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モブ♀燭♀(R-18
私は見てしまった。 彼女が・・・私の天使があの悪魔とキスしているのを。 天使こと長船光忠は私にとって孤高の存在だった。 偶像崇拝。 それに近しいものはあるかもしれない。 たった一つの、冒せない聖域。 そうずっと、信じていたのに。 「長谷部くんのばかー!」 彼女の鋭い声と共にガラリと扉が開き、パタパタと音が聞こえる。 顔を両手で覆って、駆けていく彼女はそれはそれは可愛らしかった。 ・・・ねえ光忠。 私の天使。 貴女は知らないでしょうね。 悪魔と口付けした貴女を見て私の心に浮かんだのが憎悪でなく歓喜だったという事を。 漸く天使を私とおなじ場所に引きずりおろせると。 私はきっと頭がおかしかったのね。 ああ、やっと貴女を汚せるようになったんだって、そのことばかりを、私は心の底から歓んだのよ。 私は笑う。 くすくすと嗤う。 光忠、私の天使。 ・・・私に貴女を本当に犯せるものが付いていなくて、残念だわ。
「・・・あ、ごめんなさ・・・」 ドンッと彼女がぶつかったのは彼女よりも背の高い男たち。 見上げた光忠を男たちは卑下た目で見下ろす。 「へえ?誰かと思ったら学園のアイドルちゃんじゃん」 「そんな急いでどこ行くんだよ?」 「俺たちと遊ぼうぜ」 光忠を取り囲み、男たちは彼女の手首を掴み上げた。 「いやっ、何す・・・離して!!」 嫌がって彼女は身を捩る。 ニヤニヤ笑う男たちに蹴りを食らわせ、彼女は逃げ出した。 「・・・ぐ、てめぇ・・・!」 「ぶつかったのは僕が悪いけど・・・乱暴はもっとよくないよ?」 光忠はそう言ってスカートを翻す。 強い女性は好きよ。 掴まれただけで泣いてるなんてつまらないわ。 そうでしょう?私の天使。 強い貴女を引き摺り下ろすのが・・・私の願いなの。 「・・・こんにちは、長船光忠さん」 「え?」 私は笑む。 ぽかんとした彼女をすかさず男たちは羽交い締めにした。 「ちょ、や、何?!」 「貴女は私の事を覚えてないでしょう?」 「は?!何が?!っていうか、この人たち、君の・・・!!」 じたじたと暴れる光忠の、顎を指で上に向かせる。 「大丈夫、もう2度と忘れられないようにしてあげてよ」 にっこり笑って私は彼女に口づけた。 「んんぅー?!はぅん、ゃ、ぁん!!」 びくりと震える口内に舌を突っ込み舐めあげ吸い付くし、犯す。 「ふうっ、ぷはっ、げほっげほ!うえっ・・・げほ!いきなりこんなことするなんて・・酷いよ・・・!」 口を離すと酸素を取り込もうと彼女は咳き込みながら涙目で私に抗議してきた。 「もっと酷いことするのよ。今からね」 「ひっ、や、やめっ・・・!!」 くすくすと笑って、怯える彼女に私は言う。 男たちの武骨な手が彼女のブラウスを引っ張った。 ぶちぶちっと音を立ててそれが肌蹴る。 ボタンがそこら中に飛び散った。 「や、やだっ!!!!」 「ほお、すげぇな。アイドルちゃんのたゆんたゆんおっぱい」 「しゃぶりつきてぇ・・・」 「いいわよ。好きにして」 にやにやと下劣な笑みを浮かべる男たちに私は言う。 清楚なブラジャーから零れ落ちそうな胸を曝け出した。 「代わりに下半身には手を出さない。分かっているわね」 「ああ。終わったら貸してくれんだろ?」 「そうね」 私の言葉に男たちは納得したように彼女の胸に手を伸ばした。 「っぁ、い、いや!!!いたぁ・・・!!離し、いや、おっぱい、やだあ!!!」 両側から男たちが拘束しながら彼女の胸を揉みしだく。 いやいやと首を振る光忠に構わず私は座り込み、彼女のスカートに手を伸ばした。 「?!!や、やあ!!!さわんな・・・?!!」 「お嬢さん、今はこっちに集中してもらおうか?」 「ひぃう!!や、らぁあああ!!おっぱい、吸わないで・・・っ!あ、いだいっ!やだあ・・・!!」 首を振る度黒い髪がサラサラと揺れる。 金の目から涙が零れ落ちた。 光忠が男の手に翻弄されている間に私は彼女のスカートを脱がし、下着も脱がせる。 足首で絡まってくしゃりと丸まった。 「ねえ、どうして・・・僕のこと嫌いなのかな、僕何か悪いことしたかっ・・・ひぅっ」 「いいえ、光忠。私はあなたが大好きよ。愛しているわ」 うっとりと言って私は下着を脱ぐ。 「・・・?!ぁ、あ・・・」 「ふふ、驚いた?これはね、ペニパンって言うのよ」 私の股間を凝視する光忠にそう言ってさっと顔の色を変える彼女に優しく告げた。 彼女に悦んでもらえるように標準サイズからは少し大きい。 真珠なんかもたくさんつけた、特注品だ。 「貴女の全てを犯してあげるわ。・・・まずは、こっちから、ね?」 笑って、私は男たちに目配せをする。 それに胸を揉みしだいていた男が彼女の足を持ち上げた。 綺麗なお尻が露わになる。 「や、やだ、はなし・・・!ひぃっ?!」 形のいいお尻を掴んで、撫で擦る。 自分で指を舐め、固いそこに突き入れ掻き回した。 「痛いぃ!痛いぃ!いたいいぃ!!やだ、痛いよおぉ!!やめて、やめてやめてよおおぉっ、助けて誰かあぁ、おねがいだから・・・っ!!」 「助けなんて来ないわ。・・・悪魔には身体を自由にさせる癖に」 「・・・え?なに、やら、ぁ、ああああ!!!」 悲痛な声を上げる彼女から指を引き抜く。 偽物のそれにローションを垂らし、にちゅりと菊門にこすりつけた。 「ゃ、やあ・・・!」 「力を抜いていてね?」 逃げようとする彼女を男たちががしりと拘束する。 暴れる彼女を力尽くで抑え込んだその隙をついて私はゆっくりと挿入を開始した。 ひゅっと彼女の気管が鳴る。 「いっ・・・やあああ!!!!ぬいて、ぬいてぇえええ!!!いぐっ、いだぁあああ!!やぅ、あ、やああ!!!」 痛みに顔を引きつらせ、抵抗する彼女のつつましやかだったアナルは痛々しいほどにびっちりと広がってしまっていた。 「あああぁ・・・痛い、痛ぃ、いたいよぉおっ!僕のお尻、裂けちゃうう!ひい、いぎっ、ああ゛あああぁっ!!」 「ふふ、可哀想にね?大丈夫、大丈夫よ」 絶叫する彼女にそう言って、私は根元まで埋め込む。 一息ついて彼女の頬を撫でた。 「どう?後ろの処女を喪失した気分は」 「い、いたいいぃ・・・!ぬ、抜いて・・・ぬいてくださいいぃ!!もう怖い、怖いよぉ・・・」 ぐすぐすと彼女が泣き喚く。 あら、まだ何もしていないのに。 どうやら私は恐怖対象になってしまったようで、びくびくとこちらを伺ってくる。 そんな目をされたら・・・虐めたくなるのにね? くすりと笑って私はピストンを開始させた。 途端、びくんっと彼女の身体が震える。 男たちは笑いながらも彼女の拘束を強くした。 光忠の怯える顔が見たくて私はがつがつと貪る様に腰を送る。 「あぎいいぃっ、いだいぃ、いだいいいぃ・・・はぐううぅっ!ひ、ひろがっちゃ、うぅっ、お尻がっんあぐううぅ、いやだあああぁっっ!!ひぃぎっいい゛いっいだいってえええぇ!!もう、やめてえぇ!」 「あはははは!!!可愛い、可愛いわ光忠!!私の天使!!」 嫌がって泣き叫ぶ彼女に、音が鳴るくらいに私は腰を打ち付けた。 つぅと赤が流れ出て私は笑みを深める。 破瓜みたいで素敵ね。 実際にこの子の熱を感じられないのはとても残念だわ。 私についているのはただの偽物でしかないのだもの。 「は、ぁ・・・」 散々彼女の身体を楽しんでから私はずるりとそれを引き抜いた。 ぐったりした彼女の躰を横たわらせるように命じる。 「・・・何をばてているの?本番は・・・これからよ」 私は笑んで彼女の頬をぺちぺち叩くとそう告げた。 途端にびくりと躰を揺らして信じられないといった様にこちらを見る。 「・・・う、そ・・・なに、言ってるの・・・ひっくっ・・・やだ、や・・・も、僕、が、がんばったよ・・・もう、も、これ以上・・・ひどいこと、しないで・・・おねがい・・・たすけて・・・ゆるして・・・痛いの嫌ぁ・・・いたいのいやぁ・・・いたいのいやあぁ・・・」 咽び泣く彼女はもう抵抗してこなかった。 その気力がなかったのかもしれないけれど。 私はつぷりと先をめり込ませる。 力なく彼女が首を振った。 「あ・・・ああぁ・・・あ・・・こわい、いだっ、こわいいぃ、こわいいいぃっ」 「大丈夫、何も怖がらなくて・・・」 「・・・すけ、は、せべく・・・!!」 彼女が手を伸ばす。 ・・・赦せない。 まだあの男に縋ろうと言うの?! 「・・・後ろなら、使っていいわよ」 「?!」 「ほう?気前がいいじゃねぇか。じゃあ遠慮な・・・く?!」 ズボンを脱ごうとした男が目の前から消える。 彼だけではなく控え、他を愛撫していた男たちもその場に倒れた。 え、と振り向いた私に与えられる鈍い衝撃。 「ぐっ・・・ぅ・・・」 「ああ、俺だ。長谷部だ。旧校舎裏の倉庫、男が3人、女が1人。すぐに来・・・」 私の意識は沼化に沈んでいく。 それが、光忠を見た最後になった。
へしにょ燭
俺は長谷部国重。 今年からとある高校に勤務となった。 仕事は充実している・・・と思う。 ・・・ある、一点を除いては。 「ねーー聞いてる?」 「なんだ、長船」 頬杖をついてぶすくれた顔をするこの女学生、名を長船光忠。 普段は人当たりもよく教師からの評判も良い。 男子からも人気な女子と言うのは他の女子からは僻まれるものだがこいつはそうでもないらしかった。 「もう、ぜんっぜん聞いてない!」 「お前の話中身ないだろうが」 「長谷部くんほっんと嫌い、大嫌い。しねば良いのに」 心底嫌そうな顔で光忠が言う。 彼女はどうしてか俺の事が嫌いらしい。 ・・・昔は、そうでもなかったんだが。 「はいはい。後、長谷部くんじゃなくて先生な」 「長谷部くんなんか長谷部くんで充分だよ!」 頬を膨らませる光忠。 豊満な胸がたゆんと揺れる。 光忠は所謂幼馴染と言う奴で、昔は「国重兄様」なんてにこにこ笑ってついてきていた・・・が、いつの頃からか俺を避け始め、現在の「長谷部くん大嫌い早くしんで」になった。 理由を聞けば「何で分かんないの?!長谷部くんのばーか!」と言われその態度に苛々するので聞かない様にしているが。 「そういえば、体重測定無様だったらしいな?」 「・・・。・・・長谷部くんそれセクハラ」 光忠が嫌そうな顔を作る。 何時もしている事だろう、と思いつつ手を伸ばした。 「要らん脂肪が多いんじゃないか?」 「ほっんとしんで!!!」 むにむにと揉みしだくと顔を真っ赤にさせて手をはたかれる。 可憐そうに見えて彼女は腕力が男子を抜いてトップだということを忘れていた。 ・・・言えば怒られるからあまり言わんが。 「何をする、犯すぞ」 「長谷部くん、何かあると犯すしか言わないよね」 少し距離を取って彼女がそんな事を言う。 「お前が生意気なのが悪いんだろうが。後、先生と呼べとお前は何度言ったら」 「犯したいなら犯してみれば良いのに〜」 けらけらと彼女が笑う。 「・・・ほう?」 にやりと笑って立ち上がった。 先程と変わって機嫌の良い光忠の顎を救い上げる。 ・・・煽っているのだろうか。 「へ?」 ぽかんとする彼女に触れるだけのフレンチキスを一つ。 「これ以上されたくなければ帰れ」 耳元で囁いて離れると呆然と見上げていたが、ぷるぷると震え出した。 真っ赤になりがたんっと音を立てて立ち上がる。 「長谷部くんのばかー!」 外まで響く声で光忠が怒鳴り、バタバタと体育教官室から出て行った。 ・・・少しやり過ぎただろうか。 ゆるむ顔を押さえ、俺は書類に向き直る。
