せキス)
「…遅いじゃねぇか」
日課であるランニングが終わって、シャワーを済ませてから食堂に向かったところで…かけられたのがこれである。
「…普段と変わらん」
「俺より遅えくせに?」
思わず顰めそうになるそれを抑え、カタン、と持ってきた食事をテーブルに置くザクロにそう言うのはカイコクだった。
普段この時間は、まだ寝ている彼を起こしに行くから…その事を言っているのだろう。
カイコクは朝はあまり得意ではないらしかった。
「…。…少し…トーストに手を加えていたんだ」
「へぇ?」
そう言いながら彼の横に座る。
何を食べているんだ、と聞けば「ホッケ」と短い答えが返ってきた。
相変わらず綺麗に食べるな、とぼんやり見ていれば「そっちは?」とカイコクが聞く。
「キノコスープがあったからそれとサラダと…後はツナトーストを」
「ツナ、トースト?」
きょとん、と彼が箸を咥えたまま首を傾げた。
知らないのか、と驚くが、カイコクは普段から和食を食べているのだ、知らない事もあるだろうと思い直す。
「マヨネーズとツナ、炒めた玉ねぎとしめじを乗せて焼いたんだ」
「…ほぅ……」
ザクロのそれにわくわくとした表情を、カイコクは見せた。
あまりこういうものを食べたことがないらしい彼が食べてみたいと思っているのだろうという事はその顔からも明らかで。
年相応のそれにザクロは小さく笑う。
「お前さん、そんなものも作れんのかい」
「これくらいは…。…両親が不在の時サクラに作ってやっていたからな。サクラは料理が苦手なんだ」
「…あー……」
 至極当たり前のように言うザクロに、カイコクは複雑そうな声を出した。
 何やら思い出したことがあるらしい。
「貴様は料理が苦手だったな」
「…。…苦手なんじゃねぇ。作ってたら焦げるんだ」
 どうやら地雷だった彼のそれに、料理は勝手に焦げない、と言いたくなりつつ、怒れる猫の尾を更に引っ張ることもなかろうと曖昧な返事をしておいた。
それで治まる彼ではないのを知っていたから、ザクロは温かいトーストを手に取る。
「少し食べるか?」
「いいのかい?!」
ザクロのそれにぱあ、と顔を輝かせるカイコク。
不機嫌な様子は何処へやら、だ。
その可愛い表情に仕方がないなと千切ろうとした…ザクロの瞳に彼の顔が映りこむ。
え、と思った刹那、トーストが齧りとられる音がした。
「おお、意外に美味えな」
彼は本当に幸せそうに食べるな、とぼんやり思うが、考えるべきはそこではなくて。
「鬼ヶ崎!!!!」
 一瞬の間をおいてザクロの声が響いた。
「?なんでェ。食べて良いって言ったろう?」
「…確かにそう言ったが」
 不思議そうなカイコクにザクロは苦虫を噛み潰したような表情をする。
 何故分かっていないのだろうと頭を抱えるが当の本人はどこ吹く風で。
「お前さん、料理上手いんだな。これを簡単に作るなんて大したもんでェ」
「それは…どうも」
「ん。…ごっそさん、忍霧」
「ああ。…ではなくてだな!!」
 にこっと笑うカイコクに一瞬流されそうになって慌てて引き戻した。
「?違うのかい?」
「俺は!行儀が悪いと言っているんだ!」
 きょとりと目を瞬かせて可愛らしく小首を傾げるカイコクに声を荒らげる。
 それに目を丸くした彼は口元を押さえ、可笑しそうに肩を揺らした。
「…何がおかしい」
「いや?…ったく、真面目だねぇ」
 睨むザクロに花が綻ぶようにカイコクは笑う。
「トーストは齧るもんだろう?」
「そうだが、これは俺のだぞ?…鬼ヶ崎が食べる分はきちんと分けてやるから」
「…別にそんなことしなくても、俺の一口はそんなにでかくないと思うがねえ?」
 可愛らしく笑っていた彼が何かに思い当たったかのように悪い顔になった。
 嫌な予感がする、とザクロは身構える。
「ははぁん。お前さん、さては間接キスになると思ったんだろう。…このむっつりスケベ」
「なっ…?!違う!俺はただ…!!」
「お互い初めてでもあるめぇに」
 真っ赤になって否定したところでカイコクはただただ楽しそうに笑うだけだった。
「ま、お前さんはいつまで経ってもチェリーみたいだよな」
「…は?」
くすくすと笑った彼がとんでもない爆弾発言をし、ザクロは思わず固まった。
…今、なんと?
理解が追い付かず、思わずフリーズするザクロに、カイコクがほら、と何かを差し出してくる。
「…なんだ」
「松茸。お前さん、好きだろう?」
 …トーストのお礼のつもりだろうか、彼が差し出す箸の先にあるのは茶碗蒸しに入っていた松茸だ。
「?忍霧?」
 こてりと首を傾げるカイコクの…箸を持っている手首を掴む。
 そうして。
「んんぅ?!!」
 油断している彼を引き寄せてキスをした。
 驚いたように目を見開くカイコクの、薄く開いた口から舌を入れ、弱いところを擽る。
「んぅ、ふ…っぁ…」
 鼻にかかった甘い声に多少の嗜虐心も沸くもののあまりやると怒られるから彼の力が抜けた所で離れた。
 呆けている彼が落しそうになった松茸を手で受け止めそのまま口に放り込む。
 松茸独特の芳醇な香りが口いっぱいに広がった。
「…お、お前さん…!」
「やはり松茸は美味いな」
 ようやっと戻ってきたらしいカイコクが真っ赤になりながらこちらを睨む。
 しれっとそう返せば「可愛くねぇ」と拗ねられてしまった。
「煽ったのは貴様だろう?」
「…。…俺は煽ったつもりはねぇぜ」
「どうだか」
 トーストを齧りながらザクロは睨む彼にそう返す。
「…ああ、そうだ、鬼ヶ崎」
「あ?なんでぇ」
 諦めて茶碗蒸しを食べ進めるカイコクにザクロはこともなげに言った。
「俺は出されたものは残さない主義なんだ」
「…?それが…?」
「熱いうちに食べてしまいたいんだが、構わないだろうか」
「?好きにしたらいいじゃねぇか」
 何を言っているんだ、と言わんばかりの彼の…腰を抱く。
「?!忍霧?!」
「…好きにして、良いんだったな」
「…え、あ」
 ザクロの思惑に気付いたらしいカイコクが待て!と声を荒げる。
「お前さん、今何時だと思って…!」
「前言を撤回するつもりか?」
 引き攣った表情の彼を無視し、トーストの最後を口に押し込んだ。
「美味しく『頂いて』やるから覚悟しろ…な、鬼ヶ崎?」
 ふに、とカイコクの唇に自身の指を押し当てる。
「…忍、ぎ…」
「…チェリーではない事を証明してやる。今日は離してやらないからな」
 
