○○しないと出られない部屋、アンカイの場合(カイコク受け)

カシャン、と扉が開き、誰かが入ってきた気配にアンヤは振り向きもせず、遅え、とだけ言った。
「…は?え?」
困惑しきり、といったその声にミントガムを風船のように膨らませる。
それはそうだろう。
先程の、キスしないと出られない部屋、はクリアしたのだから。
また新たな部屋に通されるなど…不思議極まりないし、他の3人がいないのも部屋の仕組みを知らないカイコクにとっては不思議でしかないはずだ。
「…駆堂、だけか?他の奴らは…」
「…んだよ、不満か?」
近づいてきた彼、カイコクにそう言ってやれば「そうじゃねぇ」と小さく笑った。
その笑みは普段の彼のそれで、アンヤは小さく息を吐き出す。
「ったく。オメーが来んの遅えからヘンタイ家畜野郎の説明終わっちまったじゃねぇかよ」
「…パカの?」
「そーだよ」
ほら、と顎で扉の上を示せば、カイコクが釣られて上を見上げた。
「…ん、な……っ」
そうしてそのまま固まる。
扉の上には【鬼ヶ崎カイコクにキスした場所を責めないと出られない部屋】とあった。
「…悪趣味にも程があらァ……」
「オレもそれは同意する」
はぁあ、と深い溜息を吐き出すカイコクにアンヤも頷く。
全く本当に趣味が悪い。
「どーいう原理かは知んねーけど、アカツキもマキノもマスク野郎も別の部屋にいるんだってよ。オレらがクリアしたら、オメーだけ次の部屋に行ける。全員分クリアしたら今度こそ部屋の外だ」
「…信用出来んのかい、それは…」
「グズグズ言ってたって終わんねーだろーが」
嫌そうなカイコクにそう言ってやった。
何度もゲームを行ってきたから分かる。
これは、やらねば終わらないのだ。
「…そりゃァそうだけど…っと…」
カイコクもその言葉に諦めたのか部屋の真ん中に置かれていたベッドにぽすりと腰を掛けた。
「あ?」
「駆堂は目蓋だったか。早くしてくんな」
不可解なそれに疑問で返せば、カイコクがにこりと笑う。
潔が良いとも言えるその態度にアンヤは自身の頭をガシガシ掻きながら近づいた。
カイコクは恐らく、アンヤが性的なあれこれに疎いと舐めきっている。
目を瞑るカイコクからは「駆堂だし、大丈夫だろ」という安堵が見て取れた。
何となくムカつく、と思いながらギシリ、と音を立てベッドに乗り上げる。
目潰しにならないようにとそっと触れた。
責めろ、なんてどうやれば良いか分からないから指の背で撫ぜたり優しくくるくると擦ったりする。
「…ふふ、っ」
「んだよ、笑ってんじゃねー…」
クスクス笑うカイコクに、顔が赤くなるのを感じた。
「すまねぇ。…お前さんが意外と優しく触るから、つい」
「…っ」
「もうちょい大胆に責めてくれてもいいんだぜ?駆堂」
「テメ、鬼ヤロー」
「なんなら、おにーさんが教えてやろーか?ん?」
楽しそうなカイコクに、思わず、目ェ開けろ!と怒鳴る。
随分とまあ余裕なそれに腹が立った。
アンヤとて一端の男子高校生である。
あまり性的なそれに興味がないことを差し引いたってカイコクはアンヤを子ども扱いし過ぎなのだ。
「?なんでェ」
もう終わりかと言わんばかりのきょとりとした声と共に開かれたそれは、黒曜石の如く煌めいていて。
意外と睫毛長えんだな、などとどうでも良いことを思った。
「くど…。…っ?!」
綺麗な瞳は食べたらどんな味がするんだろうとか馬鹿なことを考えていたらつい口を開けてしまっていて、カイコクがびくりと体を揺らす。
「ひ、ぅ」
食わねぇよ、と代わりにその上をべろりと舐め上げた。
小さく息を漏らすいつもの彼とは違っていて何かがアンヤの背をぞくんっと駆け抜ける。
…途端、カシャンという音と共にロックが解除されました、という無機質な声が響いた。
「…開いたな」
カイコクはそれを聞き、アンヤを押しのけてベッドを降りようとする。
が、それをアンヤが押し留めた。
「…おいっ、なにすんでェ…!」
「…もう一回、やらせろ」
声を荒らげるカイコクにそう言う。
怯んだその隙にペロリと舐め上げた。
「んぅ…っ!」
鼻にかかったような甘ったるい声と嫌そうな…恥ずかしそうな表情にもやもやした感情が拡がる。
これが何なのかさっぱり分からなかった。
カイコクに抱く、初めての感情にアンヤは苛立つ。
ただ、もっとそれが見たいと…他の奴には見せたくないとだけ、思った。



それが、恋だということなんて…アンヤはまだ知らない。

○○しないと出られない部屋(カイコク受け)

