こんにちは/昼

本丸で初めて光忠を見たのはいつだったか。
「えっと、長谷部くん?」
ふわりと笑い、彼は「こんにちは」と言った。
「え?」
「え?」
それに疑問を返せば彼もきょとりと目をしばたかせる。
「いや、赤の他人でもあるまいに、と」
「でも昼の挨拶はこんにちは、だよ?」

おはよう/朝(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠

初めて見たのは主が刀を収集している倉庫の中だった。
付喪神として、初めて顕著した・・・長船の一振り。
「おはよう、光忠。長船の子よ」
「・・・?」
藤色の目をぼんやりとこちらに向けて不思議そうに首を傾げる。
細い腕を持ち上げ、己の喉元に少年の手を当てた。
「お、は、よ、う」
「・・・ぉ・・・?」
「お、は、よ、う」
「ぉ、あ、よ・・・?」
掠れた声で、同じように紡ぐ少年。
これが、彼が顕著し付喪神としてこの地に下りてから発した初めての言葉になった。

それから毎日通いつめ、何度もそれを教え込む。
「ぉ、はよ・・・?」
「ああ、おはよう、光忠」
小さな刀が覚えたての言葉で言ってくるのが可愛らしかった。
近頃は発音がうまくなったように思う。
後少しだろう。
「お、は、よ、う」
己の喉に光忠の手を当ててやり、今日も教え込む。
「お・・・は、お、ぅ」
「よ、の口はもっと小さく、こう、だ」
「よ・・・?」
「上手いぞ、光忠」
必死に模倣する少年の髪を撫でた。


神として生まれ落ちた光忠に初めての「おはよう」を。

かごめていつか

かごめ、かごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる









街で聞こえた子ども達の歌声。
あの時と、同じ。
可愛らしい声に彼がふっと笑顔になったのは何時の事だったか。











扉を開けた。
「ただいま」
暗い部屋に据え置かれた真っ白いベットの上に居る彼に向かって声をかける。
ふわりと黒い髪が揺れた。
胡乱気にこちらへ向けられた眸に向かって笑いかける。
ジャラリと鎖の擦れる音が部屋に響いた。
「今日は街で懐かしい歌を聴いたよ」
その懐かしい歌はもう彼の耳に届くことはない。
もう二度と。








健康的だった肌は不自然に白く、あの意志の強かった眸はどろりと濁っているけれど。
もう怯える事を通り越し抵抗する気力すらない、完全に堕ちた彼だけれど。

それでも。








ああ、今日も此処にいる
ずっと、ずっと













神よ、神よ









この閉鎖された空間の中から







彼は何時になったら此処から出て行ける?



















(それは在り得ないと己が一番分かっている






     
だって『それ』をしたのは己自身じゃないか)

雨の日/紫陽花(ねんへし燭SSS・ワンドロお題)

ざあざあと、雨が降る。
「長谷部さん」
「ん、ああ、すまない」
大和守安定が長谷部に毛布を渡した。
それを受けとる長谷部の膝には寝ている光忠がいる。
光忠の身体に毛布をかけ、ふと窓の外を見つめた。
ねんへしとねんみつが仲良く走り回り、加州清光が「廊下は走んないの!」と声を荒げている。
雨の日は出陣も何もないからつまらないのだろうと思った。
「そういえば」
「あ?」
安定が思い出したように話しかけてくる。
降りあおぐと首をかしげ、「ねんのことで」と言った。
「仲、悪かったんですよね?」
「ああ。最初はな」
「いつからなんです?」
「うん?」
「いつから仲良くなったんですか?」
安定のそれに長谷部は上を向く。

そう、確かあれは。


あの日も雨の日だったかもしれない。
相変わらずねんへしがねんみつを追いかけ、怯えたねんみつが長谷部か光忠に泣きつく、ということを繰り返していたある日。
あまりに鬱陶しいから、少し話し合え!と怒鳴ったのである。
「みつのことばはわからん」
ぶすくれるねんへしに、あの日はまだ調子がよかった光忠が微笑んで「ねんへし君は花言葉って知ってる?」と言った。
「はな、ことば?」
「そう。花にもひとつひとつ意味があってね…」
くすくす笑って二人に花言葉を教えた光忠は、「相手に伝えたいことを花言葉に込めたらどうかな?」と提案する。
二人がぱたぱたと出ていき、数分後。
「お?」
「へえ」
長谷部が驚いたように目を見開き光忠が意外そうに笑う。
二人が持ってきたのは紫陽花だった。
紫陽花。
花言葉は。

