お雛様(光忠♀ワンドロ・アイドル長谷部×アイドル光忠♀

その日、幼稚園でひな祭り会があった。
通っていた園は独特で、毎回年長組の園児はそれぞれ男雛と女雛の衣装を着て写真を撮る、という園内行事があって、一か月も前からそれを楽しみにしていた。
「長船光忠さん」
「は、はい!」
幼い声が響く。
途端にみっちゃーん!という男の子たちの声が上がった。
確か、女の子が男の子を選んで写真を撮るという手法で(今思えば誰にも選ばれなかった子どもはどうなったのだろうとか思うのだが)光忠もおろおろと迷っていた。
昔から男子に人気があったのである。
光忠を誰かに渡したくない。
だから、もう写真を撮り終え(長谷部も女子人気は高かったのだ、当時から)待機列に居た長谷部は困った顔の光忠に駆け寄り。
「はせべくん?!」
驚いた表情の光忠の手を取り、叫んだ。

「おれのおひなさまになってくれ!」




「あの時の長谷部くんは可愛かったなあ」
くすくすと光忠が笑う。
まったく、何時の話をしているのだか。
あれから15年。
光忠は長谷部だけのお雛様ではなく、全国のお雛様・・・ではなくアイドルになった。
それは長谷部も同じなのだけれど。
今日はミュージック番組の収録で、たまたま昔の、その写真を出されたのである。
長谷部と光忠は幼馴染で幼稚園からずっと一緒だった。
こうして仕事場まで同じになるとは夢にも思わなかったが・・・それはさておき。
「ふふ。お雛様になって、なんて可愛いよね」
「やめろ、恥ずかしい」
「だって」
楽しそうに光忠が笑う。
この時期になるといつも言われる、いわば恒例行事だ。
「お雛様、かあ。僕はもうそんな柄じゃないよね」
どっちかと言えば格好良いでしょ?と言う光忠。
そう言う所が可愛いのだとは・・・彼女には言えないが。
「・・・ああ、そうだ。お雛様という言葉は間違いだぞ」
代わりに話を逸らす。
光忠も話をすり替えられたと怒るより、その情報が意外だったようで。
「そうなの?」
「ああ。あれは両方とも内裏雛と言う」
「へえ」
驚いたような声が響く。
「良く知ってるね」
「まあな」
「じゃあなんでお雛様って言うの?」
「あれは、童謡を作ったやつが間違えたんだそうだ」
そんな話をしながらふと光忠を見た。
きょとんとする光忠に近付き、彼女の黒い髪を撫でる。
さらりとしたそれはあの時と変わっていなかった。
「・・・っ、待って、今汗臭いから・・・!」
「構わん」
「・・・も、長谷部くん!」
いやいやと光忠が首を振る。
ふわりと漂う桃の薫り。
「俺はくさいとは思わんがな」
恥ずかしそうな表情の光忠に小さく笑う。
「それでも気になるなら早く着替えて来い」
「・・・。うん」
ふわ、と光忠が笑って離れた。
短いスカートが揺れる。
今日の衣装は和風装束を意識したものだろうか、着物のような袖口に膝上の紫色のフレアスカート。
黄色い帯に、それを締める筈の胸元が大きく肌蹴ている。
・・・正直、目のやり場に困った。
「・・・お前、和装やめろよ」
「え?」
それを正してやり、きょとんとする光忠の髪をもう一度撫でる。
「なんで?似合わないかな?」
「似合うから言ってるんだろうが!!」
「ええ??」
理不尽な長谷部のそれに光忠が混乱した声を上げた。
「お前な、揉まれたいのか?」
「・・・?!!」
ずい、と迫り、零れ落ちそうな胸を鷲掴む。
「ちょ、な、な・・・?!!」
「男はお前のこういう姿を見てそういう事を考え・・・おう?!」
「そんな馬鹿な事を考えるのは長谷部くんだけだよ?!!」
ぶんっと拳が長谷部の顎を狙って降って来た。
・・・どこの女性が恋人のアッパーを狙おうと思うのだろうか。
「・・・。・・・和装やめたらお雛様になれなくなっちゃうけど、いいの?」
膨れていた光忠がふとそう言った。
あの時の発言、だろうか。
・・・まったく、何時の発言を引き摺っているのだか。
「良い。お前のそういう姿を見られるくらいならな」
きっぱりと言い、それにと続ける。
「お前はいつでも俺だけのお雛様だろう?」
「・・・もう」
驚いたように見開いた目を細め、くすくすと光忠が笑った。


