|
君に伝えるI love you/安清編
その昔・・・自分たちが『存在』したその後の時代。 ある作家は西洋の愛の言葉を『月がキレイですね』と訳したという。 また違う作家はそれを『わたし、死んでもいいわ』と訳したという。
「そういえばお前の返答を聞いていなかったが」 夕食での席で、珍しく向かいになった安定に そういえばと再度問いかけた。 「あー…そうですね」 んー、と少しだけ上を向き、安定は光忠と共に料理を運んでいた清光に「ねえ!」と声をかける。 「は?何、俺忙しいんだけど!」 「いいから、こっち」 ほら、と座らせて安定は機嫌の悪い清光の手を取った。 何?と首を傾げながら自分の隣に座る光忠に静かにと目線と指で合図をする。 「お前さ、いつも僕の言葉無視するけど、これ、本気の言葉だから」 「はあ?だから何…」 「さいごのさいごまで、お前に隣にいて欲しい」 「!!」 安定の言葉に清光が目を見開く。 最期の最後、それは戦場で命を終わらせるとき。 その時まで一緒に居て欲しいとは、恐らく前からの願いなのだろう。 置いて行かれる恐怖を知っているから。 置いて行く絶望感を知っているから。
君に伝えるI love you/へし燭編
その昔・・・自分たちが『存在』したその後の時代。 ある作家は西洋の愛の言葉を『月がキレイですね』と訳したという。 また違う作家はそれを『わたし、死んでもいいわ』と訳したという。
「お前なら何と訳す」 「・・・僕ですか?」 長谷部のそれにきょとんと言うのは大和守安定であった。 遠征の帰り、ふと昨夜読んだ書物の内容を思い出し聞いただけであったが安定は意外にも、ああでもない、こうでもないと真剣に悩む。 「・・・。・・・少し時間を下さい」 「本当にいう訳でもないだろう」 「考えるなら本当に言いたいじゃないですか」 呆れたように言う長谷部にくすりと笑う安定。 その目線の先には畑当番を終わらせたらしい加州清光と燭台切光忠が手を振っていた。
遠征部隊を認めたらしい清光がパタパタと近づいてくる。 「おっかえり。なーお土産は?」 「お前に渡すのなんてないですぅー」 いつも通りのやり取りが隣で始まった。 遠征で一緒だった仲間はまたかと笑って本丸に先に帰っていく。 長谷部もそれに続こうとしたが、安定の「あ」と言う声に振り返った。 「長谷部さんは、なんて訳すんですか?」 「うん?」 「だから。『I LOVE YOU』をなんて訳すんですか?」 「俺か?」 「はい」 にこりと安定が笑う。 何の話?と首を傾げる清光の後ろから、ひょこりと野菜籠を持った光忠が顔を出した。 「お帰り、安定君。長谷部君。・・・どうかしたかい?」 「おい、燭台切」 にこやかに言う光忠に、長谷部は手招きして呼び寄せる。 にやりと口角を上げる長谷部にあーあーと安定が苦笑した。 「え?何?長谷・・・んんぅ?!!!」 何の疑いもなく近づいてきた光忠をぐいと引っ張って口吸いを施す。 ぽかんと見つめる清光と、見せつけちゃってまあと笑う安定の対比が面白い。 「ん、はぁ・・・。・・・ちょ、っと何!!!」 口を離すと、直後はとろんとしていた光忠がすぐ長谷部を睨む。 「光忠」 「へ?あ、はい?!」 低い声で名を呼べばきつい目がすぐに溶け、びくりと背が跳ねた。 抱き寄せ、戸惑う彼に囁く。 「どうか俺の手によって眠って欲しい」 「・・・え?」 きょとんと光忠が目を瞬かせた。 「何それ、下手な告白のつもり?」 「つもりではなく告白だが」 清光のそれにあっさりと長谷部は言う。 「俺なりの愛の言葉だ」 「・・・なるほど、長谷部さんらしいですね」 安定が笑い、清光が不満そうにする中、言われた当の本人はぼんやりと佇んでいた。 「それで、返事は?」 「・・・。・・・もう」 長谷部の言葉に、漸く言われたそれを理解したらしい光忠が溜息を吐き・・・柔らかく微笑む。 その顔は・・・本当に綺麗だった。
「僕を、君の手で眠らせてください」
生きるも死ぬのも自分の傍でと願うそれを愛と呼んでいいのなら。
どうか、どうか。
死ぬときは誰かの手ではなくこの自分の手で。
綺麗な命を終わらせて。
決して独りで死なせない。
戦う為に生まれたお前よ。
さあこの手を取って。
同じ戦場で逝きましょう?
