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姫始めザクカイ
「…鬼ヶ崎」 「…しつこい」 カイコクを押し倒し、はて何分経ったろうか。 彼は先程からブスくれた表情でザクロを見上げていて。 「…そんなに嫌か?」 「今日は気分じゃねぇ」 きっぱり言われるそれに、ザクロはムッとする。 「いつもは言わないだろう、そんな事」 「言っても聞かねぇだろう?」 ツン、とそっぽを向くカイコクに、ザクロは静かに彼の名を呼んだ。 「…鬼ヶ崎」 「…。…去年やったろう?」 「いや、去年は去年。今年は今年だろう。貴様、節分は毎年行わないつもりか?」 僅かに逸らされた目をこちらに戻して言う彼にザクロは思わず呆れる。 違うけどよ、となかなかに歯切れが悪い彼をじぃっと見つめた。 それでもカイコクは折れてはくれないようで。 「なぁ、俺が嫌いなのか?」 「嫌いじゃない。する気分じゃねぇってだけだ」 「…俺は、鬼ヶ崎を抱きたいんだが」 少し顔を赤らめながらもしっかり伝えれば彼は呆れたようにこちらを見た。 「…。…お前さんも強情だねェ」 「貴様が言うのか、それを」 こんなに拒んでおきながら何を、と言えばカイコクは小さく言葉を吐く。 …そうして。 「…。…去年の姫始めは媚薬まで使ったくせに」 ぼそりと本当に小さく告げられたそれにザクロはぽかんとした。 何を言っているのだろう、この男は。 「…は…。…あれは鬼ヶ崎が煽るからだろう?!」 思わず声を荒げてしまった。 丁度一年前、ユズが「作った」という媚薬を(それもどうかと思うが)煽ってザクロに飲ませたのはカイコクの方なのだ。 ユズが作ったそれは確かに本物で、躰が熱くなったザクロを、縛って翻弄したのもカイコクだった。 …まあ、その後拘束を取り、彼の躰を散々貪り好き勝手したのはザクロの方なのだけれど。 「…っ、あんなにするこたぁねぇだろう!あの後暫く躰辛かったし!」 「…いや、それは自業自得…。…悪かった」 それをまだ根に持っているというカイコクが怒鳴るから、呆れながらも確かに酷くした自覚もあるので素直に謝る。 「…忍霧じゃねぇみたいだったし」 小さく紡がれる言葉に少し嬉しくなった。 だって、それは。 「なら、今年は『俺が』溺れさせてやるから」 ぎゅ、と彼の手を握る。 駄目だろうか、と縋って見せれば彼は悔しそうに言葉を無くし、ああくそっ!と吐き捨てた。 「一回だけ、な!」 「ああ」 頷いて口付ける。 可愛らしい彼に一回だけ、なんて健全たる男子高校生が護ることが出来ようもなく。 カイコクの甘ったるい声は一晩中響き、次の日起きた不機嫌な彼の為に翻弄する羽目になったのであった。
(これもまた姫始めの一連の流れ、だったりするけれど、ね!)
初詣彰冬
少し早く着き過ぎたか、と彰人は空を見上げる。 東雲色のそれは新しい年を輝かせていて、思わずグッと背伸びをした。 「…彰人」 「…おぅ、来たか」 駆けてきた冬弥に手を挙げる。 「すまない、遅れてしまって」 「オレも、こんな早朝に呼び出して悪かったな。…つーか、それより言う事、あんだろ」 マフラーを巻いていても寒そうな彼に笑いかけた。 きょとりとした冬弥は暫く考え、ああ、と笑みを浮かべる。 「…明けましておめでとう…彰人」 綺麗なそれは昇ってきた朝日よりも眩しく、彰人は、おぅ、と満足そうに頷いたのだった。
それより少し前。 すっかり年が明け、テレビも一旦落ち着いた時間帯。 何故だが早くに目が覚めた彰人はスマホをぼんやりと見つめていた。 二度寝をしても良いのだが…目が覚めた後、姉である絵名が正月早々不機嫌であることは長年の経験からわかりきっている。 そもそも、家族と正月を過ごす、という歳でもないし、何より完全に眠気はとんでしまっていた。 ヒヤリとした、冬特有の冷気が漂う部屋で身を起こす。 スマホをタップし、短い文章を作った。 「…ガラじゃねぇなぁ…」 独りごちてスマホを置く。 着替えるか、とそっと音を立てないようにベッドから抜け出したのだった。