 童貞だなんて揶揄ったザクロに…とろとろにされ、カイコクが美味しく頂かれてしまうまで30分。


 …今日はまだまだ始まったばかり、だ。



マキノ
昼食(おにぎりと焼き芋/口端に付いたものを舌で取る、「期待した?」って聞いて2回目キス)
ぽてぽてと廊下を歩きながら、マキノはどうしよう、とぼんやり思った。
腕の中にはユズに貰った焼き芋の袋がある。
落ち葉を掃除し、丁度余っていた芋を焼いたから女子達で焼き芋パーティをするのだと言った彼女が「特別だ」と言って分けてくれたのだ。
まだお昼食べてないのになぁ、と思いつつ、食堂に行けば秘密がバレてしまうと悩みあぐねている内に自室が充てがわれているフロアに来てしまっていた。
「逢河?」
ふと、自分を呼ぶ声が聞こえてマキノは振り返る。
「…カイコッくん」
「何やってんでぇ」
可愛らしく傾げられた首がひょいとマキノの腕の中を覗き混んだ。
「…焼き芋?」
「…ユズちゃんに貰った…」
「…へぇ」
マキノの返答にカイコクが口角を上げる。
ちょっと待ってな、と言ってそのまま立ち去る彼に、再び、どうしよう、と立ちすくんだ。
待っていろ、と彼が言うならそんなに悪い事でもないのだろうけれど。
十数分後、「待たせた!」と上機嫌な様子でやってきたカイコクは手に何やら皿を持っていた。
「…おにぎり」
「おお。伊奈葉ちゃんに作ってもらったんでぇ。逢河、飯まだだろ」
ふわりと笑った彼が持っていたのは、梅とおかかのおにぎりと、鮭と高菜のおにぎりだ。
「…いいにおい」
温かいご飯の香りに少し笑みを零す。
「逢河、逢河っ」
 楽しそうに彼がちょいちょいと手招きした。
 疑問符を浮かべつつ着いて行けば自室へと案内される。
「…入って、いいの?」
「?入らねぇと食えねぇだろう?」
 首を傾げれば何を言っているんだと言わんばかりにカイコクがそう言った。
 …彼はプライベート空間に人を入れないとばかり思っていたから少し驚く。
「茶ァ淹れてくるから適当に座ってな」
「…あり、がと」
 奥の部屋に消えるカイコクに礼を言い、取り敢えずどうしようかと辺りを見渡した。
 今時珍しい和室の部屋で、落ち着くな、とマキノは思う。
 自室のようにベッドとフローリングの部屋よりもこちらの方が断然落ち着いた。
 畳とちゃぶ台と、それから格子窓。
 良くカイコクに似合っている部屋だな、とぼんやり思った。
「…なんでぇ、まだ突っ立ってたのかい?」
 黒曜石のような瞳を丸くした彼は、二人分のお茶を持ちながらくすくすと笑う。
 ちゃぶ台にお茶を置き、座布団を勧められた。
 そこに座れば、カイコクは唐突に窓を開け、何やら押し入れの方でごそごそと探り始める。
「おっ、やっぱり。あるもんだねェ」
「…?」
 何を抱えてきたのだろうかと見れば、小さな七輪と炭が抱えられていて。
「…っと。これに火を起こして、醤油を塗ったおにぎりを乗せて焼いて食うと美味いんだ」
「…焼きおにぎり」
「ご明察。…伊奈葉ちゃんに2つずつ握ってもらったから半分こにしねぇか」
 七輪で火を起こしながらカイコクが言う。
 年相応の無邪気さを見せる彼にマキノも笑んだ。
「…いいよ」
「ならまずは醤油だな」
 何だかいつもより楽しそうなカイコクにマキノは可愛いな、と思う。
 一応年上で、戦闘能力も仲間内ではトップクラスの男なのだけれど。
 普段は飄々としているがこういう可愛らしいところもあって、マキノは目を離せないのだ。
 パチパチと火の粉がはじける音がする。
「ん、まずは普通のやつ」
 渡されたおにぎりを受け取り、それを頬張った。
 口いっぱいに米の味と梅の酸っぱさ、醤油のきいたおかかの味が広がる。
「…美味しい」
「やっぱり流石だな。握り方が絶妙だ」
 にこにことカイコクがそれを頬張りながら言った。
「…モシカちゃん…」
「?誰でぇ、そりゃ」
 こてんと首を傾げる彼に、よもや飼い猫に似ているとは言えず、マキノは無言で二口目を口に入れる。
 食べ終わる事には焼きおにぎりも出来ていて、何だか至れり尽くせりだな、と思った。
 同じおにぎりの筈なのにとても香ばしいそれに、自然に笑みが零れる。
「…美味いか」
 嬉しそうに聞くカイコクにこくりと頷いた。
 ぱあ、と表情を輝かせる彼も、自分のおにぎりを頬張る。
 穏やかな時間が流れている、と…思った。
「…意外に腹いっぱいになるもんだな」
 はー…と満足そうに腹を擦るカイコクが、少し冷めたお茶を啜る。
 食事に合わせたと言っていたそれは昆布茶で、ほんの少ししょっぱかった。
 焼き芋が甘かったから丁度良かったのかもしれない、とマキノは思う。
「…」
 ふ、と目の前の彼の、口端に黄色いものが見えて、マキノは身を乗り出した。
「?逢河?どうし…。…?!!」
 きょとんとしたカイコクが驚いたように目を見開く。
 ぺろりと舌で舐め取り、自身の口の中に入れた。
 どうやら先程の芋だったようで微かな甘さが口に広がる。
「…んっ」
「…取れた、よ」
「…へ…?」
 鼻にかかった甘い声を出した彼にそう言って離れれば呆けたようにこちらを見つめた。
「…お芋、付いてた」
「っ!…普通に、取ってくれりゃあ…」
 短く告げれば顔を真っ赤にし、ふいと顔を背ける。
恥ずかしそうに口元に手をやるカイコクに、もしかして、と思った。
「…カイコッくん」
「…なんでェ」
 目線を逸らすわりに律儀に返事をしてくれる彼にマキノは嬉しくなる。
「…期待、した?」
「ん、なっ…?!!!」
 ばっ!!!!とこちらを振り向くカイコクの口に、今度こそ口付けた。
 ユズと下世話な話をするわりには意外と初心なところもある彼は、まるで秋の景色みたいだな、と思う。
 移り変わる表情に、言葉…感情、その全て。
 自分には持ち合わせていなくて、例え持っていたとしても、稀薄で、そも、自分には必要のないもので。
 代わりにカイコクが持っているからマキノはそれでいいと思った。
 可愛くて、美しくて、…そしてほんの少し危うくて。
 そういうところも愛おしい。
 この感情は彼が教えてくれたのだ。
 …愛は、ほわりと香る焼き芋のように、甘く暖かいものなのだと。
 ぎゅっとマキノの服を掴むカイコクの手をそっと撫でる。
「ふ、ぅ、んぅ…、ぁ…」
 とろりと熔けるカイコクの甘い声が、開け放った窓の外に消えた。




(ないしょ、ないしょ。

ないしょのはなしはあのねのね?


…彼のくれる時間がとびきり甘いものだというのは

マキノだけが知っている、ないしょのはなし)