(死なせない、殺さない、それが出来ないならせめて)
君に伝えるI love you/ハボロイ編
『君の目が欲しい』
君に伝えるI love you/エドロイ編
『計算なんて、無駄なものだと知った』
デート(へし燭SSS・ワンドロお題)
花火と言うものがあるらしい。 実際見たのは遠くから1度だけ、まだ前の主に仕えていた時。 その時はまだ実体化されていなかったから、最初は敵襲かと思った。 パラパラと弾ける色とりどりの光。 それを・・・今度はこの姿で見たいと思った。
花火大会と言うものがあるらしい。 短刀たちが皆で行こうと楽しそうに言っているのを、長谷部は聞いた。 「花火大会、か」 小さく呟けばいつの間にか隣にいた大和守安定がひょこりと顔を出し、「意外ですね」と言う。 「うん?」 「そういうの、興味ないかと思いました」 「まあな。・・・お前は興味ないのか」 「あるといえばありますけど。・・・本丸からでも見えますし」 にこりと安定が笑った。 そうしてやおら手を差し出す。 「なんだ」 「代わりますよ、今日の内番」 「・・・ちゃっかりしているな」 すぐに手の意味を理解し長谷部は息を吐いた。 綺麗な笑顔で言う安定の頭をぐしゃりと撫でる。 「中身は」 「卵焼きとから揚げで」 「善処しよう」 笑う安定に手をひらりと挙げた。
「はい、長谷部君。お弁当」 「ああ、すまん」 にこ、と笑って差し出されたそれを受け取る。 光忠は黒の着流しを着ていた。 普段、家事をやる際には内番服なので本当に珍しい。 もう休むところだったのを慌てて作ってくれたのだろう。 有難いとともに申し訳なくなる。 「おい、大和守」 「あ、ありがとうございます」 「・・・え?」 案の定、安定に弁当を渡せば彼は目を見開いた。 「え?何、燭台切さんのお弁当あんの?」 「だからそう言ってるだろ。・・・ほら、行くよ」 「だーからってこんな遅くから内番やることなくない?」 「もーいいから」 ぶすくれるのは加州清光で、そういえば彼も花火大会に行くのだと楽しみにしていたことを思い出す。 「浴衣作ってもらったのにー」 「・・・え?誰に?」 「主に決まってんじゃん。・・・あ、燭台切さん、お弁当ありがとー」 「あの人本当に器用だね、無駄に。・・・ありがとうございます、光忠さん」 「・・・あ、うん」 ぽかんとしながらも手を振る二人に彼が手を振り返した。 それを見送ってから長谷部は光忠の手を取る。 「行くぞ」 「・・・え?え??」 戸惑う彼を引っ張れば、光忠は「長谷部君!」と声を荒げた。 「長谷部君は言葉が足りなさすぎるよ!お弁当だって君の為に作ったのに!」 「それは悪かった」 文句を言いながら引っ張られる光忠に、長谷部は向き直る。 嫌ならばついてこないという選択肢もあるだろうに。 不安そうな彼に、長谷部はぽつりと言葉を溢した。 「前の主の時に花火と言うものを見た」 「・・・?う、ん」 「今日も花火と言うものがあるらしい」 「そう、だね」 「花火は空を彩る一つの世界の様だった」 「そう、なんだ?」 「俺はあれをもう一度見たい。・・・出来るなら、お前と」 「・・・長谷部、くん?」 「・・・だから」 手を差し出す。 目を見開く彼に、小さく微笑んで。 長谷部は告げた。 「俺と逢引きしないか」 その言葉にきょとんとした光忠はくすくすと笑い出す。 「長谷部君、あれだよね」 「なんだ」 可笑しそうにふわふわと髪を揺らす彼にぶすくれつつ問いかける。 