鏡音誕生日

「…レンばっかズルい」
おれに向かって唐突にブスくれるのはリンだ。
さっきまでルカ姉ぇとかカイコさんとかにお祝いしてもらってにこにこしてたのに何言ってんだ…?
「…何が」
ちなみに聞かないのも、たいっへん面倒くさいことになるので一応聞いてみる。
と、ずいっと差し出されたのはスマホだった。
…ったく、ここに何があるって…?
「あ?ゲームのおれらじゃん」
見せられたのはプロセカ、と略されるリズムゲームのそれで。
画面の中では『おめでとー!』と同じ顔のおれ達が祝われている。
「…なっんでレンはリンの記念ライブでも歌ってるのに、リンは歌ってないの?!!」
「…知らねぇよ!!!」
リンの思いの丈に怒鳴り返した。
…ったく、何かと思ったら。
「っつうかさぁ、MVあるのがそんだけしかないからだろ」
「…ハッピーシンセサイザでも良いじゃんー!」
「あれ、メイ姉ぇの記念日でも歌ってなかったか?」
「メランコリックだって歌ったし!」
「おれに言われても知らんし」
きぃっ!と怒るリンにおれはあっさりと返した。
「いいじゃん、メランコリックはリンのメイン曲だろ」
「そんなこと言ったらレンと二人がメインの曲たくさんあるもん。劣等上等とか」 
「あのMV誰だっけ、可愛い女の子がいたじゃんか」
「こはねちゃんと杏ちゃん?」
「そうそれ」
首を傾げてリボンを揺らすリンにビッと指をさす。
むくぅ、と頬を膨らせてその指を掴んできた。
「何よぅ!カイ兄ぃと歌ったからって随分余裕なんだから!」
「他所は他所、うちはうちですぅー」
「…なんかムカつく」
「痛い痛い痛いっつーの!やめろよ、指をあらん方向に曲げようとすんの!!」
声を上げると、ふいっとそっぽを向く。
ボーカロイドだって痛覚はあるんだからな?!
「あたしだってルカちゃんと歌いたかったぁ」
「だからさぁ、他所は他所、うちはうちって言ってんじゃんか」
「…はぁ?何言って…」
バタバタと足をばたつかせるリンに言ってやるとじっとりした目でおれを見た。
「…うちのルカ姉ぇならすっげぇエロい服で歌ってくれるかもしらん」
「…えっ、マジで?」
「マジで」
おれの言葉にリンがキラキラした目を向ける。
…世間の鏡音リン好きが見たら怒られそうだなーとか思ったり思わなんだり。
「リン、ちょっといってくるね!…ルカたぁあん!!」
パタパタと走っていくリンに手を振って見送る。
…ルカ姉ぇ、ごめん。
「…って」
「…こら。ルカに迷惑かけないの」
途端、手刀が振ってきておれは振り仰いだ。
そこには呆れた顔の兄さんがいて。
「…いや、走って行くリンが悪くね?」
「主犯はレンだろう?」
もー、なんて兄さんが小さく笑う。
相変わらず可愛く笑う人だなぁ、なんて思ったり。
「あ、なあなあ、プレゼントだけどさぁ、あのパジャマデカくねぇ?嬉しいけど、ボーカロイドだし成長期はないってか」
そういえば、ってさっき貰ったプレゼントについて聞いてみる。
今年はパジャマだったんだけど、明らかに成人用だったんだよなぁ。
本来の年齢はともかく、おれ、設定年齢は14歳だし。
「そう?…脱がしやすいのが良いってレンが言ったんじゃないか」
「いやまあそうだけ…ど?」
返ってきた言葉に返しながら、ん?と首を傾げる。
脱ぎやすい、じゃなくて脱がしやすい??
ハッとして兄さんの顔を見ると若干耳が赤く染まってて。
…もー、兄さんってばさぁあ!!!
思い起こされるのは数カ月前の会話。
「なあ、今年はルカ姉ぇと脱がせにくいパジャマとかあげ合いすんなよ。…ちょっと、きーてる?兄さん?!」
「えー?ふふ」
「ふふ、じゃなくて!」
返事もなく笑うばかりの兄さんが、まさかこんなプレゼント用意してるなんて、誰が思うんだよ…!
「…これ、着せるのも脱がすのもおれってことで良いの」
「さあ?どうだろうね」
クス、なんて笑う兄さんには今年も敵わない。
…多分、何度誕生日が来ても。

毎年毎年、おれは可愛くてちょっぴり小悪魔な兄さんに翻弄されるのです!!


