ニセモノ アイ 溺レル(ミミクリーザクロ×カイコク)

ジャラジャラと喧しい音がする。
伸ばされる手に、パカはやれやれと溜息を吐き出した。
…事の起こりは数時間ほど前。
ルールを破った彼、カイコクを再び捕まえ、実験室に押し込んだのである。
前回、痺れ薬では何ともなかった彼に筋弛緩剤を飲ませ、無理矢理に叩き起こした。
拉致した過程を説明し、パカはゆったりと言う。
「罪には罰を。そう思いませんか、鬼ヶ崎様」
「…ふざけ…っ!」
それに対してカイコクは案の定声を荒げた。
ギリッと彼が睨む。
何処までもプライドが高い人だと思った。
…だからこそ【彼】に目を付けられるのに。
哀れな人だと思いながらパカは扉を開ける。
「…え?」
「貴殿には絶望を味わっていただきたいと思いましてね」
小さく声を漏らすカイコクにパカは告げた。
その声は聞こえているのかいないのか。
ゾッとした声が響く。
「…おし、ぎり?」
「…鬼ヶ崎」
部屋に入ってきたザクロが目を細めた。
嘘でェ、と呟く声。
「…お前さん、忍霧に…何を」
「残念ながらこちらは忍霧様ではございません」
「…え……?」
パカのそれにカイコクが目を見開いた。
「ミミクリー・マンイーターの改良種とでも言いましょうか。…あまり知能が高くないのですよ」
そう告げて、小さな鈴を鳴らす。
ゆっくり近づいたミミクリーザクロはカイコクを抱き締め。
「愛している」
そう、囁いた。
途端にカイコクの表情が歪む。
彼が、ザクロを想っているのは知っていた。
それ故にあまり踏み込もうとしていないのも。
だからこそ今回はそれを利用した。
「…やめて、くんな……。忍霧、は…そんなこと言わねぇ…っ!」
「…鬼ヶ崎」
嫌々とカイコクが首を振る。
絞り出すような声は筋弛緩剤を使われているからか、それとも。
珍しい表情をするカイコクに、現実は無情だった。
「?!!んぐっ、がっ…!!」
離れたミミクリーザクロが性器を取り出し、カイコクの口に突っ込んだのである。
突然のことに目を白黒させながらえづいた彼の頭を掴み、ミミクリーザクロは無理矢理に前後に動かした。
「おごっ、ぁっ、や…!あぐっ、ひっ…ぐ…あがっ…!!」
汚い声が上がる。
喉を何度も突かれ、カイコクは本能的な恐怖に飲まれているようだった。
かみ切ることだって彼なら考えるだろうにそれをしないのが証拠だ。
「げほっ、ごほっ…!はーっ…はーっ…はー…っ」
数分ほどそうしていただろうか、ずるりと引き抜いた途端、カイコクは激しく咳き込む。
ガタガタと震える彼を、ミミクリーザクロは乱暴にうつ伏せにさせた。
…そうして。
「…っ?!いや、だ…やめろ!!!」
暴れるカイコクの願いも虚しく、ミミクリーザクロの性器が濡らしてもいない彼のアナルに捩じ込まれる。
気遣いなんて知らない、植物たるそれ。
「〜っ!!ぅあっ、あぁっ、いぎ…っ!!」
「鬼ヶ崎、愛している」
「っ!…や、めろ……いや、だ…ァ、あぁあっ!!!」
機械的な愛の言葉にカイコクは悲痛の声を漏らす。
ぽたり、と鮮血が流れた。
息吐く間も与えず、ミミクリーザクロはガツガツと律動を開始する。
愛している、と無感情に囁いて。
「ふぁっ!…やだ、ぃやだ…っ!な、んで…!」
シーツに顔を押し付けながらカイコクが啼く。
快楽も何もない、ただただ痛みを植え付けられるセックス。
想い人から、無感情に愛を囁かれ続けるカイコクの苦痛は如何程だろう。
「…助けて、差し上げましょうか?」
パカはぼんやりするカイコクに手を伸ばした。
ふざけるな、とそれが打ち払われる。
この状況を作ったのはそもそもパカじゃないか、と。
「…っ!俺ァ…!絶対に…屈しねェ…!これ、は忍霧なんかじゃ…!…だ、からぁ…!」
「…残念ですねえ」
パカはその返答に溜息を吐き、小さく鈴を鳴らす。
「?!…ぁ…あ……!」
「…鬼ヶ崎」
緩く首を振るカイコクに、ミミクリーザクロは小さく笑みを見せ…触手を、伸ばした。
無数の触手が、カイコクを襲う。
「ひぎっ、やめ…!ぃぎゃぁアアアッ!!!あぐっ、ぅんんぅ!んぶ、ひぎゅ…っ!」
穴という孔を触手に埋め込まれ、彼の目は絶望に染まった。
ポロポロと涙が零れ落ちる。
それは…苦しさからか、痛みからか。
はたまた別の何かか…パカには分からなかった。
小さく、本当に小さく、ごめんなさい、と彼が呟くのは誰に向けてなのか。
「鬼ヶ崎、愛している」
ミミクリーザクロが囁く。
ニセモノの愛を、ニセモノの【彼】が。
快楽は与えないのに愛の言葉は与えられる。
これほどの地獄があるだろうか。
伸ばされた白い指が震え、絡めとられる。
逃がさない、というように。
…傷ついたカイコクは…確かに『綺麗』だと…思った。

これは、沈むべきアイに溺れた…哀れな黒猫の、始まりのお話。(終)

エイプリルエイプリル!(ザクカイ)

