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司冬ワンライ/成人・酔ってしまいそう
そういえば袴姿や振り袖を着ている人たちをよく見るな、と思っていた。 「そうか、成人式か…」 「今気付いたの?!お兄ちゃん!」 ぼんやりと呟けば妹である咲希が驚いたようにこちらを向く。 「いや、休みだとは思っていたんだがな…?」 「あははっ、そういうトコ気にしないもんね、お兄ちゃん!」 咲希がにこにこと笑い、そうだ!と楽しそうに手を叩いた。 「ねえねえ!成人したら何がしたい?」 「成人したら?…そうだな…」 彼女のわくわくしたそれに司は考える。 「…酒を、嗜んでみたいかもしれないな」 「!そーなんだぁ」 思った答えと違ったらしい咲希が驚いたように言う。 「?どうした?何か意外だったか?」 「ううん。お兄ちゃんなら、とーやくんと結婚する!って言うかと思って」 「それは、してみたいこと、ではなく、必ずすること、だろう?」 「あ、なるほど!それもそうだね!」 司のそれに咲希はあっけらかんと笑った。 「そうだ!これからとーやくんとデートでしょ?アタシがコーディネートしてあげる!」 「む?そうか?」 「うん!題して…!」 きゃっきゃと咲希が楽しそうに何やら櫛などを取り出す。 まあ楽しそうなら良いかと司は身を任せることにした。
「冬弥!すまない、待たせた!」 「…っ?!」 手を振り駆ける司を見止めたはずの冬弥の目が真ん丸に見開いた。 どうかしたのだろうか? 「?冬弥?どうかしたのか?」 「…えっ、あっ、いえ。とても素敵でしたので、その…見惚れてしまいました」 「はーっはっはっはっ!そうだろうそうだろう!これは咲希がやってくれたんだ。ずばり、テーマタイトルは『成人したオレ!』」 少し照れたように笑う冬弥に司は胸を張る。 咲希が、緩いパーマをかけ左右に分けて作った髪型は冬弥も気に入ったようだ。 「大人の魅力溢れる、素晴らしいコーディネートだろう?」 「はい。…先輩の魅力が素晴らしく、その…」 自信満々に聞く司に冬弥は少しはにかむ。 そうして。 「…少し、酔ってしまいそうです」 耳元で告げられるそれに司も目を見開いた。 顔が紅くなるのを止められない。
…本当の『大人』ならば、照れたりはしないのだろうか、なんて、頭の隅でそう思った。
(大人にはまだ一歩
まだまだ、思春期真っ只中らしい!!)
「…まあ、ゆっくり進んでいけば良い。なぁ?冬弥」 「…そう、ですね」
しほはる 志歩バースデー
「…ふう」 朝から現実でもセカイでも皆にお祝いされ続けてほんの少し疲れてしまった。 勿論、お祝いされるのは嬉しい。 嬉しいが何だか気が張り詰めてしまうのだ。 ここ最近、こんなにお祝いされるのもなかったからかもしれない。 「…随分賑やかになっちゃったなぁ…」 小さく笑って志歩は空を見上げた。 きっとこれが当たり前になっていくのだろう。 「…日野森さん!」 「…え…」 ふと後ろから明るい声が聞こえて志歩は振り返った。 「…桐谷さん?!」 「今晩は!」 微笑んだ遥は随分とラフな格好をしている。 そういえば毎日走っていると言っていたから今もその帰りなのかもしれないな、と思った。 「今晩は。…もしかして、ランニングの帰り?」 「うん、まあ…そんなところかな?…日野森さん、お夕飯まで時間ある?」 「えっ、ああ、まあ…」 曖昧に答えを濁した遥は志歩を見てにこりと笑う。 その圧に押され、思わず頷くと「良かった!」と彼女は微笑んだ。 そうして。 「ちょっと私に付き合ってくれない?」
