Fiorituren(へし燭現パロR-18

設定を読み大丈夫な方のみお進みください
ーーー



「こんなはずじゃなかった」
そう、長谷部くんが呟く。
口から溢れる紫の花。
嘘ばっかり。
本当は望んでたんでしょう?




僕は花埋病。
体から花が咲く病気。
花を抜いたら記憶を失ってしまう。
完治するには花を抜くしかない。
花で埋まってしまったら死んでしまうから。

「なんだ、長船。また体から花が生えてるぞ」
「え、うそ」
隣のベッドから聞こえる長谷部くんの声に僕は慌てて背を探る。
あ、本当だ。
今日は白い花。
「いいじゃないか、綺麗だぞ?」
「やめてよ」
笑う声に混じって花弁が落ちる。
…また法螺を吐いたんだね、嘘つき。

僕らは隔離病棟に入れられている、所謂モルモットだ。
僕は花埋病。
長谷部くんは花吐病。
嘘を吐く度に花を吐く病気。
完治する見込みはない。
唯一あるとするならば真実の××を飲み込むこと。
嘘が花になるなんて面倒じゃないんだろうか。
「長谷部くん」
「ん?」
こちらをみる長谷部君に僕は首をかしげ口を開く。

ねぇ僕のこと、好き?

「ああ、好きだ」
ぽろぽろ、紫の花。
ああ、ほら、また嘘。
「お前の病気の治し方は知ってるんだ」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
君がまた法螺を吹く。
窓から入る冷たい風が背中の白い花を揺らした。
ああ、僕は。
「きっと外に出ようね」
「きっとだ」
(嘘つき)
(そんな嘘に救われてる僕も大概なんだけれど)
ふと、院内コールが響いた。
「今日は俺か」
「そうだね」
音が止むと同時に長谷部くんがベッドから降りる。
掌を上に向けて腕を胸の前に平行に移動させた。
綺麗にお辞儀をする。
執事みたい。
僕もそれに続いてベッドから降りる。
入院着の裾をつまみ上げてぺこりとお辞儀。
「誠に残念ですが」
「とても遺憾でありますが」
「「貴方に適応する薬は見つかりませんでした」」
二人の声が重なる。
思わずぷっと吹き出した。
薬がないなんて慣れっこだ。
だって不治の病だもの。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
毎度の儀式もこなし僕は手を振る。
「…ぅ、あ」
長谷部くんが出ていってから僕はベッドに突っ伏した。
花があるから僕は生きれない。
花がないと記憶がなくなる。
記憶なんてなくてよかった。
なのに。
「…ばか」
君と出会ってから記憶が愛おしくなってしまった。
お願い。
君との記憶を捨てれない僕を殺して。
白い花を引きちぎる。
今度はなんの記憶がなくなってしまったの。
【早くこっちに来れば良いのに】
窓の外、ブーゲンビリアの上から誰かが笑った。
薬の副作用か、いつからか見えるようになった僕の分身。
嫌だ、誘わないでよ、僕は君とは違うのに!
白い花が赤く染まる。
【君はそうやって足りないものを赤で誤魔化すんだね】
五月蝿い、煩い煩い!
頭の中で怒鳴って、水の無い花瓶に花を投げ入れた。
ガラス窓をなぞる。
僕の、デキソコナイ。
…デキソコナイは僕の方だっけ?
もういい、分かんない。
それから溜まった花を囁き声で数える。
【ねえ、君はいつ死ぬの?】
…死ぬ時は、一緒だよ。



「…長船」
頭上から長谷部くんの囁き声がした。
どうやら眠ってしまったらしい。
「…長谷部、くん?」
うっすらと目を開けて囁き声で返した。
「この病気が治るかもしれない」
「…え?」
思わぬそれに疑問符を浮かべる。
何を、言っているの。
「…方法が一つだけあるんだ」
長谷部くんが笑った。
「…何?」
「お前と性交渉をする」
「…は」
「正確に言うならそういう事をしながら互いの花を食う。簡単だろう?」
不気味な笑顔で言う長谷部くんは花を吐いていない。
あまりに楽しそうだから言葉が出なかった。
「俺と生きよう、長船」
…ああ、神様

