初恋(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

つまらない場所だと思った。

「今晩は、長谷部様」
「これはこれは。この度はお招き頂きまして・・・」
本当に退屈だ。
こんなダンスパーティー、早くやめてしまえばいい。
そう鬱々と思いながらも、長谷部は綺麗な笑みを張り付けた。
嫌ならば行かなければ良い、と人は言うが長谷部はそういう立場ではない。
長谷部は隣国の王子だった。
金や権力のある貴族とは友好関係を築かなくてはならない。
だから興味もないダンスパーティーに出掛け、顔を売っているのだ。
此処の当主に会うのは確か2度目、気難しい彼に上手く近づき、この場に取り付けたのである。
つまらない、と言っている場合ではないのはわかっていた。
(それにしても同じ話ばかりだな)
笑顔を張り付け、長谷部は思う。
何故貴族というのは同じ話ばかりなのだろう。
「・・・ん?」
と、大広間より先、エントランスホールに一人の少女の姿が見えた。
黒いドレスに同系色の短い髪。
ダンスの相手を探しているわけでもない。
かといって帰ろうとしているわけでもない。
ぼんやりとその場に佇んでいるその様子に、長谷部は目を離せなくなった。
「失礼、質問をしても?」
「どうかしましたか?」
「あの少女は?」
当主の話を遮り、長谷部は聞く。
「ああ、あれですか。一人娘の・・・おい!」
「・・・?」
当主に呼ばれ、娘が振り返った。
不思議そうな金の眸は片方を隠している。
すらりと伸びる手足は透き通るような白。
それに良く映えるような漆黒のドレスに大きなリボンはセクシーさと共に彼女のあどけなさを表しているようで。
綺麗だ、と思った。
感動するとまあこんなにも言葉が出ないものかと長谷部は小さく笑う。
それほどまでこの少女は美しかった。
歳はいくつだろうか。
名前は?
声は?
気になる点はいくつもある。
が、どれも言葉には出来ず、長谷部はいつも通りの笑みを形作り、近づいてくる娘に手を挙げた。
とてとてと当主に近付き、背に隠れてしまう。
初心な様子はそれだけで長谷部をそそった。
「こら、挨拶をしないか」
「・・・」
叱る当主にびくりと躰を震わせて、少女はおずおずと顔を見せる。
長谷部を見上げ、小さく会釈をした。
その様子はとても可愛らしい。
「いや、無理をしなくていい。あそこで何をしていたんだ?」
優しく聞くと少女は少し考え、ふわりと笑った。
「星を、見ていたの」
「星?」
「ええ」
少女が微笑む。
それから慌てて当主の背に隠れた。
恥ずかしがり屋なのだろうか。
見上げれば確かにエントランスホールの少し先から外の景色が見えた。
しかし、舞踏会に来て星を見るとは。
変わっているなと思った。
「いや、変わった子で」
「ダンスパーティーだからと言って必ず踊らなければならないと言う規定もないでしょう。・・・俺は素敵だと思いますがね」
申し訳なさそうな当主に長谷部は笑う。
すると安心するように少女が再び顔を出した。
「星・・・好きなのですか?」
「うん?」
「あの、えと、こっちに星が綺麗に見える場所が、あるんです!」
「こら、光!」
長谷部の袖を掴み、当主に「光」、と呼ばれた少女が嬉しそうに言う。
「・・・あ・・・」
「・・・。連れて行ってくれるか?」
不安そうに見上げる少女に長谷部は優しく笑って言ってやった。
「・・・!はい!」
ぱあ、と少女が嬉しそうに笑う。
成程幸せとはそういう事かと思った。


今思えばこれは恋だったのだろうと思う。
長谷部にとって、初めての恋。


「おっかえりー長谷部」
「国重様、良い娘は見つかりました?」
「・・・加州、乱と薬研に連絡を。大和守、此処の家を余すところなくすべて調べろ」
「「・・・我が王の命ずるままに」」


