クリスマス司冬

ほう、と寒空に息を吐き出す。
クリスマスショーが無事に終わったのだ、息をついても良いだろう。
「あれ、まだ着替えていなかったのかい?」
ひょこりと顔を出したのはキャスト仲間であり演出担当の類だ。
「おお。…今日はこのまま借りていこうかと思ってな」
「?家でクリスマスパーティでも?」
「む、流石に家での衣装は別のものがあるぞ?」
首を傾げる類に司は言う。
司くんらしいねぇ、とくすくす笑う類は、なら…と言葉を紡ぎかけた。
そんな類に向かってニッと笑って手を上げる。
「なぁに、見習いサンタが行くところというのは相場が決まっているだろう?」


雪がチラつく中、司は走る。
着く前にメッセージをひとつ。
空飛ぶソリがあれば楽なのに、なんて思った。
類に頼めば作ってくれるかもしれない。
目的地に着き、大体この辺りだったか、とそこに立った。
と、同時に窓が開いた。
「…?!!司、先輩…?!」
「メリークリスマス、冬弥!」
目を見開く、可愛い後輩兼恋人に向かって手を広げる。
何かを言おうとして失敗した冬弥が、代わりにすぐ行きます!と言った。
「そんな回りくどいことをせずとも良いだろう!」
「え」
「飛び込んで来い!」
バッ!と腕を広げる司に冬弥は困惑顔だ。
冬弥がいるのは2階で、そんなところから飛び降りるなんて不可能である。
ただでさえ冬弥は高所恐怖症なのだ。
無理に決まっている。
それでもなお腕を広げ続けた。
そうして。
「オレを信じろ!」
きっぱりそう言うと冬弥は震える体でベランダの柵を乗り越える。
風に煽られ、ふわりとそれが傾いた。
すかさず足のスイッチを押し、クッションを作動させる。
自身の体が浮いて、落ちる冬弥を軽々と抱きしめることができた。
「…せ、んぱい?」
「言っただろう、オレを信じろ、と」
腕の中の冬弥を抱きしめる。
はい、という柔らかな声を聞きながらクッションの空気を徐々に抜いていった。
「しかし、冬弥には怖い思いをさせたな。すまなかった」
「そうですね…」
「…う、怒っていないか?冬弥」
思いもよらず肯定が返ってきて、恐る恐る聞き返す。
ぎゅう、と抱きついてくる冬弥の表情は伺い知れなかった。
「すまない。見習いサンタという役柄に浮かれ、お前の気持ちを確かめなかった。許してくれ」
「…。…怒っては、いません。先輩なら受け止めて下さると…思っていましたから」
「…そうか!良かった!!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめ、ほっとした気持ちを伝える。
重ねた体から心音が聞こえてきて司はまた笑顔になった。
「良い子の冬弥には特別に見習いサンタであるオレからクリスマスプレゼントを贈ろう!」
「…え、と…先輩…?」
「…メリークリスマス、冬弥」
微笑み、そっと口付ける。
ごくごく軽いものであったが、冬弥の頬がピンク色に染まった。
それを、とても愛おしいと思う。

聖なる夜、雪降る街で特別な歌を、きみに。
(見習いサンタクロースだって、プレゼントが欲しいのです!)

いちゃいちゃ司冬

「お兄ちゃん!アタシ、今日はいっちゃん達とテスト勉強のお泊り会なの!だから、お留守番、宜しくね!」
妹である咲希が笑顔で言う。
任せろ!と胸を張るも、まだ心配なのか咲希は、そうだ!と笑った。
「お兄ちゃん一人だと寂しいかもしれないし、お兄ちゃんもお泊り会したらいいよ!…とーやくんとか、同じ学校なんでしょ?」
無邪気にそう言ったのは、両親も旅行に出かけているから、とかいう単純な理由だろう。
冬弥の名を出したのも、兄の知り合いだからだ。
何の他意もない、はず。
そう思いながら司は曖昧な返事をした。