・・・俺たちの事を、誰かが見ていたとは・・・知らずに。
学生パロディ(へし燭SSS・ワンドロお題)
「タイム!9秒65!」 大和守安定の声が背後から聞こえ、俺は汗をぬぐう。 少し前より縮まったようだ。 「お疲れ様、長谷部くん」 柔らかな声に振り向くと、にこりと微笑みタオルを差し出す・・・長船光忠がいた。 彼は同じ学年の調理部で俺の・・・幼馴染『だった』。 とある事案がきっかけで俺たちは『幼馴染』という関係をやめ、『恋人』になった。 つい数時間前の出来事だ。 「長ふ・・・。・・・光忠」 「長船で良いのに」 くすくすと笑う光忠。 「俺が呼びたいからいいんだ」 「そっか。・・・えっと、じゃあ僕も変えた方がいいのかな?く、国重くん、とか・・・?」 こてりと首を傾げて言う光忠の肩をがしっと掴む。 「っ?!や、な、なに?!」 「あ、いや、すまん。・・・無理に変えなくてもいい」 びくんっと体を竦ませて怯える光忠に俺は言って笑みを向けた。 ・・・思った以上に心臓に悪い。 顔は、赤くなっていないだろうか? 「う、うん。分かった」 「着替えてくる。待ってろ」 うん、と頷く光忠の頭を撫で、俺は部室に向かって駆け出した。
急いで着替えてきた俺だったが、光忠はその場に居なかった。 ぞわりと背に寒気が走る。 辺りを見回し、走り出そうとした・・・ところで。 「長船先輩のはちみつ檸檬美味しいですよね〜」 「ありがとう、安定くん」 「ずるい、俺も欲しい」 「お前陸上部でもないのに何言ってんのってかお前も料理部だろ!!」 「・・・何やってるんだ、お前ら」 「あ、長谷部君」 ぱ、と明るい顔をした光忠が俺の方を向く。 隣にいるのは陸上部のマネージャーである1年の大和守と光忠と同じ調理部の、同じく1年の加州清光だ。 「はちみつ檸檬ね、作ったの持ってきたんだよ」 長谷部君に食べて欲しくて、と笑む光忠。 いつも見ている顔だが今日は特に可愛かった。 思わず笑みがこぼれる。 「・・・。・・・安定どうしよう。長谷部がいつも以上に気持ち悪い」 「ちょっと、失礼だよ。否定はしないけど」 「おい、お前ら」 隣で繰り広げられるひそひそ話に突っ込むと「だあってさあ!」加州がぶすくれた。 「昨日までそーでもなかったじゃん!!前から仲良いなとは思ってたけど!」 「え、そうなの?」 加州のそれに光忠が首を傾げる。 ・・・自覚無かったのか。 それはそれでショックなんだがな。 「っていうかなんなの?付き合ってるの?」 「そうだが」 ぶすくれる加州にそう言うと、二人揃って驚いた顔をした。 「え」 「は」 「・・・。何だ、その反応は」 加州は兎も角大和守までその反応をするとは思わず、思わず言う。 「いや長谷部先輩、付き合うとかそう言う考え有ったんだなって」 「どういう意味だ、それは」 大和守のそれにぐいと詰め寄ると誤魔化すように笑った。 ・・・ったく。 「長船さん、長谷部選ぶとかほっんと趣味悪すぎ!!安定のがよっぽどマシ・・・いったぁ!!!」 光忠に詰め寄る加州・・・それに手刀をかましたのは大和守だ。 「誰が誰のマシレベルだって・・・いたっ」 「マシと言うなマシと」 頬を膨らませる大和守に今度は俺が手刀を食らわせる。 全く、失礼な奴らだ。 「ふふ。長谷部君は素敵な人だよ?優しいし格好良いし」 「・・・。光忠」 微笑む光忠の言葉に俺は思わず手を伸ばす。 え?と言う顔をした光忠に顔を近付けようとし・・・二人分の溜息に身を離した。 「あーやだやだ。お熱いんだから」 「清光、帰ろ。邪魔しちゃ悪いよ」 「そーね。・・・あ、パフェ食べにいこ」 「えーやだよ。なんでお前と二人で・・・」 ぎゃんぎゃんと言い争いながら二人が帰っていく。 ・・・明日、テストだって言ってなかったか?あいつら。 「仲良いよね」 「そうだな」 くすくすと肩を揺らす光忠。 そっと引き寄せ、触れるだけのキスをする。 そのまま抱き締め・・・ようとしたところで彼が震えているのに気付いた。 「俺も・・・怖いか」 「・・・うう、ん・・・。大丈夫」 弱弱しい顔で光忠が笑む。 無理をするなと言って離れると彼は小さく「ごめんね」と言った。 「お前が謝ることはないだろう」 「・・・うん」 頷きながらもどこか申し訳なさそうな光忠の頬を撫でる。 彼が謝ることはない。 俺がもっと早ければ。 「なら、俺から頼みがある」 「え、うん、何?」 「インハイが終わったら・・・俺とデートしてくれないか」 「・・・い、いよ?」 「本当か?!」 「うん」 俺のそれに光忠がはにかむ。 幸せだ。 もっと早くこうすればよかった。 今更悔やんでも仕方ないけれど。 ・・・過去を悔やむよりも今彼に幸せでいて欲しいと、俺はそう。 「インハイ、頑張ってね」 「ああ、無論だ」 にこりと微笑む光忠に俺は答える。 「お前が応援してくれるからな」 「長谷部くんったら」 くすくすと笑う光忠を抱きしめたくて、手を彷徨わせた挙句・・・黒い髪に手を伸ばした。 するりと指を通しそのまま下へ。 「帰るか」 「・・・うん」 手を握る。 光忠がふわりと笑む。 幸せだと、そう思った。
付き合ってない長谷部とにょた光忠ちゃんが一緒にお風呂に入る話
ぼんやりとPCの画面を見ていると丁度光忠が風呂に入ったところだった。 半身浴は体にいいと言ったことを守っているのかお湯は全体の半分くらい。 「♪」 機嫌がいいのか鼻歌付きだ。 「えっと・・・」 躰を洗っていた光忠の手が止まる。 豊満な胸をたゆんと揺らし、おずおずと両手で持ち上げた。 「こう?かな??」 もにゅもにゅと自分で胸を揉んでいる。 何をやっているのだろうか。 「うーん、よく分からないなあ」 首を捻りああでもないこうでもないと手を動かし続ける。 ・・・ああ、なるほど。 暫く見て気付いた俺は充電していたスマフォを手元に引き寄せ、lineを送った。 風呂場の外でスマフォが鳴り、光忠はこてりと首を傾げて風呂場から出ていく。 と、俺のスマフォが鳴った。 『光忠:本当?!今お風呂に居るんだ。教えてよ!』 無邪気なそれに俺はほくそ笑み、立ち上がった。
『自分:今どこだ。胸に効くマッサージがあるとテレビでやっていたが実践してみないか?』
勝手知ったる他人の家と、俺は鍵を開け光忠のアパートに入る。 廊下を突き進み目指すは風呂場だ。 脱衣所で服を脱ぎ捨てからりと戸を開ける。 「わ、長谷部君!」 「すまん。・・・躰にいい入浴剤を探すのに手間取ってな、遅くなった」 振り仰ぎ驚く光忠に言って俺はそれを湯の中に入れた。 白濁色にゆうるりと染まる。 「外だと風邪をひく。来い」 「・・・うん」 一足先に湯に入り、手を伸ばすとこくりと頷いた。 こいつのこういう警戒心のない所は好ましいな。 ちゃぷんと音を立てて入ってくる光忠を膝の上に乗せる。 「まず両手で押し上げるんだ」 Gカップはあろうかと言う豊満な胸を持ち上げてむにむにと揉みしだいた。 ぴくんと光忠が震える。 「此処の下の部分を指で押すと・・・どうだ?」 「あ・・・うん、気持ちい・・・」 実際にあるツボを押すとうっとりと光忠は目を閉じた。 それからマッサージと称し下から上に持ち上げるように両乳房を動かしたり、谷間に寄せるように左右から圧迫したり、包み込むように両手を添え、円運動させるようにぐにぐにと回したりを繰り返す。 「ふぁ、あ・・・はせ、べく・・・?」 「どうした?」 「な、なんか、変・・・!」 ふるふると首を振って困ったように光忠が進言してきた。 「変、とは?」 「ん、わかんな・・・あぁう!!」 びくんっと体が揺れる。 胸の中心にある乳首が固くなっているのを見て俺は指ではじく。 「ひ?!!」 「ああ、すまん。ここは手でやるよりな・・・」 「やぁう?!!な、なに!!」 「・・・舌でやった方がいいらしい。どうだ?」 ちゅ、と吸いついて顔を覗き込むと彼女は「分かんない・・・」と顔を真っ赤にさせて俯いた。 「なら分かるまでやってやろう。手でやるのとどちらが良いか言え」 「ひや?!!や、ぁ、ああぅ!!あぁ・・・!!」 一方は舌で転がし、もう一方は指で捏ね繰り回す。 どちらの愛撫にも翻弄されてるのだろう光忠が跳ねる度に湯がぱしゃぱしゃと音を立てた。 たっぷり5分舌で指で楽しんだおれは顔を上げる。 ぐったりとした光忠が涙目で俺を見ていた。 「は、はせ、べく・・・」 「どうした?気持ちよくなかったか?」 「ぅ・・・あ・・・」 「・・・ああ。片方ずつだったからな。今度は反対側もしてやろう」 「・・・ぇ?や、ぁああ!!」 俺は捏ね繰り回していた方にむしゃぶりつき、舐めまわしていた方を指で挟む。 ぱしゃり、ぱしゃり。 湯の跳ねる音。 「長谷部く、はしぇべく・・・!!」 縋る光忠にもう片方の手で応える。
・・・本当にこれがマッサージだと思っているのだろうか。
悪戯(へし燭SSS・ワンドロお題)
収穫祭。 万聖節の前日、元々はその年の豊作を願う祭りだった・・・と聞いていたのに。