ーー
高塔の姫(R-18)の前日譚

童話パロ(光忠♀ワンドロ・燭♀総受け

深々と雪が降り積もる。
それはクリスマス・イブのことだった。
「光忠は相変わらず可愛いなぁ!!」
「お、狡いぞ!俺も光忠を可愛がりたいんだからな!」
「もう、僕は可愛くないよ??」
少女を囲み大人たちが騒いでいる。
その中心にいる少女、光忠はそう言いながらもにこにこと嬉しそうだ。
「そら、プレゼントだぞぅ!」
「ありがとう、国永さん!」
小さな包みを受け取り、ぱあと顔を輝かせた光忠はそわそわと叔父である五条国永を見上げた。
開けてみろと本人よりそわそわしている国永に言われ、光忠は包みを開ける。
そこには口の大きな、肌の浅黒い兵隊が横たわっていて、光忠はぱちくりと目を瞬かせた。
「・・・お人形?」
「どうだ、驚いたか!」
「どうしてお口が大きいの?」
「ああ、それはな。こうして」
ひょいとそれを取り上げ、テーブルに乗っていた栗を一つ取り、人形の口の中に入れる。
音を立てたかと思うと栗の殻が綺麗に剥けた。
「栗の殻を割る人形だぞ!」
「うわぁああ!!」
驚いた声を上げる光忠に、気を良くした国永がその黒い髪を撫でる。
すごい!と跳ねる彼女のフレアスカートがぴょこぴょこ揺れた。
・・・と。
「気味の悪い人形だな」
その、不機嫌そうな声に光忠は振り返る。
そこには従兄である長谷部国重が立っていた。
つかつかと歩いてきた国重が光忠の手から人形を取り上げる。
「か、返してよ!!国重兄様!」
「はっ、こんな人形、こうして・・・」
必死に手を伸ばす光忠を無視し、国重は人形の口に栗を無理に突っ込んだ。
ガキッと奇妙の音がして大きな口から木の破片が飛び出す。
「あ〜!!!」
普段は出さない悲鳴を上げ、ふるふる震えた光忠はキッと国重を睨み付けた。
「な、なん・・・」
「国重兄様のばかあ!!」
「・・・なっ!」
怒鳴り、わんわんと泣き出す光忠に、あーあと声を上げたのは国永、呆れたように国重の頭を撫でたのはもう一人の伯父、日本号金房だ。
「意地悪したい年頃って言ってもなあ」
「う、五月蠅いぞ、日本号!光忠もそれ如きで泣くな!大体五条がこのような人形を買ってくるから・・・!」
「なんだよ、俺の所為ってかぁ?」
「ほら、泣くな泣くな。おじさんが直してやるから」
「・・・っく、ふぇ・・・ほんと・・・?」
「ああ」
泣きじゃくる光忠の頭を優しく撫で、金房は人形を取り上げる。
「これをこうして・・・ほら、どうだ?」
得意げに見せられた人形は先程と寸分狂わず動いていて、思わず目を見開いた。
隣にいる国永や国重も驚いた表情をしている。
「ほう、これは驚いた」
「・・・金房おじさまぁ・・・!すごい!ありがとう!」
抱き付くと金房は嬉しそうに頭を撫でてくれた。
「いやいや、気にすんな」
「僕、ベッドに寝かせてくる!!」
ぎゅっと人形を抱きしめ、光忠は部屋にかけ戻る。
その場には罰の悪そうな表情の国重が残った。



