今日のおやつ(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠

からり。
透明な硝子瓶に入れた小さなそれが音を立てる。
「国重さま!」
無邪気なそれに顔をそちらに向ければ人形のように愛らしい刀がかけてくるのが見えた。
ずるずると黒い着流しを引きずらせてくる小さな一振り、名を光忠と言う。
「国重さま!今日のおやつはなんでしょう!!」
俺の顔を見るなりそういう光忠に思わず吹き出した。
「あ、あれ?」
「光忠よ、何か他に言うことは?」
「あ、おはようございます、国重さま!」
「良い子だ」
ぱっと求める答えを導きだした光忠の、烏羽のような髪をくしゃりと撫でる。
嬉しそうな表情の少年を抱き上げ、膝の上に乗せた。
「今日はこれだ」
「!こんぺとー、ですね!」
からりと瓶を振れば自信に満ちた表情で振り仰ぐ。
「おしい。金平糖、だ」
小さく笑って瓶の蓋を開けてやった。
手を出せと言えば慌てて小さな掌を上に向ける。
そこに零れ落ちるは金平糖。
紫の、小さなそれ。
「こん、ぺーとは綺麗ですね!国重さまと同じ色をしています」
「そうか?この淡い色はお前の様相をしているが」
一粒つまみ上げ、口のなかに放り込む。
ほら、刺がありながら脆く、中身は甘ったるいところまでそっくりだ。
透明な瓶の中に一粒だけ残した、金平糖がからからと音を立てた。

奇病へし燭設定

残響Pの「隔離病棟」&「ブーゲンビリアは咲かない 」からインスパイアされた作品です。

花吐病長谷部×花埋病光忠という特殊作品


・花吐病長谷部→光忠への片想いを拗らせ発症。法螺を吹くと花を吐く…訳ではなく光忠に対しどうしようもない感情が溢れると花が零れる。花を吐くとその感情は消える(やがて全ての感情が消失)吐かなければ死。完治の為には真実の愛を飲み込む(両想いになる)必要が。
・花埋病光忠→長谷部が吐いた花弁を飲み込んだ事で発症。幸福を与えられその身に感じる事で背から花が咲く。抜くと昔の記憶が無くなる(やがて全ての記憶が消失)抜かなければ死に至る。記憶の上書きが幸福に勝ると完治する可能性が。長谷部の想いは嘘だと思っている。

小ネタ
・長谷部は自分が光忠の病気を発症させたのを知ってる(冒頭のこんなはず〜はそれ)
・性行しながら〜ってのを教えたのは長谷部の主治医である日本号か看護師の鶴丸か薬剤師の一期。
・光忠の主治医は薬研、管理栄養士は倶利伽羅(25歳で光忠に「ひろくん」と呼ばれている。光忠は光呼び)、病院長は三日月、外科医は明石(苦労性)と博多、心療内科医(カウンセラー)は不動。
・貞宗は廣光の従弟、高2。小学校、中学校時代から満田だとは親友。「みっちゃん」「さだちゃん」と呼び合う仲で、大好きな光忠を花埋病にした国重がだいっきらい。
・隣の病室には指宝病(指先から感情が宝石となって落ちる病気)の安定と涙宝病(涙が記憶と共に宝石となって零れる病気)の清光がいる。二人の主治医は長曾根と信濃。
・光忠が言うデキソコナイは薬による幻覚。実は長谷部にも頭身が高い自分が見えてる。
・元々長谷部と光忠はお隣同士で仲も良かった。長谷部が奇病で入院してからも毎日お見舞いに行っていたがある日病院の関係者に病院の屋上庭園へ連れていかれ、そこで振る舞われた料理の中に長谷部の花弁が混じっていて発症に至った。光忠の病を発症させたのは

Fiorituren(へし燭現パロR-18

設定を読み大丈夫な方のみお進みください
ーーー



「こんなはずじゃなかった」
そう、長谷部くんが呟く。
口から溢れる紫の花。
嘘ばっかり。
本当は望んでたんでしょう?