アカツキ
夕食(天丼とエビフライ/エビフライをあーんしてもらおうと口を開けるカイさんにそのままキス)
さて今日の夕食は何にしようと、アカツキはうーんと悩んだ。
特に好き嫌いもない性分なものだからこの時間はいつも悩んでしまう。
 …と。
「あ、カイコクさん!」
「?入出?」
 席に着こうとしていた彼が、アカツキの声に止まり首を傾げた。
「カイコクさんも今からご飯ですか?」
「おお。…お前さん、駆堂はどうしたんでぇ」
 そう聞いた彼のトレーには天丼とみそ汁が乗っている。
 和食も良いな、と思いながらもアカツキは笑った。
「アンヤくんなら忍霧さんと決闘をすると言っていたからカリンさんに任せてきちゃいました」
「…大丈夫なのかい?それ」
「カリンさんなら、レフェリーをしてあげるわ、って張り切ってましたよ」
 複雑そうな表情の彼に言えば、「そういう意味じゃねぇんだが…」と小さく言う。
 何が違うのだろうと思いながらもアカツキは漸く決めた本日の夕飯を厨房に告げ、彼の隣に座った。
「カイコクさんは天丼なんですね!」
「まあな。…少し食うかい?」
「わああ、良いんですか?!」
 はい、と丼を差し出され、アカツキは素直に喜ぶ。
 和食か洋食か、悩んでいたところだ。
「では、遠慮なく」
「はいよ」
 自分用に、と取ってきた箸で丼からたれがかかった掬い取る。
途端、目を丸くする彼にアカツキもきょとんとした。
「?どうかしました?」
「…いや…。海老は、食わねぇんだな、と」
 心底からの言葉に、ああ、と笑う。
 存外この男は優しいのだ。
「カイコクさんの、一番のメインじゃないですかぁ。それに、俺はたれが染み染みのご飯、好きですよ」
「欲がないねェ、入出は」
 くすくすとカイコクが笑う。
 綺麗に箸を使い、半分に切った海老を持ち上げた。
「ほれ」
「あはは、すみません」
 差し出してくるそれに苦笑し、一旦自分の箸を置いてからアカツキは、口を開ける。
 優しい顔で差し出す彼の、海老を頬張った。
 口いっぱいに広がる、たれと甘い海老の味。
「おいひいれふ!」
「入出は幸せそうに食うねェ…」
 肩を揺らすカイコクに、彼がそれを言うのだろうか、とアカツキは思いつつにこにこと笑って見せる。
「俺、今日はミックスフライ定食にしたんですよ!!カイコクさんにもあげますね」
「そりゃあ有難ぇな」
 綺麗に笑う彼に、ちょっと待っててくださいと告げ、頼んだそれを取りに行った。
「お待たせしました!」
「おお」
 ひらりと手を振るカイコクの隣に再び座る。
「では、約束通り…」
「ん」
 丼の中に入れようとしたアカツキの目の前で、彼の口が小さく開いた。
 …入れてくれということだろうか。
口元まで持っていき、閉じようとした所でひょいと取り上げる。
「…?」
 不思議そうな表情でこちらを見る彼は可愛らしく、つい意地悪したくなった。
「…入出」
「あはは、すみません、つい」
 二度ほど続ければ、遂にぶすくれた表情で睨まれ、アカツキは苦笑いを浮かべて謝る。
「…ったく…」
 はあ、と小さく溜め息を吐く割、あ、と口を開ける彼に、信用されているんだなあ、と思った。
 流石に何度もやればその信用も失くしてしまう、と、エビフライを彼の口に入れる。
 漸く食べる事が出来たそれに、カイコクは満足そうに笑んだ。
「…エビフライもいいな」
「それは良かったです」
 食べるときの彼は心底幸せそうでアカツキも嬉しくなる。
 さて自分も食べようとエビフライを持ち上げたところで彼の口が再び開いていることに気付いた。
 どうやらおかわりを所望しているらしい。
 餌付けみたいだ、と思いつつ無防備に口を開く彼があまりにも可愛らしくて。
「んんぅ?!」
目の前の彼が目を見開く。
腕を引き寄せられ、唐突に口づけをされたら驚きもするだろうか、なんて他人事のように思った。
「…んぅ、ふ…ぁ…は…ん…」
 鼻にかかった甘い声でカイコクが小さく喘ぐ。
 もっと、か、離せ、か。
 今回に限っては後者だろうかとアカツキはそっと離れた。
「…っ、入出!!!」
「すみません、カイコクさんが可愛いもので、つい」
「…可愛いって、お前さんなぁ…」
 声を荒げるカイコクに悪びれる事なくそう言えば、彼はあからさまに呆れた表情を浮かべる。
 そんな彼の目の前で、先程食べかけたエビフライを振って見せた。
「…食べたいんですか、タルタルソースたぁっぷりの俺のエビフライ」
「…入出?」
「はい」
 にっこりとカイコクが笑う。
 目が笑っていないそれは、カイコクが怒っていることを示していて。
「…すみませんでした」
「謝るくれぇならやらないでくんねぇか?」
 小首を傾げ、カイコクが念を押すように言った。
美人が怒ると怖い…嫌と言うくらい知っている。
…主に、この彼が教えてくれた。
「分かりました、分かりましたから」
怒れるカイコクの、いつの間にやら空になった丼の中にそれを入れる。
「…俺は物には釣られねぇ」
「…それが牡蠣フライ、だとしても?」
「なにっ?!」
 ぷいっとそっぽを向いていた彼がすぐに戻った。
 表情がきらきらと輝いていて実に分かりやすい。
「…。…牡蠣フライだけじゃあな」
「…イカフライも付けますよ?」
 物には釣られない、と言った手前だろう、再び目を逸らそうとするカイコクににこりと笑った。
「…イカフライ…?」
「イカフライです」
 どうぞ、と彼の口の中に放り込む。
もぐもぐと咀嚼をする内、幸せそうに表情が蕩けていった。
 …カイコクを陶磁器のお人形さんだと誰が言ったのだろうか。
こんなにも分かりやすいのに。
「…今回だけ、な」
「はいっ」
 ごくん、とそれを飲み込み、牡蠣フライに箸を付けながら言う彼に、アカツキは元気に返事をした。
 存外に、今回だけ、が多いカイコクは、多分絆されやすいんだろうなあと頬杖を付く。
 言ったらまた不機嫌になるから言わないけれど。
「ところで、カイコクさん。俺、お腹がすきました」
「はあ?…今食べてたじゃねぇか」
 丁寧に手を合わせて食事を終えたカイコクにそう言えば、彼は眉間に皺を寄せた。
「俺ねぇ、メインをあんまり食べてないんですよ」
にこにこと笑うと、彼は真意に気付いたのだろう、嫌そうな顔をする。
「カイコクさん…食べましたよね?俺の牡蠣フライとイカフライ」
「…っ、そりゃあお前さんがくれるって…!」
「無償であげるなんて言ってないですよ、俺!」
 にっこりと笑うアカツキに、彼は「聞いてねェ」とぶすくれる。
「言ってませんから」
「…そういうのは卑怯っていうんだぜ、入出?」
 笑みを浮かべながらも何とか逃げようとする彼を引き寄せる。
 憶えておきますね、と笑顔で言い、アカツキは更にカイコクの笑みが引き攣るような事を言ってのけた。
 だって、夜は…今からが長いのだから。
 
「一応俺も男なんで。欲はありますよ?」

アンヤ
夜食(ギョーザピザ/口に咥えるカイさんのギョーザピザを食べ、不意にキス)
とある、真夜中。
「…腹、減った」
いつもの如く眠れなくなったアンヤは空腹感に身体を起こした。
満腹になれば眠れるかもしれないと、充てがわれた自分の部屋を出る。
ペタペタと廊下を歩き、少し考え食堂に入った。
何か飲むものでも…と思ったところで、人影に眉を顰める。
「…何やってんだ、鬼ヤロー」
「…。…駆堂じゃねぇか」
きょとんとした表情でこちらを見るのはカイコクだ。
「お前さんも腹が減ったってトコかい?」
「…まあな。オメーもか」
「おお」
小さく笑って頷く彼の手にはペットボトルがある。
水でも飲んで腹を満たそうという魂胆だろう。
あまりに侘しいそれに、アンヤは頭を掻いた。
「…あー…なんか作ってやろうか?」
「へ?」
カイコクはと言えば、予想外の言葉に目を丸くしていて、それが何となく腹が立った。
「んだよ、その面」
「…いや、お前さん…料理するんだな、と…」
「オレだって作れるわ!つーか、テメーよりマシ!」
びしっと指を差せば、はいはい、とカイコクが笑った。
こうやって笑う割に、彼は料理は不得意らしい。
何でも出来る癖に意外と隙のあるカイコクの、そういう所が可愛いと思うんだろうな、と他人事のように思った。
「何作ってくれるんだ?」
「…あー……。ギョーザピザ」
「…ぎょーざ……??」
期待した目のカイコクにそう答えれば彼は耳馴染みが無かったのか、きょとんとした顔をする。
「ギョーザの皮をピザ生地代わりにして…。…見た方が早ぇ」
説明をしようとして面倒くさくなり、アンヤは冷蔵庫を開けた。
目当てのギョーザの皮と、自分の分に、とウインナーやケチャップ、さけるチーズと缶詰のコーンを出したところで彼は肉より魚が好きだったと思い出す。
再び冷蔵庫を漁りだすアンヤが見つけたのは、ツナと、小ネギに味噌、マヨネーズ。
さけるチーズよりは粉チーズのほうが良いだろうかと考えていれば、ふと頭上からくすくすと可愛らしい笑いが降ってきた。
「…んだよ。笑ってんじゃねー…」
「…いや。お前さん、案外凝り性なんだな、と」
「はぁ?」
胡乱気に見上げるアンヤにそう言って笑うカイコクに、よくわからない、という表情を返す。
それに、何も、と笑った彼は「何か手伝うかい?」と小首を傾げた。
「いらねー。大人しく座ってろ」
「じゃあそうさせてもらうかね」
アンヤの言葉にカイコクは素直に椅子を持ってきた。
調理台のすぐ隣にそれを置き、ちょこんと腰掛ける。

鉄のトレーに片栗粉を振り、わずかに水で湿らせたギョーザの皮を並べた。
ウインナーを切って皮にケチャップを塗る。
コーン缶を開け、その上にチーズと共に乗せた。
「あ、っとは…」
自分用は終わったと、次の作業に取り掛かる。
 ツナ缶を開け、ボウルに味噌とマヨネーズを入れて混ぜた。
 切った小ネギも入れ、ほんの少しだけ醤油を垂らし、ギョーザの皮の上に乗せる。