「…珍しいな、彰人が誘ってくるのは」 「…オレが一番思ってる」 小さく笑みを浮かべる冬弥から、メッセージの返信があったのは着替えている最中で。 起きたのか起こしたのか、と心配していれば『起きていた』と短い返信が来た。 どうやら眠れなかったらしい冬弥は彰人の誘いに二つ返事で乗ってくれたのである。 「…お前ん家、厳しいだろ。良くこんな朝早くに出られたな?」 「…。…朝早くだから出られたんだ」 彰人のそれに短く答える冬弥に、へぇ、と返した。 あまり触れてほしくはないのだろう、彰人もそれきりで話題を終える。 「そういや、屋台出てるらしいぜ。金とか持ってきたか?」 「…。…一応は」 「っし。んじゃあ参拝終わったら朝飯代わりになんか食おうぜ」 「…あぁ」 笑いかけると冬弥も笑みを見せた。 最初の頃に比べれば彼は柔らかいそれを浮かべるようになっていて。 これからも、冬弥の色んな表情を隣で見ていたいと彰人は思う。 神はあまり信じないタイプなのだけれど。 「…。…なぁ、彰人」 「あ?」 「…俺はまだ彰人に挨拶をされていないのだが」 ちょい、と服を引っ張る冬弥に彰人は笑った。 意外とそういう所は気にするタイプなのだ…彼は。 「…明けましておめでとう、冬弥」 囁いてやれば優しく微笑む。 少し遠くで鈴緒が揺れていた。
初詣なんかはガラではないけれど、たまにはこういうのも悪くない。 (だって、カミサマに願わなくたって自力で掴みとれるのだから!!)
年越し司冬
セカイで年越しをしよう!と司たちは集まっていた。 お菓子やジュースを持ち寄っていつもより賑やかしく過ごしていたのだが、途中でジュースが無くなったことに気付き、「ちょっと買ってくる」と司はセカイから抜け出したのである。 僕も行こうか?と問う類を断ったのは、あのメンバーをKAITO一人に任せるのはあまりに可哀想に思ったからだ。 寧々もミクやえむにかかれば引っ張り込まれてしまうタイプだし、レンやMEIKOは当てにならない。 その点類は悪ノリはするが引き際が分かっているので任せるには適任だったのだ。 司がツッコミ疲れたのもある。 「…ふう」 コンビニから出て司は小さく息を吐いた。 目まぐるしい年だった、と司は笑みを浮かべた。 それだけに充実していた、と思う。 …と。 「…司先輩?」 小さな声が聞こえ、司は振り返った。 「おお、冬弥!」 首を傾げていたのは青柳冬弥、司とは幼馴染でもあり可愛い後輩でもあり…愛しい恋人、でもある。 「…どうした?仲間たちとカウントダウンパーティーでは?」 「…飲み物が無くなったので、買いに来たんです」 「ふむ、オレと同じか」 カサ、と袋を掲げる冬弥に司は笑みを浮かべた。 「…先輩も?」 「ああ。類が着いてこようとしたんだが、現場の収拾が付かなくなりそうなのでな」 「…俺と同じですね」 「む?」 小さく微笑む冬弥に首を傾げると、彼は「彰人が一緒に行こうかと言ってくれたんですが、買い物よりもそっちが大変そうだったので任せてきました」と笑む。 「なるほどな」 肩を揺らし、ちょいちょいと冬弥を呼び寄せた。 「?先輩?…っ!」 「せっかく二人っきりになったんだ。少しゆっくりしないか?」 近寄ってきた冬弥の手を引きニッと笑う。 綺麗な瞳を見開いた彼は、わずかに微笑み、はい、と頷いた。
「しかし、1年というのは早いな」 「…そうですね」 隣に座り、缶コーヒーに口をつける冬弥が同意する。 冬弥はよく笑みを見せるようになった。 良い事だと思う。 「…なぁ、冬弥」 「…はい」 改めて名を呼び、向き直った。 「好きだ」 「?!」 きっぱり、そう言えば冬弥は驚いた表情をする。 そう言えばあまり口には出してこなかったかと冷たくなった彼の手を取った。 「オレはお前が好きだぞ、冬弥。…これまでも、これからも」 「…。…俺も、です」 真摯に気持ちを伝える司に冬弥が微笑む。 愛しさが溢れ、気づいたら彼に口付けていた。 「…っふ」 口を離し、とろん、とする冬弥が可愛いな、と思う。 「可愛いな」 頭を撫でると冬弥は頬を染めた。 ずっとこのまま一緒にいたいが…仲間たちが心配するだろう。 そろそろ帰ろうと立ち上がった。 「…司先輩」 「?冬弥?」 きゅ、と服を掴む彼に司は首を傾げる。 「…あの、年を一緒に越してくださいませんか?」 「オレで良いのか?」 思いもかけないお願いに嬉しくなりながらも聞いてみれば冬弥が「先輩が良いです」と笑んだ。 「ならば、共に新しい年を迎えようではないか!」 「…はい」 微笑む、可愛い恋人を抱きしめる。 冷たい風が吹くが、司は幸せだな、と笑った。