僕は花埋病。
体から花が咲く病気。
花を抜いたら記憶を失ってしまう。
完治するには花を抜くしかない。
花で埋まってしまったら死んでしまうから。

「なんだ、長船。また体から花が生えてるぞ」
「え、うそ」
隣のベッドから聞こえる長谷部くんの声に僕は慌てて背を探る。
あ、本当だ。
今日は白い花。
「いいじゃないか、綺麗だぞ?」
「やめてよ」
笑う声に混じって花弁が落ちる。
…また法螺を吐いたんだね、嘘つき。

僕らは隔離病棟に入れられている、所謂モルモットだ。
僕は花埋病。
長谷部くんは花吐病。
嘘を吐く度に花を吐く病気。
完治する見込みはない。
唯一あるとするならば真実の××を飲み込むこと。
嘘が花になるなんて面倒じゃないんだろうか。
「長谷部くん」
「ん?」
こちらをみる長谷部君に僕は首をかしげ口を開く。

ねぇ僕のこと、好き?

「ああ、好きだ」
ぽろぽろ、紫の花。
ああ、ほら、また嘘。
「お前の病気の治し方は知ってるんだ」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
君がまた法螺を吹く。
窓から入る冷たい風が背中の白い花を揺らした。
ああ、僕は。
「きっと外に出ようね」
「きっとだ」
(嘘つき)
(そんな嘘に救われてる僕も大概なんだけれど)
ふと、院内コールが響いた。
「今日は俺か」
「そうだね」
音が止むと同時に長谷部くんがベッドから降りる。
掌を上に向けて腕を胸の前に平行に移動させた。
綺麗にお辞儀をする。
執事みたい。
僕もそれに続いてベッドから降りる。
入院着の裾をつまみ上げてぺこりとお辞儀。
「誠に残念ですが」
「とても遺憾でありますが」
「「貴方に適応する薬は見つかりませんでした」」
二人の声が重なる。
思わずぷっと吹き出した。
薬がないなんて慣れっこだ。
だって不治の病だもの。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
毎度の儀式もこなし僕は手を振る。
「…ぅ、あ」
長谷部くんが出ていってから僕はベッドに突っ伏した。
花があるから僕は生きれない。
花がないと記憶がなくなる。
記憶なんてなくてよかった。
なのに。
「…ばか」
君と出会ってから記憶が愛おしくなってしまった。
お願い。
君との記憶を捨てれない僕を殺して。
白い花を引きちぎる。
今度はなんの記憶がなくなってしまったの。
【早くこっちに来れば良いのに】
窓の外、ブーゲンビリアの上から誰かが笑った。
薬の副作用か、いつからか見えるようになった僕の分身。
嫌だ、誘わないでよ、僕は君とは違うのに!
白い花が赤く染まる。
【君はそうやって足りないものを赤で誤魔化すんだね】
五月蝿い、煩い煩い!
頭の中で怒鳴って、水の無い花瓶に花を投げ入れた。
ガラス窓をなぞる。
僕の、デキソコナイ。
…デキソコナイは僕の方だっけ?
もういい、分かんない。
それから溜まった花を囁き声で数える。
【ねえ、君はいつ死ぬの?】
…死ぬ時は、一緒だよ。



「…長船」
頭上から長谷部くんの囁き声がした。
どうやら眠ってしまったらしい。
「…長谷部、くん?」
うっすらと目を開けて囁き声で返した。
「この病気が治るかもしれない」
「…え?」
思わぬそれに疑問符を浮かべる。
何を、言っているの。
「…方法が一つだけあるんだ」
長谷部くんが笑った。
「…何?」
「お前と性交渉をする」
「…は」
「正確に言うならそういう事をしながら互いの花を食う。簡単だろう?」
不気味な笑顔で言う長谷部くんは花を吐いていない。
あまりに楽しそうだから言葉が出なかった。
「俺と生きよう、長船」
…ああ、神様