ピーンポーンパーンフェー♪
『ただいまより、エクストラステージ○○しないと出られない部屋、開始でございます』

「ふっざけんな!」
間抜けな擬音とパカの無感情な声にブチ切れたのはアンヤである。
大概こういう時最初にキレるのは彼だ。
…尤も、彼が怒りっぽいだけかもしれないが。
「なっんだよ○○しないと出られない部屋って!意味分かんねぇ!大体なんだこの」
「…『鬼ヶ崎カイコクにキスしないと出られない部屋』、ですか」
アンヤのそれを引き継ぐのはアカツキだった。
看板を読み上げ、実に楽しそうである。
「…地獄でしかねぇだろ、ヤローばっかでよ」
「女性陣がいてもそれはそれで地獄じゃありませんか?」
嫌そうに言うアンヤにアカツキが首を傾げた。
そう、ここにいるのは男子メンバーのみ、女子はいないのである。
キスをするのもされるのも男子、という果たしてここは地獄なのだろうかという空間が広がっていた。
「…鬼ヶ崎」
「……かっんべんしてくんな……」
ザクロが部屋の隅に隠れるカイコクに呼びかける。
特に、当事者であるカイコクは、あのザクロが憐れんでしまう程に拒否をしていた。
自分はやる方だが、やられる方は溜まったものではないだろう、とザクロやアンヤは内心手を合わせる。
「…つか、女子は?シアター待機か?」
『いえいえまさか。女性陣は別の部屋を攻略していただいております』
アンヤのそれにパカが答えた。
その返答に今度はザクロが首を傾げる。
「…大丈夫なのか、それ」
同じようなゲームである場合、カリンやユズは問題なさそうだが…中学生のヒミコがいるのだ。
倫理的に問題になりそうだが。
…と。
『ご心配には及びません。女性陣は…』
「女性陣は?」
『蟹を食べて頂いております』
「厚遇じゃねぇか!!!」 
アンヤのツッコミが響く。
カイコクの、「俺も女子になる…」という弱々しい声にザクロは、やめろ、と言った。
「貴様が女性になった所で現状は打破されないんだぞ」
「そうですよ、カイコクさん!腹括ってください!」
「…他人事だと思って」
ザクロとアカツキの言葉にカイコクがブスくれる。
いつも飄々としているから、彼のこういう一面は非常に珍しかった。
『ワタクシも参戦したいところを監視役の役目を果たすべく我慢しているのですよ?何たる、この、CVつだけんの無駄遣い』
「メタい話ししてんじゃねぇよ!!!」
『…ルール説明と参りましょうか』
鋭く突っ込まれるアンヤのそれを軽くスルーし、パカが言う。
曰く、扉には4つのロックがかかっており、一人がカイコクにキスをする度に外れる仕掛けなのだそうだ。
キスする場所はどこでも良く、4人がカイコクにキスをし、ロックをすべて解除出来ればゲームクリアなのだという。
それでは、ご武運を、という言葉を最後にパカのそれがぶつんと切れた。
「…ったく、悪趣味だな…」
「まあ、グチグチ言っても終わりませんから」
文句を言うアンヤにアカツキが言う。
「ね、カイコクさん」
「…う……」
にっこりと笑いかけられ、カイコクがたじろいた。
嫌なものは嫌という彼だが正論を突きつけられ、言葉にならないらしい。
「…あーもー、覚悟決めろ、鬼ヤロー!」
「いや、そうは言っても…おわっ?!」
「こっち来い!」
珍しくグズグズするカイコクの手を引っ張ったのは、痺れを切らしたアンヤだった。
ぐいと手を掴んで引き寄せ、驚きに目を見開くカイコクの…目蓋にキスを落とす。
と、同時にカシャンとロックが開き、赤いランプが点った。
「おお、開きましたね!」
「…何で目蓋だったんだ?」
テンションの高いアカツキと、冷静に聞くザクロ。
「あ?…昔、俺が泣いてたらシン兄ぃがやってくれたんだよ」
簡素なそれに、全員が「額の間違いじゃあ…」という言葉を飲み込む。
藪は突くものではなかった。
「おら、オレは済んだぞ」
文句あっか、とメンチを切るアンヤに苦笑しながら、はい、と手を挙げたのはアカツキである。
「次は俺の番ですね」
ニコニコと笑みを浮かべ、アカツキは、失礼しますとカイコクの手を持った。
「っ!」
ちゅ、と手首に落とされるキスは合格を判定したらしく、カシャンという音と水色のランプの点灯で知らせる。
「大丈夫みたいですね」
「オメー、それ、手の甲とかじゃねぇの?」
無邪気な笑顔でカイコクを見上げるアカツキに言うアンヤ。
「えー、そうでしたっけ?忘れてしまいました」
笑いながらあっさり言うから、アンヤもそれ以上は言わなかった。
時々、アカツキの目が笑っていても怖くなる時がある。
そこに突っ込むべきでないと本能が告げていた。
「…あー、次は?」
代わりに、他のメンバーを見渡す。
スッ、っと後ろの方から手が挙がった。
「……次は僕」
のそり、と動くのはマキノである。
いたのか、と全員が思った…その刹那。
「ひゃ、ぁ?!」
カイコクの口から聞いたこともないような素っ頓狂な声が出た。
首筋を押さえて真っ赤な表情で振り返っているから、首筋にキスをされたのだろう。
「な、ななな……!!」
「…開いたよ、カイコッくん」
言葉を失い珍しく動揺を隠せない彼に淡々とマキノが告げた。
いつの間にかロックのランプは紫を点滅している。
「…やるな、マキノ」
「…流石はマキノさんです…!」
ヒソヒソとアンヤとアカツキが言い合う隣にマキノが腰掛けた。
「…次はザクロ君。…頑張ってね」
「…あ、あぁ」
マキノの予想外のそれに固まっていたザクロがハッとしたように動き出す。
そういえば自分がラストだった。
「早よしろ、マスク野郎」
「頑張ってください、忍霧さん!」
「わ、分かっている!」
二人のそれに返事をし、カイコクの前に立つ。
普段なら絶対揶揄ってくる彼が固まっていた。
はぁあ、と溜息を吐き出し、マスクをぐいとずり下げる。
「…おお」
「ゲームクリア、ですね!」
「…頑張った」
白いランプが点滅し、ドアが開いた。
三人が出ていった後で、二人だけが残る。
「…意味は、分かるだろう。鬼ヶ崎」
「…っ!」
「…今晩、部屋で待っていろ」
カイコクの着物の合わせから手を離し、ザクロはマスクを戻して部屋を出た。
扉の開いたそこに、顔を真っ赤にし、肩口を…自身に入った入れ墨を手で押さえたカイコクだけがぽつんと立ち竦んでいて。
…カイコクは知っていた。
身体の場所に遺されるキスにどんな意味があるのかを。
カイコクは知ってしまった。
…彼らがどんな風に自分を見ているのかを。
「…勘弁してくんな……」
彼の小さな本音は、誰にも聞かれず、部屋の中に霧散した。

(余談)
Q「アルパカ君なら、カイさんのどこにキスをするんだい?」
A「ワタクシでしたら、そうですねぇ、逆に鬼ヶ崎様からワタクシの足の甲にキスをして頂きますかね」

生クリームプレイはご存知ですか出来たらやってみませんか(ザクカイ)

「ユズ先輩、ほっぺたにクリーム付いてますけど」
「んえ、何処にだい?カリリン」
夕食後、ふとそんな会話が聞こえてきてザクロは顔をあげた。
見れば少し向こうでカリンとユズが話している。
「違う、反対…そこじゃなくて…ああ、もう、私がやりますからじっとして」
最初は指示を出そうとしてたようだがじれったくなったのだろう、ハンカチを取り出してふき取っていた。
「んふふー、舐め取ってくれても構わないんだぜ?」
「右ストレートお見舞しても構わないなら」
「怖いにゃー、カリリンはー!」
けらけらと笑うユズに早く片付けてくださいね、とカリンが去る。
「…生クリームプレイ……」
ぼそりとそう言ったのは珍しく隣にいたアカツキであった。
「…なんだ、それは」
「あれ、知らないんですか、忍霧さん」
眉を寄せるザクロにアカツキがきょとんとする。
「何の話だい?」
「ユズ先輩。…忍霧さんが生クリームプレイを知らない、と言うので」
「…楽しそうな話だな」
食器を手に持ちながらこちらに来たユズがにやりと笑った。
「…で、なんだその生クリームプレイとやらは」
「うん、ザッくんは女体盛りを知っているかな。裸の女性の上に刺し身を盛り付けるあれだ。まあ、それのスイーツ版、といったところかにゃ」
「な、ぁ…?!」
あっさりと語られるそれにザクロは顔を紅くさせる。
元々そういう話は得意ではなかった。
「その名の通り、生クリームを行為に使うんですよー」
「…それは…何というか……多方面から怒られそうな気もするが…」
笑顔で言うアカツキにザクロは困惑の表情を浮かべる。
どう考えても衛生的にも宜しくないだろうし、後が大変そうだ。
「だからこそプレイ、なんだぜ、ザッくん。ほんのちょっとのスパイス、いつもと違うことが良いのさ」
「…いや、しかしだな……」
「…何の話してんだよ?」
ふふん、と何故かドヤ顔のユズに反論しようとしたザクロの間を割って入ったのは不思議そうな表情のアンヤであった。
「生クリームプレイの話ですよ」
「ザッくんが知らないと言うからね。教えてあげていたのさ」
にこにこと言う二人にアンヤが、はっ!と馬鹿にしたように笑う。
「そんなんも知らねぇのかよ、ダッセェ!」
「…は?」
煽りの言葉をかけられ理性的でいられるほど、ザクロは温和でも大人でもなかった。
元来アンヤとザクロは相性が最悪なのである。
「もう理解した。貴様に馬鹿にされる筋合いは…」
「実践しなきゃ意味ねぇだろーが!」
「…っ、良いだろう!今すぐ実践してきてやる!」
売り言葉に買い言葉。
勢い良く立ち上がり、食器を片付けがてら厨房に向かう。
目的は勿論ホイップクリームだ。
「…あーあー」
知らないぜ、ボクは、とそんなザクロを見送りながらユズが笑う。
「ところでアンヤくんは生クリームプレイ、知ってるんですか?」
首を傾げるアカツキにアンヤがこちらも不思議そうに言った。
「あ?生クリームでホットケーキに絵を描くやつだろ?シン兄がケン兄をダブルラリアットしながら言ってたけど」
きょとんとするアンヤにアカツキとユズが苦い笑みを浮かべる。
当の本人だけが頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「…アンヤくん…」
「…アン坊、無闇矢鱈にザッくんを煽るの、やめたまえよ…」