貴女の晴れ姿を見るのは己だけで十分だ。


(それが、何よりうれしいひな祭り)

立場逆転(へし燭SSS・ワンドロお題)*教師パラレル(リアルへし燭)

初めましては確か9月。
人員不足の高等部に派遣されてから1か月後で。
隣の席がそれなりに整った見た目のやつだな、くらいの印象だった。
「せんせー、前世って知ってる?」
生徒に聞かれ、笑って返していたがふと自分の前世はなんだったんだろうと過ぎった所で・・・その日、夢を見た。
戦場、人を斬る感覚、『使われる』喜び。
思い出した。
・・・思い出して、しまった。
「・・・。・・・人じゃ、ないのか」
夢から覚めた時にぽつりと呟いたそれは一人暮らしの部屋に良く響いた。



一つ思い出せば次々と思い出すもので。
例えば自分が「へし切長谷部」という刀剣だったとか。
例えば人の姿を成して戦っていた記憶もあるだとか。
例えば。
「長谷部先生」
「・・・ん、ああ」
・・・回覧物を回して来る隣の席の同僚は「燭台切光忠」という刀剣だったとか。
同じ時代、同じ主の元で使われた刀剣、燭台切。
己が大太刀だった時代は美術品だった号の無い一振りだった。
「長船先生、サイン忘れてる」
「え、あ」
そんな彼は今書類にサインし忘れて照れた笑みを浮かべている。
長船先生、自分より4つ下の23歳、元陸上部。
前世は自分の方が足が(もっと言えば機動が)速かったと記憶しているのだが。
まあ前世と関係しているといえば自分が高校大学時代に野球部だったことだろうか。
投石が得意だったから「そこに生かされたか」と何となく納得した。
・・・と。
目の前では何やら身長の話に華が咲いている。
此方に振られていないからぼんやり聞いていることにした。
「へぇー、そう。桜井先生身長いくつなん」
「私ですか?170です」
「えっ」
「えっ」
驚いた声を上げたのは聞いた男性教師でも聞かれた女性講師でもない。
「僕も同じくらいです」
「あっ、そーなんですか!」
彼、長船先生のそれに女性講師がからりと笑った。
今の自分は178pと少しある。
確か彼は自分より大きかった気がするのだけど。
いや、小さかった時代もあるかもしれない。
流石にそこまでの記憶まで戻ってはいなかった。
ふと時計を見るとそろそろ授業の始まる時間だった。
席を立ち、教室に向かう。
「長谷部せっんせー!」
「おわっ」
背後からの衝撃につんのめりかける。
「あっ、桜井先生おはよーございまーす」
「はいはい、おはよー」
「・・・おい、こら、降りろ」
生徒の一人に背中に乗られ、思わず低い声を出した。
「へっへー。おっはよー長谷部ーー」
「先生、な!」
「えーだってさー!」
にひ、と笑う男子学生。
自分で言うのもなんだが男子には人気がある。
前世ではこの役目も燭台切の役目だったはずだ。
・・・まあ。
「あー、長船先生おはようございまーす!」
「おはようございます」
にこ、と長船先生が微笑む。
この姿でも女子人気はあちらの方が高いらしいが。
それにしても。
「・・・立場逆転だな」
「えー?長谷部なんか言ったー?」
ぽつりと呟いたそれを目ざとく聞かれ、ぶん、と振り下ろす。
わあい!とはしゃいだ声が響いた。
「言ってない!さっさとランニングに行けっ!」
「長谷部先生が怒るーー!」
あはは、と駆けていく男子生徒と「廊下走っちゃダメなんだよー」と声をかける女子生徒。
まったく、と見送るその横でくすくすと長船先生が笑っていた。
自分よりも背が小さく、力も弱く、それでいて足が速い。
生徒に遊ばれるのは自分の方で、近寄りがたく見られるのは彼の方で。
いつしか逆転してしまった立場だが。
「長船先生」
「はい?」
ふわりと彼が首を傾げる。
穏やかなまなざしは何時だって変わらなかった。
「先生は、前世を信じるか?」








「よぉ、先生」
「うわっ、ちょ、も、何!」
「・・・朝から長船先生にセクハラとは良い度胸だな、相州?!」

(いつだって変わらない関係もそこにあって


前世も今世もなかなか厄介だと思うのです)