さて、妹である咲希は知らないだろうが…司と冬弥は恋人同士である。
まだキス止まりだが…これは良いチャンスなのでは、と早速電話をかけた。
「…もしもし?冬弥か?すまんな、突然」
『いえ。…どうしたんですか?』
数コールで出てくれた彼に、泊まりにこないかと誘う。
両親や妹がいないことと、冬弥が来てくれると安心なのだが、と伝えれば、『司先輩が良いなら』と返してきた。
それから1時間もしない内に家のインターホンが鳴る。
「…お邪魔します、司先輩」
「ああ、よく来たな、冬弥!」
私服かと思えば何故か制服で来た彼に、司は不思議に思いながらもにこりと笑った。
聞けば「明日も学校なので…」とまあ彼らしい答えが返ってくる。
荷物も最小限だから、必要最低限しか持ってきていないようだ。
「…先輩の家、久しぶりですね」
「ん?ああ、そういえばそうかもしれないな」
きょろきょろとする冬弥に小さく笑い、司は自身の部屋に連れて行く。
「…冬弥」
「…?…は、い…っ?!」
無防備な彼をベッドに押し倒した。
それ目的で呼んだみたいではないか!と思うが、もう止められない。
2年と1年、学校ではチャンスがないし大体道徳的に問題があった。
ラブホテルなんて以ての外で、だからって司は冬弥が卒業するまで待つ気もなかったのである。
少し性急過ぎたか、と目の前の彼を見れば、何をされるかこれだけで分かったのだろう、ほんのり頬を染めていた。
「…いきなりすまない、冬弥。嫌だったらしない。だから、お前の気持ちを教えてくれ」
「…せ、んぱ」
「…オレは、お前が好きなんだ。可愛い後輩、なんかじゃなく、愛しい恋人として、冬弥を愛したい」
「…っ!」
「別に、性行為をする為だけに冬弥を呼んだ訳ではないぞ?冬弥と一緒に食べるための食事も、一緒に楽しむ為の映画も用意した。…だが、駄目だな。目の前にいるとムードもへったくれもなくなってしまう」
眉を下げて笑えば彼は、小さな声で「…ズルいです」と言う。
「…俺も、期待していて。でも見せてはいけないと…思っていたのに」
「冬弥…」
「…そんな、格好良い事言われたら…俺は…」
ぽそぽそと小さな声で告白する彼に、司の理性は瓦解した。
小さな口に深いキスを施す。
「んぅ、ん、ふ…ぁ、は…せ、んぱ…?」
「…すまない、多分…止めてはやれないぞ」
ぽやんとする冬弥に低く囁いた。
頭を撫で、するりと服に手を入れる。
「ぅん!!」
びくっと震え、甘い声を出す冬弥は、はしっとその手を己の口に当てた。
自身も何が起きたか理解していないようで、目元を染めながら必死に声を出さないようにしている。
「…冬弥」
そんな声も出せるのか、と思いながらこのチョコレートのように甘い声を聞けないのは勿体無い、と額を合わせた。
ゼロ距離になった彼に囁く。
「…声を、聞かせてくれ」
「ぅ、ゃ…!」
「…出来るな?冬弥。…オレにお前の全てを見せて欲しい」
「…ぁ…う…せん、ぱい…!」
綺麗な瞳に涙を溜めるから、優しく頭を撫でた。
優しい手に翻弄されてくれているのか、足がシーツを掴んでぐちゃぐちゃになる。
それを司は、単純に嬉しいと…そう思った。


なかなか表情を変えない彼の、珍しいそれは…今は全て司だけのもの。
美しくも儚いその表情は…一晩かけ、司の星のような瞳に刻み込まれていった。

酔っ払ったザクロに絡まれるカイコク

頭がふわふわする。
何故こんなことに、なんて疑問は彼方に消えていた。
「…大丈夫かい?忍霧」
「…鬼ヶ崎」
少し心配そうにカイコクが覗き込んでくる。
その顔は純粋に心配しているというより、自分に被害が及ばないかを窺っているようにも見えた。
「いやー!お屠蘇で酔うとは思わなかったよね!」
「甘酒で酔うなら酔うに決まってるだろう!」
あははー!と笑うのはユズで、カイコクがそれに怒鳴り返す。
どうすんでェ、と戸惑ったように彼がこちらを窺っていた。
それがなんだか癪に障る。
大体彼はいつもそうなのだ。
いつもこうやってザクロを勝手に窺って振り回していなくなる。
…ザクロの気も知らないで。
「…座れ、鬼ヶ崎」
「…いや、座ってっけど」
「正座だ正座!」
「はぁ?…何なんでェ、ったく…」
ブツブツ言いながらも従ってくれるらしい彼が姿勢を正す。
その上にごろんと頭を乗せた。
所謂、膝枕、というやつである。
「…えーと、忍霧サン?」
「名前で呼べ!」
「…お前さん、なんでそう…」
はぁあ、と溜息を吐くカイコクが頭を撫でてきた。
「…忍霧」
「…名前は」
「忍霧ザクロ」
「フルネームではなく!」
「…あのなぁ」
注文をつけるザクロに、素直だったカイコクが声を荒らげる。
「…お前さんだって俺のこと名前で呼ばねぇじゃねぇか」
「…。…カイコク」
「はっ、酔っ払ってるお前さんに言われても嬉しくなんざ…」
「…好きだ、カイコク」
ぼうっとした頭でも彼の美しい顔はクリアに映り、ザクロは言葉を紡いだ。
「…忍霧?」
「俺は、貴様が好きだ。愛している。結婚しよう」
「いや、だから」
「カイコク、俺と家族になってくれないか?」
「…。…膝枕の酔っ払い男にプロポーズされてもな」
くすくすと彼が笑う。
その笑みは逆光に照らされ、とても美しく見えた。
いつもの不敵な笑みではなく、穏やかで包み込んでくれるようなそれで、カイコクは笑む。
それをずっと見ていたいと…ザクロはふわふわした頭で…そう、思った。
「お前さんがきちんと覚えてたら答えてやるよ…ザクロくん?」