「古風っていうのかな?・・・ふふ、逢引きって、君」 「古臭くて悪かったな」 「僕は長谷部君のそういうところは良いと思うよ」 金の眼を眇める彼に、長谷部は息を吐いた。 そう言われては怒れない。 「で?何と言うんだ。・・・その、今の言葉では」 「でぃとだよ」 「でぃと、だと?」 「そう。でぃと」 彼の着流しの帯がふわりと揺れる。 嗚呼、綺麗だと思った。 「では行くか、そのでぃととやらに」 手を差し出せば笑いながら光忠がその手を取る。 そのまま引き寄せて腰を抱いた。 踊る様に足を踏み出し、二人でくすくすと笑う。 「僕を君の見た世界に連れて行ってくれるかい?」 「無論」
さあ二人で逝きましょう。
誰もいない、二人しか知らないそのセカイへ。
交換(へし燭SSS・ワンドロお題)
ほんの少しの違和感。 それを感じた長谷部は小さく首を傾げた。 「おい」 「はい?」 違和感の原因である、一緒に内番をしていた大和守安定に声をかけると彼は不思議そうに振り向く。 ふわりと・・・首元の「黒い」布が揺れた。 「お前のそれは・・・その色だったか?」 「いえ?僕のは白ですよ」 にこ、と安定が笑う。 「?しかし」 「これは清光のです」 「うん?」 「交換したんですよ」 ふわ、とそれを持ち上げて安定は言った。 なるほど、これが違和感かと思う。 「ちょっと、安定?!」 「あ」 怒ったような声に振り返れば背後で安定が小さなそれを上げた。 向こうから来るのは件の加州清光と・・・燭台切光忠である。 今日は一緒の内番であったようだ。 「お前ね、俺の返せよな!」 「えーやだーー」 手を伸ばす清光にけらけら笑いながら安定が逃げる。 どうやら交換と思っていたのは安定だけであったらしい。 それを微笑ましく見つめている光忠の方に寄った。 「燭台切」 「あ、長谷部くんも内番終わり?」 「まあな。・・・あれはなんだ」 「ふふ。仲良いよね」 くすくすと光忠が笑う。 あれは仲が良いと言うのか?とも思ったが幸せそうなので黙っておいた。 「俺たちも何か交換するか?」 「え?」 わーわーと追いかけっこをしている二人を見つめながら言えば、きょとんと光忠が此方を見る。 「交、換?・・・僕と長谷部君の?」 「ああ」 光忠の言葉に頷いたものの、彼らの様に共通するものがなかった。 服の交換・・・とも思ったが肩幅が違うので窮屈に感じるだろう。 ・・・そう思うのが長谷部ではなく光忠であることは何とも悔しいところだ。 太刀である光忠と打刀である長谷部では異なるところがあるのは仕方のない事なのだが。 ふと光忠の手に目線が行った。 白い手を包む、黒い・・・手袋。 「・・・ああ」 小さく呟いて長谷部は笑う。 共通するものが・・・あるではないか。 「へ?ちょ、長谷部君?!」 ぐいと光忠の手を引く。 びくんっと背を跳ねさせる彼の手を自分の口元に寄せた。 「な、何・・・んっ」 戸惑う光忠の手首に舌を這わせ、黒い手袋を口で取る。 するりと手から抜き取る時には光忠は涙目になっていた。 「・・・長谷部、くんっ」 「ああ、すまん」 彼が手を見せたがらないのは知っていたから内番服に入れっぱなしになっていた自分の白い手袋を取り出し嵌めてやる。 もう片方の手も同じように口で外し、自分のと取り換えた。 呆けている光忠を後目に長谷部は彼の黒い手袋を付ける。 自分のとは違って馴染んでいないのがまた良いと思った。 