「…ぅ、あ、あっゃ、ら、ぁ…!」
「長船、長船…」
愛しそうに長谷部くんが僕に触れた。
僕の身体を突き花を食らう。
ぐちゃぐちゃ、もう分かんない。
「ふぁ、あ、はせ、長谷部く、ね、僕のこと、好き?」
「…ああ、愛してる」
ぽろぽろ、溢れたのは紫の花か別の何かか。
水音と僕のあえぎ声、それから長谷部くんの激しい息遣い。
君の声は細く、途切れずに聞こえてくる。
ああ、もう、分からないや。
「ひぅ、や、ぁあっ!はせ、長谷部く…!!」
怖くなって長谷部くんにすがった。
手を握り返してくれる、君が、好き『だった』よ。
僕らは奇病。花吐病と花埋病。決して治ることのない、病気。
「はせ、ぅく、ぁあっ!長谷部く…!」
「長船、大丈夫、大丈夫だ!」
笑った君が花を吐く。
「ふぁ、ひんっ、怖い、怖いよ…!」
僕は泣きじゃくりながら花を咲かす。
堕ちた、病棟。
午前五時半。
終わりにしよ?
きっとまだ間に合うから。
僕は花埋病。
咲いた花で埋まったら死んでしまう病気。
開花条件は、『 』を与えられること。
「ぅあ、ぁあっ!!」
びくんっと体が跳ねる。
快楽か、それとも花が咲いた振動か。
明かりはない。
花瓶に刺した花は萎れてしまった。
ねえ長谷部くん、僕知ってるよ。
君が花を吐く本当の条件を。
花を吐かなかったら君がどうなってしまうのか。
二人して眠りに溺れてしまうのも悪くないんじゃないかな?
「…ぅあ、君を殺して…僕、も…死にたい」
…ああ、何で何も言ってくれないの。
(君がそんな顔するから眠れないのに)
熱を吐き出されてとろとろと目を閉じる。
「…好きだ、愛してる…光忠…」
沈む、僕の耳に届く声。
「…ぼ、くも…」囁き声でやっと答える。
それくらい許してくれたっていいだろう?
ねえ神様。
君に明るい朝が来ますようにと、僕は目を閉じた。
(僕に訪れない朝を、君に)




「こんなはずじゃなかった」
長谷部くんが頭を抱えて呆然と崩れ落ちた。
目線の先では花を満開に咲かせた僕の体が運ばれていく。
…ああ、そうか。
長谷部くん、花は吐かなくなった?
大丈夫、僕が君にブーゲンビリアの花を降らせてあげるから。
(最期に僕が咲かせた、花)

しょうぶ(へし燭SSS・ワンドロお題)*R-15

「知っているか、光忠」
「・・・何が」
真向かいの光忠から不機嫌そうな声が返ってくる。
俺はぱしゃりと水飛沫を上げてその近くに寄った。
「しょうぶとあやめ、杜若は別物なんだぞ」
「・・・そう」
「しょうぶも、こうして菖蒲湯にする葉菖蒲とそこに咲く花菖蒲も別物だ」
「・・・へえ」
「なんだ、興味なさそうだな」
くすくすと笑えば、光忠がきっと俺を睨み付ける。
「君と二人でお風呂なんか入ってるんじゃなかったらもっと興味持ったよ、僕は!」
光忠が俺から距離を取り、ぱしゃぱしゃと水飛沫が跳ねた。
「何故そう警戒する?」
「君とお風呂ってのが一番信用ならないから!」
「つれないな。そんなに嫌なら上がればどうだ」
「ぜっったいに嫌!!」
俺から逃げながらも頑なに風呂から出ようとしない光忠にくすくすと笑う。
彼が風呂から出ない、そのわけは。

何の事はない、俺が勝負を持ちかけたからだ。
先にのぼせ、風呂から出た方の負け。
単純な賭け事。
「しかし、風呂は狭いからなァ?すぐに捕まえてしまうぞ?」
「!」
するりと光忠の腰を撫でる。
慌てたようにその身が引かれた。
・・・その先が壁とは気付かずに。
「ほら、もう逃げられないな?」
「・・・ふ、ぅ・・・!」
彼の腰を抱き、優しく撫で上げてやる。
それでも湯からは上がろうとしなかった。
まったく、負けず嫌いもいいところだな。

これが、どこまで続くやら。


ぱしゃぱしゃと水飛沫が跳ねる。
ゆらりたゆたう花菖蒲。

(勝負の行方は紫の花だけが知っている)

ゆめ/端午の節句(ねんへし燭ワンドロ)