 彼に見守られながらてきぱきと準備をし、後は焼くだけになった。
「っし、準備終わり」
「…これだけ、かい?」
「おう。こんだけあったら十分だろーが」
 不思議そうなカイコクにそう言ってやり、アンヤはフライパンに火をつける。
「手際がいいねぇ」
「あーまあな」
 感心したような彼の声に、曖昧に返事をしアンヤはそれをフライパンに並べた。
 洗い物を済ませている間に焼き上がったピザをいくつか皿に乗せる。
「ん」
「…」
 差し出しても困惑した様子で手を付けないカイコクに苛立ち、「口開けろ」と言った。
「…けど」
「いいから食え、ほら!」
 躊躇する彼の口に無理矢理押し込めば驚いた様に目を見開く。
 咀嚼を繰り返し、こくんと嚥下する頃にはカイコクの表情は別の驚きに変わっていた。
「…どうよ」
「…美味い…」
「だろ?」
 ぽつりと漏らした感想は彼の紛う事無き本音で、アンヤも思わずどや顔をしてしまう。
「駆堂、すげぇじゃねぇか!」
「いや、まあ大したことじゃねぇけど」
 素直に褒めてくれるのは良いがどうにもむず痒く、少し顔を逸らした。
「何処で覚えたんでぇ」
「あー…忘れた。…けど」
「けど?」
 言いよどむアンヤにカイコクが首を傾げる。
 まあ別に隠す話でもなしと口を開いた。
「…昔な、シン兄…オレの兄貴に初めて作ったのがこれなんだよ。美味しいっつってくれたから、作るのが上手くなったってだけ」
「…へえ?」
 カイコクがふわりと笑む。
 そう言えば彼も、兄と同じ大学1年生だっけと密かに思った。
 あまり似ていないと思ったが…こうやって褒めてくれるところと、優しい微笑みは少し似ているかもしれない。
「?駆堂?」
「なんもねぇよ」
 不思議そうに呼ぶカイコクに軽くそう言ってアンヤは自分用のそれを口に運んだ。
「…他の奴らには内緒にしとけよ。後がうるせぇから」
「へえ、秘密の共有、ってやつかい?」
「なんだそりゃ」
 楽しそうに笑う彼に思わず呆れた目を向ける。
「俺たちは共犯者ってとこだな」
 ふわふわと笑う彼は可愛らしく、「いいから黙って食え」と二枚目を口に押し込んでやった。
「…駆堂、こっちは食べねぇのかい?」
「あ?あー…」
 カイコクに言われ、そういえばツナの方は食べていないと気付く。
 目の前で揺れる、彼が食べているピザに齧り付いた。
「?!!!」
「…おお、うめーな」
意外と魚もいけるな、と咀嚼を繰り返したところで目の前のカイコクが呆けているのに気付く。
「何アホ面晒してんだ、オメー…は……」
そこまで言ってはたと止まった。
…そういえば口唇に柔らかいそれが当たった…ような。
「…っ、普段はもっとすげーことやってんだろーが!」
「…不意打ちは…訳が違ェ、だろう…」
 もごもごと彼が答える。
 普段の様子は何処へやら、だ。
「鬼ヤロー、こっち向け」
「…嫌でぇ」
「おい」
「…」
 呼んでもこちらをちらとも見ようとしないカイコクに、アンヤは苛立った。
 元々短気な性格でもある。
「鬼ヤロー」
「…しつこ…」
「…。…カイコク」
「?!!!」
 普段は呼んだこともない彼の名を呼べば、信じられない、といった風に勢い良くこちらを向いた。
「隙だらけだな、オメー」
「なっ…んんぅ?!」
 軽く笑い、真っ赤な顔をするカイコクにキスをする。
「…ふ、は…ぁ…。…っ、駆堂?!」
 声を荒げる彼に、ギラリとした目線を送った。
「言っとっけどな、オレだって一端の高校生なんだよ」
「…駆堂…あの、な…?」
 ひくっとカイコクの表情が引き攣る。
 だが止めてやるつもりは毛頭なかった。
「オレさあ、まだ腹減ってんだけど?」
「…ぅ、ぐ…っ…ん」
 アンヤの言葉に詰まる彼に、三度目のキスをする。
 片付けが大変だろうな、とぼんやり思いながらも、調理台に押し倒した。

夜が更ける。

…眠れないのもたまには良いな、と思った。




おまけの袋とじ
アキラ
間食(あかつきカルピスとシェルチョコレート、ボンボン・ア・ラ・リキュール/キスなし・アキラ様が手ずからチョコを食べさせ、カイさんの口内でチョコを潰して塗りたくる。汚れた指は舐めとらせる)