カチ、とボイスレコーダーの音を止める。
いつの間に、と目を逸らすカイコクをザクロは逃しはしなかった。
「と、言う事だが?何か反論は?」
「おっ、前さん自身は覚えてねぇくせに!!」
壁に追い詰め見上げればカイコクは最後の抵抗に、と声を荒らげる。
「覚えていなければボイスレコーダーなど持ち出しはしない」
「…う……」
「返事を、貰えるだろうか。…なぁ、カイコク?」
真剣に聞くザクロに、カイコクの綺麗な目が泳いだ。
酔った勢いではない。
酔っぱらいの戯れ言なんて思ってほしくはなかった。
だから、あの日のプロポーズを、もう一度。
「好きだ。愛している。…俺と家族になってくれないだろうか」


もうすぐ、春が来る。

ほのぼのザクカイ

「…」
朝からザクロは小さなため息を吐き出した。
原因は目の前ですやすやと寝息を立てている男にある。
ジョギングをして帰ってきてシャワーを浴びる…その間には起きていると思ったのだが…甘かったようだ。
カイコクは朝に弱い。
「お前さんが早すぎるだけだろう?」と彼は言うが…それは違うと思うのだ。
そうしてカイコクは寒さにも弱い。
どちらかといえば朝よりも寒さに弱い気さえするくらいだ。
着膨れするくらいに着込み、いつもの薄着はどうしたと突っ込みたくなるほど彼は寒さに弱いらしい。
…まあそこも可愛いと思うザクロとて…なかなか末期だとは思うのだけど。
「…鬼ヶ崎、そろそろ起きろ。とうに朝食の時間だぞ」
「…んぅ…。…きょう、は…げーむ…なかった、だろ…ぅ?」
舌足らずの声音で返ってきたそれは起きる意思が感じられなかった。
「…確かに今日はゲームの予定はないが。…規則正しい生活が大事だと言っている!」
「…ひっ?!…な、にっ、しやがる!」 
布団を剥がそうとし、代わりに己の手をズボッと彼の服の中に突っ込む。
案の定パッチリと目が開き、ギっと睨んできた。
「早く起きないほうが悪いんだろう」
「…。…早く起きたところで何もねぇってのにかい?」
「何もない事はないぞ。島を散策したり脱出方法を調べたり。何かはあるだろう」
「…休息も大事だって、パカが言っていた」
「妙なところだけパカに賛同するんじゃない…鬼ヶ崎!」
もそもそと布団に潜っていくカイコクに思わず怒鳴る。
嫌な顔はするものの起きる気はないのか、布団を頭の上まですっぽりと被ってしまった。
こうなったカイコクは強情で、動かなくなるのをザクロはよく知っている。
はぁ、と小さくため息を吐いた。
「…休息、させなきゃなんねぇ躰にしたくせに」
「…うっ…」
その溜め息にカイコクがムッとした様子で言い返して来る。
昨日散々彼の躰を貪ったザクロは何も言い返すことが出来なかった。 
「…分かった。貴様が起きたくなるまで待つ」
渋々そう言い、布団から頭を出して綺麗に微笑むカイコクを見やる。
お許しが出たのを良い事に彼は二度寝する気満々だ。
…だったら。
「ぅひっ?!な、に…?!」
「?言っただろう?貴様が起きたくなるまで待つ、と」
躰をビクつかせ、振り仰ぐ彼にしれっと言いながら冷たくなった手を彼の肌に付ける。
じんわりとした温かさが伝わってきた。
「つ、めた…っ!やめ、ひぅ?!」
「だがまあ、何もしないとは言っていないからな」
「…っ!卑怯、でェ…!」
「貴様が言うのか、それを」
涙目で睨むカイコクに言いながら手を脇腹に移動させる。
「…や、め…忍霧!!」
「…起きるのか?もう?」
「…!起きる、起きるっつって…んっ、ふ…!!」
口を抑えながらじたじたとカイコクが暴れた。
とっくに布団はズレているがザクロはカイコクを離す気はなくて。
「寒いなら暖かくなることをすれば良い。そうだろう?鬼ヶ崎」
とさりと覆い被さってザクロは言いながらマスクを外す。
昨日散々ヤった…!と涙目のカイコクへ否応なく口付けた。
彼の躰が布団へと沈み込む。
「今日はゲームもないし…二人きりでのんびりしよう。な?」
「おっ、前さんのそれはのんびりじゃね…!…ゃっ、あっ、んー…!!!」
本格的に抵抗はしない優しいカイコクに漬け込んでザクロは深いキスをした。