「〜!!!!」
「まて、にげるな、みつ!!」
ばたばたと走る音に続き、俺・・・じゃない、ねん、ねんどろいどの俺、つまりへし切長谷部の声が聞こえる。
全く、何をやっているのだか。
「おい、何をして・・・?!」
襖を開ければ、ねん光、ねんどろいどの燭台切光忠が俺の手に飛び込んできた。
しかしなんだってこいつは半裸で怯えてるのだろうか。
「ああ、でかいの。ちょうどいい。みつをつかまえておけ」
「何が丁度良い、だ。ねん光怯えてるぞ」
刀を振り回していたねんが俺を見上げ言う。
取り敢えずねん光のずぼんを出してやりながらそう返した。
どうせまた要らぬ知識でねん光に迫っていたに違いない。
ねんは一番最近顕著したから遊ばれているのだ・・・己と同じ容姿、やめて欲しい。
ねん光も少しは抵抗すれば良いものを。
「で?今度はなんだ」
「こいのぼり、というものをくらうとつよくなるときいたが」
「鯉のぼりは飾る物だ。で?何故半裸に?」
「あるじよりこのぬのをたまわったのでな、これをはいたみつをくうのだと」
「よくそこまで飛来するな?!」
ねんの返答に思わず呆れた。
本当に俺かと問いただしたくなる。
「ねん光、お前も抵抗しろ」
「〜!〜!」
ねん光が涙目で俺を見上げ、首を振った。
同じ光忠の癖にこちらはどうも弱気だ。
・・・いや、抵抗したが押し切られたか。
どちらにせよ嘆かわしい。
「ねんくんたち 、おやつ・・・あれ、長谷部くん?」
頭上から降ってきた声に見上げると、光忠が皿を持ってきょとりとこちらを見下ろしていた。
ねん光が光忠に飛び付く。
「え?怖い目にあった?」
訴えるねん光に光忠が首をかしげた。
光忠はねん光の話している言葉が分かるらしい。
「ああ、鯉のぼりね。あれは飾るものだよ。食べるのはこっち」
くすりと笑い、光忠は皿にあった柏餅を指差した。
「餡子入ってるから美味しいよ。はい、ねんへしくん」
「つよくなるものか」
「勿論」
「・・・ならいただく。おい、みつ」
光忠から柏餅を受け取ったねんはねん光を呼び寄せる。
ぱっと表情を輝かせ、ねん光はねんの元へ駆けていった。
あんなにちょろくて大丈夫だろうか。
「・・・長谷部くん?」
「なんだ、何も言っとらんだろう」
「顔に出てるよ!」
もう!と声を荒げる光忠。
「ところでねんへしくんはどうして強くなりたいんだい?」
「きまっている。あるじのおやくにたち、みつをまもるためだ」
「・・・!」
「じゃあそのゆめを叶えるために頑張らなきゃ、だ?」
「むろん。でかいのよりつよくなるぞ」
「ふふ、楽しみだね。ね、ねんくん」
にこりと光忠が笑う。
・・・まったく。
「貴様に俺が超えれるとでも?」
「む、ずうたいがでかいだけのくせに」
ねんが俺を見上げにやりと笑った。
同じ顔なだけに腹が立つな・・・!
「ちょっと、大人げないよ、長谷部くん!」
「〜〜!」
「男には引けん時があるんでな・・・!」
「みつ、とめるな、これはおれがこえるかべだ・・・!」




端午の節句、それは子供のゆめの達成と成長を願う日。

(さりとて抜かれるのは許しがたいじゃないか!)

休日(へし燭SSS・ワンドロお題) *現パロ・リアルへし燭

『休日にすみません。久しぶりに会えませんか』
そう、彼からlineが来たのは3月も終わりのことだった。
彼は元職場の同僚で、この春から別の学校に移動になった長船先生だ。
俺より4つ下の23歳でそれなりに・・・まあプライベートで共に出かけるくらいには・・・仲が良い。
『久しぶりだな。何処か行きたいところでも?』
笑うと意外に可愛らしい彼を思い出しながらそう返した。
『特には・・・あ』
その次のメッセージに俺は少し固まる。
端から見れば何とも微妙な顔をしていたに違いない。
『ユニバ○サル・スタジオ行きませんか?』