これが光忠の物かと思うと口元が緩む。 「・・・あのさあ」 下から聞こえる呆れた声にその方へ向けば、取り返すのを諦めたらしい清光が白いそれを首元ではためかせながら長谷部を嫌そうな目で見ていた。 「なんだ。加州清光」 「早く逃げた方がいーんじゃない?」 「は?」 清光のそれに首を傾げたところで。 ふおん・・・と首元に微かな風を感じ、振り返る。 そこには何処にあったのか、どこぞの馬より大きな岩を持ち上げる光忠が、いた。 「ま、待て、落ち着け燭台切!!!」 「・・・長谷部君の、馬鹿!!!!」 涙目で叫んだかと思えばぶんとそれが振り投げられる。 爆風と共に木が砕けた。 ・・・彼が投石の経験がなくて本当に良かった。 そう心底思ったのも束の間、二石目を彼が持ち上げる。 「おい、お前、俺を殺す気か!!」 「いきなりそういう事するなって僕いつも言ってるよね?!!長谷部君は馬鹿なのかな?!ねえ!!!!」
「・・・へし切のばーか」 「わ、光忠さんすっごい」 呆れたような清光の声とあははと笑う安定の声が、光忠と長谷部のそれでかき消される。
お前の付けていたものをこの身に感じたいと思って何が悪い?
(言葉が足りないって言ってるんだよ、僕は!)
軽傷/疲労(へし燭SSS・ワンドロお題)
「長谷部君さあ」 くすくすと光忠が笑いながら長谷部の頭を撫でる。 白い指が髪の間を行き来するのは気持ちよかった。 長谷部の一日はかなり忙しい。 今日は書類仕事を片付け、畑当番をこなし、出陣をした。 主命だからと割り切ってはいるが長谷部とて超人ではない。 疲れた、と思った瞬間、足が彼の方に向いていたのである。 部屋にいた光忠は驚いていたが「どうしたんだい?」と笑ったので何も言わず抱き付いたのだ。 光忠はそれが長谷部の「疲れた印」であると知っている。 だからこそ何も言わないし、受け入れてくれる光忠が長谷部は好きだった。 「疲労だったら手入れ部屋に行きなよ」 「手入れ部屋に行くよりお前の所に来た方が早い」 「・・・それって」 長谷部の言葉に光忠の手が止まる。 不思議に思い見上げれば顔を真っ赤にして固まっていた。 「・・・?おい?」 「長谷部君ってさあ・・・」 「は?」 ごにょごにょと言葉を濁す光忠。 余りそういう事はないので首を傾げれば、光忠ははあと息を吐き出した。 「長谷部君、そう言うところあるよね」 「だから、何がだ」 含んだそれに目を真直ぐに見れば「かっこいいところ!」と声を荒げた。 「・・・は?」 「天然なんだろうけど。それに付き合ってたら僕が疲労してしまうよ」 再び撫でる動きを再開しながらも光忠は文句を続ける。 「俺はそんな事は言った覚えがないが?」 「それが天然だっていうんだよ」 もう、と光忠が言う。 その顔は彼が良く言う「格好悪い顔」だ。 「なんだ、嫌なのか」 「そうじゃないけど。急にそういう事言われても、というか・・・」 「想定外、か?」 「・・・うう、もう」 光忠が軽傷を受けた時に良く言うそれに準えてにやりと笑えば彼は珍しくぶすくれる。 それが少し可愛いと思ってしまい、ああやはり疲れているのだな、と思った。
(自分の疲労を癒せるのは彼の可愛い顔と声)
「長谷部君、軽傷受けたら笑うのやめなよ?煽ってるように見えるから」 「お前だってそうだろうが。・・・お前の場合は虐めたくなるんだが」 「・・・怖い事言わないで長谷部君」
お風呂/行水(へし燭SSS・ワンドロお題)