「あ、長谷部さん」 「え?へし切?」 「・・・長谷部君!」 「・・・。・・・何をしてるんだ、お前らは」 三種三様の反応を返す彼らに長谷部は思わず呆れた声で問いかける。 振り仰いだ安定は白い羽に白い衣装・・・所謂天使というやつ・・・の恰好、眉を顰める清光は黒い羽根に黒い衣装・・・所謂悪魔というやつ・・・の恰好、ぱあ、と表情を輝かせ、座り込んで二人を着つけている光忠は黒い三角耳に燕尾服の間から覗く同色の尻尾、というそれだった。 「何だそれは」 「へし切見て分かんない?・・・仮装だよ。今度収穫祭あるじゃん、その準備」 長谷部の疑問に答えたのは清光だ。 彼は『可愛い恰好ができる』というだけで機嫌が良いのだろう。 「長谷部さんは狼男とか似合いそうですよね」 「やらん」 安定が笑うのに長谷部は嫌そうな表情を隠さずに言った。 「ふふ。長谷部君嫌いそうだもんね。・・・はい、出来た」 にこ、と光忠が笑む。 「ありがと、燭台切さん!」 「光忠さんありがとうございます!・・・行こう!清光!」 「わ、ちょ、待ってよ!!安定?!」 珍しく二人とも楽しそうで、思わず長谷部も光忠と微笑ましく見送った。 まあこういうのもたまにはいいだろう。 ・・・巻き込まれるなら全力で拒否するが。 「・・・。・・・ね、長谷部君」 「あ?」 同じように見送っていた光忠が座り込んだ状態でこちらを見る。 長谷部にとって自分より目線の低い光忠は新鮮で、尚且つ懐かしかった。 「収穫祭では色んな家にお菓子を貰いに行くんだって」 「ほう」 「それで、貰う時にある台詞を言うらしいんだけど・・・」 そこまで言った光忠は悪戯っぽく笑い、両手を差し出す。 「悪戯かお菓子か!」 上目使いでにこっと笑う光忠。 ・・・煽っているのだろうか。 「ほら」 「・・・あれ?」 その手に飴玉を一つ置いてやると光忠が首を傾げた。 「なんだ、悪戯したかったのか?」 「え、いや、そうじゃないけど」 不思議そうな光忠に小さく笑って言えば彼は飴を見つめて困ったように言う。 「長谷部君が甘いものを持ってたのは意外だなって」 「持ってなかったらどうするつもりだったんだ?」 可愛らしい笑みを見せる光忠に疑問をぶつけると彼はうーんと考えるように上を向いた。 「悪戯・・・。・・・えいっ」 「うわっ」 「え、うわああ!!」 座り込んだままの光忠が長谷部の服をぐん、と掴み、急な事に踏鞴を踏んだ長谷部は光忠に覆い被さる様に倒れ込む。 すさまじい音が辺りに響いた。 「・・・ごめん・・・」 「この、馬鹿力が・・・!」 「うぅ、ごめんってば・・・」 じろりと睨むと長谷部の下の光忠が小さく謝る。 黒い耳がぴくりと動いた。 「・・・燭台切、お前、これ・・・」 「・・・え?ああ。本物だよ。なんでも主の悪戯?みたい」 「・・・主・・・」 光忠のそれに長谷部は頭を抱えた。 ・・・今の主は悪い人ではない・・・のだけれど。 「長谷部君?」 「・・・燭台切、お前菓子は?」 「え?あ、はい」 こてんの首を傾げる光忠に聞けば彼は差し出した手に甘食を一つ乗せた。 「さっき作ったんだ」 「そうか」 機嫌の良い光忠ににやりと笑って甘食を齧る。 「長谷・・・んんぅ?!!」 きょとんとする光忠の口に齧り取ったそれを舌で入れた。 そのまま口腔を貪る。 「んふ、ふぁ、ぁうん、や、はしぇべくん・・・?ひっ」 とろんとする光忠の黒い尻尾を握り、うにうにと手を動かした。 「やぅ、や、ぁ、ひぃう!!」 「ほう、感覚があるんだな」 いやいやと首を振る光忠に長谷部はくすくすと笑う。 「な、んで・・・?ぼく、お菓子渡し・・・ぁあう!!!」 「ああ、俺はその台詞とやらを言っていなかったな?」 涙目の光忠に笑い・・・長谷部は黒い耳に息を吹き込んだ。 「ふ、ぇ・・・?」 「覚悟しろ。・・・光忠」 ひぃ!と躰を大袈裟にびくつかせる光忠にくつくつと笑い・・・長谷部は囁く。
「trick but treat」
オニアソビ 長谷部サイド(へし燭・R-15
とある本丸、その離れから向かう廊下で、燭台切光忠が重い足を引きずっていた。 負傷した…とはまた違う。 どちらかといえば負傷「させた」。 誰が?そう、他でもない、長谷部自身が。 「…何処に行こうと言うんだ?光忠」 「…は、せべく…!」 ゆっくりと姿を見せると光忠が怯えた顔を見せ慌てて踵を返した。 その足に己の足を掛け転ばせる。 振り仰ぐ光忠を冷たい目で見降ろした。 逃げる度にさんざ仕置きをしてるのに何故わからないのだろう。 「相変わらず懲りんやつだな。昨日散々犯してやっただろうに。まだ分からないのか?」 「…分からないのは君の方だよ」 「…何?」 光忠の小さな呟きに長谷部は眉を動かす。 此処に閉じ込めるようになってどれくらい経ったか。 元の生活に戻りたいと光忠は脱走を繰り返していた。 何故そんな無駄な抵抗を繰り返すのか長谷部には分からない。 この部屋で大人しくしていた方がずっと幸せなのに。 「言ったよね?僕は抗って見せるって。僕は君から逃げてやる、絶対!」 光忠が長谷部を睨む。 その後もこんな生活は真っ平だと切々と訴えてきた。 このやり取りも何度目だろう。 「なんだ?光忠、鬼ごっこがしたかったのか?いいだろう。今から10数えたら追いかけるからな。俺から逃げ切れたらお前の勝ち、そうじゃなければ俺の勝ちだ。もしお前が負ければ一生この部屋にいるんだぞ」 笑って、長谷部は光忠に告げる。 胡乱気に見上げる彼にそれを言ったのは最早賭けだった。 彼がそれに乗ると思えない。 こんな、光忠自身に多大なる損害を被る提案なんて。 呆然とする光忠に待っていろと告げ、手入れ部屋に入れ傷を癒した彼の本体を渡す。 「…僕を舐めるのも大概にしてくれるかな?いいよ、君から逃げきれればいいんだろう?僕が勝ったら二度と付き纏わないでくれ。じゃあ行く、よ!」 光忠がこちらを睨んで思い切り駆け出した。 嗚呼、なんて愚かな! 「…ろく、ご、よん」 (本当に乗りおった。馬鹿な奴め、鈍足でこの俺に勝てるとでも…?) くすくすと長谷部は笑う。 「さん、に、いち」 (今からお前の絶望する顔が楽しみだ) 誰もいない部屋に長谷部の声だけが響く。 「ぜろ」 (さあ、鬼ごっこの始まりだ。燭台切光忠) 終わりの合図を告げ、長谷部はゆっくりと歩きだした。 どうせ彼は長谷部に敵わない。 機動力はこの本丸最大だ。 (ここか?ここに隠れてるのか?楽しいな光忠…。お前の逃げ道がどんどんなくなっていくなぁ) 笑って、ゆっくり一つ一つ扉を開けていく。 彼が隠れられそうな押し入れ、天袋、茶箪笥、一つずつ。 (光忠〜ここか〜?馬鹿だな、刀剣男士が主なしで本丸から出られるわけないのにな。ほらほら、早く逃げないと追いついてしまうぞ) ゆっくり歩いていたがふと嫌な予感が頭を過った。 過去に自分が犯した唯一の過ち。 この本丸に顕著する前、己が大太刀と呼ばれた時代。 長谷部はまだ号の無かった光忠を戦場に連れ出した。 主の許可なく、ただ彼とそこから離れたくて。 …結局のところそれが叶うことはなかったのだけれど。 (燭台切光忠、まさかお前は主を捨て置いて逃げるような刀ではないよなぁ…?それに俺が使った手法が俺に効くとでも?笑わせるな) ぎり、と前を睨む。 あの光忠が主を置いていくとは思えない。 ふと廊下に何かが落ちているのを見つけた。 …これは、彼が身に着けていたものだ。 嗚呼、と長谷部は空を仰ぐ。 (それがお前の答えか燭台切、やはりあの時お前を暗い部屋から出したのは間違いだったな。伊達のもとでいらん知恵をつけたか小賢しい) 織田に居た彼が貰われていった先で号を承った。 あのままで居れば綺麗な笑みを保っていたのにと思うがもう遅い。 (反抗ばかりして、外になんて出さなければよかった。何も知らず、感じず人形のように澄ましているお前はそれはそれは美しかったな。いや、今からでも遅くない。俺と一緒に帰ろうな) 笑って、最後の扉を開ける。 焼却炉のもっと奥、小さな門の前に光忠を見つけた。 本丸を出る気か。 ふつりと怒りが湧いてくる。 こんなにも…愛しているのに。 「光忠ァ!!!!」 「…長谷部、くん」 怒鳴り声にびくんっと体を竦ませ光忠が振り仰ぐ。 引きつった顔の彼に無理やり笑みを作って近づいた。 「光忠、おまえばかなやつだなあ。どんなに逃げたつもりでもおまえはここに帰ってくる。そういう運命なんだよ。逃がさないと言っただろう?さあ、どうする?その扉の鍵はもう飲んでしまったぞ?」 長谷部は己の喉元を差した。 光忠がはっとして門を見る。 顔を顰め、それからゆっくりと長谷部を見た。 「ねえ馬鹿なの長谷部君。僕らは刀だよ。鍵がないなら扉を壊せばいい。僕は長谷部君の思い通りにならない。言ったよね?君に振り回されるなら僕は…死ぬ」 刀をすらりと抜いて光忠はその扉を破壊した。 そのまま黒の着流しを翻し西に向かって、走る。 長谷部はその後ろから追いかけた。 果ての無い、オニゴッコ。 「知ってる?長谷部君。刀ってね、破壊されると塵も残らないんだって!戦って刀として…君に振り回されることなく死ぬ、なんて理想だよね」 「お前のそういうところを好ましく思うよ。みすみす破壊させるわけはないがな」 言いながら手を伸ばした。 それを光忠がひらりと躱す。 「あは、何のために逃げてるか分からないじゃないか。君に破壊されるところを助けられるなんてさ!!長谷部君のそう言うところが嫌い。大嫌い」 吐き捨てるように言う光忠に長谷部はくすくすと笑った。 「素直じゃないな。本当に仕様がない男だ。ならもう逃げなければいい。戻ってこい」 「戻って来いと言って戻ってくるとでも?じゃあね、長谷部君。もう二度と会うことはないだろうけど」 今度は光忠が笑って見せ、そう告げる。 途端、長谷部はぴたりと止まった。 今、何と言った? 二度と戻ってこないと? 「おい、光忠。頼む戻ってきてくれ。俺とお前とずっと楽しく生活してきたじゃないか。これからもきっと楽しい、そうだ、そうに決まっているだろ?」 長谷部の言葉に大きく距離を取って光忠も止まる。 「ふふ、傲慢なところ、ほんと前の主そっくり。君が楽しいからって僕が楽しいとでも思ったんだ。…さようなら。来世は僕のいないところで幸せになってね」 にこ、と笑う光忠に長谷部は顔を伏せた。 その隙に彼がまた一歩大きく下がる。 「そうだな、確かに俺は傲慢だ。