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彰冬
「今日はありがとな」 色んなところで祝ってもらった、夜のこと。 何だか今日は妙に…浮かれていて、眠る前に冬弥に電話をかけてしまったのだ。 『当然だ。…彰人が喜んでくれたなら、俺は嬉しい』 電話の向こうの声も何だか少し高揚していて、この可愛い相棒は、自分を祝うために一生懸命になってくれたんだろうな、と思った。 …サプライズリベンジが成功した、というのもあるのだろう。 以前に失敗した、と落ち込んでいたのを、彰人は知っているからだ。 本当に冬弥は可愛らしい。 まあ、同世代の男子にそう思うのはいかがなものかと思うのだが。 『実は俺も楽しんでしまったんだ』 「いいんじゃねぇの。…冬弥が幸せならオレも嬉しいし」 『…彰人』 柔らかな声が耳をくすぐる。 嬉しそうなそれが、彰人は好きだった。 表情まではっきり思い浮かんでくるくらいには。 前は感情がわかりにくかったから、自分たちの関係性も、冬弥の表現の仕方も成長したのだろう。 しばらく他愛のない話をし、そろそろ切るかとスマホを持ち替えた、その時。 『彰人、今日は英語には触れたか?』 「あー…歌は歌ったが…教科書を開いたりしたかって言われると、まだだな」 冬弥のそれにそう答えれば、スピーカーの向こうから苦笑する声がする。 『今日は誕生日だからな。だが、英語には毎日触れた方が良いから…ここは俺が一つ問題を出そう』 「はぁ?問題?」 突拍子もないそれに聞き返すが、冬弥はそれに答える気はないようで、いくぞ、と言った。 『Happy birthday Akito. Thanks for being my buddy.』 「…っ、お前、なぁ……」 以前なら悩んでいたそれは、聴いた途端にすぐわかって。 彰人の反応に勉強の成果が出ているようだな、なんて冬弥の笑う声が耳元で聞こえる。 存外悪戯っぽい恋人に、さて何と返そうかと彰人は単語帳を引っ張りだした。
彼に、伝えてやらねばならない。
自分は……出会ったあの時からずっと幸せだということを!
ザクカイ
「ぜぇっっってぇ嫌でェ!!!」 「何故だ、鬼ヶ崎!!!!」 さて、何分こうしているだろうか。 上半身裸の男が二人、薄明かりの下の布団の上で。 何をしているかと問われればそれは勿論ナニである。 顔が見たいから正常位が良いザクロと、顔を見られたくないから後背位が良いカイコクで揉めているのだ。 大概はどちらかが折れるのだが…今夜は何故だか二人とも意見を曲げなかった。 謂わば意地の張り合いという感じだろうか。 ムードもクソも何もない。 「俺は鬼ヶ崎の顔が見たい。それがそんなにいけないことか?」 「【いけないこと】って何度も言ってんだがねェ、俺ァ」 「だから電気も消してやったろう」 「嫌なもんは嫌なんでェ。諦めてくんなァ」 「そんな子どもじみた言い訳で納得すると思うのか?俺が?」 「…お前さんも強情だねェ」 「はっ、どちらが」 ギリギリと暗闇で睨み合った。 このまま無理に抱いても良かったが…嫌われるのは本位ではない。 だが、言う通りに折れてしまうのは何故だか今日に限ってプライドが許さなかった。 「何故そんなに嫌がるんだ」 「…んなもん…っ!」 はぁ、と息を吐きながら疑問をぶつければ、勢い良く言葉を吐き出しかけたカイコクがふいとそっぽを向く。 カイコクだって、行為自体が嫌ならば布団から蹴り出すだろうから、きっと本当に顔を見られたくないだけなのだろう。 それは…分かっているのだけれど。 「俺は鬼ヶ崎の事を好いているんだが」 「そっ…れとこれとは話がだなぁ…」 じぃっと見つめても好きを吐いてもカイコクは折れてくれなかった。 