「ん・・・」
低い時計の音に光忠はふと目を開ける。
どうやら人形を寝かせて、その傍らで眠ってしまったらしかった。
あの鐘の音は12時を知らせるもので、もうパーティーはとうに終わってしまったかと思うと少し哀しくなる。
金房や国永には会う機会も少ないのに。
「僕・・・。・・・え?」
ふ、と宙を仰いだ。
天井が高い。
ベッドが異常なほど広く感じた。
「え?え??」
驚いたのはその所為だけではない。
「姫を連れ出せ!姫を探せ!姫は何処だ!!」
開いた窓から、七つの頭を持つはつかねずみの王が指揮する、はつかねずみの大群が押し寄せてきたのだ。
「ひっ・・・」
「姫を連れ出せ!姫を探せ!姫は何処だ!!」
光忠を目掛けてねずみたちが声を揃えて向かってくる。
恐怖と言ったらなかった。
「や、やだ、国重兄様!助け、て!!たすけてぇえええ!!」
「待て」
ぎゅうと目を瞑る光忠の頭から降って来た声は国重・・・ではなく。
「・・・え?」
貰ったはずの栗を割る兵隊人形がねずみに龍の刻印が入った剣を向けていた。
それからの展開は早く。
ねずみを次々になぎ倒し、ついに王冠を被ったねずみのみになった。
「姫は渡さぬ!我が王国に連れ帰り嫁とするのだ!」
「させん」
咆哮を上げるねずみの王に向かって人形が剣を振り上げる。
「が、頑張って!」
思わず声をかけると人形が振り返り笑った・・・気がした。
「・・・ぐっ・・・」
しかしねずみも王というだけあり強さも段違いで、人形は劣勢となる。
また先程の様に壊れてしまったらと思うと気が気ではなかった。
バラバラになった人形が思い返され、ぞくりと背を震わせる。
もう見たくなかった。
「だ、だめぇええ!!」
思わず叫び、傍に有った腕時計を投げる。
「ぐあ・・・っ」
頭の一部に当たったねずみが断末魔を上げて倒れた。
瞬間、煙と共にいなくなりぽかんと部屋を見渡す。
これはまだ夢なのだろうか?
「・・・光忠」
名を呼ばれ、光忠は振り返る。
目を丸くし、『彼』を見上げた。
栗を割る人形は青年となり、光忠に笑みを向けている。
いつのまにか部屋の鍵は元の大きさに戻っていた。
「あんたは俺を二度も助けてくれた」
「・・・え、えと」
「礼を言う」
「れ、礼だなんてそんな」
膝まづく青年に光忠はぱたぱたと手を振る。
この綺麗な青年にそう言われると何だかくすぐったかった。
それからふと首を傾げる。
「・・・どうしてお人形さんだったの?」
「これは呪いの所為だ。昔、あんたにそっくりの姫を助けた代償でこの姿にされた」
「そ、そうなんだ・・・」
青年のいう事は非現実だが何時唯は素直に頷いた。
あの光景を見れば誰だって信じるであろう。
「俺の名は倶利伽羅。・・・あんたを俺の国に招待したい」
「・・・うん!」
大きく頷いた彼女を抱き上げ、青年・・・倶利伽羅は金の目を細めた。
「行こう」
「・・・待て!行くな・・・光忠!!!」
何処から現れたのか大きな扉を開けて倶利伽羅が足を踏み出そうとした瞬間、国重の声が聞こえた気がして光忠は金の目をぱちくりと瞬かせる。
「国重・・・兄様?」
振り返るが白い扉は閉められた後で。
彼女のフレアスカートがふわりと風に揺れた。

ショタおね/おにロリ(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

気持ちの良い朝だった。
昨日は久しぶりに光忠と夜を共にしたからか。
普段より体が軽い。
「・・・おはよ、長谷部くん」
先に彼女が起き上がりふわりと笑いかけた。
「・・・ああ、おはよ・・・う?」
起き上がり、目を擦ろうとしたところで・・・ふと違和感を感じる。
「・・・は?」
「どうかしたの?長谷部く・・・ん?」
きょとんとした声の後、光忠が口を呆けたように開けて固まった。
そして。
「うわっ」
「か、可愛い!!長谷部くんちっちゃい!可愛い!!」
「・・・や、やめろ、みつただ!!」
突如として抱きしめられ、長谷部は苦しい声を上げる。
普段なら嬉しい抱擁だが、今は苦しいだけでしかなかった。
ぎうぎうと豊満な胸を押し付けられる。
「あ、ごめんね?でも可愛かったから・・・」
「おまえ、かわいいってな・・・」
「だって、長谷部くん僕よりちっちゃいんだよ?」
呆れると、光忠がにこにことそう言った。
その笑みは可愛らしいが如何にも腹が立つ。
「いや、ちっちゃいっておまえ・・・」
「え?だって長谷部くん、それ子どもの姿だよね?」
「は?」
にこにこしながら光忠が爆弾発言を落とした。
ひょいとその身体が『抱き上げられる』。
「・・・は??」
普段なら・・・まあ確かに彼女は打撃がトップクラスではあるけれど・・・流石に抱き上げられることはない。
・・・はずなのに。
「お、おろせ!」
「えーどうしようかな?」
「おろせ、みつただ!!」
「あはは!長谷部くんかーわいーー!」
無邪気に光忠が笑う。
焦る長谷部の声は届かず、所謂彼女の『高い高い』は第三者が通るまで続けられたのだった。