もうすぐ、年が明ける。
年越しザクカイ
もう少しだな、とザクロは時計を見る。 いつの間にかこたつがセッティングされていたカイコクの部屋で…本当にいつ運び込まれたのだろうか…ザクロは立ち上がりマスクを外した。 「?忍霧?」 首を傾げるカイコクの顎を掬い上げ…キスをする。 「?!ん、は…ぅ…んんぅ…!」 驚きに目を見開いていたカイコクの瞳がとろりと溶けた。 時計に目をやれば後3秒といったところで。 3,2,1とカウントダウンし、口を離す。 「…は…。…忍霧!お前さんいきなりっ、なん…!」 「明けましておめでとう、鬼ヶ崎」 「…は、ぇ?」 怒れる彼にさらりといえば、年相応な顔をしてみせた。 充分に時間を費やしたあと、カイコクは、あ、と声を出す。 「…もうそんな時間かい」 くす、と笑いカイコクも「明けましておめでとう、忍霧」と言ってくれた。 「しかしなぁ、いきなりあんな…」 「いけなかったか?」 外したそれをつけ直しながらザクロは呆れたように言うカイコクに聞く。 ぽかんとした彼が小さく息を吐いた。 「…俺が会ったばっかの時はもうちょい可愛げがあったと思ったんだがねぇ…」 「なら、こうなったのは貴様のせいだな」 「…あ?」 愚痴るカイコクにあっさりと言えば彼は眉を吊り上げさせた。 まるで文句でも言いたげである。 「何でェ。俺が何したって?」 「貴様と恋人関係になってから振り回される事が多くなった。…俺としても貴様に振り回されるのは本意ではないからな」 「…言ってくれるじゃねぇか」 カイコクが小さく笑んだ。 …この笑顔を見せる時は良い事がないとザクロは知っている。 後退るザクロに彼は可愛らしい笑みを浮かべた。 「俺だって忍霧に振り回されるのは本意じゃあねぇんだぜ?」 「…は?」 「大体なぁ、お前さんはいっつも唐突な行動ばっかしやがって。俺の心臓が保たな…」 「…いや、それを貴様が言うのか?」 むぅ、と愚痴るカイコクに思わず言ってしまう。 「はぁ?!何言ってやがる!俺を翻弄しておいて!」 「待て待て!それは俺の方だ!」 怒鳴るカイコクを静止した。 目を合わせ、ひと呼吸置き…二人して吹き出す。 「…二人とも同じことを思っていたのか」 「…らしいねェ」 可愛らしく笑うカイコクをザクロは引き寄せた。 マスク越しに触れるだけのキスをする。 「…そういうとこだぜ?忍霧」 「そうか」 ふふ、と笑むカイコクにふいと目を逸らした。 「…。…今年もよろしくな」 「…ああ、よろし…」 く、と言う前にマスクがずり下げられる。 触れるだけのそれに、そういうところだが、と言いかけ、止めた。 代わりに離れようとするカイコクを引き寄せ深いキスをする。
振り回して振り回されて。 きっと今年も変わらず、日々が過ぎていくのだろう。 変わらないやり取りは…非日常を日常足らしめる要素なのだな、と思った。
新しい年を、共に過ごせる。 それが幸せだと言うことに。
今はまだこのままを、ザクロは願った。
(日々を重ねられる幸せを、彼と共に)
モブに襲われた冬弥♀を助ける攻め男子