「…ぅ、あ、あっゃ、ら、ぁ…!」
「長船、長船…」
愛しそうに長谷部くんが僕に触れた。
僕の身体を突き花を食らう。
ぐちゃぐちゃ、もう分かんない。
「ふぁ、あ、はせ、長谷部く、ね、僕のこと、好き?」
「…ああ、愛してる」
ぽろぽろ、溢れたのは紫の花か別の何かか。
水音と僕のあえぎ声、それから長谷部くんの激しい息遣い。
君の声は細く、途切れずに聞こえてくる。
ああ、もう、分からないや。
「ひぅ、や、ぁあっ!はせ、長谷部く…!!」
怖くなって長谷部くんにすがった。
手を握り返してくれる、君が、好き『だった』よ。
僕らは奇病。花吐病と花埋病。決して治ることのない、病気。
「はせ、ぅく、ぁあっ!長谷部く…!」
「長船、大丈夫、大丈夫だ!」
笑った君が花を吐く。
「ふぁ、ひんっ、怖い、怖いよ…!」
僕は泣きじゃくりながら花を咲かす。
堕ちた、病棟。
午前五時半。
終わりにしよ?
きっとまだ間に合うから。
僕は花埋病。
咲いた花で埋まったら死んでしまう病気。
開花条件は、『 』を与えられること。
「ぅあ、ぁあっ!!」
びくんっと体が跳ねる。
快楽か、それとも花が咲いた振動か。
明かりはない。
花瓶に刺した花は萎れてしまった。
ねえ長谷部くん、僕知ってるよ。
君が花を吐く本当の条件を。
花を吐かなかったら君がどうなってしまうのか。
二人して眠りに溺れてしまうのも悪くないんじゃないかな?
「…ぅあ、君を殺して…僕、も…死にたい」
…ああ、何で何も言ってくれないの。
(君がそんな顔するから眠れないのに)
熱を吐き出されてとろとろと目を閉じる。
「…好きだ、愛してる…光忠…」
沈む、僕の耳に届く声。
「…ぼ、くも…」囁き声でやっと答える。
それくらい許してくれたっていいだろう?
ねえ神様。
君に明るい朝が来ますようにと、僕は目を閉じた。
(僕に訪れない朝を、君に)




「こんなはずじゃなかった」
長谷部くんが頭を抱えて呆然と崩れ落ちた。
目線の先では花を満開に咲かせた僕の体が運ばれていく。
…ああ、そうか。
長谷部くん、花は吐かなくなった?
大丈夫、僕が君にブーゲンビリアの花を降らせてあげるから。
(最期に僕が咲かせた、花)

しょうぶ(へし燭SSS・ワンドロお題)*R-15

「知っているか、光忠」
「・・・何が」
真向かいの光忠から不機嫌そうな声が返ってくる。
俺はぱしゃりと水飛沫を上げてその近くに寄った。
「しょうぶとあやめ、杜若は別物なんだぞ」
「・・・そう」
「しょうぶも、こうして菖蒲湯にする葉菖蒲とそこに咲く花菖蒲も別物だ」
「・・・へえ」
「なんだ、興味なさそうだな」
くすくすと笑えば、光忠がきっと俺を睨み付ける。
「君と二人でお風呂なんか入ってるんじゃなかったらもっと興味持ったよ、僕は!」
光忠が俺から距離を取り、ぱしゃぱしゃと水飛沫が跳ねた。
「何故そう警戒する?」
「君とお風呂ってのが一番信用ならないから!」
「つれないな。そんなに嫌なら上がればどうだ」
「ぜっったいに嫌!!」
俺から逃げながらも頑なに風呂から出ようとしない光忠にくすくすと笑う。
彼が風呂から出ない、そのわけは。

何の事はない、俺が勝負を持ちかけたからだ。
先にのぼせ、風呂から出た方の負け。
単純な賭け事。
「しかし、風呂は狭いからなァ?すぐに捕まえてしまうぞ?」
「!」
するりと光忠の腰を撫でる。
慌てたようにその身が引かれた。
・・・その先が壁とは気付かずに。
「ほら、もう逃げられないな?」
「・・・ふ、ぅ・・・!」
彼の腰を抱き、優しく撫で上げてやる。
それでも湯からは上がろうとしなかった。
まったく、負けず嫌いもいいところだな。

これが、どこまで続くやら。


ぱしゃぱしゃと水飛沫が跳ねる。
ゆらりたゆたう花菖蒲。

(勝負の行方は紫の花だけが知っている)

ゆめ/端午の節句(ねんへし燭ワンドロ)