可愛いって言わないで(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

「燭台切さんかーわいーー!」
「・・・もう、やめてよ」
きゃあ!と飛びつく初期刀、清光を受け止めながら光忠が珍しく怒った声を出した。
「可愛いって言わないで」
頬を膨らせながら光忠が言う。
普段から仲の良い彼女に、こう強く言うのも珍しかった。
こてりと清光が首を傾げる。
「なんでー?燭台切さん可愛いのに」
「僕は可愛くないよ。それに可愛いなんて嫌だ」
「どうして嫌なの?」
「どうしてって・・・」
清光に聞かれて困った顔で光忠が考え込み、暫くしてもう一度口を開いた。
「だって僕は刀だよ?清光くんは本当に可愛いから兎も角」
「ありがと。・・・でも燭台切さんだって可愛いのになー。俺だって刀だけど可愛いって言われたら嬉しいよ?」
「僕は大きいし、可愛いなんて柄じゃないしね。・・・それに可愛いより格好良いって言われたい」
「そりゃそうかもしれないけど。可愛い、は女の子の特権だよ?」
「そう?僕からすれば安定君や長谷部君は可愛いよ?」
「・・・。・・・それ、すっごい怒られると思う」
うわあ、と清光が言う。
「安定は兎も角、へし切は可愛くないってー」
「そう?可愛いところもあるんだよ?」
「えー??」
きゃっきゃと話している彼女らを離れて見ているのはいつも通りの二人で。
「可愛いですって、僕ら」
「心外だな」
安定のそれに長谷部は彼女を見ながら答えた。
自分が可愛いと言われたのも心外だが、彼女自身を可愛くないとはどういうつもりだろう。
あんなに可愛いものは存在しないだろうに。
「少し分からせなくては」
可愛らしく笑う光忠を見ながら長谷部は口角を上げる。
小さく呟いたそれは安定の耳には入ったようで、引いた表情で見上げてきた。
「うわあ、長谷部さん悪い顔してる」
呆れたような、面白がるようなそれを無視し、光忠に近付く。
「おい、燭台切」
「ん?なあに、長谷部く・・・うわあ?!」
無防備な彼女を抱き上げた。
あーあ、という清光の声。
「ちょ、ちょっと??」
「五月蠅い、黙っていろ」
急に横抱きにされ連れ出されても膨れ面をするだけでそれ以上何も言って来ない。
大方「清光と話していて嫉妬したのかな、長谷部くん可愛い」くらい思ってるんだろうか。
無駄に腹が立つ。
誰も近付かない倉庫の扉を足で開けた。
ぽすりとそこに降ろし、顔を近付ける。
薄暗い倉庫だが、こんな場所に連れて来られてもきょとんとしているのは長谷部が性的なことをしないと信じ切っているのかそもそも興味がないのか。
あるいは自分が色気を振りまいていることに無自覚なのか。
・・・そこは無自覚なんだろうと思う。
長谷部の邪な思いにも気づいていないようだし。
「何、長谷部く・・・」
「可愛い」
「?!」
ぼそりと囁くと光忠が大仰に目を見開いた。
「な、な・・・」
「可愛いな、お前は。俺に可愛いと言われて驚いてる顔も、俺が何もしないだろうと思っているその思考も、何もかも」
「・・・に、言ってるの・・・ひゃんっ?!」
おろ、と初めて狼狽を見せる光忠の耳に口を寄せる。
「可愛い声」
「や、何・・・」
「涙目なのも可愛らしいな」
「は、長谷部くん・・・?」
「お前は可愛い。誰よりもだ。世界や宇宙等と愚かなもので括るつもりはない。俺の中で、お前は最上だ。愛らしく、美しい・・・俺の唯一」
金色の目に涙をため、長谷部を見上げる光忠にぞくぞくした。
そういえば前も言葉責めをした際に狼狽していたっけと思う。
意外に純情だと思いながら長谷部は距離を詰めた。
「可愛いぞ、光忠。愛おしい俺の一振り。その目も髪も心も全てが可愛らしい」
彼女の両手を覆う。
逸らそうと頑張っていたが観念したように口を開いた。
「か、わいぃって・・・言わないで・・・」
「何故?」
「・・・って、はずか、しい・・・」
うぅ、と顔を紅くする光忠を抱きしめる。
本当に愛らしい刀だ。
「は、長谷部くん?!」
「俺は刀である前に男性型だ」
「え、あ、うん??」
「男を煽るとどうなるか・・・分かるな?」
少し離れ、にいと笑う。
「あ、煽ってな・・・ひゃぅ?!」
あわあわと焦った声の光忠の、たゆんとした胸に手を伸ばした。
「や、やぅ、長谷部くん、や、だあ!」
「嫌がる声も愛らしいぞ?」
「可愛いって、言っちゃだめだって、ば・・・っ、ふゃ、あ・・・!」
嫌々と首を振り、否定の言葉を紡ぐたびに可愛い可愛いと囁く。
立ち回りが良く、何でも出来、男性型よりも強い・・・光忠の唯一の弱点は。