人の身体と言うのは実に不便だ。 雨が上がった後の本丸の庭を眺めながら長谷部はぼんやりそう思う。 ・・・とにかく暑いのだ。 刀の頃はそんな事はなかった。 夏の暑さも冬の寒さも感じない。 それが今はどうだ。 暑いのはまだ耐えられるとして、身体がべたべたするのはなかなかどうしようもないものがあった。 じじい共が熱さで倒れた時には無様だと思ったがこうも暑いと明日は我が身かもしれない。 「・・・へし切すっごいうざい」 「・・・。・・・なんだ、加州清光」 ぎろりと睨めば紅い服の胸元をはたはたと上下に動かしながら清光が見下ろしていた。 どうやら彼も暑いらしい。 庭では短刀たちが大きな桶を使った行水にきゃっきゃと声を上げ喜んでいた。 あれに交じる勇気はないが暑いので取り敢えず長谷部に当たっておこうということだろう。 まったく迷惑なことである。 「見てるだけで暑苦しい!脱げば?!!」 「お前に関係ないだろう」 「何それ、すっごいむかつく!!」 「ちょっとお前、長谷部さんに当たるのやめなよ」 暑苦しい、と言ったのは麦茶を持ってきた大和守安定だ。 「何、お前は暑くないの?!」 「暑いけど苛々しても余計暑いだけでしょって言ってんの!」 ぎゃーぎゃーと口論が続く。 煩い、と長谷部は耳を押さえつつ腰を上げた。 「あれ、長谷部君?」 廊下で光忠と鉢合わせる。 きょとりとした彼は白い手拭を手に持っていた。 洗濯物でも畳んでいたのかとぼんやり見れば、光忠がふと笑って長谷部の額の汗を拭く。 「暑そうだね、長谷部君。お風呂でもどうだい?」
ふわふわと笑った光忠が勧めたのは風呂は風呂でも水風呂だった。 確かにこれだと汗も引くだろう。 「僕らだって水遊びに興じてもいいと思うよ」と笑っていた彼の真意がよく分かった。 風呂で行水もありかもしれない。 「鹿角菜持ってきたよ」 「ああ、すまん」 からりと音を立て戸が開かれたかと思うと光忠が顔を出した。 それに礼を言い・・・ふと彼が服を着ているのに疑問を覚えた。 「おい、燭台切」 「?どうかしたかい?」 「お前は風呂に入らないのか」 「・・・僕は・・・いいかな」 ふわりと笑った光忠は防具や上着は着ていなかったが内番衣装でもない。 暑かろうに一寸の肌も見せていなかった。 「暑くないのか」 「え、うん。まあ・・・」 尋ねたそれに光忠は珍しく歯切れの悪い答えを返す。 それにしびれを切らし、ぐいと腕を引いた。 彼の身体が宙に浮き、水の中に飛び込んでくる。 何の音もない、二人だけの世界。 だがそれは長くは続かず、すぐに空気中へ出て二人して咳き込む羽目になった。 溺れてしまえばいい、と思う。 「・・・もう、長谷部君たまによく分からないことするよね・・・!」 涙目で睨む光忠。 白い服が肌に張り付き、妙に艶めかしい。 「・・・燭台切・・・」 手を伸ばせば途端に振り払われた。 「嫌だよ、僕は」 二人が浸かる水と然程変わらない温度で光忠が言う。 「・・・だから断ったのに」と小さく呟いて風呂から上がろうとする彼を背後から抱きしめ、再び水の中へと引きずり込んだ。 聞けば如何やら以前酔った時に風呂に落とし、そういう行為に及んだことがあるらしい。 そういえばそんな事もあったと思うが今の長谷部には知ったことではなかった。 「嫌だって・・・言ってる・・・!長谷部君!」 強い声が風呂場に響く。 張り付いたそれから見えるぷっくりとした乳首を優しく撫でると一変して光忠は甘い声を上げた。 