熱くなり、ついでにドロドロなった体に再びシャワーを浴びせなくてはいけなくなるのは…あと数時間後の話である。

ほのぼの彰冬

いつも通り、彰人は冬弥と共にセカイへ向かおうとし、止められる。
「?どうした?」
「いや…前にドーナツ屋さんを教えてくれただろう?そこに行きたいんだ」
首を傾げれば冬弥がそう言った。
言われた場所は全国的にも有名なドーナツチェーン店だ。
コーヒーがおかわり自由だったから薦めたのだが…存外に気に入ったらしい。
「別に良いけど。…コーヒーはMEIKOさんトコのが美味いだろ」
「それはそうなんだが」
不思議に思いながらも聞けば、冬弥の歯切れがいつも以上に悪かった。
セカイで淹れてくれるMEIKOのコーヒーを冬弥が大層気に入っているのを彰人は知っている。
だのに珍しいな、と思っていれば冬弥は何かを言いたげに口を開いた。
「…言いたい事あるなら言えよ。オレはお前の言いたいことは組んでやれるけど本当の思いまでは分かんねぇんだから」 
「…。…そう、だな」
軽く言えば冬弥は小さく微笑む。
そうして。
「…デート、しないか?」
「…。…はぁっ?!」
ちょい、と袖を引かれて言われるそれに一度言葉を飲み込んだ彰人は素っ頓狂な声を上げた。
今、なんと??
「やはり、嫌か?」
「嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇけど、何でまた急に」
しゅんとして聞く冬弥に頭を掻きながら言えば彼はホッとした顔をする。
それから僅かに微笑んで口を開いた。
「小豆沢や白石が、共に軽く出かけるのを『デート』と言っていてな。…少し、羨ましくなった」
「…あー…」
「暁山も司先輩の妹さんも、普通のことだと言っていたからな。俺が言ってもおかしくないかと…彰人?」
言葉を紡いでいた冬弥がきょとんとする。
幼く見える表情に、そういうトコ!と思った。
「そもそもオレらは恋人同士だろ…。わざわざ言わなくてもよ」
「…そうなんだが」
呆れながらも指摘すれば、冬弥は小さく声を出す。
少し特別感が欲しかった、と珍しく言い訳するから、思わず天を仰いだ。
まったく、どこからそんなことを覚えてきたのだか。
「わーったよ。行こうぜ、デート」
「…!ああ」
仕方がない、と手を差し出せば嬉しそうに小さく微笑む。
繋がれたそれは温かく…確かにこれは特別感、だな、と思った。


いつもの街、いつもの道も、言葉一つで特別なものに変わる。
幸せだな、なんてガラにもない事を思った。


「つか、なんでミ○ド?」
「コーヒーが美味しいのもあるが…。…今、くまさんのドーナツが売っているんだ。だから、世話になっているMEIKOさんたちにお土産を…。…彰人?」
「…だから、そういうとこだっつってんだよなぁ…っ!」

独占欲彰冬

あの子の全ては誰のもの?