ザクロは今日何度目かの溜息を吐き出す。
目の前にいるカイコクがびくっと肩を震わせた。
さてなぜこの様な状況下にいるのか…事の次第は今から1時間ほど前だった。
「大変な事になった!」とユズがカイコクを引き摺ってザクロの前にやってきたのだ。
どうしたのかと問えば、なんと彼が【根底にある思いとは逆の事を自分の意志に関係なく喋ってしまう薬】を飲んでしまったというではないか。
何故そんなものを、と思うがユズ曰く「ちょっとした手違い」らしい。
「午前中で効果は切れるから、あと頼むぜ!」
「おいこら待て!」
さっさと逃げるユズにザクロは声を荒げるが、追いかけることが出来なかったのはカイコクがぐんっと引っ張ったからだ。
「…っ?!鬼ヶ崎?!」
「…す、き…でぇ」
倒れ込みそうになって慌てて後ろを向けば小さな声でカイコクがそう言う。
その言葉に少なからずショックを受けたザクロは、それでも「…そうか」とだけ答えた。
特別な感情はないだろうな、とは思っていたが「好きの反対」、つまり「嫌い」と言われればそれはそれで傷付く。
「…。…別に無理に俺の側にいる必要はないと思うが…」
「…好き、でぇ」
「…なあ」
「…っ!…好き、でぇ!」
同じ言葉しか繰り返さないカイコクに、おかしいな、と後ろを向こうとした。
だが、彼がそれを許さない。
「…俺だって傷つくんだが」
はあ、と息を吐けば小さく震え、カイコクがそっと離れた。
それから約1時間、無言のままザクロとカイコクは対峙している。
どうすべきかと思ったところで最初に口を開いたのはカイコクだった。
「…好き、でぇ」
その言葉に、またか、と暗い気持ちになりかけたところで、彼が言葉を続ける。
「名前…呼んでくんなぁ?」
呼べ、と言うことは呼ぶなということだろうか。
しかしそれも癪で、「鬼ヶ崎」と呼んでやれば小さく首を振った。
やはり呼んでほしくないのかとも思ったが、彼は「名前」と言ったのである。
「…。…カイコク」
小さく、絞り出すように言えば、何故だか彼はホッとしたように笑んだ。
不思議な表情のカイコクに疑問符を浮かべたが、ふと自室の時計が目に入る。
午前中と言われる時間はとうに過ぎていた。
…と、いうことは?
「…すまねぇ、嘘…なんだ」
「…は?」
小さな声でカイコクが言う。
良く良く聞けば、彼に飲まされた薬の効能は「嘘」だったというのだ。
日付を確認すれば今日はエイプリルフール。
なるほどそれなら合点がいく。
「それで、なんの薬なんだ?」
「…り…」
「は?」
きょとんとするザクロに、だから!とカイコクは大きな声を出した。
「【自分の気持ちに正直になる薬】だって言ったんでぇ!!」
「…へ??」
ぽかんとするザクロに彼が顔をそらす。
つまり、好きだと彼が言ったのは本当で。
「…正直になったからには……受け止められる覚悟はあるんだな?」
とさりとカイコクを押し倒す。
「ま、まて、待ってくんな、おしぎ…!」
「俺も貴様が好きだ…鬼ヶ崎…いや」
カイコク。
慌てる彼に低く囁いてそっとキスを、した。


「どうしよう、カリリン、ひーみん。嘘って言いづらくなった」
そんな二人を見つめる少女が3人。
…そう、実はカイコクには薬を【飲ませていなかった】のである。
珍しく動揺するユズにカリンが「知りませんよ」と呆れながらも一蹴した。
「自分で蒔いた種でしょ。自分でなんとかしてください?」
「そんな!…ひーみん!カリリンがぁ!」
相変わらずな二人にヒミコは苦笑しつつ、ふと首を傾げる。
ユズが作った薬は嘘だった。
ならカイコクのこの言動は?
(そもそもどこから嘘だったんでしょう…?)
ヒミコのそれは誰に聞かれることもなく、疑問として消えた。

エイプリルバースデイ!(アカカイ)

「カイコクさん!」
アカツキの声に、ふわりと髪を舞わせてカイコクが振り向く。
「…入出」
「カイコクさん、俺ね、今日誕生日なんですよ!」
にこにこと告げるアカツキに、カイコクは小さく目を見開いた。
意外だとでもいうようにアカツキを見つめてから小さな笑みを浮かべる。
「そうかい、そりゃあおめっとさん」
「ありがとうございます!」
それを聞き、上機嫌にアカツキは礼を言った。
「しかし、もっと前もって教えといてくれりゃあプレゼントくらいは用意したってェのに」
「えー?カイコクさん自身をくれても良いんですよ?」
「それは断る」
クスクスと笑っていたカイコクは、アカツキの言葉に花が舞うような笑顔を見せる。
ガードが固いなぁとアカツキは苦笑した。
…と。
ふに、と口唇に当たる、柔らかな感触。
意外なそれに固まっていればカイコクはすぐに離れる。
「…俺が与えてやれるのはこれくらいでぇ」
「…カイコクさん…!!」
本当に珍しい彼からのデレに、アカツキは思わず己の口を抑えた。
ほんの少し恥ずかしそうにそっぽを向くカイコクに、勢いで抱きつきそうになる。
「俺、幸せです!」
「…存外単純だねェ、入出は」
きょとんとしてみせた彼が肩を震わせた。
「大好きな恋人の貴重なデレですよ?嬉しいってもんです」
「…そうかい?」
「はい!」
首を傾げるカイコクに、アカツキは大きく頷く。
「でもやっぱりカイコクさんが欲しいですよー、俺、今日誕生日ですよー?」
尚も強請れば、やれやれと言わんばかりにカイコクが息を吐いた。
「仕方がないねェ…。…なら、一つゲームをしねぇか?」
「ゲーム、ですか」
「そ。制限時間1時間で俺を見つけられたらお前さんの勝ち、見つけられなかったら俺の勝ち。買った方が一日ご主人様でぇ」
どうだい、と笑う彼にアカツキはあまり乗り気ではない声を出す。
「カイコクさん、俺、体育2ですよ?」
「かくれんぼと鬼ごっこだろ?体育関係あるかい?」
「ありますよー!基礎体力の問題です」
「そりゃあ…まあ…頑張ってくんな?」
ふわりとカイコクが笑んだ。
その笑みは、どうしたって手に入れたく。
アカツキは思わず元気良く、「はい!」と返事をしてしまったのであった。
「…やる気は充分みたいじゃねぇか」
「…あ」
ふわふわと綻ぶ花のように笑う彼に、声を漏らす。
「カイコクさぁん、せめてお誕生日さまハンデを…」
「入出は、ハンデをつけて俺を手に入れて、嬉しいかい?」
「そりゃあまあそうですけど」
拗ねるアカツキにカイコクが己の指をアカツキの唇にそっと当てた。
綺麗に微笑む彼にはどう考えたって適わない。
カイコクのこの言葉に、アカツキは先程よりも元気に返事をするしかなかったのだった。
「男なら、自分の力で頑張んな」






(さて、ここで問題です

この会話に出てくる嘘はいくつあったでしょうか?)