「絶っっ対嫌でぇ!!!!」
「そう言わずに!頼む鬼ヶ崎!」
ピタリと閉められた押し入れに向かってザクロは懇願していた。
中で籠城しているのは恋人でもあるカイコクで。
ザクロが彼の部屋に入って告げた第一声、「生クリームプレイは知っているか」のそれだけで顔を引きつらせ、押し入れに閉じこもってしまったのである。
「少しだけで良いんだ!」
「甘いのは苦手だと再三言ってるよなァ?!!」
「舐めるのは俺だぞ、鬼ヶ崎!」
「匂いも無理だ吐く!!」
「すぐ換気する!風呂にすぐ行ってその後何もしない!約束するから!!…頼む、鬼ヶ崎!恋人の頼みを聞いてはくれないだろうか?!」
そんなやり取りを1時間近く続け、ようやっと押入れの戸が開いた。
「………いいか、15分でェ。それ以上は絶対にしない」
「わかった、約束する」
硬い表情のそれにザクロも頷く。
何だかんだ言ってカイコクはザクロに大変甘いのだ。
それこそ、生クリームのように。
渋々、といった様子で出てきたカイコクの手を引き、ザクロは優しく口付けた。



それから、15分を150分と間違え身体の隅々までデコレーションされトロトロに溶かされ食べられてしまうのは…カイコクが知る由もなかった、近い未来の話。
ーー
ちなみに、生クリームの日は9月6日なので、入れ替え。

純情少年と悪いお姉さん、ノーマルエンド/ザクカイ♀

純情少年と悪いお姉さん、ハッピーエンド/ザクカイ♀

「お前さんなら優しくしてくれるんだろう?…忍霧」
笑うカイコクの肩を掴み、ザクロは勢い良く仰向けにする。
「なにす…っ!」
「貴様は!俺が好いた相手に煽られて!何も思わないと思ったのか?!!」
表情を歪めるカイコクに思わず大声を出した。
途端に漆黒の瞳が見開かれる。
ザクロだってずぅっと我慢してきたのだ。
「なん…っ」
「確かに俺は女性が苦手だ!女性に触ったり、近づいたりするのは抵抗がある。だがな!それより以前に俺は貴様を好いているんだ!女性の身体になったとて、好いた相手に迫られて煽られて平然でいられるほど俺は出来ていないんだぞ?!」
呆然とするカイコクに言葉が止まらない。
止める気なんて、毛頭なかった。
「男だから俺が貴様を好きになったとでも?俺が、友情の上が愛情だと錯覚するような阿呆とでも思ったか、鬼ヶ崎」
「おし、ぎり」
おろおろとする様子は大変可愛らしいそれだけれども、はっきりと伝えなくてはならない。
きっと、伝えなければまた逃げてしまうだろうから。
正面切って言わなくてはならないのだ。
好きだという己の気持ちを。
愛しているという、言葉そのものを。
言わなくては伝わらない。
こと、この鬼ヶ崎カイコクという人物に於いては顕著だ。
飄々として、自分の気持ちも見せなければ相手の気持ちを見ようともしない。
それに腹はたつが、ならばこちらとてやりようがあった。
「友情と愛情は別物だ。それは、貴様が女体化してはっきりした。俺は貴様が男だろうが女だろうが関係なく好きだ」
「も、ぅ…止してくんな」
腕で顔を隠そうとするカイコクのそれを取り上げる。
目元が紅く、どうしたら良いのか分からない、といった顔だった。
「っ、忍霧!!」
「駄目だ、俺の気持ちを聞くまでは赦さない」
声を荒らげるカイコクにきっぱりと言う。
普段のザクロとは違う様子にびくりと怯んだその隙を突いてザクロは優しく囁いた。
「俺は、鬼ヶ崎カイコクという人物を好きになったんだ。…男だからどうとか、女だからどうとか関係ない」
「っ」
「友人は作るものではなく出来るものだ。…そして、恋人は出来るものではなく、なるものだ」
真摯に言葉を紡ぎ、カイコクにそっと触れる。
こんなにもドキドキしているのを、目の前のカイコクは知っているのだろうか。
「俺は、貴様とは恋人になれているつもりだった。…貴様はどうなんだ、鬼ヶ崎」
「…ここで聞くのは卑怯なんじゃねぇのか……」
問いかけるザクロにカイコクは小さな声で言った。
そして。
「?!」
ふいに触れる、マスク越しの口唇の感触。
目を見開くザクロを、カイコクがぶすくれた様に見つめる。
「…お前さんだから」
「へ」
「お前さんだからこんな行動を取るんだろが。俺が、好きでも何でもねぇ相手に、躰を許すとでも?男の時だって、今だって、忍霧だから良いんだ」
鈍い、と言われてしまえばザクロもそれまでで。
「…鬼ヶ崎」
「もう、いいだろう?さっさと解放してくんな」
ふい、と目線を逸らすカイコク。
そのさらりと揺れる黒髪から覗く耳は真っ赤に染まっていた。
「貴様は、躰を許す相手を好きになるのか?」
「っ、違う!!心から、その……想い、合うから、躰も許すに決まってる、だろ……」
ザクロの意地悪なそれに、勢い良く答えていたカイコクの声が、段々と小さくなる。
元々、ストレートな言葉は苦手なカイコクだ。
今だって相当恥ずかしいに違いない。
だからこそもっと言わせたくなる。
いじめたくなる。
今まで散々遊ばれてきたのだ。
少し意地悪したくらいではバチは当たるまい。
「…ったく、何を言わせて…」
「想い合うとは?…俺は貴様の気持ちが知りたいんだが」
「ぅ、ぇ?!」
びくんっとカイコクが震えた。
まさかこれ以上来るとは思ってなかったらしい。
「忍霧…?」
「俺は、好きだと貴様に伝えた。貴様はどうなんだ」
「…俺だって、同じ…気持ち、でェ」
カイコクが絞り出したのは、恐らく最大の好意の気持ち。
だが、それで終わらせたくはなかった。
「俺は鬼ヶ崎自身の言葉が聞きたいんだが」
「……っ!…この、ムッツリドS」
「なんだ、その悪口は」
カイコクの渾身の悪口であろうそれに思わず笑う。
こんなにもカイコクが振り回されているのは珍しかった。
「少しは自覚しろ。貴様は俺に愛されていると。貴様の行動一つ一つが心配だし、ハラハラする。その理由は何のことはない、好いているからだ」
「…」
「心配する、こちらの身にもなれ。いいな」
ぽふりとカイコクの髪を撫でる。
少し驚いたようにこちらを見上げるから、思わず首を傾げた。
「…なんだ?」
「…いや、女なのに触るの平気なんだな、ってな」
「好きな相手に触れなくてどうするんだ」
何を今更、とザクロは呆れたように言う。
だが、それを聞いたカイコクはぱちくりと目を瞬かせ、花が咲くように笑った。
「…おい?」
「…ったく、お前さんにゃ敵わねぇな」
くすくすとカイコクが笑う。
「はぁ?」
その返答にザクロは困惑するしかなかった。
だが。
「…ちょっ……?!」
驚くザクロの首にするりと白い腕が伸びる。
「鬼ヶ崎?!」
「俺にここまで言わせた責任は取ってくんねぇのかい?…忍霧?」
蠱惑的に微笑み、抱きついてきた。
「お、おい!だから、煽るなと…!」
「…俺をこんなにも想ってくれる相手に、全てを捧げたいと思うのは…悪い事かねぇ?」
慌て、身を離そうとすればカイコクは少しぶすくれる。
それは幼い子どものようで。
「俺にだって意地はあらァ。…男の身体でだって女の身体だって、お前さんを受け止めたい。…お前さんの、一番になりてぇんだ」
ふわりと微笑むカイコクは若干震えていた。
カイコクだって怖いのだろう。
女性の身体で致してしまったら、どうなるのかなんて、誰も分からないのだから。
「…自分が一等可愛いんじゃなかったのか」
「なんでェ、引き摺ってんのかい?」
意地の悪い表情をするカイコクの、頬に手を添えた。
乱暴にマスクを外す。
「…。…どうなっても知らないからな」
「こちとら、一日そのつもりでェ」
挑発的とも取れる言葉を吐く綺麗な口唇を、喋るなと意味を込めて塞いでやった。
「…んんぅ、ふ……」
鼻から抜ける、甘い声。
唇を舌でなぞり、薄く開いたそこから捩じ込む。
カイコクは、上の歯の裏を擽られるのが一番弱かった。
今だってそこばかり責め立ててやれば、息も絶え絶えに縋りついてくる。
まったく、先程の勢いは何処へ行ったのやら。
「…鬼ヶ崎?」
「…ふぁ…は……」
唇を離し、とろんとするカイコクを呼ぶ。
ぽやぽやとこちらを見るカイコクはまるで寝起きの様だ。
あれだけ大口を叩きながら、意外と快楽には弱いのである。
そこは女体化したとて変わらないらしかった。
「可愛いな、鬼ヶ崎」
「…っ!」
くす、と笑えば顔を真っ赤にさせる。
普段があまり感情を見せないから、何とも珍しかった。
自分だけが知る秘密だと思えば、何だか嬉しくなる。
「そういうの、やめてくんねぇ…んぁっ!」
ブスくれるカイコクの、服の間から見える入れ墨に舌を這わせた。
途端に可愛らしい声を出す。
いつもなら黒い着流しを崩し、さんざ虐めてやるのだが、今日はザクロの服だ。
ちらりとしか見えないから仕方がなくがばりとTシャツを捲り上げる。
「?!!貴様…っ!」
ぷるん、と飛び出すおっぱいに耐性がなく、ビクついたのはまあ想定内だ。
だが、これは。
「な、んで…こんな……」
「…聞いたじゃねぇか。ピンクのブラはお前さんの趣味かい、ってな」
顔を紅くさせるザクロに今度はカイコクが悪い顔をする番だった。
カイコクの大きな胸を包んでいたのは可愛らしいピンクとレースのふんだんに付いたブラジャーだ。
ただそれは、ブラジャーというには明らか布面積が足らなかった。
「…ちなみに下も、揃いだ」
ちらり、とカイコクがズボンを少しだけ下ろす。
見えたのはピンクとレースの紐パンで。
…持ってきたユズにどんな感情を向けたら良いのか分からなかった。
「だからっ、煽るなと……」
「わざとだ、って言ったら?」
カイコクが笑う。
華やかに、艶やかに。
可愛らしく、無邪気に。 
…全く、本当に敵わない。
「…優しくしてやれないぞ」
「何時だってお前さんは優しいさ」
微笑むカイコクは何かを確信しているようだった。
「全く、貴様は……」
「…ふふ。…なぁ、忍霧」
はぁ、と溜息を吐き出すザクロにカイコクが笑み。
ザクロに向かって両腕を…広げた。
「…きて?」
こてん、と首を傾げられたらもう止めるものも何もなくて。
「…鬼ヶ崎…っ!」
「ひゃんっ、ゃ、あ…!」
響く甘い声は脳天に染み渡るようだった。
「おし、ぎりぃ…も、もぅ…ぃや…!」
「優しくしてほしいんだろう?」
「あ、あぁあ……っ!!だって、やぁ…っ!ひゃぁあ…っ!」
「我慢しろ。とことん、甘くしてやるからな…!」
甘いのは苦手って知ってるくせに、とグズグズと泣くまで前戯を施し、ぐったりとした躰を声が嗄れるまで散々貪り尽くして…次の日ほんの少し不機嫌なカイコクにあやまり倒したのは…また別のお話。