「…あなたはうつくしいがれいたんだ」
ねんへしが言う。

寂しそうに俯くねんへしにねんみつがぎゅっと抱きついた。
「みつ?!」
驚くねんへしにねんみつは首を振る。


紫陽花。
ねんみつが込めた思いは。

(彼はずっと待っていた)

「辛抱強い、恋」

病/無自覚(ねんへし燭SSS・ワンドロお題)

それはそう、少し前に遡る。


彼らの初めましてよりほんの少し後の話。


ねんどろいどのへし切長谷部は悩んでいた。
自分が初めてこの世に生を受けてから数日、ある人物をみると心臓の動機が止まらない。
顔が赤くなるのを隠せないし身体中が熱くなるのだ。
これは何かの欠陥ではないだろうか。
「…ねんへしくん?」
「…!?」
ぐるぐると頭を悩ませていたその時、ふと声をかけられ、大仰に振り向いた。
きょとんとした表情で立っていたのは燭台切光忠である。
花が綻ぶように笑い、どうしたのかと尋ねてきた。
「悩み事かな」
「…わかるのか」
「分かるよ。だって悩んでる格好が長谷部くんそっくりなんだもの」
聞けばくすくす笑って答えられ、思わず顔をしかめる。
彼が言う件の「長谷部」はへし切長谷部、つまりねんどろいどではない…本来の頭身の、己の元となる刀だ。
「…なあ、みつただ。おれはあるしょうじょうになやまされているんだが」
「?うん」
疑問符を浮かべながら光忠が頷く。
腰掛け、ふわりと笑みを浮かべる彼に、悩みつつも言葉を選んだ。
「からだがあつくなるんだ」
「まあもうすぐ夏だしねぇ」
「かおがあかくなるのをとめられん」
「日焼けかな?生理現象だし」
「しんぞうのこどうがうるさい」
「熱中症かな…」
「めのまえをとおるだけでつかまえてかみをひっぱりたくなるし、だれかとはなしをしているのをみるとしんぞうがむかむかしてすぐにかけよってほおをつねりたくなるんだ」
「…んん?」
「わらっているすがたをみるとしんぞうがあつくなるし、おびえているすがたをみるとどうきがとまらなくなってもっとみたいとおもう」
「ねぇ待ってそれ」
慌てたように光忠が制止する。
なんだろうかと言葉を紡ぐのを止めた。
「…ねんへしくん?その症状が出るのってさ、もしかして誰か特定の人物のことかな」
「ああ」
「…それってさ」
「?みつのことだが」
「…やっぱり」
首をかしげながら言えば、そんなところまで長谷部くんそっくり、と光忠がため息をはく。
みつ、ねんどろいどの燭台切光忠。
彼に会ってからこの症状が治まらない。
「ある意味、病気なのかな、これも」
「?なんのやまいだ?」
ねんどろいどの長谷部の問いに光忠は答えない。




無自覚の恋の病
(恐らくそれは一生治ることのない病気)

こっちを向いて(ねんへし燭SSS・ワンドロお題)

「みつ!」
ぱたぱたと俺の前をねんが走る。
ふと前を見ればねん光が焦った様子で走っていくのが見えた。
…何をやっているのだろう。
初めてねんがねん光に出会ってから数日。
こうして良くねんはねん光追いかけている。
追いかけられれば逃げたくなるのは心情だろうに。
可哀想に思い、おれはひょいとねんをつまみ上げた。
「なにをする、でかいの!」
「追いかけるのはやめてやれ。可哀想だろう」
「なぜだ!おれはみつにふりむいてほしいだけで…!」
じたじたと暴れるねんにあのな、と俺はため息を吐き出す。
そうしてある話をしてやった。



ひょいとねん光が俺の部屋を覗きこむ。
きょろきょろと辺りを見回し…俺の側にやって来た。
「…」
「どうした?ねん光」
俺の袖を引っ張るねん光の側に屈み込む。
不思議そうに首を傾げて腕を振り回すそれは可愛らしいものだ。
「ん?ねんか?知らんが」
俺の言葉にねん光がしゅんとした。
寂しいのかと聞けばぶんぶんと首を振る。
それでも少し寂しそうで思わず笑った。
光忠にもあれくらい可愛らしいところがあるといいのだが。
「みつ」
「?!!」
後ろから抱き締められてねん光が驚いたように振り向いた。
「やっとこちらをむいてくれた」
ねんが満足そうに笑う。