それから数十分後に審神者の元を訪れた時には長谷部は疲弊しきっていた。
ぽかんとした審神者が慌てて調べて言うには、【システム上のトラブル】らしい。
よく分からなかったが、1日経てば元に戻る事が出来るようでそこは安心した。
「しかし、ふべんだ」
「大丈夫。僕がお世話してあげるから!」
憮然とする長谷部に光忠は楽しそうに言う。
元々彼女は世話好きだ。
いつも世話されるのを拒否しているからだろう。
公然と世話できるのは嬉しいらしい。
「何は無くてもご飯だよ、長谷部くん!」
にこりと光忠が笑った。
ずるずると手を引かれ、長谷部には拒否する隙もない。
「うわっ、へし切ちっちゃい!!」
「本当に子どもの姿なんですねー!」
「うるさい、さわるな!・・・やまとのかみ、かしゅう!!」
食堂にはいつもの二人がわくわくしながら待っていて、二人に遊ばれながらも食事を大人しく待つことにした。
安定も清光も常識くらいはある。
この二人に遊ばれている方がまだましな気がした。
「お待たせ、長谷部くん!」
大きな皿に乗せてきたのはいかにも短刀が好きそうな食事で。
安定も清光も苦笑いをしていた。
おまけに。
「はい、あーん!」
「いや、じぶんでくえ・・・」
「いいから、ね?」
箸を長谷部の口の前で止めてにこにこと光忠が笑う。
それには逆らえず、長谷部は口を開けた。

「・・・はあ・・・」
げっそりとした表情で長谷部は溜息を吐く。
あれから散々遊ばれた。
悪意があるならまだ全力で抵抗できる。
だが彼女、光忠は全て善意なのだ。
如何すればいいのか分からない。
拒否すれば泣きそうな顔をするし、かといって子ども扱いはもうごめんだった。
「んーっと・・・」
何か高い所のモノを取ろうとしているのか目の端で彼女が背伸びをしながら手を伸ばす。
「とってやろうか」
「今の長谷部くんじゃ届かないでしょ・・・っと」
ふわふわと笑って光忠はそう言った。
中々に心へ突き刺さる。
別に小さいのは長谷部の所為でもないのだけれど。
「うわっ!」
「あぶない!」
ぐらりと踏鞴を踏む光忠を突き飛ばす。
がらがらというすさまじい音が響いた。
「・・・だいじょうぶか?」
「・・・う、ん」
自分の下に居る光忠がぽかんと見つめてくる。
「・・・なんだ」
「ううん。ちっちゃくても長谷部くんは格好良いんだなぁって」
睨む長谷部にへにょりと笑う光忠。
小さいは余計だと小突いた。
「あたりまえだろう。おれはおまえをまもる。おおきかろうがちいさかろうがかんけいない」
「長谷部くん・・・」
「まあ」
引き寄せ、抱きしめる。
「ちいさいとおまえをだきしめるのはふべんだな」
そう言って笑いかければ、光忠は頬を紅く染めて幸せそうに笑うのだった。

小さい身体は不便だが、まあいいか、と思う。
彼女が幸せそうだから。
彼女が可愛らしく笑うから。
一日くらいは我慢してやろうと。

「長谷部くん、そろそろお風呂の時間だね!」
「おい、おまえ、まさか・・・」
「うんっ!一緒に入ろう!」
にこっと笑う光忠。
前言撤回。
早く元に戻りたいと切に願う長谷部であった。

(そうでないと彼女は無自覚に煽り続ける)





「はせべくん、たいへん!こんどはぼくがちいさくなっちゃった・・・!」
「・・・ほう?では今日は俺が一日面倒を見てやろうな?何、心配するな。着替えから風呂に至るまで俺がやってやるからな・・・!」
「や、やだ、はせべくんがこわい・・・!」
「こら、逃げるんじゃない、光忠!!」

桜舞う/そして、また(へし燭SSS・ワンドロお題)*教師パラレル(リアルへし燭)

自分のデスクに戻ると引き出しを片付けている長船先生がいた。
「・・・何を・・・」
そう言いかけて、ああ、と思う。
長船先生、23歳の体育非常勤講師。
比べて俺は27歳にして常勤講師から新任社会教諭に決まったばかりだ。
どちらが優遇されるかと言えば教諭の方に決まっている。
俺はここに残り、長船先生は異動が決まっていた。
今日は長船先生がここで勤務する最終日。
「なんだ、お菓子ばかりだな」
くすくす笑って席に着く。
彼の引き出しの中身は軽食用であろうお菓子ばかりだった。
確かに腹が減るから、俺の引き出しにもいくつか入ってはいるが。
「そうなんですよ、お菓子とか開けてない珈琲缶とか」
「俺が貰ってやろうか?」
俺を見上げて照れた様に笑う長船先生に提案すると「あーもうぜひ貰ってください」と言った。
渡されたのは小さなチョコレート。
「・・・本当にいいのか?」
「はい、是非」
「では貰うな」
他にもありますよ、とにこにこする長船先生に、遠慮なく、とそれらに手を伸ばす。
「珈琲とか、開けてないんですよ?」
「勿体ないなぁ」
くすくす笑いながらそれを受け取る。
僕の形見だと思って、と長船先生が珍しく無邪気に笑った。
「俺、長船先生の隣で良かった」
そんな彼に言えばまた笑う。
引き出しも挟まない、真隣。
普通なら嫌だろうが彼にはそんな感情を一切抱かなかった。
寧ろ真逆で彼は良い匂いで(香水のような爽やかなそれだ)癒される。
「そろそろ6時ですよー」
斜め後ろに座っていた女性の先生が言い、周りが仕事を片付け始めた。
今日は学年で最後の飲み会なのだ。
彼が荷物を纏め、俺もそれに続いて立ち上がった。