純情少年と悪いお姉さん、デプレーションエンド/ザクカイ♀

「お前さんなら優しくしてくれるんだろう?…忍霧」
笑うカイコクからザクロはそっと身を離し、ベッドから降りる。
「…?忍霧?」
「……。…もう、寝ろ」
ザクロの言葉に妖しく笑うカイコクが途端に表情を戻し、不思議そうに首を傾げた。
「…なんで」
「貴様、疲れているんだろう。普段の貴様ならそんな事は言わない。…大体、俺が女性が苦手だというのは貴様も知っている筈だ。優しくも何もあったもんじゃない。必ず、どちらかは傷付くに決まっている。俺は、後悔をさせたくはないんだ。それに、何も冷静な判断が出来ない時に無理に事を推し進めなくても…」
「…もう、いい」
ザクロの言葉を遮る様にカイコクが大きな声を出した。
え、と振り向くザクロの目に映ったのはベッドから降り、扉へと向かおうとする姿で。
「おい、待て!何処へ…」
「帰る」
短いそれに、思わず動きが止まる。
近づくことも赦さない、拒絶のそれだった。
「帰るって…」
「服は着てる。部屋だって隣だ。…お前さんが言う、危ないことは無い筈だぜ、忍霧」
「…」
「迷惑、かけたな」
戸惑うザクロに、カイコクは静かに微笑み、おやすみとだけ告げる。
バタン、と扉が閉まる前に聞こえた小さな声は、何を言ってるのかさえ判別が付かなかった。
「…くそっ」
思わず悪態を付いてベッドに腰を掛ける。
カイコクは、何を望んでいたのだろう…本当にこのまま抱いてほしかったのだろうか。
他に意味があったのではないのか。
女体化して、心底怖かったのはカイコク本人に違いない。
戻れるか分からない恐怖と、周りからの僅かな視線の差。
今いる仲間たちは特異な目では見ていないだろうが、実況を見ている外部がどうかなんて、ザクロにだって分からないのだ。
だが、パカメラの量と廻る腕のカウンターのスピードは意図がどうであれ圧倒的に増えた。
それを恐怖と言わずに何だというのか。
「…取り敢えず、謝らないと」
小さく息を吐き出し、ザクロは立ち上がる。
少し考えれば分かるはずなのに。
カイコクにかける言葉はまだ見つかっていないが、謝罪だけはしておきたかった。
自分の部屋を出て、隣へと向かう。
「鬼ヶ崎、すまなかった。俺が無神経…。……ぇ?」
ノックしようとした手が止まった。
ほんの少しだけ開かれた部屋の中は真っ暗闇で、主の不在を伝える。
「…鬼ヶ崎?」
中に入り、一通り見て回るがやはり何処にも居なかった。
その事実を理解し、ザクロは走り出す。
食堂も、露天風呂付近も、食糧庫も見て回った。
だが何処にも居ない。
深夜にはタワーも閉まってしまうから恐らく外にはいないだろう、そも、そんな短時間で外には行けないはずだった。
「…何処にいるんだ、鬼ヶ崎!」
ガン、と壁を殴る。
痛みが、これを夢ではないと伝えた。
51階以上に拉致られたか、はたまた白の部屋か。
どちらにせよゾッとする。
…と。
『…ぃやだっ、やめろ!!』
『…無駄ですよ、鬼ヶ崎様。ワタクシがじっくりと遊んであげましょう』
「…!この、声……」
よく聞いた、胡散臭い声にハッと顔をあげた。
第四研究室、と書かれた小さな扉を鍵ごと抉じ開ける。
「…ぅぐ…あ……!」
「鬼ヶ崎!!!」
「…おや、お早い御到着でしたね、忍霧様」
目に飛び込んできた光景は、無機質な台に縛り付けられ、苦しそうなカイコクとこちらを振り向くパカだ。
「良かったですね、鬼ヶ崎様。王子様の御到着の様です」
「…貴様…っ!」
さらりと揺れる黒髪に触れるパカに怒りが沸き立って仕方がない。
ナイフの刃を出そうとした…刹那。
「…悪い子の忍霧様には一つ助言を差し上げましょう」
パカがこちらを向く。
臨戦態勢のザクロにパカが近づいてきて囁いた。
「心を壊してしまえば、躰は何時だって手に入るのですよ」
…と。
「ふざけるなっ!!!!」
それを聞き、頭に血が上って攻撃をしかけるザクロを止めたのは…他でもない。
「…おし、ぎり?」
…ゆわりと夢から醒めたカイコクの声だった。
「…鬼ヶ崎」
慌ててそちらへと向かう。
その隙に何処かへ行ったようだったが…もう、用はなかった。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「…ああ。…助けに…来てくれたんだな」
心配するザクロにへにゃ、とカイコクが笑う。
良かった、と笑うから、良くない!と思わず大声を上げた。
「おし、ぎり?」
「…心配、したんだぞ」
「…うん」
「…貴様に、何かあったら…」
「…悪かった」
目を見開くカイコクを抱きしめて息を吐き出す。
震えが、止まらなかった。
涙で前が歪む。
良かった、と心底思った。
「…忍霧、痛い」
「…へっ?…あぁっ、すまない!!」
その声に慌てて体を離す。
どうやら強く抱きしめ過ぎていたらしかった。
「…帰ろう、鬼ヶ崎」
「…あぁ」
縛られていたそれを解き、立ち上がらせる。
多少ふらついたもののしっかりとした足取りで、恐怖で腰が抜けた、なんてことはどうやらなさそうだった。
「…お前さんが、そう言ってくれたのは3度目だな」
「…そうだったか」
「…」
ふふ、とカイコクが笑う。
その表情は何処か嬉しそうで。
「…先程は、すまなかった」
「何の事だったかな」
ザクロの謝罪もあっさりとはぐらかす。
いつもの、鬼ヶ崎カイコクだった。
それに少しホッとする。
「じゃあ、また明日な」
部屋の前まで送り届け、軽く微笑むカイコクに、ああ、と頷きかけ…ふと入れ墨の辺りに紅い跡を見つけた。
「…貴様、それ」
「…ああ。さっきやられたんだ」
指摘した途端にカイコクがそれを手で庇う。
押さえつけられたかの様な鬱血痕。
それはよく見れば白い手首や柔らかな太腿にも付けられていて。
…ザクロの中で何かがぶつりと…キレた。
「…いっ…何すんでェ、忍霧!!…っ?!」
カイコクを無理矢理部屋に押し込め、ロックをかける。
痛みに呻き、睨むカイコクに…深く口付けた。
「んぐっ、はっ、ふ…んーっ!!!」
意外と快楽には弱いカイコクの、一番弱いところを擽ってやれば一発で堕ちる。
女体化してもそこは変わらないようだ。
「…は、ぅ……おし、ぎりぃ…?」
「貴様、言ったよな?俺になら構わない、と。…それは、何をされても構わない、ということなんだろう?」
何をされているのか、と見上げるカイコクをずるりと引っ張り、布団の上に突き飛ばす。
「…いっ、ぐ……!」
痛みに表情を歪ませるカイコクに馬乗りになった。
「なあ。鬼ヶ崎?」
「…。…言った…が、それは、お前さんが……」
「俺が、なんだ?何も出来ない意気地なしとでも?」
言い淀むカイコクの、入れ墨に手を伸ばした。
付いた跡をなぞればびくりと躰が跳ねる。
「…ぃ、やだ」
「今更逃げるのか」
「ちが…!」
ザクロの言葉にカイコクは勢い良く顔を上げた。
「パカには触れさせておいて、俺からは逃げるんだな、鬼ヶ崎」
「違うって言ってんだろう!いい加減頭を冷やせ、忍霧!」
カイコクが大声を出す。
それに思わず笑ってしまった。
「俺は極めて冷静だが」
「…それのどこが冷静だって…!」
声を荒げながらカイコクはザクロから距離を取ろうとする。
カリ、と細い指が畳を引っ掻いた。
藁が毛羽立ち、傷がついたことを知らせる。
「逃げるな」
それを許すはずもなく、ザクロは無理やり引っ張ってもとの位置に戻した。
ずい、と、顔を近づける。
「優しくはしない。俺を煽ったこと、後悔させてやる」
「…忍霧」
怯えたように己を見るカイコクにマスクを取り、笑みを見せた。
…絶対に、赦さない。
綺麗な躰を誰かに触れさせた事も、ザクロが見たことない表情をよりによってパカに見せた事も。
「逃げるなら縛っておかなくては、な」
「っ!何しやがる!やめろ、よせ!!!」
青ざめるカイコクの両手を無理矢理取り上げ、紅い麻縄で縛り上げる。
ダンッと自分のナイフを杭代わりにした。
「忍霧……ひっ、ぅぐ…いだ、ぃ…っ!」
入れ墨に重なるよう残った鬱血痕を上書きするよう力を込める。
「ふぁあっ?!!ひぃぐ…ゃ…やめ…!」
嬌声を上げ、いやいやと首を振るカイコクの首を舐め上げた。
途端にひっと短い悲鳴を上げカイコクが逃げ腰になる。
それをさせてなるものかとすぐに引き寄せた。
逃さないと、決めたのだから。
「…忍霧ぃ、もうやめ…ふぁあっ?!」
可愛らしい声を上げるカイコクが懇願しか言わなくなったのはいつからだったろうか。
「誰の手にも触れさせない。誰の目にも触れさせない。…鬼ヶ崎は俺のものだ」
ザクロの目が淡く光った。
その瞳に映るカイコクは…どんな顔をしていたのか。
「愛している、鬼ヶ崎」
微笑むザクロが…知る由はなかった。
赤い月の夜はまだ…明けない。