俺はお前と一緒にいて楽しかったが、お前は楽しくなかったんだな。すまなかった。お前がいない世界で幸せになるくらいならお前を思って不幸になる方を選ぶよ」 笑みを作って手を伸ばした。 苦しそうな表情で光忠が首を振る。 「僕の幸せを思うなら僕から離れて。もう僕に構わないで。君が不幸になろうがもう僕には関係ないんだから。…僕を…自由にして」 吐露するように光忠が言った。 …何故そんな事を言うのだろうか。 よく分からない。 「すまない光忠、お前を手放すことはできないな…。自由?刀の俺達が自由だって?光忠は変わってるな。自由なんてどこに行こうとあるわけないのにな」 くすりと長谷部は笑う。 面白い事を言うんだな、と思った。 「僕にとって君がいない世界は自由と同義だよ。伊達に行った僕がどんな思いだったか知らないでしょう。僕を捕まえようと躍起になってる君は、ね」 「ああ、知らんな。俺はお前ではないからな。お前が逃げなければ俺だって躍起になって捕まえようとはしないさ」 困ったように笑いながら長谷部は手を伸ばす。 顔を顰めて光忠がそれから逃げた。 「君が追いかけてくるから逃げるんだろう。君が放っておいてくれたら僕は平穏無事に過ごせるのに。君が追いかけてくるから僕は僕を殺すのに」 「いつまでも待つだけの男でいるのはやめんたんだ。欲しいものは自分で動いて手に入れてこそ、そうだろう?光忠」 「強欲だよね。君、そういう所変わらない。でもね、奪われるだけの僕はもういないんだよ。手に入れられない、目の前でいなくなる恐怖を知ればいい」 光忠はそう言って笑い、いつの間にか潜んでいた敵陣に対峙する。 無粋な奴ら。 思わず舌打ちをし、連絡用の文を飛ばした。 こうなったら手段は選んでいられない。 「なあ、どうしてそんなにわがままをいうんだ?なんだって叶えてやっただろう?いい子だから聞き分けてくれ」 宥めるように光忠に話しかけた。 忌々し気に光忠が此方を振り仰ぐ。 「僕の意見なんか聞いてくれた事ないくせに。なんでも叶えてくれるって言うなら僕を自由にさせて。それが嫌なら…僕は自分で命を絶つよ」 「ほんとうに手間がかかるな、お前は。もう帰ろうな、きっとつかれてるんだろう」 長谷部は笑む。 そうだ、きっと久しぶりに外に出たから疲れているだけだ。 だからこんなおかしなことを言うのだろう。 「長谷部君って本当に僕の話を聞いてくれないよね。じゃあ僕も長谷部君の話を聞かない事にするね。ばいばい、さようなら」 優しく微笑み、光忠が本体を捨てて敵の前に躍り出る。 斬りかかろうとした敵に向かって長谷部は駆け出し、斬った。 呆然と見上げる光忠に怒鳴る。 「この大馬鹿者が!!どうしてこんなことをした!答えろ燭台切!!」 「どうして庇うの。僕は君から離れたいだけなのに…!!」 問い詰めようとする長谷部を振り切って走り出し、光忠が槍兵の前に飛び出す。 しまった、油断した。 思った時にはもう遅く彼の躰は傾いでいた。 「馬鹿な真似を…この失血量だと抵抗もできんだろう。おい!こいつを縛って手入れ部屋にでも転がして…?!」 抱えた光忠の傍に落ちていた彼の本体にぴしりとひびが入る。 まさか。 白い光が彼の躰を包む。 文を拾ったのだろう、後を追ってきていた本丸の誰かが声を上げた。 失踪した燭台切光忠の刀剣破壊。 てんやわんやになる現場でうっそりと長谷部が微笑んだのに誰も気づかない。 (馬鹿め…ひとつだけ隠しておいた御守りをお前につけておいたんだ。意識がない今の間にまた部屋に閉じ込めて…これで何もかもまたうまくいくな、光忠…)
部屋の前で小さく息を吸う。 からりと襖を開けた。 驚いたように光忠が此方を見る。 「…は…せべ、く…???なん、で…?!!!ひ、ぐぅ、ぁああ?!!!」 「おはよう光忠。いい朝だな、体の調子はどうだ?ああ、無理に動かない方がいい。お前がまた無理をしないように脚の腱は切っておいてやったからな。大丈夫だ、お前は何も心配せずにこの部屋にいればいい」 逃げようとして倒れ込んだ光忠に長谷部は笑う。 …これは、綿密に練られた計画だった。 この鬼ごっこは長谷部が拉致した光忠が「破壊され」二度と本丸に戻れない様、仕組んだ巧妙な罠だった。 光忠が頭を抱える。 混乱しているのだろう光忠の頭をゆっくり撫ぜた。 嗚呼、笑いが止まらない。 「かわいそうに…痛いなあ。大丈夫だ、俺のお守りをこっそり持たせたことは誰にも言ってないからお前はもう折れたことになってる。内番も出陣も何もしなくていいんだぞ。…前の様に、な」 ゆっくりとそう囁く。 長谷部は知っていた。 彼がこうなる事を。 …知っていて敢えて光忠に希望を見せた。 「…なんで…?!!…いや、いやぁああ…!…え、して…返し、て…返せよ!!!僕の自由を返せ!!!!」 ぼろぼろと涙を溢し、光忠が長谷部に掴みかかる。 無様だなとぼんやり思った。 「自由なんて無くても大した問題じゃないだろう…俺がずっとそばにいる、何だってしてやる。だから俺を見てくれ」 そっと囁くのに光忠は聞こうとすらしない。 何故、と顔を歪ませる。 幸せにしてやると…言っているのに。 「…いや、いや………ぼ、くは…僕は、みんな、の、いる本丸に戻りたぃ…!!!ぅあああああ!!!!」 勢いのまま長谷部の本体を奪い取った光忠が己の躰に刀を突き立てる。 流れ出る赤。 「馬鹿なやつ…。本体が無事ならいくら傷ついても、全身の血を抜かれても俺たちは死ねないのに。本体はほら、あそこに掛かってるぞ。もっとも、お前のその脚じゃたどり着けないだろうがな…」 長谷部は笑いながら指を差した。 「は、はは…そ、れは……どうか、な!!!!」 言いながら光忠は刺したそれを引き抜き、ヒビが入った本体に向かって長谷部の本体を投げる。 「お前は投石ができないからなぁ。もっとコントロールの腕、磨いた方がいいんじゃあないか?」 せせら笑いながら投げた本体を叩いて長谷部は軌道を変えた。 かん、と音を立てそれが落ちる。 驚いたように見上げる光忠が可愛らしくてならなかった。 「…!!…ははっ、知らなかったかな?ぼ、くは、君より生存率高い、ん、だよ!!」 強気に言った光忠が彼自身の本体に向かって走り出す。 愚かしい、と言いながら長谷部はその足を踏みつけた。 光忠が無様に地に伏せる。 「もう諦めろ」 「…まだ、だ」 囁く長谷部に言い返し、光忠が地に堕ちた長谷部の本体を掴み上げそれに力を込めた。 めきりと音が聞こえる。 …まさか。 「ぅぐぁ…ぁああああ?!!!!!き、さま、光忠ァあああああ!!!」 痛い、と思ってからは早かった。 耐えようもない痛みが長谷部を襲う。 白い光の外で、光忠が何かを言っていた。 こんな所で死ぬのか、と目をつむった…刹那。 「…あ…?」 ふっと光が溶けた。 身体を見れば何処にも傷がない。 …嗚呼、これは。 「ふは、ははははは!!!!!神は俺に味方した!!!!!」 思わず笑う。 その高揚感のまま光忠に近付いた。 気付いていないのだろう、振り下ろそうとした光忠の腕を掴み上げる。 「?!」 勢いよく振り仰ぐ光忠ににやりと笑いかけた。 「…な、んで、君…」 「守り札を付けていたのが自分だけだと思ったのか?」 呆然とする光忠の手からからんとそれが落ちる。 勝った、と思った。 「ぃ、や…ぃやあああああああああああぅううんっ!!!!」 悲鳴を上げる光忠の口を塞ぐ。 長谷部の、笑みを張り付けたそれで。
勝ってうれしい花一匁
あの子が負けたらどうなるの?
あの子は神さんの元へお嫁に行くの
ほうら、後ろの正面だあれ?
オニアソビ 光忠サイド(へし燭・R-15
とある本丸、その離れから向かう廊下で、光忠は重い足を引きずっていた。 負傷した…とはまた違う。 どちらかといえば負傷「させられた」。 自分をこの部屋に閉じ込めた男によって。 「…何処に行こうと言うんだ?光忠」 「…は、せべく…!」 突如として現れた彼に怯えた顔を見せ慌てて踵を返した。 刹那、べしゃりと体が地に伏す。 振り仰げばへし切長谷部が此方を冷たい目で見降ろしていた。 「相変わらず懲りんやつだな。昨日散々犯してやっただろうに。まだ分からないのか?」 「…分からないのは君の方だよ」 「…何?」 光忠の小さな呟きに長谷部が眉を動かす。 此処に閉じ込められるようになってどれくらい経ったか。 元の生活に戻りたいと光忠は脱走を繰り返していた。 折られた足はまだ痛むがそれでも尚元の生活に戻りたかった。 皆で出陣して、手入れをして、食事を作り、会話をし、笑い合う、そんな当たり前の生活に。 「言ったよね?僕は抗って見せるって。僕は君から逃げてやる、絶対!」 光忠は長谷部を睨む。 長谷部は嘗て光忠が愛していた男であり、光忠を閉じ込めた張本人だった。 こんな生活は真っ平だと切々と訴える。 「なんだ?光忠、鬼ごっこがしたかったのか?いいだろう。今から10数えたら追いかけるからな。俺から逃げ切れたらお前の勝ち、そうじゃなければ俺の勝ちだ。もしお前が負ければ一生この部屋にいるんだぞ」 にやりと笑った長谷部が珍しくそんな事を言った。 何を考えているか分からない。 そんな…捕えた獲物をみすみす逃す真似をするなんて。 脱走をしたときはあんなに怒り狂ったのに、何故。 真意を探っていたがさっぱり分からなかった。 それでも与えられたそれを無下にできないと光忠は立ち上がる。 待っていろと言われ、暫く後帰って来た彼から傷の癒えた本体を渡された。 そう言えば足はもう痛くない。 …何を、考えているのか。 「…僕を舐めるのも大概にしてくれるかな?いいよ、君から逃げきれればいいんだろう?僕が勝ったら二度と付き纏わないでくれ。じゃあ行く、よ!」 睨んで思い切り駆け出す。 数を数える長谷部の声が聞こえたがもう構っていられなかった。 (あは、長谷部くんに足の速さじゃ負けるけど隠れてしまえばこっちものだよね!長谷部君の思う通りにはさせないから) 機動おばけと言われた長谷部に足では敵わない。 勿論それはわかっていた。 だからこそ素早く隠れ、息をひそめる。 (絶対に逃げきって、僕は僕の生活をするんだ。要は長谷部君から見つからずにこの本丸から出ればいいんだから、ここさえやりすごせば…!!) 辺りを見回し、再び走り出した。 恐らく彼が知らない方へ。 …きっと彼は光忠が外へは出ないと思っているだろうから。 (長谷部君は知らないでしょう?本丸の抜け穴を。主がいなくても逃げ出すことは出来る。昔君が『長谷部国重』だった時代にやったんじゃないか) くす、と自嘲気味に笑う。 光忠にまだ号がなかった時代、一度だけ外に連れ出されたことがあった。 それをしたのが大太刀だった長谷部国重だ。 光忠に光を教えたのは長谷部だった…それなのに。 (誰だって自分の身が可愛いじゃないか。今の主には悪いけど…僕は逃げるよ。…君が僕を変えた癖に。君が僕を暗い部屋から出した癖に今度は君が閉じ込めるの) 息を整えながらぎゅっと己を抱きしめた。 主には悪いと思う。 それでも…此処にはいられない。 遠くから長谷部の声が聞こえた気がした。 振り返らず走り出す。 (所詮、黒田の元で大事にされてきた君には分からないよ。やっぱり君は織田の刀なんだね。僕はあの頃に戻るなんてごめんだ) 裏の小さな門の前にやってきた光忠ははあと大きく息を吐いた。 (一度零れた水は元に戻らない様に、光を知った人形は元に戻らないんだよ。僕は人形じゃない。刀として、僕はこの本丸から出ていくよ。ばいばい、長谷部君) 小さく笑って扉を押そうとしたその背後から。 「光忠ァ!!!!」 「…長谷部、くん」 怒鳴り声にびくんっと体を竦ませる。 歪んだ笑みの長谷部が楽しそうに笑いながら近づいてきていた。 「光忠、おまえばかなやつだなあ。どんなに逃げたつもりでもおまえはここに帰ってくる。そういう運命なんだよ。逃がさないと言っただろう?さあ、どうする?その扉の鍵はもう飲んでしまったぞ?」 長谷部が己の喉元を差した。 はっとして門を見る。 知らないだろうと思って油断した。 顔を顰め、ゆっくりと彼を見る。 「ねえ馬鹿なの長谷部君。僕らは刀だよ。鍵がないなら扉を壊せばいい。僕は長谷部君の思い通りにならない。言ったよね?君に振り回されるなら僕は…死ぬ」 刀をすらりと抜いて光忠はその扉を破壊した。 そのまま西に向かって、走る。 長谷部がその後ろから追いかけてくる。 果ての無い、オニゴッコ。 「知ってる?長谷部君。刀ってね、破壊されると塵も残らないんだって!戦って刀として…君に振り回されることなく死ぬ、なんて理想だよね」 「お前のそういうところを好ましく思うよ。みすみす破壊させるわけはないがな」 長谷部が手を伸ばした。 それをひらりと躱す。 「あは、何のために逃げてるか分からないじゃないか。君に破壊されるところを助けられるなんてさ!!長谷部君のそう言うところが嫌い。大嫌い」 吐き捨てるように言う光忠に長谷部はくすくすと笑った。 「素直じゃないな。本当に仕様がない男だ。ならもう逃げなければいい。戻ってこい」 「戻って来いと言って戻ってくるとでも?じゃあね、長谷部君。もう二度と会うことはないだろうけど」 今度は光忠が笑って見せ、そう告げる。 途端、長谷部がぴたりと止まった。 「おい、光忠。頼む戻ってきてくれ。俺とお前とずっと楽しく生活してきたじゃないか。これからもきっと楽しい、そうだ、そうに決まっているだろ?」 珍しくすがるようなそれに大きく距離を取って光忠も止まる。 「ふふ、傲慢なところ、ほんと前の主そっくり。君が楽しいからって僕が楽しいとでも思ったんだ。…さようなら。来世は僕のいないところで幸せになってね」 にこ、と笑うと長谷部は顔を伏せた。 その隙にまた一歩大きく下がる。 「そうだな、確かに俺は傲慢だ。俺はお前と一緒にいて楽しかったが、お前は楽しくなかったんだな。すまなかった。お前がいない世界で幸せになるくらいならお前を思って不幸になる方を選ぶよ」 何か見当違いの事を長谷部は言っていた。 違う、違うチガウそうじゃない。 「僕の幸せを思うなら僕から離れて。もう僕に構わないで。君が不幸になろうがもう僕には関係ないんだから。…僕を…自由にして」 吐露するように彼に向って言葉を放つ。 ただ、自由になりたい…それだけなのに。 「すまない光忠、お前を手放すことはできないな…。自由?刀の俺達が自由だって?光忠は変わってるな。自由なんてどこに行こうとあるわけないのにな」 くすりと長谷部が笑った。 やはり彼はわかっていない。 「僕にとって君がいない世界は自由と同義だよ。伊達に行った僕がどんな思いだったか知らないでしょう。僕を捕まえようと躍起になってる君は、ね」 「ああ、知らんな。俺はお前ではないからな。お前が逃げなければ俺だって躍起になって捕まえようとはしないさ」 困ったように笑いながら長谷部が手を伸ばす。 顔を顰めて光忠はそれから逃げる。 「君が追いかけてくるから逃げるんだろう。君が放っておいてくれたら僕は平穏無事に過ごせるのに。君が追いかけてくるから僕は僕を殺すのに」 「いつまでも待つだけの男でいるのはやめんたんだ。欲しいものは自分で動いて手に入れてこそ、そうだろう?光忠」 「強欲だよね。君、そういう所変わらない。でもね、奪われるだけの僕はもういないんだよ。手に入れられない、目の前でいなくなる恐怖を知ればいい」 笑う彼に言って、光忠は敵陣に対峙した。 ちっと背後から舌打ちが聞こえる。 「なあ、どうしてそんなにわがままをいうんだ?なんだって叶えてやっただろう?いい子だから聞き分けてくれ」 宥めるような長谷部の声。 本当に…苛々する。 「僕の意見なんか聞いてくれた事ないくせに。なんでも叶えてくれるって言うなら僕を自由にさせて。それが嫌なら…僕は自分で命を絶つよ」 「ほんとうに手間がかかるな、お前は。もう帰ろうな、きっとつかれてるんだろう」 長谷部が笑む。 彼は本当に人の話を…自分の話を聞いてはくれないんだな、と嘆息した。 「長谷部君って本当に僕の話を聞いてくれないよね。じゃあ僕も長谷部君の話を聞かない事にするね。ばいばい、さようなら」 優しく微笑み、光忠は本体を捨てて敵の前に躍り出る。 斬りかかろうとした敵から長谷部が庇う。 「この大馬鹿者が!!どうしてこんなことをした!答えろ燭台切!!」 「どうして庇うの。僕は君から離れたいだけなのに…!!」 振り切って走り出し、槍兵の前に飛び出た。 容赦なく己の躰を斬りつける。 ぴしり、と音が聞こえた…気がした。 (…ああ、…よ…やく…長谷部くんから……はなれられ、る…) 刀剣破壊で起こる白い光が光忠の体を包む。 駆け寄ってくる長谷部に笑みを返し…光忠は意識を途切れさせた。
暗い沼から浮上するように、光忠はぼんやりと目を開けた。 「…う、ぁ……。……え?なんで…僕の、体…。…だって、僕は、ぼ、くは…破壊された、はずで……」 倒れる前とそっくり同じ体にふわりと首を傾げる。 まさか二振り目なのだろうか。 記憶保持など聞いたことないけれど。 身体の痛みは前と同じでまさか夢だったのではと錯覚をさせた。 からりと襖が開く。 そこから顔を覗かせた人物に光忠の顔が強張った。 「…は…せべ、く…???なん、で…?!!!ひ、ぐぅ、ぁああ?!!!」 逃げ出そうとして布団に倒れ込んだ。 足の痛みが戻っている。 …足はけがをしていないはずなのに。 一体何故。 「おはよう光忠。いい朝だな、体の調子はどうだ?ああ、無理に動かない方がいい。お前がまた無理をしないように脚の腱は切っておいてやったからな。大丈夫だ、お前は何も心配せずにこの部屋にいればいい」 長谷部が笑う。 つまりさっきまでの事は夢じゃなくて、破壊されたのは本当で。 …これは綿密に練られた計画で。 この鬼ごっこは己が拉致した光忠が「破壊され」二度と本丸に戻れない様、長谷部が仕組んだ罠だった。 ふら、と目の前が暗くなる。 混乱する光忠の頭を長谷部が撫ぜた。 「かわいそうに…痛いなあ。大丈夫だ、俺のお守りをこっそり持たせたことは誰にも言ってないからお前はもう折れたことになってる。内番も出陣も何もしなくていいんだぞ。…前の様に、な」 にやにやと長谷部は笑う。 知っていたのだ。 知っていて敢えて光忠に希望を見せた。 …それが…赦せない。 「…なんで…?!!…いや、いやぁああ…!…え、して…返し、て…返せよ!!!僕の自由を返せ!!!!」 ぼろぼろと涙を溢し、光忠は長谷部に掴みかかる。 何か長谷部が囁いていたが光忠には聞こえなかった。 「…いや、いや………ぼ、くは…僕は、みんな、の、いる本丸に戻りたぃ…!!!ぅあああああ!!!!」 長谷部の本体を奪い取り、己の躰に突き刺す。 赤が流れる感覚。 足りない、これだけじゃあ。 「馬鹿なやつ…。本体が無事ならいくら傷ついても、全身の血を抜かれても俺たちは死ねないのに。本体はほら、あそこに掛かってるぞ。もっとも、お前のその脚じゃたどり着けないだろうがな…」 長谷部が笑いながら指を差した。 「は、はは…そ、れは……どうか、な!!!!」 引き抜き、ヒビが入った本体に向かって長谷部の本体を投げる。 「お前は投石ができないからなぁ。もっとコントロールの腕、磨いた方がいいんじゃあないか?」 せせら笑いながら投げた本体を叩いて長谷部は軌道を変えた。 かん、と音を立てそれが落ちる。 仮にも自分の本体なのに、それほどこちらを優先したいのだろうか。 「…!!…ははっ、知らなかったかな?ぼ、くは、君より生存率高い、ん、だよ!!」 力を振り絞り自分の本体に向かって走り出す。 愚かしい、と言いながら長谷部がその足を踏みつけた。 無様に地に伏せる。 「もう諦めろ」 「…まだ、だ」 囁く長谷部に言い返し、光忠は地に堕ちた長谷部の本体を掴み上げそれを…折った。 「ぅぐぁ…ぁああああ?!!!!!き、さま、光忠ァあああああ!!!」 「は、はは、良い最期だよ」 白い光の中で悶絶する長谷部にそう告げて、折れたそれを手に持ち自分の本体へと歩み寄る。 小さく目をつむり…振りかぶった。 「さようなら、僕」 振り下ろそうとしたそれは強い力によって防がれる。 「?!」 勢いよく振り仰ぐ光忠の腕を止めていたのは…破壊したはずの長谷部だった。 「…な、んで、君…」 「守り札を付けていたのが自分だけだと思ったのか?」 呆然とする光忠の手からからんとそれが落ちる。 逃げられない。 「ぃ、や…ぃやあああああああああああぅううんっ!!!!」 悲鳴を上げる光忠の口が塞がれた。 長谷部のそれによって。 それが…悪夢の再開。
鬼さんこちら、逃げた子どちら?