誰が君を落とせるか?!

「駆堂、今日こそ貴様を泣かせてやる」
「そっくりそのまま返すぜ、マスク野郎!」
「マキノさん、俺、絶対に負けませんからね!」
「…僕も…アカツキくんに…負けない…!」

いつも平和なはずのゲノムタワーに、不穏な空気が流れる。
怪訝そうな顔で食堂に入ってきたのはカリンだ。
「…なんです?あれ」
「第一回カイさん争奪☆チキチキレース!だぜ」
「…誰が鬼ヶ崎さんを落とせるか、勝負しているそうです」
その疑問に答えたのはユズとヒミコである。
面白いことには全力で乗っかるユズはともかく、争いは止めるタイプのヒミコが傍観者に徹しているということは、押し切られたか見ていても問題ないと判断したのか。
「…女子を差し置いて?」
「女子を差し置いて」
カリンの尤もな疑問にニヤニヤと笑うユズ、その傍らで苦笑いを浮かべるヒミコ。
そして。
「…俺が一番不本意なんだがねェ、孃ちゃん」
不機嫌な様相を隠そうともしないのは件の当事者、カイコクだ。
普段は感情を隠すのが上手な方であるから、余程この状況は嫌らしかった。
「あら、愛されてるじゃないですか」
「そうだぜ、カイさん。もっと喜び給えよ」
「そっ、そうですよ!何にせよ好かれてるんですから」
「…嬉しくねぇ」
口々に言う女子に、カイコクはぶすくれる。
人をいじる癖に彼自身弄られるのは嫌なのだろう彼が、普段は飄々と隠す感情を顕にさせるのが彼女達は珍しいだけで、嫉妬をしているわけではなかった。
その少し先では、カイコクの想いをあまり汲まない男子達による睨み合いは続いていて。
「っし、こーなったら拳で決めようぜ」
「狡いですよ、アンヤくん!俺、体育2です!」
「…痛いの…良くない……」
「暴力は俺も反対だな。自分にだけ有利なものを持ち出すのも些か…」
「あ?!大体勝負っつーのは自分に有利にするもんだろーが!」
ギャーギャーと言い争い彼らにユズがふむ、と腕を組む。
「カリリンは、誰に賭ける?」
「そうね…逢河さん、かな…」
真剣な表情で聞くユズにカリンも小さく上を向いた。
「あっ、ズルいぞ?!ボクだってマキマキに賭けたい!」
「それじゃ賭けにならないでしょ!」
「…おい、路々さん、孃ちゃん」
嫌そうな表情でカイコクが突っ込みを入れる。
それに、あはは…と乾いた笑いを洩らすのはヒミコだ。
「…それにしても、あれ…終わるんでしょうか…」
ふわりと首を傾げる彼女に、ユズとカリンも顔を見合わせる。
勝負どころか、内容さえ決まってないらしい彼らのそれは、確かに埒が明かなかった。
「おうい、青少年たち。とりあえず口説いてみるのはどうだい?1番手っ取り早いし、何より言葉は想いが一番乗りやすい」
ユズのそれに顔を見合わせた彼らはそれもそうかとこちらにやって来る。
先手必勝とばかりにカイコクの手を取ったのはザクロだ。
「鬼ヶ崎。俺と、その…血判書を交わしては貰えないだろうか?!」
「断る」
あまりにもあっさりばっさり。
固まるザクロを押し退けたのはアンヤだ。
「鬼ヤロー、オレと付き合えや」
「嫌でェ」
「カイコクさん、俺と付き合うと良い事沢山ありますよ、あれとかそれとか」
「無理」
「…カイコッくん…だめ…?」
「だぁめ」
続くアカツキとマキノも秒殺したカイコクがにっこりと笑う。
「小手先だけの言葉で俺が落とせるとでも?…その考えが気に喰わねぇ」
彼が放つ言葉は確かにその通りでしかなくこっ酷く振られた彼らは言葉を飲み込んだ。
「本気なら頑張って俺を落としてみてくんな?」
くすりと不敵に笑うカイコクはあまりにも美しく。
振られたはずの彼らは再び頭をフル回転させる。
カイコクを、自由で気ままな美しい彼を…手に入れたい、その一心しかなく、同世代の仲間たちには負けてはいられないのだ。
「…けど、考えるにしたって随分かかるぜ?どうだろう、纏まるまでボクらとお茶しないかい?カイさん」
にっこりとユズが笑う。
「それ良いわね!私、日本茶の美味しい淹れ方を勉強している最中なんです!鬼ヶ崎さんに教えてもらえたら嬉しいなって」
「じゃあ私の部屋にどうぞ。丁度美味しいお魚のお煎餅があるんですよ」
カリンとヒミコのそれに、カイコクは嬉しそうに笑んだ。
「伊奈葉ちゃんが良いって言うなら…お邪魔させてもらうかねェ」
「はい、ぜひ!」
あれよあれよという間に約束が取り付けられていくそれに、ぽかんとするのは争っていた男子たちである。
「そんな訳で、カイさんはちょっと借りるぜ?」
ユズのそれに待ったをかけたのは果たして誰だったろうか。
くる、と振り返った彼女たちが浮かべる…悪い笑み。
「忍霧、駆堂、入出、逢河。…言葉が用意出来たら教えてくんなァ。待ってるぜ」
これから何をされるか分かっていないであろうカイコクが花が咲くように微笑った美しい微笑と彼女らの黒い笑みに固まっていれば、パタンと扉が閉まる。
「ひーみん、ボクらにはお茶請けないのかい?」
「大福がありますよ。…見た目からじゃ分からない…とびきり甘いやつです」
「私、大福好きなのよねぇ。分けっこしましょ、ユズ先輩、ヒミコちゃん」
「いいねぇ。…ボクらは仲良しだから、にゃあ?」
…勝者である彼女たちの、不穏な言葉を残して。