雨(へし燭SSS・ワンドロお題)

雨、雨雨、梅雨の季節



その日、本丸では初めて雨が降った。
人の身体を模して見た初めての雨である。
水が空から落ちてきたと喜ぶものもいたが、それが一週間も続けば皆が不平を言い始め、長谷部も口には出さぬこそすれ、出陣できない苛立ちを感じていた。
それでも事務仕事に従事できるのは有り難く、静かな雨の音に耳を傾けながら仕事を片付ける。
ふと、そういえば帳簿が物置にあったなと立ち上がった。
渡り廊下を挟んで向かい、この距離なら傘もいらぬだろう。
ぱしゃりと水溜まりを踏み、長谷部は肩に落ちた水滴を払ってから物置の戸を開けた。
暗がり、懐中電灯でも持ってくるべきだったかと目を凝らしたその時である。
がたん!という激しい音に長谷部は思わず「誰だ!」怒鳴り声を上げた。
誰も入らないはずの物置である、不審者なら引っ張り出してやろうとそちらへ歩を向ける。
「…燭台切?」
「…せべ、く…」
そこにいたのは大きな体躯をできるだけ小さく縮こませ、かたかたと震える光忠であった。
「…そんなところで、何を」
「…格好悪い話なんだけどね、傷が疼くんだよ」
問う長谷部に、弱々しく笑って光忠は言う。
そっと押さえたのは眼帯をしている方の目で、そういえば紫色のそれには傷が付いているのだと語っていたことがあったな、と長谷部はぼんやり思った。
彼が伊達家に行ったのはこんな雨の日だったかもしれない。
長谷部はそれを覚えてはいないけれど。
はあ、とため息を吐き出し、びくりと身体を跳ねさせる光忠の隣に腰を下ろした。
彼をぐいと引き寄せ、頭を撫でる。
「雨の日は俺の部屋に来い」
「…ぇ?」
「一人で耐えるなら俺に頼ればいいだろう。相手はしてやれんかもしれないが肩なら貸してやる」
「…長谷部くん……」
ふにゃりと笑う光忠の目に手を添えてやった。
光忠が暖かいねと笑む。


暗がり、雨を一人で堪え忍ぶ彼にも優しい雨の音を。
(雨の日の楽しみができたと長谷部はそっと笑んだ)

おそろい(へし燭SSS・ワンドロお題)

ふわり、と目の前を通り過ぎた安定の「黄色い」首巻きが揺れた。
「?」
視界に入ったそれの違和感に首をかしげ、長谷部は、おい、と呼び止める。
「はい?」
振り向き、こてりと首を傾げる安定に向かってそれ、と指を差した。
差された方は不思議そうな表情をしたもののすぐに、ああ、と笑う。
「清光が、どうしてもお揃いが良いっていうから」
返された単純明快なそれに今度はこちらが首を捻った。
「同じものをね、身につけていたいんですって」
「ほう。また何故」
「さあ?でも優越感はありますよ」
「うん?」
小さく笑う安定に疑問を返そうとすれば向こうから「安定ー!」との声が聞こえる。
振り向けば安定と同じ黄色い首巻きをした清光が駆けてきた。
「あ?何、へし切もいたの?」
「居ては不味かったか、加州。と、いうかへし切と呼ぶなと…!」
いつも通り注意しようとして、どうしても首に目が行く。
優越感、なるほどなぁと思った。


それから。

「珍しいね、長谷部くんが万屋なんて」
「たまには、な」
くすくす笑う光忠を連れて長谷部は万屋に来ていた。
彼と揃いのものがどうしても欲しかったためである。
結局選んだのは金の鎖に宝石の着いた腕輪であった。
華美な装飾品ではなし、何より普段は服の下に閉まっておけるのが良いと思う。
首飾りでも良かったが内番で悪目立ちしても困るだろう。
髪に、とも思ったが生憎己も光忠も結えるほどのそれはない。

ちゃりちゃりと音がする。
黒い装束の下、彼がつける己と揃いのそれは。


(独占欲の証)

ひみつ(ねんへし燭SSS・ワンドロお題)

ふたりだけのひみつのはなし

ないしょ、ないしょ、ないしょのはなしはあのねのね?




