好きなところ(へし燭SSS・ワンドロお題)

「はぁ?燭台切の好きなところだぁ?」
非番のある日、長谷部は唐突の質問に眉を潜めた。
表情を輝かせるのは大和守安定、そしてそれに巻き込まれたのだろう加州清光である。
「長谷部さんは光忠さんのどんなところが好きになったのかなって!」
「俺は興味ないけど!…でも、へし切が燭台切さんを好き、って思ったのは何処なのかは、まあ、聞いてみたいし?」
「…なんだ、それは」
二人のそれに呆れたようなため息を吐き、上を向いた。
好きなところ、急に言われても困る。
無いわけではない。
寧ろ有りすぎるほどなのだ。
あの全てが好ましいと言っても良い。
最初に好きだと思ったのはさて何処だったろう。
「…。…目だ」
「目?」
きょとんとする安定と清光に長谷部は、ああ、と頷いた。



微笑む度に蕩ける蜂蜜色の瞳。
眼帯の下に隠れる自分と同じ色の、藤色の瞳。

どちらも美しいと思い…好きだと、思った。

花丸(へし燭SSS・ワンドロお題)

気づけば彼は本丸のことを全て引き受けてくれていた。
炊事、洗濯、畑仕事。
服はいつの間にか綺麗に畳まれて箪笥に入っているし、風呂は何時だって沸いている。
戦闘帰りに夜食を作って待っていてくれるのも、三時のおやつも、早朝出陣時の弁当から朝食まで引き受けてくれているのは彼、燭台切光忠だ。
大変だろうから代わって貰えと言えば、「お手伝いはしてもらってるし、存外僕はこの仕事気に入ってるんだよ」と笑顔で返してきて、長谷部は何も言えなくなった。
あまり無理をして欲しくはないのだけれど。
その日も夜遅くに夜食を作って持ってきた光忠を、長谷部はつい呼び寄せた。
「何だい?長谷部くん。呼び止めるなんて珍しいじゃないか」
くすくすと笑う光忠を長谷部は…ぐいと抱き寄せる。
「…わっ?!」
「…良い子だな、光忠」
「…?!」
胸に飛び込んできた光忠の髪をくしゃりと撫でた。
「ちょ、やめてよ、短刀じゃあるまいし…!」
「頑張っているやつを誉めて何が悪いんだ?」
「…もう!君ってほんと悪趣味…!」
顔を赤らめる光忠に笑いながら一層ぐしゃぐしゃと撫で回す。

いつも頑張っているからこそ。



ただの丸ではない、大きな大きな花丸を、彼に。

赤い糸(ねんへし燭ワンドロSSS

久しぶりにねんどろいどのへし切長谷部が本丸へと戻ってきた。
何が変わったのかといえば、霊力の支給方法が変わったのだとか。
まあ大した差ではない。
「…みつはげんきだろうか」
「どうだろうな?」
俯くねんどろいどのへし切長谷部に、長谷部が笑いながら答えてやった。
そんなに離れていなかっただろうに。
むっとするねんどろいどのへし切長谷部が長谷部を見上げようとしてつんのめった。
「うわっ?!…なんだ?」
「何をしている?」
問いかける長谷部に、これだ、と、ねんどろいどのへし切長谷部が見せたのは赤い糸である。
どうやらこれに引っ掛かったらしい。
見れば廊下の端の方に続いていた。
つまづいたのが余程腹が立ったのか、ぐいっと勢い良く引っ張る。
わりと長いそれは、多少引っ張っただけでは動かなかった。
む、と眉を寄せてはぐいぐいと引っ張る。
「…あ」
「…?!みつ?!」
廊下の先の部屋からころん、と転がったのはねんどろいどの燭台切光忠だった。
「…!!?」
「みつ!」
ねんどろいどのへし切長谷部は駆け寄って助け起こし驚いた表情のねんどろいどの燭台切光忠に向かって笑いかける。
…ああ、仲の宜しいことで。

「…ただいま、みつ」
「!♡」

運命の赤い糸の先にはいつだってあなたが!