「ひぅう!!」 ぱしゃりと水が跳ねる。 「やだ、やだ・・・ってばぁ・・・!」 ふるふると首を振る光忠の肩甲骨に口付けを落とす。 水で肌に張り付いた黒いそれを片手で脱がしながらもう一方の手で胸を弄った。 はあ、と熱い息が光忠の口から洩れる。 「ぅふあ・・・!」 前を寛げ、握りこむとびくんっと躰が跳ねた。 「・・・?!や、やだ!!ぁ、ぁう!」 ぎょっとしたような表情で振り返る光忠の肩甲骨にちうと吸いつけば綺麗な背が弓なりにしなる。 何度も何度も口付けを落とし、力が抜けたのを見計らって握っていた手を動かした。 ついでに鹿角菜を手に取り、後ろをぐにぐにと暴く。 中を開けば冷たい水が一緒に入ってきた。 「ひぃんっ、あっ、ああ゛っ・・・!」 ぱしゃぱしゃと水が跳ね、光忠の手が空を掴む。 「待って、ま・・・!」 「待たない」 悲痛な声を一蹴し、長谷部は光忠の弱いところを責めたてた。 「あ、ゃ、ああっ!!」 短い悲鳴と共に生ぬるいそれが長谷部の手に伝わる。 分離しない白い液体が水に浮いた。 「・・・イったな」 囁けば彼はかあと頬を染める。 「・・・ぁ、あ・・・」 「気持ちよかったか?」 低く囁けば、大きな水音を立てて彼が振り向いた。 「ねえ、やだって言ったよね?!」 「そうだな」 睨む彼にしれっと返し、長谷部は猛ったそれを押し付ける。 びくんっと彼の躰が跳ね、水飛沫がとんだ。 「ちょ、っと・・・ここ、お風呂だよ?」 おろおろと見る光忠の手を絡め取る。 何を今更と笑いながらぐっと腰を押し付け、途端緊張する彼の耳元に口を寄せた。 「・・・。・・・だからァ?」 「ぁ、や・・・はせっ・・・はしぇべく・・・!」 「俺は満足していない。それにお前が言ったんだぞ、光忠。・・・『水遊び』はどうか、とな」 金の目元を紅く染める彼に意地悪く言ってやる。
成程、人の躰とは実にいいものだと、長谷部はにやりと笑った。
贈り物(へし燭SSS・ワンドロお題)
贈り物には花がいいと言ったのは誰だっただろうか。 「おい、燭台切」 「ん?何だい?」 洗濯物を畳んでいる彼に声をかけるとふわりと顔を上げる。 その光忠に花束を差し出した。 鈴の様に揺れる、白い花。 「・・・これ」 光忠が金色の目を見開いた。 それからふやりと笑う。 「僕に?」 「お前の他に誰が居る」 ぶっきらぼうに答えると可笑しそうに肩を揺らし、それを受け取った。 「ふふ。長谷部君が花かぁ」 くすくすと光忠が笑う。 随分と楽しそうだった。 「・・・なんだ」 「ううん。・・・似合わないなあと思って」 笑うたびにふわふわと白い花が踊る。 「別にいいだろう」 「駄目だなんて言ってないよ。・・・すごく、格好いい」 にこと彼が笑った。 優しい言葉は長谷部をも暖かにする。 「狡いなぁ、長谷部君は」 「何がだ」 肩を揺する光忠に長谷部はぶすくれたように言ってやった。 別に?と首を傾げ、へにゃと笑う光忠。 「・・・この花、待雪草だろう?すごく綺麗」 花に顔を寄せ光忠は柔らかな笑みを浮かべた。 「でもどうしたんだい?急に」 「特に意味はない。・・・そこに咲いていたからな」 長谷部のいる本丸は今でも冬だ。 だからそれがあったのだろう。 その答えに光忠は、そっか、とまた笑った。 西洋の教会では聖燭祭、と呼ばれる日にこの花を飾るそうだ。 花言葉は希望。 彼にぴったりだと、思う。 「長谷部君はどうして待雪草が白い色をしているか、知ってるかい?」 「うん?」 