ほしがふってきたんだ、とねんが言った。
こいつの話は時たま驚くほどに難解で、俺は首を捻る。
「星・・・?」
「ああ!それはおどろくほどあまく・・・っと」
得意気な顔で言っていた(同じ顔なだけ余計に腹が立つ)ねんが口をつぐんだ。
それからにやりと笑う。
「これはみつとのひみつだった」
「・・・なんだ、それは」
「でかいのはしらんでいい!」
「おいこら待て貴様、ねん!!」
ぱたぱたと駆けるねんを追いかけようとし・・・ふと違和感を感じた。
下を見れば別のねんどろいどがとてとて走っている。
「ねん光?」
「っ!!!」
ひょいとつまみ上げるとばたばた足を揺らすねん光。
手には何か植物だろうか、大事そうに抱えていた。
「どうした?それ」
「〜!!〜!」
じたじた暴れるねん光のそれを取ろうとすれば嫌々と首を振る。
仕方がないので下ろしてやれば怒った表情でそれから口の前に指を一本突きだした。
静かに、という意味かと思えば植物を抱えながら俺を指差し、小さい、という動作をしてから再度指を一本口元に持っていく。
それからその指を小指に変えもう一方の片小指に絡ませた。
「ねんと秘密の約束をした、か・・・?」
そう言えばへにょりと笑う。
どうやら正解だったらしい。
ねんも、ねん光と秘密の共有か。
まあ微笑ましいな、と思う。
何故なら。
「・・・ん、ぅ」
珍しく仮眠中の光忠の枕元に金平糖やら鈴蘭が置いてあるのだから。



(たのしいたのしいふたりのひみつ

あまいほしとおとのなるはなをだいすきなあのひとにおくりましょう


ないしょ、ないしょ、ないしょのはなしはあのねのね?)

奇病へし燭安清 夜の肝試し編

奇病へし燭の流れを組む話。大丈夫そうならどうぞ。

_
「長谷部、長谷部、長谷部ー!」
バタバタと響く足音の後、突如として病室の戸が開けられる。
そこに立っていたのはお隣さんの加州清光くんと大和守安定くんだ。
二人とも僕らより年下で、僕らと同じような病気にかかっている。
清光くんは涙宝病、安定くんは指宝病だったかな。
「なんだ、五月蝿い、加州。大体お前年上を呼び捨てにするなと何度言えば」
嫌な顔をしていう長谷部くんのベッドに勢い良く清光くんが飛び乗った。
それから。
「肝試し、やろ!」
「は…?」
突拍子もないそれに長谷部くんが毒気を抜かれたように首をかしげる。
でもそれは僕だって同じだった。
肝試し?なんで今?
「清光、二人に迷惑かけないの」
「安定」
はあ、という声と共に安定くんが僕のベッドの縁に腰かけた。
「お前が言い出したんじゃん!!丑三つ時、隔離病棟と一般病棟の間にもう一つの扉が出来るって!!」
「…はい?」
キッと睨む清光君の言葉に長谷部君がまた首をかしげる。
…えっと。
それから聞いた話をまとめるに、安定君が持ってきたそれは確信もない噂話のようなんだけど、その発信源が薬剤師の一期さんらしくて否定も出来ず、挙句、「お前怖いの?」「はあ?!怖くないし!」「じゃあ確かめよう」、ということになったらしい。
確かに看護師の鶴丸さんや院長の宗近さんならともかくあの一期さんだ、信じてしまっても当然かもしれない、かな?
僕たちが巻き込まれたのはたぶん…味方が欲しかったからだと思う。
「…くだらん」
「いいじゃない、僕らも朝も昼も夜もないんだし」
大きなため息を吐き出す長谷部君に僕はくすくすと笑って見せた。
「お前なぁ」
「あ、もしかして長谷部も怖いの?!」
「…あ?」
ぱあ、と清光君が呆れた表情の長谷部君に言う。
…あ、地雷踏んだかも。
「…いいだろう…ビビッて逃げ出すなよ、加州、大和守…それと、長船…!」
悪い顔をした長谷部君が僕らを見る。
…ああ、やっぱり僕も巻き込まれるんだね…。
大丈夫かなあ…。