暫く硬直していた彼らだったが、アカツキがスッと手を挙げる。
「…反省会、しましょう」
確してその提案に反対する者は誰も居らず、勝負はお預けと相成ったのであった。
(今のままでは敵うこと等ありはしない。
手強いライバル達に勝つには手を組む事も必要だと、青少年は学びました!)(終)

今日はうれしい(ザクカイ)

今日は3月3日。
世で言う桃の節句…ひな祭りである。
「っし、こんなもんだろ」
ぽん、と帯を軽く叩かれ、ザクロはほぅ、と息を吐いた。
「…見事なものだな」
「そうかい?慣れりゃ楽だぜ」
着物を着付けてくれたカイコクが笑う。
ひな祭りだからお雛様に擬えた格好を、と言い出したのは誰だったか。
結局、内裏雛を誰がやるかで散々揉め、ならば三人官女と五人囃子でと相成ったのだ。
普段から着物を着慣れているカイコクなら…十二単も似合っただろうに、と思いながらもその言葉を飲み込む。
怒らせるのはあまり得策ではなかった。
…ただでさえザクロは地雷を踏みやすいのに。
代わりに息を一つ吐き出し、ザクロはみんなの待つ部屋へと向かった。
「一番!駆堂アンヤ!歌います!」
「いーぞー!アン坊ー!」
わーわーと周りの声が騒がしい。
ほんの少しだけ輪から外れたザクロはようやっと安息を手に入れた。
以前の花見では甘酒で酔っ払い、散々な醜態を晒した…らしいのだ。
何故、らしい、かといえばザクロ自身がとんと覚えていないからである。
だから今日は甘酒攻撃を避け、素面を保っていた。
そう、ザクロ…は。
「…」
「…大丈夫か、鬼ヶ崎」
代わりに飲まされてしまったのかはたまた自分から飲んだのか、ぽやりとした表情のカイコクに声をかける。
目元が緩み、肌を桃のように染めた彼は明らかに酔っていることがわかった。
「…酔って、ねェ」
「…いや、酔っているだろう」
「…酔って…ねェもん…」
「普段の貴様はそんな口調じゃないと思うが…?」
拗ねた口調のカイコクに、ため息を吐く。
確かに少し幼くて可愛いけれども、心配でもあるのだ。
「…っ、忍霧っ、酒!!」
「…わかった」
ムッとしたように言うから諦めつつお猪口を手に取る。
中に入った液体を己の口に入れ、カイコクに口付けた。
「んっ、んぅ…ふ…ぁ……ぁんっ、んく…ぁう…」
とろんと溶けた彼は与えられるままにその液体を飲む。
全部飲んだのを確認してからザクロは離れた。
「…味が…しねぇ…」
「水だからな」
不思議そうな彼に言いながら零れた水を拭ってやれば途端にムッとする。
「酒って、言った」
「いや、貴様も未成年だろう?…甘酒だが」
だから止せ、と静止すると何故か泣きそうに表情を歪ませた。
カイコクは酒には強そうなのだが…何故ここまで酔ってしまったのだろう。
「どうしたんだ鬼ヶ崎、貴様らしくもない」
「…。お前さんが、名前で呼んでくんねぇ、から」
「…はぁ??」
カイコクの小さな告白に、ザクロはきょとんとした。
そういえば以前の花見で、酔っ払った際に彼の名を呼んだ…ような。
「…だからって何故貴様が酔うんだ。俺を酔わせるでなく」
「…っ!お前さんが!飲んでくんねぇから!!!」
「…あ」
声を荒らげるカイコクに、はたと気付く。
そういえば今回やたら飲めと誘ってきたのはカイコクだっけ。
俺も飲むから、と自分だけ大量に飲み、挙句酔ってしまったのだろう。
まったく…彼は可愛いのだから。
「…。…貴様が酔ってしまっては意味がないだろう?…カイコク」
そっと名を呼べば、へにゃりと心底幸せそうに笑った。
ふわりと、桃の花弁が空に舞う。
「…来いっ!」
これ以上無防備な姿を見せたくはない!とカイコクの手を引いた。
立ち上がらせ、タワーに向かって歩く。
「…おし、ぎりぃ…?」
「貴様が満足するまで名を呼んでやる。だから、あまりそういう顔を見せてくれるな…」
甘い声で首をかしげるカイコクに、ザクロの悲痛な願いが霧散した。

望み通り彼の名を呼んでやり、酔いが醒めた…酔った記憶のばっちり残るカイコクに嫌というほど名を呼ぶのは…また、別の話。
(春の弥生のこの良き今日日、何より嬉しい…本日ひな祭り!)

猫の日ですから!