無邪気に笑った遥に連れられてやってきたのは星がよく見える公園だった。 「えっと…?」 「日野森さん、こっちこっち!」 手招く遥にまあ良いかとついて行き、ベンチに腰掛ける。 「…じゃんっ」 「…って、カップラーメン?」 持っていた袋から出てきたのは魔法瓶とよく見るカップラーメンであった。 確かに志歩はラーメンが好きだけれど。 「お湯は熱々だから、ちゃんと作れるよ?」 「そう、なんだ?」 自慢気に言う遥に少し戸惑いつつ頷く。 「…えっと、何でカップラーメン?」 「?日野森さん、ラーメン好きでしょう?」 「まあ好きだけど」 「ふふ、実は私も食べてみたかったんだ」 機嫌良く笑う遥に志歩は首を傾げた。 誕生日祝いかとも思ったが遥は学校でも誕生日を祝ってくれたのである。 「…もしかして、誕生日祝い?」 「うーん、それもあるけど…」 何のつもりかと思い聞いてみれば遥はへにゃりと笑った。 「私が、日野森さんと二人で話したかったんだ」 「え…」 「誕生日祝いっていうと気を引き締めちゃうでしょう?だから普通通りに出来るように、と思ったんだけど…」 そこまで言って遥は困ったように口を噤んだ。 ああ、そういうこと、と志歩は笑う。 彼女は凄く気遣いが出来る人だ。 だからこそ人に甘えられない。 きっとこれは志歩の誕生日に託けた彼女なりの甘えなのだろう。 二人で話したい、という紛うこと無き本音。 「…ありがとう。嬉しいよ」 「本当?!」 「私もちょっとゆっくりしたかったし。…それに…」 顔を輝かせる遥の指先に口付ける。 驚いた表情の彼女に志歩は笑いかけた。 「…桐谷さんと二人きりになりたかったしね」
きらきら、星が輝くいつもの公園で
祝ってくれる貴女の優しさが一番のプレゼント
(特別ではないけれど、暖かいそれはじんわりと志歩を包むのだ)
「ねぇ、ラーメンが出来るまで歌ってくれない?」 「…!…勿論」
タバサ受け
「えー!絶対ねこだよぉ!」 「…うさぎ…」 天気が良い日、珍しくガーデニアとラッセルが何やら言い争いをしているのが見えて、タバサは首を傾げた。 隣ではコーディが物凄く呆れた目を向けている。 何かあったのだろうか。 「コーディ、何かあったのか?」 「あら、タバサ」 モメている二人よりは教えてくれるだろうかと近付いて訊ねれば、彼女はこちらを見上げ、やれやれと息を吐く。 「実にくだらない意見の、主張のし合いよ」 「ん…?」 「あ、タバサ!!」 的を得ない答えに疑問符を浮かべれば言い争いをしていたガーデニアがこちらを向き、嬉しそうに近寄ってきた。 大体こういう時は嫌な予感しかしない、とタバサは蹈鞴を踏む。 「逃げなくてもー!」 「だって、こういう時のお前、面倒くさいことしかないし」 「そんなことないよっ、ねえ、ラッセル?」 頬を膨らませたガーデニアは先程まで言い争いをしていたはずのラッセルに同意を求めた。 「…それは…どうかな…」 「あーっ!ラッセルまでー!」 「何でも良いけど、決まったの?」 少し考え込むラッセルにガーデニアはもー!と怒り出す。 それに慌てるでもなく言ったのはコーディだ。 「ううん、まだ!」 「明るく言ってる場合じゃないでしょ…」 ガーデニアの答えにコーディがため息を吐き、タバサは軽く苦笑いを浮かべる。 コーディは妹属性のはずだが…5つの年の差は大きいのか並んでいれば姉妹のようだ。 …そんな事を言えばコーディの本当の兄であるドグマがどんな顔をするか想像に固くないけれど。 「ところで、何をモメてるんだ?」 「えっ、聞いちゃう?」 タバサの疑問に、ガーデニアが何故だか動揺した。 え、とラッセルを見れば彼も微妙そうな顔をしていて。 何だろう、聞いてはいけなかっただろうか。 不安に思っていれば「もう、本人に聞いちゃえば?」とコーディに言われる。 「んー、それもそっかぁ」 「…一理ある、かも…?」 「え、何の話…」 頷く二人にたじろぐと、コーディがツインテールを揺らし、息を吐いた。 「自分で聞いたんだからね」 「ええ…」 そう言う彼女に困った顔をする。 何やら面倒なことに首を突っ込んでしまったらしかった。 「あのねあのね!