暗い音楽準備室。 ピアノカバーの上に寝かされている、図書室のお人形さん…こと、青柳冬弥。 端的に言おう。 彼女は、拉致された、のであった。 誰に? …冬弥を見下ろして笑むこの男に。 ずっと前から好きだった。 初めて見たのはピアノのコンクールでのこと。 綺麗な表情で、美しい指を滑らせる彼女を…欲しい、と思った。 いわゆる初恋、というやつで。 それから随分と経ってしまった。 いつの間にかクラシック界からは彼女の姿は消えていて、実しやかに、青柳冬弥はストリートミュージックをやっている、と囁かれている程の時間が。 だから、用務員として雇われたこの高校で青柳冬弥に出会ったのはまさに運命だったのである。 声をかけ、不思議そうに振り向いた彼女を薬で眠らせ、拉致した。 無抵抗の冬弥を連れ込むなんて簡単で、眠っている間に彼女のネクタイで手首を縛る。 「…ぅ……」 「…やぁ、おはよう。…青柳冬弥さん」 小さく声を上げ、目を開いた彼女ににこりと笑みを浮かべた。 「…。…誰、ですか…?」 「君のファンだと言っておくよ。クラシックをやっていた、君のね」 そう告げると冬弥は嫌そうな顔をする。 「…父さんから何かを言われてこんな事をしたのなら、無駄だ。私は、彰人たちとの夢を諦めない」 少し睨む彼女にくすくすと笑ってみせた。 何を勘違いしているんだろう! 「ボクは君のファンだと言ったろう?お父さんなんて知らないよ」 「…え?」 「…可愛いねぇ、冬弥さん」 ぽかんとする彼女の頬にするりと手を寄せた。 「…っ!ゃっ、さわ…っ!」 「ボクはねぇ、綺麗なものをめちゃくちゃにするのが大好きなんだ。…そう、君のようにさぁ…!」 「…ひっ、や、だ…っ!…た、すけ…!!」 寄せた手をシャツにかけ、引き裂く。 見える彼女の肌と、着痩せするタイプなのだろう、表れた豊満な胸に口角を上げた。
…その直後。
「…いー加減にしろよ、てめぇえ!!!」 聞こえてきたのは怒りの声だった。 鍵をかけておいたはずのそれが無理やり抉じ開けられ、怒りに身を震わせたオレンジ髪の男がこちらを睨みつけている。 「…あき、と」 震える彼女が名を呼ぶ。 確か彼は今の音楽に引きずり込んだ張本人。 そう思ったのもつかの間だった。 痛みより先に衝撃が襲う。 思い切り頬を殴られたのだと気づいたのは数秒経ってからで。 「冬弥くん!大丈夫かい?」 「…神代、先輩」 「うんうん。よく頑張ったね」 視界の端では紫髪の男が冬弥を縛っていたネクタイを外し、髪を撫でている。 神高の変人ツートップの片割れだったか。 そうしてもう片方はといえば。 「…オレの冬弥に何をした?何を言った?答えろ。さぁ、答えてみろ」 綺麗な金髪を揺らし、無表情で殴りかかってくる。 「…おい!」 「…司くん。その辺にしておいたほうが良い。…冬弥くんが怯えているよ?」 彰人、と呼ばれた男に声をかけられても止めなかった彼が紫髪の声を聞き、ぴたりと止まった。 「ふふ、後は僕らに任せて」 「…類」 「司センパイはオレが行くまで冬弥を頼みます。…んなトコ、見せたくねーし」 「…。すまん、らしくなかったな」 はぁ、と息を吐いて司と呼ばれた金髪の男は紫髪の男…類、といったか…と交代する。 「遅くなってすまない。オレが来たからにはもう大丈夫だ」 「…司、先輩」 安堵からか涙を零す彼女に、上着をかけ抱きしめた。 それを合図にしたかのように彰人と類がこちらに向く。 感情剥き出しで睨む彰人も恐ろしいがこの状況で笑みを浮かべる類も恐ろしかった。 「冬弥拉致っといて最初の一発で我慢できると…?…ざっけんな」 「制裁はきっちりと受けてもらうよ?…僕は華を傷付ける奴は許せないんだ」 彰人と類が言う。 こうして男の計画は終わりを告げた。
「…わり、遅くなった」 「…彰人…」 すっかり衣服の乱れを直された彼女を、彰人は抱きしめる。 「…すまない。私が…」 「冬弥のせいじゃないだろ」 「そうだぞ?こんな不審者をのさばらせていた教師たちに問題があるのだからな!」 「何かあったらすぐに駆けつけるから安心してくれ、冬弥くん」 「…はい」 司と類も冬弥の頭を撫で、ようやっと小さく微笑んだ。 「…しかし、まさか昔の音楽関係者が用務員とはね。調査不足じゃないかい?」 「まったくだ。…全部始末したと思っていたんだがなぁ…」 「だぁから司センパイは爪が甘いんスよ。オレみたいに片っ端から潰しときゃこんなことには」 可憐な彼女を囲んで繰り広げられる物騒な会話に、男は警察を待ちながら思い知る。 冬弥に付け入る隙など…僅か程もなかったのだと。
(ねぇ、知ってる?