朝起きて

目が覚めて

…俺の恋人は大変なことになっていた。


「おっ、ザッくんー!今日も朝から元気だにゃー!」
「…路々森…っ?!」
ランニングから帰り、部屋に帰る前に水でも、と食堂に寄ったザクロを待ち受けていたのはいつも以上にテンションが高いユズである。
きゃっほぅ!っと抱きつこうとするユズを躱しつつ、彼女に今までは付いてなかったモノを指差した。
「…それは、一体……?」
「ああ、これかい?」
指差した先でひょこひょこと揺れる、ユズの白い髪と同系色のネコ耳。
…髪と同系色のネコ耳!
「可愛いだろう?今日は猫の日だからにゃあ?」
「…なんだって?」
「…猫の日、ですよ忍霧さん」
知りません?とかけられた声はカリンで、彼女にも同系色のネコ耳が頭から生えている。
「2月22日、2が3つでにゃんにゃんにゃん」
「今年は、令和2年、西暦だと2020年だぜ?にゃおにゃおにゃんにゃんにゃん、だ!」
どやぁ!と胸を張るユズにザクロは、はぁ、と返事を返すしかなかった。
「まあ、なんだ。だから今日は女子全員猫の恰好なんだぜ?」
「…全員?」
「あっ、忍霧さん!」
ユズの言葉に引っかかりを見せたザクロに届く、ヒミコのそれに振り向けば彼女もまた同じ様な格好になっていて。
「…路々森…更屋敷はともかく、伊奈葉はやめてやれ…」
「待って忍霧さん、私はともかくってどーいう…!」
「わわっ、喧嘩はだめですー…!」
わーわーと騒いでいれば次第に皆が集まってくる。
「…ヒミコちゃん…可愛い……」
「えへへ…ありがとうございます」
マキノがヒミコを撫で、微笑ましい空間が錬成されているかと思えば。
「カリンさん、耳もふもふですね…」
「触ったら殺すわ」
「ずるいぞ、あっきー!ボクだってまだカリリンの猫耳触ってないのに!あっきーにはアン坊がいるだろう?!」
「なんでだよ、オレ猫耳じゃねぇだろーが!よしんば、猫耳だったとしても触らせねぇよ!」
「俺、パンダ耳がいいです!」
「猫の日かんけーねーだろーが!!」
何やら攻防戦も繰り広げられていてザクロは溜息を吐き出し、ペットボトルを手に離脱した。
ユズによれば人体に悪影響はないから彼女らを心配する必要もないのだろうが。
と、ふとポケットに違和感を感じた。
探ってみれば小さな小瓶が入っており、ラベルには猫の絵文字と矢印、その先には人の絵文字が書いてあり、ザクロは首を傾げる。
後で聞こうとポケットに戻し、自室の扉を開いた…刹那。
「来るんじゃねぇ!」
「…鬼ヶ崎?」
鋭い声に迎えられ、一瞬固まったもののあまり聞かない彼の声にザクロは慌てて部屋に入る。
「どうした…ん、だ…」
開いた扉の先、ザクロよりほんの少しだけ小さくなった、猫耳猫尻尾装備のカイコクが、そこにいた。
「…来んにゃって言ったのに」
「…すまん」
ぶすくれる彼はシタンっ、シタンっ、と尻尾を床に打ち付け不快感を全面的に表していた。
カイコクによれば、ザクロの部屋でうとうとしていた所を訪ねてきたユズから貰ったトローチを舐めた際にこうなったらしい。
あまりに無防備というか何というか。
先程の瓶はこの為か、と小さく嘆息した。
そも、ここはザクロの部屋なのだから来るなと言うのもおかしな話だとは思うが。
「…鬼ヶ崎、これに痛覚はあるのか?」
「みぎゃっ?!!」
むぎゅ、と黒い尻尾を引っつかめば、カイコクは目を見開き、耳を水平にさせた。
「にゃにしやがる!」
「…あ、ああ、すまない」
怒れるカイコクに謝罪し、ザクロはそれを撫で擦る。
ん、と甘ったるい声がザクロの耳を擽った。
まるで情事の時のようで思わず唾を飲み込む。
「…なあ、耳はどうなっているんだ」
「んぅ!……耳は、やめてくんなぁ…」
するりと擽ってやれば小さく首を振った。
だがそれでやめるザクロではない。
ころんとベッドに転がし、三角耳を唇で食んだ。
「ひっ?!お、しぎり…っ!それ、やだ…っ!」
「嫌なら抜け出してみせろ」
「こ、の…っ!」
いけしゃあしゃあと言うザクロにカイコクが涙目で睨む。
ただでさえいつもより小さいのに、直接的に快楽を与えられている…、カイコクに勝てるわけがないのだ。
「きの…さんざ、ん…やった、だろ……っ!」
「そうだったか?」
へにゃりと耳をへたらせるカイコクにすっとぼけて見せ、ザクロはそっと口付ける。
…解毒の瓶のことは暫く言わないで置こうと、思った。


だって、特別な猫の日だから。

いつも気ままで自由な、猫みたいな彼を…独り占めしたいじゃないか!


(ザクロの部屋に、カイコクの声が響き渡るまで……22秒)

FishtailValentine

今日はバレンタインだ。
「待て鬼ヶ崎!!」
「いーやーでえ!」
…バレンタインのはずなのだが。
朝から壮絶な追いかけっこが行われていた。
終止符を打ったのはザクロの部屋の前、追い詰められたカイコクを急に扉を開けて雪崩込んだことによるもので。
「さあ、追い詰めたぞ、鬼ヶ崎!観念しろ!」
「…っ」
ふい、とそっぽを向くカイコクに無理矢理目を合わせる。
「…今日は、バレンタインだ」
「…。…だからなんでぇ」
「…だから、だな……」
ゼェゼェと息を切らしながらザクロは何かを出そうとした。
が、それをカイコクが押し留める。
「待て!今日がバレンタインだけだと思ってねぇだろうな?」
「…は?」
いきなりそんな事を言い出すカイコクにザクロはきょとんとした。
「今日は、煮干しの日でぇ」
ドヤ顔でカイコクが言う。
流石は頭が良いと自負するだけある、と小さく溜息を吐いた。
もちろんそれを言われるのも想定済みな訳で。
「…だから、最初からこれを渡そうとしているのだが」
「…へ?」
ぽかんとするカイコクにザクロはある紙袋を渡す。
それを見た彼の目が輝いた。
「…これっ、煮干しや乾燥昆布、小エビが入ったオサ○ーナ、シーフードミックスじゃねぇか!」
「ああ、貴様はこういう方が好きだろう?」
「…忍霧…!ああ、好きでぇ!」
ぱぁあ!と嬉しそうに笑うカイコクにザクロはどきりとする。
好きだと言ったのはザクロではなく、オ○カーナだというのは分かっているのだけれど。
「忍霧っ、忍霧っ」
「…なんだ」
ニコニコと服を引っ張るカイコクはかぱりと口を開けた。
「…ん?」
「食べさせて?」
首を傾げるカイコクに、はぁあ、とため息を吐く。
確かに馬乗りになっているのはザクロだし、食べられないのも分かるの…だが。
この前、アカツキが「この曲良いですよね」と聴かせてくれたそれが脳内にリフレインした。
「…この…世界で一番お姫様め……!」
「…なんでぇ、そりゃ」
きょとりとするカイコクに、別に、と言って封を開ける。
指でつまんで早く、と急かすカイコクの口に放り込んだ。
幸せそうなカイコクにザクロもまあいいか、と思う。
次の分を、と手を引こうとしたそれを…カイコクが掴んだ。
ザクロの指を口に含み、舐める。
「…おい、鬼ヶ崎っ!」
「…鈍感」
思わず声を荒らげるザクロにカイコクがブスくれたように告げた。
は、と目を丸くしていれば、少し体を起こしたカイコクは着物の袖からあるものを手渡してくる。
「…こ、れは…」
「……わりぃな、手作りじゃなくて」
小さな声で言うカイコクの手には可愛らしいピンクの包みが乗っていた。
恐る恐る受け取って封を開ければ、トリュフ型の…。
「チョコレート」
「…食うのは苦手だが…渡さねぇたぁ言ってねぇだろう?」
ふわりとカイコクが笑う。
まさか貰えるとは思っておらず、ザクロは理解するのに時間がかかってしまった。
「忍霧?あの」
「ああ、いや、すまない。…すごく、嬉しい。ありがとうな、鬼ヶ崎」
「いや、喜んでもらえるなら…あ?」
「え?」
包みを見たカイコクの表情がサッと変わる。
「ちょっと待て、一回それを返しな、忍霧!」
「はぁ?!貰ったものはもう俺のものだろう!」
手を伸ばすカイコクにそう返し、ザクロはマスクをずらして一つ口に入れた。
「あっ、こらっ」
「ん?!」
チョコレートを取り返そうとカイコクが胸倉を掴み、キスをしてくる。
取り返されまいとチョコを噛み、カイコクの舌を舐め上げた。
「んぅ、んんー!」
苦しいのか背中をタップしてくるカイコクに仕方がなく口を離す。
「はぁ…甘ぇ…」
「…何なんだ、急…に…?」
嫌そうな顔をするカイコクに首を傾げた途端だった。
ぐわりと景色が歪む。
目の前のカイコクをめちゃくちゃに犯したくて仕方がなかった。
そういえば以前にもこんな事があった…ような。
「カイさん、すまない!そっちにボクがカリリンに用意した媚薬入りチョコが…!…あー、遅かったみたいだね?」
「…なんつーもんを作ってくれたんでぇ、路々さん…!」
バタバタと慌ただしい足音と共に現れたユズがへらりと笑う。
カイコクの焦った声が響いた。
「…路々森、扉を閉めてもらえるか」
「りょーかい♡」
「おい、無慈悲だぜ、路々さん!」
「ボクは馬に蹴られに行く趣味はないんだよ、カイさん。ま、ごゆっくり~」
パタン、と閉められる扉にザクロは口角を釣り上がらせる。
カイコクの引き攣った声が喉から聞こえた。
「忍霧、せめて布団にな…?」
「据膳食わぬは男の恥と言うだろう?それに、誘ってきたのはそちらだ」
「誘ってねぇ…ん、ぅうっ!」
笑って文句を言いかけるカイコクに再び口付ける。
甘い物が苦手なはずの彼の口内は、特別甘ったるかった。