「忍霧の事ァ嫌いじゃねぇぜ?じゃねぇとこんな事させねェからな」 「…なら……」 「…っ、だからって己の弱点をおいそれと晒す訳にはいかねェっつー…」 「…弱点……」 カイコクのそれを復唱したザクロは、なるほど、と頷く。 彼は、行為中の表情は弱点だと思っているらしかった。 ならば仕方ない。 …と、言うと思っているのだろうか、カイコクは。 「…お、忍霧??」 「……」 はぁあ、と息を吐き出すザクロに、カイコクがおろ、とした様子を見せた。 戸惑っているそれは少し年相応で可愛らしい。 そんな彼の顎をすくい上げてキスをした。 「…ぅん?!!ふ、ぅ…んァ…ゃ、おし、ぎり…っ!」 その間にもカイコクが息も絶え絶えになりながら文句を言ってくる。 そのままなし崩しに抱かれると思っているようだ。 だから、口を離し、とろんとした彼を反転させてやる。 背中からホッとした様子が伝わってきた。 ローションを手に取り、指で慣らしてからカイコクの後口に持っていく。 「…っふ、……っ」 枕に顔を埋め、快楽に耐えようとする彼に…ザクロは容赦がなかった。 「?!な、に…ふぁっ?!」 腕を引き、膝立ちにさせる。 瞬間、ぐちりと指をナカに埋め込んでやった。 「考えたのだが、何も正常位だけが鬼ヶ崎の顔を見る事ができる体位ではなかったな」 「は、ぅ…ぅう…ゃ、ぁ、や、め…ひっ?!」 背を抱くようにザクロは彼の陰茎に手を伸ばす。 睨む彼に口づけ、くちくちと鈴口を弄った。 勿論ナカに埋め込んだ指を動かすのも忘れない。 「お前が後背位が良いと言ったんだが?」 「こ、んなの…想像して、ねェ…っ!ふぁっ、や、ぁっ!!」 「…可愛らしいな、鬼ヶ崎」 「~~っ!!ば、かァ…っ、ぅあっ、ゃ、やぅ、んぅ、や…っ!」 短く喘ぐカイコクの肩がびくびくと震えた。 黒く美しい髪が揺れる。 振り仰ぐ彼は綺麗な瞳に涙を浮かべていて。 ザクロは思わず口角を上げる。 普段は余裕綽々の彼が、こんなにも切羽詰まっているだなんて。 可愛らしい、綺麗だと囁きながらザクロはカイコクの躰を快楽に染めていく。 カイコクのナカがぐずぐずに蕩ける頃には彼自身も、勿論ザクロも限界に近く。 「ふぁ…っ!ゃ、も…ぃ…っ!!」 敏感な部分を擦り上げた途端、大きく躰を揺らした彼は精を吐き出した。 とさ、と枕に顔を埋めようとする彼のナカから指を抜き、ザクロははち切れんばかりの自身を取り出す。 些か性急な気もするが仕方がない。 ザクロだって立派な青少年。 恋人の痴態を見せつけられ、我慢できるほど大人でもないのだ。 「…っ、まっ…待てやだ、忍霧っ!!イッたばっか……っ!!」 「…すまない、鬼ヶ崎」 焦ったようなカイコクに形ばかりの詫びを入れ、ザクロは一気に突き刺した。 反らされた背を抱きかかえるようにしてまた膝立ちにさせる。 ぴったりと密着し、勿論彼の可愛らしい表情も拝むことが出来た。 「やっ……ぁ、ぁあっ…っ!!ふぁっ、奥っ、当たって……深、ぃ…ぅあっ、いや、だ、やだぁ……っ!」 快楽に溶けた顔を隠す様にカイコクは嫌々と首を振る。 「……っ!ゃ、見ない、で…くんなァ…っ!」 「はっ、…こんなにも……可愛らしい…のにか…?」 「…ぅう~~っ!!忍霧のっ、ばかァ!!ふぁ、ぁああっ?!!!」 文句を言ってくるカイコクを責め立ててやる。 びくっびくっと揺れる躰にザクロも限界だった。 「…出す、ぞ…っ!!」 「~~っ!!!」 最奥に叩きつければ、その衝撃でイッたらしいカイコクは、普段は丸めるはずの背を反らし、快楽を逃していた。 熱い息を吐き出す彼に軽く口づけをし、ザクロはまた律動を開始する。 「なんっ、や、だァ……っ!!!ひぅっ、も、堪忍して、くんな…?!ぁう、んぁ、あっ、あっ!!」 泣きそうな声で喘ぐカイコクにザクロは「お前が悪い」と囁いた。