「〜!!!!」
「まて、にげるな、みつ!!」
ばたばたと走る音に続き、俺・・・じゃない、ねん、ねんどろいどの俺、つまりへし切長谷部の声が聞こえる。
全く、何をやっているのだか。
「おい、何をして・・・?!」
襖を開ければ、ねん光、ねんどろいどの燭台切光忠が俺の手に飛び込んできた。
しかしなんだってこいつは半裸で怯えてるのだろうか。
「ああ、でかいの。ちょうどいい。みつをつかまえておけ」
「何が丁度良い、だ。ねん光怯えてるぞ」
刀を振り回していたねんが俺を見上げ言う。
取り敢えずねん光のずぼんを出してやりながらそう返した。
どうせまた要らぬ知識でねん光に迫っていたに違いない。
ねんは一番最近顕著したから遊ばれているのだ・・・己と同じ容姿、やめて欲しい。
ねん光も少しは抵抗すれば良いものを。
「で?今度はなんだ」
「こいのぼり、というものをくらうとつよくなるときいたが」
「鯉のぼりは飾る物だ。で?何故半裸に?」
「あるじよりこのぬのをたまわったのでな、これをはいたみつをくうのだと」
「よくそこまで飛来するな?!」
ねんの返答に思わず呆れた。
本当に俺かと問いただしたくなる。
「ねん光、お前も抵抗しろ」
「〜!〜!」
ねん光が涙目で俺を見上げ、首を振った。
同じ光忠の癖にこちらはどうも弱気だ。
・・・いや、抵抗したが押し切られたか。
どちらにせよ嘆かわしい。
「ねんくんたち 、おやつ・・・あれ、長谷部くん?」
頭上から降ってきた声に見上げると、光忠が皿を持ってきょとりとこちらを見下ろしていた。
ねん光が光忠に飛び付く。
「え?怖い目にあった?」
訴えるねん光に光忠が首をかしげた。
光忠はねん光の話している言葉が分かるらしい。
「ああ、鯉のぼりね。あれは飾るものだよ。食べるのはこっち」
くすりと笑い、光忠は皿にあった柏餅を指差した。
「餡子入ってるから美味しいよ。はい、ねんへしくん」
「つよくなるものか」
「勿論」
「・・・ならいただく。おい、みつ」
光忠から柏餅を受け取ったねんはねん光を呼び寄せる。
ぱっと表情を輝かせ、ねん光はねんの元へ駆けていった。
あんなにちょろくて大丈夫だろうか。
「・・・長谷部くん?」
「なんだ、何も言っとらんだろう」
「顔に出てるよ!」
もう!と声を荒げる光忠。
「ところでねんへしくんはどうして強くなりたいんだい?」
「きまっている。あるじのおやくにたち、みつをまもるためだ」
「・・・!」
「じゃあそのゆめを叶えるために頑張らなきゃ、だ?」
「むろん。でかいのよりつよくなるぞ」
「ふふ、楽しみだね。ね、ねんくん」
にこりと光忠が笑う。
・・・まったく。
「貴様に俺が超えれるとでも?」
「む、ずうたいがでかいだけのくせに」
ねんが俺を見上げにやりと笑った。
同じ顔なだけに腹が立つな・・・!
「ちょっと、大人げないよ、長谷部くん!」
「〜〜!」
「男には引けん時があるんでな・・・!」
「みつ、とめるな、これはおれがこえるかべだ・・・!」




端午の節句、それは子供のゆめの達成と成長を願う日。

(さりとて抜かれるのは許しがたいじゃないか!)

休日(へし燭SSS・ワンドロお題) *現パロ・リアルへし燭

『休日にすみません。久しぶりに会えませんか』
そう、彼からlineが来たのは3月も終わりのことだった。
彼は元職場の同僚で、この春から別の学校に移動になった長船先生だ。
俺より4つ下の23歳でそれなりに・・・まあプライベートで共に出かけるくらいには・・・仲が良い。
『久しぶりだな。何処か行きたいところでも?』
笑うと意外に可愛らしい彼を思い出しながらそう返した。
『特には・・・あ』
その次のメッセージに俺は少し固まる。
端から見れば何とも微妙な顔をしていたに違いない。
『ユニバ○サル・スタジオ行きませんか?』




「長谷部先生」
「ん」
ふわりと笑って駆け寄ってくる彼は可愛らしく、思わず笑みを溢した。
いつか見たようなタータンチェックのシャツに白のセーター、それにジーンズ、という格好はよく彼に似合っている。
「久しぶりだな」
「はい」
にこにこと笑う彼に、何故この時間?と聞けば混まないんですよ、とあっさり答えた。
そういえば前に、「夜のユニ○は楽に乗り物に乗れるんですよ」と女性講師に言っていたか。
「今の時期、そっちは忙しいんじゃないのか」
「だって、休日じゃないと会えないでしょう」
異動したばかりなら忙しかろうと聞けば、少し寂しげに彼が笑む。
そうだ、もう彼とは休日しか会えないのだ。
なら。
「昼は会えんが夜に会えば問題ないんじゃないか?」
「え?」
きょとんとする長船先生を引き寄せる。
驚いた表情の彼ににやりと笑ってから囁いた。
「勉強、教えてやるからうちに来い」
「・・・!」
綺麗な目を見開いて、彼は頬を赤くする。
それから嬉しそうに、はい、と微笑んだ。
「長谷部先生、意外と大胆なんですね」
「なんだ、知らなかったのか?」
困ったように笑う彼にそう言えば、長谷部先生、とくすくす笑う。
「もう同僚でもないのだし、先生はやめてくれ」
「え、でも」
「いいから」
そう言うと少し下を向いた。
「長船くん?」
「でも、長谷部さんって呼ぶのもあれだし、長谷部先輩・・・?」
そんな考え込まなくても、と声をかけようとした・・・その時。
「あ、国重さん!」
「?!」
ぱっと顔を輝かせる長船先生・・・。
いや、可愛らしいけれども!
「あ、ダメですね?!じゃ、じゃあ」
「・・・いや、構わないが」
俺の返答に彼はほっとしたように笑うのだった。

まるでジェットコースターに乗った時のような、そんな、お前と過ごす休日。





「いやでも俺、ジェットコースター乗れませんけどね」
「え、そうなんですか?!私、乗れると思ってましたよ、意外!」
「この間、ユ○バ行きましたけど駄目で」
(やっぱり俺は振り回されるのは性に合わない)