誘われたから乗りました



後で文句を言っても遅い、そんな事案





(それは所謂、不可抗力って、呼ばないか?)

Valentine×Birthday(マキカイ)

ぼんやりしながら僕は廊下を歩く。
今日はバレンタイン。
ユズちゃんやヒミコちゃん、カリンちゃんがチョコをくれた。
だから僕も皆が好きそうなチョコを渡す。
「流石はマキマキだにゃー」と笑うユズちゃん、「いいんですか?!ありがとうございます…!」と驚いた様子のヒミコちゃん、「ホワイトデーの時で良かったのに…」とはにかむカリンちゃん…三者三様の反応だったけれど、みんな喜んでくれたのが嬉しかった。
アカツキくんとアンヤくんにはエッグチョコ…の中に食堂のおかわり自由の焼肉券(あんまりもらえないんだって)を入れておいたらとび上がっていたし、ザクロくんにはキノコ型の渡したら大切にするって言ってた…僕は美味しい内に食べて欲しいと思うけど…皆が嬉しいのは僕も嬉しい。
…あと、は。
「…カイコッくん」
「逢川?」
部屋の前の廊下に探していたその人がいて、声をかけた。
振り向いたカイコッくんが首を傾げる。
「どうしたんでぇ」
「…これ…バレンタイン」
甘い物が苦手なカイコッくんに、甘くないチョコを差し出した。
びっくりしたように目を見開いたカイコッくんがふわりと笑う。
「…いつも悪ぃな、逢川。俺にまで気ぃ使わせて」
「…。…僕、カイコッくん…好き、だから」
「そりゃあ…」
「…本命…」
いつもみたいに躱そうとするカイコッくんを壁に追い詰めた。
分かったから!と観念したように声を上げる。
「気ぃ使わせたなんて言って悪かった。ありがとな、逢川」
くす、と笑ったカイコッくんに離れようとした…その時だった。
くん、と袖を引かれて僕は首を傾げる。
「…?」
「…いつも、逢川にゃあ貰ってばかりだからなぁ…柄でもねぇんだが」
小さく笑いながら差し出されたのは、可愛らしいラッピングの包み。
「…カイコッくんが……?」
「まさか。チョコ作りは遊びじゃねぇって嬢ちゃんと伊奈葉ちゃんから止められた。…飾り付けだけだな、やったのは」
そう言いながらカイコッくんの耳元は真っ赤だった。
「…開けて、良い?」
「どーぞ」
許可を得て開いた包みの中にはちょっと不格好なチョコが入っていて。
「…上手く出来たと思うんだが…」
ほんの少し心配そうなカイコッくんに僕は可愛い、と言う。
そうかい!と嬉しそうなカイコッくんはやっぱり可愛かった。
「バレンタインだし、聞きゃあ今日誕生日なんだって?お前さん。チョコを作ってやれれば良かったんだが…すまねぇな」
「…たん、じょうび」
カイコッくんのそれにそういえばそうだったと思い出す。
あまり興味がないから忘れてた。
「なんでぇ、忘れてたのかい?」
楽しそうに肩を揺らすカイコッくん。
「何が欲しい?逢川」
こてん、と首を傾げるカイコッくんが可愛くて可愛くて、僕は思わずキスをする。
「…んっ!ふ…」
少しびっくりした顔のカイコッくんは、チョコを食べたわけでもないのにとても甘かった。
「ぁ…あい、かわ…?」
「…カイコッくんが、欲しい」
ぽや、と僕を見るカイコッくんの肩に僕は顔を埋める。
可愛らしい笑い声が僕の耳をくすぐった。
ぽんぽんと頭を撫でられる。
「…しゃーねぇなあ……誕生日サービスでぇ」
特別な、と笑うカイコッくんは…やっぱりとびきり可愛くて…好きだな、と…そう思った。