「あかつきカルピスですよ、カイコクさん!」
 にっこりと笑ってそれを差し出す。
 差し出された彼の方は苦笑いでそれを見つめていた。
「…いや、だからな…?」
「珍しくないですか?!期間限定なんです、是非カイコクさんに飲んでほしくて!」
「分かった、分かった」
勢い良く迫れば、カイコクはへにゃりと笑ってその白濁色が含まれたコップを受け取る。
「…匂いは…あんまり桃の感じはしないねぇ…」
 すん、と彼がコップの中身の匂いを嗅いだ。
「そういうものですよー」とニコニコ笑ってそれを見守る。
 自室にいるカイコクを訪ね、「お腹空いてません?間食しませんか?」と言い押し入っても特に追い返しもしなかったから彼は優しいんだろうな、と思った。
「…カイコクさん、お昼は食べたでしょう?晩ご飯はまだですよね。ならこの時間は間食タイムです!俺と一緒に間食、しましょう!」
そう言ってにっこりと笑えば「構わねぇけど?」と微笑む…意外と自分の危機管理にうっかりしている彼に小さく笑みを零す。
甘いのが苦手だからか躊躇していたらしいがようやっとコップに口を付けた彼の…背後に周り後頭部とコップの底を押さえつけた。
「んぐ?!!んぅ、ん、んーー!」
「ちゃんと飲まなきゃ…だろ?『カイコクさん』」
くすりと笑う。
 抵抗する彼の、肌に飲みきれないカルピスが零れた。
 呼吸が出来ない!と暴れていた彼の抵抗が弱まり、こくん、と徐々に嚥下し始める。
 飲まずに口の中に溜めておいて、吐き出すと言うのもありなのに、彼はどこまでも律儀だなあと思った。
 まあ吐き出させもしないのだけれど。
「…はあっ、はあ…は…」
「全部飲んだんですね、偉い偉い!」
 にこにこと笑って、頭を撫でようと手を伸ばす。
 それはぱしりと、カイコク本人によって弾かれた。
「…。…なんの、つもり…でぇ…」
荒い息を吐きながら、ギロリと彼が睨みつけてくる。「何って…飲ませてあげたんじゃないですか」
「ふざけるな!一歩間違えりゃ死んで…ぇ…?」
 声を荒げようとした彼の身体が、ぐらりと揺れた。
 それでも床に倒れ込まず、身体を支えたのは強靭的な精神力か、プライドかそれとも。
 …そんなもの失くしてしまえば苦しまずに済んだのに、と笑いながら無理矢理その肩を押す。
「っ!ぐ…」
「カイコクさん、強情ですよね」
 言いながら笑みを見せた。
 対するカイコクはぞっとしたようにこちらを見る。「まあ…そういうところが好きなんですけど。俺も『あいつ』も」
「…な、んの…は、なし…」
「…いえ、こっちの話です」
 とろりと熔けて堕ちそうになる漆黒の瞳に笑みを見せ、すっと手でそれを隠した。
暗闇に包まれた視界は、脳が夜を知らせ…否応なしに眠りに堕ちる。
 嫌だ、と呟かれた小さなそれに笑い、そっと囁いてやった。
「…おやすみ、『カイコクさん』。次に会うのは…地獄だ」
 ぼんやりと彼が目を開く。
 おはようございます、と告げれば、カイコクは警戒するようにこちらを睨んだ。
 まるで猫みたいだ、とぼんやり思う。
…まあ起きてすぐ身体が縛られていれば誰だって警戒はするだろうけれど。
「…お前さん、誰でぇ…」
「誰って…入出ですよ。入出アカツキ」
にこっと笑えば、カイコクは睨んだまま言葉を吐き出した。
「はっ…嘘だな」
「…嘘?」
 予想外のそれに首を傾げてみせる。
 わざとらしい、と眉間に皺が寄った。
「…入出は俺を縛ったりしねェ。あんな…あんな事しねェんだよ」
「…あんなこと、とは」
「とぼける気かい?…俺に、何を飲ませた」
ギリ、と睨みつける彼に軽く笑う。
「あかつきカルピスですよ、説明しましたよね?」
「その中に何が入っているかは説明されていないんだが?」
 綺麗な笑みを、カイコクは見せた。
 それが仲間内に見せるものとは全く違うものだということを知っていて、こちらも笑みを崩さない。
「ちょっとした睡眠薬ですよ。違法的なものは何も」
「勝手に人様に睡眠薬飲ませるのは合法だとでも?この偽者さんが」
挑発的に笑うカイコクに、思わず笑ってしまった。
「…それ、本当に『入出アカツキ』だと思いますか?」
「…は?」
「無害で誰にでも笑顔を振りまいて。それは本当に俺でしょうか。…こっちの」
 言いながらぐい、と彼の顎を持ち上げる。
 嫌そうに表情が歪められた。
「飲み物に睡眠薬を入れて眠らせ『カイコクさん』を縛りあげる、こちらが本物かも?」
「…」
「『カイコクさん』が今まで見ていたのは果たしてどちらでしょうね」
 くすりと笑って見せる。
「…ゲームを、しようか」
「…っ、ゲーム?」
 少し、ほんの少し口調を『戻し』カイコクに言った。
変わったのを敏感に感じ取ったのだろう彼が挑戦的な笑みを浮かべる。
 少しでも怯えた表情を見せないのは流石彼らしいな、と思った。
 …怯えてでも見せれば少しは結末も変わったかもしれないのに。
「で?そのゲームってぇのは?」
「ここに3つ、チョコレートを用意した。どれか好きなのを一つ選んで食べるだけ。簡単なゲームだろ?」
「…俺ァ、甘いのは苦手でな。やるなら他のゲームにしてくんねぇか」
互いににこりと笑い合う。
「…他の仲間がどうなっても?」
「…は?」
 その言葉に、彼が挑戦的な表情を崩した。
 絶望的なその表情たるや!
 ぞくりと快楽のようなものが走る。
「お前さん…まさか」
「…ああ、安心してよ。殺したりはしてない。…ただ眠っているだけ…今のところは、だけど」
助けを求めるようなそれに笑むと、カイコクはほっとした顔をした。
随分と今の仲間に入れ込んでいるのだな、と笑う。
「じゃあ改めてルールを」
 チョコレートを出してきて、彼に見せた。
「一つは普通のシェルチョコレート…中身はアプリコットのジャム。もう一つは、ボンボン・ア・ラ・リキュール…度数は高くないから安心しなよ。最後は…媚薬入りだ。さあ、『カイコクさんはどれを選びます』?」
「…っ!…あく、しゅみ」
悪態を吐くものの、言わないと終わらないと悟っているのだろう…なまじ頭が良いと大変だな、と他人事のように思った。
震える声が場所を示す。
告げられたその場所にあるチョコレートを取った。
「口、開けて」
そう言われて嫌そうながら彼が素直に、小さく口を開けたのは、ただただ仲間を守りたいからだ。
「ん、ぐぅ!!…ぅあ、…ん…」
 チョコレートを指ごと突っ込まれ、苦しそうに眉を顰めるも噛みついてこないのは…彼が一心に仲間を想っているから。
 自分が反抗すれば仲間が傷ついてしまうかもしれないから。
 だから自分がリスクを冒してまで守ろうとする。
 自分だってどうなるか分からないのに、可愛いなあと小さく笑った。
 それを知っていてわざと指で口内を犯す。
「んぅ、ふ…ァ、ん、ぅ…ぐ…!」
 上顎でチョコレートを潰し、ぶちゅりと飛び出た液体を口内に塗りたくった。
 …甘い物が苦手なのを知っているからこそ。
歯の裏、頬の内側、舌の先…その全てにチョコレートを染み込ませていく。
 飲みきれない唾液が口の端からだらだらと零れ落ちた。
「…ぁ…は、ぁ…っぅ…」
「汚れたんだけど」
 指を引き抜きにこりと笑う。
 差し出したそれに、カイコクはほんの少し躊躇した後舌を出した。
「んぅ、は…んく、ぁう…」
 甘いものが嫌いな筈の彼が、嫌そうに表情を歪めて指を舐めている。
 ちゅ、とリップ音が響き、もういいだろうと言わんばかりにカイコクがこちらを睨んだ。
 指が離れていく前に奥に突っ込み、上顎を擽る。
「っ!!ぅ、や…」
 カイコクがそこが弱いのを知っていてさんざ責め立ててから指を引き抜く。
 熱い息を吐き出してから、彼は普段通りの挑発的なそれを浮かべた。
「…チョコは食ったぜ。早くこれを解いてくんなァ」
その彼に、こちらも笑みを浮かべる。
「それ、媚薬だったらどうするつもり?…その溶けた躰で仲間の元に戻るんだ?」
綺麗な瞳を大きく見開く彼に手を伸ばした。
「効果が出るのは1時間後。…それまで俺ともお話ししてよ。『カイコクさん?』」
 にっこりと音が付きそうな笑顔を見せる。
 小さく悪態をつく彼の…頭を今度こそ撫でた。

この箱庭に閉じ込められた彼はどうなるのだろう。
 まるでシュレディンガーの猫みたいだな、と思った。
 自由気ままでプライドが高く、うっかりしている…黒い猫。
 彼の行く末は天国か地獄かはたまたそれとも。
それを知る、間食時間の終わりは…約一時間後、運命の秒針は今刻み始めた。

(黒猫の運命が決まっていたのは、さていつから?)

泣かないでマイハニー!(ザクカイ)