純情少年と悪いお姉さん、後日談/ザクカイ♀

部屋に着いている簡易シャワー室から水を出す音がする。
それを聞きながらザクロは本日何度目かの深い溜め息を吐き出した。
自室のシャワー室から水音が聞こえるのにザクロは部屋にいる。
つまり、誰かが使っているのだった。
果たしてそれは誰かといえば。
コンコン、と戸を叩く音がしてザクロは緩慢にそれを開けた。
「やあ、ザッくん。遅い時間にすまないね。…カイさんはいるかい?」
「…奴ならシャワー室だ」
にこりと笑うのは風呂上がりだろうか、髪型の違うユズで、ザクロはふいと視線を逸らす。
そう、今ザクロの部屋のシャワー室にいるのはカイコクであった。
しかもなんやかんやあって女体化したカイコクである。
詳しく言い出すとキリがないし、頭痛がするのであまり思い出したくはなかった。
そのせいで今日散々だったのだから。
何はともあれ、下着が一人では外せないと部屋に来たカイコクを下着一枚で帰せないととりあえずシャワー室に突っ込んだのだった。
「んふー、やっぱりここだったかー。自室に居なかったからね、もしかしたらと思ったんだが…」
にまにまと楽しそうにユズが笑う。
…こういう表情をする彼女は大体悪い事しか考えていない。
「とりあえずー……明日はお赤飯かにゃ?」
「いらんっ!!!巨大なお世話だ!!」
ザクロの渾身たるそれにユズがにゃははー!と笑った。
「…で?路々森は何をしに来たんだ。俺を揶揄いに来たわけではないんだろう?」
「半分はそうさ。もう半分は…これだ」
小さく溜息を吐き出したザクロにユズが何か布の入った袋を差し出す。
「なんだ、これは」
「パンツだよ、カイさんの」
「パッんつぅぁ?!」
余りにもあっさり言うものだから普通に返しそうになり、思いっきり動揺してしまった。
「ザッくん、面白い声が出たな」
「やめろ!」
けたけたと笑うユズに顔を赤らめながら返す。
最初に出会ってしまったものだから何時までもこうして揶揄われてしまうのだ。
「あはは、いや、うん、すまない。まあ着け方の紙も中に入れてあるから、渡すだけで良いよ」
「…今回は着けてやらないのか」
笑うユズにそう聞く。
最初の時は女子が寄ってたかってカイコクを着替えさせていたのだ。
…まあだから一人では脱げない仕様になってしまったのだろうが。
「まさか。…君達がいちゃいちゃしている中に入っていくような無粋な真似はしないさ」
「路々森っ!」
茶化すようなそれに思わず大きな声を出す。
「真面目だにゃー、ザッくんは!じゃあまた明日」
笑い、ひらひらと手を振るユズを見送り、ザクロは扉を閉めた。
「忍霧?」
と、シャワー室の扉が開く。
「鬼ヶ崎……貴様、それ…っ!」
振り返ったザクロが見たのは…余りにも刺激が強いそれだった。
漆黒の髪からはポタポタと雫が落ち、VネックのTシャツからはたわわに揺れる胸の谷間が見える。
下はまだ履いていないのか白い足がスラリと伸びていた。
「ん?…あぁ。忍霧、見てくんな。ちっと小さい気もするが…彼シャツだ」
へにゃりと笑い、嬉しそうに言うカイコク。
…こんなにも幼かっただろうか。
「とりあえず髪を乾かして、下着を着けてこい貴様は!」
ユズから貰った袋をカイコクに押し付け、ザクロはベッドに向かう。
「およ、路々さん来てたのかい」
「それを届けに来たんだ」
ザクロのそれにふぅん、と言い、ガサゴソと袋を漁り始めた。
「…こりゃあ…お前さんの趣味かぃ?忍霧」
「…何がだ」
「フリフリ可愛いピンクの」
「違うっっっ!!!!」
真っ赤になって投げた枕はカイコクに当たることなく落ちる。
楽しそうに笑ったカイコクがまた洗面所へと戻った。
暫く後、タオルでガシガシと髪を髪を拭きながら出てくる。
今度はきちんとズボンを履いているようで、少しホッとした。
「…髪、痛むぞ」
「女子じゃあるめぇし、俺は気にしないんだが」
「今の貴様は女子だろう」
はぁ、と溜息を吐き出してザクロはドライヤーを手に取った。
「…乾かしてやるから来い」
「ほぉう?髪は平気なんだな」
「うるさいっ、いいから座れっ」
「へいへい」
クスクスと笑いながらカイコクがザクロの前に座る。
漆黒の髪がさらりと揺れた。
「忍霧ぃ?」
「…なんだ」
揺れる髪は男の時と大差がない。
…意識をすれば触れないからしていないだけだが。
「もう、いいんじゃねぇか?」
ふるふると揺れる髪は熱を帯びてはいるがまだ乾ききってはいなかった。
「まだだ。風邪を引いても知らない…」
「?忍霧?」
きょとんとして振り仰ぐカイコクにドライヤーを押し付ける。
「後は自分でやれ!俺もシャワーを浴びてくる!」
つっけんどんに言ってから大きな音を立ててシャワー室に入った。
荒っぽく服を脱ぎ捨て、お湯を出す。
…あんな顔、反則だ。
ザクロは、はぁあ、と溜息を掃き出して髪を洗い始めた。
赤らんだ肌はドライヤーの熱であると思うのにどうしてもそうは思えない。
忍霧、と笑う表情もいつもと大差はないはずなのに。
この気持ちは何なのだろう。
「…」
悶々としながらシャワーを浴び、身体を拭いて再び服を身につけて部屋に行くまで普段よりも時間がかかってしまった。
カイコクはといえば待ちくたびれたのか単に疲れたのかすっかり寝落ちていて。
人の気も知らないで、とまた小さく溜息を吐く。
「寝顔は…変わらないんだが…な」
すり、とその頬に指を触れさせた。
起きている時より幼い表情はザクロが好きなそれである。
「…鬼ヶ崎」
するりと触れた指を滑らせ、小さくその名を呼んだ…刹那。
「…えっち」
触れさせた指を掴まれ、抱き寄せられる。