夜は、まだまだ、長い。
(「だから嫌だって言ったのに」と拗ねるカイコクと、また攻防戦が繰り広げられるのは…また別の話)
今日はハロウィンである。 いつもの街は何だか浮かれていて。 自分が巻き込まれないなら別にそんな雰囲気も楽しめる…のだけれど、そうも言ってられなかった。 「本当にもう…」 待ち合わせ場所にしていた街頭にもたれかかり、志歩は小さく笑う。 最近アイドル活動が忙しくなった遥から、少しだけ、とお願いされたら拒むことは出来なかったのだ。 志歩も最近忙しかったから会うことができるのは嬉しかったのだけれど。 「…あっ、日野森さん!」 「…桐谷さん!」 手を振る彼女に志歩は駆け寄る。 それは嬉しかったからだけではなくて。 「ちょっと、薄着すぎじゃない?」 「…そうかな?」 「そうだよ。いくら昼間は暖かいからって…」 「そんなこと…くしゅん!」 「ああ、ほら……」 困ったように眉を寄せる彼女が小さくくしゃみをする。 もう、と志歩は自分が着ていた上着を脱いで遥に着せた。 「…!ありがとう」 「別にいいけど…どうしてもその仮装が良かったの?」 嬉しそうに微笑む彼女に志歩は聞く。 「潮騒のアイドルとペンギン王子…の、潮騒アイドル、だよね。ペンギン王子の憧れのアイドル」 「…!うん、そうなんだ!昔から大好きな絵本なの。日野森さんも…」 「うん、狼ベーシストとペンギン王子。やっぱり知ってたか」 「もちろん。一匹狼のベーシストがペンギン王子とバンド仲間を探すんだよね」 遥が楽しそうに聞いてきた。 そうそう、と語りそうになって…慌ててやめる。 その話をしたい訳では…いやしたいが…今はしている場合ではなかった。 「話を逸らさないの」 「ふふ、バレちゃった」 志歩のそれに遥が楽しそうに笑う。 「で?秋も深まったハロウィンに、なんでこの仮装?もうちょっと暖かい服あったよね」 「そうなんだけど…やっぱり潮騒ちゃんが好きで…」 「…まあ……分からなくはないけど…」 照れたような彼女に、志歩は頭を掻いた。 確かに志歩もペンギン王子シリーズでは狼くんが一番好きだからである。 「だからって風邪ひいちゃ元も子もないでしょ?」 「…そうだね。気をつけるよ」 「そうしてもらえたら有り難いかな」 遥にそう言い、志歩は彼女に笑いかけた。 「…桐谷さんは、そのままでも充分潮騒ちゃんに似て可愛いアイドルだよ」 「…?!!えっ…」 目を見開く遥の手を取る。 そうして、浮かれている街に飛び出した。
仮装をしている遥も、そのままの遥も
志歩が大好きな…彼女なのだから。
「あっ、遥ー!日野森さんとハロウィンデート?」 「…。……なんでこんなトコで会うかな…」 「まあまあ…。…草薙さんと白石さんはなんの仮装なの?」 「えっと…メリー・ポピンズと悪魔…??」
くるくるあの子へ お次はどこに? 張りぼてとお化粧 お口は縫い付けて
くるくるその子へ お次はどこに? 歯車とおめかし 声と引き換えに
待ち焦がれては遠ざかるモノ 穴ぼこの顔は誰にも分からない 足りない隙間に南瓜(ランタン)の灯火を いつかはだれかになれるから
ハロウィンの夜に別れの歌
がらくたの宴に猫の夢
消え失せた続きとニコラシカ 寂しがり屋の君に火を 混ぜては燃やせよ 幕引きは月に委ねられた
(トリックオアトリート!)
くるくるどの子へ お味はいかが? 蜂蜜に香辛料 喉は縫い付けて
くるくるこの子へ お味はいかが? 女王に星砂糖(アラザン)呪文と引き換えに
つぎたし つぎはぎ たりない のこらない こぼれて そそいで はじまりのいろは?