以前に夢を見た事がある
俺はこの命を生きる前・・・つまり前世は【刀剣】だったらしいのだ。
へし切長谷部という変わった名前の。
社会専攻というのが幸いし、俺はそれらの資料をすぐに手に入れることが出来た。
それによれば元は織田信長の刀で、部下に下げ渡されたらしい。
織田信長はお気に入りの刀がいくつかあった。
それが光忠・・・後の燭台切光忠、俺の目の前に居る男の前世。
何故彼の前世までわかったのかは知らない。
同じ刀剣だったからかもっと他の何かがあったからか。
「長谷部先生?」
きょとりと長船先生が首を傾げる。
なんでもない、と笑い、ふと空を見上げた。
何処までも黒い空。
「流石に夜は寒いな」
「そうですね」
昼間は暖かかった、と愚痴っぽく言えば彼は小さく笑って同意した。
早く桜が咲く、暖かい時期になればよいのに、と思う。
しかしそれは同時に彼との別れを示していて。
「僕の地元、もう桜が綺麗ですよ」
「見に行ってみたいな」
「・・・。・・・ぜひ、来てください」
ふわり、と長船先生が笑う。
いつか、いつか。
彼が試験に受かって、俺もまだ此処に居て。
そうしていつかその時が来たら。

桜舞う空の下、夢で見た「へし切長谷部」と「燭台切光忠」の様に離れてしまったとしても。



君を思い続け。


そしてまた、君に会おう。



「長谷部先生に質問のコーナー!」
「いえーー!!」
「長谷部先生、好きな女性のタイプは?」
「そうですねー・・・。穏やかで癒し系で僕の三歩後ろを歩いてくれるような」

(彼のような、人)

その顔が見たかった(光忠♀ワンドロ・アイドル長谷部×アイドル光忠♀

『みんなー、ありがとーー!』
わあ!と盛り上がる会場に向かって手を振る。
『今日は最高のライブになったよ!』
ふわふわと笑う光忠に「みっちゃーん!」と黄色い声が上がった。
ウェディングドレス・・・今回の新曲衣装だ・・・の裾が揺れる。
衣装は可愛いがまさかウェディングドレスを仕事で着るなんて思わなかった。
『えーっと、ここでゲストさんからコメントPVきてまーす』
『・・・え?』
その隣で手を振っていた清光が唐突にそう言う。
驚いたのは光忠だけで、他のメンバーはにやにやとこちらを見ていた。
なるほど、教えられていないのは自分だけらしい。
今日は光忠のバースデーライブだった。
だからこそのサプライズだろう。
『はいはーい!モニターにごちゅーもく!』
はしゃぐ彼女らにつられて光忠は後ろを向いた。
大きなモニターに映ったのは長谷部だ。
『・・・長谷部、くん?』
『光忠、バースデーライブおめでとう。お前が俺のバースデーライブを祝ってくれてからもう1カ月経つんだな』
映ったのは公私ともに公認である恋人の長谷部からで。
いつも通りの彼の言葉にくすりと笑う。
画面の中では今回の彼女たちの新曲について意見していた。
・・・と。
『今から花嫁様を・・・頂きに参る』
『うわ、うわぁっ?!!』
下からせり上がって来た長谷部に横抱きにされる。
フレアスカートがふわりと揺れた。
『え、ちょ、ええ?!!!』
『誕生日おめでとう、光忠』
ふわりと笑う顔が近い。
わああ!!と会場の声が光忠を揺らした。
なんで、なんで。
疑問だけがグルグルと回り、端正な顔を見上げるしかできない。
『悪いが貴様らの嫁は俺が貰う。・・・恨むなら俺たちの新曲内容を恨むんだな』
意地悪く笑う長谷部がたん、と床を蹴る。
『えぇえええ?!!』
驚愕する光忠の声ときゃー!ともぎゃー!ともつかない悲鳴が会場を包んだ。
「暴れるな、落ちるぞ」
囁かれた声はマイクには乗っていない。
どうやら下で切ったらしかった。
・・・そう、長谷部は『空を飛んだ』のだ。
そういえば向こうの新曲のテーマは『怪盗』で、今回はワイヤーアクションを使ったPVだったっけ、と思い出したのはライブが終わった後で。
「やだ、ちょっと、下して、長谷部く・・・!ひぃいいやああ!!!!」
その時はただただ悲鳴を上げるしかなかった。
命綱は長谷部の腕だけだ。
意地悪、馬鹿となじり機嫌のいい長谷部を睨む。
「なんで、なんで・・・?!」
「その顔が見たかった」
珍しく無邪気に笑う長谷部。
まんまと騙されたのが悔しくてたまらない。
下では他のメンバーが長谷部のグループの他のメンバーと歌って踊っていた。
「もう少しこの空中デートを楽しまないか?」
「ぅううう!!!」