「今ここで着てみてよ、兄さん!」
「…今は駄目」
「なんで?!おれ、誕生日なんだけど!なー、兄さぁあん!!!」

(泣き落として今度はおれが兄さんを翻弄するのは…ヒミツの話)

クリスマス類冬

クリスマスが過ぎてしまった。
賑わうのは当日までで、過ぎてしまえばさっさと片付けてしまうのは日本人の性なのだろうな、と類は小さく笑う。
もう世間は大晦日…ひいては新年に向けて動き出していた。
…と。
「…おや」
元ツリーを見上げる姿に見覚えがあって、類は足取り軽く近付く。
「やあ、冬弥くん。随分と名残惜しそうだね?」
「…!神代先輩」
にこ、と笑いかけると彼は驚いたようにこちらを見た。
もこもこのマフラーを首に巻いていて尚寒そうにしている。
それなのに、この寒空の下、ぼんやりと何もなくなったツリーを見上げるのには訳があるのだろうと類は笑みを浮かべた。
「どうしたんだい?こんなところで」
「…いえ。…少し寂しいな、と思いまして」
「…ふぅん?君の家にはサンタさんは来なかったのかな」
困ったようにこちらを見る冬弥にそう言った途端である。
「…けど、えーたん家にはサンタさん来たもん!」
「何を言ってるの。ブラックサンタはクリスマス過ぎた後も見てるんだから!」
聞こえてきたのは親子の声で、類はおや、と思った。
「悪い子だと連れて行かれちゃうんだから」
「…えー、山に?」
「そう、山に」
「じゃー良い子にするー!おそうじ手伝うー!…」
通り過ぎるその声は何の変哲もないが、微笑ましく、思わず肩を揺らす。
「…ブラックサンタ…」
「おや、知らないのかい?」
小さな冬弥の声に類は笑みを浮かべた。
ブラックサンタ。
どこから出てきた説かは知らないが、悪い子を袋に詰めて連れ去るのだという。 
「まあ、サンタクロースは妖精だというのもあるからねぇ。悪い妖精か…はたまた悪魔か。…ねぇ、君はどちらが良いんだい?」
「…え?」
問いかけると、冬弥は寒空と同じ色の瞳を丸くした。
「良い子にプレゼントをくれるサンタクロースか。…悪い子を連れ去ってしまうブラックサンタか」
「…。…神代先輩は、どちらですか?」
問いかける類に、冬弥は質問で返してくる。
おや、と思わずクスクス笑い、そうだねぇと空を見上げた。
「僕はよく悪魔みたいだと言われるからブラックサンタかもしれないし、君になら素敵なプレゼントをあげるサンタになりうるかもしれないよ?」
「…。結局、俺次第…ですか」
ウインクする類に冬弥は小さく呟く。
真面目なのだろう、暫く熟考した後顔を上げた。
「…俺は、プレゼントを一方的に貰うより、先輩に連れ去られたいな、と…思います」
ふわ、と冬弥が笑む。
ほんの少しだけ、悪い顔で。
「先輩が思うよりも、俺は良い子ではないです、から」
「ふふ。なるほどね?」
予想以上の答えを返してきた冬弥に類はくすくすと肩を揺らして笑う。
そんなことも言うんだなぁと、思った。
「なら僕は君のブラックサンタになろうかな。…おいで?」
手を広げて類は冬弥を誘う。
おずおずと近づいてきた冬弥をコートの中に入れて抱きしめた。
そうして契約代わりにキスをする。
…触れるだけの、簡単な…キスを。

ブラックサンタに連れ去られ、少年はイルミネーションが消えた街に溶ける。
それは雪に色を与えた待雪草のようだと、誰かが言った。

鈴の音が聞こえる。
それは一体何の音だった?

(それは、そう。

確かに幸せな音だった。

それがどんな形であったとして、ね!)