(本丸のお姉さんは可愛いに弱い)

喧嘩(へし燭SSS・ワンドロお題)

「なんだよ、もう!安定なんか嫌い!大っ嫌い!!」
「はあ?!それはこっちの台詞だよ、清光の馬鹿!」
ぎゃんぎゃん言う声が響く。
半ば恒例となった清光と安定の痴話喧嘩に周りは「またか」と苦笑気味だ。
それを見つめ、はあと溜息を吐き出したのは・・・長谷部だった。
空を見上げ声を溢す。
「あれくらいなら・・・可愛かったんだがな」



それが起こったのは確か数日前だった。
「ねえ長谷部くん」
「あ?」
珍しく酒を呑んでいた長谷部にひょこりと光忠が顔を出し、声をかけてくる。
少し眉を顰め、光忠は「薬は?」と言った。
そういえば風邪気味だったので薬を処方してもらっていたが、果たして飲んだだろうか。
あまり覚えていないので適当に答える。
「ん?ああ、飲んだ」
「薬飲んだのにお酒呑んでるのかい?」
「・・・飲んでない」
「どっちなの」
もう!と光忠が呆れた声を出した。
酒と抗生物質は良くないというのは微かに聞いた覚えはあるが・・・そんなにいけないことだろうか。
「あのねえ、長谷部くんはもう少し自分の身体を大切にした方が・・・」
「五月蠅い、燭台切。お前にとやかく言われる筋合いはないぞ。大体お前は俺の事に対して色々言い過ぎなんだ。世話係でもあるまいし・・・」
「・・・は?」
つらつらと文句を言っていた長谷部を遮ったのは光忠の低い声で。
それにやばいと思ったのも後の祭りだった。
「お、おい、燭台・・・光忠?」
「・・・。・・・もう、いい」
「おい!」
冷たい声に声を荒げて彼の肩を掴む。
途端、ぱしんっと言う音が響いた。
「触るな」
冷ややかな声は光忠の様ではないようで。
じんと熱を帯びる無意識に掌を握りしめる。
「・・・ははっ」
思わず笑いが出た。
ここまでのは久しぶりだ。
長谷部を見る柔らかな金の瞳は恐ろしいほどに冷め切っていた。
それはまるで織田時代の・・・感情の無い彼を見ているかの如く。
(美しい、とぼんやり思った)
「っ、光忠!」
思考を引き戻し慌てて声をかける。
「もう君に関わらない。だから君も僕に関わらないで」
固い声で光忠が言い、ふわりと燕尾の裾を舞わせた。
遠くなる彼の姿を見つめ、はじめて喧嘩した時もこうだったな、と頭の片隅で思う。
感情の一切なくなった、金色の瞳を見る度ぞくぞくと背を何かが駆け抜けた。
悪趣味だなと自分でも思う。
それでも。