また同じに二人は 二人を探しさまよって 覚えのない思い出を貪り喰らい続けた
待ち焦がれては薄れゆくモノ 穴ぼこの顔は誰にも分からない 足りない隙間に南瓜(ジャック)の道標を いつかはだれかになれるから
ハロウィンの夜に別れの歌
がらくたの宴に猫の夢
押し付けた続きとニコラシカ いつかの二人へ 最後の一口は墓の下 まだまだ燃やせよ 幕引きは月に委ねられた
積み上げた亡骸は繰り返す
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指に舌に刺青の蜜(しせいのどく)を 永く永く歌えるように いつかのふたつは 愚かしくも稚い 傲慢強欲に溺れて 定理も道理もがなぐる姿は 震えるほどに愛おしい
逆様の祝福を捻じれた夢の夜を 発条の錠前を解けぬ罰の目隠しを 再演の祝福を蕩ける夢の夜を 繰り返し繰り返せ いつかのいつかを現実に叩き込め
耳に目玉に刺青の蜜(しせいのどく)を 永く永く踊れるように いつかのふたつは 失われて戻らない その先を信じて 定義も条理もなげうつ姿は 震えるほどに狂わしい
迎えに来たよ 叶えに来たよ 指切りは契約(やくそく)だから 正しく怨め 正しく呪え 終わらない前夜祭(ハロウィン)を
逆様の祝福を捻じれた夢の夜を 飴玉の足枷を解けぬ罰の繰り糸を 再演の祝福を壊れた夢の夜を やり直しやり直せ いつかのいつかは永遠に閉ざされた trick or treat!trick and trick!望んだままの夜を 焼き付けろ覚え込め 渇望だけを身に宿せ 幸いの祝福を 願いは叶っただろう? 最愛の執着をいつまでも遊べるように
しほはるワンライ/スポーツの日・いざ尋常に
本日はスポーツの日である。
「…んー!楽しかったね、日野森さん!」 ふわ、と遥が微笑む。 そうだね、と志歩も軽く笑って頷いた。 珍しく二人とも休みだった、ということもあり、遥の誕生日に約束したペンギンカフェに遊びに来た帰り道。 誕生日からは随分と過ぎてしまったがそれでもまあ彼女の晴れやかな顔を見、来てよかったな、と志歩は思う。 何だかんだ遥の明るい顔が好きなのだ。 今日は志歩も…楽しかったし。 「まさかコウテイペンギンパフェがお誕生日さま仕様で、マント付けてるとは思わなかったな」 「うん!私もびっくりしたよ。…すごく…可愛かった」 ほう、と息を漏らす遥に、志歩はくすくすと笑う。 「ところで、桐谷さんは今日チートデーなんだよね?明日からはまた戻すの?」 「…そうだね…。今日食べた分はしっかり取り返さないと」 「そっか。なら、ちょっと体動かして帰る?」 「え?」 きょとんとする遥へと志歩はとあるチケットを見せた。 あ、と遥が声を上げる。 「スポジョイパークの割引チケット!」 「そう。実は今日までなんだよね。でも1人で使う気にもなれないし。スポーツの日ってことで…どう?」 「いいね。日野森さんなら良い対戦相手になりそう」 自信満々に遥が頷いた。 お手柔らかにお願いね、と志歩は言いながらチケットをカバンに仕舞い込む。 「あんまり手を使わないのにしようか」 「そうしてもらえたら助かるけど…何かある?」 「うーん、ローラースケートは?」 「あー…コケた時がちょっと怖いな…。それなら、フリースローの方が…」 わいわいと二人で話し合いながら志歩は少し嬉しくなった。 遥が自分の…ベースを弾く手を大切に思ってくれることに。 「よしっ、3本勝負だね」 「そうだね。…負けないよ、桐谷さん」 「私だって。…そうだな、もし負けたら罰ゲームでも何でも受けるよ」 「本当に?言ったね??」 「もちろん」 遥が強気に笑う。 勝ち誇った顔の、志歩の可愛いお姫様。 「なら負けた方は勝った方の言う事を何でも一つ聞く、ってことで」 「そんなので良いの?」 「…随分余裕だね」 「ふふ、まあね」 にこ、と笑う遥。 確かに彼女は男子に張り合えるほど運動神経は良いが。 志歩だって負けられない理由がある。 だから負けない。 「いつまでも余裕ぶってたら足元掬われちゃうよ」 「ふふ、ご忠告ありがとう、日野森さん」
二人して笑い合う。
さあ、尋常に、勝負!!