ワンドロ/クリスマス・イルミネーション

キラキラ、イルミネーションが輝く。
クリスマスなんだなぁと語彙力のない感想が頭を過ぎった。
「彰人っ、彰人っ」
ちょいちょい、と服を引っ張られる。
あ?と気の抜けた返事をし振り向けばぽや、とした表情の冬弥が彰人をこちらを見ていた。
「なんだよ」
「…セカイにはな、トナカイさんがいるそうだ」
「…へぇー…ん?」
「リンがねー、教えてあげたんだよー!ねー、冬弥くん!」
「…うん」
僅かな疑問に首を傾げるもきゃっほう!とリンが冬弥に抱きついてきてうやむやになる。
いつもより緩んだ表情の冬弥に、いつもならすぐおかしいと思えたのに、まあ良いかと思ったのも、彰人も存外浮かれていたからだ。
こんなに楽しいパーティは久しぶりだから。
現実世界と同じようにセカイでもクリスマスパーティをやりたい!と張り切って準備をしてくれた。
MEIKOやミクが料理を作り、リンやレンが飾り付けをしてくれたパーティは彰人にとっても楽しかったのである。
今は杏とこはねが歌い終わってきゃあきゃあとプレゼント交換をしているところだ。
トナカイがどうとか言っていたリンが走って行ってしまい、二人だけが残された。
「…ふふ」
「どうした?」
「…いや。…幸せだと思ってな」
輝くイルミネーションを見つめ、冬弥が微笑む。
「家族で過ごすクリスマスも…数少ないお祝い事だったから、楽しみではあったが。…こんなに賑やかで楽しいクリスマスは初めてだ」
「そうかよ」
チカチカ、イルミネーションに照らされて微笑む冬弥が眩しく映った。
それだけようやっと返事をすればまた幸せそうに笑む。
彰人にとってはそれだけで充分幸せで。
「…来年も、こうやって集まることが出来たら…嬉しい、な」
「…そうだな」
二人で微笑み、自然に口を寄せ合う。
ライブ会場も眩しく映るけれど、イルミネーションはまた違った柔らかい印象を見せるな、とぼんやり思った。
「…想いの光」
「ん?」
「…何でもない」
小さく呟いた冬弥がふわりと微笑む。
今日はよく笑うな、と彰人も笑った。

何と言ったってクリスマス。
幸せな想いが溢れる…特別な…日。

ツリーの影で二人は幸せなキスを…交わした。


「…あ、彰人。冬弥、さっきシャンメリー飲んでたけど大丈夫だった?」
「…。…んー、可愛いから良いだろ」
「…これ、二人とも弱いやつだね??」

ザクカイ誕生日

「…よっ」
こつん、と頭に何かが触れる。
振り仰げば鬼ヶ崎カイコクがいつもの笑みで笑っていた。
「…なんだ?またちょっかいを…」
小さくため息を吐くザクロにカイコクはきょとんとし、それからカラカラと笑う。
随分とまあ楽しそうで、年相応なそれに…忘れがちだが、カイコクは未成年なのだ…ザクロは再び息を吐いた。
一通り笑い終えた彼がふわりと笑う。
いつもみたいに作られたそれではない…ザクロが好きな微笑みで。
「…誕生日、おめっとさん…忍霧」
紡がれるそれに数秒理解が遅れ…ああ、と間抜けな声が漏れた。
「ああって…忘れてたのかい?」
「忘れていたというか…曜日観念がないからな」
くすくすと笑うカイコクに、ザクロは言う。
ゲノムタワーでは曜日どころか日付観念がないのだ。
流石に時間は分かるようになっているが、カレンダーもなければ移り変わる四季もない。
よって今が何月かすら分からないのだ。
それなのにまあ良く今日がザクロの誕生日だと分かったな、とじぃっと見つめれば、言いたいことが分かったのだろう、「内緒でェ」とイタズラっぽく微笑む。
「…それで?」
「ん?」
「プレゼントはないのか?」
「…お前さんは存外強欲だな?」
首を傾げてやればカイコクが呆れたように言った。
何を今更、としれっとしていれば、カイコクは小さく息を吐く。
綺麗な顔がザクロに近づいた。
そうして。
「…」
マスク越しに唇が触れ、一瞬の後離れる。
「…。…鬼ヶ崎」
「俺ァ、渡したぜ」
ブスくれ、ジロリと睨めば彼は何でもないようにひらりと手を振った。
この後ゲームもあるからだろう…彼の行動も分かるのだけれど。
頭にある鬼の面、それを結ぶ飾りのそれがふわりと揺れた。
それを見送り…ふと思う。
カイコクの紐はあんな風に結ばれていただろうか。
あんな、プレゼントを包むように…。
そこまで思い、はたと自分のポケットから何かが出ているのに気が付いた。
慌てて探り、それを取り出す。
彼の綺麗な字で書かれたメモに近い手紙。
『今晩、部屋で待ってる』という…簡素な一文に表情が緩むのを感じた。
マスクで良かった、なんて普段感じないことを思う。
「…鬼ヶ崎!!」
「…うわっ、なんでェ…?!!」
追いかけ、ぐんと手を引いた。
蹈鞴を踏むカイコクを抱き寄せ、マスクを外し口付ける。
「…ぅ、は……。…夜、っつたろう…」
ブスくれる彼は頬を染めていて。
愛おしいと、思った。
あのカイコクがザクロのそれでこんなに素直な感情を見せてくれるだなんて!
「…待てない」
「…悪い子だねェ、お前さんも」
「俺は優等生の部類だが」
「どの口が言ってんでェ」
くすくす笑う彼に再び口付ける。
今度は、彼も驚いたりせず、受け入れた。