この前ニャン族のカクレミノでネコ耳のポンチョもらったでしょ!」 「ああ、閑照先生が調合した漢方のお礼ってもらった?」 「そーそー!」 「…赤の羅針盤から行ける洞窟で、ウサ耳のポンチョ手に入れたよね」 「…あー、ヨツバ病院で拾った羅針盤を見たら突然出てきた場所だっけか」 「うん」 頷く二人はずい、とタバサに顔を近づけてくる。 そうして。 「タバサはウサ耳ポンチョと」 「ネコ耳ポンチョ、どっちが着たい?!」 「…は??」 思っても見なかった問いにタバサは目をぱちくりとさせた。 後ろでコーディがやれやれと息を吐く。 「え、もしかして二人がモメてたのってこれか…?」 「そうよ」 後ろを振り返ればコーディが神妙に頷いた。 「ええー…」 あっさりと頷いた彼女に、タバサは困惑の声を上げる。 「コーディが着れば良いのに」 「着ないわよ」 「えー?!誰かが着れば着てくれるって言ったのに!」 「…いや、まあ、あれは…」 抗議の声を上げるガーデニアにコーディは目をそらした。 「酷いよー!コーディにはウサギさんのポンチョ、似合うと思ったのに!」 「だから、私にはそういうのは…」 ガーデニアの勢いにコーディはたじたじな様子である。 タバサはそんな二人に乾いた笑いを向け、ふと疑問符を浮かべた。 「あれ?でもガーデニア、俺にもポンチョ着させたがってなかったか?」 「タバサには猫さんだよ!だって、似てるでしょ?」 「えっ、俺が?ニャン族に?」 明るく言うガーデニアに、少し複雑な気分になる。 そんなに、似ていただろうか。 「…タバサは、ウサギに似てる」 「ら、ラッセル?」 いつの間にか近くにいたらしいラッセルがぎゅうと抱き着いてきた。 弟のようで可愛いなぁと思うがその発言には首を傾げる。 「ウサギって、あの洞窟にいたやつだろ?うーん、似てるかなぁ…」 「あれはバケモノでしょ。本物はもっと小さくてふわふわして可愛いよ」 「…その評価は余計におかしくないか?俺、成人男性だけど」 「大丈夫、タバサ、可愛いから」 「えー…???」 何故だか自信満々に言うラッセルに何も言い返せなくなり、ガーデニアとコーディの方に目をやった。 「コーディも可愛いからねっ?!」 「はいはい、ありがとう」 ふんすっ、と息巻くガーデニアに、コーディはさらりとあしらっている。 前はもうちょっと照れていた気がしたから…慣れたのだろうか。 「で、結局どうするのよ。早くしないと日が暮れちゃうわよ?」 「あっ、そうだった」 話題を変えるようにコーディが言う。 はっとしたガーデニアはまた悩みだした。 「でも私もラッセルも譲れないんだよねぇ。じゃあ第三者の意見を聞くのはどうかなっ?」 「…?ドグマとか?」 「…いや、ドグマはやめてやれよ…」 「…兄さんにそんなこと聞いたら2日は悩んじゃうわ…」 「じゃあ駄目だねー」 タバサとコーディの反応に、ガーデニアが明るく笑う。 「うーん、じゃあ夢先案内人の人たちにしよ!良い意見くれそうじゃない?」 「…情報屋に聞くよりは、まあ」 「まあ、じゃないわよ、どっちもやめなさいよ」 「流石に巻き込むのは、なぁ…」 眉を顰めるコーディに、タバサも苦笑いを浮かべるしかなかった。 町の住人ならばともかく、夢先案内人の彼らは(戦闘を手伝ってもらったりはするが)ほぼ無関係だ、巻き込むのも可哀想だろう。 …情報屋は存外ノリノリで答えてくれそうだが。 「えー、じゃあねぇじゃあねぇ!」 「…ガーデニア、ちょっと楽しくなってない…?」 代案を挙げるガーデニアをじっとりとコーディが見つめる。 まだまだ決まる様子もなく、タバサは眉を下げて笑いながら少し空を見上げた。 青い空には雲一つなくて、タバサは目を細める。
何だか平和だなぁ、と漠然と思ったのだった。
(タバサも、ガーデニアも、コーディも知らない)
(この平和は、仮初の、作られたものだってことを!)