「…待って、日野森さん。あのペンギンのぬいぐるみ可愛い…!」 「え?……!!隣のうさぎのぬいぐるみも可愛い…!」 「…ちょっと休戦しない?」 「…うん、ここは共同戦線を結ぼう、桐谷さん!」
アンヤ誕生日
「なぁ、オレ誕生日なんだけど」 アンヤのそれに、カイコクがきょとんとする。 「そりゃあ…おめでとさん?」 「おう」 疑問符付きの祝いの言葉にアンヤは頷いた。 「んで?駆堂は何をご所望でェ」 「…。…何かくれんのかよ」 「ま、俺が用意出来るもんならな」 小さく首を傾げたカイコクがくすくすと笑う。 ふわふわと鬼の面の赤い組み紐が揺れた。 ゲノムタワー内で用意されるものは彼自身が用意するわけではないのだけれど。 「んじゃ、ちょっと着いて来いや」 ぐっとカイコクの手を掴む。 そのまま彼の手を引いてある場所に向かった。 「…んん???」 「…。んだよ」 混乱しているらしい彼を睨む。 アンヤが連れて行ったのは、露天風呂だった。 まあ誕生日のプレゼントを、連れて来られた先が露天風呂だ、というのは混乱もしよう。 「…いや、まあ……お前さんが良いなら良いんだがねェ…?」 首を傾げたカイコクが苦笑いをする。 「良いから連れてきてんだろ」 きっぱりと言ってのれんを潜った。 さっさと服を脱いでカラリと扉を開ける。 カイコクも同じようにして続いて入ってきた。 「それで?俺ァ何すりゃいいんでェ」 「フツーに身体洗えや」 「?駆堂の?」 「何でだよ、テメエのだよ」 疑問にそう返してアンヤは自分の身体を洗う。 カイコクもしばらく悩んでいたようだが同じように身体を洗い始めた。 終始不思議そうだったが、何も聞いてこないのは彼の性格か、こちらの意図を汲んでくれているのか。 身体を洗ってから露天風呂に入る。 その隣にカイコクが座った。 「…オレの兄貴…一番上の、がさ。欲しいもんは自分で掴みとれって人だったんだよ」 アンヤは湯を弄びながら話し出す。 一番上の兄、ケンヤは「アンヤは俺に似てるからな!」と笑いながら良くそう言っていたのだ。 「…ま、神に祈るより確実だわな」 「だろ?後、二番目の兄貴は、日常が一番大切だって人でよ。だからまあ、なんだ」 アンヤはシンヤのことを思い出しながら、頭を掻く。 少し穏やかな彼は、「普段通りが一番愛しいって、アンヤも分かる日が来るよ」とよく微笑んでいたな、と思いながらアンヤは言った。 「誕生日だからって、特別扱いより、日常生活を一緒に過ごしたいって……んだよ、テメエ」 「……いや……駆堂にも可愛いところがあるんだねェ…」 ギロリと睨むアンヤに、ふるふると肩を震わせてカイコクが笑う。 「んじゃあまあ、日常生活の特別ってことで、コーヒー牛乳でも飲むかい?」 「フルーツ牛乳が良い」 ふわっと笑う彼にドキリとしつついつも通りに答えた。 パシャリとお湯が跳ねる。
本日は誕生日。
日常生活の延長にある…特別な日。
(そんな日を、貴方と過ごすことが出来る、 それが幸せだったりするのです)
「…で?なんで風呂だったか聞いてもいいかい?」 「あ?テメエ、風呂が一番日常っぽいだろが」 「……。…お前さんのそういう所、嫌いじゃねェぜ」
とうやの日
「」