喧嘩(へし燭ワンドロSSS

「この馬鹿!金輪際俺に近付かないでくれるかな、偽物くん!」
「写しは偽物ではないと!!言っているだろう!・・・まて、本歌!」
ぎゃんぎゃん言う声が響く。
半ば恒例となった国広と長義の痴話喧嘩に周りは「またか」と苦笑気味だ。
それを見つめ、はあと溜息を吐き出したのは・・・長谷部だった。
空を見上げ声を溢す。
「あれくらいなら・・・可愛かったんだがな」



それが起こったのは確か数日前だった。
「ねえ長谷部くん」
「あ?」
珍しく酒を呑んでいた長谷部にひょこりと光忠が顔を出し、声をかけてくる。
少し眉を顰め、光忠は「薬は?」と言った。
そういえば風邪気味だったので薬を処方してもらっていたが、果たして飲んだだろうか。
あまり覚えていないので適当に答える。
「ん?ああ、飲んだ」
「薬飲んだのにお酒呑んでるのかい?」
「・・・飲んでない」
「どっちなの」
もう!と光忠が呆れた声を出した。
酒と抗生物質は良くないというのは微かに聞いた覚えはあるが・・・そんなにいけないことだろうか。
「あのねえ、長谷部くんはもう少し自分の身体を大切にした方が・・・」
「五月蠅い、燭台切。お前にとやかく言われる筋合いはないぞ。大体お前は俺の事に対して色々言い過ぎなんだ。世話係でもあるまいし・・・」
「・・・は?」
つらつらと文句を言っていた長谷部を遮ったのは光忠の低い声で。
それにやばいと思ったのも後の祭りだった。
「お、おい、燭台・・・光忠?」
「・・・。・・・もう、いい」
「おい!」
冷たい声に声を荒げて彼の肩を掴む。
途端、ぱしんっと言う音が響いた。
「触るな」
冷ややかな声は光忠の様ではないようで。
じんと熱を帯びる無意識に掌を握りしめる。
「・・・ははっ」
思わず笑いが出た。
ここまでのは久しぶりだ。
長谷部を見る柔らかな金の瞳は恐ろしいほどに冷め切っていた。
それはまるで織田時代の・・・感情の無い彼を見ているかの如く。
(美しい、とぼんやり思った)
「っ、光忠!」
思考を引き戻し慌てて声をかける。
「もう君に関わらない。だから君も僕に関わらないで」
固い声で光忠が言い、ふわりと燕尾の裾を舞わせた。
遠くなる彼の姿を見つめ、はじめて喧嘩した時もこうだったな、と頭の片隅で思う。
感情の一切なくなった、金色の瞳を見る度ぞくぞくと背を何かが駆け抜けた。
悪趣味だなと自分でも思う。
それでも。

その瞳が見たくて長谷部は彼を怒らせる言葉を吐く。




・・・光忠の怒りがなかなか溶けないのも忘れて

彼岸花/桔梗(ねんへし燭ワンドロSSS

ねんどろいどへし切長谷部がいなくなって早一ヶ月。
ねんどろいどの燭台切光忠はずっと待ち続けていた。
彼が見る部屋の窓からは桔梗と彼岸花が咲いている。
それを見つめる彼は何処か寂しそうで。
ふらりとねんどろいど光忠が赤い華に手を伸ばした…その時。
「…みつ!」
声が響く。
驚いたようにねんどろいど光忠が振り向いた。
ふわりと舞い降りたねんどろいど長谷部が彼を抱き締める。
「…おれはかえってきたんだ。どこにもいくな」
ねんどろいど長谷部の言葉にとろりと表情を崩れさせてねんどろいど光忠が頷いた。

長く待ったんだ。
彼が戻ってくるその日を。

赤い彼岸花の花言葉は、思うのはあなた一人
桔梗の花言葉は、友の帰りを願う

いつだってあなたを思い、帰りを待とう。


「…あいつらは何をしとるんだ?」
「愛の会瀬ごっこだって」

(おかえりなさい、そしていらっしゃい!)