その日は朝から妙だとは思った。
カイコクがなかなか起きてこないのは普段通りだとして、起きてきてもいつも着けている鬼の面を忘れてくるし、どこかフラフラしているし、何でもない段差で躓いているし、大丈夫かとザクロが声をかけても生返事をするばかりで。
面を取りに行くと言ってからもう30分は過ぎているのに一向に帰ってくる様相を見せないカイコクに、流石にイライラした。
様子を見に行こうと立ち上がった直後、彼が姿を現す。
「遅い!また貴様は人に迷惑をかけて!今日は特にゲームがないからだなぁ…!」
思い切り叱りつけこのまま説教してやろうと思うも、ふといつものへらへらした様子や、煽ってくる言葉がないから不思議に思ってカイコクを見上げた。
普段なら「俺が何したって言うんでぇ?ん?何か証拠は?」くらいは煽られるのに。
だから、ただただ驚いたのだ。
カイコクが、ポロポロと涙を溢しているだなんて。
「?!!な、何も泣くことはないだろう!」
「…は、ぅ…ぇ…?」
目を見開き、思わず指を差すザクロに、カイコクはきょとんとした。
「あ、れ…なんで、俺ァ…」
「良いから泣き止め、鬼ヶ崎!!このままでは…!」
「…このままでは、何でしょうか」
流れる涙に、自身も混乱しているのだろう、助けを求めるように見るカイコクにザクロは焦ったように声をかける。
そんなザクロの背を、とん、と叩いたのはヒミコであった。
手にはいつもの閃光弾が握られている。
「い、伊奈葉…?!」
「忍霧さん。どうして鬼ヶ崎さんが泣いているか聞かせてもらっても良いかしら?」
「さ、更屋敷まで…」
にっこりと笑むカリンに、ザクロは引き攣った表情を見せた。
縋るように少し離れたところにいるユズへと目線を送る。
「諦めるにゃ、ザッくん。…ボクも今日はカイさんの味方だしね」
静かにユズが笑った。
ホワイトパズル以降、カイコクを庇護対象としているのはザクロだけではなかったらしい。
「忍霧さん、鬼ヶ崎さんを泣かせましたね……」
「どういうことか説明してください…?」
「ま、待て、落ち着け、伊奈葉!更屋敷!」
普段なら、またやってるーとザクロとカイコクのやり取りを見ているだけの女子たちが揃ってカイコクの味方になるとは、途方に暮れてしまった。
その腕がぐいと引かれる。
「テメー何したんだよ!」
「おっ、俺は何も!」
引っ張られた先にはアンヤがいて、ひそひそと焦った様子で聞いてくるから、ザクロも同じように答えた。
少し向こうではホロホロと未だに涙を流すカイコクの頭をマキノが撫で、アカツキが優しくもてなしている。
あちらは任せていて大丈夫だろうとアンヤに向き直った。
「何もしてねぇなら泣いたりしねぇんだよ!」
「そうだが!本当に俺は何もしていないんだ!」
「いいか?!相手が泣いたらこっちは悪くなくても取り敢えずごめんなさい、だ!ケン兄もそう言ってた!」
「受け売りか!」
「ケン兄は彼女持ちだったんだぞ?!方法としては有りだろうが!」
「な、なるほど…?」
普段の言い合いに発展しそうになったが、確信を突かれ、ザクロは思わず納得する。
「…あの、鬼ヶ崎。すまない、俺が悪かった」
「…べ、つに…お前さんは…悪く、ねぇ…だろ…」
謝るザクロに、ぐす、とカイコクが鼻をすすった。
「まあ、何が悪いか理解してないのに謝られても、というのはありますよね」
「ああ、それはシン兄も言ってた。反省しないのは腹立つって」
「おい、貴様!!」
しれっとアカツキに言うアンヤに思わず怒鳴る。
びくっと目の前の彼が震え、女子の怒りボルテージが更に上がった…ような気がした。
「……ザクロくん、カイコッくん………ぎゅって…したげて……」
「わ、分かった!!」
マキノのそれに頷き、ザクロはカイコクを抱き寄せる。
「…!」
「悪かった!…その、頼むから泣かないでくれないか…?」
「お、れだって…泣きたくて泣いてる、わけじゃ…!」
「…。…カイさん、今日は休み給え」
幼子のように声をつまらせるカイコクにほとほと困っていれば、ユズがそんなことを言った。
「体調が悪い時は、叱責されただけで心のバランスが崩壊するものさ。…何、半日休めば回復するだろう。ザッくん、カイさんを頼むぜ?」
「あ、あぁ」
笑顔のユズがまだ納得のいっていないメンバーを連れて外に出る。
「…鬼ヶ崎、体調が悪かったのか」
「…分かん、ねぇ。だが、何時もより身体が動かねぇんだ」
静かに涙を溢すカイコクは、どうやら自身が体調が悪い事に気がついていないらしかった。
「…。…茶でも飲むか?淹れてきてやるから、座って待って…鬼ヶ崎?」
ソファに座らせ、歩きだそうとしたザクロの袖がくん、と引っ張られる。
ふるふると首を振り、ここにいろと言外に伝えるカイコクに、小さく息を吐いた。
「…。…わかった。ここに居てやるから」
「…ん…」
涙を拭ってやり、優しくそう言えばカイコクはようやっと微かに頷く。
普段からこうなら可愛いのに、とザクロはそっとその黒髪を撫でた。

その数時間後、そのまま寝落ちてしまった二人が見つかるのは…部屋にいたパカメラだけが知っている。

行事に託つけていちゃいちゃしたい年下彼氏との攻防(ザクカイ)

「忍霧っ」
にこにことカイコクが嬉しそうにザクロの元へ寄ってきた。
彼はあまり感情を表に出す方ではないから、珍しいな、と思いながらも「どうした」と尋ねる。
「今日は節分でぇ」
「節分…そんなに喜ぶ行事だったか……?」
カイコクのそれに、ああ、とは思うもののやはり彼がご機嫌になる理由が分からなくてザクロは首を傾げた。
途端、キョトン、と黒曜石に似た瞳を瞬かせる。
「鰯が食えるんだぜ?後、巻き寿司だがあれも立派な寿司だ。それに、鬼を退治する伝統もある。バレンタインやクリスマスなんかより余程楽しい行事だと俺は思うがねぇ」
ふわふわと幸せそうに笑うカイコクに、ようやっと合点がいった。
甘い物が苦手で、親戚とのあれそれが煩わしいカイコクにとっては好物も食べることが出来て自分の名を存分に発揮できるそれは楽しいものなのだろう。
「…悪かったな、クリスマス生まれで」
「…。悪ぃとは言ってねぇだろ?俺ァ親戚に会うのが面倒なだけで忍霧が生まれた日を否定する気はねぇぜ」
少しばかり拗ねて見せれば綺麗な目を見開かせてからくすくすと笑い、頭を撫でてきた。
上機嫌なあまり、子ども扱いしてしまっているのに気づいていないらしい。
止めろ、と払いのけてもまだにこにことしていた。
「カイさんはー、節分生まれなんだよにゃー?」
「おっ、よく知ってるな、路々さん」
「…は…?」
通りすがりのユズがにこにこしながらそんな事を言っていて、思わず固まる。
「…誕生日プレゼント…あげる……」
「悪いねぇ、逢河」
「マキマキー、それ、節分用の豆じゃないのかい?」
「…違う……お魚ミックス……」
「あははっ、随分安上がりだなぁ!」
「俺は嬉しいから構わねぇぜ?」
夕飯にと起こされたのだろうマキノがカイコクの手に握らせ、その中身を見たユズが楽しそうに笑った。
「カイさんは魚が好きだなぁ。猫みたいだ」
「おぅ。…あ、伊奈葉ちゃんがな、鰯のフルコースを作ってくれるって…」
「貴様っ、今日が誕生日なのか?!」
嬉しそうに今日のメニューを二人に言うカイコクの手を握り、ザクロはそれを遮る。
握られたそれを見つめ、彼が不思議そうに首を傾げた。
「そうだが…?」
「何故言わないんだっ!!」
「…必要性ないだろ…??」
戸惑ったように言うカイコクは、去り行くユズの「早く終わらせ給えよ!」というそれにひらりと手を振る。
「鬼ヶ崎、貴様俺の誕生日は言ってくれれば良いとか言ったくせに」
「そりゃあまあ、あれだ、プレゼント…やりたかったし」
じっとりと見つめれば、彼はふいと顔を反らせた。
その耳が少し赤いから、ザクロはほんの少しだけ溜飲を下げる。
「俺も鬼ヶ崎にプレゼントやりたいんだが」
「そりゃあどうも。…と、言っても物欲は特にねぇし…俺ァいつも忍霧からは貰ってるしな」
「そうか…ん?!!」
カイコクのそれを一瞬スルーしそうになってがばっと顔を上げる。
…今、なんと?
「…だからっ、忍霧はいつも俺に…くれる、から!俺もだなぁ…!」
恥ずかしいことを言わせるなと言うカイコクの手をぎゅっと握った。
握っておかなければ彼は逃げてしまうから。
「…俺が、貴様に…何を渡したというんだ?」
「……聞くのかい、それを」
「…分からないからな」
「意地悪だねぇ…」
「何とでも」
くすくすと笑うと、カイコクも小さく笑った。
「…お前さんは、俺の欲しいものをくれる。…いつだってな」
「それが何かを聞いているんだが?」
「色々、ってことにしといてくんなァ」
「なんだそれは」
綺麗に微笑む彼が、それ以上は言わないと言外に伝えるから、まあ良いか、とザクロは手を離す。
…後で…じっくり聞けば良いのだし。
「あ」
「ん?」
ある事を思い出し、声を上げるザクロにカイコクが首を傾げた。
「鬼ヶ崎、少し良いか」
「構わねぇけど…?」
疑問符を浮かべながらもカイコクはザクロに付いてきてくれる。
信頼しているのは有り難いが…こんなにチョロくて大丈夫だろうか。
「…外?」
「すぐ済むから」
ゲノムタワーの玄関を出てすぐの生け垣に行き、ザクロはそこに置いていたものをそっと取り上げた。
「こりゃあ…」
「ヒイラギの冠だ。…ヒイラギは鬼から、魔の物から守ってくれる。貴様は鬼を斬るんだろう?だったら、俺に貴様を護らせてくれ」
「…!おし、ぎり」
驚いたように目を見開き、それから綺麗に笑う。
「…ああ、よろしく頼む」
「!ああ!!」
目をつぶり、少し屈んだカイコクに、ザクロはそっと冠を被せた。
まるで…戴冠式のようだ、なんて。
彼はきっと自分を犠牲にして鬼から皆を守るのだろう。
ヒイラギの冠を被ったカイコクは、圧倒的に美しく、気高くて。
そんな彼を護る事が出来るのは…幸福だな、と思った。
「誕生日おめでとう、鬼ヶ崎」
「…今かい?…ありがとな、忍霧」
綺麗で美しい彼が、いつまでも自分の隣で幸せで居てくれたら良い、とザクロは笑う。