名を呼ぶ/息を呑む(へし燭SSS・ワンドロお題)

「・・・聞いてる?」
彼の不満気な声にはっと我に返る。
「・・・え?」
「もう、やっぱり聞いてない!」
頬を膨らせた光忠が一度息を吐いてから、あのね、と続けた。
「倶利伽羅がさ、僕の事やらしいって言うんだよ」
「・・・はあ?」
珍しくすっとんきょうな声を上げる長谷部に、酷いと思わない?と言う光忠。
そういえばこの間大倶利伽羅が後ろから抱き付きながら何か言っていたっけか。
いやそれよりも。
「お前、浮気か」
「違うよ、なんでそうなるの!・・・倶利伽羅とはそういう事してない。僕を何だと思ってるのさ?」
むっとして迫る長谷部に光忠が再び頬を膨らませた。
「僕がそんな不誠実だと思うのかい、君は」
「いや、そういう事では」
「もういいよ」
逆に顔をずいと近づけられ狼狽えればはあと溜息を吐き光忠は踵を返す。
そのまますたすたと歩いていった。
「お、おい!!」
慌てて呼び止めるが彼は止まらない。
「待て、おい!!燭台切!!」
機動は長谷部の方が早いはずだが追いつけなかった。
「待てと言っている・・・光忠!!!」
彼の名を叫ぶ。
ふと止まった光忠がふわりと振り向いた。
「・・・っ」
思わず息を呑む。
日を背に背負った彼が・・・美しかったから。
「光、忠」
ゆっくり、名を呼ぶ。
美しい彼の名を。


「一回だけ、赦してあげる」
「・・・感謝しよう」
綺麗に笑う光忠に長谷部は敵わないな、と思う。
息を呑むほどに美しい彼には。
恐らく一生敵わない。


ーー
冒頭のくりみつもどきはリアル大倶利伽羅くん(高2男子)が長船先生(23歳男性)をあすなろ抱きしながら
大「こいつやらしーねん」
光「もう、何それww」
ってやり取りしてたっていう本日の実話です(むしろその話がしたかった)

ラッキースケベ(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

その日は疲れていた。
だから、気付かなかったのだ。
暗い所為で良く見ていなかったのもあるが。
「・・・え?」
「・・・は?」
普段ならいたずらだってすぐわかっただろう。