彼と過ごす2回目の誕生日。
そうして今日はクリスマス。

欲しいものは逃さないと決めたザクロは…カイコクを今年も無意識に翻弄するのであった。
(今年は翻弄してやろうとカイコクが思っていたなんて、ザクロには知る由もない話!)

クリスマス司冬

ほう、と寒空に息を吐き出す。
クリスマスショーが無事に終わったのだ、息をついても良いだろう。
「あれ、まだ着替えていなかったのかい?」
ひょこりと顔を出したのはキャスト仲間であり演出担当の類だ。
「おお。…今日はこのまま借りていこうかと思ってな」
「?家でクリスマスパーティでも?」
「む、流石に家での衣装は別のものがあるぞ?」
首を傾げる類に司は言う。
司くんらしいねぇ、とくすくす笑う類は、なら…と言葉を紡ぎかけた。
そんな類に向かってニッと笑って手を上げる。
「なぁに、見習いサンタが行くところというのは相場が決まっているだろう?」


雪がチラつく中、司は走る。
着く前にメッセージをひとつ。
空飛ぶソリがあれば楽なのに、なんて思った。
類に頼めば作ってくれるかもしれない。
目的地に着き、大体この辺りだったか、とそこに立った。
と、同時に窓が開いた。
「…?!!司、先輩…?!」
「メリークリスマス、冬弥!」
目を見開く、可愛い後輩兼恋人に向かって手を広げる。
何かを言おうとして失敗した冬弥が、代わりにすぐ行きます!と言った。
「そんな回りくどいことをせずとも良いだろう!」
「え」
「飛び込んで来い!」
バッ!と腕を広げる司に冬弥は困惑顔だ。
冬弥がいるのは2階で、そんなところから飛び降りるなんて不可能である。
ただでさえ冬弥は高所恐怖症なのだ。
無理に決まっている。
それでもなお腕を広げ続けた。
そうして。
「オレを信じろ!」
きっぱりそう言うと冬弥は震える体でベランダの柵を乗り越える。
風に煽られ、ふわりとそれが傾いた。
すかさず足のスイッチを押し、クッションを作動させる。
自身の体が浮いて、落ちる冬弥を軽々と抱きしめることができた。
「…せ、んぱい?」
「言っただろう、オレを信じろ、と」
腕の中の冬弥を抱きしめる。
はい、という柔らかな声を聞きながらクッションの空気を徐々に抜いていった。
「しかし、冬弥には怖い思いをさせたな。すまなかった」
「そうですね…」
「…う、怒っていないか?冬弥」
思いもよらず肯定が返ってきて、恐る恐る聞き返す。
ぎゅう、と抱きついてくる冬弥の表情は伺い知れなかった。
「すまない。見習いサンタという役柄に浮かれ、お前の気持ちを確かめなかった。許してくれ」
「…。…怒っては、いません。先輩なら受け止めて下さると…思っていましたから」
「…そうか!良かった!!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめ、ほっとした気持ちを伝える。
重ねた体から心音が聞こえてきて司はまた笑顔になった。
「良い子の冬弥には特別に見習いサンタであるオレからクリスマスプレゼントを贈ろう!」
「…え、と…先輩…?」
「…メリークリスマス、冬弥」
微笑み、そっと口付ける。
ごくごく軽いものであったが、冬弥の頬がピンク色に染まった。
それを、とても愛おしいと思う。

聖なる夜、雪降る街で特別な歌を、きみに。
(見習いサンタクロースだって、プレゼントが欲しいのです!)