ミクルカの日
「あれ、ミク姉ぇじゃん。何してんの?」 ソファに座ってゲームをしていたらしいレンくんが私を見てきょとんとする。 何って…お仕事帰りですけども……。 「レンくんこそ。何してるの?」 「おれ?おれらが出てる音ゲーしてる」 「また?レンくんそれ好きだねぇ」 けらけらと笑うと「これも仕事だろ」とレンくんが言った。 はいはい、真面目ですこと。 「良いの出た?」 「ガチャは去年ステージのセカイの兄さんが出たからな。兄さんの記念日か次出るまでお預け」 「あー。あのお兄ちゃん格好良かったよね」 「俺がどうかした?」 不思議そうな声に振り向けばお兄ちゃんが洗濯物を抱えてこっちを見ていた。 やー、うちのお兄ちゃんも歌えば格好良いはずなんだけど、何でこんな所帯染みてんだろ。 「何でもない。…兄さんは癒し系小悪魔だからな」 「それ、矛盾してない??」 レンくんの言葉に突っ込む私を見てくすくす笑うお兄ちゃん…自分の事だけど分かってるかなぁ?? 「…そういえばミク、こんな所にいて良いのかい?」 「へ?」 お兄ちゃんまで首を傾げてきたから私はぽかんとしてしまった。 な、何かあったっけ? 「…兄さん、多分ミク姉ぇ忘れてる」 「えっ。…忙しいのも考えものかもしれないなぁ…」 「え、まって、私何忘れてるの?ねぇ??」 レンくんとお兄ちゃんのひそひそ話に私は動揺する。 今日何かあったっけ? えと、お正月から3日、三が日の最終…日……。 「あーっ!!!」 叫んだ私はバタバタと部屋を出る。 かんっぺきに忘れてた! あんなに準備したのに!! 今年こそは!朝からいちゃいちゃ出来るって思ってた、のにぃい! 「ルカちゃん!!!」 「きゃっ!?」 ルカちゃんの部屋をノックもしないで駆け込めばルカちゃんはびっくりした声を上げた。 「み、ミク姉様?」 「ごめん、遅くなって!!」 目をぱちくりするルカちゃんの前に跪く。 それからポケットから取り出した小箱をパカリと開けた。 「ミクルカの日おめでとう。結婚してください」 「…まあ」 嬉しそうに笑うルカちゃんは、両手でそれを受け取る。 それから。 「喜んで」 ふわり、と花が咲くように笑うから私は胸が一杯になって。 「もう、大好きーっ!!!」 思いっきり、思いっきり抱きしめたのだった。
通算4261回目のプロポーズは
今回も無事成功を収めたのでしたとさ。
「ミク姉ぇさあ、一回おれらを巻き込ミクルカすんの止めね??」 「れ、レン兄様?!」 「いーじゃん。レンくんだって巻き込まレンカイするじゃん」 「み、ミク……」
司冬ワンライ・挨拶/初詣
さて、新年が明けた。 今日は冬弥と二人切で初詣である。 まあ、一度みんなで初詣には行ったのだが…。 挨拶、と考えれば、別に何度行っても構わないだろう。 仲間と共に行く初詣も良いが、こうして恋人と行く初詣も良いものだ。 「…司先輩」 「ん、おお!冬弥!」 駆け寄ってきた冬弥に司は手を振る。 「お待たせしてすみません」 「いや、そんなには待っていないぞ?しかし…悪かったな、忙しい時に」 「大丈夫です。俺も、先輩と初詣に行きたかったですから」 ふわ、と冬弥が微笑んだ。 やはり彼は可愛らしい。 「そうか!ならば行くか、初詣に!」 ぎゅ、と冬弥の手を握った。 