見ればいたずらっぽく笑うカイコクがいた。
「きっ、貴様!起きて…?!」
「うとうとしてただけでェ」
楽しそうなカイコクの胸が当たる。
思考が全く回らなくなった。
「だからっ、煽るなと言ってるだろう!!先程も言ったが次はないと…!!」
「…構わねぇよ」
「…ぇ」
パニックが止まらないザクロにカイコクが微笑む。
「お前さんになら、構わねぇって…言ってるんだが」
「…貴様っ…!」
鈍い、と笑われて理性が崩壊しない男がいるのだろうか。
「知らない事は調べたくなる質なんでェ」
「…俺は実験道具か」
「…まさか」
優しく笑むカイコクは全てを包み込むようで。
「いくらの俺でもそんなリスク高いこたぁしない。自分の身は一等可愛いからな」
「…」
「お前さんなら優しくしてくれるんだろう?…忍霧」
笑うカイコクをザクロは…

肩を掴み勢い良く仰向けにする。→ハッピーエンド
そっと身を離し、ベッドから降りる。→デプレーションエンド

純情少年と悪いお姉さん、後日談/ザクカイ♀

「忍霧、とって」
ふにゃりとカイコクが笑う。
ザクロの目の前には普段よりほっそりとした身体に烏羽色の下着を身に着けたカイコクが…いた。
なぜこんな事になったのだろう。
全く、頭が痛い。
「?忍霧?」
中々アクションを起こさないザクロを不思議に思ったのかカイコクが振り仰いだ。
大きな胸がふるりと揺れる。
「~~っ!!!」
かあっと顔が真っ赤になるのを止められない。
急いで洗面所へ行き、バスタオルを取って戻った。
「巻いていろ!!」
「っと」
投げ付けたそれはカイコクの腕にすぽりと収まった。
「…何で」
「かっ、風邪をひいたらどうする……」
顔を赤らめ、目線を外しながら言う。
そんなのは方便だ。
風邪をひかないように、なら室温を上げれば良い。
それをせずにタオルを寄越したのは、単純に目のやり場に困るからだ。
「…むっつりスケベ」
くす、とカイコクがいたずらっぽく笑う。
「…なっ、ちがっ、貴様…っ!」
「はぁい、はい」
しどろもどろになるザクロに、楽しそうにカイコクが言った。
そのまま素直にタオルを身体に巻き付ける。
「これで良いかい?」
「あ、あぁ」
「なら、さっさとやってくんな」
「分かっ、ている…!」
こくりと唾を飲み込んでザクロは前を見た。
幾分かほっそりとはしているが、これだけでは男子か女子かは分からない。
「…い、いざ…っ!」
気合を入れ、手を伸ばした。
「…ぁ…っ」
下着に触れるか触れないかの瀬戸際で、目の前のカイコクが小さく声を出す。
「なっぅ、ぉ変な声を出すな!」
「…ふふっ、だって、くすぐった…んくっ」
くすくす笑い、身体を揺らすカイコク…目の毒だ。
タオルに隠れてはいるがふるふると揺れる胸、触れそうになる度びくりと跳ねる白い腰、甘い声…その何もかも。
「…な、なぁっ、おし…ぎり…っ?」
「な、何だ!!!」
「…はぁっ…ふふ…誰か他の人、頼もうか?」
「…ぇ?」
涙目で振り仰ぐカイコクの言葉に思わず固まる。
…今、何と?
「さっきはいなかったが…路々さんに頼んでも良いし、女子がダメなら入出でも…」
「だっ、駄目だ!!!」
カイコクのそれを食い気味に拒否した。
「けど、お前さん、これ以上無理だろう?」
「やる、から…ここにいろ」
首を傾げるカイコクに何とかそう返す。
別に二人が悪い訳ではない、が、カイコクは裸同然だ。
部屋を出ればパカメラがいるかもしれない。
いや、パカメラなら兎も角パカ本人がいたらどうするのか。
カイコクは何故か自分の身に関しては少々うっかりしてることがある。
「そうかい?ならさっさとしてくんな」
「分かっている…っ!」
黒髪を揺らし、再び前を向くカイコク。
すぅ、と息を吸い込んで…勢い良く手を伸ばした。
「んっ、ぅ」
鼻にかかった声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
大体、裸など妹であるサクラで慣れている、はず…だ。
…まあ慣れていればこんなに苦労することもないのだけれど。
「と、取れ、た!!!」
なるべく薄目で試行錯誤していたが何とか取ることが出来た。
外す事が出来れば呆気ないもので。
「37分40秒。まあお前さんにしちゃ上出来だな」
「数えていたのか」
「まあまあ。…えっくしゅっ」
ムッとするザクロに笑ったカイコクが小さなくしゃみをした。
可愛らしいとも言えようそれは少し物珍しい。
「寒いか」
「…そりゃ。…邪魔したな、忍霧。ありがとさん」
柔らかく微笑むカイコクにザクロは目を見開いた。
「待て、貴様何処へ行く」
「何処って…自分の部屋に帰るんでェ」
「駄目だ、ここにいろ!!!」
ガシッとカイコクの肩を掴む。
途端にびくっと震えた。
「あぁっ、すまないっ!」
「それはいいんだが…何で自室に帰っちゃいけないんだ?」
理由を聞かせてくんな、とカイコクが不思議そうに首を傾げる。
「…。…貴様は、その格好で帰るのか」
「服がねぇからな」
「それが危ないと言っている。…シャワーなら貸してやるから」
「寝間着もないんだが」
「俺の服があるだろう!」
ザクロのそれにカイコクは目を見開き、小さく吹き出した。
「ふふっ…ははっ……!」
「…な、なんだ」
「…お前さん、意外と大胆なんだな」
「…はぁ?」
楽しそうなカイコクにザクロは混乱しきりである。
「…忍霧で、良かった」
「…何がだ」
「何でもねぇよ」
へにゃ、と幼く笑うカイコクに今度はザクロが首を傾げる番で。
まあカイコクが楽しそうなら良いか、とそれだけ思った。