いちゃいちゃ司冬

「お兄ちゃん!アタシ、今日はいっちゃん達とテスト勉強のお泊り会なの!だから、お留守番、宜しくね!」
妹である咲希が笑顔で言う。
任せろ!と胸を張るも、まだ心配なのか咲希は、そうだ!と笑った。
「お兄ちゃん一人だと寂しいかもしれないし、お兄ちゃんもお泊り会したらいいよ!…とーやくんとか、同じ学校なんでしょ?」
無邪気にそう言ったのは、両親も旅行に出かけているから、とかいう単純な理由だろう。
冬弥の名を出したのも、兄の知り合いだからだ。
何の他意もない、はず。
そう思いながら司は曖昧な返事をした。


さて、妹である咲希は知らないだろうが…司と冬弥は恋人同士である。
まだキス止まりだが…これは良いチャンスなのでは、と早速電話をかけた。
「…もしもし?冬弥か?すまんな、突然」
『いえ。…どうしたんですか?』
数コールで出てくれた彼に、泊まりにこないかと誘う。
両親や妹がいないことと、冬弥が来てくれると安心なのだが、と伝えれば、『司先輩が良いなら』と返してきた。
それから1時間もしない内に家のインターホンが鳴る。
「…お邪魔します、司先輩」
「ああ、よく来たな、冬弥!」
私服かと思えば何故か制服で来た彼に、司は不思議に思いながらもにこりと笑った。
聞けば「明日も学校なので…」とまあ彼らしい答えが返ってくる。
荷物も最小限だから、必要最低限しか持ってきていないようだ。
「…先輩の家、久しぶりですね」
「ん?ああ、そういえばそうかもしれないな」
きょろきょろとする冬弥に小さく笑い、司は自身の部屋に連れて行く。
「…冬弥」
「…?…は、い…っ?!」
無防備な彼をベッドに押し倒した。
それ目的で呼んだみたいではないか!と思うが、もう止められない。
2年と1年、学校ではチャンスがないし大体道徳的に問題があった。
ラブホテルなんて以ての外で、だからって司は冬弥が卒業するまで待つ気もなかったのである。
少し性急過ぎたか、と目の前の彼を見れば、何をされるかこれだけで分かったのだろう、ほんのり頬を染めていた。
「…いきなりすまない、冬弥。嫌だったらしない。だから、お前の気持ちを教えてくれ」
「…せ、んぱ」
「…オレは、お前が好きなんだ。可愛い後輩、なんかじゃなく、愛しい恋人として、冬弥を愛したい」
「…っ!」
「別に、性行為をする為だけに冬弥を呼んだ訳ではないぞ?冬弥と一緒に食べるための食事も、一緒に楽しむ為の映画も用意した。…だが、駄目だな。目の前にいるとムードもへったくれもなくなってしまう」
眉を下げて笑えば彼は、小さな声で「…ズルいです」と言う。
「…俺も、期待していて。でも見せてはいけないと…思っていたのに」
「冬弥…」
「…そんな、格好良い事言われたら…俺は…」
ぽそぽそと小さな声で告白する彼に、司の理性は瓦解した。
小さな口に深いキスを施す。
「んぅ、ん、ふ…ぁ、は…せ、んぱ…?」
「…すまない、多分…止めてはやれないぞ」
ぽやんとする冬弥に低く囁いた。
頭を撫で、するりと服に手を入れる。
「ぅん!!」
びくっと震え、甘い声を出す冬弥は、はしっとその手を己の口に当てた。
自身も何が起きたか理解していないようで、目元を染めながら必死に声を出さないようにしている。
「…冬弥」
そんな声も出せるのか、と思いながらこのチョコレートのように甘い声を聞けないのは勿体無い、と額を合わせた。
ゼロ距離になった彼に囁く。
「…声を、聞かせてくれ」
「ぅ、ゃ…!」
「…出来るな?冬弥。…オレにお前の全てを見せて欲しい」
「…ぁ…う…せん、ぱい…!」
綺麗な瞳に涙を溜めるから、優しく頭を撫でた。
優しい手に翻弄されてくれているのか、足がシーツを掴んでぐちゃぐちゃになる。
それを司は、単純に嬉しいと…そう思った。