はじめまして/ひとめぼれ(ねんへし燭ワンドロ

「ずるい」
「え?」
ぶすくれた声に光忠と長谷部が振り向く。
「なんだ、大和守」
「君がそういうなんて珍しいね、安定君」
「僕だってねえ・・・」
ふるふると震えていた安定がびしりと指を差し、二人を睨む。
「ねんどろいど欲しいですよ!!!」
指を差した先、そこにはねんどろいどの長谷部と光忠が仲睦まじく菓子を食べていた。
長谷部と光忠の二人もそれを見ながら休憩を取ろうと思っていた矢先である。
「何、俺じゃ不満?」
「なんだよ、お前もねんどろいるくせに」
安定の肩に顎を乗せるのは清光だった。
むっとしつつそれでも態度を軟化させる安定。
それにほっとしていると隣の光忠がくすくすと笑う。
「でも、あの二人の『初めまして』はあんまり良いものじゃなかったんだよ?」
「そうなんですか??」
光忠のそれに安定が驚いた表情をした。

それは、そう。
ある雨の日の事。

主が連れてきたのは小さな自分、『ねんどろいど』というへし切長谷部だった。
何処からどう見ても自分そっくりで、己がもう一人いるようだな、と長谷部は溜息を吐く。
「あるじはおれをつかってくださるだろうか」
「お前が部隊長として鍛錬すればな」
目をきらきらさせて言うねんどろいどに長谷部はあっさり言ってやった。
「むろんだ。あるじさまのおやくにたてねばかたなではない」
「では、今の部隊長に挨拶でもしておけ」
言い方もそっくりで、己を見ているようで少々腹立たしく思いながらも首根っこを引っ掴む。
「おい!かりにもおれはおまえだぞ!」
「お前はお前だろう。俺はお前の様な体躯ではない・・・おい、燭台切!」
「どうかしたのかい?長谷部くん」
ある部屋の前で彼を呼ぶと、ひょこりと顔を出した。
「ねんどろいどの俺だ」
「ああ、顕著したんだね。初めまして、燭台切光忠だよ」
「・・・ああ」
短く言うねんどろいど長谷部にくすりと光忠が笑う。
「じゃあ僕のねんどろいども紹介しておくね。・・・ねんくん!!」
「・・・?」
光忠の声に、机の上に居たねんどろいどの光忠が燕尾の裾を揺らして下りてきた。
途端、小さな己の目が見開きぶわりと桜が舞う。
とてて、と駆け寄った己の分身は何かを彼に囁いて。
ねんどろいど光忠の目が驚いたように開かれ、わなわなと震え出した。
それから。
「〜〜!!!!」
凄まじい肌を打つ音が聞こえたと思ったらねんどろいど長谷部の頬が真っ赤に腫れていた。
思いもよらぬ事態にこちらは・・・ねんどろいど長谷部もか・・・ぽかんとするばかりである。
「・・・は?」
「え?
「ちょ、ねんくん?!!」
ぱたぱたと走り出したねんどろいど光忠を、光忠が慌て乍ら追いかけようとし、「ごめんね、良く言っておくから!!」とこちらに声をかけた。
「待って、ねんくん!!」
「・・・お前、ねん光に何言ったんだ」
「・・・。・・・おれは」
光忠を見つめつつ、そうこっそり聞けばねんどろいど長谷部がぶすくれたように言う。
「おれのものにしてやるからおれのもとへこいといっただけだ」
「・・・」
「ひとめみてほしいと、そうおもった」
その返答に長谷部は宙を仰いだ。
やはりこれは自分の分身なのだと。
嗚呼、恋を自覚した己と同じではないか。
流石に自分は口に出したりしなかったけれど。
「・・・。・・・あのな、ねん。あいつにも一応刀としてのぷらいどがあってだな・・・」
はあ、と溜息を吐き出し、長谷部はそう切り出した。
もう一人の自分ともう一人の光忠だ。
くっつくのもそう遠くないだろうと、思いながら。


(そういえば自分も一目惚れだったな、と思い出す


彼と、自分との初めまして)

はじまりはきみと(光忠受けワンドロ・大太刀長谷部×織田時代光忠

「出来ちゃった♡」で三種三様(光忠受け)