シャワーの音を聞きながら悶々と数十分過ごした後、出てきたカイコクが髪からポタポタと雫を滴らせながら「忍霧、見てくんな。ちっと小さい気もするが…彼シャツだ」と嬉しそうに言う未来を…ザクロはまだ知らない。

純情少年と悪いお姉さん、前日譚/ザクカイ♀

忍霧ザクロの日課はジョギングである。
朝イチの運動は身体にも心地良く、リズムを整えられるのでザクロは良いと思うのだが、なかなか同意は得られなかった。
特にこの部屋の主、カイコクはザクロとは違って朝が苦手なようで、起こしに来るなら10時、と言う始末である。
全く嘆かわしい。
小さく溜息を吐き出し、部屋の戸をノックした。
カイコクを朝起こすのと夜の点呼もこれまたザクロの日課になりつつある。
「おい、鬼ヶ崎。起きているか?」
声をかけ、入るぞ、とノブを回した。
消灯時間以外は行き来が自由な為、あまりプライバシーもない。
そもそもパカメラでリアル実況されているのだから今更だろうが。
「鬼ヶ崎?」
返事がない事に訝しみ、辺りを見渡した。
ガランとした部屋はザクロをゾッとさせる。
…彼が白の部屋に連れ去られた時を思い出すから。
探せど探せどどこにも居ない、という恐怖はザクロの心に深く傷を残している。
「鬼ヶ崎っ!!」
「…お前さん、朝から元気だねェ……」
ザクロの気持ちなぞ露知らず、カイコクが顔を見せた。
「貴様っ、呼ばれたら返事をしないか!心配した…」
だろう、という言葉は宙にとけて霧散する。
きょとりとするカイコクの服がはだけ、肌が顕になった。
ふるり、と胸が…女性の胸が揺れる。
一時の間を置いて、【ザクロ】の悲鳴が部屋に響きわたった。

「…いや、なんでだよ」
冷静に突っ込んだのはアンヤである。
「おかしくねぇ?!なんで鬼ヤローじゃなくてテメーが悲鳴上げてんだ、どっちが女子か分かりゃしねぇ!」
「アンヤくん、忍霧さんは女性が苦手だから仕方ないですよ」
それにニコニコとフォローを入れるのはアカツキだ。
…それがフォローになっているかは別として。
「ふむ、見たところ命に別状はなさそうだ。何かしらの薬が効いてるなら数日で元に戻るだろう」
「よ、良かったです…」
ユズの見立てに柔らかな笑みを見せるのはヒミコだった。
他も安堵の息を漏らす。
「ったく、ビビらせんなよなぁ」
「何ともなくて良かったですね、鬼ヶ崎さん」
「心配かけたな、駆堂、嬢ちゃん」
アンヤとカリンに苦笑して見せるカイコクは焦った様子が何もなかった。
動揺などしないのだろうかとザクロは思う。
「カイさんは何時もの服も和装だし、そのままで問題は無いと思うぜ。後は…下着かにゃ?」
見解を述べていたユズが悪い顔で笑った。
「ちょっと、ユズ先輩?男子もいるんですよ?」
「にゃははー、細かい事気にするなよカリリンー!」
「ユズ先輩が気にしなさすぎるだけです!」
もう!と怒るカリンとへらへら笑うユズはよく見かける光景である。
「あ、あの、私のお貸ししましょうか?」
「…ありがとな、伊奈葉ちゃん。だが……」
おずおずと進言するヒミコにカイコクは困ったように笑った。
「ひーみんのは流石に入らないと思うぜ?なんなら、ボクのでも難しそうだ」
ユズが笑い、くしゃりとヒミコの髪を撫でる。
「カイコクさん、体は大丈夫ですか?」
「……肩が、重ェ」
アカツキのそれにカイコクが眉を顰めながら言った。
先程ユズが言うに大きさはEかFらしい。
「…無駄にでけぇもんな」
「……駆堂、後でちょっと部屋に来な」
「あ?んでだよ」
「アンヤくん!カイコクさんにごめんなさいして下さい!色んな意味で!今すぐ!」
アンヤのそれにアカツキが慌てたように言う。
多方面からの重圧はどうやらアンヤにだけ伝わってないようだった。
…と。
「なっ、なななな…!」
聞き覚えのある声が耳につく。
振り返る全員の目に映ったのはアルパカの被り物をした男の姿だった。
「貴方様は鬼ヶ崎様でいらっしゃいますか?いらっしゃいますね?!豊満なボディにロリフェイス!あぁ、何故斯様な姿に…!」
「五月蝿えし近えんだが…」
パカのそれにカイコクは煩わしそうに眉を顰める。
「…ほう、アルパカくんも知らないのか」
意外そうなユズのそれに、勿論ですとも!とパカが胸を張った。
大変ウザったらしい。
「私が知っていましたら真っ先に保護、白の部屋にて身体検査を……」
カイコクの手を握りながら言われるそれが最後まで紡がれる事はなかった。
蹴り飛ばされたパカに向けられた武器は二種類。
「…野蛮ですねぇ。駆堂様、忍霧様」
「うるせぇ、テメーが妙な事言うからだろーが、この家畜野郎」
「鬼ヶ崎に手出しはさせない」
「フェー」
殺気立つ二人を制したのはユズだった。
「まあまあアルパカ君。あまり過激な発言は止してくれ。…こっちにはひーみんもいるんだぜ?」
「…っ、そうでした、私には伊奈葉様という女神が…!」
パカのそれにヒミコが冷たい視線を返す。
中々表情豊かな彼女のこの反応はレアだった。
強くなったな、とザクロは思う。
「…さて、鬼ヶ崎様。何にせよ少し検査が必要かと存じますが」
「嫌でェ」
パカのそれにカイコクは短い返事を寄こした。
余りにもバッサリ。
いっそ清々しささえ感じてしまうほどだ。
「鬼ヶ崎様」
「…しつこい」
不快な表情を浮かべていたカイコクのそれが痛みに歪む。
見れば掴まれた腕にぐっと力を入れられている様で。
「…貴様っ…!」
思わずナイフの刃を出そうとした…瞬間である。
間抜けな断末魔を残し、パカが倒れた。
「…嫌がってるのに無理矢理、だめ」
「…逢河」
いつものローテンションでカイコクを後ろから抱きしめ、淡々と言うのはマキノである。
「おー、マキマキ!流石だな!」
「逢河さん、王子様みたい!」
「格好良いです!」
女子からの賞賛が飛んだ。
男子は全員ぽかんである。
「…カイコッちゃん、大丈夫?」
「…あ、あぁ。大丈夫…」
振り仰ぎ、ふわりとカイコクが笑った。
その途端ザクロは思い出す。
マキノは目を5秒見ると相手を魅了してしまう…事実を。
「っ、忍霧…?」
「まっ、まままマキノくん!すまない、いくらマキノくんでも鬼ヶ崎はやれないんだ!」
「?!」
無我夢中でマキノからカイコクを引き剥がし、そう叫ぶ。
「…知ってる」
普段表情を変えないマキノが小さく笑みを見せ、とん、とカイコクの背を押した。
支えを失ったカイコクがザクロの胸に飛び込んで来る。
ふにゅりと当たる…胸の感触。
「んだよ、これぇ」
「まあまあ、アンヤくん」
「ボクらも行こうか」
「そうですね」
「遅くなりましたけど朝ごはんにしましょう、逢河さん」
「…行く」
ぞろぞろと皆が出て行った。
待ってくれと叫びたいのに言葉が出ない。
「おっ、お、鬼ヶ崎…?」
代わりに自分の腕の中で動かないカイコクに声をかけた。
「どう、どうした、んだ…?」
「…んでも、ない」
もぞりとカイコクが動く。
視線があまり変わらないからほとほと困ってしまった。
カイコクの身長はどこに行ってしまったのだろう。
そも、カイコクはこんなに気が弱かっただろうか。
「…忍霧」
「なん、なっ、なんだ?!」
慰めた方が良いのかと彷徨わせていた手がびくんと跳ねた。
「…ありがとな」
「…ぇ」
ふにゃりと笑ったカイコクが風の様に己の腕をすり抜けて行く。
「待ってくんなァ!俺も行く!」
先に出た皆を追い掛けて行ったカイコクを見つめ…暫く後ずるずるとへたり込んだ。
…あんなの、反則だ。
囁かれた言葉はザクロを惑わすのに充分で。
今後の苦労が重くのし掛かる気配を…大いに感じたのだった。