花を指で揺らしながら、光忠が言った。 「雪は元々色がなかった。色が欲しいと訴えたのにそれに色を与えてくれる花は誰もいなかった。・・・そんな雪に可哀想だと色を与えたのが・・・待雪草なんだって」 金色の目を眇める。 誰にでも優しく【自分】を与えてしまうところも光忠によく似ている、と長谷部は思った。 「雪に色を与えた所為で色がなくなったのか」 「白だって立派な色だよ?」 長谷部のそれに光忠が笑う。 「すごく綺麗な色じゃないか。純粋で無垢で」 「そうか?自分がない色だろう。白と言うのは」 長谷部の答えに光忠はまた笑った。 彼は良く笑う。 凄く楽しそうだと長谷部はぼんやりと思った。 「君に贈り物をもらったの、初めてだ」 「そうか?」 「ああ。・・・ありがとう、長谷部君」 ふわ、と光忠が柔らかいそれを、長谷部を見上げて見せる。 彼の真直ぐな言葉は少しくすぐったかった。 長谷部はああ、と言って目を反らす。 「長谷部君の気持ちは嬉しいよ?・・・でも、僕の所為ですぐ涸れちゃうのは・・・可哀想だよね」 光忠が少し、ほんの少しだけ寂しげな笑みを浮かべた。 そんな顔はほんの一瞬で、すぐに「花瓶に活けてあげようか」と笑う。
色の無い花は可哀想。
手折った花は可哀想。
・・・お前に似て、可哀想。
「光忠」 「ん?なあに、長谷部く・・・」 ふわりと彼が見上げる。 ぐいと手を引き、口吸いを施した。 「ん、ん・・・。・・・ぁ・・・?」 光忠の白い肌が赤に染まる。 長谷部は口角を上に吊り上げ、崩れ落ちる光忠を見ていた。
白い花と肌が紅に染まる
それを飲み込むのは彼を包む黒だ
とても美しい、と思う
「美しいな、お前は」
ふわりと光忠の頬に手を添える
長谷部はずっとこれが見たかった
・・・だから
何度も何度だって捧げよう
・・・お前に死を
共闘(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠
「燭台切、後ろだ!」 「・・・っ、任せて!」 長谷部の鋭い声に光忠がふっと笑い刀を振り下ろした。 敵が断末魔を上げる。 こうして光忠と共に戦場を駆ける様になって早半年が経った。 ・・・初めて彼と共同戦線を張ったのは何時だったろうか。 長谷部がこの本丸に来た日、そのすぐ後。 否。 それはもっと前。
自分たちが人の形を成す前の話。
・・・己が、まだ「長谷部国重」と呼ばれ、彼に「燭台切」の号がなかった頃の話。
彼はその昔、多くいる【光忠】のうちの一振りだった。 紫の目に虚無を映した、綺麗な少年。 国重には彼がそう見えていた。 いつも一人ぼんやり宙を見つめ、戦場に出る事もなく、だからと言って美術品だったわけでもない。 多くいる【光忠】の中でもとりわけ彼を、国重はつい目で追っていた。 ・・・そんなある日。 「おい」 「・・・?」 声をかけるとふ、と光忠が此方を見る。 艶めく目が国重を捕えた。 「俺と共に戦場に出ないか」 「・・・え・・・?」 「来い」 ぽかんと見上げる彼の手を引き、城の外へ駆け出す。 こうやって主のいない中、外に出るのは初めてであった。 何故そうしようと思ったのかも分からない。 それでもただこうやって彼と地を駆けてみたかったのだ。 光忠も覚束ない足でふらふらと、それでも懸命についてくる。 「・・・あ、の・・・あの・・・!」 「・・・ん?」 「・・・貴方様、は」 綺麗な髪を乱し、おろおろと言う光忠のそれを撫でた。 