「…冬弥ぁ」
呼びかけると図書室のカウンターで本を読んでいた冬弥が顔を上げた。
「彰人。…部活の助っ人は良いのか?」
「さっき終わらせてきた。…帰ろうぜ」
「…ああ」 
パタン、と本を閉じ、冬弥が立ち上がる。
片付けてくる、と本棚の奥に消えた。
それを見送り、小さく息を吐く。
サッカー部の助っ人中、目に入ったこの場所で。
冬弥が誰かと喋っていた。
彼だって委員会中だったのだ、誰かと話すことだってあるだろう。
それでも、今日は何故か何となく嫌だった。
イヤホンを耳に突っ込み、音楽を流す。
聴こえてきたのは初音ミクの歌声だった。
姉である絵名が「アンタも好きじゃないかと思って」と押し付けてきたCDアルバムに入っていたそれ。
『♪あの子のすべては僕のもの 誰も触れないように』
歌い上げられるそれは彰人の想いに呼応する。
冬弥の、柔らかい笑顔も歌声も存外に強い意思も自分のものだと言えたらどんなに良いだろう。
「…アホらし」
溜め息を吐き出し冬弥が帰ってくるのを待った。
「すまない、待たせた。…何を聴いているんだ?」 
少ししてから戻ってきた冬弥が首を傾げる。
綺麗な髪がさらりと揺れた。
ん、とイヤホンを差し出せばそれを躊躇無く受け取る。
「絵名のやつが珍しく薦めてきたからよ」
「…なるほど。良い曲だな」
言い訳がましく言えば冬弥がふわりと笑みを浮かべた。
「まあ、確かに曲調はな…」
「?彰人は歌詞は良いと思わないのか?」
不思議そうな彼に、少し目を見開く。
まさかそんな事を言うとは。
「明らかに重いだろ、こんな奴。好きな奴の為に法を犯せるんだぞ」
「…?それだけ相手への想いが強いんだう?」
きょとりとした顔をする冬弥に、どんな表情を向ければ良いのか分からなかった。
何故、彼はこんなことを?
「…冬弥、オレがお前に対してそう思ってたらどうすんだ」
「…俺の為に、法を?」
止せば良いのに聞いてしまった問いに、冬弥は小さく上を向く。
そうして。
「…。…彰人なら、本当にやりそうだな」
ふわり、と笑みを見せた。
「…嫌じゃ、ねぇの?」
「法を犯したことで彰人と離れると言うなら別だが、俺は…嬉しいと思う」
綺麗なそれを浮かべる冬弥に、彰人はぐちゃぐちゃになりそうで。
…いつだって、想いを掻き乱される。


(大概にしといてや、とは誰の声?)


「彰人にとって毒占欲を振り翳す程の価値があるのは、純粋に…嬉しい、からな」


綺麗な彼も、存外に汚い彼も、等しく自分のモノにしたい。

その想いは膨らんで蜜となり、二人を飲み込んだ。

あの子の全ては誰のもの誰のもの?

アイツの全てはオレのもの!
(そこから先、毒占欲の行方は二人だけが知っている)
                   

不穏系彰冬

箱庭療法を知ってるか?


「っと。…ミクたちはいないみてぇだな」
トン、とストリートのセカイに降り立ち、彰人はきょろきょろと辺りを見渡した。
「…そうだな」
一緒に来た冬弥がそう返してきて、彰人はゆっくり伸びをする。
「杏は部活の助っ人、こはねは学校行事だし…久しぶりにゆっくり練習出来るな」
「…ああ」
彼に笑いかけようとした彰人は、冬弥の歯切れが悪い事が気にかかった。
何かあったのだろうか?
「冬弥?何かあったのか」
「…。…別に、何も」
「何もねぇ奴はそんな顔しないって、何回も言ってるだろ」
聞けば暗い表情で首を振るから少しムッとした。
呆れながらも辺りを見渡し、近くにあったベンチに座らせる。
…もう少し頼れば良いのに。
そう、思った刹那。
ポロポロと冬弥の綺麗な瞳から涙が零れ落ちた。
思わずギョッとする。
「なんだよ、泣く事ないだろ?!」
「…え?」
声を上げれば冬弥はきょとんと彰人を見上げた。
「…俺は…泣いてなんか…」
「じゃあその涙はなんなんだよ」
はぁ、とため息を吐きながら彰人は冬弥の涙を拭う。
その行為でようやっと自分が泣いていることに気が付いたようだ。
「…あ…すまない」
「別に良いけど。どっか痛いとかじゃあないんだな?」
「…あぁ」
「ん、なら良い」
確認すれば冬弥はこくりと頷く。
それに今度こそ笑いかけ、彼を抱きしめた。
「…あき、と」
「気付かない内に疲れてたんだろ。ちょっと休めよ」
「…分かった」
背を優しく叩いてやれば冬弥は柔らかく頷き、少し体を預けてくる。
次第に体の力が抜け、完全にこちらへもたれ掛かってきた冬弥を抱き上げた。
冬弥は知らずにストレスを溜める節がある。
だから。
今日も誰も干渉しないセカイに連れてきた。
彼の音楽プレーヤーを抜き取り、ポケットに終い込む。
(だって、彼の音楽プレーヤーは役目を終えたのだから)