図書室のお人形さんには王子、騎士、錬金術師っていうボディーガードがいるんだって!)
にょた冬弥で彰冬
にょた冬弥で司冬
にょた冬弥で類冬
鏡音誕生日
「…レンばっかズルい」 おれに向かって唐突にブスくれるのはリンだ。 さっきまでルカ姉ぇとかカイコさんとかにお祝いしてもらってにこにこしてたのに何言ってんだ…? 「…何が」 ちなみに聞かないのも、たいっへん面倒くさいことになるので一応聞いてみる。 と、ずいっと差し出されたのはスマホだった。 …ったく、ここに何があるって…? 「あ?ゲームのおれらじゃん」 見せられたのはプロセカ、と略されるリズムゲームのそれで。 画面の中では『おめでとー!』と同じ顔のおれ達が祝われている。 「…なっんでレンはリンの記念ライブでも歌ってるのに、リンは歌ってないの?!!」 「…知らねぇよ!!!」 リンの思いの丈に怒鳴り返した。 …ったく、何かと思ったら。 「っつうかさぁ、MVあるのがそんだけしかないからだろ」 「…ハッピーシンセサイザでも良いじゃんー!」 「あれ、メイ姉ぇの記念日でも歌ってなかったか?」 「メランコリックだって歌ったし!」 「おれに言われても知らんし」 きぃっ!と怒るリンにおれはあっさりと返した。 「いいじゃん、メランコリックはリンのメイン曲だろ」 「そんなこと言ったらレンと二人がメインの曲たくさんあるもん。劣等上等とか」 「あのMV誰だっけ、可愛い女の子がいたじゃんか」 「こはねちゃんと杏ちゃん?」 「そうそれ」 首を傾げてリボンを揺らすリンにビッと指をさす。 むくぅ、と頬を膨らせてその指を掴んできた。 「何よぅ!カイ兄ぃと歌ったからって随分余裕なんだから!」 「他所は他所、うちはうちですぅー」 「…なんかムカつく」 「痛い痛い痛いっつーの!やめろよ、指をあらん方向に曲げようとすんの!!」 声を上げると、ふいっとそっぽを向く。 ボーカロイドだって痛覚はあるんだからな?! 「あたしだってルカちゃんと歌いたかったぁ」 「だからさぁ、他所は他所、うちはうちって言ってんじゃんか」 「…はぁ?何言って…」 バタバタと足をばたつかせるリンに言ってやるとじっとりした目でおれを見た。 「…うちのルカ姉ぇならすっげぇエロい服で歌ってくれるかもしらん」 「…えっ、マジで?」 「マジで」 おれの言葉にリンがキラキラした目を向ける。 …世間の鏡音リン好きが見たら怒られそうだなーとか思ったり思わなんだり。 「リン、ちょっといってくるね!…ルカたぁあん!!」 パタパタと走っていくリンに手を振って見送る。 …ルカ姉ぇ、ごめん。 「…って」 「…こら。ルカに迷惑かけないの」 途端、手刀が振ってきておれは振り仰いだ。 そこには呆れた顔の兄さんがいて。 「…いや、走って行くリンが悪くね?」 「主犯はレンだろう?」 もー、なんて兄さんが小さく笑う。 相変わらず可愛く笑う人だなぁ、なんて思ったり。 「あ、なあなあ、プレゼントだけどさぁ、あのパジャマデカくねぇ?嬉しいけど、ボーカロイドだし成長期はないってか」 そういえば、ってさっき貰ったプレゼントについて聞いてみる。 今年はパジャマだったんだけど、明らかに成人用だったんだよなぁ。 本来の年齢はともかく、おれ、設定年齢は14歳だし。 「そう?…脱がしやすいのが良いってレンが言ったんじゃないか」 「いやまあそうだけ…ど?」 返ってきた言葉に返しながら、ん?と首を傾げる。 脱ぎやすい、じゃなくて脱がしやすい?? ハッとして兄さんの顔を見ると若干耳が赤く染まってて。 …もー、兄さんってばさぁあ!!! 思い起こされるのは数カ月前の会話。 「なあ、今年はルカ姉ぇと脱がせにくいパジャマとかあげ合いすんなよ。…ちょっと、きーてる?兄さん?!」 「えー?ふふ」 「ふふ、じゃなくて!」 返事もなく笑うばかりの兄さんが、まさかこんなプレゼント用意してるなんて、誰が思うんだよ…! 「…これ、着せるのも脱がすのもおれってことで良いの」 「さあ?どうだろうね」 クス、なんて笑う兄さんには今年も敵わない。 …多分、何度誕生日が来ても。
毎年毎年、おれは可愛くてちょっぴり小悪魔な兄さんに翻弄されるのです!!