「俺か。俺は・・・」 名乗ろうとし、感じた違和感に振り仰ぐ。 空気の読めないやつだと国重は口角を上げた。 「・・・。・・・話は後だ」 「え、わっ」 細い腕を引き、自身の腕の中へ招く。 人に使われている【刀】を折り、国重は走った。 「・・・あ、あの!」 「どうした、光忠!」 見上げ、ぐ、と下すよう足をばたつかせる光忠。 仕方がなく国重は足を止め、彼を下す。 「貴方様の、お名前を」 「・・・。・・・長谷部だ、長谷部国重」 「くに、しげ・・・様?」 「長谷部で良い」 そう言えばふるふると首を振った。 刀として未熟である故、そうは呼べぬのだという。 真面目だと国重は笑った。 「国重様、この光忠を使ってはくれませぬか」 「うん?」 国重を見上げる紫の目に、虚無はもうない。 刀としての本分を取り戻した、そんな目。 「俺も刀だ。刀は刀を使えない」 「・・・」 「・・・。共に戦うか?」 囁けば、光忠は伏せた顔を勢いよく上げた。 「は、い!」 「良い返事だ。・・・いくぞ、光忠!」 「はい!」 向かってくる敵に二人で対峙する。 光忠は未熟だと言っていた割に太刀筋が良かった。 次々と敵が倒れていく。 ほ、と息を吐き出す光忠の背後から飛び出す・・・最後の敵。 「光忠!」 国重の声にはっと彼が振り仰ぐ。 敵が彼を切り裂く前に国重が圧し斬った。 「油断をするな」 「・・・あ、りがとう・・・ございます・・・。・・・国重、様」 「おお。どうした」 はあはあと息を乱す光忠に目線を合わせる。 紫の目がふわりと眇められた。 おやこんな顔もするのかと国重は思う。 「この光忠目を・・・戦場に連れ出して下さり・・・感謝いたします」 深くお辞儀をする光忠を、律儀なやつだなと笑った。 ふと聞こえた烏の鳴き声に城の方へ目を向ける。 大太刀である国重と、多くいるとは言っても主のお気に入りである光忠がなくなったとあれば城は大騒ぎになるだろう。 それに先程は主がいなくても勝てたが次はどうなるか分からない。 仕方がないので帰る事にした。 「光忠よ」 「・・・。・・・はい、国重様」 「我々だけでは分が悪い。今日は城に戻る・・・が」 彼の白い頬につく紅を拭い国重は笑う。 「この次はこの俺の背中を預けよう」 国重の言葉に光忠がぱちくりと目を瞬かせた。 「それまでに強くなれ。光忠」 「・・・!」 「その時は、長谷部と呼んでくれるな?」 笑って言えば、光忠は「善処致します」と小さく呟く。 ふわりと、彼の朔月の晩に似た色の髪と国重の榛色の長い髪が風に舞った。
「長谷部君!」 彼の・・・光忠の声にはっと長谷部は刀を構える。 それを振るう前に血飛沫が眼前に舞った。 ぼんやり、あの時と逆だなと思う。 そう、あの時とは違うのだ。 弱かった光忠はこの本丸で2番目に強くなり、長谷部の背中を立派に守る「相棒」になっていた。 普段から長谷部の三歩後ろを歩く光忠は長谷部の仲間というより女房だ。 何より彼にはもう号がある。 彼は「燭台切光忠」に相応しい強さとあの時にはなかった金の眸を持ち、長谷部の背後で刀を振るう太刀だった。 「長谷部君?」 「・・・いや」 こてりと首を傾げる光忠に長谷部はふっと笑う。 彼は覚えているだろうか。 あの時誓った、共闘の約束を。 ・・・長谷部を縛る、呪いの言の葉を。
『この光忠、今日の闘いを忘れません。もしも今後戦場に出られない時が来ましたらば・・・。・・・今日の様に連れ去ってくれませぬか』
|