「…なんだよ、バレたかと思っただろ」
くすくす、彰人が笑う。
冬弥には聞こえないように。
涙を流した時はヒヤリとしたが何のことはなかった。
「冬弥はオレの相棒だもんな」
ハイライトを亡くした目で、彰人は嗤う。
眠る冬弥の髪を弄りながら。
世界に居ては彼は傷ついてしまう。
知らずに疲弊していく冬弥を見るのは嫌だった。
涙の一つまで誰にも渡さない。
だから、セカイに閉じ込めることに、した。
(彼が自分だけを見て感じて思ってくれる空間なんて、最高じゃないか!!)
セカイは色を変えていく。
そういえば、想いが関係しているのだっけ、と思い出し、彰人はニッと笑った。

想いが壊れた、ストリートのセカイで二人切。

雨のような電子音だけが遠くに響いていた。



箱庭療法を知ってるよ。
(誰かに見せる事はないけどな!)

不穏系類冬

「やあ、冬弥くん」
「…。…神代先輩」
図書室で見かけた彼に近づき、手を挙げる。
それに、冬弥もふわりとした笑みを浮かべた。
「久しぶりだねぇ。ここで会うのは…文化祭の前以来かな?」
「…そうですね。俺も委員の仕事があるのは久しぶりです」
類のそれに冬弥も乗ってくれる。
こうして彼がいる図書室で雑談をするのは存外楽しかったのだ。
「ねぇ、冬弥くん。君は空想の街というのを知っているかな?」
「…空想の街、ですか?」
首を傾げる冬弥に、そうだとも、と類は笑う。
「小説をよく読む君なら知っていると思ったのだけれど。空中庭園とか深海都市とかね」
「なるほど。それなら知っています。空想の街を舞台にした物語の話、ですね。いくつか読んだことがあります」
「…君ならどちらに行きたい?」
笑みを見せる冬弥に、類は問いかけた。
空想の話だ。
海か、空か。
下らない話だと思う。
だから、気軽に答えて良いよ、と言いかけ…目を伏せる彼に類は少し驚いたのだ。
冬弥は真面目だ。
それは知っている。
だからって。
「…そんなに真面目に考えなくても良いんだよ?」
「…そう、なんですか?」
「勿論。…君が海が好きか、空が好きかというだけの話さ」
「…そう、ですか」
類のそれに冬弥は寂しそうに笑みを浮かべる。
そうして、「俺は高い所が苦手なのでどちらかといえば海でしょうか」と言った。
だが、それは。
「…それは、君の本当の答えかい?」
「…え?」
きょとんとする冬弥に笑みを浮かべ、そっとその首に手をかける。
「…せん、ぱい?」
「君は、本当にいく事を…望んでいるのかな?」
「…!」
類のそれに冬弥は驚いたように目を見開いた。
「…冬弥くん?」
「…ちが、うんです」
「違う?あんなに迷っていたのに?」
「…。…空は、俺にとってはヒーローが手を差し伸べてくれる場所、なんです。眩しくて、目を伏せたくなるような」
小さく吐露する冬弥に、そのヒーローが誰かを聞きかけ…類は口を噤む。
それを聞くのは藪蛇だろう。
「…海が綺麗なだけではないことは知っています。だからこそ、堕ちてみたいと思いました」
「…。…僕がこのまま手に力を込めれば君は空に行けるかもしれないよ?」
微笑むと冬弥は少し考える素振りをし、そっとその手を類に添えてきた。
「…俺は、海に行きたいです。…神代先輩と共に」
「…僕と?」
予想外の言葉に類は金の目を驚きに染める。
「先輩は海の方が好きなのかと…。…違いましたか?」
「…ふふ。面白い子だねぇ、君は」
純粋な目で見つめる冬弥に類はくすくすと笑った。
確かに類は空に…天国に逝くよりも海へ身を投じる方を望んでいる。
だがまさかそれを冬弥に見破られるなんて。
「…なら、海に行こうか。いつか、共に」
「…はい」
首から手を離し、添えられていた冬弥のそれに口付けた。
それはまるでプロポーズのようで。
嬉しそうに笑む冬弥は…大層美しかった。