さあさ鬼さん手の鳴る方へ。
捕まったらさようなら。
日の光見ずさようなら。
藤/紅葉(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠
ずるずると黒い着流しを引きずった少年が書物を抱え乍ら廊下を歩いていた。 「長船の子よ」 「・・・?・・・国重様!」 ふわ、と振り向いた彼が嬉しそうに顔を綻ばせた。 長船の一振り、光忠のうちの一人。 初めて見た時は綺麗なお人形と言った風貌だったが今ではころころと表情も変わり国重の目を楽しませる。 「何処へ行く」 「藤を見に行くのです」 「藤か」 「はい。・・・国重様の目の色と似ていると聞きました」 目を覗き込み、光忠が笑った。 「そうだな」 「やはりそうなのですか!」 肯定を返すと嬉しそうに光忠が言う。 「光忠目は幸せ者ですね。遠くへ行かなくても藤が見れるのですから」 「ならわざわざ見に行かずとも此処に居れば良い」 嬉しそうに顔を綻ばせる彼にそう言って、書物を抱えた光忠ごと抱き上げる。 「わ」 「俺の元に来い、光忠」 驚く光忠の耳元に囁いた。 遠くで藤の花が風に舞う。 ひらひらと、季節は違えど舞い落ちる、紅葉の様に。
それは静かに思い出となって、風に消える。
「長谷部君?」 目の前で首を傾げる・・・あの時の少年。 尤も今はすっかり青年になってはいたが。 「いや・・・。燭台切、お前が紅葉のようだと思ってな」 「え??」 きょとんと光忠が目を瞬かせる。 赤や黄色に踊る木の葉。 その花言葉は「美しい変化」 藤色の目をしていた彼は美しい金へと変貌を遂げた。 はらはらと紅葉が舞う。 「僕は赤なんて纏っていないけど」 「いや、似ている」 不思議そうな彼にきっぱりと言って見せた。 赤なんて纏っていなくても彼は紅葉そのものだと、長谷部は思う。 「じゃあ藤は長谷部君かな」 「は?」 くすくすと笑う光忠に今度は長谷部が目を丸くさせた。 「藤は忠実な、という意味がある。・・・そう君が教えてくれたんじゃないか」 小さく彼が笑う。 そう言えばそんな話をしたこともあったなと思う長谷部の前で落ち葉が風に舞い上がった。 くるくると風に回る赤や黄色。 まるで焔のように彼を包むそれと共に、光忠が消えてしまう気がして・・・思わず彼の腕を掴む。 「えっ」 「・・・何処にも、行くな」 長谷部の言葉に目を見開いていた彼のそれがふわりと眇められた。 「・・・行かないよ」 光忠が笑む。 思い出の中の彼と少し似ている気が、した。
彼は知らない。 藤の花言葉に「決して離れない」そして「恋に酔う」という意味があるのを。
恋に酔った男の執着心をただ知らず、紅葉ははらりと宙を舞う。
魔法(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠
「魔法が使えるとしたらどんなものがいい?」 光忠が笑う。 唐突な質問だなと思ったが彼は一冊の本を持っていた。 「・・・。・・・お前はどんなものが良いんだ」 「僕?僕はね、箱の中に入れたら食べ物が温まったり凍ったものが溶けたりするのがいいかな!!」 にこにこしながら光忠が言う。 彼が言うそれは電子れんじと言うのではないかと思ったがそれについての熱い話を聞かされると思った長谷部はそっと黙った。 余り自分から地雷を踏むものではない。 「長谷部君は?」 「・・・そうだな・・・」 問い掛けられるそれに長谷部は少し上を向いた。
思い出されるのは、ある一つの出来事。
「光忠」 「?なんでしょうか」 首を傾げて寄ってきたのは藤の目を持つ、黒髪の少年。 まだ号の無い光忠だった。 大太刀である長谷部国重は不思議そうな顔で見上げる光忠を膝の上に抱き上げよく見ていろと手を握る。 「国重様?」 首を傾げた光忠に笑って見せ、握った手を開いた。 溢れんばかりの小さな砂糖菓子が現れる。 「!!!どうやったのですか?!」 「さあな」 驚いた表情の光忠に小さく笑い、その砂糖菓子を口に入れてやった。 「ん!・・・甘い」 「金平糖、というらしい」 「こん、ぺいとう」 小さく呟いた光忠が嬉しそうに笑う。 「国重様は凄いですね!」 綺麗な顔で無邪気に国重を褒める小さな少年。 胸元から小瓶を出し、ざらりと金平糖を入れる。 一粒だけを残し、光忠の手に握らせた。 小さな手を包む様に握り、もう一度開く。 「あ、消えた!」 「不可思議か」 「はい。・・・どうやってやるのですか?」 「知りたいか」 振り仰ぐ彼に笑いかけた。 はい、ともう一度頷く彼に「ただでは教えられんな」と言う。 少し考えた様子を見せた彼は伸びあがり、頬に触れるだけの口付けをした。 可愛らしい報酬に国重は笑う。 瓶を傾け、国重は小さな手に置いた。
魔法と言う、理解できないものがあるらしい。
国重がやって見せたようなものではない、それ。
数千年経ち、世間では魔法と、呼ぶらしい。
こんな風に、彼を消したり出来ればと思う。
付喪神が使う、人事を越えた魔法を、人は・・・。
(神隠しと、そう呼ばれる)
中3光忠クンがモブに洗脳されてひどい目に合う話3(刀らぶSSS・モブ燭(へし燭)現パロR18
長船光忠の様子がおかしい。 気付いたのは1週間前のことだった。 病気で欠席してそれから数日。 思えばその時から早退が増えていたし、ふらふらしていることも多くなった。 何より。 「・・・聞いているか?長船」 「ひっ?!・・・な、なに、長谷部くん」 一瞬怯えてから弱々しい笑みを見せる。 この通り、長船が俺に、周囲に、びくびくすることが日増しに強くなっていた。 病み上がりという事を踏まえてみてもこれはひどい。 こないだは体調不良を訴え、早退を申し出た長船に最近多くなったと咎めた教師の前で泣き出す始末だった。 ・・・長船は、人前で涙なんか流すやつじゃなかったのに。 「・・・長船」 「っ、な、なに・・・?」 肩に触れようとした俺を避ける。 「お前、俺が怖いのか」 「・・・怖く、ないよ」 何を言ってるの、と長船がへしょりと笑った。 その肩が小さく震えている。 ・・・嘘吐き。 長船がそうやって笑う時は大概嘘だ。 何か隠している。 「・・・。・・・そうか」 「うん、そう・・・。・・・ひゃう?!」 「俺に隠し事か?長船」 ずいと迫って壁に手をついた。 怯えた目をして長船が俺を見る。 逃げようと思えば逃げられる距離。 「ち、違う・・・違う、よ・・・」 それを、目線を反らして逃げようともせずに小さく言う長船は、明らかにおかしかった。 「なあ、お前・・・」 問い詰めようとした刹那、長船のカバンからスマホのバイブ音が聞こえる。 「っ!!!!」 「おい!」 瞬間、俺を突き飛ばしカバンを掻き抱くようにして取った。 「ご、めん。僕、帰る」 「待て、長船!」 「ごめんね」 無理に笑いながら長船は怒鳴る俺を無視し、教室の外へと消える。
それが、昨日の話だ。
そして、今日の朝。 「な、なんだこれは・・・ひどいイタズラだな」 いつも通り一番だと思っていた教室に思ってもみない光景が広がっていた。 黒板いっぱいに彩られたカラフルなそれは近付けば写真だと分かる。 分かりたくなかったのは被写体の方だ。 写っていたのは全て長船だった。 裸で、あろうことか『いけない』ことをしている。 中学になればそれくらい見て分かった。 簡単に言えばセックスだ。 相手は男で、長船も男だけれど。 これはいわゆる合成写真だろう。 そうでなければおかしい。 当の本人、長船はといえばそれを前にへたりこんでいる。 無理もない。 男なのに誰とも知らないやつからこんな嫌がらせを受けたら俺だってそうなるかもしらん。 まあ俺は先に証拠隠滅を図るだろうが。 俺は溜め息を吐き出し、黒板から乱暴に剥ぎ取った。 作ったのは写真部かパソコン部か。 何れにしろ担任に報告しなければならないだろう。 ・・・全く、面倒な事を。 全て剥ぎ取った後、まだへたりこんでる長船の肩を掴んで揺する。 「長船!おい!しっかりしろ!長船!」 ゆさゆさと幾分激しく揺すったが、目を見開いたままだった。 そんなにショックだったのだろうか。 気持ちは分からんでもないが。 逆だったら、と考えてゾッとする。 俺がその対象で、見つけたのが長船だったら。 ・・・ああ、考えたくもない。 そういえば長船は何故今日は、今日に限ってこんなに早いのだろう。 「うそ、なんで?僕、ちゃんと言うこと、聞いた・・・」 「おい、しっかりしろ!合成写真ごときに動揺するな!!」 「僕、何のためにいい子にしてたのかな・・・。大嫌いなフェラだってがんばったし、おしりから血が出ても泣かなかった。どうして、なんで・・・?」 虚ろな目でぶつぶつ言う長船が恐ろしく見えた。 な、なんだ? 「長船・・・?」 「僕は何のために我慢してたの・・・?怖かったし嫌だったのに僕は、僕・・・?」 放心状態で呟き続ける長船をどうすれば良いか分からない。 思わず手を伸ばした。 「・・・お前が何を怯えてるかは知らんが俺は軽蔑したりしない。大丈夫だ」 もう少しで触れる、その瞬間長船は心底怯えたように俺を見る。 「ぃ、や・・・いや・・・!」 ガタガタと震えながら長船は俺から逃げる様に後ずさった。 自分の机にぶつかる。 ぶつかった机から、何かでベトベトにされた体操服やリコーダーなどが転がり落ちて背筋が粟立った。 ぬるりとして、いか臭い。 同じ男だからわかる、これは精液だ。 思わず顔をしかめた。 気持ちが悪い。 長船がじゃない、仕掛けた犯人が、だ。 クズとしか言い様がない行為。 狂ってる。 直感的にそう思った。 「っ」 まさかと思い、長船の鞄を引ったくり、逆さにする。 鞄から落ちたノートには「また遊んでね」「可愛い子生んでね、そのこも一緒にあそぼ」等と、かかれていた。 一連の事はたちの悪いイタズラ・・・ではないのかもしれない。 ようやくそう思う。 これがもし合成写真なんかじゃなく、本当にこいつの身に起きていたとしたら。 この身体に全て背負いこんでいたのだとしたら。 「長船、俺がわかるか?」 「・・・は、せべ・・・くん?」 「ああ、そうだ」 虚ろな目で、それでも俺の名を呼んだことにほっとする。 「長船、これは苛めの域じゃない。狂ってる」 「・・・」 「誰かに相談したらどうだ?」 言う俺に長船は必死に首振った。 「ダメ!誰にも言わないで、お願い・・・お願いします・・・」 俺に縋り、かわいそうなくらいガタガタ震えるから何も言えなくなる。 瞬間、買い換えたんだと言っていた彼のスマフォが震えた。 line? 『素敵なサプライズだったでしょ?気に入ってくれたかなぁ??』 『あ、長谷部クンに気づかれちゃったんだ。ダメな子だね・・・お仕置きだよ、今日はたくさんのお友達の前で犯してあげようね』 『光忠クンは見られるの大好きだからお仕置きにならないね?じゃあ特別に長谷部クンに見てもらおっかぁ』 スマホに浮かぶ文字を見、声にならない悲鳴をあげる長船。 それからすがるように俺を見た。 「長谷部くん、おねが、逃げて・・・」 「俺より自分の心配をしろ。いいか、俺の傍を離れるな。もうすぐ五条国永も大和守安定も来る。こんなクズ相手にする必要ない。・・・だから、泣くな」 さっき触れられなかった手を伸ばす。 途端に響き渡る通知の、音。 『王子様に守ってもらってよかったねぇ』 『もう、中古だから長谷部クンには釣り合わないよね?』 『僕を見ろ長船光忠。僕はずっとお前を見ているからな』 スマフォが連続して通知音を立てる。 口を押さえて青ざめる長船は近くのゴミ箱に顔を突っ込んだ。 嘔吐の音の後、ゴミ箱を抱えて長船は嗚咽を漏らす。 「ぅあぁあ・・・!!!うぐ、ぅう・・・!!!」 なんで、こいつが、こいつだけがこんな思いをしなければならないのだろうか。 あんなに負けず嫌いで俺よりも強かった長船が今はこんなに震えていた。 その事実にヘドが出る。 俺の・・・長船を何処へやった。 「こんな言葉に惑わされるほどお前は弱くなかっただろう、長船光忠!!」 小刻みに震える長船を抱き締める。 見ていられなかった。 なぁ、頼む。 俺たちを苦しませるな。 その願いも虚しく、通知が届く。 