「…はい」 柔らかい笑みを浮かべた冬弥がふと首を傾げる。 「?どうした?」 「いえ。…初詣、というのはその年初めて神に詣でること…であれば、初詣とは言わないのでは…」 「そうか?」 至極当たり前の疑問に、司は笑った。 「オレと冬弥、二人で詣でるのは初なのだから、初詣と言っても構わないと、オレは思うが」 「…!」 「それに、神にもきちんと挨拶しておかねばな」 時折吹く冷たい風にも負けない、明るい笑みを司は冬弥に見せる。 その言葉を聞いた彼がふわりと頬を染めた。
きっと今年も、良い年になりそうだ。
「神よ、横に立つのはオレの可愛らしい恋人だ、と!」
しほはるワンドロワンライ/冬休み・良いお年を
「冬休みは夏休みより短いですから。今年を振り返り次の目標を探す、良い休みにしてくださいね」 担任の言葉がリフレインする。 普段はあまり気にすることないのだが、何故だか頭に残った。 「…あれ、日野森さん」 「…。…桐谷さん」 帰ろうとしていたのだろう、遥が志歩を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。 「日野森さんも今帰り?」 「うん。桐谷さんも?」 「そうなの。今日はみのりも愛莉も雫も用があるみたいで…。年末の生放送の打ち合わせは夜からになったんだ」 遥の言葉に、そういえば姉がそんな事を言っていたな、と思った。 生配信を見ていると楽しそうだなと思うのできっと嫌な大変さではないのだろうなと思う。 「…何だか楽しそうだね」 「そうかな。…そう見えてたら嬉しいな」 ふわふわと遥が笑った。 心底アイドルが好きなのだろうなと志歩は目を細める。 勿論志歩もバンドが好きだし練習は大変だがプロになるという夢のためにすべきことだと思うので、きっと遥もそうなのだろう。 「そういえば、うちの担任が良い休みにしてくださいって言ったんだけど。普段とあんまり変わりないよね」 「確かに。日野森さんたちは冬休みにまた強化合宿するの?」 「流石に冬休みはやらないかな…。まあ普段の練習より長くはするけどね。スタジオも年末年始は閉まっちゃうし」 「そうなんだ。…でも、学校がないと日野森さんと会う機会なくなっちゃうから、ちょっと寂しいな」 ほんの少しだけ遥が寂しそうにする。 その言葉に志歩は目を見張り、それからふっと笑った。 「なら、一緒に遊びに行けば良いんじゃない?」 「…!良いの?」 遥がわくわくしたように聞いてくる。 かわいいな、と思いながら「勿論」と言った。 「せっかくの冬休みだしね。それに、桐谷さんとはそれなりに仲良くなったと思ってるんだけど?」 「日野森さん…」 嬉しそうに遥が笑む。 「…っと、そろそろ行かなきゃ。また連絡するね」 「うん。…あ、えっと!」 スマホを見、練習時間に遅れる、と志歩は軽く手を振った。 そんな志歩に、遥が何かを言いたげに声を上げる。 「?どうかした?」 「学校で会うのは今年最後だから。…良いお年を。日野森さん」 「…!桐谷さんも、良いお年を」 微笑む遥に志歩も笑みを浮かべた。 何だか本当に良い年になりそうだと笑う。
来年はもっと彼女と仲良くなれたら、と思った。
(好きな人と良いお年を、と交わす
きっと今年は素晴らしい冬休みに!)