海へ行こう。

空想噺の、当の無い仮約束。

二人だけの秘蜜のそれは…ミルククラウンのように形造り、何事も無かったように失くなった。

共依存類冬

突然だが、神代類は青柳冬弥を監禁している。
いや、監禁というよりは軟禁に近いかもしれない。
何せ、外に出る以外のことは許可しているのだから。
「ただいま、冬弥くん」
「…。…お帰りなさい、神代先輩」
それでもこうやって彼は家で待っていてくれた。
最初こそ「…皆が心配するので、外に出させてくれませんか?」と言っていたが次第にそれも言わなくなったのである。
元々外には興味がなかったのかもしれない、と思った。
外に出たい、と言ったのも仲間たちとただ歌いたかったからだ。
冬弥が夢を持っているのは知っている。
歌を奪われる辛さも知っているし、辛い顔をする冬弥を見るのも嫌だった。
だから、会場や練習場には類が送り迎えをし、冬弥を一人で『外』には出さないようにしたのである。
セカイで練習しているのも教えてくれたからそれは外ではないと許可をした。
自分たち以外のセカイもあるのだなぁと思っただけで他人がいるわけではなかったからだ。
彼が嫌がるのは本意ではないのだし。
…類は冬弥が友人、仲間とする人以外には会わないようにしたのである。
ライブ会場では他人と出会う確率は上がるが…何故だが冬弥は誰にも『類に監禁されている』とは言わなかったのだ。
それどころか冬弥はライブや練習が終わると真っ直ぐに類の元に帰ってきた。
だから、類と付き合っているのだな、と思われても監禁されているとは思われなかったらしい。
お陰で相棒である彰人もあまり不審に思わなかったようだ。
好都合だな、と思う。
「今日は何かあったかい?」
「…いえ、特に何も」
「そう」
微笑む冬弥に、類も笑顔を向けた。
ただいま、と言って、お帰りと言われる。
これ程幸せなことはないな、と思った。


それが…唐突に崩れた。
「…は?」
誰もいない部屋に呆然とする。
セカイに行ったわけではないと分かったのは音楽プレイヤーが作動しておらず、何より彼の靴がなかったからだ。
どさりと荷物が手から滑り落ちる。
何故、彼が今更逃げたのかが類にはわからなかった。
「…冬弥くん?」
呆然とする類から彼の名前が溢れる。
今日に限って帰りが遅くなったことが悔やまれた。
まだ近くにいるかもしれないと部屋を飛び出る。
「冬弥くん!!」
「…せ、んぱい?」
叫ぶ類に届く、小さな声。
その方向に体を向ければ…道路でへたり込む冬弥の姿が…あった。
「?!冬弥くん?!」
「…すみません、俺…先輩がなかなか帰ってこないから心配になって…それで」
「…迎えに、来ようと?」
駆け寄る類にホッとした顔を見せ、冬弥が言う。
言葉をつまらせる彼に聞いてみればこくりと頷いた。
「…先輩がいないと、外がこんなに怖いなんて…今までそんな風に思った事も、なかったのに」
「…そう」
小さく吐露する冬弥に類はほぅっと息を吐き抱き締める。
「…神代、先輩?」
「…遅くなってごめんね、冬弥くん。…帰ろうか」
「…はい」
冬弥の返事にようやっと類も笑顔を作った。
彼がいない、それだけであんなにも心が冷えるなんて…思いもしなかった。
彼がいないと駄目なのは自分の方で。
一人でも大丈夫だった冬弥を依存させたのは…紛れもない類なのだ。
広がる闇に背を向け、類は冬弥に手を伸ばす。
しっかりと掴まれたそれに類は笑みを浮かべた。
それは、陳腐な名を付けるなら…愛が乞われた共依存。
もう戻れない関係に二人は融けていく。
(それを果たしてなんと呼んだら良いのだっけ?)