「長谷部先生」
「ん」
ふわりと笑って駆け寄ってくる彼は可愛らしく、思わず笑みを溢した。
いつか見たようなタータンチェックのシャツに白のセーター、それにジーンズ、という格好はよく彼に似合っている。
「久しぶりだな」
「はい」
にこにこと笑う彼に、何故この時間?と聞けば混まないんですよ、とあっさり答えた。
そういえば前に、「夜のユニ○は楽に乗り物に乗れるんですよ」と女性講師に言っていたか。
「今の時期、そっちは忙しいんじゃないのか」
「だって、休日じゃないと会えないでしょう」
異動したばかりなら忙しかろうと聞けば、少し寂しげに彼が笑む。
そうだ、もう彼とは休日しか会えないのだ。
なら。
「昼は会えんが夜に会えば問題ないんじゃないか?」
「え?」
きょとんとする長船先生を引き寄せる。
驚いた表情の彼ににやりと笑ってから囁いた。
「勉強、教えてやるからうちに来い」
「・・・!」
綺麗な目を見開いて、彼は頬を赤くする。
それから嬉しそうに、はい、と微笑んだ。
「長谷部先生、意外と大胆なんですね」
「なんだ、知らなかったのか?」
困ったように笑う彼にそう言えば、長谷部先生、とくすくす笑う。
「もう同僚でもないのだし、先生はやめてくれ」
「え、でも」
「いいから」
そう言うと少し下を向いた。
「長船くん?」
「でも、長谷部さんって呼ぶのもあれだし、長谷部先輩・・・?」
そんな考え込まなくても、と声をかけようとした・・・その時。
「あ、国重さん!」
「?!」
ぱっと顔を輝かせる長船先生・・・。
いや、可愛らしいけれども!
「あ、ダメですね?!じゃ、じゃあ」
「・・・いや、構わないが」
俺の返答に彼はほっとしたように笑うのだった。

まるでジェットコースターに乗った時のような、そんな、お前と過ごす休日。





「いやでも俺、ジェットコースター乗れませんけどね」
「え、そうなんですか?!私、乗れると思ってましたよ、意外!」
「この間、ユ○バ行きましたけど駄目で」
(やっぱり俺は振り回されるのは性に合わない)

はじめまして/ひとめぼれ(ねんへし燭ワンドロ

「ずるい」
「え?」
ぶすくれた声に光忠と長谷部が振り向く。
「なんだ、大和守」
「君がそういうなんて珍しいね、安定君」
「僕だってねえ・・・」
ふるふると震えていた安定がびしりと指を差し、二人を睨む。
「ねんどろいど欲しいですよ!!!」
指を差した先、そこにはねんどろいどの長谷部と光忠が仲睦まじく菓子を食べていた。
長谷部と光忠の二人もそれを見ながら休憩を取ろうと思っていた矢先である。
「何、俺じゃ不満?」
「なんだよ、お前もねんどろいるくせに」
安定の肩に顎を乗せるのは清光だった。
むっとしつつそれでも態度を軟化させる安定。
それにほっとしていると隣の光忠がくすくすと笑う。
「でも、あの二人の『初めまして』はあんまり良いものじゃなかったんだよ?」
「そうなんですか??」
光忠のそれに安定が驚いた表情をした。