なかなか表情を変えない彼の、珍しいそれは…今は全て司だけのもの。
美しくも儚いその表情は…一晩かけ、司の星のような瞳に刻み込まれていった。

酔っ払ったザクロに絡まれるカイコク

頭がふわふわする。
何故こんなことに、なんて疑問は彼方に消えていた。
「…大丈夫かい?忍霧」
「…鬼ヶ崎」
少し心配そうにカイコクが覗き込んでくる。
その顔は純粋に心配しているというより、自分に被害が及ばないかを窺っているようにも見えた。
「いやー!お屠蘇で酔うとは思わなかったよね!」
「甘酒で酔うなら酔うに決まってるだろう!」
あははー!と笑うのはユズで、カイコクがそれに怒鳴り返す。
どうすんでェ、と戸惑ったように彼がこちらを窺っていた。
それがなんだか癪に障る。
大体彼はいつもそうなのだ。
いつもこうやってザクロを勝手に窺って振り回していなくなる。
…ザクロの気も知らないで。
「…座れ、鬼ヶ崎」
「…いや、座ってっけど」
「正座だ正座!」
「はぁ?…何なんでェ、ったく…」
ブツブツ言いながらも従ってくれるらしい彼が姿勢を正す。
その上にごろんと頭を乗せた。
所謂、膝枕、というやつである。
「…えーと、忍霧サン?」
「名前で呼べ!」
「…お前さん、なんでそう…」
はぁあ、と溜息を吐くカイコクが頭を撫でてきた。
「…忍霧」
「…名前は」
「忍霧ザクロ」
「フルネームではなく!」
「…あのなぁ」
注文をつけるザクロに、素直だったカイコクが声を荒らげる。
「…お前さんだって俺のこと名前で呼ばねぇじゃねぇか」
「…。…カイコク」
「はっ、酔っ払ってるお前さんに言われても嬉しくなんざ…」
「…好きだ、カイコク」
ぼうっとした頭でも彼の美しい顔はクリアに映り、ザクロは言葉を紡いだ。
「…忍霧?」
「俺は、貴様が好きだ。愛している。結婚しよう」
「いや、だから」
「カイコク、俺と家族になってくれないか?」
「…。…膝枕の酔っ払い男にプロポーズされてもな」
くすくすと彼が笑う。
その笑みは逆光に照らされ、とても美しく見えた。
いつもの不敵な笑みではなく、穏やかで包み込んでくれるようなそれで、カイコクは笑む。
それをずっと見ていたいと…ザクロはふわふわした頭で…そう、思った。
「お前さんがきちんと覚えてたら答えてやるよ…ザクロくん?」


カチ、とボイスレコーダーの音を止める。
いつの間に、と目を逸らすカイコクをザクロは逃しはしなかった。
「と、言う事だが?何か反論は?」
「おっ、前さん自身は覚えてねぇくせに!!」
壁に追い詰め見上げればカイコクは最後の抵抗に、と声を荒らげる。
「覚えていなければボイスレコーダーなど持ち出しはしない」
「…う……」
「返事を、貰えるだろうか。…なぁ、カイコク?」
真剣に聞くザクロに、カイコクの綺麗な目が泳いだ。
酔った勢いではない。
酔っぱらいの戯れ言なんて思ってほしくはなかった。
だから、あの日のプロポーズを、もう一度。
「好きだ。愛している。…俺と家族になってくれないだろうか」