「大倶利伽羅さん」
縁側に座っていた彼に僕はにっこりと笑って見せる。
「慣れ合うつもりはない」とか言いながら意外に付き合ってくれる事を僕は知っていた。
「・・・何だ」
「ちょっと来てくれません?」
そう言いながら彼を引っ張る。
「面倒事はごめんだ」
「まあまあ、そう言わず」
嫌な顔をする大倶利伽羅さんに僕は笑いかけた。
それでも着いてきてくれるのだからいい刀なんだと思う。
「いーから早く来てよ、へし切!」
「だからへし切と呼ぶなといつも言って・・・!」
向こうからは清光に手を引かれた長谷部さんがやって来るのが見えた。
あちらも僕に気が付いたみたいで、にやりと笑う。
僕らが向かう先には黒い装束の「彼」。
「いたいた、燭台切さーん!」
「お待たせしました、光忠さん!」
「は・・・?燭台切?」
「光忠・・・??」
「あ、長谷部くん、倶利伽羅も」
にこりと彼・・・光忠さんが微笑む。
本当に綺麗な笑みを見せる刀だ。
清光も見習えばいいのに。
「・・・ちょっと、安定?!」
「いた、痛いなあもう。何すんの」
「何すんの、じゃないよ、ったく」
清光がぶすくれるけど、今はそんなこと良いんだ。
だって。
「あのね、二人とも」
すい、と光忠さんが息を吸う。
僕らはそっと下がった。
おずおずと光忠さんが何かを二人に向かって差し出す。
「・・・出来ちゃった」
「・・・は??」
ぽかんとした声がぴたりと揃った。
「出来たって、何が・・・」
「やだなあ。これ見ても分からないの?」
ひょこりと清光が顔を出す。
僕もその後に続いた。
「主の時代の・・・妊娠検査薬ですよ」
「妊娠・・・?まさか、燭台切、お前」
「やや子が・・・?」
「・・・うん」
二人の問いに光忠さんが嬉しそうにお腹に手を添えて頷く。
・・・なんだ、光忠さんものりのりじゃないか。
ちなみにというかなんというか、これは真っ赤な嘘だ。
二人があまりにも無鉄砲に出陣するから分からせてやりたい、協力してくれないかな?なんて言われれば協力せざるを得ないよね。
まあこれで信じるなんてこともない・・・。
「まさか俺の子が出来るとは・・・」
あ、信じるんだ?!!
意外と純粋なんだろうか。
「・・・大倶利伽羅は兎も角、へし切まで信じちゃったよ」
どーすんの、と耳打ちしてきたのは清光だ。
知らないよ、そんなこと、と目で訴える。
呆然としていた内最初に動いたのは大倶利伽羅さんだった。
自分の上着を脱ぎ、すっと光忠さんの肩にかける。
おお。
「・・・倶利伽羅?」
「体を冷やすな。やや子に障る」
「・・・うん」
へにゃりと光忠さんが笑う。
所謂『すぱだり』ってやつかな。
「・・・待て。お腹の中の子は俺の子だろう?」
「・・・」
「長谷部、くん」
長谷部さんが光忠さんの白い手を取る。
見た事の無い表情で微笑んで。
「順序が遅くなってすまない。・・・光忠、俺と華燭を燈さないか」
「・・・!」
かあ、と光忠さんの顔が赤く染まった。
告白なんてよくやるよね。
なんて思いながらふと横を見ると清光が固まっていた。
・・・あー、こいつも好きだわ、こういうの。
ほんと、どうしてくれようかなあ・・・。
「・・・織田に居ても光忠は幸せになれない」
固い声に長谷部さんがむっとする。
「何だと?」
「光忠は伊達の刀だ。光忠は俺が護る」
「・・・はっ、聞いて呆れるな。顕著したのは俺の方が先だ。その手を離せ、大倶利伽羅」
「え、えと、長谷部くん?倶利伽羅???」
予期していなかった事態におろおろと光忠さんが二人を見た。
「嫁入りは俺の元と道理が決まっている」
「自分勝手だな。それで光忠が幸せになれると思っているのか?」
・・・ええと、この二人仲良くなかったっけ???
やっぱり光忠さんの事となると違うのかな。
と。
黒い影が落ちた。
「じゃあ黒田に嫁入りしろや」
「・・・日本号さん」
きょとん、とした顔で光忠さんが振り仰ぐ。
うわあ、またややこしいのが。
何時から聞いてたんだろう。
「貴様、日本号、俺の光忠に許可なく触れるな!」
ぐん、と長谷部さんが光忠さんの肩を抱いた。
むっとしたように日本号さんと大倶利伽羅さんが長谷部さんを見る。
「へえ?誰が誰のだって??」
「光忠を織田に嫁がせた覚えはない」
「織田じゃない、俺の元に、だ!」
「やめとけやめとけ。お前のところなんかにやったら燭台切が可哀想だ」
「何?!!飲んだくれの貴様が幸せにできるとでも?!」
「光忠は俺が娶る。お前らなんかじゃない」
日本号さんが光忠さんを背後から抱き、大倶利伽羅さんが長谷部さんの反対側の腕をとった。
わあ、何か大変そう。
「・・・燭台切さん」
「・・・ん?」
とてて、と清光が光忠さんに近付く。
あわあわしながら、彼の口元は綻んでいた。
・・・ああ、なんだ。


――今、幸せ?
――うん、幸せだよ



(おまけ・大太刀長谷部×織田時代光忠)
「国重様!」
可愛らしく駆けてくる刀、末の光忠を抱き留めて「どうした」と聞いてやる。
「国重様、光忠、出来ちゃいました!」
「何がだ」
ひょこひょこと跳ねる可愛らしい様子に目を細めていたが次の言葉に思わず固まった。
「やや子です!」
「・・・は?」
「ですから。やや子が出来たのですよ、国重様!」
無邪気に笑う様子はそれはそれは可愛らしいが、はて何を言い出すのだろうか。
「・・・。お気に召しませんでしたか?」
「・・・うん?」
不安そうな様子で光忠が首を傾げる。
何を、言っているのだろう。
「どういうことだ」
「そう言えば国重様が喜ぶと教えて頂いたのですが・・・」
いけませんでしたか?と光忠が純粋な目で問うて来た。
つまり、悪い大人に弄ばれたのだろう。
・・・まったく。
「光忠よ」
「はい、国重様」
光忠を抱き上げ、目を合わせる。
「やや子が出来たと言うのは嘘なのだろう?」
「そ、れは・・・」
「嘘は、良くないな」
不安の色を濃くする藤色の瞳にそう言ってやれば涙をにじませた。
如何すれば宜しいですか、と必死に問うてくるのが可愛らしい。
嗚呼、だから大人に遊ばれるのだと言うに!
「嘘を真にすれば良い」
「・・・嘘を・・・真に・・・んんぅ!!」
俺の言葉を反芻する光忠に口吸いを施す。
黒の着流しを崩し乍ら、ぽやりとする光忠に笑いかけた。
「本当に孕ませてやる。・・・今宵は覚悟しろ。良いな?」
「・・・は、い」