「それで、プレゼントは夜で良いか?」
「?まだあんのかい?そりゃあ有り難てぇが…」
(小首を傾げたカイコクが、プレゼント、の意味を知るのは…数時間後のお話)

ハッピーバースデイ、愛しの可愛い妹様!(ルカ総受け、ちょっぴりレンカイ)

「「「さーいしょーはグー!」」」
部屋の中に声が響く。
それをくすくす笑ってみているのはルカだった。
「…何してんの?ルカ姉ぇ」
「…レン兄様」
怪訝そうな表情で声をかけるレンにルカは困った顔をする。
「お姉様たちが私のお誕生日をお祝いをしてくださるそうなのですけれど…誰が一番に祝うかで揉めていて…」
「あー…恒例行事になりつつあるよな……」
その返答に呆れつつレンがじゃんけんをしている、MEIKO、ミク、リンを見やった。
「つか、大変なのはルカ姉ぇじゃん」
良いのかよ、とレンが見上げれば、ルカはまた穏和に微笑む。
「…私は…MEIKO姉様もミク姉様もリン姉様も大好きです。そんな大好きな方たちから愛を受けることに負担も不満もありませんわ。寧ろ、嬉しいんです」
「そ?なら良いんだけど」
レンのそれに、ルカは、はい、と笑んだ。
じゃんけんはとうに終わり、「年下に譲ってよぅ!」「そーだよ!私、電子の歌姫だよ?!」「公平にじゃんけんで決めたんだから文句言わないでよ!大体、私は今年15周年なのよ?!」「それ持ち出すのずるーい!リンだってねぇー…!」という口論に取って代わっている。
「…あれ、終わんの?」
「…さあ……?」
呆れ返ったレンにルカが首を傾げた。
ちなみに彼女らのあのやり取りは今ので3回めである。
「まー、いいや。ほい、ルカ姉ぇ、誕生日おめでと」
「まあ、ありがとうございます、レン兄様」
差し出される白い袋に、ルカは笑みを浮かべて受け取った。
可愛らしい袋の中には所謂バスボールが入っている。
「良い匂い…」
「イチゴ、グリーンアップル、オレンジだって」
「ふふ、美味しそうですわね」
「…じゃあ俺からは本当に食べられるやつを」
キッチンから出てきてニコニコと言うのはKAITOだった。
手にはピンクの薔薇…チョコレートだろうか…が乗ったホールケーキがあり、市販品とも見紛うそれはKAITOが丹精込めて焼き上げたもので。
「…KAITO兄様、年々上達しますわね…?」
「兄さんは寧ろ何を目指してるんだよ…もうプロじゃん」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくね?」
二人のそれにニコニコとKAITOが笑い、ケーキを置く。
「そうだ、はい、これ」
「ありがとうございます、KAITO兄様。私のはKAITO兄様のお誕生日に」
「うん、楽しみにしてる」
大きめの袋を受け取ったルカと渡したKAITOがにこりと二人して微笑み合う癒やされるはずの光景はどこか嫌な予感がした。
「あー!レンがルカたんとカイ兄ぃとイチャイチャしてるぅう!」
と、リンの鋭い声に言い争いをしていたミクとMEIKOがバッとこちらを見る。
「ずるい!ミクもルカちゃんとお兄ちゃんのハーレムする!」
「私だってしたいわよ!ルカ!KAITO!」
「喧嘩してる方が悪いんだろー!」
ははん、と、レンがルカとKAITOの腰を抱いた。
文句を言いながら三人が向かってくる。
「やっぱり、賑やかなのが一番だよね」
「…ですわね」
ルカとKAITOは顔を見合わせ、くすくすと笑いあったのだった。

(皆から貰う愛が、何よりのプレゼント!)

「…ところで、兄さんは何上げたの?つかルカ姉ぇから何貰うの」
「んー?…脱がせにくいパジャマ、だよ?」

リクエストのザクカイ/マキカイ

カイコッくんが眠そうに目を擦っていた。
僕はともかく、彼が眠そうなのは珍しいなと思いながらそっと近づく。
「…カイコッくん」
「…。…逢河…?」
ぼんやりと僕の呼びかけにカイコッくんは見上げてへらりと笑った。
「…どうした、逢河。お前さんが珍しいじゃねェか」
何でもない顔でカイコッくんは僕に笑みを向ける。
でも、僕は知っていた。
カイコッくんが眠たい理由を。
部屋で寝ていれば良いのに、それをしない理由も。
…出てくれば余計皆が心配するのに。
だからって人前では寝顔を見せないのも僕は知ってる。
だから。
「…」
「?なんでぇ」
僕が差し出したそれに、カイコッくんはきょとんとした。
受け取って少し目を見開く。
「お前さんのアイマスク。…良いのかい?逢河も使うだろうに」
こてりと、首を傾げるから、持ってる、と頭の上を指差した。
そして。
「…お揃い、いや?」
「…!…そうじゃねェよ。…わりぃな…」
驚いた、と言わんばかりに綺麗な目を大きく開き、それからくすくす笑う。
アイマスクを着けて、ちょっと借りるな、と言うカイコッくんに、こくんと頷いた。
暫く後、規則正しい寝息が聞こえてくるから余程眠かったんだろうなと思う。
目元を覆っている僕のアイマスクに、彼の役に立って良かったという気持ちと、寝顔を見れないのは少し残念だと言う気持ちが入り混じった。
傍に人がいるのは嫌がるだろうから僕はその場を立ち去る。

…願わくば、彼が悪夢に苛まれませんように。


=========

鬼ヶ崎が寝ている。
人がいる場所で寝るとは珍しいな、と思いながらよくよく見れば、目元はマキノくんがいつも着けているアイマスクで覆われていた。
寝顔は見れず、規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
俺は隣に腰を掛け、鬼ヶ崎を見つめた。
俺は知っている。
…人前では寝顔を見せない鬼ヶ崎が、見られるリスクを犯してまで眠気に勝てなかった理由を。
「…鬼ヶ崎」
俺は知っている。
…俺が囁いても起きない、その理由が…俺だと言うことも。
それは…マキノくんも、多分。
俺は鬼ヶ崎の綺麗な手を取り、するりと甲当てを取った。
そして。
「いっ?!…ふぇ?え?忍、霧??」
痛みに飛び起きた鬼ヶ崎がアイマスクを外し、涙目で俺を見る。
「おはよう、鬼ヶ崎」
「ああ、ウン、おはようさん…??」
混乱しきり、と言った鬼ヶ崎にひらりと手を振った。
…鬼ヶ崎の薬指に付けた跡と同じ、歯型がある指の手を見せつけるように。
「茶でも飲むか」
「あぁ…」
立ち上がって言う俺に未だクエスチョンマークを頭に貼り付けた鬼ヶ崎は…どうやらまだ気付いていないらしい。
俺が付けた印に。

秘密の、お揃いに。

恐らく、席に戻れば目元を真っ赤に染めた鬼ヶ崎に怒られる気配がするから、ご機嫌取りに好物でも付けてやろうと…俺は足を進めたのだった。

うちのへし燭*へし燭ワンドロ

それが起こるまでの経緯について(へし燭)

へし燭ハロウィン

収穫祭。
万聖節の前日、元々はその年の豊作を願う祭りだった…と聞いていたのに。
「…は…?」
目の前に広がる光景にぽかんとする。
「長谷部か、どうした」
かけられる声に振り向くと、黒い布を被った山姥切国広がいた。
黒い、布。
極前の彼が被っていたのは白じゃなかったか、とどうにかそれだけが浮かぶ。
「お前、それ……」