「え?とーやくんを甘やかさせないようにしたい?」 話を聞いていた咲希がきょとんとする。 「…はい。いつもこの時期に司先輩や神代先輩、彰人に特別甘やかされるので回避したいんです」 キリッとした冬弥に、咲希がまた首を傾げた。 「でも甘やかされるって嫌なことじゃないんじゃあ…」 「…ねえ、私帰って良い?」 うんざりした顔で、咲希に無理やり連れて来られたらしい志歩が言う。 「だめだよ、しほちゃん!!!とーやくん、困ってるんだよ?!」 「いや、私だって困ってるけど」 「…すみません」 ぴょんぴょんと咲希が髪を揺らして志歩を揺さぶり、冬弥が申し訳なさそうに謝った。 「別に。……私は咲希に困ってるだけだから」 「しーほーちゃーん?」 もー!と彼女の体を揺さぶる咲希にくすくすと冬弥が笑う。 「…それで?甘やかされたくないって話だったけど…」 「はい。…3人に見つかるといつも甘やかされてしまって」 「…なら、反撃するのはどうかな?!」 困った顔の冬弥の背後から声がし、振り返った。 「白石さん?!」 「あー!みずきちゃんだぁ!」 「…暁山、白石。どうしてここに」 「やほー!なんか、楽しそうな話してたからさぁ!」 「そうそう!」 楽しそうな杏と瑞希に、各々の反応を見せる。 それにわくわくした顔の杏が言い、瑞希がパチンとウインクした。 「甘やかされたくないんなら、甘やかされないように反撃しちゃえば良いんだよ!」
「…何でわたしまで……」 急に呼び出されたらしい寧々がげっそりした顔をする。 「いやぁ、天馬先輩も神代先輩もいるから、ちょっとこっちも対抗できる人数いるよねってなって!ごめんね?草薙さん」 「…まあ……別に良いけど」
しほはる 遥バースデー
何故こんなことになったのだろう。 「…っと………あ、草薙さん!」 「…へっ?日野森さん?!」 草色の髪の少女を見つけ、その名を呼んで志歩は駆け寄る。 振り返って驚いた顔をするのは寧々だ。 「どうしたの?」 「…いや、ちょっと…匿ってほしい」 「…本当にどうしたの」 不審そうな寧々に、まあそりゃそうか、と志歩は息を吐いた。 自分だっていきなり匿ってほしい、なんて伝えたら不審な顔にもなる。 仕方がない、と志歩は事の次第を話すことにした。 ちょいちょいと寧々を呼び寄せて草かげに座り込む。 「ちょっと長くなる話なんだけど…」
さて、今から数十分前。 志歩は一歌とある買い出しに来ていた。 「あ、一歌ちゃんに志歩ちゃん!」 と、前から歩いてきた少女が元気良く手を振る。 「…!みのり!遥!」 隣の一歌も嬉しそうに手を振っていたが…志歩は内心、しまったな、と思っていた。 「こんにちは。…えっと…二人で買い出し?」 「…まあ、そんなとこ」 二人が持っている袋を見ながらにこにこと遥が聞くから、志歩は曖昧にそう答える。 今バレるわけにはいかないのだ。 だって、これは。 「…。…ねえ、桐谷さん。私と勝負しない?」 「え?」 「そこの公園で追いかけっこしよう。私を捕まえたら買い物袋の中身教えてあげる」 「…いいよ、乗った」 一歌に袋を手渡して言う志歩に遥は勝ち気な顔で笑う。 彼女は存外負けず嫌いなのだ。 「じゃ、行くよ!」 「望むところ!」
「…そんな訳で今桐谷さんと追いかけっこ中なんだよね」 「…ええ…」 説明が終わった志歩に、寧々が絶妙な顔をする。 まあ志歩だって誰かにそう言われたらそんな顔をしてしまうと思うのだけれども。 「捕まる気は、あるの?」 「…捕まらないと、桐谷さんの誕生日会始められないでしょ」 くすくすと志歩は笑う。 そう、この買い出しも、この追いかけっこも、全て遥の誕生日を祝うためのものなのだ。 彼女に、サプライズパーティーを仕掛ける為に。 今頃きっと一歌たちが最後の準備をしてくれているだろう。 「だからって、ワザと捕まりたくはないんだけどね…」 「…ええ……」 もうそろそろ捕まっても大丈夫な時間だが、ワザと捕まるのは志歩のプライドが許さなかった。 微妙な表情の寧々が、「…じゃあ」と言う。 「…わざとじゃなきゃ、良いんだ?」 「…え?」 寧々のそれに志歩は目を丸くした。 すくっと立ち上がった寧々が真っ直ぐ手を伸ばす。 