藤棚の花が夜風に戦ぐ。
今夜も長くなりそうだ。

愛おしい君へ(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

午前・・・いや、もうすぐ午後


太陽の照り付けが今一番激しい、そんな時間帯





「遅いなぁ・・・」
窓際にぼぉっと頬杖をつきながら呟いた言の葉はどこか自分のものとは違う感覚を呼ぶ。
自分用にと与えられた部屋ではなく、今いるのは長谷部の部屋だった。
「・・・今日帰るって言ったのに」
拗ねたように呟く。
今日は、遠征に行った長谷部が帰ってくる日だったから。
一ヶ月ぶりに彼に会える日だったから。
朝からそわそわしていれば清光が「もー部屋で待ってれば?」と背を押すから素直に来てしまったのだ。
・・・家主のいないこの部屋に。

窓辺に座って外の様子を伺っては空を見上げる。
既に時間は先程から3時間は経とうとしていた。
夕方の、紺でも碧でもない、赤が混じった藤色。
自分とは違う、紫色の瞳。
優しく眇め、時に意地悪な笑顔を見せる、彼。
光忠は彼の目が好きだった。
見つめられると意抜かれたように動けなくなる。
彼女を見る優しい瞳。

早く帰ってきてほしい。
普段そんな言葉を口にしないから。
「・・・早く帰って来ないかなぁ」
肘をついていたのを下ろし、その伏せた腕に顔を埋める。
・・・と。
「・・・ん・・・?」
窓辺の隅に置かれていた小さな箱が目に付いた。
腕を伸ばし、その箱を引き寄せる。
「なんだろう、これ」
蓋を開けても何も入っていないし、ただの古い箱なのかと思ったが、ひっくり返すと小さなねじが付いてた。
そのねじを訝しみつつ、慎重に回す。
「・・・あ・・・」
もう一度開けると共に音楽が流れてきた。
聞いたことの無い曲だが、とても綺麗だ。
「自鳴琴だったのか」
小さく微笑むと、ふと中に挟まっている紙に目がいった。
「・・・?『愛しの君へ』・・・?」
開けるとそんな題名が飛び込んでくる。
手紙だろうか。
「『普段口に出来ないことを此処に書き記そうと思う。
俺は燭台切光忠、彼女を愛している』え、何これ」
柔らかい音に乗せて手紙は愛を告げていた。
思わず顔が紅くなる。
『初めて顕著したときは驚いた・・・記憶の中、男だと思っていたのが女性型だったからだ。可憐な刀だという印象は変わらなかったが見た瞬間に胸が高鳴ったのを今でも覚えている。あの綺麗な刀を俺のものにしたいとどれ程願ったか。だから光忠が俺の告白を受け入れてくれた時、本当に嬉しかった。世界はこんなにも明るいのだと。
光忠は俺に光をくれる。彼女は俺が光だと思っているが、それは違う。彼女、燭台切光忠ほ俺の光だ。
俺はこの遠征から帰った時、彼女をめとりたいと思っている・・・愛おしい、光忠』
「・・・光忠」
ふいに耳元で声が聞こえる。
驚く光忠の背後から温もりが伝わってきた。
「長谷部、く」
「これから、毎日俺の帰りを待っていてくれないか」
「え、と」
「・・・俺と、結婚してくれ」
「!!」
振り向いた彼女が見たのは息を切らし、微笑む長谷部だった。
嗚呼、これだから。
ふわり、と頭から白い布がかけられる。
簡易なそれは恐らく花嫁がつける綿帽子。
「汝、燭台切光忠は、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓うか?」
「・・・誓います」
へりゃりと笑う。
そのまま彼の胸に飛び込んだ。