もうすぐ、春が来る。

ほのぼのザクカイ

「…」
朝からザクロは小さなため息を吐き出した。
原因は目の前ですやすやと寝息を立てている男にある。
ジョギングをして帰ってきてシャワーを浴びる…その間には起きていると思ったのだが…甘かったようだ。
カイコクは朝に弱い。
「お前さんが早すぎるだけだろう?」と彼は言うが…それは違うと思うのだ。
そうしてカイコクは寒さにも弱い。
どちらかといえば朝よりも寒さに弱い気さえするくらいだ。
着膨れするくらいに着込み、いつもの薄着はどうしたと突っ込みたくなるほど彼は寒さに弱いらしい。
…まあそこも可愛いと思うザクロとて…なかなか末期だとは思うのだけど。
「…鬼ヶ崎、そろそろ起きろ。とうに朝食の時間だぞ」
「…んぅ…。…きょう、は…げーむ…なかった、だろ…ぅ?」
舌足らずの声音で返ってきたそれは起きる意思が感じられなかった。
「…確かに今日はゲームの予定はないが。…規則正しい生活が大事だと言っている!」
「…ひっ?!…な、にっ、しやがる!」 
布団を剥がそうとし、代わりに己の手をズボッと彼の服の中に突っ込む。
案の定パッチリと目が開き、ギっと睨んできた。
「早く起きないほうが悪いんだろう」
「…。…早く起きたところで何もねぇってのにかい?」
「何もない事はないぞ。島を散策したり脱出方法を調べたり。何かはあるだろう」
「…休息も大事だって、パカが言っていた」
「妙なところだけパカに賛同するんじゃない…鬼ヶ崎!」
もそもそと布団に潜っていくカイコクに思わず怒鳴る。
嫌な顔はするものの起きる気はないのか、布団を頭の上まですっぽりと被ってしまった。
こうなったカイコクは強情で、動かなくなるのをザクロはよく知っている。
はぁ、と小さくため息を吐いた。
「…休息、させなきゃなんねぇ躰にしたくせに」
「…うっ…」
その溜め息にカイコクがムッとした様子で言い返して来る。
昨日散々彼の躰を貪ったザクロは何も言い返すことが出来なかった。 
「…分かった。貴様が起きたくなるまで待つ」
渋々そう言い、布団から頭を出して綺麗に微笑むカイコクを見やる。
お許しが出たのを良い事に彼は二度寝する気満々だ。
…だったら。
「ぅひっ?!な、に…?!」
「?言っただろう?貴様が起きたくなるまで待つ、と」
躰をビクつかせ、振り仰ぐ彼にしれっと言いながら冷たくなった手を彼の肌に付ける。
じんわりとした温かさが伝わってきた。
「つ、めた…っ!やめ、ひぅ?!」
「だがまあ、何もしないとは言っていないからな」
「…っ!卑怯、でェ…!」
「貴様が言うのか、それを」
涙目で睨むカイコクに言いながら手を脇腹に移動させる。
「…や、め…忍霧!!」
「…起きるのか?もう?」
「…!起きる、起きるっつって…んっ、ふ…!!」
口を抑えながらじたじたとカイコクが暴れた。
とっくに布団はズレているがザクロはカイコクを離す気はなくて。
「寒いなら暖かくなることをすれば良い。そうだろう?鬼ヶ崎」
とさりと覆い被さってザクロは言いながらマスクを外す。
昨日散々ヤった…!と涙目のカイコクへ否応なく口付けた。
彼の躰が布団へと沈み込む。
「今日はゲームもないし…二人きりでのんびりしよう。な?」
「おっ、前さんのそれはのんびりじゃね…!…ゃっ、あっ、んー…!!!」
本格的に抵抗はしない優しいカイコクに漬け込んでザクロは深いキスをした。


熱くなり、ついでにドロドロなった体に再びシャワーを浴びせなくてはいけなくなるのは…あと数時間後の話である。

ほのぼの彰冬

いつも通り、彰人は冬弥と共にセカイへ向かおうとし、止められる。
「?どうした?」
「いや…前にドーナツ屋さんを教えてくれただろう?そこに行きたいんだ」
首を傾げれば冬弥がそう言った。
言われた場所は全国的にも有名なドーナツチェーン店だ。
コーヒーがおかわり自由だったから薦めたのだが…存外に気に入ったらしい。
「別に良いけど。…コーヒーはMEIKOさんトコのが美味いだろ」
「それはそうなんだが」
不思議に思いながらも聞けば、冬弥の歯切れがいつも以上に悪かった。
セカイで淹れてくれるMEIKOのコーヒーを冬弥が大層気に入っているのを彰人は知っている。
だのに珍しいな、と思っていれば冬弥は何かを言いたげに口を開いた。
「…言いたい事あるなら言えよ。オレはお前の言いたいことは組んでやれるけど本当の思いまでは分かんねぇんだから」 
「…。…そう、だな」
軽く言えば冬弥は小さく微笑む。
そうして。
「…デート、しないか?」
「…。…はぁっ?!」
ちょい、と袖を引かれて言われるそれに一度言葉を飲み込んだ彰人は素っ頓狂な声を上げた。
今、なんと??
「やはり、嫌か?」
「嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇけど、何でまた急に」
しゅんとして聞く冬弥に頭を掻きながら言えば彼はホッとした顔をする。
それから僅かに微笑んで口を開いた。
「小豆沢や白石が、共に軽く出かけるのを『デート』と言っていてな。…少し、羨ましくなった」
「…あー…」
「暁山も司先輩の妹さんも、普通のことだと言っていたからな。俺が言ってもおかしくないかと…彰人?」
言葉を紡いでいた冬弥がきょとんとする。
幼く見える表情に、そういうトコ!と思った。
「そもそもオレらは恋人同士だろ…。わざわざ言わなくてもよ」
「…そうなんだが」
呆れながらも指摘すれば、冬弥は小さく声を出す。
少し特別感が欲しかった、と珍しく言い訳するから、思わず天を仰いだ。
まったく、どこからそんなことを覚えてきたのだか。
「わーったよ。行こうぜ、デート」
「…!ああ」
仕方がない、と手を差し出せば嬉しそうに小さく微笑む。
繋がれたそれは温かく…確かにこれは特別感、だな、と思った。