「…これか。これは死神というらしい。死を連れてくる神だそうだ」
「で、俺が吸血鬼」
その後ろからそんな言葉をかけたのは山姥切長義であった。
普段と変わらなくも見えるが、小さな角と牙、そしてひらひらはためく肩布は黒い色をしている。
「死神?吸血鬼…?」
「邪魔なんけどね、へし切くん」
そんな所に突っ立ってるならお使いを頼めるかな、と長義が笑った。
「は?おい!」
「じゃあ宜しくね。行くよ、偽物くん」
「待て、本科。俺は偽物なんかじゃ…!」
いつものやり取りをする二人に長谷部は呆けながら受け取った荷物を持ち直す。
確かにこうしてても仕方がなく、溜め息を吐き出してから長谷部はその部屋に向かった。

「あ、長谷部さん」
「え?へし切?」
「…長谷部君!」
「…。…何をしてるんだ、お前らは」
三種三様の反応を返す彼らに長谷部は思わず呆れた声で問いかける。
振り仰いだ大和守安定は白い羽に白い衣装…所謂天使というやつ…の恰好、眉を顰める加州清光は黒い羽根に黒い衣装…所謂悪魔というやつ…の恰好、ぱあ、と表情を輝かせ、座り込んで二人を着つけている光忠は黒い三角耳に燕尾服の間から覗く同色の尻尾、というそれだった。
「何だそれは」
「へし切見て分かんない?…仮装だよ。今度収穫祭あるじゃん、その準備」
荷物を机に置いた長谷部の疑問に答えたのは清光だ。
彼は『可愛い恰好ができる』というだけで機嫌が良いのだろう。
「長谷部さんは狼男とか似合いそうですよね」
「やらん」
安定が笑うのに長谷部は嫌そうな表情を隠さずに言った。
「ふふ。長谷部君嫌いそうだもんね。…はい、出来た」
にこ、と光忠が笑む。
「ありがと、燭台切さん!」
「光忠さんありがとうございます!…行こう!清光!」
「わ、ちょ、待ってよ!!安定?!」
珍しく二人とも楽しそうで、思わず長谷部も光忠と微笑ましく見送った。
まあこういうのもたまにはいいだろう。
…巻き込まれるなら全力で拒否するが。
「…。…ね、長谷部君」
「あ?」
同じように見送っていた光忠が座り込んだ状態でこちらを見る。
長谷部にとって自分より目線の低い光忠は新鮮で、尚且つ懐かしかった。
「収穫祭では色んな家にお菓子を貰いに行くんだって」
「ほう」
「それで、貰う時にある台詞を言うらしいんだけど…」
そこまで言った光忠は悪戯っぽく笑い、両手を差し出す。
「悪戯かお菓子か!」
上目使いでにこっと笑う光忠。
…煽っているのだろうか。
「ほら」
「…あれ?」
その手に飴玉を一つ置いてやると光忠が首を傾げた。
「なんだ、悪戯したかったのか?」
「え、いや、そうじゃないけど」
不思議そうな光忠に小さく笑って言えば彼は飴を見つめて困ったように言う。
「長谷部君が甘いものを持ってたのは意外だなって」
「持ってなかったらどうするつもりだったんだ?」
可愛らしい笑みを見せる光忠に疑問をぶつけると彼はうーんと考えるように上を向いた。
「悪戯…。…えいっ」
「うわっ」
「え、うわああ!!」
座り込んだままの光忠が長谷部の服をぐん、と掴み、急な事に踏鞴を踏んだ長谷部は光忠に覆い被さる様に倒れ込む。
すさまじい音が辺りに響いた。
「…ごめん…」
「この、馬鹿力が…!」
「うぅ、ごめんってば…」
じろりと睨むと長谷部の下の光忠が小さく謝る。
黒い耳がぴくりと動いた。
「…燭台切、お前、これ…」
「…え?ああ。本物だよ。なんでも主の悪戯?みたい」
「…主…」
光忠のそれに長谷部は頭を抱えた。
…今の主は悪い人ではない…のだけれど。
「長谷部君?」
「…燭台切、お前菓子は?」
「え?あ、はい」
こてんの首を傾げる光忠に聞けば彼は差し出した手に甘食を一つ乗せた。
「さっき作ったんだ」
「そうか」
機嫌の良い光忠ににやりと笑って甘食を齧る。
「長谷…んんぅ?!!」
きょとんとする光忠の口に齧り取ったそれを舌で入れた。
そのまま口腔を貪る。
「んふ、ふぁ、ぁうん、や、はしぇべくん…?ひっ」
とろんとする光忠の黒い尻尾を握り、うにうにと手を動かした。
「やぅ、や、ぁ、ひぃう!!」
「ほう、感覚があるんだな」
いやいやと首を振る光忠に長谷部はくすくすと笑う。
「な、んで…?ぼく、お菓子渡し…ぁあう!!!」
「ああ、俺はその台詞とやらを言っていなかったな?」
涙目の光忠に笑い…長谷部は黒い耳に息を吹き込んだ。
「ふ、ぇ・・・?」
「覚悟しろ。…光忠」
ひぃ!と躰を大袈裟にびくつかせる光忠にくつくつと笑い…長谷部は囁く。



「trick but treat」

吸血鬼ルカちゃんとミクさんと!()ミクルカ

はてさて、これはどういう状況だろうか。
サーモンピンクの長いふわふわした髪、たゆんとゆれる胸はタキシードに詰め込まれてる。
サファイヤみたいな綺麗な目が私を困った様に見つめていて…後は、そう。
私は、この綺麗なヒトに押し倒されて、いた。
「えっと…サキュバスさん?」
「きゅっ、吸血鬼、ですっ!!」
…吸血鬼だったみたい。
気が弱いのかめちゃくちゃおどおどしている彼女は、開け放った窓から入ってきた…かと思ったら馬乗りになってあろう事か「すみません、血を分けてくださいませんか?!」って言ったのだ。
いやぁ、私なら問答無用で戴いちゃうけどなぁ。
それとも人間と吸血鬼の違いってやつだろうか。
「…や、やっぱり頂けないでしょうか…」
…や、性格の差、かな。
だって、血液が貰えそうにないからってしゅんとしちゃう吸血鬼なんて、聞いたこと無いもん。
「ねえ」
「は、はいっ!」
私の呼びかけにびくん、と跳ねた。
「貴女、名前は?」
「…る、ルカですわ。巡音ルカ」
「そ。私は初音ミク、宜しくね」
にっこり笑うと途端に困った表情になる。
どうかしたのかな?
…ああ、どういう意味のよろしく、か分からなかったのか。
「血、飲んで良いよ」
「?!良いんですか?」
「え、必要だから来たんでしょ?」
「…はい、はい!ありがとう御座います!実はお腹が減って仕方がなかったんですの!」
ぱぁあ、と嬉しそうに笑う吸血鬼、ルカ。
失礼します、と長い私の髪の毛を払って、かぷりと首筋に噛み付いた。
痛いのかなって思ったけど、そうでもなくて。
なんならこないだ受けた血液検査のそれのが痛かったくらい。
「ご馳走、様でした」
なーんて考えていたら小さく言ったルカがそっと離れた。
「おいしかった?」
「はい、とても!」
にこにこ笑うルカに、それは良かったと笑って…今度は私がルカを押し倒す。
「きゃっ。…ええと、ミクさん?」
「知ってる?商売の基本はギブアンドテイク。私ばっかり渡すんじゃ損になるでしょ?」
吃驚した顔をするルカに私はにこにこ笑いながら馬乗りになった。
「…そ、そうです、わね…?」
「だから、私の血をあげる代わりにルカちゃんを頂戴?」
「え?え??」
わたわたするルカに私はちゅ、と口付ける。
「?!ふぇ?あ、あの…??」
「えへへー。実はひと目見た時からタイプだったんだー♡じぃっくり味わって食べてあげるね、ルカ♡♡」
「ひぃい?!!や、やめてくださいぃい!や、ぁ、んー!!」
途端に怯えるルカに今度は深く口付けた。
その後、宣言通りじっくりたっぷり食べられてしまったルカは、疲れきった躰を癒やす為に私の血を飲んでその代償にまた食べられるというループを繰り返す羽目になるなんて…まだ知らない。