愛しい貴方がいるから


いつだって幸せです

初恋(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

つまらない場所だと思った。

「今晩は、長谷部様」
「これはこれは。この度はお招き頂きまして・・・」
本当に退屈だ。
こんなダンスパーティー、早くやめてしまえばいい。
そう鬱々と思いながらも、長谷部は綺麗な笑みを張り付けた。
嫌ならば行かなければ良い、と人は言うが長谷部はそういう立場ではない。
長谷部は隣国の王子だった。
金や権力のある貴族とは友好関係を築かなくてはならない。
だから興味もないダンスパーティーに出掛け、顔を売っているのだ。
此処の当主に会うのは確か2度目、気難しい彼に上手く近づき、この場に取り付けたのである。
つまらない、と言っている場合ではないのはわかっていた。
(それにしても同じ話ばかりだな)
笑顔を張り付け、長谷部は思う。
何故貴族というのは同じ話ばかりなのだろう。
「・・・ん?」
と、大広間より先、エントランスホールに一人の少女の姿が見えた。
黒いドレスに同系色の短い髪。
ダンスの相手を探しているわけでもない。
かといって帰ろうとしているわけでもない。
ぼんやりとその場に佇んでいるその様子に、長谷部は目を離せなくなった。
「失礼、質問をしても?」
「どうかしましたか?」
「あの少女は?」
当主の話を遮り、長谷部は聞く。
「ああ、あれですか。一人娘の・・・おい!」
「・・・?」
当主に呼ばれ、娘が振り返った。
不思議そうな金の眸は片方を隠している。
すらりと伸びる手足は透き通るような白。
それに良く映えるような漆黒のドレスに大きなリボンはセクシーさと共に彼女のあどけなさを表しているようで。
綺麗だ、と思った。
感動するとまあこんなにも言葉が出ないものかと長谷部は小さく笑う。
それほどまでこの少女は美しかった。
歳はいくつだろうか。
名前は?
声は?
気になる点はいくつもある。
が、どれも言葉には出来ず、長谷部はいつも通りの笑みを形作り、近づいてくる娘に手を挙げた。
とてとてと当主に近付き、背に隠れてしまう。
初心な様子はそれだけで長谷部をそそった。
「こら、挨拶をしないか」
「・・・」
叱る当主にびくりと躰を震わせて、少女はおずおずと顔を見せる。
長谷部を見上げ、小さく会釈をした。
その様子はとても可愛らしい。
「いや、無理をしなくていい。あそこで何をしていたんだ?」
優しく聞くと少女は少し考え、ふわりと笑った。
「星を、見ていたの」
「星?」
「ええ」
少女が微笑む。
それから慌てて当主の背に隠れた。
恥ずかしがり屋なのだろうか。
見上げれば確かにエントランスホールの少し先から外の景色が見えた。
しかし、舞踏会に来て星を見るとは。
変わっているなと思った。
「いや、変わった子で」
「ダンスパーティーだからと言って必ず踊らなければならないと言う規定もないでしょう。・・・俺は素敵だと思いますがね」
申し訳なさそうな当主に長谷部は笑う。
すると安心するように少女が再び顔を出した。
「星・・・好きなのですか?」
「うん?」
「あの、えと、こっちに星が綺麗に見える場所が、あるんです!」
「こら、光!」
長谷部の袖を掴み、当主に「光」、と呼ばれた少女が嬉しそうに言う。
「・・・あ・・・」
「・・・。連れて行ってくれるか?」
不安そうに見上げる少女に長谷部は優しく笑って言ってやった。
「・・・!はい!」
ぱあ、と少女が嬉しそうに笑う。
成程幸せとはそういう事かと思った。


今思えばこれは恋だったのだろうと思う。
長谷部にとって、初めての恋。


「おっかえりー長谷部」
「国重様、良い娘は見つかりました?」
「・・・加州、乱と薬研に連絡を。大和守、此処の家を余すところなくすべて調べろ」
「「・・・我が王の命ずるままに」」


ーー
高塔の姫(R-18)の前日譚

童話パロ(光忠♀ワンドロ・燭♀総受け

深々と雪が降り積もる。
それはクリスマス・イブのことだった。
「光忠は相変わらず可愛いなぁ!!」
「お、狡いぞ!俺も光忠を可愛がりたいんだからな!」
「もう、僕は可愛くないよ??」
少女を囲み大人たちが騒いでいる。
その中心にいる少女、光忠はそう言いながらもにこにこと嬉しそうだ。
「そら、プレゼントだぞぅ!」
「ありがとう、国永さん!」
小さな包みを受け取り、ぱあと顔を輝かせた光忠はそわそわと叔父である五条国永を見上げた。
開けてみろと本人よりそわそわしている国永に言われ、光忠は包みを開ける。
そこには口の大きな、肌の浅黒い兵隊が横たわっていて、光忠はぱちくりと目を瞬かせた。
「・・・お人形?」
「どうだ、驚いたか!」
「どうしてお口が大きいの?」
「ああ、それはな。こうして」
ひょいとそれを取り上げ、テーブルに乗っていた栗を一つ取り、人形の口の中に入れる。
音を立てたかと思うと栗の殻が綺麗に剥けた。
「栗の殻を割る人形だぞ!」
「うわぁああ!!」
驚いた声を上げる光忠に、気を良くした国永がその黒い髪を撫でる。
すごい!と跳ねる彼女のフレアスカートがぴょこぴょこ揺れた。
・・・と。
「気味の悪い人形だな」
その、不機嫌そうな声に光忠は振り返る。
そこには従兄である長谷部国重が立っていた。
つかつかと歩いてきた国重が光忠の手から人形を取り上げる。
「か、返してよ!!国重兄様!」
「はっ、こんな人形、こうして・・・」
必死に手を伸ばす光忠を無視し、国重は人形の口に栗を無理に突っ込んだ。
ガキッと奇妙の音がして大きな口から木の破片が飛び出す。
「あ〜!!!」
普段は出さない悲鳴を上げ、ふるふる震えた光忠はキッと国重を睨み付けた。
「な、なん・・・」
「国重兄様のばかあ!!」
「・・・なっ!」
怒鳴り、わんわんと泣き出す光忠に、あーあと声を上げたのは国永、呆れたように国重の頭を撫でたのはもう一人の伯父、日本号金房だ。
「意地悪したい年頃って言ってもなあ」
「う、五月蠅いぞ、日本号!光忠もそれ如きで泣くな!大体五条がこのような人形を買ってくるから・・・!」
「なんだよ、俺の所為ってかぁ?」
「ほら、泣くな泣くな。おじさんが直してやるから」
「・・・っく、ふぇ・・・ほんと・・・?」
「ああ」
泣きじゃくる光忠の頭を優しく撫で、金房は人形を取り上げる。
「これをこうして・・・ほら、どうだ?」
得意げに見せられた人形は先程と寸分狂わず動いていて、思わず目を見開いた。
隣にいる国永や国重も驚いた表情をしている。
「ほう、これは驚いた」
「・・・金房おじさまぁ・・・!すごい!ありがとう!」
抱き付くと金房は嬉しそうに頭を撫でてくれた。
「いやいや、気にすんな」
「僕、ベッドに寝かせてくる!!」
ぎゅっと人形を抱きしめ、光忠は部屋にかけ戻る。
その場には罰の悪そうな表情の国重が残った。