それは、そう。
ある雨の日の事。

主が連れてきたのは小さな自分、『ねんどろいど』というへし切長谷部だった。
何処からどう見ても自分そっくりで、己がもう一人いるようだな、と長谷部は溜息を吐く。
「あるじはおれをつかってくださるだろうか」
「お前が部隊長として鍛錬すればな」
目をきらきらさせて言うねんどろいどに長谷部はあっさり言ってやった。
「むろんだ。あるじさまのおやくにたてねばかたなではない」
「では、今の部隊長に挨拶でもしておけ」
言い方もそっくりで、己を見ているようで少々腹立たしく思いながらも首根っこを引っ掴む。
「おい!かりにもおれはおまえだぞ!」
「お前はお前だろう。俺はお前の様な体躯ではない・・・おい、燭台切!」
「どうかしたのかい?長谷部くん」
ある部屋の前で彼を呼ぶと、ひょこりと顔を出した。
「ねんどろいどの俺だ」
「ああ、顕著したんだね。初めまして、燭台切光忠だよ」
「・・・ああ」
短く言うねんどろいど長谷部にくすりと光忠が笑う。
「じゃあ僕のねんどろいども紹介しておくね。・・・ねんくん!!」
「・・・?」
光忠の声に、机の上に居たねんどろいどの光忠が燕尾の裾を揺らして下りてきた。
途端、小さな己の目が見開きぶわりと桜が舞う。
とてて、と駆け寄った己の分身は何かを彼に囁いて。
ねんどろいど光忠の目が驚いたように開かれ、わなわなと震え出した。
それから。
「〜〜!!!!」
凄まじい肌を打つ音が聞こえたと思ったらねんどろいど長谷部の頬が真っ赤に腫れていた。
思いもよらぬ事態にこちらは・・・ねんどろいど長谷部もか・・・ぽかんとするばかりである。
「・・・は?」
「え?
「ちょ、ねんくん?!!」
ぱたぱたと走り出したねんどろいど光忠を、光忠が慌て乍ら追いかけようとし、「ごめんね、良く言っておくから!!」とこちらに声をかけた。
「待って、ねんくん!!」
「・・・お前、ねん光に何言ったんだ」
「・・・。・・・おれは」
光忠を見つめつつ、そうこっそり聞けばねんどろいど長谷部がぶすくれたように言う。
「おれのものにしてやるからおれのもとへこいといっただけだ」
「・・・」
「ひとめみてほしいと、そうおもった」
その返答に長谷部は宙を仰いだ。
やはりこれは自分の分身なのだと。
嗚呼、恋を自覚した己と同じではないか。
流石に自分は口に出したりしなかったけれど。
「・・・。・・・あのな、ねん。あいつにも一応刀としてのぷらいどがあってだな・・・」
はあ、と溜息を吐き出し、長谷部はそう切り出した。
もう一人の自分ともう一人の光忠だ。
くっつくのもそう遠くないだろうと、思いながら。


(そういえば自分も一目惚れだったな、と思い出す


彼と、自分との初めまして)

はじまりはきみと(光忠受けワンドロ・大太刀長谷部×織田時代光忠

「出来ちゃった♡」で三種三様(光忠受け)