そして、丑三つ時。
「…待て、何故俺が先頭なんだ」
むすっとした長谷部君が僕を振り仰ぐ。
「だって二人に先頭行かすの可哀想でしょ」
「お前が先頭行けばいいだろうが!」
「長谷部君が言い出したんでしょ!」
「言い出したのは俺じゃない!」
「ま、まーまーー!!」
言い争う僕と長谷部君を安定君が止める。
その後ろでは清光君が心配そうに見上げていて。
仕方なく僕らは口論をやめた。
「い、行くぞ」
長谷部君が足を踏み出す。
慌ててその服の後ろをひっつかんだ。
どうして夜の病院ってこんなに怖いんだろう…。
歩いている床が軋んだ。
昼間はあんなに明るいのに窓からは光が一筋も入らない。
頼りになるのは長谷部君の持つ懐中電灯の光だけだ。
「…なんか、出そう、だよね…」
「…そういうこと言うな、ばかっ!」
辺りを見回しながら僕の服の裾をつかみつつ小さく呟く安定君にその後ろの清光君が怯えたように声を荒げる。
4人でくっつきあいながら進むその姿はきっと第三者が見れば微笑ましいものなんだろうけど、当の僕らはそれどころじゃなかった。
「…ね、え。何か音が聞こえない…?」
「おい、長船!」
「光忠さん?!!」
「…長船さんまで何っ、言い出して…っ」
何か聞こえた気がして恐々と振り返る僕に他の三人も足を止めてそぅっと振り返った。
光の先には何もいない、耳を澄ましても何も聞こえなくて、ほうっと胸をなでおろしたその時。
ギッギッ、と音が響き、黒い影が…。
「ひっ…あっ…」
「逃げよ…っ!早く!!」
「ま、待って、やだぁ…!」
「う…っ、うわぁああっ!!!」
ぬぅっと伸びてきた腕に僕らは絶叫を上げ、一目散に駆け出した。


「お前らホントいい加減にしろよ!」
病室に日本号先生の声が響く。
いつもは飄々としてる日本号先生の目が怖い。
あの後、伸びてきた腕に引っ掴まれ、僕らは病室に押し込められた。
腕組をして見下ろしているのは長谷部君の主治医、日本号先生だ(ちなみに当直だったらしい)
僕らは全員正座でそっとかれを見上げている。
ど、どうしよう。
安定君もおろおろしてるし清光君も涙目だし…。
僕だって怖いけど…でもここで怯んじゃ…!
「み、皆は悪くないよ?!」
バッと顔を上げる僕に隣の長谷部君が違う!と声を上げた。
「長船が悪いなら俺も同罪だ!」
「は、長谷部君…」
顔を上げてしっかり言う長谷部君に思わずきゅんとする。
本当に、格好良いなぁ。
…ふわり、花びらが舞う。
ああ、いけない、怒られてるのに。
「…僕が噂持ってきたんだ」
安定君がしゅんとする。
別に安定君が悪いわけじゃないのに。
慌てて僕が立ち上がって慰める。
長谷部君が日本号先生を睨んだ。
自分の主治医なのにホント長谷部君は日本号先生のこと嫌いだなぁ。
…と、ひっく、と隣でしゃくりあげる声が聞こえる。
「…お、おれがぁ、俺がやろうって言ったー!」
うわぁあん!と泣き出す清光君。
「清光、泣くなよ。宝石出てくるよ」
「…ふぇ、だって、だってぇ…」
ぐすぐすと鼻をすする清光君の目からはまだ宝石は零れ落ちてない。
「大丈夫、僕もいるだろ?」
「…う、ん」
優しい安定君の声にぽろりと小さな蒼い宝石が転がった。
「…あのなぁ」
はあ、と日本号先生の声が響く。
ぴし、と空気が固まった。
「お前らが悪いんだろうが!!なんで俺が悪いみたいになってる!!大体光忠!お前がついていながらだなあ…!」
「ご、ごめんなさい!」
突然怒鳴られて僕はびくんっと体を強張らせる。
「長船は悪くないと言ってるだろう!大人げないぞ、日本号!」
「そうですよ、日本号先生!」
「日本号先生、怒らないでぇええ!!長船さんはわるくないからぁあ!!」
「…みんな…」
「だから、論点のすり替えをだなぁ…!」
ぎゃーぎゃーと声が響く、午前4時の病室。
朝は、もうすぐ。