デート(ねんへし燭ワンドロSSS

「みつ!でーとしないか!!」
唐突なねんどろいど長谷部のそれに、言われたねんどろいど光忠はぽかんと彼を見上げ、書類仕事も一段落し、お茶休憩に入っていたへし切長谷部が含んだそれを噴出した。
「…きたないぞ、でかいの」
「なっ、おま…!」
途端に嫌そうな顔を作るねんどろいど長谷部に長谷部が食って掛かろうとする。
それを無視し、ねんどろいど長谷部は小さな手をねんどろいど光忠に向かって差し出した。
「いくぞ、みつ!」
「…!」
ぱあっと表情を輝かせ、ねんどろいど光忠はその手を掴む。
頷き、ぐいと引っ張って走り出した。
「…。…どっちかと言えば逃避行なんじゃないか?」
呆れたような長谷部の声を背後に聞きながら部屋を出、廊下を走る。
程なくして速さを緩め、一つの部屋の前で崩れ落ちた。
二人とも荒い息で…特にねんどろいど光忠はねんどろいど長谷部の機動についていくのがやっとのようで…それでも顔を見合わせ笑う。
「だいじょうぶか?」
その言葉にねんどろいど光忠はにっこりと笑って見せた。
息を整え、襖をそっと叩く。
はぁい、という返事のあと、それはからりと開いた。
「いらっしゃい」
そう笑うのはこの部屋の主、大和守安定である。
「今昼寝中だから、しぃ、ね」
口の前に指を一本立てて笑う彼を真似、二人もしぃ、と指を立てた。
部屋には入れば、なるほど、加州清光とねんどろいど清光、そしてねんどろいど安定が寝息を立てている。
それを起こさぬよう進み、窓を開けてもらった。
「…!」
ねんどろいど光忠が嬉しそうに笑む。
窓から見える、秋桜は二人が大好きな風景だ。
暫く堪能した後、礼を言って部屋を出て次の部屋に向かう。
「待ってたよ」
にっこり笑うのは燭台切光忠だ。
黒い前掛けをした彼がいるのは所謂台所で。
「できているか」
「勿論。光忠特性餡蜜だよ」
聞けば、すっと二人ぶんの餡蜜を出してくれた。
それを持って縁側に向かう。
「みつ!」
「…?」
「たのしいか?」
「…!♡」



大好きな風景を見て大好きな甘味を大好きな人と共に食べる。

それって素敵なことじゃないか!


(二人一緒ならいつだってどこだって!!)

つめたいもの(ねんへし燭ワンドロSSS

つめたいもの

つめたいものってなんだろう?
氷、大理石、刀の刃先。
それからそれから?