風呂場の表記が入れ替わっていることくらい。

深夜も近くなって、長谷部はふらふらと風呂場に向かった。
あまり考えなしにがらりと脱衣所の扉を開ける。
「あれ、清光ちゃんが遅いの珍し・・・」
「・・・あ?」
明るい声に顔を向ければ光忠が下着を脱ごうとしている所だった。
「・・・え?」
「・・・は?」
余りの光景にひと時ぴたりと止まる。
「う、うわぁああ?!!!」
「す、すまん!!」
最初に動いたのは光忠で、顔を真っ赤にして座り込んでしまった。
慌てて謝りながら・・・その場から立ち去ればよかったのに彼女の方に歩み寄る。
途端、何かにつまづき、つんのめった。
「うわあ?!!」
「へ、ちょ、うわああ!!!」
思わず手が出る。
ひっと彼女の喉が鳴る音が聞こえたと思った刹那、光忠は自分の下にいた。
うにゅ、と掌を柔らかい感触が包む。
「は、長谷部くん、痛い・・・」
小さな声に恐る恐る彼女の顔を見れば、金の目に綺麗な涙が溜まっていた。
「あああすまん、光忠!!」
「・・・え、ううん。大丈夫」
慌てて彼女の上からどくと、ほっとした表情をする。
手を差し出して彼女を立たせようとし・・・引っ張られた。
再び柔らかい感触が今度は顔に伝わる。
「みつ、ただ?」
「ひゃぅっ!」
びくんっと彼女の躰が跳ねた。
「ご、ごめん!!長谷部く・・・?!!」
おろっとした光忠の躰を抱き上げる。
からりと風呂場の戸を開け、湯船に放り込んだ。
「・・・っ!げほっごほっ!は、はせべく・・・ひぃぅ?!」
「あまり男を煽るなよ、光忠?」
にやりと笑いかけ、胸を揉みしだく。
「ちょ、やぁ、ぁ・・・そ・・・っちが悪いんじゃないか・・・ぁ!!」
「ああ、そうだな」
確かに最初はこちらの不注意からだった。
だがその後に煽ったのは彼女の方だ。
ぱしゃぱしゃ。
風呂の湯が跳ねる。
「やら、ぁ、や、だぁ・・・!!」
彼女の高い声が風呂に響いた。

夜はまだ長い。

絆/てのひらの熱(へし燭SSS・ワンドロお題)

その日、夢をみた。
昔々、光忠が織田時代に伊達へ行った時の夢。
・・・朧げながらだったと思ったのに。
「・・・っ!!」
黒い夢に飛び起きた。
冷汗が止まらない。
反射的に部屋を出て廊下を走った。
「みつ・・・ただ!」
彼の部屋を勢いよく開ける。
すぅすぅと静かな息で眠っている光忠がそこにはいて、漸くほっとした。
「・・・ん、ぅ?」
ふわりと金と紫の瞳が開く。
「・・・あれ?はせべ、くん・・・?」
不思議そうな表情で起き上がる光忠に「すまない」と謝った。
「お前の夢をみた。お前が居なくなってしまうかと思って・・・」
はあ、と息を吐くときょとんとした光忠がくすくす笑う。
「何故笑う」
「だって長谷部くんがそんな事言うなんて・・・」
軽く笑いながら光忠が首を傾げた。
「大丈夫。僕は何処にもいかないよ?」
静かに微笑む光忠。
触れようと思っても手が出せなくて、小さく彼の名を呼ぶ。
「光忠」
「え?」
「手」
手?と疑問符を浮かべる光忠の手をぐいっと引っ張り、自分の方に寄せた。
「わっ」
驚いた声を上げ、光忠が胸に飛び込んでくる。
「長谷部くん?」
見上げる光忠をぎゅっと抱きしめた。
「もう二度と離さない」
「・・・ふふ、言うねぇ」
くすくすと可愛らしく光忠が笑う。
「僕の手を離さないでくれる?」
「無論だ。もう約束は違わない」
不敵に笑い、白い手にそっと口付けた。




繋いだ手を離さないように。
もう二度と彼が遠くに行かぬように。
伝わる熱は見えない絆となって二人を強く結びつけた。



(それは確固たる信頼か、それとも相手を破滅させるほどの執着か)

添い寝(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

珍しい事もあるもんだ。
ぼんやり天井を見上げ、長谷部は思う。
事務仕事が片付き、ついうっかり寝転んでしまったのがいけなかった。
ここ何日か寝ていなかった事も大きい。
うとうととまどろみながら「光忠が怒るな」と頭の端を掠めたのだけれども人間の三大欲求の一つには勝てなかった。
「長谷部君?」
こんこん、という音の後、すっとふすまが開く。
普段なら起き上がり返事が出来るのに今日は出来なかった。
数秒の後「しょうがないなぁ」という苦笑気味に呟く声が聞こえる。
大方、あの綺麗な瞳を大仰に見開き、それから花が綻ぶ様に笑ったのだろう。
見なくても容易に分った。
あの笑みを見ることが出来なかったのは残念ではあるけれど。
・・・と。
ふわ、と何かが身体にかけられた。
やわらかく、暖かいそれは毛布か何かだろう。
いつもは一旦起こしてくるのに、甘やかしてくれるつもりだろうか。
そのまま立ち去るのかと思いきや、布ずれの音が頭の上でした。
「・・・綺麗な、顔・・・だなぁ・・・」
ふっとかかる息と柔らかい手の感触を頬に感じる。
「・・・無理しないでね、長谷部君」
静かな声と少し迷うような気配。
「ねえ長谷部くん。あのね」
もう眠ってしまったと思っているのだろうか。
ふわふわとした心地良い眠気を必死に振り払い、彼女の声を聞こうとする。
「・・・好き、だよ?」
小さな声と共に頬に何かが掠めた。
それからえへへ、と笑って腕に縋り付いてくる。
ふに、と腕に彼女の豊満な胸が当たった。
なるほど生殺しという奴か。
長谷部の眠気はとうに何処かに行ってしまったのに、隣からすぅすぅと寝息が聞こえてくる。
そういえば彼女も最近働き詰めだったか。
ちらりと隣を見れば目を瞑り、普段よりあどけなく幼い表情の光忠がいた。
手を伸ばし、黒い髪を撫でる。
「・・・お前も無理するなよ、光忠。愛している」
髪に口付け、長谷部も再び目を閉じる。