『ちょいと怖かったんだ。格好良かったぜ、忍霧』

純情少年と悪いお姉さん/ザクカイ♀

なんやかんやあって、鬼ヶ崎カイコクが女体化した。
ユズの薬を誤って飲んだだとか、パカが企んだ質の悪いゲームの一部だとか色々言われていたが真相は定かではない。
大体、過程はどちらでも良いのだ…この場合。
「鬼ヶ崎さん、めちゃくちゃ可愛いですねぇ!肌もすべすべだし、羨ましいわ」
「おっぱいもカリリンよりカイさんのがおっきそうだにゃー?触っても良いかい?」
「あぁあ、セクハラは駄目ですよぅ」
「構わねぇよ、路々さん。伊奈葉ちゃんもどうだ?」
最初こそ全員慌てたが命に別状はないと分かれば手のひらを返したように女子はきゃっきゃと楽しそうである。
…少し羨ましい。
男子は…主にアンヤとザクロだが…どう見れば良いのか分からなくて宙を見つめていた。
「カイコクさん!俺も触りたいで」
はい!と元気に手を挙げるアカツキが言い終わる前に、「駄目だ!!」と二人の声が被る。
「えぇ…何ゆえ…」
「いや、駄目だろ!鬼ヤローでもそれは駄目だろ!!」
「いくら鬼ヶ崎とはいえ、今は女だ!みだりに、そんな、破廉恥な…!」
「…俺ぁ、構わねぇけど…?」
アンヤとザクロが止める中、きょとん、とするカイコク。
「カイさんはもうちょっと自己管理をしっかりした方が良いと思うぜ?」
「…?」
ユズがにっこりと笑い、カリンとヒミコがぶんぶんと首を縦に振った。
思わずザクロははぁあと溜息を吐き出す。
全く、人の気も知らないで!

部屋に戻りベッドに倒れ込んでから、ザクロは本日何度目かの溜息を吐き出す。
今日は本当に疲れた。
何せカイコクは全くいつも通りだったのだから。
服もいつも通り着崩すし、ゲームではひょいひょい戦闘しようとする。
それの何が悪いか。
カイコクの胸が…大きいのである。
戦闘の度にたゆんと揺れるそれは目の毒だ。
パカメラが盗撮しようとするので己の上着を投げつけ、「貴様は暫く待機だ!」と怒鳴りつけたのは一度ではない。
もう少し自身を大事にしてほしいものだが…と。
コンコン、という扉を叩く音に、ゆっくりと身体を起こす。
「…は、ぃ……」
「忍霧」
扉を開けたザクロを待っていたのは…ぱぁ、と表情を輝かす…パカメラを抱えた下着姿のカイコクだった。
「なっ、なっ、な…?!」
「ちょいと邪魔するぜ」
顔を赤くするザクロにカイコクはぽいとパカメラを投げ気にしない風に部屋に入ってくる。
「服を着ろ、貴様ぁあ!」
「風呂に入る途中だったんだ、仕方ないだろ?」
ザクロの叫びにカイコクはきょとん顔だ。
「脱ごうとしたらパカメラが来るし、大体路々さんに貰った下着も一人じゃ脱げないしよ。中々このホックが外れなくてなぁ…」
飄々と言うカイコクはふと止まり…振り仰いでにこりと笑う。
「忍霧、とって」
花が咲くように微笑むカイコクはそれはそれは綺麗で可愛くて。
「きっ、貴様…!」
だからこそ悔しいのだ。
…カイコクが自分を揶揄ってるのが分かるから。
自分が女性が苦手な事を…知っているから。
「取れねぇから取ってってお願いしてるだけだぜ?…お、し、ぎ、り」
クス、と笑うカイコクに…自分の理性がぶつんと切れる音が…聞こえた。
「…いっ…何しやがる、忍霧…え…」
表情を歪めるカイコクが、やっべ、と言う顔をするがもう遅い。
ザクロとて男なのだ。
「あの、忍霧?やり過ぎた…悪かったから…な…?」
「…鬼ヶ崎は…男だよな…」
「いやまあそうだが…今は女だぜ…?良いのかぃ…?」
「煽りに煽りまくったのは誰だ?」
「だから、悪かったって…」
普段とは違うザクロにカイコクは多少なりとも怯えているようだった。
…聞けば恐らく否定するだろうが。
「…。…次はないからな」
はぁ、と溜息を吐き出し、ザクロはベッドから降りてくるりと後ろを向いた。
「分かった」
「貴様は…自分の事を分かっていなさ過ぎる」
「だから、悪かったって言ってんだろ…」
少し拗ねたようなカイコクにザクロはまた小さく溜息を吐き出す。
「悪かったと言うなら早く自分の部屋に帰るんだな」
そう言葉をかけ暫く後ろを向いていたが…一向に出ていく気配が無く、不思議に思い振り向いた。
「…どうした」
「お前さんの部屋に来た理由は言ったはずなんだがねぇ…」
恥ずかしそうに…わざとかもしれないが…カイコクが言う。
カイコクがザクロの部屋に来た理由。
「貴様っ、あんな、ことがあった後で良く…!」
「…これでも信用してるんでェ、…なぁ、忍霧?」
へにゃ、とカイコクが普段より幼く笑うから。
ザクロは頭が痛くなる。
…嗚呼全く、これだから!!
「忍霧、とって…?」