甘い甘い、チョコレートが苦手なのに、チョコレートよりも甘いカイコッくん。

あまり好きではない僕の誕生日は…今年は特別なものになりそうだ。

「あい、かわ?なぁ、逢川?!このまま寝ないでくれねぇか、なあ?!!」
「…ぐぅ」

(珍しく響く彼の焦った声も…特別だ、なんて)

行事に託つけていちゃいちゃしたい年下彼氏との攻防(レンカイ)

どうも今晩は、鏡音レンです 

ところでおれは今非常に困っている状況にあるわけで…

「にいさん、にーいさぁあん!!」
部屋におれの声が響く。
只今2月13日午後11時30分、風呂から上がった兄さんをTVの前まで連れて来たのは良かった。
「出来上がったPV見よう!」の一言に何の疑問を抱かなかったのも予想の範囲内…っていうかここは疑問を持たれちゃ困る。
マスターは今までの睡眠不足を取り返すように寝てるし優亜さんとリンとメイ姉ぇは女子会って言ってたし、ミク姉ぇとルカ姉ぇは…うん、考えないでおこう…バレンタイン直前だしな。
兎に角この場にはおれと兄さんの二人きり。
ここまでは計画通り…だったはずなのに、はずなのに!!
つか前もこんなことあったな?!
「ん…」
肩越しに伝わる重み、耳にダイレクトに入ってくる静かな寝息…そう、今兄さんはおれの肩に寄っかかって寝てんだ。
…今回は寝させないように頑張ったんだけどぉお!
「…相変わらずエロい」
思わずごくりと喉が鳴る。
開いたパジャマからチラチラ覗く白い鎖骨とか、微妙に紅い顔とか、そりゃまあ反応するよね!みたいな…おれたちがプログラムだからどうこうの話でもなく…なんつーかマスターの言葉を借りるなら『シチュエーション萌え』…?
「…ん、ぅ…」
「…って、そんな事はどうでも良くて。兄さん、兄さんってば!」
頭を振って、おれは兄さんを起こす作業に戻った。
つかコーヒー飲ませたしめちゃくちゃ喋ってたのに何で寝れんだ、兄さんは!
「兄さーん、起きてくださーい!」
「…んぁ…れ、ん…?」
必死の揺さぶりで兄さんは漸く目を開けた。
ぽやんとした顔で見上げる兄さんはめっっっちゃ可愛い…っていうか顔近い顔近いっ!!
思わずそらした目に映った時計の針は11時53分を指してた。
今回もギリギリじゃん…あっぶね。
っていうか23分も兄さんを起こし続けてたのか、おれ…。
「…?レン?」
「あ、いや、こんなトコで寝てたら風邪引くよ」
「…あー、そうだね。何か安心しちゃって、つい」
おれのそれに、にこっと笑う兄さん…。
それっておれの横が安心するって捉えて良い?!
「今回の曲、揺籃歌だし」
「…ソウダネー」
兄さんの答えにおれは棒読みになった。
今回の楽曲のテーマが揺籃歌…つまるところ子守唄で(癒やしが欲しかったってマスター言ってた)今画面に映ってるのはパジャマ姿のルカ姉ぇだ。
ミク姉ぇが「うちのルカがマジ聖母」って崇めたっけ。
ちぇ、どうせおれはルカ姉ぇみたいに癒やしもない、油断ならない狼ですよー。
「…レンの声、安心するし」
「…んっ?!!」
小さな声で言う兄さんをばっと見上げると、照れたように笑った。
そういえば兄さんが寝始めた頃流れてたのっておれの曲だっけ…。
もー、相変わらずほんと可愛いなぁあ!
「…ありがと、兄さん」
素直に礼を言うと兄さんもにこって笑った。
…あー、ホント兄さん癒し系。
「…あ」
「?どうしたの?レン」
慌てて時計を見上げるおれに兄さんがこてんと首を傾げる。
うっわ、59分…後10秒で日付変わるじゃん!
兄さんの笑顔に見惚れて本来の目的忘れるトコだった。
「…なあ、兄さん?」
「ん?何?レン」
後、7…6…5…。
「あのさ…」
4、3…。
ふわりと笑う兄さんに小さくキスをする。
ほんのちょっと驚いた顔の兄さんに笑いかける。
…2、1。 
「誕生日おめでとう、兄さん」 
耳元で囁くと兄さんは目を真ん丸にした後ふやぁあって笑って「有難う」って言った。 
あー、もうこの顔大好き!
「もしかしてそれを言いたくてこれ見てたの?」
「え?」 
TVのスイッチを切ってDVDを定位置に戻してると兄さんがくすくす笑ってそう言ってきた。
「あーうん、まあそんな感じ?」
にへらっと笑うと、兄さんはしょうがないなぁって感じで笑う。
「別に朝起きた時で良かったのに」
「誰よりも早く兄さんを祝いたかったのー」
おれの返答にきょとんとした兄さんがくすくすと肩を揺らした。
「相変わらずだねぇ」
「いーだろ、別に」
ぶすくれると、悪いなんて言ってないだろ、とまた笑う。
「じゃあ俺も」
「あ?」
はい、と差し出されるそれに首を傾げると「バレンタイン」と言った。
そーいやぁ昼間ルカ姉ぇとなんかやってたな…。
「これで俺からのチョコが一番最初だ」
上機嫌な兄さんにそういうトコ、と思いながら俺は渡すチョコ事その手を引いた。
「レ、レン?」
「おれ、風呂行くんだけど」
「…。俺はお風呂入ったんだけどな?」
とたんに兄さんが逃げ腰になる。
流石に同じ手には引っかからないか。
「レン…ッ?!ちょっと、待って…!バレンタインチョコあげただろ!」
「待たないしそれはそれー」
あっさり捕まえた兄さんを抱きかかえておれはにっこりと笑った。
「誕生日な兄さんにおれをプレゼント☆」
「何それおっさんくさい!!っていうかレンそれ前もやった…っ!!!」
往生際の悪い兄さんを黙らせるようにキスをする。 
そういうメタいこと言うのは嫌われるんだぜ、なんて!
(たまの記念日くらいいちゃいちゃしたいんですー!)