「白石さん、こっち!」 「オッケー!草薙さん!」 「ちょっ、嘘でしょ?!」 「えっ、あっ、日野森さん?!」 遥が驚いた表情で志歩と…それから隣でがっちりと腕を掴む杏を見比べていた。 「杏、離してよ!」 「だめだめー!だって離したら日野森さん捕まっちゃうじゃん」 「え、何あれ」 「…えっと…逆サプライズ?」 珍しくギャーギャー騒ぐ遥に杏は楽しそうだ。 その様子にぽかんとしていれば寧々がくすくすと笑う。 「逆…?」 「うん。花里さんと星乃さんから、日野森さんと桐谷さんが追いかけっこ始めたって聞いてね。それでちょっとしたサプライズを」 「……何それ…」 その説明に志歩はがっくりと肩を落とした。 なるほど、サプライズを仕掛けたのは自分だけではなかったらしい。 「会場はこっちだから。…早く捕まえてきてね」 寧々のそれに、志歩ははいはい、と返事をし、杏に背を押された遥の元に向かう。 わ、と蹈鞴を踏み、少し不満そうな遥を抱きしめた。 「…ずるい、私が捕まえるはずだったのに」 「ごめん。…ペンギンカフェでチャラにならない?」 「…。…その後ペンぴょんショップも付き合ってくれる?」 「お姫様の頼みなら喜んで」 志歩のそれに、何それ、と遥が笑う。 アイドルではない、素のそれに、可愛いなぁと思った。
「誕生日おめでとう、桐谷さん」 「…うん、ありがとう、日野森さん」
顔を見合わせて二人で笑う。
今日は、大切な彼女の、大切な誕生日!
「…私、杏のことは許してないからね。…味方だと思ったのに」 「私も。…協力してくれると思ってた草薙さんに裏切られたし」 「わたし、日野森さんに協力するなんて言ってないよ。…だって白石さんの味方だから」 「草薙さん…!!…私、遥に許してもらえなくても草薙さんがいるからいいんだもんねーっ!」
天使の日 寧々杏
「…うぅむ……」 司が何やら悩んでいる。 「…まだ思いつかないのかい?」 「司先輩がこんなに悩んでいるなんて……」 「…いや、割りと悩んでるだろ……」 「…ねぇ、他所でやってくれない?」 わいわいと話し合う男子に寧々が言う。 それから壁のポスターを指差した。 そう、ここは図書室なのである。 「…す、すまない」 「青柳くんまで一緒になって…」 申し訳なさそうな彼に少し呆れてしまった。 真面目な彼なのに、珍しいなとすら思う。 「…で?司は何をそんなに悩んでるわけ」 首を傾げる寧々に、これだよ、と司の代わりに類が一枚の紙を見せてきた。 よく見ればフェニックスワンダーランドからの依頼書で。 「…あ、これ」 「毎年の恒例行事にしたいらしくてねぇ。修行中だが、どうしても、と頼まれたんだよ」 類が肩を竦める。 どうやら毎年行っている天使の日限定ショーが好評で、今回も行ってほしいとの依頼だったのだ。 過去には王子様と天使のショー、悪魔と天使のショー、魔法使いと天使のショー、そして一番最初は天使の日合わせではなかったが騎士と天使のショーを行った為、今年は誰と天使のショーにしようか迷っているようだ。 「…ぅうむ…今年はどうするか…」 「…そんだけやってりゃ、ネタ尽きそうッスよね…」 「…ああ……」 頭を抱える司に彰人が言う。 それに寧々も頷いた。 流石に同じようなネタは司でも悩むのだろう。 「…草薙は、天使に会ったことはないのか?」 「…え??」 冬弥の問いに寧々は目を見開いた。 彼は一体何を。 「天使みたいな、そういう存在に会ったことはないのか、という意味なのだが…」 「冬弥、流石にそれは無茶な質問……」 首を傾ける冬弥に彰人が止めようとする。 だが。 「…ああ、そういうことなら…わたし、見たこと…あるよ」