「…志歩、何だか嬉しそう」 「KAITOさん。…ちょっと、良い冬休みになりそうだな、と…思って」
レンカイ
鏡音レン、本日15回目14歳の誕生日である。 「…おれさぁ、年齢変わらないシステムはどうかと思うんだよね」 「…どうしたの?レン。いきなり」 おれの傍でスマホを見ていた兄さんがきょとんとした。 あー、その表情好きだわー…って、いかんいかん、ミク姉ぇみたいになってる。 「だってさぁ、実年齢で行けば29歳じゃん。大人じゃん」 「…。…稼動年でいえば15歳だよ?まだまだ子ども」 不満を漏らすおれに兄さんはくすりと笑った。 あー!またそうやって子ども扱いする!! 「稼動年でいえば兄さんも変わんないだろ」 「変わるよ。俺、2006年生まれだよ?」 「1年違いじゃん!!!」 「1年でも先輩は先輩」 くすくす笑った兄さんがおれの頭を撫でてきた。 その扱いはまるきり子どものそれ。 確かに実年齢+稼動年でも全然敵わないけどさぁ!! 「…兄さん、実年齢公表されてないよね?」 「されてないというか…作られてないというか…?大体20代前半くらいって感じかな」 「なら、おれより年下の可能性が!」 「20代前半って言ったよね?」 兄さんが笑う。 ちぇ、なんだよー。 「で、何で年齢の話?」 「え?ああ、スマホゲームのおれらがさぁ、結婚式とかやってるじゃん」 「…別に結婚式をやってる訳じゃないよね?」 「そこ掘り下げないでよ。で、結婚って良いのかなぁってさ」 おれの説明に兄さんはうーん、と首を傾げた。 え、なんでそこで首を傾げんの。 「兄さん?!」 「あ、ごめんね。家族と夫婦の違いって何かなって思っちゃって」 「…ん?」 へら、と笑った兄さんに今度はおれが首を傾げる。 何言って…。 「結婚ってことは家族になるってことでしょう。それって今と変わらないかなぁ、と」 「えー、あー…」 兄さんのそれに何故か納得してしまった。 いやでもそれとこれとはさ? 「それに」 考え込むおれに兄さんがくすりと笑う。 え、と思っていれば柔らかいものが唇を掠めた。 「…レンとは、今でも『こういう事』、してるもんね?」 柔らかく微笑む兄さんの耳が赤い。 ホントもー、兄さんはさぁ!! 「…襲われてもしんねーからな?」 「ふふ。まあお誕生日様には逆らえないってことで」 「なんだよ、それ…」 押し倒すおれに兄さんが楽しそうに笑った。 それに、結婚だの年の差だのなんだの考えていたのが馬鹿らしくなる。
誕生日おめでとう、と柔らかく微笑む兄さんは
きっと形が違ってもおれの一番愛しい人!
「…誕生日になんつー話してんの…」 「あ、ミク。お帰り」 「…ミク姉ぇだってルカ姉ぇとすりゃ良いじゃん」
司冬ワンライ/聖夜の夢・もういくつ寝ると
今日はクリスマス。 「…冬弥!」 「…!司先輩!」 フェニックスワンダーランドの大きなツリーの下、僅かに微笑んだ冬弥の元に駆け寄る。 「すまん!待たせた!」 「いえ。…クリスマスショー、お疲れ様でした」 「ありがとう!今年は去年とは違った演出にしてみたんだが、どうだ?」 「はい、とても素晴らしかったです。特にプロジェクションマッピングでサンタが10人に増えたのは驚きました」 「うむ、そうだろうそうだろう!」 寒さか興奮か、頬を紅く染めて感想を伝えてくれる冬弥に、司は高らかに笑った。 今年のショーも自信しかない。 だが、冬弥から改めて伝えられると中々に嬉しいものがあった。 「っと、ずっとここにいては身体が冷えてしまうな。何か飲み物でも飲まないか?フェニックスワンダーランドのグリューワインは未成年者でも飲めるようにしているらしい」 「…それは、気になりますね」 司の言葉に冬弥が小さく考え込む。 少し逡巡していた彼が「飲んでみたいです」と笑った。 決まりだな、とその手を取る。 「…!」 光の中、手を繋ぎ指を絡めれば冬弥は僅かに目を見張り、それから優しい笑みを浮かべた。 「?どうした?冬弥」 「いえ。…何だか夢のようだな、と」 「夢?」 首を傾げると冬弥はこくりと頷く。 「聖夜の夢、というのでしょうか。イルミネーションの光の中、司先輩と手を繋いで歩く事が出来るというのは幸せだと思いまして」 「…冬弥」 「先程までショーの中で輝いていた先輩が、今は俺と共にいてくれるのが、嬉しく思います」 「…。…何を言う」 心底幸せそうな冬弥の手を、司はぎゅっと握った。 それは今だけの幸福などではなく、これからも続いていくのだと伝えるために。 「その幸せは、当たり前のものだ。…オレは冬弥の恋人なのだからな」 「…!司先輩」 「クリスマスも、年末年始も、行事など関係なく、共にいる。だから冬弥もオレと共にいてくれないだろうか?」 握った手に口付ける。 冬弥が頬を染めながら、はい、と頷いた。
もういくつ寝ると何がある?
(もういくつ寝なくても、彼との幸せはいつも傍に!)