たまのこういう時間もいいだろう。


穏やかな風が、部屋を抜けた。




「おい、光忠。起きろ。・・・襲うぞ?」
「ふゃ?!ぁ、や、にゃに、おっぱい揉まな・・・っ!!あぅ、も、襲ってるじゃないか、長谷部くんの馬鹿ぁ!!」
数十分後、光忠の悲鳴が本丸に響き渡るなんて・・・まだ知らない。

重傷/長い夜(へし燭SSS・ワンドロお題)

戦況は切迫していた。
次々襲い来る敵に長谷部はいい加減溜息を吐く。
「長谷部君!」
鋭い光忠の声に長谷部は振り向きざま敵を斬り捨てた。
断末魔を上げて敵が消える。
敵の出てくるまま追い続け、辺りの霧は深くなってきていた。
同じ部隊の仲間も疲労困憊で、それでも隊長である自分が先を行くから着いてくる。
「安定、そっち!」
「分かってる、よ!」
古株である二人が少し離れたところで敵を殲滅していた。
「薬研!」
「ほいよ、大倶利伽羅の旦那!」
鋭い声に黒が跳ぶ。
見る見るうちに敵が斬り伏せられていった。
もうすぐ、もうすぐで終わる。
そう全員が信じていた・・・刹那。
「へし切!」
清光の声が飛ぶ。
はっと後ろを見れば敵が刀を振りかぶっていた。
まだ残党がいたのか。
うかつだったと刀を構える。
・・・と。
「ぅ、ぁ・・・」
「・・・あ?」
ぐらりと目の前で黒が揺れた。
「!!光忠!」
「燭台切さん!」
最初に動いたのは誰だったろう。
彼が、己を庇って斬られたのだと分かるまでにずいぶんの時間を費やした。
「・・・!何をやってるんだ、貴様は!」
「・・・長谷部、くん」
怒鳴る長谷部に、へにゃ、と光忠が笑う。
よかった、と血まみれの腕を上げた。
何故こんな血にまみれているんだ。
返り血にしたって多すぎはしないだろうか。
・・・何故、この血は止まらないんだ。
「撤退命令!第1部隊、これより帰還する!異論は認めん!」
光忠を抱き上げ、長谷部は凛とした声で言い放つ。
まるで、もう一人の自分が居るかのような、そんな。
「・・・本丸に帰るまで持ちこたえろよ」
「・・・せ、べくんが・・・無事、でよかった」
囁けば、荒い息遣いの中、光忠がそっと言う。
うっすらと光が見えた。
やめろ、やめてくれ。
・・・頼むから、絶望を見せてくれるな。

夜は更ける。
ひっそりと、死を引きつれて。


薄暗い部屋の中、長谷部は光忠の枕元に正座していた。
どうにか一命はとりとめたが回復までに時間がかかるらしい。
自分が無茶な進軍をしなければこんなことにはならなかったのだろうか。
穏やかに眠る彼を見る。
自分が斬られるのは構わなかったのに。
寧ろ本望ともいえる。
なのに何故光忠は自分を庇ったのだろう。
彼がい無い世界なんて耐えられない。
崩れ落ちる光忠を見て、心底ぞっとした。
何故そんな馬鹿な真似を。
・・・そんなこと、赦すくらいなら閉じ込めてしまった方が遥かにましだ。
人形のように横たわる光忠を見ながら思う。
硝子けぇすに詰めてしまえたらどんなに心穏やかになる事だろうか。
塗り潰したそれは彼が斬られたときに壊れてしまっていて。
静寂、ごぽりと何かが音を立てた。


闇は黒さを増していく。
長谷部の心の中の如く、深い黒。

・・・長い夜は、明けたばかりだ。