その瞳が見たくて長谷部は彼を怒らせる言葉を吐く。




・・・光忠の怒りがなかなか溶けないのも忘れて

三つ巴(光忠♀ワンドロ・へし→光♀←くり

何の時だったかは忘れた。
主の所に呼ばれた時だったか、戦闘についての会議をしている時だったか、夕飯の席ではなかった気がする。
ぼんやりと座った光忠を振り返った瞬間、その隣に座ったのは大倶利伽羅だった。
伊達刀の同志。
光忠が大倶利伽羅の事を弟の様に可愛がっていたのは知っていた。
人となれ合う事を嫌う大倶利伽羅が光忠のそれを甘んじて受けていたのも知っている。
だが。
「っ」
振り向いた俺が見たのは大倶利伽羅が光忠の肩を抱き寄せたところだった。
突然だったのだろう、少しよろけ、「もう」と苦笑いする光忠に奴は何かを囁いていた。
・・・少し遠かったので何を言ったかは分からないが。
肩に置いた手をたゆんと揺れた光忠の胸に滑らせようとしたのを見・・・流石に立ち上がる。
大股で近づき、二人を見下した。
「・・・。大倶利伽羅」
「なんだ?」
光忠の肩を抱いたまま大倶利伽羅が俺を見上げる。
あくまで離さないつもりか。
「あ、あの、長谷部くん?」
おろおろと俺を見上げる光忠。
それから「ね、倶利伽羅、もういいでしょ」と大倶利伽羅に向かってへしょりと笑った。
「何の話だ」
「お前には関係ない」
「・・・何だと?」
「ちょっと、倶利伽羅!長谷部くんも!」
あっさり言う大倶利伽羅に目くじらを立てたところで、もう!と光忠が声を上げる。
仕方がなく黙り込めば大倶利伽羅が明らかに勝ち誇った笑みを浮かべた。
・・・くそっ。
「・・・光忠、少しいいか」
「?何、長谷部くん」
感情を飲み込み、光忠を呼び寄せる。
きょとりと目を瞬かせ、立ち上がって俺の元に来た。
光忠に書類を見せ乍ら大倶利伽羅を振り返る。
急に引き剥がされた奴は目に見えて不機嫌になっていた。
少し気分が良い。
しかし。
前屈みになると大きな胸が誇張されるのに光忠は気付いていないのだろうか。
「おい、光忠。気を付けろよ」
「え?」
下からの声に光忠が振り向く。
「長谷部、お前の胸ばかり見てるぞ」
「え、え?!」
「っ、大倶利伽羅、貴様!」
焦ってばっと胸を隠す光忠と大声を出す俺ににやりと笑う大倶利伽羅と。
「・・・。貴様だって今光忠の尻を見ていただろう」
「・・・俺が何を見ようが俺の勝手だ」
俺の言葉にぷいとそっぽを向く。
「く、倶利伽羅・・・?!」
紅い顔で大倶利伽羅を睨む光忠。
「なんなの、もう!二人して!!」
頬を膨らせる光忠が可愛くて。
はあと溜息を吐く声が揃った。
大倶利伽羅が立ち上がって光忠を引き寄せる。
「わっ」
俺が光忠の肩をぐっと抱く。
「ふえ?!」
「共同戦線を結ばないか、大倶利伽羅」
「慣れ合うのは嫌いだ。・・・が、致し方ないな」
「ちょっと、何、何の話、長谷部くん、倶利伽羅・・・?!!」
「俺の部屋でいいか、長谷部」
「ああ。問題ない」
ひょいと光忠を抱き上げ、俺に確認をとる大倶利伽羅に頷いて見せる。
「根回しをしてくる。先行ってろ」
「分かっている」
「二人とも、ねえ何の話を・・・っ!・・・倶利伽羅、降ろして、僕を降ろしてよ!長谷部くん助けて!!」
じたじたと暴れる光忠が俺に助けを求めてくるがさらりと無視した。
後ろから「落ちるぞ」という声が聞こえてくる。



大倶利伽羅は倒すべき敵だ。


しかし今は二人、光忠に愛を囁くのも悪くないのではないだろうか。



(ずるずる続く、彼と俺と彼女を巡る三つ巴戦線)

バレンタイン(へし燭SSS・ワンドロお題)

襖を開けると甘ったるいにおいが広がった。
「あ、長谷部くん!」
にこっと長谷部を認めた光忠が笑う。
「なんだ?これは」
「この間ちょこれーとを買ってきてくれただろう?」
微笑む光忠にそういえば、と頷いた。
普段物を欲しがらない光忠が珍しく頼むので買いに行ったのである。
「それを別のお菓子にしようかと思って」
「何故?」
何故そんな面倒な事をと首を傾げれば小さく笑った。
「今日はばれんたいんだよ」
「ばれ・・・なんだって?」
「ばれんたいん」
機嫌良さそうに光忠が笑う。
それでもよく分からなくて長谷部は首を捻った。
「・・・聖燭祭のことか?」
「違う違う。それは被献日でしょう?」
くすくすと光忠が笑う。
「好きな人にちょこれーとを送る日だよ」
「なんだ、それは」
首を傾げる長谷部に、んっとね、と光忠が少し上を向く。
「昔の西洋でね、戦士の士気の低下をおそれて兵士たちの結婚を禁止したんだって。その禁令に背いて恋人たちの婚礼を執り行ったのがこの『ばれんたいん』の名のもとになった聖職者。まあ捕えられて処刑されちゃうんだけど」
「婚礼如きで士気が下がるとは思わんがな。寧ろ、護るべきものがいると言うのは生きて帰らなければならんと俺は思うが」
「・・・」
長谷部の言葉をぽかんとした表情で見上げた。
「なんだ?」
「・・・長谷部くんがそんな事を言うとは思わなかった」
呆けたそれの光忠の頬を軽く抓る。
「い、いひゃい!」
「失礼な奴だな、お前は」
「・・・だって」
むくれる光忠に長谷部は溜息を吐いて見せた。
・・・まあそう言われるのは長谷部の普段からの言動の所為でもあるのだけれど。
「あ、ねえ長谷部くん、今日は・・・」
「今日は出陣だ」
「・・・そっか」
しゅん、とする光忠の黒い髪を撫でる。
「何、すぐ戻る」
それを可愛いな、と思いながら長谷部は笑った。
「嫁もいるしな」
「・・・もう」
頬を染める光忠に、ぐい、と何かを口に押し付けられた。
口が甘い。
美味いと言えば、へにゃ、と顔を緩ませた。
「無事に帰って来てね」
「無論だ」
ちゅ、と触れるだけの口付けをする。
「お前が待っているからな」