小さな嫉妬をする君が可愛いお年頃!(ザクカイ)

「お待ちください皆様!何故私が一人廊下で就寝せねばならないのでしょうか!」
わざとらしい、芝居がかった口調で言うのはパカである。
「「変態だからに決まってる」」
それに、嫌な表情、言い方、どれを取っても全て完全に一致した返事をしたのはカリンとアンヤだ。
仲良しさんですね、と無邪気にアカツキが言った。
今回の発端は、エンジントラブルでゲノムタワーに帰れなくなり、この建物に泊まることになった、という、よくあるそれだ。
狭い部屋で全員寝る場所を決めた直後、パカが自分も一緒に寝たいと言い出したのである。
満場一致で却下が出るのも当然と言えた。
「まあ…君の普段の行い、というものを考慮するにこの決断は当然と言って然るべきだと思うぜ?」
「路々森様!」
「問答無用で締め出しても良かったんだが?きちんと話し合いをした結果だ、諦めろ」
「忍霧様まで!」
ユズとザクロのそれにパカがぶりっ子ポーズを取る。
そういうトコ、と全員が思った。
「俺は、パカさんが一人で寝るの寂しいだろうって言ったんですけどね?」
「…なんと、入出様…!」
「でもパカさんと一緒に寝たらパン太郎が泣くってアンヤくんが言うので」
「入出様?!」
にっこりと言うアカツキにパカが素っ頓狂な声を上げる。
アンヤがふい、とそっぽを向いた。
「わっ、私も、エンジン直すの頑張ってくれてましたし、良いかなって、思うんですけど!」
「…流石は伊奈葉様…!」
「でっ、でも逢河さんがソファを貸してあげたら良いんじゃないかって!」
「伊奈葉様…?!」
「ソファ…廊下出すの……がんばる…」
ヒミコのそれに大袈裟なリアクションをするパカ。
そんな彼にグッと指を立てるのはマキノだ。
「私だけ除け者なんて寂しいじゃありませんか!!」
「…。…なら、俺と忍霧の間に来るかい?」
不服を申し立てるパカに、にっこりと笑顔を見せたのはカイコクである。
「?!おい、鬼ヶ崎?!」
「意外と大胆だにゃあ、カイさん」
「正気か、鬼ヤロー!」
それぞれ違った反応を見せる中、パカが「嫌でございます」と言った。
「なんでぇ、俺じゃあ不満かい?」
くす、と笑い、両手を広げるカイコクにパカは「鬼ヶ崎様が可憐な女性であれば熟考の余地はありましたが」と答える。
そうして。
「…私の寝首でも掻くおつもりでしたか、鬼ヶ崎様」
静かな声でそう告げた。
「…。…なんでぇ、バレてやがったか」
「貴方様も懲りませんねぇ」
肩を竦め、腕を下ろすカイコクに飄々とパカが言う。
「私を籠絡したいなら伊奈葉様の様に可愛らしくなってから出直すべきかと。…まあ、頂かれたいならいつでもお待ちしておりますよ」
「アンタのそういうトコよ、この変態!革ジャンにされたいの?!」
カイコクの手を取るパカにカリンがはたき落とし、一喝した。
「カイさんも、あんまり煽らない方がいいぜぇ?いつか痛い目を見る」
「そいつァ勘弁願いてぇな」
ユズのそれにカイコクが可愛らしく笑う。 
…と。
「?!忍霧?!おい、なあ、待てって!」
パシっとカイコクの手を取り、歩き出したのはザクロだ。
カイコクの静止も聞かず部屋を出る。
廊下を進み、突き当りのトイレに引っ張りこんだザクロは壁にカイコクを押し付けギロリと睨んだ。
「…どういうつもりだ」
「…。…言ったはずだぜ?あいつの化けの皮が剥がせるんじゃないかって…」
「それだけじゃないだろう!」
嫌そうにするカイコクに声を荒げれば、彼は綺麗な目を丸くする。
「…。そんなに俺の隣は不満か?女子の隣にならなかったのはそんなに嫌だったのか」
「…そりゃあ、お前さんの方だろう……」
詰問すれば、追い詰められたカイコクが小さな声で告白するから、今度はザクロが目を丸くする番だった。
「いや、俺は女性は苦手だと…。…あ」
そこまで言ってザクロは思い出す。
先程ユズによって無理矢理カリンやヒミコの間にされた事を。
その時のカイコクは心底不服そうだった事を。
羨ましいという感情からかと思えばどうやらそれは違ったらしい。
「まさか、貴様…嫉妬、か…?」
「ちがっ!そうじゃねぇ!」
恐る恐る聞けばカイコクはぶんぶんと首を振った。
こんなに顔を真っ赤にさせて、何を根拠に違うというのだろう。
「あれは不可抗力だ。…すまない、鬼ヶ崎」
「…満更でもねぇくせに」
「そんなわけあるか。…俺はお前の隣が良い」
「…。…寝言が五月蝿えんじゃなかったかい?」
「言葉の綾だ。…そう拗ねるな」
小さく頬を膨らせる年上の恋人にくすくすと笑って軽く口づけをした。
本当に可愛らしいと思う。
思う、が、嫉妬でパカに擦り寄るなんて危険な真似はしないでほしいと嘆息した。
ぎゅっとパカに取られた方の手を握る。
「?忍霧?」
「…消毒。次はないからな」
首を傾げるカイコクに言えば、黒曜石が落ちそうなほど見開いたそれがふにゃりと嬉しそうに崩れた。
「お前は、俺の隣だ。背後も寝顔も俺が護る。わかったな、鬼ヶ崎」
「…そりゃあ…頼もしいねぇ?」
くすくすと可愛らしく笑ってカイコクを引き寄せる。
マスクを外し…この可愛らしい恋人にそっと口づけを、した。

「だーから心配しなくていいっつったろ?大体、バレバレなんだよアイツら」
「…ザクロくんと…カイコッくん……仲良し…みんな知ってる…」
「言っちゃ駄目ですよ、アンヤくん、マキノさん。あれでもお二人ともバレてないつもりなんですから」
(仲良いのは素晴らしいけど巻き込まれた方は溜まったもんじゃないから、仕返しに恋バナアゲインのネタにするくらいは許されますよね、なんて!)