『中古の癖に中古の癖に中古の癖に』 『もう赦さないキミは僕のものだって言っただろ?』 『言って分からないバカな子には身体で分からせてやる』 「うぁあ・・・、ごめんなさいごめんなさい、いい子にします・・・つぎはちゃんとやります、ぶたないで、もういたいのやです・・・いたいのはいやなんです・・・ひっく、ひっく」 ついにその文章で頭を抱えてしゃくりあげはじめてしまった。 「・・・長船?」 「や、やだ、痛いのはいや、怖い、怖い・・・ひどいことしないでなんでもするから、お願い・・・あつい、やだ、もう、やだよぉ・・・ひっ、ぐすっ言うこときくから、だから、ひどくしないでぇ・・・!」 ポロポロと涙を流す長船が見ているのは誰だ。 いつも澄んだ目を濁らせて、俺じゃない誰かに怯えている。 俺じゃない、その相手は誰なんだ、なぁ! 「おい長船!俺だ!お前の目の前にいるのは長谷部国重だ!目を覚ませ!」 思わず頬を軽くパチンと叩く。 軽い、冗談でやる程度の。 それを受け目を大きく見開いた長船は表情を歪め急に笑い出した。 「あ、あはは・・・ふふっ、また、だめだったの?またいたいことする?・・・っくく、ひひひ、きゃははは!」 長船はまるで心壊したように笑う。 ああ、壊したいわけじゃなかった、のに。 「ごめん」 狂ったように笑う長船を腕の中に引き寄せる。 違う、違うんだ・・・俺は。 「行こう」 けらけらと笑う長船を抱き上げて俺は彼のスマホを手に取る。 「俺は貴様の思い通りにはならない」とメールを打ってlineをブロックしメアドから何から何まですべてを削除した。 職員室廊下まで連れていき、写真もシュレッダーにかける。 「俺は忘れる。お前は・・・。・・・ゆっくり忘れていけばいい」 千々になる写真を見ながら俺は言った。 「っふふ、ふふふ・・・はは、は・・・ぅうぅ゛ーっ・・・もうやだぁ、もうやだよぉ。これ以上何もされたくない、もうあの人たちと会いたぐない゛っ!はせべぐん゛・・・」 笑っていた長船がようやく表情を歪めた。 すがる身体を抱き締める。 「大丈夫だ、会う必要なんてない。お前は何もしなくていい。よく耐えたな。俺達の為に・・・我慢しなくて良かったんだぞ、なあ・・・」 幼子のように泣きじゃくる長船の頭をよしよしと撫でながら落ち着くまで一緒に居た。 授業には行けないと思ったから陸上部の部室につれていく。 どうせ俺や相州、五条の名前なんかを出されたんだろう。 馬鹿な長船。 一言相談すればよかったものを。 抱きつく長船の背を優しく叩いてあやす。 落ち着いてきた頃を見計らって俺はそっと囁いた。 「やめるか」 「・・・え?」 「幼なじみ」 小さな声が漏れる。 見開かれた金の瞳。 そっと抱き寄せた。 ・・・最初からこうしておけばよかったんだ。 「俺の恋人になってくれ。・・・光忠」 「・・・!」 驚いたように俺を見上げ、それから顔を伏せる。 その顔をそっと上げてやった。 ・・・格好悪い顔だな、まったく。 「いいの?僕、中古だよ??」 「心を捧げるのは俺が初めてなんだろう?」 額を付き合わせて笑う。
かくして、俺と・・・光忠、は恋人となった。
恋人、といっても関係が変わる訳ではない。 しかし、俺の気持ちが伝わり、光忠がそれを受け止めてくれた。 それだけで十分だ。 思えば俺はこいつの事が出会った頃から好きだったのだろう。 『は、はじめまして!はせべ、くにしげ、です!』 『くにしげ・・・。・・・くぅちゃんだね!ぼくはみつただ。おさふねみつただだよ、よろしくね!』 そう、にこりと微笑まれたその日から。 最初は好きだと伝えるつもりはなかった。 だが、俺の知らないところで、悍ましい方法で躰を開かされてるのを知った時、ああ俺はこいつに気持ちを伝えなければと思ったのだ。 そうでなければどんどんこいつは俺から離れていく。 ・・・その前に。 「光忠」 玄関先で佇んでいる彼に声をかけると俺を認め、嬉しそうに表情を和らげた。 彼の名を呼べることがこんなにも嬉しいなんて。 「長谷部くん」 「行くか」 「うん」 俺のそれに光忠が頷く。 ここ最近、俺は光忠と共に学校へ行くようになった。 何が起こるか分からないし、その『男』がいつ光忠に近付くかも定かではない。 俺の朝練で登校が早くなってしまったが光忠は「平気だよ」と笑ってくれた。 「長谷部くん、走ってきたの?汗凄いよ」 「え?ああ」 くすくすと光忠が笑う。 軽いジョグのつもりだったのだが・・・と汗を拭こうとしたところで。 「・・・ない」 「?何が?」 きょとんとした表情を見せる光忠の前でポケットをひっくり返してみせた。 「お前から貰ったハンドタオル。重宝してたんだが」 朝家を出るまでは確かにあったはずのそれがない。 何処かで落としたんだろうか? 「まだ持ってたの」 嬉しそうに笑う光忠に当たり前だろうと返す。 それは確か小2の誕生日に光忠からもらった物だ。 大事に使ってきたそれは大きな大会等には持っていき、お守り代わりにした。 今日ポケットに入れていたのはもうすぐインターハイが近いからだ。 それなのに。 「・・・。・・・ありがとう、長谷部くん」 嬉しそうに、至極嬉しそうに光忠が笑う。 「まあ、もうお前がいるから、いいか」 「え?」 「なんでもない」 きょとんとする光忠の頬を撫でた。 くすぐったそうに笑いながら光忠は「今度は一緒に選びに行こう、ね?」と言う。 「そうだな」 笑い合うこの瞬間、俺たちは確かに幸せだった。
それが、崩壊していくと・・・ガラガラと音を立てて崩れていくとは知らずに。
その日はいつかの様に教室には誰もいなかった。 いや、あの時は光忠がいたか。 ・・・それにしても。 教室に入った途端、俺は顔をしかめた。 机の上には菊の入った花瓶が置いてある。 趣味の悪いイタズラだ。 馬鹿馬鹿しい。 青ざめる光忠に気にするなと頭を撫でる。 こくんと頷き、自分の席に座ろうとした光忠が、怯えたように声なき悲鳴をあげてへたりこんだ。 「光忠?!どうし・・・!」 目を見開いてガタガタ震える光忠が綺麗なそれに映していたもの。 それは椅子にくくりつけられ、悪臭を放つ、男性器を模したもの・・・所謂ディルドというやつだった。 白い液体のがかかり、光を浴びて鈍く光る。 気持ちが、悪い。 光忠は緩く首を振っていた。 その目を両手で覆う。 「見るな」 ゆっくりと俺の椅子に座らせ、光忠の椅子を使っていないものと取り換えた。 ビニール袋の上からそれを掴み・・・ゴミ箱に突っ込もうとしたところでやめる。 厳重に括ってから使われていないロッカーに入れた。 後で焼却炉にでも入れればいいだろう。 椅子を丁寧に吹き、光忠の元に戻った。 虚ろな目で宙を見つめる光忠を抱き上げる。 机の花瓶を叩き落とし、自分の・・・陸上部の部室に向かった。 ガラリと戸を開け、長椅子にそっと降ろす。 呆然とする光忠を抱き寄せた。 「もう今日は帰った方がいい」 「・・・。・・・や、いや・・・」 「光忠」 ようやっと言葉を発したかと思えば弱く首を振る彼に俺は嘆息する。 俺は光忠のこの顔に・・・弱い。 「・・・分かった。俺の朝練が終わったら帰れよ。・・・送っていくから。な?」 「・・・うん」 こくりと光忠が頷く。 頭を撫でようとした・・・その刹那。 「・・・何やってんですか?」 「・・・あ」 呆れたように俺たちを見る、後輩の大和守安定とひょこりと顔を覗かせる加州清光がそこにいた。
「・・・ほーんと過保護ですよねぇ、先輩」 「五月蠅いぞ、大和守」 くすくす笑う大和守を睨み付ける。 この二人は俺たちが『付き合って』いるのを知っていたからまだ良かった。 ・・・五条や相州だと卒倒していただろう。 「ほら、早く行って来ればどうですか?」 「ん?」 「長谷部くん」 振り向く俺に、ふわ、と光忠が手を振った。 それに振り返し、駆け寄る。 光忠の傍にいた加州がそれを見、くすと笑った。 「相変わらず過保護だよねえ」 「五月蠅いぞ、加州」 笑う加州を睨み付ける。 ・・・さっきもしたな、この会話。 「っていうか体大丈夫なの?」 「え?」 首を傾げる光忠を加州は見上げる。 「相州からきーた。病気なんでしょ?あんまし無理しちゃダメだよ」 びしっと指を光忠に向けて加州は言った。 今ふらふらしているのも病気の所為だと思っているのだろう。 まあ、好都合だが。 「実は朝から具合が悪いらしい。俺は今からこいつを送っていく。加州、後は頼んだ」 「えー、俺後輩なんだけど?!」 「後輩は先輩のいう事を聞くものだろう」 「何それムカつく!」 「まあまあ」 くすくすと笑いながら光忠は俺たちをいさめた。 ・・・少し元気になったようだ。 これもこいつらのお蔭だろう。 「ごめんね、清光くん」 「いいよ。長船さん。・・・俺は長谷部が嫌いなだけだからー」 「何?」 「二人とも」 べ、と舌を出す加州を睨むと少し困ったように光忠が笑った。 「あ、長船さん、これ」 「うん?」 「手紙。俺のロッカーに入ってたの。中身は見てないよ」 加州が笑う。 当たり前だろ、といつの間にかこっちに来ていた大和守が言った。 「ありがとう、清光くん」 「ラブレターなら捨てた方がよかった?」 「流石にそれは・・・可哀想、かな?」 小さく光忠が笑う。 ・・・まあ捨てることになるだろうがな。 「で?長谷部は帰ってくるんでしょ」 「・・・俺は」 「・・・。・・・長谷部くん」 休む、と言いかけた俺を光忠は咎めるように言った。 「心配なのは分かりますけどね、二人揃って欠席だと色々あれですよ。特に五条先輩が」 「・・・それは確かに厄介だな」 「え?なんで国永さん?」 大和守のそれに頷くと光忠はきょとりと首を傾げる。 「分かった、一旦戻る。・・・行くぞ」 「え、あ、うん。待って!」 先を歩く俺にわたわたと光忠が付いてきた。 そうして人気が無くなったところで振り向く。 「・・・さっきの手紙だが」 「?うん」 「少し見せてくれるか」 「いいけど」 光忠は訝りつつもカバンの中から先程の封筒を取り出し、俺に手渡した。 慎重に開けてそれを取り出し、思わず顔を顰める。 「これは俺が捨てておく」 「なんで。僕の手紙だ、よ・・・」 ぶすくれた表情の光忠が俺の手からそれを取り上げた。 みるみるうちにその表情が歪む。 「・・・ひっ」 光忠が青ざめた顔で踏鞴を踏んだ。 慌ててその身体を支える。 「いや、なんで、なんで・・・!!!」 呆然としたように光忠が緩く首を振る。 悪趣味だ、と思った。 バラバラと落ちるそれはこの間見たものと同じ写真だった。 手紙にはびっしりと好きだとか愛してるだとか孕ませてあげるだとかそういう類の文章が書かれている。 たった一言、俺への呪詛を除いて。 「『死ね』か。陳腐だな」 「は、長谷部、くん」 「写真はデータがあるんだろう。加州が中身を見て無くて助かった」 「・・・ねえ」 「大丈夫だ。・・・俺が、いる」 震える光忠の頭を撫でる。 大丈夫だと言い聞かせ、抱き寄せた。 「・・・やっぱり、僕なんかと付き合ってちゃ駄目だよ、長谷部くん」 「光忠?」 「別れよ?手遅れになる前に」 哀しそうに光忠が笑む。 何を、言っているんだ。 「馬鹿を言うな。お前は何も悪くない。・・・何も」 「長谷部・・・くん」 「今後、別れたいと言うなよ。いいか?」 「・・・うん」 こくんと頷いた光忠を撫でて俺は離れる。 その袖を光忠がきゅっと握った。 「あ、えと・・・ごめ」 「寂しいなら言えばいい」 「でも」 「独りが不安か?・・・俺の家に泊まりに来ればいいだろう」 「・・・。・・・平気、だよ」 弱弱しい笑みを浮かべる光忠。 カタカタと震える身体を必死に押さえつけているのが返って痛々しかった。 「・・・。・・・なら、俺がお前の家に行く」 「え?」 「文句はないはずだぞ」 「で、でもおじ様もおば様も心配するんじゃあ・・・!」 「他でもないお前の家だぞ。心配する要素が何処にある。何ならこのまま欠席してお前の家に行ってもいいんだ」 そう言えば、光忠はまた無理した笑顔を浮かべた。 「・・・。ありがとう、長谷部君。でも一度学校に戻って授業を受けて。それに、家にも帰った方がいい。僕は絶対に部屋からは出ないから。・・・ね?」 「・・・お前がそこまで言うのなら」 必死に言う光忠に渋々言えば彼はほっとしたような笑みを浮かべた。 別に学校くらい休んだってどうってことはないのだが。 取り敢えず光忠を送り届け、学校に戻り授業を受ける。 部活をこなし、コンビニに行くと言う連中と別れて早々に自宅に帰った。 母親に「長船の具合が悪いから看病に行く」と説明し荷物を詰める。 玄関の扉を開けたところでカバンの中からピロン、という音がした。 line通知だ。 この時間なら暇な五条国永か、明日の部活内容を伝える大和守安定か。 よもや光忠がlineを寄越したりはしないだろう、今から会うのだし。 いやしかし、夕飯の相談かもしれん。 「好きな物作るよ」なんて言っていたから。 そう思いスマフォに手を伸ばした俺の予想は遥かに裏切られることになる。 それも、最悪の形によって。 「・・・は?」 『もーんだい♡』 『ここはどこでしょーか』 そんなふざけた文と共に送られてくる一枚の写真。 送り主は長船光忠。 そして、被写体は。 「・・・っ!」 スマフォをぐっとにぎって唇を噛む。 必死にこちらに向かって手を伸ばす彼は涙に濡れた顔をして犯されていた。 顔を歪ませて、口元だけはへらへらと笑って。 なんで、彼が・・・光忠がこんな目に合わなければならないのか、俺には分からなかった。 「・・・くそが」 背景に移り込んだそれは俺が良く見知ったものだった。 カバンを捨てて駆け出す。 ここは、俺の、俺たちの、神聖な・・・。