口の中に広がる

甘ったるいちょこれーと



ふわりと微笑んだ光忠のそれは

どこか壊れた様相をしていた



(バレンタインは死んだのだ


彼の笑顔と共に)

バレンタイン大作戦(光忠♀ワンドロ・アイドル長谷部×アイドル光忠♀

愛する人から貰いたい


甘いあまいチョコレート


『わぁ!甘くて美味しそう!』
『ふふ、つまみ食いはダメだよ』
画面の中できゃっきゃとやりとりが繰り広げられている。
その画面をじぃっと見つめているのは日本を代表する男性アイドルグループの長谷部だ。
「はーせべさー・・・うわっ」
引いた声を上げるその人に胡乱気な目を向ける。
「なんだ。大和守」
「なんだ、じゃないですよ。何してるんです?」
呆れたような、同じグループの安定に見ていたスマフォの画面を見せた。
「・・・清光と光忠さんの料理番組?」
きょとんとする安定。
長谷部が見ていたのは長谷部たちと時を同じくしてデビューした女性アイドルグループの清光と光忠が担当している料理番組だった。
今日はバレンタインも近いという事からチョコレートを作っているらしい。
『これで好きな人のハート鷲掴みだね!』
『みんなも、大切な人に向けて作ってみてね』
画面の二人はラッピングを終え、手を振っていた。
タップし、視聴を終える。
「光忠は俺に作ってこんが?!!」
「知りませんよ!」
机を叩く長谷部に安定が怒鳴り返してきた。
ちなみにこの長谷部と光忠、世間からも公認のカップルである。
「何故だ、光忠がこの俺にチョコレートを送ってこないとは・・・」
「そもそも普通にもらえると思っていることが驚きですけどね」
頭を抱える長谷部に安定が言った。
「いや、日的にまだ先だからか?しかしあの光忠のことだ、今くらいから用意していても・・・」
「長谷部さん」
ぶつぶつと持論を展開する長谷部に安定が呆れた声を出す。
「考えている暇があるなら本人に聞けばいいんじゃないですか?」
「・・・。・・・ああ、そうだな」
「なーんて・・・え?」
ゆらりと立ち上がった長谷部に安定がぎょっとした表情をした。
他のメンバーがなんだなんだと顔を出す。
「光忠の所に行ってくる」
「・・・っおい、長谷部!」
「・・・安定くん何したの?」
「僕の所為じゃないけど?!」
ぎゃーぎゃーと言う声を無視して長谷部は戸を閉めた。
そうだ、気になるなら本人に聞けばいいのだ。
「光忠ァ!!」
「あれ、長谷部くん」
勢いよく楽屋の戸を開ける。
そこには、きょと、とした表情を見せる光忠だけがいた。
他のメンバーがいないのは都合がいい。
「珍しいねー。長谷部くんが僕の楽屋に来るなんて」
にこにこと言う光忠は新曲PVの撮影だったのだろう、短い制服風のスカートに零れ落ちそうな胸を強調させる白いプルオーバーといういで立ちだった。
「みっちゃん、先出るよー」
「あーうん、ごめんねー」
廊下にいたのだろう他のメンバーに声をかけ、それから長谷部にこてりと首を傾げて見せる。
「それで、どうしたんだい?」
「・・・ああ」
頷いて見せたが・・・ここに来てひどく後悔していた。
チョコレート一つでなにを意固地になっていたのだろう。
「・・・いや、まあ・・・なんだ。今日のOA見たぞ」
「え、本当?!」
ぱ!と長谷部の言葉に顔を輝かせる光忠。
光忠は純粋に長谷部が自分の出ている番組を見ていたのがうれしかったらしい。
「あのチョコ、良く出来たんだぁ。もうみんなで食べちゃったけど」
「そ、そうか」
ふわふわと言う光忠に長谷部は相槌を打った。
食べた、ということは自分の分は用意してないという事だろうか。
・・・流石に忘れているという事はないだろうと思うのだけど。
と。
あ、と光忠が声を出す。
「これ、番組とは関係ないんだけど・・・」
バッグをごそごそと探り、小さな包みを取り出した。
おずおずと差し出して来る。
「これは?」
「・・・。わかるだろう?」
むくれる光忠に思わず嬉しさで顔が崩れた。
やはり光忠は用意してくれていた・・・と。
ポーカーフェイスを必死に保つ。
「え、えと・・・受け取ってくれる?」
首を傾ける光忠の差し出す手事掴み自分の腕の中に閉じ込めた。
「わわっ、長谷部くん?!」
「いいだろう。お前事受け取ってやる。・・・今夜は離さんぞ?」
「そ、そこまで言ってな・・・!んんぅ!!!」
びく!と身体を震わせる光忠に口付ける。