(それは、君次第だよ、と誰かが嗤った)

可愛い系類冬

いつものフェニックスワンダーランド。
いつものメンバー。
…とは違う人が、そこにいた。
「やあ、待たせたかな」
「…神代先輩」
声をかけると、ホッとしたように類を見る。
彼は青柳冬弥。
一つ下の、可愛い後輩だ。
そして、最近になり類とは恋人同士になった。
そこに至るまでに紆余曲折あったが…それは以下省略。
何はともあれ、彼は恋人で今日は初デートなのである。
「じゃあ行こうか」
「…はい」
手を差し出すとわずかに微笑み、それを乗せてきた。
初デートなのだから、と思うが冬弥は「…フェニックスワンダーランドが良いです」と言ったのである。
彼の幼馴染であり、ショーの仲間である司曰く、「ああ。冬弥は幼い頃からピアノやバイオリン一筋でやらされていたからな。そういった娯楽施設は行った事がなかったのだろう。最近になって彰人や音楽仲間と行ったようだが…。…恋人と行くのはまた違うんじゃないか?」、らしかった。
ならば、と待ち合わせを少しばかり遅い時間にしたのである。
乗り物ではしゃぐ歳でもなし、類たちの昼公演が終わってから園内を回ろうと言ったのだ。
あまり表情に出ない冬弥が嬉しそうにしていたから、このプランで成功だったのだろう。
「あの、先輩たちのショー、素晴らしかったです!特に、錬金術師が術を放った時の演出が…!」
「うんうん、あれは僕も渾身の出来でねぇ。上から見た時にも綺麗に映えるようにしてあるんだよ」
熱く感想を述べる冬弥にくすくすと笑いながら、ドローンの映像を見せた。
本来なら映像より、実際に見た方が美しさが伝わるのだが…。
「そうだ。冬弥くん。観覧車に乗らないかい?」
「…え?」
「実際に見てほしいんだ。装置の作動はこのスマホで出来るし…」
どうかな?と微笑む類に、冬弥はややあって頷く。
先程までとは違った態度におや、と思うが些か緊張しているのだと思った。
…それが過ちとは気付かずに。
観覧車までの道でも普通に見えたから、その違和感は気のせいなのだろうと類は笑顔を向ける。
ゴンドラに乗り込む際にも躊躇していたから、動いているものに乗るのが苦手なんだろうと手を引いた。
ダンスをやっていると聞いたから、動体視力や運動神経は悪くはない…はずなのだけれど。
不思議に思いながら、段々と上がっていくゴンドラに、類は、ほら、と冬弥に景色を見せようと振り返った。
「…え?」
隣に冬弥がいない。
勿論対面にもいない。
ならばどこに。
「…冬弥くん?!」
「…す、みま…せ…」
ガタガタ震えながら驚く類の服の裾を掴み、座り込む冬弥は普段より青白い顔をしていた。
まさか、と思う。
「…冬弥くん。君は高い場所が苦手、なのかな」
「…」
抱き寄せながら聞けば彼は僅かな躊躇の後、こくりと頷いた。
「…何故、言わなかったんだい?」
「…先輩の言う景色を見てみたくて。それに、先輩が居てくれるなら大丈夫だ、と」
無理したように言う冬弥に小さくため息を吐く。
びくりと震える彼を立たせ、隣に座らせた。
「…あの、先輩…?」
「乗ってしまったものは仕方ない。…気づくのが遅れてごめんね、冬弥くん」
「…いえ。俺も…言わなくてすみません」
不安そうな冬弥の髪を撫でる。
恋人に気を遣わせてしまった。
これは類の落ち度だ。
寄りによってシースルーゴンドラなのだ、高所恐怖症の彼には怖くてたまらなかっただろう。
現に今も類の腕に縋って震えていた。
「…ほら、こっちに」
「わっ?!」
ぐい、と、ゴンドラが揺れないように抱き寄せる。
…外が、見えないように。
「…あの、せんぱ…?」
「大丈夫だよ、冬弥くん。…今は僕だけを感じていると良い」
見上げてくる彼に優しく言えば、冬弥は小さく、はい、と言った。
ゴンドラが回り切るまでの間。
その時間が、彼にとって辛いものでありませんように、と…願った。



「冬弥くん?あの…何か飲み物を買いに行きたいのだけれど…」
「…すみません、まだ足が震えて…。…今離れるのは、嫌…です…」
「可愛いことを言うねぇ。このままじゃ綺麗な花火も見られないよ?」
「…先輩となら、どこから見ても綺麗です…から」
その後、地上に降りてからも暫く抱きついて離れない冬弥と、満更でもない顔の類が目撃されるのは…また別の話、である。