「光忠ァ!!!」 ドアをあけ放つ。 「あは、意外と早かったね。流石秀才学年トップ長距離ランナーさん♡」 「・・・き、さま・・・」 「あれぇ?ぼくの事知ってるの?」 ニヤリと俺に向かって笑いかけ光忠を組み敷く男に、俺はうっすらだが見覚えがあった。 「この学園の理事長・・・その元息子」 俺の言葉に男は顔を歪ませる。 理事長の息子は3人いると言う。 併設校の若き校長という座の長男、それを支える次男、インターナショナルスクールのオーナーである三男。 しかし、こいつは・・・確か。 「ロクでもない事件を引き起こし、勘当されたと、ネットのニュースで見た。学園の女生徒を襲ったんだったか?」 「・・・長谷部国重、貴様」 ギリと男が俺を睨む。 学生時代に後輩の女生徒を数人レイプしようとし、勘当を言い渡され、世間からはいないものとされている四男。 その時の女生徒の一人の容姿が光忠に似ていたからよく覚えている。 同じ年度で学生ではなくて良かったと安堵したものだ。 そいつが・・・何故。 「光忠から離れろ。此処は神聖な俺の、陸上部の部室だ。部外者は立ち去れ、この犯罪者が」 「はっ、王子様気取り?やめてよ。光忠クンはぼくのことが好きなんだよ?」 「何を馬鹿げた事を。・・・良いから離れろ、二度と近付くな」 吐き捨てる様に言う男を突き飛ばし俺は光忠に近付いた。 俺のユニフォームを着て、床に転がされている光忠を起こす。 「帰ろう、光忠。俺を一緒に」 「・・・。・・・だぁれ?」 「・・・は?」 可愛らしい声でこてりと首を傾げた光忠は俺にそう問うた。 その瞬間、殴られたようなショックを受けて、頭が真っ白になる。 「光忠クンはぼくが好きなんだよねー?」 「ぅん♡みちゅたや、きみ、らぁいしゅきぃ♡」 「・・・う、そだ」 「往生際が悪いなあ」 崩れ落ちる俺に男が笑う。 「光忠クンはキミなんかよりぼくを選んだんだ。・・・どけ」 今度は俺が突き飛ばされた。 衝撃を直接享受し、俺のユニフォームを着て俺の目の前で無理矢理犯されかける光忠を見つめる。 ・・・無理矢理? これが?? 写真の中の光忠は泣いていた。 でも今は違う。 幸せそうに・・・笑って。 「ぁはあ♡♡ね、はやくぅ♡♡ぁん、みちゅの、めすまんこおかしてぇ♡♡たねづけしぇっくしゅしてぇえ♡♡」 「光忠クン可愛いね♡いいよ、犯してあげ、る!」 「・・・う、そだ」 すっかりトんでしまった表情で、光忠が男を誘う。 放心状態で見つめる俺の目の前で男が光忠のナカにぶち込んだ。 「あうっ♡ぁああ♡ちんぽ、きたぁああ♡・・・んぁっ♡ああっ♡」 はしたない言葉を吐きながら光忠は善がる。 何故。 あんなに怖がっていたのに。 俺じゃないから? あの男だから? ・・・なんで。 「ひゃうぅうう♡みちゅたや、いっちゃうぅうう♡あは、ごくぶとちんぽでいっちゃうのぉおお♡」 「いいよ、イッて♡」 「やぁあああ♡♡♡ぁ、あ・・・」 とろりとした表情でぼんやりと宙を見つめる。 「これでふきふきしようね♡」 男が笑って手にしたのは失くしたと思っていた俺のタオルだった。 ・・・もう、どうでもいいけれど。 「ねえ、長谷部国重。光忠クンから離れてよ。見たでしょう?僕らの愛を」 「・・・」 男のそれに俺は何も言えなかった。 光忠は怯えてない。 震えてもいない。 ・・・でも、じゃあ、なんで。 「光忠クンはぼくのモノなんだから。・・・死んでくれる?」 にたぁと男が笑う。 ずるりとそれを光忠から引き抜き、何かを手にして俺の元に歩み寄ってきた。 振り上げたのは何かバールのようなもの。 ・・・ああ、殴られるんだなとぼんやり思った。 何も考えなくてすむならその方がいいと目をつむった・・・その時。 「は、せべ、・・・く・・・?」 「・・・!光忠!?」 声にハッとしてそっちを見る。 彼の細い手がふわりと浮いた。 「ぅ、あ・・・長谷部く・・・!!」 すがるように、俺に向かって伸ばされた手を男が掴みあげる。 「寝てれば、良かったのに」 「やめ、て・・・長谷部君に酷いことしないで!!!」 光忠が悲痛な声で叫んだ。 こんなに乱暴されてなお彼は俺の身を案じている。 「光忠、俺は大丈夫だから」 「だ、め・・・ねが・・・インハイ、頑張るんでしょ?デート、してくれるんでしょ??」 ポロポロと涙を溢しながら光忠はふわりと笑んだ。 「何それ。・・・光忠クン、キミはぼくのでしょう?ねえ?そうだよね」 「・・・ぅ、あ・・・」 「やめろ、止せ」 ガタガタと震える光忠に、男は俺の声など無視をしてにやりと口角を上げて見せる。 「オクスリ、必要かなあ?」 「!!!!」 金の目をいっぱいに見開いて、光忠はやだやだと首を振った。 「やめてやめてやめてもうおくすりはいやおくすりはいやなのやめてやだこわれたくないひっくぅぁああ!!!」 「みつ・・・ただ?」 尋常ではない怖がり方の彼に一つの考えがよぎる。 まさか・・・まさか。 「貴様、光忠にクスリを使ったのか?!」 「そーだけど?」 激昂する俺に男はあっさり言った。 べらべらと機嫌よく話す男が言うには人の心を意のままに操ることが出来るというクスリがあるらしい。 それを何度も何度も光忠に使い、さらには媚薬や筋弛緩剤も使って彼を貶めていったのだと、男はゲスに嗤った。 光忠が壊れたのはきっとそういうことで。 次このクスリを打たれてしまえば光忠は元には戻らない。 そう、思った。 役立たずな自分に唇を噛む。 こんなにも光忠が苦しんでいるのに何も出来ないなんて。 「そうだ。ねえ、長谷部国重。自分の足を自分で折ってよ」 「・・・なに、言って」 「そうすれば光忠クンにクスリは打たない。どぉ?」 そう俺に言いながら取り出した細い注射器を光忠に見せつけると大袈裟に光忠は首を振る。 「あ・・・あ、やめて・・・やめて・・・痛いの嫌・・・」 「どーする?長谷部国重。キミが陸上を諦めれば、解決する話だろ?・・・こんな光忠クン、見たくないよねえ?」 「・・・くそっ」 ちらちらと注射針を俺の前で振る、男の選択肢はないに等しかった。 足を折るのが怖いわけじゃない。 ・・・俺が陸上をやめれば、光忠は・・・! 「・・・せべ、くん」 「光忠?」 「・・・ぁ、く・・・夢、諦めない、で?」 怖いだろうに、光忠はそう笑った。 その所為で躊躇してしまう。 「はは!!馬鹿な子!!」 「ぅあ!!!」 「光忠!」 一瞬の迷いを見透かした男が光忠の躰を蹴りあげ踏みつける。 白く細い腕を持ち上げた。 よく見れば大量の注射痕がある。 なんでもっと早く気付いてやれなかったんだろう。 俺は、俺は・・・! 「まて!!折る、折るから、だから!!」 「もう遅いよ」 必死に訴える俺を無視して男は白い腕を押さえつけた。 「こわいいいぃ、こわいよぉ、いたい、いたい、いたいのやめてえぇ、たすけて、ゆるして・・・おねがい・・・おねがいしま・・・あ、あう、うあああぁ――っ!?」 「光忠、光忠ァア!!!」 俺の悲鳴もむなしく注射が腕に刺さる。 液体が押し込まれていく。 怯えた目は塗り込められ、とろりと溶ける。 ふわと笑いかけるのは俺ではなく。 「ぅ、あ・・・!!」 突如、ガンと言う鈍い音が俺を襲った。 振り返る間もなく視界がブラックアウトする。 優しく微笑む光忠の顔が見えた・・・気がした。
冷たい風が吹きすさぶ、秋と冬の間。 長船光忠は、この学園から姿を・・・消した。
あれから10年。 結論から言って、俺は光忠を助け出すことが出来た。 いや、この状態を『助かった』と言えるなら、だが。
五条国永は臨床心理士になった。 心を病んだ子どもを助けたいらしい。 まあ子ども受けはするだろう・・・あの性格だし。 相州廣光は警察官になった。 自分の夢を諦め、一から勉強し直したようだ。 元々正義感はあるし、向いていると俺は思う。 大和守安定は看護師を目指していると聞いた。 マネジャーもやっていたし天職であるのではなかろうか。 愛想は良いから他人からは好かれそうだ。 加州清光は病児保育士になった。 苦手だった料理も今では完璧にこなし、よくうちにも来ている。 指図はするが的確なのでありがたい。
そして、俺は。
「おい、帰ったぞ」 がらんとした部屋に呼びかける。 しばらくしてとてて、という音が聞こえた。 「・・・くぅちゃん、おかーり!」 にこ、と笑う『彼』に俺も笑い掛ける。 「ただいま、『光忠』」 おいで、と手を広げると彼は嬉しそうにそこに飛び込んできた。 すり、とすり寄る彼を抱きしめる。 彼、光忠は散々探し見つけ出した時には10年に及ぶ監禁と凌辱の所為で完全に壊れてしまった。 幼児退行と記憶障害。 それが彼に現れた症状だった。 光忠にはこの20年の記憶が一切ない。 俺はそれでいいと思っていた。 辛いだけの記憶なら。 苦しいだけの記憶なら。 なかったことにしてしまえばいい、と。 (例え、俺との関係を忘れてしまったとしても) こいつの中で俺たちとの記憶は5歳のままで止まっている。 ただの幼馴染み。 家が近所で、当時からよく遊び来ていた相州とそんな俺たちで遊ぶ五条とで楽しくやっていた、あの頃。 今でも光忠にとっては相州は「ひろ」だし五条は「にいさま」だし俺は「くぅちゃん」だ。 それでも幸運だろう。 彼が、生きていたのだから。 「今日は何してた?」 「きょう?きょうはねーー・・・おえかき!」 「そうか。何を描いたんだ?」 「くぅちゃん!」 にぱっと光忠が俺に笑みを向ける。 ・・・こんなにも笑顔は変わらない、のに。 「後で、見せてくれ」 「うん!」 華やかな顔で笑う光忠の頭を、俺は撫でることしか出来なかった。 飯にしようと俺は何の用意もされていないキッチンに向かう。 料理が好きだった光忠は今はいなかった。 ・・・俺が教えればすぐに覚えるのだろうが、今はまだ良いだろう。 「くぅちゃん」 「ん?」 「おしごと、おちゅかえさま」 ふわりと笑う、光忠。 (お疲れさま、長谷部くん) その顔が、声が、被る。 もう、あの頃の光忠はいないというのに。 あれから10年。 ・・・俺は、検察官になった。 光忠をこんな風にしたあの男に、罰を言い渡すべく。 アイツは今、刑を執行されるのをただ待つ身だった。 そんなことを、光忠は知らなくていい。 ただ、ここで幸せに暮らしていればいいと。 「そうだ、土産があるぞ。お前の好きなプリンだ」 「ぷりん!!みちゅたや、ぷりんすき!」 「後で食べような」 「うん!」
光忠が笑う。 ふわふわと、ただ幸せそうに。
何の音もしない、時の止まった箱庭で二人きり。
それはまるで・・・催眠にかかったように、思えた。
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