チョコレートの様に甘い日々を、貴女と


「ねえ、清光。あの料理番組さあー?」
「ん?ああ、あれ。あれね、光忠ちゃん発案の企画なんだよー」
「・・・ああ、通りで」

(バレンタイン大作戦にまんまと嵌った男の話)

節分(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠

ぱたぱたと音が聞こえる。
振り向くと黒い着流しを引き摺った長船の子、光忠が廊下を走っていた。
「国重様!」
ぱ!と顔を輝かせる光忠に手を伸ばす。
「?・・・わ!」
着流しを踏んでつんのめりかける光忠を受け止め、抱き上げた。
「・・・危なかったな」
「・・・。・・・ありがとうございます」
「いや」
礼を言う光忠を下ろす。
ふ、と光忠が首を傾げた。
「何故、光忠がこけると分かったのですか?」
「お前を見ていれば事が起こることくらい分かる」
そう言って頭を撫でてやればぽかんと呆けた表情をしていた光忠がぱあと顔を明るくさせる。
「凄いですね、国重様!」
「うん?」
きらきらと表情を輝かせる少年に長谷部は顔を近付けた。
「そういうの、先見の明というのでしょう!」
小さな声で秘密を打ち明ける様に言う光忠に思わず目を見開き・・・それから笑う。
「あ、あれ?」
「・・・ああ、そうだな」
「!!やっぱり国重様は凄いんですね!」
嬉しそうにひょこひょこ跳ねる光忠の頭を撫でてやった。
「また書物の知識か?」
「はい!」
問うと、大きな黒表紙の書物を掲げる光忠。
「では、先見の明という言葉を持つ植物を知っているか」
「・・・?いいえ。そのようなものがあるのですか」
素直に首を振る光忠に長谷部はそっと教えてやる。
「柊だ」
「柊・・・。ああ、知っています!棘のある葉でしょう」
「そうだ。柊には魔を払う力がある。そこから転じて用心深さという言葉も持つ植物だな」
「なるほど・・・」
ほう、と息を吐く光忠は嘘を教えても信じてしまいそうだった。
純粋とは罪だな、と思う。
「ああ、今日は節分祭だな」
「節分祭?」
きょとんとする光忠。
ああ、と頷いて、光忠が持つ書物を取り上げる。
「・・・ああ、ここだ。『節分祭、季節の変わり目には鬼が生じると考えられており、それを追い払うための悪霊ばらい行事』ということだ」
「鬼・・・ですか」
「そうだ。追い払うには豆を巻き、柊鰯を飾る」
「何故です?」
「鬼が嫌うものだからだろう。・・・光忠」
転ばぬようにとひょいと抱き上げ庭に連れ出した。
庭の隅に咲いていた柊をいくつか取る。
「国重様?」
「お前が鬼に攫われては困る」
幼い顔できょとりと見上げる光忠に、柊で作った冠を被せた。
「痛くはないか」
「はい」
ふわりと光忠が微笑む。
暖かい・・・昨日まであんなに冷たかった風が・・・長谷部の長い榛色の髪を揺らした。
薫る、甘い柊の花の香りに長谷部もまた笑う。
まるでこの小さな少年のようだと。
甘い香りで誘っておきながら最初は棘だらけだった少年は日を追うごとに棘を丸くしていった。
「あ、そうだ!・・・行きましょう、国重様!なんでも幸福巻というのがあるそうですよ!」
嬉しそうに手を引っ張り、笑う光忠。
「ほう?」
「恵方を向いて食べる寿司の事だそうです!お相伴にあずかっても良いと伺いました!」
無邪気なそれに小さく笑って長谷部は言った。
「俺にとってお前のいる方が恵方だな」
「国重様・・・」
とろりと破顔する光忠の頭をそっと撫でる。