「先輩、グリューワインを飲んだ後のマグカップは貰えるそうです」 「ほう!ツートンの夜空の色に煌めく星か。まるでオレたちのようだな!」 「はい。…いつか本物のグリューワインをこのマグカップで飲んでみたいです」 「そうだな。…その時はオレが作ってやろう。愛を込めて、な」
ザクカイ誕生日
今日はクリスマスだ。 ゲームも休みの日で、クリスマスパーティだと何故だかパカが騒いでいて、変わらないなぁとユズは苦笑する。 「…ん?」 と、少し向こうに人影を見つけた。 何をしているのだろう、とわくわくしながら手を振ろうとし、止める。 「…忍霧、誕生日おめっとさん」 「ああ。ありがとう」 小さな笑みと僅かな言葉。 たったそれだけのやり取りに、ユズは目を見張る。 「いやいやいや!もっと何かあったと思うけども?!」 「っ、何でェ。路々さんかい」 「何か用か?路々森」 思わず大きな声を出すユズに、少し驚いた表情をしつつもホッと笑うカイコクと、小さく首を傾げるザクロ。 二人にとっては当たり前のやり取りなのだろうが…それではあまりに面白くない。 主にユズが。 「用はないけど。…ねぇ、今日はザッくんの誕生日なんだろ?それに、クリスマスでもある」 「ああ。それが…?」 「たまには二人で出かけてみたりしたらどうだい?」 ユズの提案にカイコクが顔をしかめた。 「寒ぃならやだ」 子どもっぽいそれにえーと言いかけ、ザクロが小さく笑うのが目の端に映る。 「まあ、鬼ヶ崎が嫌なのならば仕方がないだろう」 「ザッくん、相変わらずカイさんに甘々だよねぇ」 「?甘いかい?」 はぁと溜息を吐くユズに何故かカイコクが首を傾げた。 どうやら甘やかされている自覚はないらしい。 「えー、甘いよねぇ」 「甘やかしているつもりはないのだがな」 当のザクロに言ってみても彼は何処吹く風だ。 それはそうだろう。 ザクロにカイコクを甘やかしている自覚はないのだから。 「でもさぁ、今日はザッくんの誕生日なのにさぁ?」 「だが、特別な事をしない方が良い場合もあるぞ?」 「ん?」 それが不満なユズにザクロが僅かに笑う。 カイコクだけが一人蚊帳の外できょとんとしていた。 「それって…」 「その方が、『特別な事』が際立つだろう?」 僅かに目を細めるザクロにああそういう事、とユズも笑う。 どうやらここぞとばかりに惚気られてしまったようだ。
誕生日だからって特別感に拘ることもない。
だって、愛する人がいてくれるだけで毎日が幸せなのだから。
(そう、誕生日を迎えた彼が笑った)
「しかしまあもう二人とも夫婦みたいだよねぇ」 「路々さん、流石にそれは…」 「夫婦は早すぎるだろう。婚約もまだだからな。…今のところは」
司冬ワンライ・指先から伝わる/紅潮
そういえばもうすぐクリスマスだ。 イルミネーションきらびやかな街並みを見ていると笑みが溢れてくる。 賑やかなのは嫌いじゃあなかった。 寧ろ好きな方である。 「…む」 ふ、と、カバンからスマホのバイブ音が聞こえた。 何だろうかと取り出すとメッセージが1件目に飛び込んでくる。 「…これは」 目を見張り、司は来た道を走った。 吐く息も白く、切る風も冷たい。 だが構わなかった。 「…冬弥!」 「…?!司先輩?!」 驚いた様子の彼の手を取る。 「すまない、待たせてしまったな!ああ、こんなに冷たくなってしまって…」 「そんな…こちらこそすみません。急がせてしまいましたか?」 「気にするな!寒空に大切な恋人を待たせる訳にはいかんだろう?」 心配そうな冬弥に司は笑った。 彼の頬が紅く染まる。 そんな冬弥の紅潮にそっと指先を滑らせた。 冬の夜、そんな日常が愛おしい。 …改めて、好きだな、と噛み締めた。
「ところで、直接伝えたい用事とはなんだ?」 「ええと。…クリスマス、もし予定が宜しければ…デートを…しませんか?」
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