「今ここで着てみてよ、兄さん!」 「…今は駄目」 「なんで?!おれ、誕生日なんだけど!なー、兄さぁあん!!!」
(泣き落として今度はおれが兄さんを翻弄するのは…ヒミツの話)
クリスマス類冬
クリスマスが過ぎてしまった。 賑わうのは当日までで、過ぎてしまえばさっさと片付けてしまうのは日本人の性なのだろうな、と類は小さく笑う。 もう世間は大晦日…ひいては新年に向けて動き出していた。 …と。 「…おや」 元ツリーを見上げる姿に見覚えがあって、類は足取り軽く近付く。 「やあ、冬弥くん。随分と名残惜しそうだね?」 「…!神代先輩」 にこ、と笑いかけると彼は驚いたようにこちらを見た。 もこもこのマフラーを首に巻いていて尚寒そうにしている。 それなのに、この寒空の下、ぼんやりと何もなくなったツリーを見上げるのには訳があるのだろうと類は笑みを浮かべた。 「どうしたんだい?こんなところで」 「…いえ。…少し寂しいな、と思いまして」 「…ふぅん?君の家にはサンタさんは来なかったのかな」 困ったようにこちらを見る冬弥にそう言った途端である。 「…けど、えーたん家にはサンタさん来たもん!」 「何を言ってるの。ブラックサンタはクリスマス過ぎた後も見てるんだから!」 聞こえてきたのは親子の声で、類はおや、と思った。 「悪い子だと連れて行かれちゃうんだから」 「…えー、山に?」 「そう、山に」 「じゃー良い子にするー!おそうじ手伝うー!…」 通り過ぎるその声は何の変哲もないが、微笑ましく、思わず肩を揺らす。 「…ブラックサンタ…」 「おや、知らないのかい?」 小さな冬弥の声に類は笑みを浮かべた。 ブラックサンタ。 どこから出てきた説かは知らないが、悪い子を袋に詰めて連れ去るのだという。 「まあ、サンタクロースは妖精だというのもあるからねぇ。悪い妖精か…はたまた悪魔か。…ねぇ、君はどちらが良いんだい?」 「…え?」 問いかけると、冬弥は寒空と同じ色の瞳を丸くした。 「良い子にプレゼントをくれるサンタクロースか。…悪い子を連れ去ってしまうブラックサンタか」 「…。…神代先輩は、どちらですか?」 問いかける類に、冬弥は質問で返してくる。 おや、と思わずクスクス笑い、そうだねぇと空を見上げた。 「僕はよく悪魔みたいだと言われるからブラックサンタかもしれないし、君になら素敵なプレゼントをあげるサンタになりうるかもしれないよ?」 「…。結局、俺次第…ですか」 ウインクする類に冬弥は小さく呟く。 真面目なのだろう、暫く熟考した後顔を上げた。 「…俺は、プレゼントを一方的に貰うより、先輩に連れ去られたいな、と…思います」 ふわ、と冬弥が笑む。 ほんの少しだけ、悪い顔で。 「先輩が思うよりも、俺は良い子ではないです、から」 「ふふ。なるほどね?」 予想以上の答えを返してきた冬弥に類はくすくすと肩を揺らして笑う。 そんなことも言うんだなぁと、思った。 「なら僕は君のブラックサンタになろうかな。…おいで?」 手を広げて類は冬弥を誘う。 おずおずと近づいてきた冬弥をコートの中に入れて抱きしめた。 そうして契約代わりにキスをする。 …触れるだけの、簡単な…キスを。
ブラックサンタに連れ去られ、少年はイルミネーションが消えた街に溶ける。 それは雪に色を与えた待雪草のようだと、誰かが言った。
鈴の音が聞こえる。 それは一体何の音だった?
(それは、そう。
確かに幸せな音だった。
それがどんな形であったとして、ね!)
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