「ん・・・」
低い時計の音に光忠はふと目を開ける。
どうやら人形を寝かせて、その傍らで眠ってしまったらしかった。
あの鐘の音は12時を知らせるもので、もうパーティーはとうに終わってしまったかと思うと少し哀しくなる。
金房や国永には会う機会も少ないのに。
「僕・・・。・・・え?」
ふ、と宙を仰いだ。
天井が高い。
ベッドが異常なほど広く感じた。
「え?え??」
驚いたのはその所為だけではない。
「姫を連れ出せ!姫を探せ!姫は何処だ!!」
開いた窓から、七つの頭を持つはつかねずみの王が指揮する、はつかねずみの大群が押し寄せてきたのだ。
「ひっ・・・」
「姫を連れ出せ!姫を探せ!姫は何処だ!!」
光忠を目掛けてねずみたちが声を揃えて向かってくる。
恐怖と言ったらなかった。
「や、やだ、国重兄様!助け、て!!たすけてぇえええ!!」
「待て」
ぎゅうと目を瞑る光忠の頭から降って来た声は国重・・・ではなく。
「・・・え?」
貰ったはずの栗を割る兵隊人形がねずみに龍の刻印が入った剣を向けていた。
それからの展開は早く。
ねずみを次々になぎ倒し、ついに王冠を被ったねずみのみになった。
「姫は渡さぬ!我が王国に連れ帰り嫁とするのだ!」
「させん」
咆哮を上げるねずみの王に向かって人形が剣を振り上げる。
「が、頑張って!」
思わず声をかけると人形が振り返り笑った・・・気がした。
「・・・ぐっ・・・」
しかしねずみも王というだけあり強さも段違いで、人形は劣勢となる。
また先程の様に壊れてしまったらと思うと気が気ではなかった。
バラバラになった人形が思い返され、ぞくりと背を震わせる。
もう見たくなかった。
「だ、だめぇええ!!」
思わず叫び、傍に有った腕時計を投げる。
「ぐあ・・・っ」
頭の一部に当たったねずみが断末魔を上げて倒れた。
瞬間、煙と共にいなくなりぽかんと部屋を見渡す。
これはまだ夢なのだろうか?
「・・・光忠」
名を呼ばれ、光忠は振り返る。
目を丸くし、『彼』を見上げた。
栗を割る人形は青年となり、光忠に笑みを向けている。
いつのまにか部屋の鍵は元の大きさに戻っていた。
「あんたは俺を二度も助けてくれた」
「・・・え、えと」
「礼を言う」
「れ、礼だなんてそんな」
膝まづく青年に光忠はぱたぱたと手を振る。
この綺麗な青年にそう言われると何だかくすぐったかった。
それからふと首を傾げる。
「・・・どうしてお人形さんだったの?」
「これは呪いの所為だ。昔、あんたにそっくりの姫を助けた代償でこの姿にされた」
「そ、そうなんだ・・・」
青年のいう事は非現実だが何時唯は素直に頷いた。
あの光景を見れば誰だって信じるであろう。
「俺の名は倶利伽羅。・・・あんたを俺の国に招待したい」
「・・・うん!」
大きく頷いた彼女を抱き上げ、青年・・・倶利伽羅は金の目を細めた。
「行こう」
「・・・待て!行くな・・・光忠!!!」
何処から現れたのか大きな扉を開けて倶利伽羅が足を踏み出そうとした瞬間、国重の声が聞こえた気がして光忠は金の目をぱちくりと瞬かせる。
「国重・・・兄様?」
振り返るが白い扉は閉められた後で。
彼女のフレアスカートがふわりと風に揺れた。