「大倶利伽羅さん」
縁側に座っていた彼に僕はにっこりと笑って見せる。
「慣れ合うつもりはない」とか言いながら意外に付き合ってくれる事を僕は知っていた。
「・・・何だ」
「ちょっと来てくれません?」
そう言いながら彼を引っ張る。
「面倒事はごめんだ」
「まあまあ、そう言わず」
嫌な顔をする大倶利伽羅さんに僕は笑いかけた。
それでも着いてきてくれるのだからいい刀なんだと思う。
「いーから早く来てよ、へし切!」
「だからへし切と呼ぶなといつも言って・・・!」
向こうからは清光に手を引かれた長谷部さんがやって来るのが見えた。
あちらも僕に気が付いたみたいで、にやりと笑う。
僕らが向かう先には黒い装束の「彼」。
「いたいた、燭台切さーん!」
「お待たせしました、光忠さん!」
「は・・・?燭台切?」
「光忠・・・??」
「あ、長谷部くん、倶利伽羅も」
にこりと彼・・・光忠さんが微笑む。
本当に綺麗な笑みを見せる刀だ。
清光も見習えばいいのに。
「・・・ちょっと、安定?!」
「いた、痛いなあもう。何すんの」
「何すんの、じゃないよ、ったく」
清光がぶすくれるけど、今はそんなこと良いんだ。
だって。
「あのね、二人とも」
すい、と光忠さんが息を吸う。
僕らはそっと下がった。
おずおずと光忠さんが何かを二人に向かって差し出す。
「・・・出来ちゃった」
「・・・は??」
ぽかんとした声がぴたりと揃った。
「出来たって、何が・・・」
「やだなあ。これ見ても分からないの?」
ひょこりと清光が顔を出す。
僕もその後に続いた。
「主の時代の・・・妊娠検査薬ですよ」
「妊娠・・・?まさか、燭台切、お前」
「やや子が・・・?」
「・・・うん」
二人の問いに光忠さんが嬉しそうにお腹に手を添えて頷く。
・・・なんだ、光忠さんものりのりじゃないか。
ちなみにというかなんというか、これは真っ赤な嘘だ。
二人があまりにも無鉄砲に出陣するから分からせてやりたい、協力してくれないかな?なんて言われれば協力せざるを得ないよね。
まあこれで信じるなんてこともない・・・。
「まさか俺の子が出来るとは・・・」
あ、信じるんだ?!!
意外と純粋なんだろうか。
「・・・大倶利伽羅は兎も角、へし切まで信じちゃったよ」
どーすんの、と耳打ちしてきたのは清光だ。
知らないよ、そんなこと、と目で訴える。
呆然としていた内最初に動いたのは大倶利伽羅さんだった。
自分の上着を脱ぎ、すっと光忠さんの肩にかける。
おお。
「・・・倶利伽羅?」
「体を冷やすな。やや子に障る」
「・・・うん」
へにゃりと光忠さんが笑う。
所謂『すぱだり』ってやつかな。
「・・・待て。お腹の中の子は俺の子だろう?」
「・・・」
「長谷部、くん」
長谷部さんが光忠さんの白い手を取る。
見た事の無い表情で微笑んで。
「順序が遅くなってすまない。・・・光忠、俺と華燭を燈さないか」
「・・・!」
かあ、と光忠さんの顔が赤く染まった。
告白なんてよくやるよね。
なんて思いながらふと横を見ると清光が固まっていた。
・・・あー、こいつも好きだわ、こういうの。
ほんと、どうしてくれようかなあ・・・。
「・・・織田に居ても光忠は幸せになれない」
固い声に長谷部さんがむっとする。
「何だと?」
「光忠は伊達の刀だ。光忠は俺が護る」
「・・・はっ、聞いて呆れるな。顕著したのは俺の方が先だ。その手を離せ、大倶利伽羅」
「え、えと、長谷部くん?倶利伽羅???」
予期していなかった事態におろおろと光忠さんが二人を見た。
「嫁入りは俺の元と道理が決まっている」
「自分勝手だな。それで光忠が幸せになれると思っているのか?」
・・・ええと、この二人仲良くなかったっけ???
やっぱり光忠さんの事となると違うのかな。
と。
黒い影が落ちた。
「じゃあ黒田に嫁入りしろや」
「・・・日本号さん」
きょとん、とした顔で光忠さんが振り仰ぐ。
うわあ、またややこしいのが。
何時から聞いてたんだろう。
「貴様、日本号、俺の光忠に許可なく触れるな!」
ぐん、と長谷部さんが光忠さんの肩を抱いた。
むっとしたように日本号さんと大倶利伽羅さんが長谷部さんを見る。
「へえ?誰が誰のだって??」
「光忠を織田に嫁がせた覚えはない」
「織田じゃない、俺の元に、だ!」
「やめとけやめとけ。お前のところなんかにやったら燭台切が可哀想だ」
「何?!!飲んだくれの貴様が幸せにできるとでも?!」
「光忠は俺が娶る。お前らなんかじゃない」
日本号さんが光忠さんを背後から抱き、大倶利伽羅さんが長谷部さんの反対側の腕をとった。
わあ、何か大変そう。
「・・・燭台切さん」
「・・・ん?」
とてて、と清光が光忠さんに近付く。
あわあわしながら、彼の口元は綻んでいた。
・・・ああ、なんだ。


――今、幸せ?
――うん、幸せだよ



(おまけ・大太刀長谷部×織田時代光忠)
「国重様!」
可愛らしく駆けてくる刀、末の光忠を抱き留めて「どうした」と聞いてやる。
「国重様、光忠、出来ちゃいました!」
「何がだ」
ひょこひょこと跳ねる可愛らしい様子に目を細めていたが次の言葉に思わず固まった。
「やや子です!」
「・・・は?」
「ですから。やや子が出来たのですよ、国重様!」
無邪気に笑う様子はそれはそれは可愛らしいが、はて何を言い出すのだろうか。
「・・・。お気に召しませんでしたか?」
「・・・うん?」
不安そうな様子で光忠が首を傾げる。
何を、言っているのだろう。
「どういうことだ」
「そう言えば国重様が喜ぶと教えて頂いたのですが・・・」
いけませんでしたか?と光忠が純粋な目で問うて来た。
つまり、悪い大人に弄ばれたのだろう。
・・・まったく。
「光忠よ」
「はい、国重様」
光忠を抱き上げ、目を合わせる。
「やや子が出来たと言うのは嘘なのだろう?」
「そ、れは・・・」
「嘘は、良くないな」
不安の色を濃くする藤色の瞳にそう言ってやれば涙をにじませた。
如何すれば宜しいですか、と必死に問うてくるのが可愛らしい。
嗚呼、だから大人に遊ばれるのだと言うに!
「嘘を真にすれば良い」
「・・・嘘を・・・真に・・・んんぅ!!」
俺の言葉を反芻する光忠に口吸いを施す。
黒の着流しを崩し乍ら、ぽやりとする光忠に笑いかけた。
「本当に孕ませてやる。・・・今宵は覚悟しろ。良いな?」
「・・・は、い」