節分。

冬に別れを告げ、訪れる春を祝う日。


春の様に柔らかな笑顔の光忠と、共に・・・新春を。

(鬼に愛された少年に、春は果たして訪れるのか)

節分/雪遊び(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

今日は節分なのだと言う。
豆を投げ、鬼を祓い、春を呼ぶ行事だ。


「わあああ!!!燭台切さん、平気?!!」
「ちょ、大丈夫ですか?!!ほら、こっち・・・!」
「え、僕は大丈夫だよ・・・?」
「もーー女の子なんだから身体大事にしなきゃ!・・・あ、主!」
「馬鹿清光!主呼ぶなって長谷部さんから言われて・・・!!」
・・・表が五月蠅い。
そういえば雪が積もったのだと短刀や打刀たちが騒いでいた気がするのだが・・・なんだろう。
「あ、へし切!」
戸を開けるとぱたぱたと廊下を走って来た少女・・・加州清光と目が合った。
いつもその名で呼ぶなと言っているのにと文句を言おうと口を開いた瞬間、ぱん!!と顔の前で手を合わされる。
「・・・は?」
「ごめん!!」
「・・・なんだ?」
きょとんと彼女を見れば、えっとね、と口籠った。
「短刀とかと、雪合戦をしてたんだけど・・・たまたま通りがかった燭台切さんに当てちゃって」
「・・・?雪玉の中に石を入れていたわけでもあるまい?」
「入れてないけど。でも全身ぐしょぬれでさあ」
「は?」
清光の言葉に一瞬固まる。
そのまますぐ立ち上がった。
「どこだ」
「あ、えっと、主のとこ!!服着替えるって」
「そうか」
清光の慌てた声を背後に聞き、長谷部はその場所に向かって歩き出す。
まったく何を考えているのか。
「光忠ァ!」
「わっ?!あ、長谷部くん!」
ぱ!と顔を輝かせる・・・光忠。
「今日雪降ったじゃない?みんな大はしゃぎでさ。厄除け饅頭出来たよって呼びに行ったら雪玉に当たって・・・格好悪いよね」
にこにこと言う彼女に長谷部ははあと溜息を吐き出し、その肩を掴む。
「??何?」
「あのなあ・・・!!」
不思議そうな顔で長谷部を見る光忠に長谷部はもう一度息を吐き出した。
雪玉に当たるのは仕方のないこともあるだろう。
当てた方が悪いと思わないし避けられなかったのがいけないとも思わない。
だが。
「・・・その恰好は何だ」
長谷部は問う。
主が・・・裁縫を趣味としており何かと光忠を着せ替え人形にしたがるのは知っていた。
直談判を試みた際、「服を着替えなきゃならなくなったら構わんだろ?」と言う主に長谷部は何も言えなかったのである。
だからそういう事が無い様気を付けていたのに・・・だ。
「服が濡れたら俺の所に来いと言っただろう!」
「ええ?だって長谷部くんに迷惑はかけられないし」
「主の手をわずらわせる方が問題だろうが!」
怒鳴る長谷部にきょとんとしてからけらけらと笑う。
「もしかして嫉妬??ふふ、主はそうじゃないから大丈夫だよ」
「いや、そういう問題じゃ・・・」
綺麗な笑顔で微笑む光忠に何も言えなくなった。
幾度目かの溜息を吐き出す。
「・・・。・・・その恰好は?」
埒が明かないと質問を変えた。
「ああこれ?鬼だよ。格好いいだろう?」
にこと笑って、光忠は手を広げる。
大きな胸が揺れた。
黄色地に黒の縞模様の露出の多い服に身を包む光忠は格好良いと言うかなんというか。
短いそれから出るむっちりとした白い太腿や着ない方が良いのではと思う程肌蹴た胸元は目のやり場に困った。
「??長谷部くん?」
「着ておけ」
自分の上着を肩にかけてやる。
目を丸くした光忠は花が綻ぶ様な笑顔を見せた。
「ありがとう、長谷部くん」


節分は春を呼ぶ行事だ。

雪荒ぶ冬が早く過ぎ、春が訪れます様にと長谷部は祈った。



「鬼が巻き寿司食べるなんて変だよね」
「・・・その前に着替えてくれ、頼む」

ミクルカ!

山田さん(大学時代の友人)が昔に描いてくれてたのを思い出しました。
ぎゃんかわかよ!!!