「…どうしよう…」 寧々はきょろきょろと辺りを見渡す。 買い物に来ていた寧々は入った事のない路地に入り込んでしまい、泣きそうになった。 入った事のない路地、だけならまだ良かったのだが、そこは、あまり治安が宜しくなかったのである。 「…うぅ………」 「…どーしたのっ?」 「ひっ?!」 ひょこ、と出てきた少女に寧々は飛び上がらんばかりに驚いた。 「あっ、ごめんね?!おどろかせちゃって」 夜空のように綺麗な髪を振り、少女は慌てたように言う。 「…ううん。わたし、も…びっくりして、ごめん」 「ぜんぜんへーきっ!…ね、どうしたの?」 こてりと首を傾げる少女に、あのね、と寧々は話し出した。 買い物に来ていて道に迷ったこと、歌が聴こえてこの路地に入ってしまったこと。 そして、思ったより街が怖く見えてしまったこと。 「…と、いうわけなの」 「なるほど…。じゃ、スーパーまでおくったげる!」 ね!とにこっと笑って少女は寧々の手を取った。 「い、いいの?」 「もっちろんだよ!…こっちこっち!」 手を引っ張る少女に寧々は振り回されるように付いていく。 「えっと、こっち…あれ?」 少女がきょとんと道の奥を見た。 どうしたの?と寧々が覗き込む。 「だ、だいじょうぶ!!なんでもないから!」
「あれ?なんの話??」 「…内緒」
シンヤバースデー
「なあなあ、シンヤ!ちょっとお兄ちゃんと逃避行しないか?」
兄に言われてシンヤはぽかんとしてしまった。 よく、突拍子もないことを言うケンヤだが…何故またそんな事を。 首を傾げるシンヤに、ほら、とケンヤは笑った。 曰く、先月の兄の誕生日に彼自身の帰りが遅くなって誕生日会が出来なくなった、という小さな事件があった、末の弟であるアンヤから「シン兄がお祝いすんの楽しみにしてたのに」と怒られた、と言うのである。 「…別に…次の日にお祝いしたから良かったのに」 「けど、その日にお祝いしたいっていう気持ちは無碍にしちまった訳だろ?」 「…うーん、まあ…?」 ケンヤの言葉にシンヤは首を傾げた。 …シンヤ的にはお祝いは出来たのだから別に構わなかったのだけれど。 「ま、そのお詫び。行こうぜ」 「…それは良いけど…。…何で逃避行…?」 「そりゃ、非日常感だな」 疑問符を浮かべるシンヤに、ふふん、と何故だか得意気にケンヤが言う。 ほい、とヘルメットを投げて寄越され、シンヤは慌てて受け取った。 これは逃避行より小旅行なのでは、とも思わなくもなかったがまあ良いか、とヘルメットを抱えて兄に続いて外に出る。 バイクの後ろに跨り、ケンヤの腰に手を回した。 二人で出掛けるときはいつもこの体制だ。 夜風が頬を撫で、ふふ、とシンヤは笑う。 兄の暖かくも広い背中にいつもより強く抱きついた。 しばらくバイクを走らせ…さて兄は何処に行くつもりなのだろうとわくわくしながら…シンヤはふと景色に目をやる。 「…!わ、あ」 見たことのないそれに、シンヤは目を輝かせた。 「…なあ、シンヤー?」 「え?」 兄の声が風に乗って耳に届く。 「誕生日、おめでとうなー!愛してるぞー!」 柔らかい声に、シンヤはうん、と小さく笑った。 そういえば、今日はシンヤの誕生日である。 きっと、シンヤがケンヤの誕生日当日に祝えなかったから、自分は叶えてくれようとしてくれたのだろう。 本当に、彼は優しいのだから。 「…ありがとう、ケン兄!」 ぎゅ、と抱きつく。
誕生日プレゼントは、大好きな兄と二人きりの時間。
「…次は俺がケン兄の誕生日、当日1番に祝うから!」 「おー、楽しみにしてるなー!」
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