藤棚の花が夜風に戦ぐ。
今夜も長くなりそうだ。

愛おしい君へ(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

午前・・・いや、もうすぐ午後


太陽の照り付けが今一番激しい、そんな時間帯





「遅いなぁ・・・」
窓際にぼぉっと頬杖をつきながら呟いた言の葉はどこか自分のものとは違う感覚を呼ぶ。
自分用にと与えられた部屋ではなく、今いるのは長谷部の部屋だった。
「・・・今日帰るって言ったのに」
拗ねたように呟く。
今日は、遠征に行った長谷部が帰ってくる日だったから。
一ヶ月ぶりに彼に会える日だったから。
朝からそわそわしていれば清光が「もー部屋で待ってれば?」と背を押すから素直に来てしまったのだ。
・・・家主のいないこの部屋に。

窓辺に座って外の様子を伺っては空を見上げる。
既に時間は先程から3時間は経とうとしていた。
夕方の、紺でも碧でもない、赤が混じった藤色。
自分とは違う、紫色の瞳。
優しく眇め、時に意地悪な笑顔を見せる、彼。
光忠は彼の目が好きだった。
見つめられると意抜かれたように動けなくなる。
彼女を見る優しい瞳。

早く帰ってきてほしい。
普段そんな言葉を口にしないから。
「・・・早く帰って来ないかなぁ」
肘をついていたのを下ろし、その伏せた腕に顔を埋める。
・・・と。
「・・・ん・・・?」
窓辺の隅に置かれていた小さな箱が目に付いた。
腕を伸ばし、その箱を引き寄せる。
「なんだろう、これ」
蓋を開けても何も入っていないし、ただの古い箱なのかと思ったが、ひっくり返すと小さなねじが付いてた。
そのねじを訝しみつつ、慎重に回す。
「・・・あ・・・」
もう一度開けると共に音楽が流れてきた。
聞いたことの無い曲だが、とても綺麗だ。
「自鳴琴だったのか」
小さく微笑むと、ふと中に挟まっている紙に目がいった。
「・・・?『愛しの君へ』・・・?」
開けるとそんな題名が飛び込んでくる。
手紙だろうか。
「『普段口に出来ないことを此処に書き記そうと思う。
俺は燭台切光忠、彼女を愛している』え、何これ」
柔らかい音に乗せて手紙は愛を告げていた。
思わず顔が紅くなる。
『初めて顕著したときは驚いた・・・記憶の中、男だと思っていたのが女性型だったからだ。可憐な刀だという印象は変わらなかったが見た瞬間に胸が高鳴ったのを今でも覚えている。あの綺麗な刀を俺のものにしたいとどれ程願ったか。だから光忠が俺の告白を受け入れてくれた時、本当に嬉しかった。世界はこんなにも明るいのだと。
光忠は俺に光をくれる。彼女は俺が光だと思っているが、それは違う。彼女、燭台切光忠ほ俺の光だ。
俺はこの遠征から帰った時、彼女をめとりたいと思っている・・・愛おしい、光忠』
「・・・光忠」
ふいに耳元で声が聞こえる。
驚く光忠の背後から温もりが伝わってきた。
「長谷部、く」
「これから、毎日俺の帰りを待っていてくれないか」
「え、と」
「・・・俺と、結婚してくれ」
「!!」
振り向いた彼女が見たのは息を切らし、微笑む長谷部だった。
嗚呼、これだから。
ふわり、と頭から白い布がかけられる。
簡易なそれは恐らく花嫁がつける綿帽子。
「汝、燭台切光忠は、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓うか?」
「・・・誓います」
へりゃりと笑う。
そのまま彼の胸に飛び込んだ。

愛しい貴方がいるから


いつだって幸せです