いつもの街、いつもの道も、言葉一つで特別なものに変わる。
幸せだな、なんてガラにもない事を思った。


「つか、なんでミ○ド?」
「コーヒーが美味しいのもあるが…。…今、くまさんのドーナツが売っているんだ。だから、世話になっているMEIKOさんたちにお土産を…。…彰人?」
「…だから、そういうとこだっつってんだよなぁ…っ!」

独占欲彰冬

あの子の全ては誰のもの?


「…冬弥ぁ」
呼びかけると図書室のカウンターで本を読んでいた冬弥が顔を上げた。
「彰人。…部活の助っ人は良いのか?」
「さっき終わらせてきた。…帰ろうぜ」
「…ああ」 
パタン、と本を閉じ、冬弥が立ち上がる。
片付けてくる、と本棚の奥に消えた。
それを見送り、小さく息を吐く。
サッカー部の助っ人中、目に入ったこの場所で。
冬弥が誰かと喋っていた。
彼だって委員会中だったのだ、誰かと話すことだってあるだろう。
それでも、今日は何故か何となく嫌だった。
イヤホンを耳に突っ込み、音楽を流す。
聴こえてきたのは初音ミクの歌声だった。
姉である絵名が「アンタも好きじゃないかと思って」と押し付けてきたCDアルバムに入っていたそれ。
『♪あの子のすべては僕のもの 誰も触れないように』
歌い上げられるそれは彰人の想いに呼応する。
冬弥の、柔らかい笑顔も歌声も存外に強い意思も自分のものだと言えたらどんなに良いだろう。
「…アホらし」
溜め息を吐き出し冬弥が帰ってくるのを待った。
「すまない、待たせた。…何を聴いているんだ?」 
少ししてから戻ってきた冬弥が首を傾げる。
綺麗な髪がさらりと揺れた。
ん、とイヤホンを差し出せばそれを躊躇無く受け取る。
「絵名のやつが珍しく薦めてきたからよ」
「…なるほど。良い曲だな」
言い訳がましく言えば冬弥がふわりと笑みを浮かべた。
「まあ、確かに曲調はな…」
「?彰人は歌詞は良いと思わないのか?」
不思議そうな彼に、少し目を見開く。
まさかそんな事を言うとは。
「明らかに重いだろ、こんな奴。好きな奴の為に法を犯せるんだぞ」
「…?それだけ相手への想いが強いんだう?」
きょとりとした顔をする冬弥に、どんな表情を向ければ良いのか分からなかった。
何故、彼はこんなことを?
「…冬弥、オレがお前に対してそう思ってたらどうすんだ」
「…俺の為に、法を?」
止せば良いのに聞いてしまった問いに、冬弥は小さく上を向く。
そうして。
「…。…彰人なら、本当にやりそうだな」
ふわり、と笑みを見せた。
「…嫌じゃ、ねぇの?」
「法を犯したことで彰人と離れると言うなら別だが、俺は…嬉しいと思う」
綺麗なそれを浮かべる冬弥に、彰人はぐちゃぐちゃになりそうで。
…いつだって、想いを掻き乱される。


(大概にしといてや、とは誰の声?)


「彰人にとって毒占欲を振り翳す程の価値があるのは、純粋に…嬉しい、からな」


綺麗な彼も、存外に汚い彼も、等しく自分のモノにしたい。

その想いは膨らんで蜜となり、二人を飲み込んだ。

あの子の全ては誰のもの誰のもの?

アイツの全てはオレのもの!
(そこから先、毒占欲の行方は二人だけが知っている)