それからね…。


残暑厳しい夏だった。
と、いうか現在進行形で残暑厳しい夏である。
9月など、暦の上ではとうに『秋』であるのに。
「…暑い」
「今年は残暑厳しいよねぇ」
思わず呟けばそれを聞いた彼、光忠がくすくす笑いながら麦茶を差し出してくる。
それを受け取り、一気に飲み干した。
そのまま、はあ、とため息を吐く。
「昨年はもう少しましだったんだがなぁ」
「そうだね。…ねんくんたち、だれてない?」
可愛らしく笑う光忠に顎で指し示した。
「?…うわっ」
驚いた声に俺は笑う。
それはそうだろう。
ねんもねん光も薄着で、冷を取り入れようとしているのか俺の机にへとりと俯せているのだから。
「もー、二人とも、格好悪いよ?」
「…あつい」
ねんの言葉にねん光も頷く。
この二人は【夏】が初めてなのだから仕方ないが。
「じゃあかき氷用意してあげる。おいで」
「…かき、ごおり?」
「…??」
きょとんとした表情をする二人に光忠は呼び寄せ、二人を連れていく。
さて、どこに連れて行く気か…おおよそ、目星は着いてはいるけれど。
少し遅れて立ち上がり、そこに足を運ぶ。
「…!すごい、ゆきだ!ゆきだぞ、みつ!!」
「〜!!?!!!」
「ふふ。これは雪じゃなくて氷なんだよ」
はしゃぐ二人に光忠は笑って氷を削っていた。
「はい、どうぞ」
差し出したそれには硝子の器に氷が高く盛られている。
上から透明の蜜をかけ、光忠は笑って見せた。
「たべれるのか?!」
「もちろん。冷たくて美味しいよ」
匙を渡された二人は顔を見合わせまるで穴を掘るようにかき氷を掬い、口に含む。
「?!!」
「つめたい!あまい!!」
嬉しそうに表情を綻ばせる二人。
よほど美味しいのかもう夢中だ。
「光忠、俺のは?」
「ないよ?」
ふわりと笑い、欲しかったら自分で削って、と光忠は言う。
「冷たいな、お前は」
「何とでも」
「…みつただは、つめたいのか?」
氷を貪っていたねんが首を傾げた。
答えを聞く前に光忠の手に触れる。
「あついではないか」
「え?…う〜ん、まあ、人の体だしねえ…?」
「ねん。冷たいのは光忠の態度だ」
「ちょっと、長谷部くん?!」
俺の言葉に光忠が声を荒げた。
まったく、うるさいやつ。
「みつのほおはつめたいな」
「??」
ぺと、とねんがねんみつの頬を触る。
…さっき、暑いと言ってなかったか?こいつら。
「きもちいい」
「!」
ねんのそれにねん光がにこりと笑う。

冷たいものってなあに?

氷、君の態度、貴方の体温。


(貴方と一緒ならいつだってあたたかいの!)

夏の終わり(へし燭SSS・ワンドロお題)

蝉の声がする。
鳴き声が夏の始めの頃と違うから、月日が流れるのは本当に早い。
「光忠」
「?何ー?」
襖の奥に声をかければ光忠がひょこりと顔を覗かせ俺を見る。
黒く長い着流しを着込み、黒い手拭いで髪を纏めているところからして…掃除でもやっていたんだろうか。
「またこんな暑いときに掃除か?精が出るな」
「暑いっていったって僕掃除くらいしかすることないんだもん。それにもう夏も終わりだし、大分涼しくなってきたよ?」
「そうか?今日は昨日より暑かったぞ」
くすくすと笑いながら光忠がこちらにくる。
ぽすんと俺の膝の間に収まった。
…だから暑いと言っているのに。
「…お前、俺よりでかいくせにやめろ、重い」
「いいじゃないか。ね、そこ開けてくれないか」
「ここか?」
引き出しを開けると小さなお猪口が二つ入っていた。
…なるほど、ばれていたか。
「良く今日の土産が酒だと分かったな?」
「ふふ。君が僕を呼ぶときは大体そうだろう?」
可愛らしく光忠が笑う。
どうやら全てお見通しらしい。
「…夏もさ、終わりなんだね」
「…そうだな」
燃えるような夕陽に光忠の手が小さく震えていた。
俺はそっとその上から握り込み…大丈夫と囁く。
小さく頷く光忠にお猪口を渡した。
「夏終わりの夕涼みに一杯」
「暑いんじゃなかったのかい?」
くすくす笑ってそれを受けとる彼のそれに、拝借してきた徳利を傾ける。



赤は黒にとけ、やがて色を失った。
まるで彼のように。




夏の終わり、長い夕暮れ黒い影。

囚われたのは俺かそれとも光忠か。

へし燭&安清前提安燭